特許第6087583号(P6087583)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6087583
(24)【登録日】2017年2月10日
(45)【発行日】2017年3月1日
(54)【発明の名称】急結剤
(51)【国際特許分類】
   C04B 22/08 20060101AFI20170220BHJP
   C04B 22/10 20060101ALI20170220BHJP
   C04B 28/02 20060101ALI20170220BHJP
【FI】
   C04B22/08 Z
   C04B22/10
   C04B28/02
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2012-240058(P2012-240058)
(22)【出願日】2012年10月31日
(65)【公開番号】特開2014-88296(P2014-88296A)
(43)【公開日】2014年5月15日
【審査請求日】2015年9月8日
(73)【特許権者】
【識別番号】501173461
【氏名又は名称】太平洋マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077562
【弁理士】
【氏名又は名称】高野 登志雄
(74)【代理人】
【識別番号】100096736
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100117156
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100111028
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 博人
(72)【発明者】
【氏名】中島 裕
(72)【発明者】
【氏名】赤江 信哉
【審査官】 小川 武
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−342027(JP,A)
【文献】 特開2003−221264(JP,A)
【文献】 特開2007−145640(JP,A)
【文献】 特開2011−219302(JP,A)
【文献】 特開平04−037637(JP,A)
【文献】 特開平06−321608(JP,A)
【文献】 特開平09−165241(JP,A)
【文献】 特開2007−051021(JP,A)
【文献】 特開平08−091894(JP,A)
【文献】 平野健吉、寺島勲,急結混和材の材料設計と商品開発,Journal of the Society of Inorganic Materials,Japan ,2005年,Vol.12,P.352-362
【文献】 中川晃次ら,非晶質カルシウムアルミネートの初期水和におよぼす結晶化率と化学組成の影響,石膏と石灰,1991年,Vol.231,P.82-87
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B2/00−32/02,
C04B40/00−40/06,
C04B103/00−111/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学成分としてのCaOとAl23の含有モル比(CaO/Al23)が1.7〜2.5のカルシウムアルミネート中に化学成分としてSiO2とMgOを含有し、化学成分としてのAl23とMgOの含有モル比(Al23/MgO)が18〜60、且つ化学成分としてのSiO2とMgOの含有モル比(SiO2/MgO)が2.5〜7.5である前記カルシウムアルミネート100質量部、アルカリ金属アルミン酸塩10〜50質量部及びアルカリ金属炭酸塩10〜50質量部を含有することを特徴とする急結剤。
【請求項2】
さらに、石膏類を含有する請求項1記載の急結剤。
【請求項3】
請求項1又は2記載の急結剤とセメントを含有する吹付用セメント組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば固化材やセメント系吹付材への配合などに使用されるカルシウムアルミネート系の急結剤に関する。
