(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来、心臓疾患の診断指標として、心電図が広く用いられている。心電図は、心臓の電気的な活動を体表面で検出し、それを心電波形として表したものである。この心電波形(心電図)を解析することで、心臓の活動に関する様々な情報を得ることができる。
【0003】
近年では、心電図をデータ化して記録するデジタル心電計の開発により、コンピュータを用いて心電図を自動解析することが可能になり、心電図から得られる様々なパラメータについて検討がなされている(例えば特許文献1参照)。
【0004】
また、一つの心電計で複数の検査(例えば、12誘導検査、不整脈検査、リズム計測検査、マスターテスト検査など)を行うことができるものもある。このような複数の検査を行うことができる心電計では、一般に、タッチパネルや操作スイッチなどによって、これから行おうとする検査の種類の選択や、検査内容の設定、検査結果の出力方法の設定、を行うことができるようになっている。
【0005】
さらに、被検者に運動負荷(運動ストレス)を与えたときの心電図及び血圧脈波を測定する心電計がある(例えば特許文献2参照)。この種の心電計は、トレッドミルやエルゴメータなどの運動負荷装置に接続され、この運動負荷装置に制御信号を与えることで運動負荷装置を駆動する。そして、心電計は、運動負荷装置によって運動負荷が与えられた被検者に装着された電極部及び血圧計からの信号に基づいて、心電図及び血圧脈波を得、これらをモニタに表示したり記録紙に記録する。この運動負荷検査によれば、例えば、運動負荷を与える前の心電図と運動負荷を与えた後の心電図とを比較することで、虚血性心疾患などを診断することができる。
【0006】
さらに、例えば下肢の整形外科的疾患などにより運動負荷検査が不可能な被検者に対しては、運動負荷に代えて薬物負荷を与えることが提案されている(例えば特許文献3参照)。薬物負荷検査の一例について説明する。被検者に、例えば心筋内血流不均分布を生じさせ、狭窄冠動脈の灌流領域に心筋虚血を誘発する医薬品(例えばジピリダモール)を、点滴により投与することで、心筋虚血を誘発する。その際に生じる心室内興奮伝播時間(QRS時間)の変化を測定することで、虚血性心疾患などを診断することができる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、例えばRI(Radio Isotope)室では、負荷の方法は、被検者が運動して負荷をかけて検査する運動負荷によるものと、被検者に運動をさせずに薬を投与し経過を観察する薬物負荷によるものがあり、被検者の様々な条件を考慮してどちらで負荷を行うかが決定される。また被検者の状態によっては、検査当日に負荷の方法が変更になる場合もある。
【0009】
また、従来の薬剤負荷検査は、専用の検査モードは無く、一般的な12誘導検査モード等で行なわれている。よって検査結果も、負荷検査であるにもかかわらず12誘導検査レポートで示される。しかし、運動による負荷であっても、薬物による負荷であっても、後日、検査した結果を、被検者を総合的に担当している医師が比較できるように、同様の負荷結果レポートとして提供することが求められている。
【0010】
しかしながら、実際上、運動負荷検査を行うことができる心電計は、検査時に、トレッドミルやエルゴメータなどの運動負荷装置に接続されることが前提となった構成となっており、薬物負荷検査を行うことが考慮されていない。
【0011】
本発明は、以上の点を考慮してなされたものであり、簡単な操作で、運動負荷検査と薬物負荷検査の両方に対応できる心電計を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の心電計の一つの態様は、
運動負荷装置に接続可能であり、前記運動負荷装置と通信可能な、心電計であって、
前記運動負荷装置との通信が確立しているか否かを監視する監視部と、
前記心電計を運動負荷検査モード及び薬物負荷検査モードのいずれかに選択的に設定可能な設定部と、
前記設定部によって運動負荷検査モードが設定されているか、又は薬物負荷検査モードが設定されているかに基づいて、前記監視部による前記通信確立の監視処理を制御する制御部と、
を具備する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、簡単な操作で、運動負荷検査と薬物負荷検査の両方に対応できる心電計を実現できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。
【0016】
