【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成22年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「革新型蓄電池先端科学基礎研究事業 革新型蓄電池先端科学基礎研究開発」共同研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第一金属イオンが、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Zr、Nb、Mo、Ru、Ag、Cd、Sn、W、Re、Pt、Au、PbおよびBiのカチオンよりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1または2に記載の電気化学エネルギー蓄積デバイス。
前記第一多原子アニオンが、ホウ素を核とする錯体イオン、リンを核とする錯体イオン、ヒ素を核とする錯体イオン、アンチモンを核とする錯体イオン、過塩素酸イオン、スルホン酸イオン、イミドイオン、メチドイオン、アルキルホスフェートイオン、CN-、NO3-、SO3-、SO42-、S2O32-、SCN-、CO32-、PO43-、CH3CO2-、C2H5CO2-、CF3SO3-、安息香酸イオン、シュウ酸イオンおよびフタル酸イオンよりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の電気化学エネルギー蓄積デバイス。
前記第二多原子アニオンが、ホウ素を核とする錯体イオン、リンを核とする錯体イオン、ヒ素を核とする錯体イオン、アンチモンを核とする錯体イオン、過塩素酸イオン、スルホン酸イオン、イミドイオン、メチドイオン、アルキルホスフェートイオン、CN-、NO3-、SO3-、SO42-、S2O32-、SCN-、CO32-、PO43-、CH3CO2-、C2H5CO2-、CF3SO3-、安息香酸イオン、シュウ酸イオンおよびフタル酸イオンよりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1〜5のいずれか1項に記載の電気化学エネルギー蓄積デバイス。
前記有機溶媒が、環状カーボネート、環状エステル、鎖状カーボネート、環状エーテル、鎖状エーテル、ニトリル類および複素環化合物よりなる群から選択される少なくとも1種である、請求項7に記載の電気化学エネルギー蓄積デバイス。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の電気化学エネルギー蓄積デバイスは、第一活物質を含む第一電極と、第二活物質を含む第二電極と、第一電極と第二電極との間に介在する非水電解質と、を具備する。第一活物質および第二活物質の少なくとも一方は、多原子アニオンと、金属イオンと、を有する金属塩である。ここで、金属塩は、多原子アニオンの可逆的な授受を伴う酸化還元反応が可能である。また、非水電解質は、多原子アニオンをキャリアとする導電性を有することが好ましい。
【0031】
まず、第一活物質が、第一多原子アニオンと第一金属イオンとを有する第一金属塩であり、第一金属塩を非水電解質二次電池やハイブリッドキャパシタの正極活物質として用いる場合について説明する。
【0032】
第一金属イオンは、周期表の第3族〜15族に属する第一金属のカチオンよりなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。第一金属イオンは、具体的には、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Al、Zr、Nb、Mo、Ru、Ag、Cd、Sn、W、Re、Pt、Au、PbおよびBiのカチオンよりなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。また、第一金属イオンは、FeおよびCuのカチオンよりなる群から選択される少なくとも1種であることが更に好ましい。イオン液体を用いる場合、第一金属イオンは、Fe、CuおよびBiのカチオンよりなる群から選択される少なくとも1種であることが更に好ましい。金属元素の種類とイオン価数によって活物質の電位が決定される。これらの第一金属イオンは、正極活物質として適した電位を有する。第一金属イオンには、有機溶媒が配位していてもよい。
【0033】
第一金属塩は、周期表の第3族〜15族に属する第一金属よりなる群から選択される少なくとも1種を、第一多原子アニオンが含まれる非水電解質中でアノード酸化することにより容易に得ることができる。このとき、第一金属塩と非水電解質中の有機溶媒との付加体を形成してもよい。付加体を形成する有機溶媒としては、テトラヒドロフランが好ましい。
【0034】
以下、第一多原子アニオンと第一金属イオンとを有する第一金属塩における、第一多原子アニオンの可逆的な授受を伴う酸化還元反応について説明する。ここでは、鉄イオン(Fe
2+)とBF
4-と含む第一金属塩を例にとって説明する。
【0035】
第一金属塩の電気化学的な還元反応は、反応式(5)で示されるコンバージョン反応である。すなわち、還元反応により、Fe(BF
