(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記接着代の端部が、前記基材層側表面から前記粘着層側表面に向かって厚みが薄くなるように傾斜する傾斜面とされている、請求項1または2に記載の防汚用粘着シート。
防汚処理される構造物の表面に、請求項1から4のいずれかに記載の複数の防汚用粘着シートを、一方の該防汚用粘着シートの接着代上に隣接する他方の該防汚用粘着シートの粘着層表面が重なるように、順次貼付することを含む、構造物の防汚処理方法。
前記防汚用粘着シートの重ね合わせ幅が前記接着代の幅より大きくなるように重ね合わせ、前記接着代を超えて重ねられた部分を切断することを含む、請求項5に記載の構造物の防汚処理方法。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<A.防汚用粘着シート>
<A−1.防汚用粘着シートの全体構成>
図1(a)は本発明の好ましい実施形態による防汚用粘着シートの概略斜視図であり、(b)は、
図1(a)の防汚用粘着シートのI−I線による概略断面図である。防汚用粘着シート100は、基材層10と該基材層10の一方の側に設けられた粘着層20と他方の側に設けられた防汚層30とを有する。防汚用粘着シート100は、その長手方向の片端部に防汚層30より外側に延出した基材層10と粘着層20とを含む接着代40を有する。また、防汚用粘着シート100の粘着層20表面には、剥離フィルム50が設けられている。従来の防汚用粘着シートにおいては、防汚層を撥水処理等によって難接着性とするか、または、防汚層を設けることなく基材層自身を難接着性とすることによって防汚機能を発現するものが多く、これらの端部を重ねて貼付しても表面が難接着性であるために十分な接着力が得られなかった。これに対し、接着代40を有する防汚用粘着シート100によれば、
図2に図示するように、一方の防汚用粘着シートの接着代上に他方の防汚用粘着シートの粘着層表面を重ねることにより、隣接する防汚用粘着シートを順次重ねて貼付することができる。その結果、防汚層が難接着性の表面を有する場合であっても、隣接する防汚用粘着シートを優れた接着力で重ね貼りすることができる。
【0010】
接着代40の端部は、好ましくは基材層10側表面から粘着層20側表面に向かって厚みが薄くなるように傾斜する傾斜面41とされている。このように傾斜面41を設けることにより、接着代上に隣接する防汚用粘着シートを重ねて貼付する際の空気の噛み込みを防止することができる。また、空気の噛み込み防止等を目的として界面活性剤を含む施工液を用いながら貼付する場合に、該施工液をその重ね合わせた端部から容易に押出すことができる。傾斜面41の傾斜角度θは、基材層10および粘着層20の厚み、物性等に応じて適切に設定され得る。防汚層30の接着代40側の端部も同様の観点から、基材層10側表面に向かって厚みが薄くなるように傾斜する傾斜面とされ得る。
【0011】
図3(a)は本発明の別の好ましい実施形態による防汚用粘着シートの概略斜視図である。防汚用粘着シート200は、隣接する2辺の端部に、防汚層30より外側に延出した基材層10と粘着層20とを含む平面視L字型の接着代40を有する。接着代40を有する防汚用粘着シート200によれば、
図3(b)に図示するように、2辺の端部の接着代上にそれぞれ別の防汚用粘着シートの端部を重ねるように、隣接する防汚用粘着シートを順次貼付することができる。
【0012】
図示しないが、防汚用粘着シート100または200は、任意の適切な他の層をさらに有していてもよい。また、防汚用粘着シートの防汚層30表面に、剥離フィルムが設けられていてもよい。
【0013】
本発明の防汚用粘着シートの形状は、構造物の形状等に応じて任意の適切な形状であり得る。代表的には矩形であり、例えば、長尺状であり得る。本明細書において、「長尺状」とは、幅(幅方向)に対して長さ(長手方向)が10倍以上であることをいう。長尺状の防汚用粘着シートは、ロール状で供給され得るので、取扱性および作業性が向上し得る。
【0014】
防汚用粘着シートの幅または長さは、構造物の形状等に応じて任意の適切な幅または長さに設定される。防汚用粘着シートの幅は、例えば20cm以上であり得、例えば30cm〜5mであり得る。
【0015】
