特許第6087579号(P6087579)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6087579フルフリルアルコール−ホルムアルデヒド共重合体の製造方法
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  • 特許6087579-フルフリルアルコール−ホルムアルデヒド共重合体の製造方法 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6087579
(24)【登録日】2017年2月10日
(45)【発行日】2017年3月1日
(54)【発明の名称】フルフリルアルコール−ホルムアルデヒド共重合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 16/02 20060101AFI20170220BHJP
【FI】
   C08G16/02
【請求項の数】12
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2012-238393(P2012-238393)
(22)【出願日】2012年10月29日
(65)【公開番号】特開2014-1356(P2014-1356A)
(43)【公開日】2014年1月9日
【審査請求日】2015年7月2日
(31)【優先権主張番号】特願2012-117930(P2012-117930)
(32)【優先日】2012年5月23日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002174
【氏名又は名称】積水化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000202
【氏名又は名称】新樹グローバル・アイピー特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 茂
(72)【発明者】
【氏名】堅田 治樹
(72)【発明者】
【氏名】辻本 典孝
(72)【発明者】
【氏名】小林 智行
【審査官】 佐藤 のぞみ
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−089008(JP,A)
【文献】 特開昭60−016901(JP,A)
【文献】 特表平08−506374(JP,A)
【文献】 特公昭50−010918(JP,B1)
【文献】 特開2012−255129(JP,A)
【文献】 LASZLO-HEDVIG Z, SZESZTAY M, TUEDOS F,Some kinetic features of the initial stage of the acid-catalyzed polycondensations of furfuryl alcohol and formaldehyde, 1.,Angew Makromol Chem,スイス,1982年 9月14日,Vol.107,Page.61-73
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 4/00−16/06
C08G 65/00−65/48
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パラホルムアルデヒドをフルフリルアルコールに加え、アルカリ性条件下、100℃を超えない加熱温度で撹拌してパラホルムアルデヒドをフルフリルアルコールに溶解させる溶解工程と、
該溶解工程で得られた溶液に酸触媒を加えて重合させる重合工程と、
該重合工程で得られた重合溶液に塩基またはその水溶液を添加して重合反応を停止した後、蒸留によりフルフリルアルコールの濃度が1重量%以下になるまで除去したフルフリルアルコール−ホルムアルデヒド共重合体を含む重合体組成物を得る蒸留工程と
を含み、
得られたフルフリルアルコール−ホルムアルデヒド共重合体を含む重合体組成物の25℃における粘度が400mPas・sec以上2000mPas・sec以下である
フルフリルアルコール−ホルムアルデヒド共重合体の製造方法。
【請求項2】
前記重合工程において、前記酸触媒添加前に、水を、フルフリルアルコール重量の20重量%以下の量添加する、請求項1記載のフルフリルアルコール−ホルムアルデヒド共重合体の製造方法。
【請求項3】
前記蒸留工程で蒸留された前記フルフリルアルコール−ホルムアルデヒド共重合体を含む重合体組成物を冷却後、0.1〜10重量%となる量の水を添加する、請求項1又は2記載のフルフリルアルコール−ホルムアルデヒド共重合体の製造方法。
【請求項4】