【背景技術】
【0002】
セメントの凝結を飛躍的に速め、また高い初期強度を得ることができる急結剤は、瞬結化も可能なため、例えば直ちに崩落防止補強する必要があるトンネル掘削面を対象とした吹付コンクリート等に好んで利用されている。反面、凝結・硬化が早過ぎると、モルタルやコンクリートの注水時の混練設備や吹付装置への付着物や残留物も直ぐに固結し、例えば装置に付着した状態での固結は、装置の円滑な稼働に支障を及ぼし、また配送管や噴出口の残留物が固結すると閉塞を起こす虞があった。このため、凝結遅延成分を併用し、凝結時間や硬化性状を調整し、施工作業時の急速な固結化の抑制策とされてきた。しかるに、凝結遅延成分を加えた吹付用のフレッシュモルタル・コンクリートでは、急結剤添加後概ね1分経過時までの硬化性が低下し易く、また遅延成分未配合のものと比べ、例えば吹付対象面への吹付物の付着性低下が見られ、とりわけ低温環境下では付着性低下傾向が強くなる。従って、凝結遅延成分を加えるだけの方策には、施工環境や地山補強安定上、限界があり、急結性を具備しつつ過剰な凝結・硬化性を適度に調整することができる他の方策が求められてきた。
【0003】
一方、急結剤の代表的な有効成分であるカルシウムアルミネートは、構造的に高ガラス化率のものほど水和反応活性が高くなり、凝結速度や短時間強度発現性が増す。カルシウムアルミネートは、化学成分としてCaOとAl23を主体的に含む物質であり、広義にはCaO及びAl23以外の化学成分を意図的に含むものも該当する。これらの中には高ガラス化率カルシウムアルミネートの形成や硬化性状への関与が知られているものがある。具体的には非晶質カルシウムアルミネートでSiO2を6〜15重量%含むものは、実質含まない物ものと比べ、硬化時間は殆ど変わらないものの初期強度発現性が高まることが知られている。(例えば、特許文献1参照。)また、同様にMgOを3〜7.5重量%含むものは加熱合成時の融点降下とガラス化促進に有効であることが知られている。(例えば、特許文献2参照。)しかし、カルシウムアルミネートにSiO2やMgOを配合したものが、急結剤として実用上使用できる範囲で、過剰な凝結・硬化速度を適度に抑え、且つ低温での高い付着性を確保できることを示した公知技術は知られていない。カルシウムアルミネートの急結性能を吹付用に適した範囲に保ち、過剰な凝結・硬化速度をある程度抑制できることは、Fe23を含有させたカルシウムアルミネートで知られているに過ぎず(例えば、特許文献3参照。)、併せて付着性低下、特に低温時の付着性低下を防止することもできる手段は知られていない。
【0004】
【特許文献1】特開平08−91894号公報
【特許文献2】特開平04−37637号公報
【特許文献3】特開2010−155737号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、例えば吹付用などのセメント組成物に配合使用した際の付着性低下、特に低温時の付着性低下を防ぐことができる急結剤であって、急結性を具備しつつ、過度の凝結・硬化性を適度に調整することができて、優れた付着性を低下させずに急速な固結化を抑制することが可能な急結剤、およびこれを含有した吹付用セメント組成物の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、前記課題解決のため検討した結果、化学成分としてSiO2とMgOを含有するカルシウムアルミネート中のMaOとAl23およびSiO2とMgOがそれぞれ特定の含有モル比にせしめたものが、例えば吹付コンクリート等の使用に適した急結性を呈し、混練や施工装置類への不要な付着物の固結化を抑制しつつ、低温でも付着性が低下することなく比較的高い付着性を確保できたことから本発明を完成させた。
【0007】