防汚用粘着シートの厚みは、それに含まれる各層の厚みによって、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な厚みに設定される。防汚用粘着シートの厚みは、好ましくは50μm〜5000μmである。
【0016】
<A−2.接着代>
接着代の幅は、防汚用粘着シートの形状、寸法等に応じて任意の適切な幅に設定される。接着代の幅は、例えば10mm以上、好ましくは20mm以上である。このような幅であれば、接着代として十分に機能し得るので、本発明の効果が好適に得られ得る。接着代の幅の上限は、経済性、作業性等の観点から、例えば100mm以下である。
【0017】
接着代の基材層側表面と上記粘着層との接着力は、好ましくは防汚処理される構造物表面と粘着層との接着力以上であり、構造物表面と粘着層との接着力を超えることがより好ましい。これにより、隣接する防汚用粘着シートの端部を重ね合わせて貼付する際に、一方の粘着シートの接着代上(基材層側表面)に他方の粘着シートを非常に強固に密着させることができる。その結果、上記構造物表面と防汚用粘着シートとの接着力を該粘着シートの剥離除去が困難なレベルまで増強することなく、重ね合わせた部分からの剥離を好適に防止し得る。接着代の基材層側表面と粘着層との接着力は(23℃で引張速度300mm/minにおける180度ピール接着力)は、好ましくは15N/20mm以上、より好ましくは20N/20mm以上である。なお、防汚用粘着シートを構造物表面から剥離除去する際には、複数の粘着シートをまとめて剥離することができるので、重ね合わせた部分が接着に至っており、両者が一体化していてもよい。
【0018】
接着代の基材層側表面には、必要に応じて、易接着処理が施され得る。易接着処理により、その上に重ねられる粘着層に対する接着力が向上し得る。易接着処理としては、任意の適切な化学的表面処理、物理的表面処理、およびその組み合わせが用いられ得る。具体例としては、金属、酸化物、無機物などの蒸着;酸素、窒素、アルゴンなどのスパッタリング;プラズマ処理;塩酸、硫酸、硝酸などの酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ、または有機溶媒による表面処理;UV/オゾンの照射;コロナ放電処理;火炎処理;カップリング剤の塗布;金型の形状転写、サンドブラスト、延伸折り曲げによる粗面化処理;基材形成材料へのフィラー、カップリング剤等の添加による表面改質処理;等が挙げられる。
【0019】
また、接着代の基材層側表面には、粘着層の形成材料と反応することにより、粘着層と接着し得る材料を塗布してもよい。
【0020】
<A−3.基材層>
上記基材層としては、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な基材層を採用し得る。このような基材層の材料としては、好ましくは、耐水性、強度、柔軟性、裂け性に優れるものである。このような基材層の材料としては、例えば、ポリウレタン樹脂、ポリウレタンアクリル樹脂、ゴム系樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂、エラストマー類、フッ素樹脂、ポリアミド樹脂、ポリオレフィン樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレンなど)、ポリスチレン樹脂、ポリカーボネート系樹脂などが挙げられる。このような基材層の材料は、1種のみであっても良いし、2種以上であっても良い。
【0021】
基材層は、その伸びが、好ましくは100%以上、より好ましくは120%以上、さらに好ましくは150%以上である。基材層の伸びが100%以上であることによって、防汚用粘着シートは、様々な構造物の形状に良好に追従でき、平面に良好に貼付できるだけでなく、屈曲部(船体表面に存在するような曲面部分、90度角の部分、鋭角部分など)にも良好に貼付できる。基材層の伸びが100%未満の場合、様々な構造物の形状に十分に追従できず、皺や粘着剤の未接着部分が発生してしまい、外観不良や接着不良の原因となるおそれがある。基材層の伸びの上限は、基材層の強度の観点から、好ましくは2000%以下である。
【0022】
基材層は、その破断点応力が、好ましくは10MPa以上、より好ましくは12MPa以上、さらに好ましくは15MPa以上である。基材層の破断点応力が10MPa未満の場合、使用済みの防汚用粘着シートを構造物から剥がす際に、基材層が頻繁に切断してしまい、作業効率が著しく悪くなるおそれがある。
