(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
基礎及び前記基礎から第1方向へ所定距離離間して配置され、対象物が搭載される搭載台の間に設けられ、前記基礎に対して前記搭載台を平行移動可能に拘束し、前記第1方向に拡縮可能に構成されたリンク機構を備えた振動抑制装置であって、
前記基礎に対して前記搭載台を支持させるための前記第1方向への支持力を前記リンク機構に付勢するクランク機構をさらに備え、
前記リンク機構が、
両端部が回転可能に取り付けられており、前記第1方向と垂直な第2方向に延びる仮想直線とリンク角をなすように設けられた第1傾斜リンクと、
両端部が回転可能に取り付けられており、前記仮想直線と前記第1傾斜リンクと同じリンク角をなすように設けられた第2傾斜リンクと、を具備し、
前記第1傾斜リンク及び前記第2傾斜リンクが、前記基礎及び前記搭載台の離間距離の変化に応じて、それぞれのリンク角が同期して変化するように構成されており、
前記クランク機構が、
基端部が前記第1傾斜リンクの一端に対して剛に接続されているとともに、当該基端部を回転中心として前記第1傾斜リンクとなす固定角を保ったまま回転可能に設けられたクランクアームと、
基準端と可動端との間の第2方向の離間距離が伸縮可能に設けられており、前記クランクアームを介して前記リンク機構へ支持力を付勢する弾性体と、を具備し、
前記弾性体の可動端がクランクアームの先端部の回転によって変位するように設けられていることを特徴とする振動抑制装置。
前記搭載台が自然状態で支持されている場合に、前記クランクアームと前記仮想直線のなす角度であるクランク角度が略90°となるように設定されている請求項1乃至3いずれかに記載の振動抑制装置。
前記第1傾斜リンク及び前記第2傾斜リンクの一端部が前記基礎に、他端部が前記搭載台に回転可能にそれぞれ取り付けられているとともに、前記第1傾斜リンク及び前記第2傾斜リンクが平行をなすように構成されており、
前記弾性体の基準端が前記クランクアームの基端部から第2方向に離間して固定されており、前記弾性体の可動端が、前記クランクアームの先端に取り付けられている請求項1乃至4いずれかに記載の振動抑制装置。
前記クランク機構が、第2方向にスライド移動可能に設けられたスライダと、前記クランクアームの先端部と前記スライダに対して両端部が回転可能に取り付けられたコネクティングロッドと、をさらに備え、前記弾性体の基準端が前記スライダから第2方向に離間して固定されており、前記弾性体の可動端が前記スライダに取り付けられている請求項1乃至4いずれかに記載の振動抑制装置。
前記リンク機構が、二組の前記第1傾斜リンク及び前記第2傾斜リンクと、前記基礎及び前記搭載台の間において第2方向に延びる中間水平リンクとをさらに備え、各組の前記第1傾斜リンク及び前記第2傾斜リンクが平行をなすとともに、前記中間水平リンクを共通の一辺として2つの概略平行四辺形が形成されるように各端部が回転可能に取り付けられており、
前記スライダが、前記中間水平リンク上をスライド移動可能に設けられた請求項6記載の振動抑制装置。
【背景技術】
【0002】
例えば、美術館や博物館等においては地震による収蔵品の被害を防ぐために振動抑制装置の一種である免震装置を用いている。この免震装置の一例としては、地盤や床等の基礎と、収蔵品が載置される載置台等の搭載台との間に構成されるものであって、搭載台の姿勢を水平に維持するためのリンク機構と、前記基礎及び前記搭載台との間に設けられて、前記基礎に対して前記搭載台を鉛直方向に支持するばね体とから構成されたものが挙げられる。
【0003】
従来、地震による振動は水平方向成分が主であると考えられていたため水平免震のみを目的とした免震装置が多く、鉛直方向の免震についてはそれほど考慮されていなかった。
【0004】
これに対して、近年起こっている大地震の中に鉛直方向成分の振動も無視できないものも存在するため、免震装置には鉛直方向の振動に対する免震性能も求められるようになっている。しかしながら、鉛直方向の振動に十分な免震性能を有し、かつ、免震装置を小型で簡便なものに構成することは非常に難しい。
【0005】
より具体的には、鉛直方向についても十分な免震性能を得るには前記ばね体の鉛直方向のばね定数を小さくし、いわゆる柔らかいばねにする必要があるが、このような柔らかいばねで前記基礎に対して前記搭載台を支持すると、ばねたわみも大きなものとなってしまう。さらに、免震装置としての機能を保つためには、前記基礎に対して前記搭載台は所定距離離間しなくてはならないので、鉛直方向の免震のために柔らかいばねを用いるにはばねたわみ見越して鉛直方向に長くて大きなばね体にする必要がある。このため、鉛直方向の免震を実現すると特に高さ方向について大型化した免震装置となってしまう。
