(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6087605
(24)【登録日】2017年2月10日
(45)【発行日】2017年3月1日
(54)【発明の名称】免震構造物
(51)【国際特許分類】
F16F 15/02 20060101AFI20170220BHJP
F16F 15/04 20060101ALI20170220BHJP
E04H 9/02 20060101ALI20170220BHJP
F16F 15/06 20060101ALI20170220BHJP
【FI】
F16F15/02 Z
F16F15/04 D
E04H9/02 331A
F16F15/06 A
【請求項の数】2
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-267529(P2012-267529)
(22)【出願日】2012年12月6日
(65)【公開番号】特開2014-114837(P2014-114837A)
(43)【公開日】2014年6月26日
【審査請求日】2015年9月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】100107308
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 修一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100126930
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 隆司
(74)【代理人】
【識別番号】100154726
【弁理士】
【氏名又は名称】宮地 正浩
(72)【発明者】
【氏名】前田 達彦
(72)【発明者】
【氏名】島野 幸弘
(72)【発明者】
【氏名】日下 哲
(72)【発明者】
【氏名】池田 英美
【審査官】
岩田 健一
(56)【参考文献】
【文献】
特開平10−077750(JP,A)
【文献】
特開平09−291970(JP,A)
【文献】
特開平11−303931(JP,A)
【文献】
特開2004−069067(JP,A)
【文献】
特開昭62−146368(JP,A)
【文献】
特表2011−501049(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 15/02
F16F 15/04
E04H 9/02
F16F 15/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上層側構造部と下層側構造部との間に介装された免震支承と、
前記上層側構造部と前記下層側構造部との間に介装された大変位用ダンパー装置と、が備えられ、
前記大変位用ダンパー装置は、前記上層側構造部と前記下層側構造部との前記免震支承を介した相対変位がゼロから所定量までの場合は減衰力を付与せず、前記相対変位が前記所定量になってから作動し始めて前記所定量を超える相対変位分に対して前記免震支承よりも大きな減衰力を付与し、
前記大変位用ダンパー装置に、前記上層側構造部の下部と前記下層側構造部の上部との一方に固定されるとともに前記上層側構造部の下部と前記下層側構造部の上部との他方に対して横滑り可能に上下方向で接触して、滑り支承として機能しながら前記上層側構造部を支持するダンパーと、前記上層側構造部の下部と前記下層側構造部の上部との前記他方に設けられるとともに前記相対変位が所定量になったときに初めて前記ダンパーに横側方から当接して前記所定量を超える相対変位分に対してのみ前記ダンパーに減衰力を発揮させる当接部と、が備えられている免震構造物。
【請求項2】
前記ダンパーが、変位量に比例して減衰力が増大する変位比例型のダンパーである請求項1に記載の免震構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上層側構造部と下層側構造部との間に免震支承を介装してある免震構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の免震構造物は、上層側構造部と下層側構造部との間に介装した免震支承によって地震時に上層側構造部に伝達される振動を長周期化することで、上層側構造部への地震入力を低減するものであり、複数種の免震装置を組合せるなどの種々の技術が開発されている。
【0003】
