(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記運転者の目が位置する矩形状の領域をアイボックスとして仮定し、前記アイボックスの各角部から前記表示領域を見たときに、表示領域の歪みが所定位置以下となるように、前記表示画像の歪みの補正が、前記第1の投影ミラーと前記第2の投影ミラーとで補正される請求項1記載の車載用投影装置。
【発明を実施するための形態】
【0022】
(車載構造)
図1に示すように、本発明の実施の形態の車載用投影装置10はいわゆるヘッドアップディスプレイであり、自動車1の車室内前方のダッシュボード2の内部に埋設されて使用される。車載用投影装置10からウインドシールド3の表示領域3aに、
図2に示す表示画像70が投影される。
【0023】
表示領域3aは半反射面として機能するため、表示領域3aに投影された表示画像70は、表示領域3aにおいて運転者5に向けて反射されるとともに、ウインドシールド3の前方に虚像6が結像する。ウインドシールド3の前方の虚像6を目視することで、運転者5には、ステアリングホイール4の上方の前方に各種の情報が表示されているように見える。
【0024】
(車載用投影装置10の全体構造)
図3に示すように、車載用投影装置10のケースは、樹脂製の下部ケース11と上部ケース12とに分離されており、ケースの内部に光学ユニット20が収納されている。光学ユニット20は光学ベース21を有している。光学ベース21はアルミダイキャストで形成されている。光学ベース21は、下部ケース11の内部で、エラストマーや金属ばねなどの弾性部材を介して支持されている。下部ケース11は、車室内のダッシュボード2の内部に固定されるが、光学ベース21が弾性部材を介して支持されているため、車体振動が光学ユニット20に直接に影響を与えるのを防止できる。また、光学ベース21が弾性部材で支持されていることにより、合成樹脂製のケースと金属製の光学ベース21との熱膨張係数の違いによる光学ベース21への熱応力の影響を低減できる。
【0025】
光学ユニット20が内部に収納された状態で、下部ケース11と上部ケース12は、下部ケース11に一体に形成された位置決めピン15による凹凸嵌合で互いに位置決めされる。下部ケース11の複数か所に雌ねじ穴16が形成されており、上部ケース12に挿通された固定ねじが雌ねじ穴16に螺着されて、下部ケース11と上部ケース12とが互いに固定される。
【0026】
上部ケース12に、投影窓13が開口している。この投影窓13がダッシュボード2の上面に露出して配置され、投影窓13からウインドシールド3の表示領域3aに表示画像70が投影される。投影窓13には透光性のカバー板14が装着されている。カバー板14によってケース内部に塵埃が侵入するのが防止されている。投影窓13からケース内部に外光が直接入り込まないように、カバー板14は、表示領域3aに投影されるホログラム画像の表示光以外の波長の光の透過を抑制する光学フィルターで構成されることが好ましい。
【0027】
図3と
図4に示すように、光学ユニット20では光学ベース21上に各種光学部品が実装されている。
図4に示すように、光学部品の構成により、光学ユニット20は、位相変調部20Aとホログラム結像部20Bならびに投影部20Cとに区分されている。
【0028】
(位相変調部20A)
図5に示すように、位相変調部20Aには、基準ベース22が設けられており、この基準ベース22が、光学ベース21の上にねじ止めにより固定されている。
【0029】
基準ベース22上に、第1の発光部23Aと第2の発光部23Bとが重ねて配置されている。第1の発光部23Aは第1の位置決めブロック24Aを有し、第2の発光部23Bは第2の位置決めブロック24Bを有している。第1の位置決めブロック24Aは、基準ベース22に形成された位置決め基準面22Aの上に設置され、複数の固定ねじ25Aで基準ベース22に固定されている。第2の位置決めブロック24Bは、第1の位置決めブロック24Aの上に設置され、複数の固定ねじ25Bで第1の位置決めブロック24Aに固定されている。
【0030】