即ち、本発明は、次の(1)〜(2)で表す急結剤及び(3)で表す吹付用セメント組成物である。(1)化学成分としてのCaOとAl23の含有モル比(CaO/Al23)が1.7〜2.5のカルシウムアルミネート中に化学成分としてSiO2とMgOを含有し、化学成分としてのAl23とMgOの含有モル比(Al23/MgO)が18〜60、且つ化学成分としてのSiO2とMgOの含有モル比(SiO2/MgO)が2.5〜7.5である前記カルシウムアルミネート100質量部、アルカリ金属アルミン酸塩10〜50質量部及びアルカリ金属炭酸塩10〜50質量部を含有することを特徴とする急結剤。(2)さらに、石膏類を含有する前記(1)の急結剤。(3)前記(1)又は(2)の急結剤とセメントを含有することを特徴とする吹付用セメント組成物。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、十分な急結性を発現できる急結剤であるものの、凝結速度や硬化性状の調整が可能なため施工手段や作業時間に制約を受け難く、また本発明の急結剤を配合使用したセメント組成物は例えば吹付用等に使用すると高い付着性を確保でき、特に低温でも付着性が殆ど低下することなく、剥落や垂れ等を起こさず、しかも余分な付着物の急速な固結化を防げるので施工障害も起こり難い。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の急結剤を構成するカルシウムアルミネートは、CaOとAl23を主要含有化学成分とする化合物、固溶体、ガラス質若しくはこれらの何れかが混合した物であって、主要含有化学成分のCaOとAl23以外に、化学成分としてMgOとSiO2を含有するものである。また、カルシウムアルミネートは高い急結性が得やすいことから、ガラス化率が高いものの方が好ましく、より好ましくは非晶質カルシウムアルミネートが良い。
【0010】
MgOの含有量に関しては、化学成分としてのAl23とMgOの含有モル比(Al23/MgO)が18〜60、好ましくは18〜40の関係であることを必須とする。このことによって、接水から概ね1分以内での急結性が発現される上に、吹付コンクリートなどに使用した場合は、強力な付着性が得られ、特に、例えば10℃以下のような、低温環境下でも付着性が殆ど低下することがない。Al23とMgOの含有モル比(Al23/MgO)が18未満では、水和活性の乏しいMgOの存在量が増すことにより、水和反応に寄与するAl23の含有量が低下し過ぎて、急結性発現のプロセスで存在が不可欠な水和反応相であるエトリンガイトの生成を阻害するので好ましくない。また、Al23とMgOの含有モル比(Al23/MgO)が60を超えると、カルシウムアルミネート中のAl23の含有量が過剰となり、凝結終了後から数十分時点での硬化物の強度が殆ど抑制されずに早期に高い硬化強度になり過ぎ、このような急結剤を使用したセメント組成物による施工媒体への付着物が硬化物となって残存し易く、該媒体の施工不良や細管・細孔の閉塞・目詰まりといった現象が起こる虞があるので好ましくない。
【0011】
また、本発明の急結剤を構成するカルシウムアルミネート中のSiO2の含有量は、化学成分としてのSiO2とMgOの含有モル比(SiO2/MgO)が2.5〜7.5、好ましくは3.0〜5.0の関係であることを必須とする。この含有モル比であると、急結剤の接水直後から概ね1分以内での急結性が十分発現されると共に、凝結終結時から数十分程度の間の硬化速度を調整することが可能となる。SiO2とMgOの含有モル比(SiO2/MgO)が2.5未満では、MgOによる作用が強く現れ、硬化速度の減退を起こし、吹付コンクリートなどに使用した場合は、対象物への付着性が低下するため好ましくない。SiO2とMgOの含有モル比(SiO2/MgO)が7.5を超えると、SiO2による作用が強く現れ、接水直後から概ね1分以内での急結性が低下し、凝結終結時間が長くかかったり、初期強度発現性が低下するので好ましくない。
【0012】
本発明の急結剤を構成するカルシウムアルミネートは、化学成分としてCaO、Al23、MgO及びSiO2以外の成分も本発明の効果を喪失させない範囲で含有することが許容される。このような成分として、原料由来や製造過程で混入する不可避不純物等が挙げられ、具体的には、例えばFe23、TiO2、未燃カーボンなどが列挙されるが限定されるものではない。CaO、Al23、MgO及びSiO2以外の化学成分含有量が概ね5質量%を超え無いものが望ましい。
【0013】