前記溶解工程において、アルカリ性化合物又はその水溶液を加えることによりアルカリ性条件下とする、請求項1〜3の何れか1項に記載のフルフリルアルコール−ホルムアルデヒド共重合体の製造方法。
【請求項5】
前記アルカリ性化合物が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、又はアンモニアである、請求項4記載のフルフリルアルコール−ホルムアルデヒド共重合体の製造方法。
【請求項6】
前記酸触媒が無機酸である、請求項1〜5の何れか1項に記載のフルフリルアルコール−ホルムアルデヒド共重合体の製造方法。
【請求項7】
前記無機酸がリン酸である、請求項6記載のフルフリルアルコール−ホルムアルデヒド共重合体の製造方法。
【請求項8】
前記重合工程において、pHを4以下の条件下で重合させる、請求項1〜7の何れか1項に記載のフルフリルアルコール−ホルムアルデヒド共重合体の製造方法。
【請求項9】
前記溶解工程における前記フルフリルアルコールのモル数に対する前記パラホルムアルデヒドのホルムアルデヒドとしてのモル数の比が0.6以上2.0以下である、請求項1〜8の何れか1項に記載のフルフリルアルコール−ホルムアルデヒド共重合体の製造法。
【請求項10】
さらに、前記重合工程で得られた重合溶液にホルムアルデヒド捕捉剤を添加する捕捉剤添加工程を含む、請求項1〜9の何れか1項に記載のフルフリルアルコール−ホルムアルデヒド共重合体の製造方法。
【請求項11】
前記捕捉剤添加工程において、前記重合溶液のpHを7以上に調整したのち、ホルムアルデヒド捕捉剤を添加する、請求項10記載のフルフリルアルコール−ホルムアルデヒド共重合体の製造方法。
【請求項12】
前記ホルムアルデヒド捕捉剤が、尿素、アセトアミド、メチルアセトアミド、ジメチル尿素、及びトルエンスルホンアミドからなる群から選択された少なくとも1種の化合物である、請求項10又は11記載のフルフリルアルコール−ホルムアルデヒド共重合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フルフリルアルコール−ホルムアルデヒド共重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フルフリルアルコール−ホルムアルデヒド共重合体の製法において、ホルムアルデヒド源としてパラホルムアルデヒドを用いる方法としては、パラホルムアルデヒドを水に溶解させホルムアルデヒド水溶液にした後、酸触媒下でフルフリルアルコールと共重合させる方法(例えば非特許文献1参照)や、トルエン、キシレン等有機溶媒中でパラホルムアルデヒドとフルフリルアルコールを共重合させる方法(例えば非特許文献2参照)が知られている。
しかしながら、これらの方法では、重合後の樹脂は、水に溶解させる場合は多量の水を、有機溶媒を用いる場合は有機溶媒を含んだ状態であり、多量の水や有機溶媒を除去する必要があり、また、所望の粘度範囲に重合条件を設定すると、重合後の樹脂中に、原料モノマーが残存してしまうのを免れず、原料モノマーの残存が問題となっていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Laszlo−Hedvig Z, Szesztay N, Faix F, Tudos F: Die Angewandte Makromolekulare Chemie 107(1982) p.61−73
【非特許文献2】Zmihorska−Gottfryd A, Szlenzyngier W:Plaste und Kautschuk, Vol 31(1984), No.2, p.53−55
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題は、このような事情の下、残存モノマーの少ないフルフリルアルコール−ホルムアルデヒド共重合体を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、従来の一段変換を多段変換に変え、さらに各段に至適条件を設けるのが課題解決に資することを見出し、この知見に基いて本発明をなすに至った。
【0006】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、パラホルムアルデヒドをフルフリルアルコールに加え、アルカリ性条件下、100℃を超えない加熱温度で撹拌してパラホルムアルデヒドをフルフリルアルコールに溶解させる溶解工程と、
該溶解工程で得られた溶液に酸触媒を加えて重合させる重合工程と
該重合工程で得られた重合溶液に塩基またはその水溶液を添加して重合反応を停止した後、蒸留によりフルフリルアルコールの濃度が1重量%以下になるまで除去したフルフリルアルコール−ホルムアルデヒド共重合体を含む重合体組成物を得る蒸留工程と
を含み、