図6に、第2の位置決めブロック24Bの内部構造が示されている。位置決めブロック24Bには、内部に光通路26Bが形成されている。光通路26Bの閉鎖側端部(
図6の図示右側の端部)に、レーザ光源である第2のレーザユニット27Bが取り付けられている。第2のレーザユニット27Bは、ケース内に半導体レーザチップが収納されて構成されている。光通路26Bの内部にはコリメートレンズ28Bが固定されている。
【0031】
第2のレーザユニット27Bから発せられるレーザ光束B0は発散光であり、
図7に示すように、レーザ光束B0の断面形状は楕円形または長円形である。レーザ光束B0の長軸は基準ベース22の上面と平行な水平方向(i)に向けられ、短軸が基準ベース22の上面に垂直な垂直方向(ii)に向けられている。
【0032】
図7に示すように、コリメートレンズ28Bの有効径(有効領域)の形状は長方形であり、長方形の長辺が、レーザ光束B0の断面の長軸方向と同じ水平方向(i)に向けられている。したがって、レーザ光束B0がコリメートレンズ28Bを通過すると、断面が長方形のコリメート光束B1に変換される。
【0033】
図6に示すように、位置決めブロック24Bの光通路26Bの開口端(
図6の図示左側の開口端)は透光カバー29Bで塞がれている。
【0034】
図5に示す第1の発光部23Aに設けられた第1の位置決めブロック24Aの内部構造は、図示されていないが、
図6に示される第2の位置決めブロック24Bと実質的に同じである。第1の位置決めブロック24Aにおいても、内部の光通路26A(図に現れていない)の閉鎖端部に第1のレーザユニット27Aが装備されている。光通路26Aの内部にコリメートレンズ28A(図示せず)が収納されており、第1のレーザユニット27Aから発せられるレーザ光束が、水平方向(i)に長辺が向く長方形の断面を有するコリメート光束B1に変換される。また、光通路26Aの開口端部に透光カバー29A(図に現れていない)が設けられている。
【0035】
図3と
図4に示すように、位相変調部20Aには、第1のレーザユニット27Aと第2のレーザユニット27Bから発せられる熱を放熱する放熱冷却部37が設けられている。
【0036】
第1の発光部23Aのレーザユニット27Aと第2の発光部23Bのレーザユニット27Bとでは、発せられるレーザ光の波長が相違している。実施の形態の車載用投影装置10では、第1の発光部23Aから発せられるコリメート光束B1の波長が642nmで赤色系であり、第2の発光部23Bから発せられるコリメート光束B1の波長が515nmであり緑色系である。
【0037】
そこで、以下においては、第1の発光部23Aから得られるコリメート光束を符号B1rで説明し、第2の発光部23Bから得られるコリメート光束を符号B1gで説明する。
【0038】
図5に示すように、基準ベース22には、位置決め保持部22Bが一体に形成されており、位置決め保持部22Bに形成された保持枠部22Cの内部に位相変調アレイ31が保持されている。同じ基準ベース22に、第1の発光部23Aと第2の発光部23Bとを位置決めする位置決め基準面22Aと、保持枠部22Cとが一体に形成されているため、第1の発光部23Aと第2の発光部23Bのそれぞれから発せられるコリメート光束B1r,B1gを位相変調アレイ31の光学面31aに対して最適な入射角度で入射させることができる。
【0039】
位相変調アレイ31は、LCOS(Liquid Crystal On Silicon)である。LCOSは、液晶層とアルミニウムなどの電極層とを有する反射型パネルである。LCOSは、液晶層に電界を与える電極が規則的に並んで複数のピクセルが構成されている。それぞれの電極に与えられる電界強度の変化により、液晶層内の結晶の層の厚さ方向への倒れ角度が変化し、反射されるレーザ光はピクセル毎に位相が変化させられる。
【0040】
図3と
図4に示すように、位相変調部20Aには、位相変調アレイ31で発生する熱を放熱する放熱冷却部38が設けられている。
【0041】