【0023】
上記基材層の伸びおよび破断点応力は、JIS7161、JIS7162、JIS7172に準じて測定することができる。
【0024】
基材層は、その弾性率が、好ましくは4000MPa以下、より好ましくは1000MPa以下、さらに好ましくは100MPa以下、特に好ましくは50MPa以下である。基材層の弾性率が4000MPa以下であることによって、防汚用粘着シートは、様々な構造物の形状に良好に追従でき、施工性が向上する。基材層の弾性率の下限は、基材層の取扱性の観点から、好ましくは0.1MPa以上である。
【0025】
基材層は、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な添加剤を含んでいても良い。このような添加剤としては、例えば、オレフィン系樹脂、シリコーン系ポリマー、液状アクリル系共重合体、粘着付与剤、老化防止剤、ヒンダードアミン系光安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、帯電防止剤、ポリエチレンイミン、脂肪酸アミド、脂肪酸エステル、リン酸エステル、滑剤、界面活性剤、充填剤や顔料(例えば、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、シリカ、酸化亜鉛、酸化チタン、カーボンブラックなど)などが挙げられる。
【0026】
基材層は、紫外線吸収剤を含むことが好ましい。基材層が紫外線吸収剤を含むことにより、防汚用粘着シートの耐候性が向上する。基材層が紫外線吸収剤を含んでいない場合、野外での使用において太陽光によって基材が劣化しやすくなり、当初の基材強度を維持することが難しくなるおそれがある。そして、基材が劣化してしまうと、使用済みの防汚用粘着シートを構造物から剥がす際に、基材層が頻繁に切断してしまい、作業効率が著しく悪くなるおそれがある。
【0027】
基材層の厚みは、用途や使用環境などによって、任意の適切な厚みを採用し得る。基材層の厚みは、好ましくは20〜500μmである。基材層の厚みが20μmより薄いと、ハンドリング性が悪くなり、基材としての役割を果たせず、実用的ではなくなるおそれがある。基材層の厚みが500μmより厚いと、構造物の形状に十分に追従できなくなり、シートの重ね合わせた部分の凹凸が大きくなり、汚れが付きやすいおそれがある。
【0028】
基材層の防汚層が設けられる部分には、防汚層との密着性を向上させるために、プライマーをあらかじめ塗工しておいても良い。また、基材層には、シランカップリング剤をあらかじめ添加しておいても良い。例えば、防汚層がシリコーン樹脂を含む場合、シリコーン樹脂の特性である低表面エネルギーが原因で、基材層への密着性が低い場合がある。防汚層と基材層の密着性が低いと、防汚効果を発揮する防汚層が、使用中の衝撃や物理的ダメージによって基材層から剥離してしまい、本来の防汚効果が持続できないおそれがある。そのため、基材層の表面にプライマーをあらかじめ塗工して防汚層との密着性を高めたり、シリコーン樹脂と反応するシラノール基やアルコキシシラン基をシランカップリング剤によって基材層中に導入し、縮合型シリコーン樹脂の塗工時に基材層上の反応基と縮合反応させて密着性を向上させたりすることができる。
【0029】
シランカップリング剤は、1種のみであっても良いし、2種以上であっても良い。市販されている具体的なシランカップリング剤としては、例えば、信越化学工業(株)製のKBM5103、KBM1003、KBM903、KBM403、KBM802などが挙げられる。
【0030】
基材層にシランカップリング剤が含まれる場合、基材層中のシランカップリング剤の含有割合は、好ましくは0.01〜10重量%である。基材層中のシランカップリング剤の含有割合が10重量%を超える場合、シランカップリング剤が架橋点となって基材層が硬くなってしまうおそれがある。基材層中のシランカップリング剤の含有割合が0.01重量%未満の場合、基材層と防汚層との間に十分な密着性が発現できないおそれがある。
【0031】
基材層の粘着層が設けられる側の面には、易接着処理が施されていてもよい。易接着処理を施すことにより、剥離除去の際の糊残りが抑制され得る。易接着処理としては、上記接着代の基材層側表面に施される処理と同様の処理が挙げられる。
【0032】
<A−4.粘着層>