本発明の発明者らは、運動負荷検査の機能を有する心電計を、薬物負荷検査にも簡単に用いるためにはどのようにすればよいか検討した。そして、発明者らは、運動負荷検査の機能を有する心電計においては、検査時に、トレッドミルやエルゴメータなどの運動負荷装置に接続されることが前提となった構成となっており、これらの装置が接続されて通信が確立されたことを確認してから検査プログラムを開始する構成となっている点に着目した。換言すれば、運動負荷装置との通信が確立されたことが確認されるまでは、検査プログラムを実行しない構成となっている。これは、運動負荷装置との連携が確認されない状態で運動負荷装置を駆動させることに起因する、運動負荷装置の暴走や、運動負荷装置からのフィードバック信号を受け取ることができないといった不都合を防止するためである。
【0017】
本実施の形態においては、薬物負荷検査モードを設定する機能を新たに設け、薬物負荷検査モードが設定された場合には、運動負荷装置との通信確立を監視することを停止するようになっている。つまり、運動負荷装置との連携を行なわない、薬物負荷検査のプログラムを実行可能としている。これにより、簡単な操作で、運動負荷検査と薬物負荷検査の両方に対応できる心電計を実現できる。さらに、そもそも運動負荷検査モードで運動負荷装置の速度切替時を通知するために発せられる喚起音を、薬物負荷検査時にも発するようにした。これにより、心電計の構成を大きく変更することなしに、医師に薬物投与の適切なタイミングを喚起することができるようになる。
【0018】
<構成>
図1は、本実施の形態の心電計の外観構成を示す斜視図である。心電計100は、本体部110と、表示部120と、から構成されている。本体部110には、入力キー111やプリンタ部112が設けられている。表示部120にはタッチパネル121が設けられている。
【0019】
図2は、心電計100の要部構成を示すブロック図である。心電計100は、制御部130、タッチパネル121、記憶部113、入力キー111、プリンタ部112及びスピーカ114を有する。
【0020】
制御部130は、心電計100の全体の動作を制御する。タッチパネル121には、メニュー画面や各種の設定画面が表示され、ユーザは、タッチパネル121をタッチ操作することで、メニューの選択や各種の設定を行うことができるようになっている。また、タッチパネル121には、心電波形、血圧脈波及び解析結果などが表示される。
【0021】
記憶部113は、ハードディスクドライブや半導体メモリなどにより構成される。記憶部113は、心電波形のデータとその解析データや、血圧脈波のデータなどを記憶する。
【0022】
さらに、記憶部113は、タッチパネル121又は入力キー111からユーザによって入力された、心電計100の設定データも記憶される。本実施の形態の心電計100は、運動負荷検査モード及び薬物負荷検査モードのいずれかに選択的に設定可能とされ、記憶部113には、心電計100の現在のモードが運動負荷検査モードであるか、薬物負荷検査モードであるかが記憶される。この負荷検査モードの設定は、ユーザによるタッチパネル121又は入力キー111の操作に基づいて行われる。心電計100は、記憶部113に記憶された設定データに基づいて動作する。
【0023】
プリンタ部112は、レーザ式やサーマルヘッド式などのプリンタであり、測定により得られた、心電波形とその解析結果や、血圧脈波などを、ユーザによる指示に従ってプリントする。スピーカ114は、負荷検査モード時の喚起音などを発する。
【0024】
かかる構成に加えて、心電計100は、電極用インターフェース(I/F)132、血圧計用インターフェース(I/F)133及び運動負荷用インターフェース(I/F)134を有する。
【0025】
電極用I/F132は、被検者(つまり、心電図計測の対象者)に装着される電極部(四肢用電極部及び胸部用電極部など)140に接続され、この電極部140から入力される測定電圧に増幅処理などを施して、演算部131に出力する。血圧計用I/F133は、血圧計150に接続され、血圧計150から入力される血圧値信号を演算部131に出力する。また、血圧計用I/F133は、血圧計150のカフに供給する圧力を制御するための制御信号を血圧計150に出力する。演算部131は、心電図データ処理プログラムを実行することにより、心電波形の形成、及び、心電波形の解析などを行う。また、演算部131は、血圧脈波処理プログラムを実行する。
【0026】