【0006】
一方、前記基礎と前記被振動抑制対象との間のスペースは限られていることが多く、前述したような鉛直方向の免震性能を有していたとしても大型化している免震装置では導入することが難しく、実用的でない場合がある。
【0007】
このような免震装置の大型化を避けるために、特許文献1では梃子を利用して前記搭載台の鉛直方向の変位に対して、ばね体の変位が数倍に拡大されるようにし、やわらかいばねを用いつつもばね体の高さ寸法を小さくすることが提案されている。しかしながら、この免震装置では前記ばね体の伸縮方向が鉛直方向に設定されているため、このような梃子を利用したとしても用いることができるばね体の高さは最大でも前記基礎と前記搭載台との鉛直方向の隙間寸法に限定されるので、系全体として見た時の固有振動数も1Hz程度になってしまう。このため、特許文献1のような構成の免震装置では、大型化を防ぐ点についてはある程度の効果はあるものの、肝心の鉛直地震動に対する免震効果については不十分なものとなってしまう。
【0008】
また、特許文献2では、ある程度のばね定数を有する鉛直方向に延びるばね体と、ひし形リンク機構にばね体を水平方向に設けた負ばね機構と、を組み合わせることにより、系全体の固有振動数を1Hzよりも小さくすることに成功している。しかしながら、正ばねと負ばねという2つのばねを用いることになるため、例えば免震装置の水平方向の大きさ等については大型化してしまい、部品点数が増えることから高価なものとなってしまう。かといって、部品点数を減らすために鉛直方向に伸縮させるためのばね体を省略し、前記負ばね機構だけにしてしまうと、搭載台が振動した際に復元力が働かず、そもそも免震装置として成立しない。言い換えると、従来はリンク機構に水平方向に伸縮するばね体を設けた構造体としては、鉛直方向に対して負ばねとして作用するものしか知られておらず、鉛直方向に伸縮するばね体を別途設けないと、系全体における鉛直方向のばね定数に正の傾きを持たせつつ、その絶対値を小さくできなかった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上述したような問題を鑑みてなされたものであり、例えば鉛直方向といった基礎と搭載台との離間方向への振動についても十分な振動抑制効果を得ることができつつ、基礎と搭載台との間のスペースが限られている場合でも導入しやすい程度に小型化が可能であり、必要とされるばね体等の部品点数を抑えコストを抑えることもできる振動抑制装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
すなわち、本発明の振動抑制装置は、基礎及び前記基礎から第1方向へ所定距離離間して配置され、対象物が搭載される搭載台の間に設けられ、前記基礎に対して前記搭載台を平行移動可能に拘束し、前記第1方向に拡縮可能に構成されたリンク機構を備えた振動抑制装置であって、前記基礎に対して前記搭載台を支持させるための前記第1方向への支持力を前記リンク機構に付勢するクランク機構をさらに備え、前記リンク機構が、両端部が回転可能に取り付けられており、前記第1方向と垂直な第2方向に延びる仮想直線とリンク角をなすように設けられた第1傾斜リンクと、両端部が回転可能に取り付けられており、前記仮想直線と前記第1傾斜リンクと同じリンク角をなすように設けられた第2傾斜リンクと、を具備し、前記第1傾斜リンク及び前記第2傾斜リンクが、前記基礎及び前記搭載台の離間距離の変化に応じて、それぞれのリンク角が同期して変化するように構成されており、前記クランク機構が、基端部が前記第1傾斜リンクの一端に対して剛に接続されているとともに、当該基端部を回転中心として前記第1傾斜リンクとなす固定角を保ったまま回転可能に設けられたクランクアームと、基準端と可動端との間の第2方向の離間距離が伸縮可能に設けられており、前記クランクアームを介して前記リンク機構へ支持力を付勢する弾性体と、を具備し、前記弾性体の可動端がクランクアームの先端部の回転によって変位するように設けられていることを特徴とする。
【0012】
ここで、「剛に接続する」とは、前記クランクアーム及び前記第1傾斜リンクが一体となって接続すること、あるいは、前記クランクアームが回転する際に前記第1傾斜リンクに対して力を伝達可能に接続していることを含む概念である。