上記粘着層としては、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な粘着層を採用し得る。このような粘着層の材料としては、例えば、アクリル樹脂系粘着剤、エポキシ樹脂系粘着剤、アミノ樹脂系粘着剤、ビニル樹脂(酢酸ビニル系重合体など)系粘着剤、硬化型アクリル樹脂系粘着剤、シリコーン樹脂系粘着剤などが挙げられる。粘着層の材料は、1種のみであっても良いし、2種以上であっても良い。
【0033】
粘着層は、その23℃で引張速度300mm/minにおける180度ピール接着力が、好ましくは30N/20mm以下、より好ましくは20N/20mm以下、さらに好ましくは15N/20mm以下である。粘着層の23℃で引張速度300mm/minにおける180度ピール接着力が30N/20mmを超える場合、使用済みの防汚用粘着シートを構造物から剥がすことが困難になり、作業効率が著しく悪くなるおそれがある。粘着層の23℃で引張速度300mm/minにおける180度ピール接着力の下限は、十分な粘着力を維持できる観点から、好ましくは5N/20mm以上である。
【0034】
上記粘着層の180度ピール接着力は、例えば、以下のようにして測定することができる。すなわち、粘着層を基材上に積層して粘着シートを作成し、これを80mm×20mmの試験片サイズにカットする。被着体として30mm×100mm×厚さ2mmのエポキシ樹脂にガラスクロスを入れて強化したプラスチックFRP板を使用する。被着体に試験片を2kgローラーで1往復して貼り合わせ、23℃で30分放置後、引張速度300mm/minで初期の180度ピール接着力を測定する。
【0035】
粘着層は、海水に接触させた際に、該粘着層における海水に接触させた部分の圧縮弾性率が、海水接触前の該粘着層における圧縮弾性率に対して、好ましくは1.1倍以上、より好ましくは1.2倍以上、さらに好ましくは1.5倍以上である。粘着層を海水に接触させた際に、該粘着層における海水に接触させた部分の圧縮弾性率が、海水接触前の該粘着層における圧縮弾性率の1.1倍以上であれば、水中においても良好な接着性を発現できる。粘着層を海水に接触させた際の、該粘着層における海水に接触させた部分の圧縮弾性率の、海水接触前の該粘着層における圧縮弾性率に対する倍率の上限は、取扱性の観点から、好ましくは100倍以下である。
【0036】
粘着層の厚みは、用途や使用環境などによって、任意の適切な厚みを採用し得る。粘着層の厚みは、好ましくは10μm以上である。粘着層の厚みが10μmより薄いと、構造物の形状に十分に追従できなくなり、接着面積が減少してしまい、十分な粘着力が発現できないおそれがある。粘着層の厚みの上限は、取扱性の観点から、好ましくは100μm以下である。
【0037】
<A−5.防汚層>
防汚層としては、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な防汚層を採用し得る。汚れ等の付着を好適に防止する観点から、防汚層の表面は好ましくは難接着性である。
【0038】
防汚層の形成材料は、例えば、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂、メラミン系樹脂、アクリル系樹脂等の表面エネルギーの小さい樹脂を含む。
【0039】
防汚層は、好ましくは防汚剤をさらに含む。防汚剤は、1種のみであっても良いし、2種以上であっても良い。防汚層が防汚剤を含む場合、該防汚剤がマトリックスである上記樹脂の表面に移行して表面を覆うことにより、高い防汚効果が長期間維持され得る。
【0040】
防汚剤としては、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な防汚剤を採用し得る。このような防汚剤としては、例えば、シリコーンオイル、流動パラフィン、界面活性剤、ワックス、ペトロラタム、動物脂類、脂肪酸などが挙げられる。本発明において使用され得る防汚剤は、好ましくは、シリコーンオイル、流動パラフィン、界面活性剤から選ばれる少なくとも1種である。1つの実施形態としては、防汚層は、シリコーンオイルおよび/または流動パラフィンを含むシリコーン系樹脂層またはフッ素系樹脂層であり得る。
【0041】
シリコ−ンオイルとしては、例えば、信越化学工業(株)製のKF96L、KF96、KF69、KF99、KF50、KF54、KF410、KF412、KF414、FL、東レダウコーニング株式会社製のBY16−846、SF8416、SH203、SH230、SF8419、FS1265、SH510、SH550、SH710、FZ-2110、FZ-2203が挙げられる。