得られたフルフリルアルコール−ホルムアルデヒド共重合体を含む重合体組成物の25℃における粘度が400mPas・sec以上2000mPas・sec以下である、フルフリルアルコール−ホルムアルデヒド共重合体の製造方法が提供される。
【0007】
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、上記重合工程において、上記酸触媒添加前に、水を、フルフリルアルコール重量の20重量%以下の量添加する、フルフリルアルコール−ホルムアルデヒド共重合体の製造方法が提供される。
【0008】
また、本発明の第3の発明によれば、第1又は第2の発明において、上記蒸留工程で蒸留された上記フルフリルアルコール−ホルムアルデヒド共重合体を含む重合体組成物を冷却後、0.1〜10重量%となる量の水を添加する、フルフリルアルコール−ホルムアルデヒド共重合体の製造方法が提供される。
【0009】
また、本発明の第4の発明によれば、第1〜3のいずれかの発明において、上記溶解工程において、アルカリ性化合物又はその水溶液を加えることによりアルカリ性条件下とする、フルフリルアルコール−ホルムアルデヒド共重合体の製造方法が提供される。
【0010】
また、本発明の第5の発明によれば、第4の発明において、アルカリ性化合物が、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、又はアンモニアである、フルフリルアルコール−ホルムアルデヒド共重合体の製造方法が提供される。
【0011】
また、本発明の第6の発明によれば、第1〜5のいずれかの発明において、酸触媒が無機酸である、フルフリルアルコール−ホルムアルデヒド共重合体の製造方法が提供される。
【0012】
また、本発明の第7の発明によれば、第6の発明において、無機酸がリン酸である、フルフリルアルコール−ホルムアルデヒド共重合体の製造方法が提供される。
【0013】
また、本発明の第8の発明によれば、第1〜7のいずれかの発明において、重合工程におけるpHを4以下の条件下で重合させる、フルフリルアルコール−ホルムアルデヒド共重合体の製造方法が提供される。
【0014】
また、本発明の第9の発明によれば、第1〜8のいずれかの発明において、溶解工程におけるフルフリルアルコールのモル数に対する、パラホルムアルデヒドのホルムアルデヒドとしてのモル数の比が0.6以上2.0以下である、フルフリルアルコール−ホルムアルデヒド共重合体の製造方法が提供される。
【0015】
また、本発明の第10の発明によれば、第1〜9のいずれかの発明において、さらに、重合工程で得られた重合溶液にホルムアルデヒド捕捉剤を添加する捕捉剤添加工程を含む、フルフリルアルコール−ホルムアルデヒド共重合体の製造方法が提供される。
【0016】
また、本発明の第11の発明によれば、第10の発明において、捕捉剤添加工程における重合溶液のpHを7以上に調整したのち、ホルムアルデヒド捕捉剤を添加する、フルフリルアルコール−ホルムアルデヒド共重合体の製造方法が提供される。
【0017】
また、本発明の第12の発明によれば、第10又は第11の発明において、ホルムアルデヒド捕捉剤が、尿素、アセトアミド、メチルアセトアミド、ジメチル尿素、及びトルエンスルホンアミドからなる群から選択された少なくとも1種の化合物である、フルフリルアルコール−ホルムアルデヒド共重合体の製造方法が提供される。
【0018】
またフルフリルアルコール−ホルムアルデヒド共重合体を含み、フルフリルアルコール濃度が1重量%以下、水分が0.1〜10重量%、粘度2000mPas・sec以下であり、尿素、アセトアミド、メチルアセトアミド、ジメチル尿素、及びトルエンスルホンアミドからなる群から選択された少なくとも1種の化合物を含有することを特徴とするフルフリルアルコール−ホルムアルデヒド共重合体組成物が提供される。
【発明の効果】
【0019】
本発明方法によれば、残存モノマーが少ない、フルフリルアルコール−ホルムアルデヒド共重合体を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施例における反応液の液温の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(1)フルフリルアルコール−ホルムアルデヒド共重合体の製造方法
本発明のフルフリルアルコール−ホルムアルデヒド共重合体の製造方法は、パラホルムアルデヒドをフルフリルアルコールに溶解させる溶解工程、溶解工程で得られた溶液に酸触媒を加えて重合させる重合工程、重合工程で得られた重合溶液にアルカリ類を添加して重合反応を停止した後、蒸留によりフルフリルアルコールの濃度が1重量%以下になるまで除去したフルフリルアルコール−ホルムアルデヒド共重合体を含む重合体組成物を得る蒸留工程を含んでいる。そして、得られたフルフリルアルコール−ホルムアルデヒド共重合体を含む重合体組成物の粘度が2000mPas・sec以下(例えば10〜2000mPas・sec)である。なお、本明細書において、粘度は、樹脂を容量100mlのポリエチレン製ビーカーに取り、ビーカーを25℃の恒温水槽に浸漬して、Fungilab製ViscoStar Plus回転粘度計を用いて測定した値を指す。