【0013】
このようなものであれば、前記基礎及び前記搭載台の離間距離が変化すると前記第1傾斜リンクが回転し、当該第1傾斜リンクに剛に接続されている前記クランクアームも前記固定角を保ったまま同期して回転する。そして、前記クランクアームの回転によって生じる当該クランクアームの先端部の変位により前記弾性体に第2方向の伸縮を発生させることができる。さらに、この弾性体の第2方向の伸縮により生じる力は前記第1傾斜リンクの回転を妨げる方向に働くとともに、前記第1傾斜リンクのリンク角の変化が大きくなるほど大きくなり、前記搭載台が常に自然状態の位置に戻るように作用する。
【0014】
すなわち、本発明は前記クランク機構の前記弾性体が発生させる第2方向の力によって前記リンク機構を介して、前記基礎から前記搭載台を支持する第1方向の支持力を発生させることができ、その第1方向のばね定数を絶対値の小さい正の値にすることができる。
【0015】
このように本発明であれば従来の負ばね機構とは異なり、第1方向に正のばね定数を得られる理由について定性的に説明する。
【0016】
第1方向に発生する支持力は、前記弾性体の第2方向の伸縮により発生する第2方向の力の大きさと、前記リンク機構の特に第1傾斜リンクのリンク角に応じて生じる力の分解作用の大きさに影響を受ける。より具体的には前記リンク角が大きくなるほど前記弾性体で発生した第2方向の力のうち、第1方向の支持力として作用する成分の大きさが大きくなる傾向がある。
【0017】
従来のように第1傾斜リンクに相当するリンクの回転運動で前記弾性体の第2方向の伸縮を発生させた場合は、リンク機構による力の分解作用の方が大きく表れるので第1方向のばね定数は負の定数として表れることになる。
【0018】
一方、本発明では前記弾性体の可動端がクランクアームの先端部の回転による第2方向の変位が伝達されるように設けられており、前記クランクアームと前記第1傾斜リンクとが所定の固定角の差を持って固定されていることから、前記クランクアームによる梃子によって前記弾性体の第2方向の伸縮量を増加させてより大きな力を発生させることができる。したがって、本発明であれば前記基礎と前記搭載台との離間距離の変化に応じて発生する弾性体からの力の影響を前記リンク機構による力の分解作用よりも若干大きくなるように設定することができ、このことにより第1方向の支持特性として正のばね定数を得ることができる。
【0019】
したがって、従来であれば負ばね機構のみでは前記基礎に対して前記搭載台を支持することはできず、前記基礎及び前記搭載台の間を接続する第1方向に伸縮する弾性体を別途設けなくてはならなかったところを、本願発明であれば第2方向の伸縮による力を利用して、前記リンク機構及び前記クランク機構のみで前記搭載台を支持する事が可能となる。
【0020】
すなわち、第1方向に伸縮する別のばね体等を設ける必要がなく、第2方向に伸縮する前記弾性体のみを用いればよいので、前記基礎及び前記搭載台の第1方向の離間距離を小さく構成し、しかも第1方向の固有振動数を振動抑制特性として十分な例えば1Hzよりも小さく設定する事が可能となる。
【0021】
これらのことから、本発明の振動抑制装置であれば例えば鉛直方向の振動成分が大きい地震にも十分に免震性能を発揮させつつ、部品点数の少ない小型のものに構成することができるので、基礎と搭載台との離間距離が限られているような場合や導入コストをあまりかけられない場合であっても導入しやすい。
【0022】
前記クランクアームによって前記弾性体に対して十分な梃子作用が働き、前記リンク機構による支持特性が正のばね特性が得られるようにするには、請求項2に記載の発明のように前記搭載台が自然状態で支持されている場合に、前記クランクアームが前記第1傾斜リンクよりも短いものであればよい。
【0023】
前記弾性体が前記リンク機構に対して付勢する力のうち第1方向に寄与する割合を調節し、第1方向に正のばね特性が得られるようにするには、請求項3に記載の発明のように前記弾性体の基準端が前記クランクアームの回転中心に対して第1方向にオフセットさせて固定されていてもよい。
【0024】
振動抑制装置として特に好ましい第1方向のばね特性を得つつ、さらには振動抑制装置の第1方向の大きさをできる限り小さくするのに適した前記クランクアームの取り付け角度としては、請求項4に記載の発明のように前記搭載台が自然状態で支持されている場合に、前記クランクアームと前記仮想直線のなす角度であるクランク角度が略90°となるように設定されているものが挙げられる。