また、本発明の急結剤を構成するカルシウムアルミネートは、含有化学成分のうちCaOとAl23の含有モル比(CaO/Al23)は特に制限されないが、1.7〜2.5であることが、接水直後から概ね1分以内での急結性確保の点から推奨される。
【0014】
また、本発明の急結剤を構成するカルシウムアルミネートの製造方法は特に限定されない。また、CaO、Al23、MgO、SiO2の各化学成分源となる原料は、何れのものでも良く、具体例として、CaO源として、炭酸カルシウム、石灰石又は生石灰等、Al23源として、ボーキサイト、水酸化アルミニウム、バン土頁岩又はコランダム等、MgO源として、ドロマイトやブルーサイト等、SiO2源として、珪砂、白土、珪藻土又は石英等が挙げられるが、ここに例示したものに限定されない。一般に、原料を適宜選定の上、所望の配合にすべく調混合し、調合物が概ね溶融する温度、例えば約1300〜1850℃で加熱し、水中急冷法以外の方法で急冷処理すると高ガラス化率又は非晶質のカルシウムアルミネートが得られる。冷却速度を遅くすると結晶相が生成し易くなる。
【0015】
本発明の急結剤は、前記のカルシウムアルミネートを有効成分とするものである。実質的にこのようなカルシウムアルミネートのみを含むものでも、凝結又は硬化性状に影響を与える他の副成分を含有するものであっても良い。含有可能な副成分は、本発明の効果を喪失させないものなら特に限定されない。好ましくは、凝結や硬化性状への効果が大きく、接水後1分以内での急結性及び/又は数十分程度までの硬化速度を調整できることから、例えば、石膏類、アルカリ金属硫酸塩、硫酸アルミニウム、アルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属アルミン酸塩等が挙げられる。ここで石膏類は、無水石膏、半水石膏、二水石膏の何れでも、またそれらのうち二種以上混合したものも使用できる。かかる副成分の急結剤中の含有量は特に制限されない。また、副成分が含有されないものでも良い。より好ましくは、急結性を喪失させずに凝結時間や硬化時間をより調整し易くなることから、石膏類、アルカリ金属炭酸塩及びアルカリ金属アルミン酸塩の群から選ばれる1種以上を含有する急結剤とする。最も好ましくは、前記のカルシウムアルミネート含有量100質量部に対し、石膏類を約150質量部以下(無含有の場合も含む。)、アルカリ金属炭酸塩を約10〜50質量部及びアルカリ金属アルミン酸塩を約10〜50質量部含有することで、接水直後から概ね1分までの凝結・硬化性状の調整が容易になり、急結性を維持しつつ急激な反応速度抑制も可能となり、その後数十分程度の間の硬化速度もいっそう調整し易くなる。
【0016】
また、本発明の急結剤は、適度な反応活性を具備する上で、粉末度は3000〜8000cm2/gのブレーン比表面積が望ましい。この粉末度から外れるものでも本発明による効果を奏することは幾分弱くなることがあるものの可能である。ブレーン比表面積3000cm2/g未満では反応活性が幾分緩慢化し、初期硬化性が低下することがある。また、ブレーン比表面積8000cm2/gを超えると接水数分経過後から数十分経過時までの硬化速度が速くなり、施工環境や手段によっては付着残分が施工設備・用具等に固結し易くなることがある。
【0017】
本発明の吹付用セメント組成物は、前記急結剤とセメントを含有するものである。使用するセメントは水硬性のセメントであれば何れのものでも良い。具体例を示すと、普通、早強、超早強、低熱、中庸熱等の各種ポルトランドセメント、高炉セメント、シリカセメント、フライアッシュセメントなどの各種混合セメント、白色セメントやエコセメント等の特殊セメントを挙げることができ、2種類以上を併用しても良い。但し、アルミナセメントは実質的にカルシウムアルミネートであるため、他のセメントと併用する場合を除き単独使用には適当ではない。本発明の急結剤のモルタルやコンクリートの添加量は用途に応じて適宜定めれば良く、例えば吹付用セメント組成物に使用する急結剤の量は、セメント100質量部に対し、5〜15質量部が推奨される。5質量部未満では接水後1分以内の初期硬化性が低下することがあり、15質量部を超えると接水後数分から数十分の硬化速度が速くなり過ぎ、施工作業時等で不要な固結を起こし易くなる。
【0018】