【0022】
(1−1)溶解工程
本発明方法においては、先ず、パラホルムアルデヒドをフルフリルアルコールに溶解させる。そのためには、パラホルムアルデヒドをフルフリルアルコールに加え、アルカリ性条件下、100℃を超えない加熱温度で撹拌する。
アルカリ性条件下とするには、アルカリ性化合物やその水溶液等のアルカリを加えればよい。アルカリ性化合物としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアなどが挙げられる。
【0023】
アルカリの添加量としては、フルフリルアルコール1モルに対し例えばアルカリ性化合物では0.001〜0.01モルの範囲であるのが好ましい。アルカリの添加量が少なすぎるとパラホルムアルデヒドを容易に溶解させにくくなる場合があり、また、多すぎても重合時により多量の酸を加える必要がある場合があるため好ましくない。短時間で溶解させるためには60℃以上に加熱することが好ましい。
【0024】
(1−2)重合工程
本発明方法においては、次いで、上記のようにして得られた溶液に酸触媒を加え重合させる。
酸触媒は、リン酸、硫酸、塩酸などの無機酸、あるいは酢酸、乳酸、アジピン酸などの有機酸のいずれでもかまわないが、好ましくは無機酸が用いられ、とりわけリン酸が、比較的弱酸であって、酸触媒を加えた際の急激な反応を防止できるため、推奨される。
また、同様に酸触媒を加えた際急激に反応することを防止するため、酸触媒添加時の溶液温度は100℃以下であることが好ましい。
【0025】
重合条件としては、pHを4以下に調整するのが、重合時のpHが4を超えると反応速度が遅すぎるので、好ましい。重合はアルカリを加え中和することで反応を停止させることにより終了させてもかまわない。この場合、反応停止はpH4超、より好ましくはpH5以上にすることで容易に行える。
【0026】
重合工程において、酸触媒添加前に、水を、フルフリルアルコール重量の20重量%以下の量添加してもよい。触媒添加前に水を添加することで、重合中の反応熱による液温の変動を抑え、重合条件を安定化させることが出来る。添加量が少なすぎると十分液温を安定化する事できず、多すぎると蒸留時により多くの水を除去する必要があることから蒸留工程でより多くの熱量を必要とすることから、添加する水の量はフルフリルアルコール重量の20%以下が好ましく、より好ましくは5%以上10%未満である。水の代わりに又は水と共に、沸点が100℃以下でフルフリルアルコール及びホルムアルデヒドと反応しない溶媒を使用しても良い。
【0027】
(1−3)蒸留工程
本発明方法においては、次いで、上記重合工程で得られた重合溶液にアルカリ類を添加して重合反応を停止した後、蒸留によりフルフリルアルコールの濃度が1重量%以下になるまで除去する。
【0028】
留去の方法としては例えば減圧蒸留が挙げられ、その条件は特に限定されず、例えば減圧蒸留を、アスピレーターや真空ポンプを用い、減圧度−80〜−98kPaで100〜150℃の範囲で行うなどの態様が挙げられる。
【0029】
減圧蒸留の処理時間はフルフリルアルコールとパラホルムアルデヒドのモル比、酸触媒の種類や量、減圧条件等により適宜定められ、特に限定されないが、処理後の残存するフルフリルアルコールの含有量が1重量%以下になるまで処理する。
【0030】
重合反応を停止させるために、酸触媒を中和できる塩基またはその水溶液を添加する用いられる塩基は特に限定されないが水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム、アンモニア水等が挙げられる。
【0031】
次いで、冷却後(例えば100℃未満の温度まで冷却後)、0.1〜10重量%となる量の水分を添加することが好ましい。水分の添加量は、例えば1〜10重量%であり、好ましくは1〜7重量%とすることができる。水分を添加することにより、得られた組成物の粘度を容易に低くできる。水添加量が10重量%超では保管中に樹脂から水分が分離したり、硬化時および硬化後に硬化物から水分が揮発することにより硬化物が変形したりするため好ましくない。
【0032】