図5に示すように、第1の発光部23A内のコリメートレンズ28Aで変換されたコリメート光束B1rは、位相変調アレイ31の下部の領域に与えられ、第2の発光部23B内のコリメートレンズ28Bで変換されたコリメート光束B1rは、位相変調アレイ31の上部の領域に与えられる。位相変調アレイ31では、コリメート光束B1rが与えられる領域が第1の変換領域M1となり、コリメート光束B1gが与えられる領域が第2の変換領域M2となる。
【0042】
コリメート光束B1rとコリメート光束B1gは断面が長方形であるため、第1の変換領域M1と第2の変換領域M2も長方形となる。基準ベース22で、第1の発光部23Aと第2の発光部23Bとの垂直方向(ii)での相対位置が調整されることで、第1の変換領域M1と第2の変換領域M2とが互いに重複しないように設定される。
【0043】
第1の変換領域M1に与えられたコリメート光束B1rは、位相変調アレイ31の複数のピクセルのそれぞれを通過することで位相が変換され、第2の変換領域M2に与えられたコリメート光束B1gも、複数のピクセルのそれぞれを通過することで位相が変換される。
図6に示すように、位相変調アレイ31から反射される変調光束B2は、それぞれのピクセルを通過した光が互いに干渉した干渉光(回折光)となる。この干渉光には、赤色系のコリメート光束B1rの光成分どうしの干渉と、緑色系であるコリメート光束B1gの光成分どうしの干渉、さらには、コリメート光束B1rの光成分とコリメート光束B1gの光成分との干渉も含まれる。
【0044】
図3に示すように、位相変調部20Aには、レンズホルダ32が設けられている。レンズホルダ32は基準ベース22上に位置決めされて固定されている。レンズホルダ32に集光レンズ(フーリエ変換レンズ:FTレンズ)33が保持されている。位相変調アレイ31で反射された変調光束B2は、集光レンズ33を透過して集光されるとともに、集光レンズ33でフーリエ変換されて変調光束B3となる。
【0045】
図3に示すように、位相変調部20Aには、ミラー保持部34aに保持された送光ミラー34が設けられている。送光ミラー34は平面ミラーであり、その反射面に集光レンズ33の光軸が所定の角度で入射している。集光レンズ33でフーリエ変換された変調光束B3は、送光ミラー34で反射され、反射された変調光束B4が、光学ユニット20内を通過して、ホログラム結像部20Bへ送られる。
【0046】
(ホログラム結像部20B)
図3に示すように、ホログラム結像部20Bには、ミラー保持部35aに保持された第1の中間ミラー35と、ミラー保持部36aに保持された第2の中間ミラー36とが設けられている。第1の中間ミラー35と第2の中間ミラー36は平面ミラーである。
図4に示すように、第1の中間ミラー35の反射面は、位相変調部20Aに設けられた前記送光ミラー34の反射面に対向している。また、第1の中間ミラー35と第2の中間ミラー36の反射面は所定の角度で対向している。ホログラム結像部20Bでは、第2の中間ミラー36の反射面による反射方向にスクリーン51が配置されている。
【0047】
図4に示すように、送光ミラー34で反射された変調光束B4は、ケース内を図示右方向へ進行してから第1の中間ミラー35で反射され、反射された変調光束B5が第2の中間ミラー36で反射される。そして、第2の中間ミラー36で反射された変調光束B6がスクリーン51に与えられる。
【0048】
位相変調アレイ31では、第1の変換領域M1において赤色系のレーザ光の位相が個々のピクセル毎に変換され、第2の変換領域M2において緑色系のレーザ光が個々のピクセル毎に変換される。赤色系と緑色系のレーザ光の干渉光が混在した光は、集光レンズ33で集光されるとともにフーリエ変換され、その変調光束B3,B4,B5,B6がケース内の光路を経てスクリーン51に与えられて、
図9に示すように、スクリーン51にホログラム画像が結像する。
【0049】
集光レンズ33からスクリーン51までの光路上に、複数段のアパーチャーが形成されている。
図3と
図4に示すように、位相変調部20Aからの光の出射部に遮光壁41aが設けられ、遮光壁41aに矩形状の第1のアパーチャー41が開口している。ホログラム結像部20Bへの光の入射部には、遮光壁42aが設けられ、遮光壁42aに矩形状の第2のアパーチャー42が開口している。第2の中間ミラー36とスクリーン51の間には遮光壁43aが設けられており、この遮光壁43aに矩形状の第3のアパーチャー43が開口している。第3のアパーチャー43は、