例えば、中・大地震時の変形に対して免震作用させる金属ダンパー(免震装置の一例)の下端部に小地震時の小変形に対して免震作用させる粘弾性体ダンパー(免震装置の一例)を組み付けて前記免震支承を形成したものもある(下記特許文献1参照)。
【0004】
つまり、この従来の免震構造物は、小地震時の小変形に対しては粘弾性ダンパーを作用させ、且つ、それよりも大きな地震時の変形に対しては金属ダンパーも作用させることで、小地震から大地震までの広い範囲の地震に対して免震支承に免震作用を発揮させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−242479号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、上述した従来の免震構造物は、何れも、免震支承の想定震度を超える大地震が発生したときに上層側構造部と下層側構造部との相対変位が大きくなり過ぎ、そのことで、上層側構造部が隣接物(例えば、免震ピットの周壁や擁壁等の隣接物)とが衝突し、上層側構造部や隣接物が損壊する重大な問題が生じる虞がある。
【0007】
本発明は、上述の実状に鑑みて為されたものであって、その主たる課題は、合理的な改良により、免震支承の想定震度を超える大地震が発生した場合でも上層側構造部やそれの隣接物等に損壊が生じるのを効果的且つ効率的に抑止し得る免震構造物を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明
の特徴構成は、上層側構造部と下層側構造部との間に
介装された免震支承
と、
前記上層側構造部と前記下層側構造部との間に介装された大変位用ダンパー装置と、が備えられ、
前記大変位用ダンパー装置は、前記上層側構造部と前記下層側構造部との前記免震支承を介した相対変位が
ゼロから所定量までの場合は減衰力を付与せず、前記相対変位が前記所定量になっ
てから作動し始めて前記所定量を超える相対変位分に対し
て前記免震支承よりも大きな減衰力を付与
し、
前記大変位用ダンパー装置に、前記上層側構造部の下部と前記下層側構造部の上部との一方に固定されるとともに前記上層側構造部の下部と前記下層側構造部の上部との他方に対して横滑り可能に上下方向で接触して、滑り支承として機能しながら前記上層側構造部を支持するダンパーと、前記上層側構造部の下部と前記下層側構造部の上部との前記他方に設けられるとともに前記相対変位が所定量になったときに初めて前記ダンパーに横側方から当接して前記所定量を超える相対変位分に対してのみ前記ダンパーに減衰力を発揮させる当接部と、が備えられている点にある。
【0009】
上記構成によれば、上層側構造部と下層側構造部との免震支承を介した相対変位が所定量以下となる地震(つまり、免震支承の想定内の地震)に対しては、免震支承に所期の免震作用を確実に発揮させることができる。
【0010】
それでいて、上層側構造部と下層側構造部との免震支承を介した相対変位が所定量を超える地震(つまり、免震支承の想定外の大きな地震)が発生したときは、大変位用ダンパー装置の作動により所定量を超える相対変位分に対し減衰力を付与するから、その大変位用ダンパー装置による減衰作用により、上層側構造部と下層側構造部の相対変位量が大きくなり過ぎるのを抑止することができる。
【0011】
したがって、免震支承の想定内の地震が発生したときは免震支承による所期の免震作用により上層側構造部が損壊するのを効果的に抑止することができながらも、免震支承の想定外の大きな地震が生じたときでも、大変位ダンパー装置による減衰作用により上層側構造部やそれの隣接物が損壊するのを抑止することができる。
【0012】
しかも、免震支承の想定外の大きな地震の発生時のみに大変位用ダンパー装置の作動が制限されるから、その分、大変位用ダンパー装置の作動回数を減少させることができ、ランニングコストの低廉化も図ることができる。
【0013】
さらに、免震支承の設置層を利用して大変位用ダンパー装置を装備することができるから、例えば、専用の設置層を別途に設けて大変位用ダンパー装置を装備するのに比べて建物空間を有効に活用することができる。
【0015】
上記構成において、前記ダンパーが、変位量に比例して減衰力が増大する変位比例型のダンパーである
と好適である。
【0016】
つまり、免震支承の想定外の大きな地震における大変位域においては、速度が低速化していることが考えられるため、大変位用ダンパー装置を構成するダンパーとして速度に比例して減衰力が増大する速度比例型のダンパーを設ける場合では、大変位域においては減衰力を効果的に付与できない虞がある。