本発明のフルフリルアルコール−ホルムアルデヒド共重合体の製造方法で得られるフルフリルアルコール−ホルムアルデヒド共重合体を含む重合液(重合体組成物)は、それを既設管更生用ライニング材などの用途にガラス繊維強化樹脂のベース樹脂として用いる場合、粘度が高すぎるとガラス繊維に浸透せず、粘度が低すぎると樹脂が下側に偏在して上部に未含浸の部分を生じるため、粘度が400mPas・sec以上2000mPas・sec以下であるのが望ましい。
【0033】
フルフリルアルコール−ホルムアルデヒド共重合は縮合反応であるので、反応が進むに従って縮合水を生じる。一方フルフリルアルコール−ホルムアルデヒド共重合はホルムアルデヒドの分率が高いと分子鎖の末端のOH基が多くなり親水性となり、逆にホルムアルデヒドの分率が低いと疎水性になる。また分子量の高い高粘度のものは末端が少なくなるため疎水性となる。このため、フルフリルアルコールに対するホルムアルデヒドのモル比は0.6以上であるのが、0.6未満では粘度が400mPas・sec以上であると長期保存下で水分が樹脂から分離するなど不均質になる場合があるので、好ましい。
【0034】
またホルムアルデヒドの分率が高いと、硬化反応の際未反応のホルムアルデヒドが気体となってより多く放出されるため、樹脂中の残存ホルムアルデヒド濃度は好ましくは2%以下、より好ましくは1%以下であるのがよい。このため、フルフリルアルコールに対するホルムアルデヒドのモル比は2.0以下であるのが好ましい。より好ましくは、0.9以下である。これはホルムアルデヒド残存量を極力抑制するためである。
【0035】
(1−4)捕捉剤添加工程
重合後の樹脂は、ホルムアルデヒドが残存していない方が望ましい。ホルムアルデヒドは、刺激が強く、毒性があるため、濃度は1%未満であることが望ましい。
しかし、残存するホルムアルデヒドを1%未満となるように重合を進めると粘度が上昇しすぎ、より適正な粘度範囲、400mPas・sec以上2000mPas・sec以下を維持することが困難となる。そこで、添加剤としてホルムアルデヒド捕捉剤を加えることで、重合条件は変えず、残存ホルムアルデヒドを減少させることが可能となる。
【0036】
ホルムアルデヒド捕捉剤は、ホルムアルデヒドを捕捉することができるものであればよく、特に制限されないが、好ましくは尿素、尿素誘導体、カルボン酸アミド、スルホンアミド等が挙げられる。尿素誘導体としては、例えば、メチル尿素、エチル尿素、ジメチル尿素、ジエチル尿素等のアルキル尿素が、カルボン酸アミドとしては、例えばアセトアミド、メチルアセトアミド等の脂肪族カルボン酸アミドや、安息香酸アミド、トルイル酸アミド、フェニル酢酸アミド等の芳香族カルボン酸アミドが、スルホンアミドとしては、例えばメチルスルホンアミド、エチルスルホンアミド等の脂肪族スルホンアミドや、ベンゼンスルホンアミド、トルエンスルホンアミド等の芳香族スルホンアミドが挙げられる。特に好ましいホルムアルデヒド捕捉剤は、コストを鑑みて、尿素である。
【0037】
また、ホルムアルデヒドを効率的に捕捉するには、pHを7以上とするが好ましい。
ホルムアルデヒド捕捉剤の添加量は、ホルムアルデヒド捕捉能を有する官能基の数や、分子量の大きさに依存するが、残存するホルムアルデヒドのモル数に対し、該官能基の数を考慮したホルムアルデヒド捕捉剤のモル数が等しいか或いは過剰となるようにするのがよい。具体的には該官能基モル数/残存ホルムアルデヒドモル数=1〜3とするのが好ましく、該官能基モル数/残存ホルムアルデヒドモル数=1〜2とするのがより好ましい。
【0038】
(2)フルフリルアルコール−ホルムアルデヒド共重合体組成物
本発明のフルフリルアルコール−ホルムアルデヒド共重合体組成物は、フルフリルアルコール−ホルムアルデヒド共重合体を含み、フルフリルアルコール濃度が1重量%以下、水分が0.1〜10重量%、粘度が2000mPas・sec以下(例えば10〜2000mPas・sec)であり、尿素、アセトアミド、メチルアセトアミド、ジメチル尿素、及びトルエンスルホンアミドからなる群から選択された少なくとも1種の化合物を含有する。
【0039】
本発明のフルフリルアルコール−ホルムアルデヒド共重合体組成物に含まれるフルフリルアルコール−ホルムアルデヒド共重合体量は、例えば30重量%以上(例えば30〜100重量%)であり、好ましくは45重量%以上、より好ましくは50重量%以上である。
【0040】
(2)フルフリルアルコール−ホルムアルデヒド共重合体組成物
フルフリルアルコール−ホルムアルデヒド共重合体組成物は、フルフリルアルコール−ホルムアルデヒド共重合体を含み、フルフリルアルコール濃度が1重量%以下、水分が0.1〜10重量%、粘度が2000mPas・sec以下(例えば10〜2000mPas・sec)であり、尿素、アセトアミド、メチルアセトアミド、ジメチル尿素、及びトルエンスルホンアミドからなる群から選択された少なくとも1種の化合物を含有する。
【0041】