【0025】
前記クランク機構を構成する部品点数をできる限り少なくし、簡便な構成でありながらも振動抑制のために理想的な第1方向のばね特性を得られるようにするには、請求項4に記載の発明のように前記第1傾斜リンク及び前記第2傾斜リンクの一端部が前記基礎に、他端部が前記搭載台に回転可能にそれぞれ取り付けられているとともに、前記第1傾斜リンク及び前記第2傾斜リンクが平行をなすように構成されており、前記弾性体の基準端が前記クランクアームの基端部から第2方向に離間して固定されており、前記弾性体の可動端が、前記クランクアームの先端に取り付けられていればよい。
【0026】
前記弾性体の伸縮方向を第2方向のみに限定しつつ、第1方向の支持特性のばね定数を柔らかいばねに近似させるには、請求項6に記載の発明のように前記クランク機構が、第2方向にスライド移動可能に設けられたスライダと、前記クランクアームの先端部と前記スライダに対して両端部が回転可能に取り付けられたコネクティングロッドと、をさらに備え、前記弾性体の基準端が前記スライダから第2方向に離間して固定されており、前記弾性体の可動端が前記スライダに取り付けられていればよい。
【0027】
振動時における前記搭載台の第2方向の移動量を小さくしつつ平行を保てるようにし、前記クランク機構が前記基礎や前記搭載台と干渉しにくくするには、請求項7に記載の発明のように前記リンク機構が、二組の前記第1傾斜リンク及び前記第2傾斜リンクと、前記基礎及び前記搭載台の間において第2方向に延びる中間水平リンクとをさらに備え、各組の前記第1傾斜リンク及び前記第2傾斜リンクが平行をなすとともに、前記中間水平リンクを共通の一辺として2つの概略平行四辺形が形成されるように各端部が回転可能に取り付けられており、前記スライダが、前記中間水平リンク上をスライド移動可能に設けられたものであればよい。
【0028】
振動抑制装置を構成する部品点数を減らしつつ同等の振動抑制特性を得られるようにするには、請求項8に記載前記第1傾斜リンク及び前記クランクアームが1つの部材で形成されていればよい。
【発明の効果】
【0029】
このように本発明の振動抑制装置によれば、前記クランクアームの回転運動によって梃子を利かせることで前記弾性体の第2方向の伸縮量を大きくすることにより、前記搭載台の第1方向の支持特性を絶対値の小さい正のばね定数で表されるものにできる。したがって、前記リンク機構と前記クランク機構のみで前記搭載台を支持することができるので、別途第1方向に延びるばね体等を設ける必要がなく、振動抑制装置の第1方向に対して小さく構成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
<第1実施形態の構成の説明>
本発明の第1実施形態に係る振動抑制装置について図面を参照しながら説明する。
【0032】
第1実施形態の振動抑制装置は、例えば美術館や博物館等の収蔵品を特に鉛直方向の振動成分の大きい地震から免震するために用いられる免震装置100である。この免震装置100は、床や地面等の基礎1と、基礎1から鉛直方向(第1方向)に所定距離離間した位置に設けられ、収蔵品等の免震対象が搭載される搭載台2との間に構成してある。
【0033】
すなわち、前記免震装置100は、
図1に示すように前記基礎1に対して前記搭載台2を平行移動可能に拘束するリンク機構3と、このリンク機構3に前記基礎1に対して前記搭載台2を支持する支持力を付勢するクランク機構4と、前記搭載台2の鉛直方向の振動を減衰するためのダンパー(図示しない)と、から構成してある。さらに、
図1から明らかなように前記基礎1と前記搭載台2との間を接続する鉛直方向に延びるばね等は設けておらず、前記リンク機構3による支持力のみで前記搭載台2は支持されるようにしてある。なお、以下の説明においては、前記搭載台2が振動しておらず、前記基礎1から鉛直方向に離れた基準位置で略静止している状態のことを自然状態とよぶこととする。
【0034】
まず、リンク機構3について説明する。前記リンク機構3は、鉛直方向に対して拡縮可能に構成してあり、前記基礎1及び前記搭載台2のそれぞれに水平方向に取り付けられた基礎側水平リンク33及び搭載台側水平リンク34と、前記基礎1及び前記搭載台2の間において傾斜させ、かつ、各々が平行となるように設けられた第1傾斜リンク31及び第2傾斜リンク32とから構成した4節平行リンクである。
【0035】