図8にも示されている。
【0050】
この3段のアパーチャー41,42,43によって、集光レンズ33からスクリーン51に集光する0次回折光が遮光される。
図9に示すように、スクリーン51にはホログラム画像70hが結像するが、このホログラム画像70hは1次回折光で生成され、しかも1次回折光のうちのホログラム画像70hの結像に寄与しない光成分は前記アパーチャー41,42,43によって遮光される。さらに、2次回折光、3次回折光などの多次の回折光も、ホログラム画像70hの生成に寄与せず、前記アパーチャー41,42,43で遮光される。
【0051】
すなわち、スクリーン51には、アパーチャー41,42,43の開口面積で制限された変調光束のみが与えられ、スクリーン51の限られた面積の範囲内にホログラム画像70hが投影される。
【0052】
図8に示すように、スクリーン51は第3のアパーチャー43の先側(出光側)に配置されている。第2の中間ミラー36で反射された変調光束B6は、第3のアパーチャー43を通過してスクリーン51に到達し、スクリーン51に1次回折光によるホログラム画像70hが生成される。スクリーン51は、表面に多数の微細な凹凸が形成された透過型のディフューザ(Diffuser:拡散板または拡散部材)であり、スクリーン51に結像したホログラム画像70hを含む光は、スクリーン51を透過して発散光の投影光B7となる。
図4に示すように、投影光B7は、遮光壁42aに形成された第4のアパーチャー44を通過して投影部20Cに与えられる。
【0053】
図8に示すように、ホログラム結像部20Bでは、第3のアパーチャー43が開口している遮光壁43aにモータ52が固定されており、円板形状のスクリーン51がモータ52の動力で常に一定の回転数で回転させられている。ホログラム画像70hは、スクリーン51を透過する際に、スクリーン51に形成された多数の微細な凹凸の回折を受けて拡散光となる。微細な凹凸はその大きさと分布にばらつきがあるため、スクリーン51上のそれぞれの領域での光の拡散状態が相違する。しかし、スクリーン51を回転させることで、光の拡散状態をランダマイズ(randomize)でき、表示画像70のにじみなどの原因となるスペックルノイズ(speckle noise)を低減させることができる。
【0054】
図8に示すように、ホログラム結像部20Bでは、遮光壁43aにモニタ検知部53が設けられている。モニタ検知部53は第3のアパーチャー43の下側に設けられている。モニタ検知部53は、赤色波長検知部53aと緑色波長検知部53bならびに位置検知部53cの3つの検知部で構成されている。検知部53a,53b,53cのそれぞれは閉鎖空間の内部にピンフォトダイオードなどの受光素子が収納され、第2の中間ミラー36に対向する側に開口部が形成されている。赤色波長検知部53aでは、前記開口部が赤色光を透過させる波長フィルターで覆われ、緑色波長検知部53bでは、前記開口部が緑色光を透過させる波長フィルターで覆われている。
【0055】
各検知部53a,53b,53cには、1次回折光または1次回折光以外の多次回折光のいずれかが照射される。位置検知部53cの検知出力に基づいて、第1の発光部23Aと第2の発光部23Bおよびその他の各光学部品の位置調整が行われる。また、赤色波長検知部53aと緑色波長検知部53bからの検知出力に基づいて、第1のレーザユニット27Aと第2のレーザユニット27Bの発光強度が自動調整され、また位相変調アレイ31による位相変調動作も自動制御される。
【0056】
(投影部20C)
図4と
図11に示すように、投影部20Cには、第1の投影ミラー55と第2の投影ミラー56とが対向して設けられている。第1の投影ミラー55の反射面55aと第2の投影ミラー56の反射面56aは、共に凹面鏡(拡大鏡)である。
【0057】
図10と