【0017】
これに対して、上記構成によれば、大変位用ダンパー装置を構成するダンパーとして、変位量に比例して減衰力が増大する変位比例型のダンパーを設けてあるから、低速の変位に対して減衰力を効果的に付与することができ、これにより、大地震時に上層側構造部やそれの隣接物が損壊するのを一層抑止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図4】(a)地震時の動作を模式的に示す説明図(小〜中変位)、(b)地震時の動作を模式的に示す説明図(大変位)
【
図5】別実施形態の免震構造物の要部を示す縦断面図
【
図6】別実施形態の免震構造物の要部を示す縦断面図
【
図7】別実施形態の免震構造物の要部を示す縦断面図
【
図8】別実施形態の免震構造物の要部を示す縦断面図
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1〜
図3は、上層側構造部1と下層側構造部2の間に免震層3を備えた鉄筋コンクリート造の免震構造物Bを示し、上層側構造部1を地上側の建物部から構成するとともに、下層側構造部2を免震ピットから構成してある。
【0020】
前記上層側構造部1の下端側には、隣接する柱6の下端側どうしに大梁7を亘らせるとともに、並設された大梁7の長さ方向の中間部どうしに小梁8を亘らせてあり、これら大梁7と小梁8とにより床版4(
図3参照)を一体的に支持させてある。
【0021】
この免震構造物Bの免震層3は、上層側構造部1と下層側構造部2の間における上層側構造部1の柱6の位置に合わせて免震支承9を介装して構成してある。
【0022】
また、この免震層3には、上層側構造部1と下層側構造部2の間における上層側構造部1の小梁8どうしの交差箇所(スパンの中間部の一例)の位置に合わせて、免震支承9の想定外の大地震時に生じる大きな横揺れに対して減衰力を付与する大変位用ダンパー装置10を付加装備してある。
【0023】
前記免震支承9は、上下一対の金属製等の固定板9A、9Bの間に複数の金属製薄板とゴム製薄板とを交互に積層接着してなる変形部9Dを備えた積層ゴム免震装置から構成してある。また、図示しないが、この免震支承9の変形部9Dの中心部には、円筒上の金属プラグ(ダンパーの一例)を設けてある。
【0024】
そして、この免震支承9は、上方側の固定板9Aを上層側構造部1の下面にボルト等の固定手段で固定するとともに、下方側の固定板9Bを下層側構造部2の上面にボルト等の固定手段で固定することで、上層側構造部1と下層側構造部2の間に介装してある。
【0025】
つまり、この免震支承9は、地震時等の横揺れに対して、各薄板同士の横方向への相対移動による変形部9Dの変形によって免震作用を発揮するとともに、その変形部9Dの変形に伴う内蔵金属プラグの塑性変形によって地震エネルギーの減衰作用を発揮するように構成してある。
【0026】
前記大変位用ダンパー装置10は、
図1〜
図3、
図4に示すように、上層側構造部1の下面にボルト等の固定手段で上端側を固定し、且つ、下層側構造部2の上面に水平方向に沿って移動自在に支持させた変位比例型の金属ダンパー(ダンパーの一例)11と、前記相対変位xが所定量d1(
図4参照)になったときに金属ダンパー11の遊端側となる下端側に水平方向(横側方の一例)から当接する状態に下層側構造部2の上面に一体的に突出形成した当接部12とから構成してある。
【0027】
前記金属ダンパー11は、上層側構造部1に対する金属製等の固定板11Aと、下層側構造部2に支持させる円筒状の基台11Bとの間に水平方向に沿って塑性変形可能な横向きU字状の複数の鋼材11aからなる変形部11Dを設けて構成してある。
【0028】
なお、前記変形部11Dは、約90度ピッチ(所定角度ピッチの一例)の4本(複数本の一例)の小梁8の延設方向に沿って鋼材7aを夫々配設することで、水平面に沿う各方向に対して鋼材11aの塑性変形による減衰力を効果的に付与し得るようにしてある。
【0029】
前記当接部12は、
図3に示すように、金属ダンパー11の円筒状の基台11Bを中心Cに据えた状態で、基台11Bの下端部に設けた円盤状のベース11bの外周面との間に前記所定量d1と同寸法の隙間Aを形成するように、ベース11bの外径よりも所定量d1だけ大きな内径寸法で上向きに突出形成された環状の突状12aから構成してある。
【0030】