運動負荷用I/F134は、トレッドミルやエルゴメータなどの運動負荷装置160に接続される。運動負荷用I/F134を介して運動負荷装置160に、運動負荷装置160を駆動するための制御信号が出力される。また、運動負荷用I/F134を介して、運動負荷装置160からのフィードバック信号が入力される。このフィードバック信号としては、例えば速度信号、緊急信号などがある。心電計100の制御部130は、運動負荷装置160からフィードバックされる速度信号に基づいて、運動負荷装置160を所望の速度に制御できる。また、制御部130は、運動負荷装置160から緊急信号がフィードバックされたときには、運動負荷装置160を緊急停止させる制御信号を出力する。
【0027】
監視部135は、心電計100と運動負荷装置160との通信が確立しているか否かを監視し、監視結果を制御部130に出力する。この通信が確立しているか否かの監視は、例えばACK(ACKnowledgement)/NACK(Negative ACKnowledgement)信号を用いて行うことができる。つまり、監視部135は、運動負荷装置160からACK信号が送られてきたことを検出した場合には通信が確立していると判断し、運動負荷装置160からNACK信号が送られてきたことを検出した場合には通信が確立していないと判断する。ただし、通信が確立しているか否かの監視の仕方はこれに限らない。例えば、単純に、運動負荷用I/F134と運動負荷装置160が電気的に接続されているか否かを検出することで、通信が確立しているか否かを判断してもよい。
【0028】
<設定>
次に、本実施の形態における心電計100の設定について説明する。主に、負荷検査の設定について説明する。
【0029】
図3は、タッチパネル121に表示されるメニュー画面を示す。メニュー画面には、複数の項目が含まれており、ユーザがそのうちの1つの項目をタップすると、その項目に関連する画面が続いて表示される。メニュー画面で表示される項目には、「機能設定」の項目が含まれている。「機能設定」の項目がタップされると、タッチパネル121に、
図4に示す画面が表示される。
【0030】
図4は、設定一覧画面を示す。ユーザは、設定一覧の中から、設定したい項目をタップする。設定一覧画面で表示される項目には、「ストレスプロトコル作成」の項目が含まれている。「ストレスプロトコル作成」の項目がタップされると、
図5に示す画面が表示される。
【0031】
図5を見れば明らかなように、本実施の形態においては、負荷検査モードとして、エルゴメータ及びトレッドミルを用いた運動負荷検査モードに加えて、負荷装置なしの検査モードすなわち薬物負荷検査モードが設定可能となっている。
【0032】
図5に示す画面の中の[コピー/編集/削除]の欄には既に作成され登録されたストレス(負荷)プロトコルが一覧表示される。ユーザがこの欄の中のあるボタンをタップし、画面右側のコピー、編集、削除のいずれかのボタンをタップすると、既に登録されたストレスプロトコルをコピー、編集、削除することができる。
【0033】
例えば、エルゴメータのストレスプロトコルの一覧の中からRAMP(H)のボタンをタップし、かつ、編集のボタンをタップすると、
図6に示す画面が表示される。また、トレッドミルのストレスプロトコルの一覧の中からBRUCEのボタンをタップし、かつ、編集のボタンをタップすると、
図7に示す画面が表示される。また、負荷装置なしのストレスプロトコルの一覧の中からProtocol1のボタンをタップし、かつ、編集のボタンをタップすると、
図8に示す画面が表示される。ユーザは、
図6、
図7、
図8の画面を用いて、エルゴメータ、トレッドミル、負荷装置なし(薬物負荷検査に相当)のそれぞれの検査プロトコルを編集することができる。
【0034】
また、
図5の画面の[新規作成]の欄のエルゴメータ、トレッドミル、負荷装置なしのいずれかの位置をタップすれば、エルゴメータ、トレッドミル、負荷装置なしについてのストレスプロトコルを新規に作成する画面が表示され(図示せず)、その画面上で新規のストレスプロトコルを作成することができる。さらに、
図5の画面の[テンプレートから作成]の欄のいずれかのテンプレート名をタップすれば、そのテンプレート名に対応するテンプレート画面が表示され(図示せず)、そのテンプレート画面を編集することでストレスプロトコルを作成することができる。
【0035】
なお、実際の検査は、
図4の「検査設定」の欄の検査項目のうちのいずれかをタップし、画面下方位置に設けられた「検査へ」のボタンをタップすることで実行される。ちなみに、
図4の「検査設定」の欄の検査項目のうちのいずれかをタップすると(例えば「ストレス検査」をタップすると)、
図9に示すような画面が表示され、この画面上でその検査項目の内容を確認及び変更することができる。
図9に示したように、この画面上で負荷装置の選択を行うことができる。エルゴメータ又はトレッドミルを選択すれば、このことは運動負荷検査モードを選択したことに相当し、負荷装置なしを選択すれば、このことは薬物負荷等の負荷装置を接続しない検査モードを選択したことに相当する。ちなみに、