図11に示すように、スクリーン51で結像したホログラム画像70hを含む投影光B7はスクリーン51で拡散されて第1の投影ミラー55に与えられ、第1の投影ミラー55で反射された投影光B8が第2の投影ミラー56に与えられる。第2の投影ミラー56で反射された投影光B9は、ウインドシールド3の表示領域3aに投影される。ウインドシールド3は半反射面であるため、ウインドシールド3で反射された半反射光B10が、運転者5の目5aに入る。目5aの網膜には、ウインドシールド3に投影された表示画像70(
図2参照)が、ウインドシールド3よりも十分に前方に位置する虚像6の位置にあるように感知される。
【0058】
図9に示すように、スクリーン51に結像するホログラム画像70hは、第1の画像71hと第2の画像72hならびに第3の画像73hを含んでいる。第1ないし第3の画像71h,72,73hがウインドシールド3に投影されると、運転者5の目5aには、
図2に示すように、ウインドシールド3の前方に、第1の画像71hで生成された自動車の速度表示71、第2の画像72hで生成されたシフトレバーのポジション情報72、ならびに第3の画像73hで生成されたナビゲーション情報73が位置しているように見ることができる。虚像6である表示画像70は、赤色光または緑色光で表示され、あるいは、赤色光と緑色光との混合色で表示される。
【0059】
スクリーン51に結像したホログラム画像70hは、第1の投影ミラー55と第2の投影ミラー56の2つの投影ミラーによって拡大されて、ウインドシールド3に投影される。したがって、運転者5の目5aには、虚像6に結像する表示画像70が、スクリーン51に結像されているホログラム画像70hよりも拡大されたものとして見ることができる。
【0060】
図1と
図10に示すように、自動車のウインドシールド3は、車両の前方から運転者5の頭上に向けて傾斜しており、近年の自動車では、水平面に対するウインドシールド3の角度がきわめて小さくなってきている。したがって、ウインドシールド3に投影される表示画像70は、ウインドシールド3の傾斜による影響を考慮して、
図2に示すように、運転者5の目5aで見たときの表示画像70と、スクリーン51に投影されているホログラム画像70hとが、ほぼ同じ縦横比を有するものとなるように補正することが必要である。
【0061】
また、ウインドシールド3は車室内が凹側となる湾曲面であり、湾曲面の曲率は、運転者5から見た上下方向(傾斜方向)と左右方向とで相違しており、また場所によっても曲率が相違している。そのため、ウインドシールド3に投影される表示画像70は、ウインドシールド3の三次元的な湾曲を計算に入れて、運転者5の目5aで見たときの表示画像70と、スクリーン51に投影されているホログラム画像70hとが、ほぼ同じ縦横比を有するものとなるように補正することが必要である。
【0062】
実施の形態の車載用投影装置10の投影部20Cでは、第1の投影ミラー55と第2の投影ミラー56の2つの投影ミラーによって、倍率の設定と、ウインドシールド3の傾斜ならびに湾曲による歪みが補正される。これら全ての補正が、2つの投影ミラー55,56の双方で分担して行われる。
【0063】
第1の投影ミラー55の反射面55aの形状と、第2の投影ミラー56の反射面56aの形状は、同じ拡張多項式を使用して設計されている。
拡張多項式は以下の数1に記載されている通りである。
【0065】
図12に、第1の投影ミラー55の反射面55aの形状が示されている。図中のO1が光学中心で、Oh1が基準光学面である。
図12(A)には、光学中心O1を通る水平軸S1と同じく光学中心O1を通る垂直軸S2が示されている。水平軸S1は,
図5に示す水平方向(i)と平行な軸であり、垂直軸S2は、垂直方向(ii)と平行な軸である。第1の投影ミラー55には、光学中心O1を中心とするX1−Y1座標が設定されている。X1−Y1座標は、基準光学面Oh1と平行である。またX1−Y1座標は、水平軸S1と垂直軸S2とを含む平面と平行である。この実施の形態では、X1−Y1座標が、水平軸S1と垂直軸S2に対して反時計方向へ回転角度θ1だけ傾いている。θ1は5度に設定されている。
【0066】
第1の投影ミラー55の反射面55aの設計では、X1−Y1座標上に複数か所の座標点(x,y)が設定される。そして、数1を用いて、それぞれの座標点(x,y)でのZの値が設定される。Zはサグと称されるものであり、その座標点における基準光学面Oh1から反射面までの距離を意味している。数1の平方根内のkはコーニック定数である。実施の形態ではk=0とし、楕円を含まない球面を基本としてサグZが算出されている。