吹付用セメント組成物への急結剤の使用は、限定されるものではないが、通常は予め作製したフレッシュ状態のベースモルタルやベースコンクリートへの添加という方法で行われる。ベースモルタルやベースコンクリートは、セメントに必要に応じて骨材や急結剤類以外の混和材・剤を所望量加え、注水して混練したものであり、未硬化状態のモルタル・コンクリートである。骨材は、モルタルやコンクリートに使用できるものであれば、モルタル用は細骨材のみ、コンクリート用は少なくとも粗骨材を含むものとする以外は制限されない。また急結剤類以外の混和材・剤は、例えば、何れもモルタルやコンクリートに使用することができる、消泡剤、膨張材、収縮低減剤、保水剤、ポゾラン反応性物質、減水剤類、各種繊維、撥水剤、顔料、増粘剤、無機微粉などを挙げることができ、何れも本発明の効果を阻害しない範囲で使用できる。
【実施例】
【0019】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明する。本発明は記載された実施例に限定されるものではない。
【0020】
[カルシウムアルミネートの作製]
何れも市販粉末試薬の、CaCO3、Al23、MgO及びSiO2を用い、ヘンシェル型混合機を使用し、表1に表す化学成分配合量(CaCO3はCaO換算値)となるよう調合した。また、一部はさらに市販粉末試薬のFe23も使用した。尚、0.1質量%未満の化学成分は実質無配合(表記は0質量%)と見なした。調合物は大気雰囲気の電気炉中で約1550℃(±50℃)に加熱し、当該温度で120分間保持した後、直ちに炉外に取出した。取出した加熱物表面に冷却用の窒素ガスを流速約30ml/秒で吹付け、急冷し、高ガラス化率のカルシウムアルミネートを作製した。冷却物は全鋼製のボールミルで粉砕し、市販の分級装置にかけ、ブレーン比表面積約5000cm2/gの粉末を得た。この粉末のガラス化率を、粉末エックス線回折装置を用い、質量;M1のカルシウムアルミネートに含まれる各鉱物の質量を粉末エックス線回折により内部標準法等で定量し、定量できた含有鉱物相の総和質量;M2を算出し、残部が純ガラス相と見なし、次式でガラス化率を算出した。ガラス化率(%)=(1−M2/M1)×100
ガラス化率の結果も表1に記す。
【0021】
【表1】
【0022】
[急結剤の作製]
前記作製のカルシウムアルミネート粉末と、粉砕・分級処理によりブレーン比表面積約5200cm2/gに調整した市販のII型無水石膏、ブレーン比表面積約2000cm2/gに調整したアルミン酸ナトリウム(粉末試薬)、ブレーン比表面積約1000cm2/gに調整した炭酸ナトリウム(粉末試薬)から選定される材料を表2の配合量となるようヘンシェルミキサで180秒間混合し、粉末状の急結剤を作製した。
【0023】
【表2】
【0024】
[セメント組成物の作製]
市販の普通ポルトランドセメント及び細骨材としてJIS R 5201で規定するセメントの強さ試験用標準砂(セメント協会研究所製、以下「標準砂」と記す。)を用い、セメント100質量部に対し標準砂300質量部を加え、さらに60質量部の水を加え、約10℃の環境下でホバートミキサで混練し、ベースセメントモルタルを作製した。注水30分経過後、ホバートミキサで継続混練中のベースセメントモルタルに、前記作製の急結剤をセメント100質量部に対して表3に表す添加量(質量部)となるよう加え、混練を停止し、セメント組成物を得た。
【0025】
【表3】
【0026】
[凝結及び硬化性の評価]
急結剤添加後1分及び10分経過したセメント組成物のプロクター貫入抵抗値を測定した。その結果も表3に表す。また、急結剤添加後のセメント組成物をJIS R 5201で規定するセメントの強さ試験に準じた方法で、材齢1日の圧縮強度を測定した。測定は何れも約10℃の環境下で行った。その結果も表3に記す。
【0027】
表3に表した結果から、本発明の急結剤は、10℃の低温でも急結剤添加1分後には凝結が進行し、軟弱な可変状態から外圧を加えない限り不変形の硬質化状態になりつつあることが分かり、さらに急結剤添加10分後でも終結値の半分程度の貫入抵抗値であって、硬化は進むものの、例えば相応の応力を加えれば可変する余地があることを示唆している。これに対し、本発明外の急結剤では急結剤添加1分後での凝結は殆ど進んでいないか、そうでないものでは急結剤添加10分後には既に終結値に近い値で硬化が進むため過大な貫入抵抗値を示し、硬化性状の調整が困難であることがわかる。また、本発明の急結剤を使用したセメント組成物は何れも高い短時間強度発現性を呈し、強度上は問題が見られなかった。