前記第1傾斜リンク31は、一端部が前記基礎側水平リンク33に、他端部が前記搭載台側水平リンク34に対してヒンジHによって回転可能に取り付けてあり、水平方向(第1方向に対して垂直な第2方向)に延びる仮想直線Lに対して所定のリンク角θaをなすように傾斜させてある。
【0036】
前記第2傾斜リンク32も、一端部が前記基礎側水平リンク33に、他端部が前記搭載台側水平リンク34に対してヒンジHによって回転可能に取り付けてあり、前記仮想直線Lと前記第1傾斜リンク31と同じリンク角θaをなすように設けてある。
【0037】
このように前記第1傾斜リンク31及び第2傾斜リンク32の両端部が回転可能に取り付けられているので、前記搭載台2の位置の変化に応じて前記リンク機構3はその平行四辺形状を変化させながら拡縮するので、前記搭載台2の水平は常に保たれることになる。言い換えると、前記第1傾斜リンク31及び前記第2傾斜リンク32の各リンク角θaは前記搭載台2の変位に応じて同期しながらその大きさが変化するように構成することによって、前記搭載台2の姿勢が常に一定に保たれるようにしてある。
【0038】
次に前記クランク機構4について説明する。前記クランク機構4は水平方向がその主たる伸縮方向となるように設けられた弾性体を伸縮させ、その伸縮により生じた力を前記リンク機構3へ伝達されるように構成したものである。
【0039】
すなわち、前記クランク機構4は、前記リンク機構3が構成されている仮想面において前記第1傾斜リンク31に対して所定の固定角αをなすように設けられたクランクアーム41と、前記クランクアーム41の回転運動により主として水平方向に伸縮するように設けられた弾性体たるばね体42と、前記基礎側水平リンク33の中央部に配置されており、前記ばね体42の基準端が固定されるブロック体FBとから構成してある。
【0040】
前記クランクアーム41は、その基端部が前記第1傾斜リンク31の基礎1側の一端に対して剛に接続してあるとともに、当該基端部に設けられたヒンジHを回転中心として前記第1傾斜リンク31となす固定角αを保ったまま回転可能に設けたものである。さらにこのクランクアーム41と前記仮想直線Lのなす角であるクランク角θbは、前記搭載台2が自然状態における位置にある場合に略90°となるように設定してある。すなわち、
図1乃至3に示すように、前記第1傾斜リンク31のリンク角θaが変化するとそれに追従して前記クランクアーム41のクランク角θbは同じ量だけ変化し、前記第1傾斜リンク31と前記クランクアーム41の内側に形成される固定角αは変化しないようにしてある。また、前記クランクアーム41は、前記第1傾斜リンク31と比較して、長尺方向の長さ寸法を短くしてある。
【0041】
前記ばね体42は、基準端がブロック体FBに回動可能にヒンジHで取り付けてあり、可動端が前記クランクアーム41の先端部に回動可能に取り付けられたものであり、自然状態において、水平方向の伸縮が主となるように斜めに設けてある。より具体的には、自然状態において前記基準端は前記クランクアーム41の先端部に対して鉛直方向に離間させてあり、さらに、前記基準端は前記クランクアーム41の基端部の回転中心に対して鉛直方向にオフセットさせてある。このように前記ばね体42の可動端には前記クランクアーム41の先端部の回転による変位が入力されるようにしてある。なお、前記ばね体42の基準端と前記クランクアーム41の回転中心との鉛直方向のオフセット量hや、前記ばね体42と前記仮想直線Lのなす角であるばね角については、前記搭載台2の求められる支持特性に応じて適宜設定される。すなわち、前記ばね体42の基準端と前記クランクアーム41の回転中心との鉛直方向のオフセット量hは必須のものではなく、例えばそれぞれが水平方向に延びる仮想直線L上に乗るように構成しても構わない。また、このばね体42は、引きばねとなるように予め伸びを与えた状態で取り付けられている。
【0042】
<第1実施形態の動作の説明>
このように構成した免震装置100の動作について
図2及び
図3を参照しながら説明する。
【0043】
図2に示すように前記搭載台2が前記基礎1へ近づき、各々離間距離が縮まった場合には、前記第1傾斜リンク31及び前記クランクアーム41は固定角αを保ったまま、リンク角θaが小さくなる方向へ回転することになる。この際、前記ばね体42は伸びることになるので、元に戻ろうとしてリンク角θaが大きくなる方向に引っ張り力を発生させる。したがって、前記クランクアーム41の回転中心部分には