【0067】
数1のrは、光学中心O1からZを求める座標点(x,y)までの距離であり、r
2=x
2+y
2である。cは半径の逆数(1/R)で
ある。Σ{AiEi(x,y)}は
、多項の補正係数であり、A1x+A2y+A3x
2+A4xy+A5y
2・・・An×(x、yのn次関数)である。
【0068】
図13に、第2の投影ミラー56の反射面56aの形状が示されている。
図13にも光学中心O2と基準光学面Oh2が示されている。
図13(A)には、光学中心O2を通る水平軸S3と同じく光学中心O2を通る垂直軸S4が示されている。第2の投影ミラー56では、光学中心O2を中心とするX2−Y2座標が設定されている。X2−Y2座標は、基準光学面Oh2と平行である。また、X2−Y2座標は、水平軸S3と垂直軸S4とを含む平面と平行である。この実施の形態では、X2−Y2座標が水平軸S3と垂直軸S4に対して時計方向へ角度θ2だけ傾いている。θ2は10度に設定されている。
【0069】
第2の投影ミラー56の反射面56aの設計においても、X2−Y2座標上に複数か所の座標点(x,y)が設定され、第1の投影ミラー55の反射面55aの設計と同じ手法で、数1に基づいて、それぞれの座標点(x,y)におけるサグZの値が計算される。
【0070】
図10に示すように、車載用投影装置10は、搭載する車種に準じて、固定値が決まってくる。例えば、第2の投影ミラー56から、ウインドシールド3の表示領域3aまでの光路長が決められ、表示領域3aから虚像6を結像させる位置までの距離が決められている。また、運転者5の座高や運転姿勢などの予測により、表示領域3aから運転者5の目5aまでの標準的な距離と、さらに、運転者5の目5aの位置が存在すると予測される縦横に一定の距離を設定した領域(アイボックス)も固定値として設定することが可能である。そして、スクリーン51に結像するホログラム画像70hと、虚像6に結像する表示画像70との倍率も固定値として決められる。
【0071】
設計では、前記それぞれの固定値をパラメータとして加味して、表示画像70の歪みが最小となるように、第1の投影ミラー55の各座標点(x,y)におけるサグZと、第2の投影ミラー56の各座標点(x,y)におけるサグが算出される。この計算は、コンピュータ上で、cの値と、Σ{AiEi(x,y)}の多項の補正係数が多数準備されており
、cの値と補正係数が試行錯誤的に選択される。この設計手法により、表示画像70の歪みが最小となるように最適化された、第1の投影ミラー55の各座標点でのサグZと、第2の投影ミラー56の各座標点でのサグZが算出される。
【0072】
以下の表1は、数1を使用して最適化された第1の投影ミラー55の各座標点(X,Y)における、基準光学面Oh1から反射面55aまでの距離Zの算出例を示しており、表2は、数1を使用して最適化された第2の投影ミラー56の各座標点(X,Y)での、基準光学面Oh2から反射面56aまでの距離Zの算出例を示している。
【0073】
第1の投影ミラー55と第2の投影ミラー56が、共に画像の倍率の設定と、ウインドシールド3の傾斜と湾曲に関する補正を分担しているため、補正範囲を広げることができる。
【0076】
前記表1と表2に示すようにサグZを求めた結果、倍率を5倍以上に設定しても、
図14に示すように、アイボックスの4つの角部に目5aを移動させて虚像6を見たとしても、表示画像の歪みを抑制することができる。
【0077】
図14に示すシミュレーションでは、アイボックスは、運転者5から見る左右方向に140mmで縦方向に70mmの長方形の領域が設定されている。
図14(A)は、アイボックスの中心部に運転者5の目5aを位置させてウインドシールド3を目視したときに虚像6の位置に見える表示画像を示している。表示画像は長方形で現れているが、この長方形は、
図2において破線で記載されている表示画像70を囲む長方形の枠に相当している。