フルフリルアルコール−ホルムアルデヒド共重合体組成物に含まれるフルフリルアルコール−ホルムアルデヒド共重合体量は、例えば30重量%以上(例えば30〜100重量%)であり、好ましくは45重量%以上、より好ましくは50重量%以上である。
【0042】
(2−1)フルフリルアルコール濃度
フルフリルアルコール−ホルムアルデヒド共重合体組成物における残存するフルフリルアルコール濃度は1重量%以下(例えば0.01〜1重量%)であり、好ましくは0.7重量%以下、より好ましくは0.5重量%以下とすることができる。残存するフルフリルアルコール濃度がこのような範囲にあるため、安全性が高い。
【0043】
(2−2)水分
フルフリルアルコール−ホルムアルデヒド共重合体組成物における水分は、1〜10重量%であり、好ましくは1〜7重量%とすることができるフルフリルアルコール−ホルムアルデヒド共重合体組成物は、水分を含有し、フルフリルアルコール濃度が1重量%以下且つ粘度が2000mPas・sec以下であるため、水分あるいはその他の低分子物質が硬化時に気化することによる熱量不足による硬化不良、あるいは硬化後に徐々に気化することによる硬化物の変形等を抑えることができる。
【実施例】
【0044】
(2−3)粘度
フルフリルアルコール−ホルムアルデヒド共重合体組成物の粘度は2000mPas・sec以下(例えば10〜2000mPas・sec)であり、好ましくは1800mPas・sec以下、より好ましくは1200mPas・sec以下とすることができる。フルフリルアルコール−ホルムアルデヒド共重合体組成物の粘度がこのような範囲にあることにより、ガラス繊維、フェルト等の基材への十分な浸透性が得られる。また、既設管更生用ライニング材などの用途にガラス繊維強化樹脂のベース樹脂として用いる場合には、粘度が高すぎるとガラス繊維に浸透せず、粘度が低すぎると樹脂が下側に偏在して上部に未含浸の部分を生じる場合があるため、粘度が400mPas・sec以上2000mPas・sec以下であるのが望ましい。
【0045】
フルフリルアルコール−ホルムアルデヒド共重合体組成物は、尿素、アセトアミド、メチルアセトアミド、ジメチル尿素、又はトルエンスルホンアミドを含有する。これらの化合物のうち、少なくとも1種が含有されていればよく、2種以上の混合物でもよい。これらの化合物は、ホルムアルデヒド捕捉後の余剰分として含有される。
【0046】
【表1】
【0047】
【表2】
【0048】
実施例2
四つ口フラスコ中に10000gのフルフリルアルコール(FA)、2828gのパラホルムアルデヒド、16.5gの50%NaOH水溶液を入れ、フラスコを70℃のオイルバスに浸漬して加熱、攪拌し、パラホルムアルデヒドをフルフリルアルコールに完全に溶解させた。
このようにして調製された溶液を冷却後1000gのイオン交換水を添加し、更に9.4gのリン酸を加え、100℃のオイルバス中に浸漬し、液温が100℃に到達後65分間反応させた。冷却後50%NaOH水溶液でpH6.5まで中和し、粘度が約25mPas・secのフルフリルアルコール−ホルムアルデヒド共重合体組成物を得た。
【0049】
上記で得られたフルフリルアルコール−ホルムアルデヒド共重合体組成物を145℃のオイルバス中に浸漬して加熱し、減圧して480分間FAを除去して、粘度約8000mPas・secのフルフリルアルコール−ホルムアルデヒド共重合体組成物を得た。FA含有量は1重量%以下であった。なお、蒸留時間を短くすることで、得られる組成物の粘度を低くできる。また、水等を添加することによっても、得られる組成物の粘度を低くできる。
【0050】
図1に、実施例1、2における重合中の液温を示す。実施例2では、リン酸添加前にイオン交換水を添加することにより、重合中の反応熱による液温の変動が抑えられ、重合条件を安定化させることが出来た。
【0051】
参考例1
四つ口フラスコ中に1000gのフルフリルアルコール、166gのパラホルムアルデヒド、1.6gの50%NaOH水溶液を入れ、フラスコを95℃のオイルバスに浸漬して加熱、攪拌し、パラホルムアルデヒドをフルフリルアルコールに完全に溶解させた。
このようにして調製された溶液に7.6gのリン酸を加え、そのまま100分間反応させた。冷却後50%NaOH水溶液でpH6まで中和し、粘度が約200mPas・secのフルフリルアルコール−ホルムアルデヒド共重合体を得た。
【0052】
参考例2
四つ口フラスコ中に1000gのフルフリルアルコール、199gのパラホルムアルデヒド、1.6gの50%NaOH水溶液を入れ、フラスコを100℃のオイルバスに浸漬して加熱、攪拌し、パラホルムアルデヒドをフルフリルアルコールに完全に溶解させた。
このようにして調製された溶液に7.1gのリン酸を加え、そのまま90分間反応させた。冷却後50%NaOH水溶液でpH6まで中和し、粘度が約800mPas・secのフルフリルアルコール−ホルムアルデヒド共重合体を得た。