図2において時計回りにモーメントが発生し、剛に接続されている前記第1傾斜リンク31も時計回りに回転するように力が加わることになる。したがって、前記搭載台2は自然状態の位置へと戻るように復元力が発生することになる。
【0044】
図3に示すように前記搭載台2が前記基礎1から遠ざかる方向に移動した場合にも同様に前記搭載台2が自然状態の位置へと戻るように復元力が発生することになる。
【0045】
さらに
図2及び
図3から分かるように、前記傾斜リンク31及び前記クランク機構41は一種の梃子機構をなしているとも言える。すなわち、前記クランクアーム41の先端部が前記傾斜リンク31の搭載台2側の端部を力点として鉛直方向に力が加えられると、前記基礎2側のヒンジHを回転中心(支点)として、前記クランクアーム41の先端部が作用点となる。ここで、前記クランクアーム41は、前記傾斜リンク31よりもその腕の長さ寸法が短く設定されているので、当該クランクアーム41の先端部の作用点では入力された力よりも大きな力が発生することになる。
【0046】
さらに、前記ばね体42の基準端と前記クランクアーム41の回転中心との鉛直方向のオフセット量hは、前記ばね体42と仮想直線Lのなす角を変化させて前記ばね体41の力が作用する角度を変化させることができる。つまり、オフセット量hは、前記ばね体42で発生する力のうち鉛直方向に作用する成分の割合に影響を与えることができる。
【0047】
<第1実施形態の効果の説明>
次にこのように構成された免震装置100の鉛直方向の支持特性である、前記搭載台2の鉛直方向の変位と、前記免震装置100への鉛直方向の荷重との関係についてのシミュレーション結果を示す。ここで、鉛直変位が0とは前記搭載台2の重量と前記リンク機構3を介する支持力が釣り合っている自然状態を示すものであり、鉛直下向きを正としている。
【0048】
図4に自然状態におけるクランク角θbをそれぞれ変化させた場合における前記搭載台2に加えられている鉛直荷重と、前記搭載台2の自然状態を基準とした鉛直変位をグラフとして示す。ここで、参考として鉛直方向の免震効果を得るのに必要な1Hz以下の固有振動数を実現するのに必要な理想支持特性を鎖線で示し、前記免震装置100による支持力の変化については実線及びサンプル点で示すこととする。
【0049】
図4のグラフに示されるように、第1実施形態の免震装置100であれば鉛直方向に伸縮するばねを用いなくても、リンク機構3とクランク機構4のみで正のばね特性を得ることができる。また、自然状態におけるクランク角θbを90°、85°、80°、75°と小さくしていくに従って、鉛直方向のばね特性は勾配が小さくなり、より柔らかいばね特性を得られることが分かる。なお、図示はしていないがクランク角θbを90°よりも大きくした場合には、鉛直方向のばね特性をより硬いばね特性にすることもできる。
以上についてまとめると、前記クランクアーム41と前記傾斜リンク31の長さ寸法の比によって梃子によって発生する力の大きさを調節でき、前記オフセット量hによって前記ばね体42で発生した力のうち鉛直方向に作用する割合を調節でき、自然状態におけるクランク角θbによってばね特性自体が負ばね特性を示すか、正ばね特性を示すかを決定できる。すなわち、少なくとも3つのパラメータを調節することによって第1実施形態の免震装置100は、鉛直方向の支持特性を免震特性として最も好ましいものに調節することができる。
【0050】
このように第1実施形態の免震装置100によれば、前記クランク機構4が、前記搭載台2の鉛直方向の変位に応じて前記第1傾斜リンク31と同期して固定角αを保ったまま回転する前記クランクアーム41によって水平方向に設けられた前記ばね体42を伸縮させているので、前記リンク機構3による前記搭載台2の鉛直方向の支持特性を鉛直方向の免震性能として必要とされる柔らかい鉛直ばねと同等にすることができ、しかもその支持特性が正のばね定数を有するようにできる。
【0051】
したがって、理想的な鉛直方向の免震特性を得つつ、前記基礎1及び前記搭載台2間を接続する鉛直方向のばねを別途設けることなく前記リンク機構3及び前記クランク機構4だけで免震装置100を構成することができる。つまり、鉛直方向に大きなばねたわみ量を許容するためのスペースを確保する必要がないので、免震装置100の鉛直方向の大きさをコンパクトに構成することができる。このことから前記基礎1と前記搭載台2との離間距離が狭く限定されているような用途であっても第1実施形態の免震装置100を容易に導入することができる。
【0052】