図14(B)はアイボックスの右上の角部に目5aを位置させ、(C)はアイボックスの左上の角部に目5aを位置させたときの表示画像が示されている。
図14(D)は、アイボックスの右下の角部に目5aを位置させ、(E)は、アイボックスの左下の角部に目5aを位置させたときの表示画像が示されている。
【0078】
図14では、倍率が5.8倍のときの表示画像の輪郭が実線で示され、倍率が8倍のときの表示画像の輪郭が破線で示されている。
【0079】
表1、表2に示すように、第1の投影ミラー55の反射面55aの各座標位置のサグZと、第2の投影ミラー56の反射面56aの各座標位置でのサグZを設定すると、倍率を5倍以上にしてもアイボックスの領域内のいずれの場所に目5aを移動させても表示画像はほぼ長方形の範囲内に入り、歪みがきわめて小さくなるように補正できていることが判る。さらに倍率を8倍にしても、表示画像の歪みを補正することができる。すなわち、この実施の形態では、倍率を5倍以上で8倍以下に設定することが可能である。
【0080】
以上のように、第1の投影ミラー55と第2の投影ミラーに、倍率の設定と、ウインドシールド3の傾斜ならびに湾曲の補正を分担させると、横140mmで縦70mmの広い領域のアイボックス内のいずれの箇所から表示画像を見たとしても、表示画像の歪みが最小となるように補正することができる。
【0081】
また、数1を使用することで、車種が相違した場合であっても、倍率などのスペックが変更されたときも、同じソフトウエアを使用して、2つの投影ミラーの反射面の形状を容易に設計することができる。
【0082】
この車載用投影装置10は、集光レンズ33で集光される0次回折光が、アパーチャー41,42,43で遮光され、スクリーン51に結像した1次回折光のよるホログラム画像70hが拡大されて表示領域3aに投影される。そのため、ウインドシールド3の外部からカバー板14の内部を覗き見ることがあっても、人の目にレーザ光が直接に与えられることがなく、安全性を確保できる。
【0083】
(光束の通過経路)
この車載用投影装置10は、自動車に設置された状態で、光学ユニット20の光学ベース21がほぼ水平に向けられる。
図4に示すように、第1の発光部23Aと第2の発光部23Bから発せられるコリメート光束B1r,B1gと、位相変調アレイ31で変換された変調光束B2、ならびに集光レンズを経た変調光束B3の光軸は、全て光学ベース21と平行となるように水平に延びている。また、送光ミラー34で反射された変調光束B4と、第1の中間ミラー35で反射された変調光束B5、ならびに第2の中間ミラー36で反射された変調光束B6の光軸も、光学ベース21と平行で水平に延びている。スクリーン51を通過した投影光B7の光軸も水平であり、第1の投影ミラー55で反射された投影光B8がやや上向きとなって第2の投影ミラー56に与えられ、第2の投影ミラー56で反射された投影光B9がウインドシールド3に向けて上向きに照射される。
【0084】
投影光B8,B9以外の光成分の光束が、投影光B9の上向きの投影方向と交差してほぼ水平に向けられているため、車載用投影装置10を薄型に構成することが可能になり、ダッシュボード2の内部に埋設しやすくなる。
【0085】
図3と
図4に示すように、送光ミラー34から第1の中間ミラー35に至る変調光束B4は、第1の投影ミラー55と第2の投影ミラー56との間を通過し、第1の投影ミラー55から第2の投影ミラー56に向かう投影光B8が、前記変調光束B4と交差している。投影部20Cで光を交差させることで、集光レンズ33からスクリーン51までの光路を長く確保でき、スクリーン51に適度な倍率でホログラム画像を結像させることができる。また光束を交差させることにより、光路が長くても、車載用投影装置10を小型に構成することが可能になる。
【0086】
図4に示すように、送光ミラー34から第1の中間ミラー35に向かう変調光束B4と、第2の中間ミラー36からスクリーン51に向かう変調光束B6とで、光の向きが逆である。また、スクリーン51から第1の投影ミラー55に向かう投影光B7の向きも前記変調光束B4の向きと逆である。このように、ケース内で光束の向きを逆にすることによっても、装置全体を小型に構成することができる。