【0028】
[付着性評価]
前記の如く作製したセメント組成物について、これをモデル駆体壁面に吹付けた際の付着性の評価試験を10℃及び20℃環境下で行った。試験方法は、普通ポルトランドセメント100質量部と粗骨材として砕石190質量部と細骨材として山砂275質量部に水60質量部を加えたベースセメントコンクリートをパン型ミキサで混練作製し、一旦供給タンクに移した後、配管を通して市販の吹付機にポンプ圧送した。吹付機に直結する配管部はY字管を用い、これを使って前記急結剤をベースセメントコンクリートにセメント100質量部に対し、表3に表す添加量(質量部)になるよう添加し、吹付用セメント組成物を作製した。吹付用セメント組成物は、吹付機でその吹付口から約4m離れた場所に設置したコンクリート製の垂直壁面(壁面の大きさ高さ2m×横幅2m)に所定の温度環境下で吹付けた。該壁面に吹付けられたセメント組成物が、剥落・剥離せず且つ垂れずに付着できているかを吹付時から10分経過後に目視観察した。剥離・剥落が少しも見られず、且つ垂れも実質見られないものを付着性「良好」と判断した。それ以外の状況になったものは全て付着性「不良」と判断した。この結果も表3に表す。
【0029】
表3の結果より、本発明の吹付用セメント組成物は、何れも10℃及び20℃の環境下で概ね良好な付着性を呈した。これに対し、本発明外の吹付用セメント組成物は、20℃の環境下では概ね良好な付着性を呈したものでも、10℃の低温環境下では付着性が明らかに劣っていることがわかる。
【0030】
[固結化の評価]
また、前記の如く作製した急結剤の一部に対し、固結化の評価試験を20℃に保った屋内で行った。即ち、ホバートミキサを用い、セメント100質量部と標準砂300質量部に水60質量部を加えたベースセメントモルタルを混練し、注水30分経過後に前記急結剤(急結剤1、3、15、10、13及び14)をセメント100質量部に対し7.5質量部となるよう添加した。添加数秒後に混練を停止し、直ちに該ミキサから練り上がったセメント組成物を排出し、ミキサ内を高圧水で洗浄した。水洗後は当該ミキサに再び前記と同様の条件で、セメントと標準砂を投入し、注水を行ったベースセメントモルタルを混練し、注水30分経過後に急結剤を添加した。同じミキサを使用し、このようなベースセメントモルタルへの急結剤添加操作を10回繰返し、それぞれセメント組成物を作製した。繰返し作製の都度、ミキサ内は残留物が無いよう洗浄したが、練混用のパドルだけは洗浄せずにベースセメントモルタルの混練に10回繰返し使用した。急結剤添加1回目のときのパドルに付着残存したセメント組成物の重量と10回繰返し作製に使用した際にパドルに付着残存したセメント組成物の重量をそれぞれ測定した。尚、途中洗浄を含めた繰り返し10回のセメント組成物作製までの時間は、急結剤種に拘わらず極力同じとなるよう行った。この結果を表4に表す。
【0031】
【表4】
【0032】
表4の結果から、本発明の急結剤を適正配合したセメント組成物は、本発明外の急結剤を添加したセメント組成物と、1回目の急結剤添加による混練ではほぼ同程度のパドル付着量であった。2回目以降の急結剤添加による混練操作では、本発明外の急結剤を添加したセメント組成物はその前の混練操作で付着した残存付着物物の固結化が進み、新たな混練の際に残存付着物が脱離し難く、混練毎に残存付着物上に新たな付着物が積重なる傾向が見られ、10回の繰返し混練使用を経た後の付着物の重量は過大な量になった。これに対し、本発明外の急結剤を添加したセメント組成物は10回の繰返し混練使用を経た後の付着物の重量は、1回目の急結剤添加による混練で見られた付着物量より2割程度増加しているに過ぎず、このことは本発明外の急結剤を添加したセメント組成物は、施工媒体の動作等に支障を及ぼす可能性が極めて低く、また吹付用セメント組成物として使用する場合もその圧送管や吹付機の吐出口などの閉塞や目詰まりを起こし難いことかわかる。