また、水平方向に延びるばね体42のみを設けることで前記リンク機構3により前記搭載台2を支持することができるので、従来のように鉛直方向と水平方向の両方にばねを設けたものに比べて、構成を簡便化し、部品点数を低減することができるので、免震装置100の製造コストや価格を抑えやすい。
【0053】
<第2実施形態の構成の説明>
次に本発明の第2実施形態に係る免震装置100について
図5を参照しながら説明する。なお、第1実施形態の説明で登場した部材と対応する部材については同じ符号を使用することとする。
【0054】
第2実施形態の免震装置100は、前記第1実施形態の免震装置100と比較して、前記リンク機構3における平行リンクの形成態様と、前記クランク機構4におけるばね体42の設置態様及び前記クランクアーム41の先端部の回転による変位を前記ばね体42の可動端へと伝達するための構成が異なっている。
【0055】
より具体的には、前記リンク機構3は二段平行リンクとして構成してあり、二組の第1傾斜リンク31及び第2傾斜リンク32と、水平方向に延びる中間水平リンク35をさらに備えている。すなわち、一組の第1傾斜リンク31及び第2傾斜リンク32は、一端が前記基礎側水平リンク33にヒンジHによって回転可能にそれぞれ取り付けられ、他端が前記中間水平リンク35にヒンジHによって回転可能にそれぞれ取り付けられて、下部平行四辺形リンクを構成している。また、もう一組の第1傾斜リンク31及び第2傾斜リンク32は、一端が前記搭載台側水平リンク34にヒンジHよって回転可能にそれぞれ取り付けられ、他多段が前記中間水平リンク35にヒンジHによって回転可能にそれぞれ取り付けられて、上部平行四辺形リンクを構成している。前記下部平行四辺形リンクと前記上部平行四辺形リンクは、前記中間水平リンク35を共通な一辺とするとともに、この中間水平リンク35を中心線として線対称となるように構成してある。また、前記第1傾斜リンク31及び前記第2傾斜リンク32は例えば前記中間水平リンク35を通るような仮想直線Lに対してそれぞれ同じ傾斜角をなすように取り付けてある。
【0056】
前記クランク機構4は、
図5において概略横向き二等辺三角形状に形成したものであり、2つの前記第1傾斜リンク31に対応して設けられた2つの前記クランクアーム41と、前記中間水平リンク35上で水平方向にスライド移動可能に設けられたスライダ44と、前記クランクアーム41の先端部と前記スライドに対して両端部が回転可能に取り付けられたコネクティングロッド43と、を備え、前記弾性体の基準端が前記スライダ44に対して水平方向に離間して固定されており、前記弾性体の可動端が前記スライダ44に取り付けてある。また、このクランク機構4についても前記中間水平リンク35を中心線として線対称となるように構成し、前記下部平行四辺形リンク及び前記上部平行四辺形リンクに対して対称に支持力が付勢されるようにしてある。
【0057】
各クランクアーム41は、各第1傾斜リンク31に対して固定角αをなすように設けてあり、前記第1実施形態と同様に前記第1傾斜リンク31の前記中間水平リンク35に取り付けられている端部と剛に接続してあるとともに、前記第1傾斜リンク31に対して固定角αを保ちながら追従して回転するよう構成してある。
【0058】
前記コネクティングロッド43は前記クランクアーム41の先端部の回転を前記スライダ44の水平方向の動きに変換するものであり、
図5においては前記クランクアーム41が時計回りに回転すると、前記スライダ44を押して紙面右方向へと移動させ、前記クランクアーム41が反時計回りに回転すると前記スライダ44を引いて紙面左方向へと移動させる。すなわち、前記基礎1及び前記搭載台2の離間距離が変化するのに応じて、前記スライダ44は左右方向のいずれかに移動することになる。
【0059】
前記ばね体42は伸縮方向が水平方向となるように設けてあり、第2実施形態では基準端が前記第1傾斜リンク31の前記中間水平リンク35における回転中心に取り付けてあり、可動端が前記スライダ44の中央部に取り付けてある。すなわち、前記ばね体42の可動端には前記クランクアーム41の先端部の回転による動きが前記コネクティングロッド43及び前記スライダ44を介して入力されるようにしてある。なお、この第2実施形態では前記ばね体42は圧縮ばねとなるように予め縮み量を与えた状態で取り付けてある。
【0060】
<第2実施形態の効果の説明>