つまり、この大変位用ダンパー装置10は、環状突状12aにより金属ダンパー11の基台11Aの水平面に沿う各方向に対する相対移動を所定量d1の範囲に接当規制することで、
図4(b)に示すように、上層側構造部1と下層側構造部2の所定量d1を超える相対変位xpに対して金属ダンパー11の変形部11Aを変形させて、免震支承9よりも大なる減衰力と制動力とを付与するように構成してある。
【0031】
なお、
図3に示すように、前記金属ダンパー11のベース11bの下面には、滑り抵抗を減少させる樹脂材をコーティングした滑り体11dを設けるとともに、これに対面する下層側構造部2の上面における環状突状12aの内側の面部の略全域を、樹脂材をコーティングした滑り受け面13に構成してあり、これにより、金属ダンパー11を滑り支承としても機能させて上層側構造部1の下部におけるスパンの中間部を支持させる構成にしてある。
【0032】
また、前記当接部12の環状突状12aの先端側には、環状突状12aの内周面に金属ダンパー11の下端部が当接した状態からの該下端部の乗り越え移動を阻止する環状の乗り越え規制片12bを内向きに突出形成してある。
【0033】
このように構成された免震構造物Bは、
図4(a)に示すように、上層側構造部1と下層側構造部2との相対変位xが所定量d1以下となる想定された大きさ横揺れに対しては、その所定量d1以下の相対変位xを免震支承9により許容する状態で免震支承9単独による所期の免震作用と減衰作用とを確実に発揮させて、免震構造物Bが損壊するのを効果的に抑止する。
【0034】
それでいて、上層側構造部1と下層側構造部2との相対変位xが所定量d1を超える想定外の大きさの横揺れに対しては、
図4(b)に示すように、大変位用ダンパー装置10の作動によりその所定量d1を超える相対変位分xpに免震支承9よりも大なる減衰力と制動力とを付与させて、上層側構造部1がそれの横側方に位置する他物(例えば、免震ピットの周壁部等の隣接物)とが衝突するなどに原因して免震構造物Bや他物が損壊するのを抑止する。
【0035】
〔別実施形態〕
(1)前述の実施形態では、大変位用ダンパー装置10を構成するのに、ダンパー11を下層側構造部2の上面に水平移動自在に支持させる場合を例に示したが、例えば、
図5に示すように、ダンパー11と下層側構造部2の上面との間に当接部12の高さ以下の寸法の隙間を形成するように金属ダンパー11を宙吊り状態で上層側構造部1の下部に配設してもよい。
【0036】
(2)前述の実施形態では、大変位用ダンパー装置10を構成するのに、上層側構造部1の下部にダンパー11を設け、下層側構造部2の上部に当接部12を設ける場合を例に示したが、例えば、
図6に示すように、これとは逆に、上層側構造部1の下部に当接部12を設け、下層側構造部2の上部にダンパー11を設けてもよい。
【0037】
(3)ダンパー11の具体的構成は、前述の実施形態で示した構成に限らず、種々の構成変更が可能であり、例えば、
図7に示すように、上下方向に沿って配設された鋼材14などから構成してもよい。
【0038】
(4)前述の実施形態では、大変位用ダンパー装置10を、上層側構造部1に取付け自在なダンパー11と、下層側構造部2の上部に一体形成した当接部12とから構成する場合を例に示したが、例えば、
図8に示すように、変位用ダンパー装置10を、上層側構造部1に取付け自在なダンパー11と、ボルト孔等の被固定部15aと当接部12と滑り受け面13とを有した金属製等の当接部材15とから装置ユニットとして構成してもよい。このようにすれば、既存の構造物等に対しても容易に装備することが可能になる。
【0039】
(5)前述の実施形態では、大変位用ダンパー装置10を上層側構造部1の下方に装備する場合を例に示したが、上層側構造部1の横側方に形成した擁壁との間など、上層側構造部1の横側方に装備してもよい。
【0040】
(6)大変位用ダンパー装置10を構成するダンパー11は、前述の実施形態で示したが変位比例型ダンパーに限らず、速度比例型ダンパーなどの種々のダンパーであってもよく、また、それらの組合せ等であってもよい。
【0041】
(7)免震支承9は、先の実施形態で説明した積層ゴム免震装置に限らず、滑り支承免震装置、転がり免震装置などの種々の免震装置であってもよく、また、それらの組み合わせ等であってもよい。
【符号の説明】
【0042】
1 上層側構造部
2 下層側構造部
9 免震支承
10 大変位用ダンパー装置
11 ダンパー
12 当接部
x 相対変位
d1 所定量
xp 所定量を超える相対変位分