【0042】
界面活性剤としては、例えば、アニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤などが挙げられる。
【0043】
防汚剤として、珪藻付着防止剤、農薬、医薬品(メデトミジンなど)、酵素活性阻害剤(アルキルフェノール、アルキルレゾルシノールなど)、生物忌避剤を用いても良い。これらの防汚剤を用いることにより、珪藻やフジツボなどの水生生物の付着防止効果がより一層向上する。
【0044】
防汚層中、上記樹脂に対する防汚剤の含有割合は、好ましくは2重量%以上、より好ましくは2〜200重量%、さらに好ましくは3〜150重量%、特に好ましくは4〜120重量%、最も好ましくは5〜100重量%である。上記樹脂に対する防汚剤の含有割合が2重量%未満の場合、防汚層の防汚効果が十分に発現できないおそれがある。上記樹脂に対する防汚剤の含有割合が200重量%を超える場合、最終成形品や被膜の外観が不良となるおそれがあり、また、防汚層の強度が低下して防汚性を持続できなくなるおそれがある。
【0045】
防汚層は、本発明の効果を損なわない範囲で、任意の適切な他の添加剤を含んでいても良い。
【0046】
また、防汚層形成材料として、市販の塗料組成物を用いることもできる。該市販の塗料組成物としては、例えば、中国塗料社製の商品名「ペラクリン」および「バイオクリン」、NKMコーティングス社製の商品名「エバークリーン」などが挙げられる。
【0047】
防汚層の厚みは、用途や使用環境などによって、任意の適切な厚みを採用し得る。防汚層の厚みは、好ましくは5〜500μmである。防汚層の厚みが5μmより薄いと、防汚効果が有効に働く期間が短くなり、実用的ではなくなるおそれがある。防汚層の厚みが500μmより厚いと、防汚用粘着シートが分厚くなって重量が大きくなるため、ハンドリング性が悪くなり、シートの重ね合わせた部分の凹凸が大きくなり、汚れが付きやすいおそれがある。
【0048】
<A−6.防汚用粘着シートの製造方法>
防汚用粘着シートは、任意の適切な方法によって製造し得る。このような方法としては、例えば、別途準備した基材層と粘着層とを貼り合わせ、次いで、防汚層形成材料を基材層上に、1辺以上の端部に未処理部分(最終的に接着代となる)を残すように塗布して防汚層を形成する方法、基材層の一方の面に粘着層形成材料を塗布して粘着層を形成し、次いで、基材層の他方の面に、1辺以上の端部に未処理部分を残すように防汚層形成材料を塗布して防汚層を形成する方法、基材層形成材料と粘着層形成材料を共押出しして基材層/粘着層の積層体を形成させ、次いで、防汚層形成材料を基材層上に、1辺以上の端部に未処理部分を残すように塗布して防汚層を形成する方法などが挙げられる。
【0049】
防汚層形成材料を基材層上に塗布する方法としては、例えば、スプレー、ハケ塗り、ローラー、カーテンフロー、ロール、ディップなどが挙げられる。これらの方法で防汚層形成材料を基材層上に塗布して、例えば、室温から250℃までの温度(好ましくは、室温から180℃の温度)で乾燥させることにより、防汚層を形成することができる。
【0050】
接着代の端部に傾斜面を設ける方法としては、例えば、基材層の成膜硬化後に切削する;成膜硬化中にスキージで成形する;エッジをダレさせる;塗工時に塗工端部に流動によるダレを生じさせる;コーターの塗液吐出部端部にテーパーを付けて端部への吐出量を連続的に減らす;などが挙げられる。また、防汚層の接着代側の端部に傾斜面を設ける方法としても上記と同様の方法が用いられ得る。
【0051】
<B.防汚処理方法>
図4は、本発明の防汚処理方法を説明する概略図である。本発明の防汚処理方法は、防汚処理される構造物300の表面に、複数の上記防汚用粘着シートを、一方の防汚用粘着シート100の接着代40上に隣接する他方の防汚用粘着シート100の粘着層20表面が重なるように、順次貼付することを含む。重ね合わせ幅は、接着代の幅以上であることが好ましい。このように重ね合わせることにより、構造物を防汚層で隙間なく覆うことができるので、防汚効果が均一に得られ得る。
【0052】
好ましい実施形態においては、