【0053】
参考例3
四つ口フラスコ中に1000gのフルフリルアルコール、233gのパラホルムアルデヒド、1.6gの50%NaOH水溶液を入れ、フラスコを100℃のオイルバスに浸漬して加熱、攪拌し、パラホルムアルデヒドをフルフリルアルコールに完全に溶解させた。
このようにして調製された溶液に7.1gのリン酸を加え、そのまま82分間反応させた。冷却後50%NaOH水溶液でpH6まで中和し、粘度が約400mPas・secのフルフリルアルコール−ホルムアルデヒド共重合体を得た。
【0054】
参考例4
四つ口フラスコ中に1000gのフルフリルアルコール、233gのパラホルムアルデヒド、1.6gの50%NaOH水溶液を入れ、フラスコを100℃のオイルバスに浸漬して加熱、攪拌し、パラホルムアルデヒドをフルフリルアルコールに完全に溶解させた。
このようにして調製された溶液に7.1gのリン酸を加え、そのまま84分間反応させた。冷却後50%NaOH水溶液でpH6まで中和し、粘度が約800mPas・secのフルフリルアルコール−ホルムアルデヒド共重合体を得た。
【0055】
参考例5
四つ口フラスコ中に1000gのフルフリルアルコール、233gのパラホルムアルデヒド、1.6gの50%NaOH水溶液を入れ、フラスコを100℃のオイルバスに浸漬して加熱、攪拌し、パラホルムアルデヒドをフルフリルアルコールに完全に溶解させた。
このようにして調製された溶液に7.1gのリン酸を加え、そのまま90分間反応させた。冷却後50%NaOH水溶液でpH6まで中和し、粘度が約2000mPas・secのフルフリルアルコール−ホルムアルデヒド共重合体を得た。
【0056】
参考例6
四つ口フラスコ中に1000gのフルフリルアルコール、266gのパラホルムアルデヒド、1.6gの50%NaOH水溶液を入れ、フラスコを100℃のオイルバスに浸漬して加熱、攪拌し、パラホルムアルデヒドをフルフリルアルコールに完全に溶解させた。
このようにして調製された溶液に7.1gのリン酸を加え、そのまま80分間反応させた。冷却後50%NaOH水溶液でpH6まで中和し、粘度が約800mPas・secのフルフリルアルコール−ホルムアルデヒド共重合体を得た。
【0057】
参考例7
四つ口フラスコ中に1000gのフルフリルアルコール、233gのパラホルムアルデヒド、1.6gの50%NaOH水溶液を入れ、フラスコを100℃のオイルバスに浸漬して加熱、攪拌し、パラホルムアルデヒドをフルフリルアルコールに完全に溶解させた。
このようにして調製された溶液に7.1gのリン酸を加え、そのまま70分間反応させた。冷却後50%NaOH水溶液でpH6まで中和し、粘度が約200mPas・secのフルフリルアルコール−ホルムアルデヒド共重合体を得た。
【0058】
参考例8
四つ口フラスコ中に1000gのフルフリルアルコール、333gのパラホルムアルデヒド、1.6gの50%NaOH水溶液を入れ、フラスコを100℃のオイルバスに浸漬して加熱、攪拌し、パラホルムアルデヒドをフルフリルアルコールに完全に溶解させた。
このようにして調製された溶液に7.1gのリン酸を加え、そのまま75分間反応させた。冷却後50%NaOH水溶液でpH6まで中和し、粘度が約800mPas・secのフルフリルアルコール−ホルムアルデヒド共重合体を得た。
【0059】
参考例9
四つ口フラスコ中に1000gのフルフリルアルコール、166gのパラホルムアルデヒド、1.6gの50%NaOH水溶液を入れ、フラスコを100℃のオイルバスに浸漬して加熱、攪拌し、パラホルムアルデヒドをフルフリルアルコールに完全に溶解させた。
このようにして調製された溶液に7.1gのリン酸を加え、そのまま96分間反応させた。冷却後50%NaOH水溶液でpH6まで中和し、粘度が約800mPas・secのフルフリルアルコール−ホルムアルデヒド共重合体を得た。
【0060】
参考例10
四つ口フラスコ中に1000gのフルフリルアルコール、233gのパラホルムアルデヒド、1.6gの50%NaOH水溶液を入れ、フラスコを100℃のオイルバスに浸漬して加熱、攪拌し、パラホルムアルデヒドをフルフリルアルコールに完全に溶解させた。
このようにして調製された溶液に7.1gのリン酸を加え、そのまま95分間反応させた。冷却後50%NaOH水溶液でpH6まで中和し、粘度が約3000mPas・secのフルフリルアルコール−ホルムアルデヒド共重合体を得た。
【0061】
参考例11
四つ口フラスコ中に1000gのフルフリルアルコール、532gのパラホルムアルデヒド、1.6gの50%NaOH水溶液を入れ、フラスコを100℃のオイルバスに浸漬して加熱、攪拌し、パラホルムアルデヒドをフルフリルアルコールに完全に溶解させた。