図4の例では、「検査設定」の欄に薬物負荷検査モードに相当する「薬物」の項目が登録されている。
【0036】
図10は、薬物負荷検査モードを行ったときに、タッチパネル121に表示される又はプリンタ部112から出力される測定結果の例を示す。表示領域AR1には、目標心拍数(Target Heart Rate)及び最大心拍数に対する到達率グラフが表示され、表示領域AR2には、横軸を時間軸とした心拍数の経時的変化が表示される。また、表示領域AR2には、所定時点の血圧も表示される。表示領域AR3には、標準12誘導心電図のアベレージ波形が表示され、表示領域AR4には、カレント波形が表示され、表示領域AR5には、現時点までの所定期間分の波形が表示され、表示領域AR6には、リズム波形が表示される。
図10の例の場合には、アベレージ波形及びカレント波形として、標準12誘導心電図のうち、II誘導、aVF誘導、V5誘導が表示される。また、リズム波形として、V5誘導が表示される。ちなみに、運動負荷検査モードを行った場合にも、
図10と同様の表示形態で表示される。
【0037】
<動作>
次に、本実施の形態の特徴的な動作について、
図11のフローチャートを用いて説明する。
【0038】
先ず、ステップST0で負荷検査が開始されると、続くステップST1で制御部130が現在の負荷検査モードが運動負荷検査モードに設定されているか否か判断する。ステップST1で運動負荷検査モードであると判断した場合(ステップST1;YES)、制御部130は監視部135に通信確立の監視処理を実行させる。そして、ステップST3において、監視部135によって通信確立していることが検出されると(ステップST3;YES)、ステップST4に移り、運動負荷検査モードを実行する。実際上、ステップST4において、心電計100は、運動負荷装置160を駆動し、さらに、電極部140及び血圧計150からの信号を受信しそれを演算することで心電波形及び血圧脈波などを得る。これに対して、ステップST3が確立していないと判断されると(ステップST3;NO)、ステップST5に移り、エラー情報を出力する。具体的には、タッチパネル121でエラー表示を行うと共に、スピーカ114からエラー音を出力する。そして、ステップST5の処理後にステップST1に戻る。
【0039】
一方、制御部130は、ステップST1で運動負荷検査モードでないと判断した場合(ステップST1;NO)、ステップST6に移り、監視部135に通信確立の監視処理を停止させる。続くステップST7において、制御部130は、薬物負荷検査モードを実行する。つまり、運動負荷検査モードでない場合には、運動負荷装置160との通信が確立しているか否かを監視することなしに、薬物負荷検査モードを実行するようになっている。実際上、ステップST7において、心電計100は、電極部140及び血圧計150からの信号を受信しそれを演算することで心電波形及び血圧脈波などを得る。ここで、薬物負荷検査モード時、スピーカ114から例えば3分間隔で「ピンポーン」といった喚起音が発せられる。これにより、薬物負荷検査を行う医師は、この喚起音を薬物を投与するタイミングとして用いることができる。また、この喚起音は、薬物の量や種類を変えるタイミングとしても用いることができる。ちなみに、この喚起音は運動負荷検査モード時にも発せられ、運動負荷検査モード時には運動負荷装置160の速度が変化するタイミングを被検者に通知するものとして用いられる。このように、本実施の形態では、喚起音を、運動負荷検査モードと薬物負荷検査モードの両方で共用できるようになっている。心電計100は、ステップST4、ST7の処理の後にステップST8に移って負荷検査処理を終了する。
【0040】
以上説明したように、本実施の形態によれば、運動負荷検査モード及び薬物負荷検査モードのいずれかに選択的に設定可能な構成とし、運動負荷検査モードが設定されているか、又は薬物負荷検査モードが設定されているかに基づいて、通信確立の監視処理を制御するようにした。これにより、運動負荷装置160が接続されていなくても、薬物負荷検査を行うことができるようになる。よって、簡単な操作で、運動負荷検査と薬物負荷検査の両方に対応できる心電計100を実現できる。
【0041】
以上、本発明の実施の形態について説明した。なお、以上の説明は本発明の好適な実施の形態の例証であり、本発明の範囲はこれに限定されない。つまり、上記実施の形態において説明した装置の構成および動作は例であり、これらを本発明の範囲において部分的に変更、追加および削除できることは明らかである。