図5に例示されるように、重ね合わせ幅が接着代40の幅より大きくなるように重ね合わせ、次いで、接着代を超えて重ねられた部分を切断する。このようにして貼付することにより、精密な位置合わせが不要となるので貼付時の作業性が向上し得る。
【0053】
防汚処理される構造物は、汚染が防止されるべき表面を有する限りにおいて、任意の適切な構造物であり得る。該構造物としては、例えば、船舶、ブイ、港湾設備、海上油田設備、発電所の冷却水給水路、工場の冷却水給水路等の水中構造物、風力発電用プロペラ、橋脚、建築物、自動車、重機、航空機類が挙げられる。
【実施例】
【0054】
以下に、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0055】
[実施例1]
(基材層)
反応容器に、イソボルニルアクリレート(大阪有機化学工業(株)製):71重量部、n−ブチルアクリレート(東亜合成(株)製):19重量部、ポリ(オキシテトラメチレン)グリコール(三菱化学(株)製):68.4重量部、ジラウリル酸ジブチルスズ:0.01重量部、水添キシリレンジイソシアネート(三井化学ポリウレタン(株)製):25.5重量部を投入および混合して、65℃で5時間重合させ、これにより、混合物1を得た。
【0056】
得られた混合物1に、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業(株)製):1重量部、トリメチロールプロパントリアクリレート:5重量部、ジフェニル(2,4,6,−トリメトキシベンゾイル)ホスフィンオキシド(BASF製):0.25重量部、商品名「TINUVIN123」(BASF製):1.25重量部、商品名「TINUVIN400」(BASF製):0.6重量部を添加および混合することにより、シロップ1を得た。
【0057】
得られたシロップ1を、セパレーター(商品名「MRF38」、三菱樹脂(株)製)の表面に150μmの厚みになるように塗布して、シロップ層を形成した。窒素パージ環境下、該シロップ層に紫外線ランプ(ブラックライト)にて紫外線を照射(照度:3.4mW/cm
2、積算照射量:2000mJ/cm
2)して重合硬化させ、これにより、基材層を得た。
【0058】
(粘着層)
反応容器に、2−エチルヘキシルアクリレート:90重量部、アクリル酸:10重量部、光重合開始剤(商品名「イルガキュア651」、BASF製):0.1重量部を投入して混合し、攪拌しながら紫外線を照射することにより、塗工可能な粘度までUV重合させた。得られた混合物に、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート:0.08重量部を添加および混合し、これをセパレーター(商品名「MRF38」、三菱樹脂(株)製)の表面に50μmの厚みになるように塗布した。窒素パージ環境下、該塗布層に紫外線ランプ(ブラックライト)にて紫外線を照射(照度:3.4mW/cm
2、積算照射量:2000mJ/cm
2)して重合硬化させ、これにより、粘着層を得た。
【0059】
(防汚用粘着テープ)
上記基材層の一方の面に防汚用塗料組成物(中国塗料(株)製、製品名「ペラクリン」)を乾燥後の厚みが100μmとなるようにアプリケーターを用いて塗布し、150℃で10分間乾燥させて防汚層を形成した。このとき、基材幅を200mm、防汚層の塗布に用いるアプリケーター幅を180mmとすることによって、基材の一方の端部に20mm幅の未塗工部(接着代)を残した。形成された防汚層の端部には、乾燥時に流動で生じたダレによる30度程度の傾斜角が生じていた。次いで、該基材層の他方の面に上記粘着層を貼り合わせて、防汚用粘着テープ1を得た。得られた防汚用粘着テープ1の構成は、防汚層(厚み:100μm)/基材層(厚み:150μm)/粘着層(厚み:50μm)であった。
【0060】
図5に示すような方法で防汚用粘着テープ1を貼付した。具体的には、防食塗料(中国塗料(株)製、製品名「バンノー500」)を塗布した鋼板表面を有するボートに防汚用粘着テープ1を貼付した。次いで、該防汚用粘着テープ1の20mmの接着代を20mm程度乗り越えるように2枚目の防汚用粘着テープ1を貼り付け、接着代を超えて重なる部分を切断除去した。その後、貼付箇所が海水中に浸漬した状態で放置し、経時変化を観察したが、重ね合わせ部の密着は強固で貼り付け状態に変化はなかった。また、この防汚用粘着テープの剥離を試みたところ、2枚のつなぎ目は強固に一体化しており、重ね合わせ部で剥離は生じなかった。一方で、ボート本体からの剥離は実行可能であった。