このようにして調製された溶液に7.1gのリン酸を加え、そのまま80分間反応させた。冷却後50%NaOH水溶液でpH6まで中和し、粘度が約800mPas・secのフルフリルアルコール−ホルムアルデヒド共重合体を得た。
【0062】
参考例1〜11の樹脂について、粘度、ホルムアルデヒド濃度、ガラス繊維に対する含浸性、保管時の安定性を以下のようにして求め、或いは評価し、以下の表3のとおりの結果を得た。
【0063】
<粘度測定>
樹脂を容量100mlのポリエチレン製ビーカーに取り、ビーカーを25℃の恒温水槽に浸漬して樹脂を加熱し、Fungilab製ViscoStar Plus回転粘度計を用いて粘度を測定した。
【0064】
<ホルムアルデヒド濃度>
サンプル管に樹脂を10mg取り、30mlのイオン交換水と共にスターラーで1時間攪拌し、樹脂中のホルムアルデヒドを完全に水中に溶出させた後、水中のホルムアルデヒド濃度をMerck Reflectoquantシステムを用いて測定した。
【0065】
<ガラス繊維に対する含浸性>
200mm角に切断した日東紡製ガラスマット1枚を、同じく200mm角に切断した1mm厚のPET不織布に挟んでポリエチレンの袋中に入れた。ポリエチレン袋の底辺中央にビニールチューブが差し込めるように穴を開け、底辺中央と開口部の中央にチューブを差し入れて、気密性が得られるように開口部及び底辺を粘着テープで閉じた。硬化剤としてp−トルエンスルホン酸65%水溶液を2.5%添加した樹脂をポリエチレン製のビーカーに取り、一方のチューブを樹脂中に差し入れ、もう一方のチューブを真空ポンプにつないで減圧して、樹脂をガラスマットおよび不織布に含浸させた。これを220mm角の開口部のある3mmのアルミ製スペーサーの開口部にいれ、鉄板で挟んでクランプで固定し、90℃に加熱したオーブン中に2時間置いて硬化させた。冷却後中央でカットした、断面中央をマイクロスコープで観察してガラスマット中に樹脂が浸透しているかどうかを判定した。
【0066】
<保管時の安定性>
樹脂をビンに入れ、室温で1週間静置した後、二層に分離しているかどうかを目視で確認し、分離無しを○、分離有りを×と判定した。
【0067】
【表3】
【0068】
次に、参考例7、8及び11のフルフリルアルコール−ホルムアルデヒド共重合体に、50%NaOH水溶液を更に加え、pHを7となるように調整した。
【0069】
参考例12
参考例7、8及び11のフルフリルアルコール−ホルムアルデヒド共重合体について、上記のようにpH7に調整したものに関して、常温にて尿素粉末をそれぞれ16.0g、14.7g及び41.4g加え、30分間攪拌した後、再び粘度及びホルムアルデヒド濃度の測定を行ったところ、ホルムアルデヒド濃度はそれぞれ1.1%、0.9%及び2.1%に低下した。また、粘度はそれぞれ230、850及び900mPas・secであった。
さらに、それぞれに対して尿素粉末を8.0g、7.4g及び20.7g追加することで、ホルムアルデヒド濃度はそれぞれ0.6%、0.5%及び1.2%に低下した。また、粘度はそれぞれ240、870及び950mPas・secであった。
【0070】
参考例13
参考例8のフルフリルアルコール−ホルムアルデヒド共重合体について、上記のようにpH7に調整したものに関して、尿素粉末に代えて、アセトアミド29.2g、またはメチルアセトアミド35.1gを用いたこと以外は上記と同様にして粘度及びホルムアルデヒド濃度を測定した。各測定結果は、以下のとおりである。
アセトアミド 900mPas・sec、1.5%
メチルアセトアミド 930mPas・sec、1.4%
【0071】
参考例14
参考例7のフルフリルアルコール−ホルムアルデヒド共重合体をpH6のまま使用して、尿素粉末の効果を確認した。尿素粉末を16.0g常温にて加え、30分間攪拌した後、再び粘度及びホルムアルデヒド濃度の測定を行った。その結果、ホルムアルデヒド濃度は1.5%で、粘度も400mPas・secになった。
【0072】
参考例12〜14についてまとめて表示すると、以下の表4のとおりである。
【0073】
【表4】
【0074】
参考例1〜14で得られたフルフリルアルコール−ホルムアルデヒド共重合体を含む重合液を145℃程度のオイルバス中に浸漬して加熱し、減圧してFAを除去し、好ましくは6%程度の蒸留水を添加することにより、さらに残存フルフリルアルコール濃度が低く、樹脂粘度が400〜2000mPas・sec程度の組成物が得られる。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明方法では、残存モノマーが少なく、粘度の低いフルフリルアルコール−ホルムアルデヒド共重合体組成物を製造することができるので、産業上大いに有用である。
図1