次に前記コネクティングロッド43の長さであるロッド長さと、自然状態において当該コネクティングロッド43と水平方向に延びる仮想直線Lとのなす角であるロッド角θcが、前記搭載台2の支持特性に影響を与える点について示す。
【0061】
図6に示すようにロッド長さ、及び、ロッド角θcを所定値に選ぶことによって理想支持特性が得られることが分かる。なお、ロッド角θcは前記クランクアーム41の基端部の回転中心と、前記ばね体42の基準端とのオフセット量と関係している。つまり、本第2実施形態では、鉛直方向のばね特性が理想支持特性となるように、固定角α、クランク角θb、ロッド長さ、ロッド角θc、オフセット量の少なくとも一部をパラメータとして調節を行うことができる。
【0062】
このように構成された第2実施形態の免震装置100であっても、第1実施形態と同様に前記リンク機構3による前記搭載台2の鉛直方向の支持特性について、非常に柔らかい鉛直ばねに近似させるとともに、そのばね定数を正にすることができる。すなわち、鉛直方向に対して理想的な免震特性を得つつ、別途ばねを設けることなく、前記リンク機構3及び前記クランク機構4のみで前記搭載台2を支持する事ができ、鉛直方向にコンパクトに構成することができる。
【0063】
<第3実施形態の構成の説明>
次に第3実施形態の免震装置100について
図7を参照しながら説明する。第3実施形態の免震装置100は、第2実施形態の変形例であって前記第1傾斜リンク31及び前記クランクアーム41を一枚のプレートで形成している点、及び、前記クランクアーム41の取り付け方向を異ならせている。
【0064】
より具体的には、前記第1傾斜リンク31及び前記クランクアーム41は
図7において概略鋭角三角形状のプレートで形成してあり、長辺部分が第1傾斜リンク31に相当し、短辺部分がクランクアーム41に相当する。
【0065】
図7に示すように第3実施形態では第2実施形態よりも固定角αが大きく、前記第1傾斜リンク31と前記クランクアーム41が鈍角の固定角αをなすようにしてある。また、前記ばね体42は引きばねとなるように予め伸び量を与えた状態で取り付けてある。
【0066】
<第3実施形態の効果の説明>
このような第3実施形態の免震装置100であっても第1実施形態及び第2実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0068】
前記各実施形態では振動抑制装置の一例として免震装置100を示したが、例えば、除振装置、防振装置等様々な用途に本発明を適用しても構わない。また、各実施形態では鉛直方向を第1方向、水平方向を第2方向として振動抑制装置を構成している例を挙げたが、その他の方向に対応させて振動抑制装置を構成しても構わない。
【0069】
前記各実施形態ではリンク機構3として平行リンクを示したが、前記搭載台2の姿勢を平行に保って拘束し、前記基礎1及び前記搭載台2の離間距離の変化に応じて拡縮するものであればその他のリンク機構を用いてもよい。例えば、三角リンクやXリンク等であって、前記第1傾斜リンク31及び前記第2傾斜リンク32を有し、各傾斜リンクと水平方向に延びる仮想直線Lがなす角であるリンク角θaが同期して変化を有するリンク機構を用いてもよい。
【0070】
前記弾性体の一例としてはばね体42を例示しているがその他の変位に応じた力を発揮するゴム等であっても構わない。また、ばね体42の基準端の固定位置については、引きばねとするか圧縮ばねとするかによって適宜変更してもよい。例えば第3実施形態において引きばねの代わりに圧縮ばねを用いる場合には、ばね体42の基準端を傾斜リンク42と中間水平リンク35との間のヒンジHに設定し、可動端を介して前記クランクアーム41に対して引っ張り力が発生するようにすればよい。すなわち、前記ばね体42の可動端に対して前記クランクアーム41の先端部の変位が入力されるように構成されていればよく、基準端の固定位置についてはばね体42が圧縮ばねか引きばねかによって適宜設定すればよい。
【0071】
前記クランクアーム41の自然状態におけるクランク角θbは90°以外の角度であっても構わない。
【0072】
前記第2及び第3実施形態に示した前記スライダ44については、中間水平リンク35以外の場所に設けても構わない。すなわち、前記スライダ44が前記コネクティングロッド43によって水平方向にスライド移動可能に構成されており、かつ、前記クランクアーム41の先端部に対して鉛直方向にオフセットが生じていてもよい。
【0073】
その他、本発明の趣旨に反しない限りにおいて様々な変形や実施形態の組み合わせを行っても構わない。