【0061】
[実施例2]
防汚用塗料組成物の未塗工部の幅を30mmにしたこと、および、該未塗工部にコロナ処理を施したこと以外は実施例1と同様にして30mm幅の接着代を有する防汚用粘着テープ2を得た。
【0062】
防汚用粘着テープ2をFRP船に実施例1と同様にして貼り付けた。その後、貼付箇所が海水中に浸漬した状態で放置し、経時変化を観察したが、重ね合わせ部の密着は強固で貼り付け状態に変化はなかった。また、この防汚用粘着テープの剥離を試みたところ、2枚のつなぎ目は強固に一体化しており、重ね合わせ部で剥離は生じなかった。一方で、船本体からの剥離は実行可能であった。
【0063】
[実施例3]
(粘着層)
冷却管、窒素導入管、温度計、および攪拌機を備えた反応容器に、(メタ)アクリル系モノマーとして、2−エチルヘキシルアクリレート(2EHA、東亜合成(株)製):90重量部、アクリル酸(AA):10重量部、光重合開始剤として2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン(商品名「イルガキュア651」、BASF製):0.1重量部を投入して分散させ、攪拌しながら窒素気流下にて上部よりUV照射することにより、一部のモノマーをポリマーに転化させて塗工可能な粘度に調整し、(メタ)アクリル系モノマー混合物を得た。この(メタ)アクリル系モノマー混合物に、架橋剤として1,6−ヘキサンジオールジアクリレート(HDDA):0.08重量部を添加した。これをセパレーター(商品名「MRF38」、三菱樹脂(株)製、厚み50μm)の表面にアプリケーターにて塗布し、カバーセパレーター(商品名「MRF38」、三菱樹脂(株)製、厚み38μm)をハンドローラーにて貼り合わせ、さらに紫外線ランプ(BLタイプ)により紫外線を照射(紫外線照度:3.4mW/cm
2、積算照射量:2000mJ/cm
2)することにより、厚み50μmの粘着層を得た。
【0064】
(基材層)
ウレタン樹脂基材(シーダム(株)製、製品名「DUS451」、厚み100μm、幅250mm)を基材層として用いた。
【0065】
(防汚層)
上記基材層に、付加型シリコーンエラストマー(旭化成ワッカーシリコーン(株)製、製品名「LR7665」)と流動パラフィン(和光純薬工業(株)製)とシランカップリング剤(信越化学工業(株)製、製品名「KBM5103」)とを100:10:5の割合で混合した混合液をアプリケーターにて塗工し、厚み100μmのシロップ層を形成した。該シロップ層を150℃で5分間処理して硬化させて、基材層上に防汚層を形成した。なお、形成された防汚層の幅は180mmであり、基材層の両端部は防汚層が設けられていない未塗工部(接着代)とされていた。
【0066】
(防汚用粘着テープ)
上記粘着層と防汚層付き基材層とをハンドローラーにて貼り合わせ、次いで、防汚層が設けられていない両端の未処理部の一方を切り落とした。これにより、一方の端部に35mm幅の未塗工部(接着代)を備える防汚用粘着テープ3を得た。得られた防汚用粘着テープ3の構成は、防汚層(厚み:100μm)/基材層(厚み:100μm)/粘着層(厚み:50μm)であった。
【0067】
実施例1と同様にして、防食塗料(中国塗料(株)製、製品名「バンノー500」)を塗布した鋼板表面を有するボートに防汚用粘着テープ3を貼付した。実施例1と同様の評価を行ったところ、得られた効果は実施例1と同等であった。
【0068】
[比較例1]
基材層の全面に防汚用塗料組成物を塗布したこと以外は実施例1と同様にして接着代を有さない防汚用粘着シートC1を得た。
【0069】
得られた防汚用粘着シートC1を防汚塗料組成物(中国塗料社製、製品名「ペラクリン」)が150μmの厚みで塗布された鋼板(厚み2mm)に端部を突き合わせることにより、つなぎ目に隙間が生じないように貼付した。その後、該鋼板を人工海水中に浸漬して放置したところ、貼付時の応力緩和による基材の収縮によって、つなぎ目に隙間が生じた。
【0070】
[比較例2]
比較例1と同様にして接着代を有さない防汚用粘着シートC2を得た。
【0071】
得られた防汚用粘着シートC2を防汚塗料組成物(中国塗料社製、製品名「バンノー500」)が塗布された鋼板(厚み2mm)に30mmの重ね合わせ幅で端部を重ね合わせて貼付した。その後、該鋼板を人工海水中に浸漬して放置したところ、重ね合わせた部分が剥離した。