4)
2はFeに変換される。
Fe(BF
4)
2+2Li
++2e→Fe+2LiBF
4 ・・・(5)
【0036】
逆に、還元反応は、反応式(6)で示されるコンバージョン反応である。すなわち、酸化反応により、FeはFe(BF
4)
2に変換される。鉄は第一電極の骨格を形成しており、理想的には、Fe(BF
4)
2は第一電極内に生成する。
Fe+2LiBF
4 →Fe(BF
4)
2+2Li
++2e・・・(6)
【0037】
より一般化すると、アルカリ金属イオンをA
+、第一金属イオンをMe
m+、第一多原子アニオンをQ
n-で表すとき、第一金属塩(Me
nQ
m)の還元反応は、反応式(7)で示される。
Me
m+nQ
n-m+m×nA
++m×ne→n×Me(0)+m×A
+nQ
n- ・・・(7)
【0038】
反応式(7)では、第一金属塩を構成する第一金属イオン(Me
m+)は、価数0の第一金属Me(0)まで還元されているが、必ずしもその必要はない。還元後の第一金属の価数は+m未満であればよい。還元反応で生成したA
+nQ
n-は、第一電極中に残ってもよいし、一部は、電解質中に溶解してもよい。
【0039】
電気化学エネルギー蓄電デバイスである非水電解質二次電池は、例えば、上記の第一金属塩を正極活物質として用い、リチウムなどのアルカリ金属、マグネシウムなどのアルカリ土類金属、アルミニウム金属、リチウムと黒鉛との層間化合物、リチウムを含む合金、リチウムを含む酸化物などを負極活物質として用いることにより構成することができる。リチウムを含む合金は、例えば、ケイ素、スズ、鉛、ビスマスなどを含む。リチウムを含む酸化物は、例えば、ケイ素、スズなどを含む。この場合、リチウムイオンを含む電解質を用いることで、反応式(5)で示される放電反応が進行し、反応式(6)で示される充電反応が進行する。
【0040】
電気化学エネルギー蓄電デバイスであるハイブリッドキャパシタは、例えば、上記の第一金属塩を正極活物質として用い、活性炭などを負極活物質として用いることにより構成することができる。この場合、反応式(6)で示される充電反応が進行して、正極でFe(BF
4)
2が生成し、負極には アルカリ金属イオンなどが吸着する。
【0041】
次に、第二活物質が、第二多原子アニオンと第二金属イオンとを有する第二金属塩であり、第二金属塩を非水電解質二次電池やハイブリッドキャパシタの負極活物質として用いる場合について説明する。
【0042】
第二金属イオンは、アルカリ金属およびアルカリ土類金属のカチオンよりなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。第二金属イオンは、具体的には、リチウムおよびマグネシウムのカチオンよりなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0043】
第二金属塩は、アルカリ金属およびアルカリ土類金属よりなる群から選択される少なくとも1種の第二金属を、第二多原子アニオンが含まれる電解質中で電気化学的に酸化することにより得ることができる。このとき、第二金属塩と非水電解質中の有機溶媒との付加体を形成してもよい。付加体を形成する有機溶媒としては、テトラヒドロフランが好ましい。
【0044】
以下、第二多原子アニオンと第二金属イオンとを有する第二金属塩における、第二多原子アニオンの可逆的な授受を伴う酸化還元反応について説明する。ここでは、マグネシウムイオン(Mg
2+)とBF
4-とを含む第二金属塩を例にとって説明する。
【0045】
マグネシウムイオンとフルオロ錯体イオンとを含む第二金属塩は、非水電解質に僅かに溶解する。この性質を利用することにより、可逆性に優れた電気化学エネルギー蓄電デバイスを構成することが更に容易となる。また、Mg(BF
4)
2のような第二金属塩は、マグネシウム金属のような発火性および剛直性を有さないため、蓄電デバイスを作製する際における取り扱いも容易である。
【0046】
マグネシウムイオンとBF
4-とを含む第二金属塩は、電気化学的に還元され、マグネシウム金属を生成する。一方、マグネシウム金属が電気化学的に酸化されると、第二金属塩が生成する。なお、第二金属塩の還元反応は、第二電極を負極とする電池の充電反応であり、マグネシウム金属の酸化反応は、電池の放電反応である。
【0047】
充電状態の負極にマグネシウム金属が存在し、電解質中にBF
4-が存在する場合、マグネシウム金属の電気化学的な酸化では、マグネシウムイオンが電解質中に溶出する。そして、溶出後、直ちに電解質中のBF
4-と結合し、Mg(BF
4)
2を生成する。Mg(BF
4)
2の溶解度は小さいため、生成したMg(BF
4)
2はマグネシウム金属の表面に溜まる。すなわち、反応式(8)で示される反応が進行する。
Mg+2BF
4-→Mg(BF
4)
2+2e・・・(8)
【0048】
次に、生成したMg(BF
4)
2は、電気化学的な還元により、マグネシウム金属に戻る。すなわち、充電において、反応式(9)で示される反応が進行し、マグネシウム金属が生成する。
Mg(BF
4)
2 +2e→Mg+2BF
4- ・・・(9)
【0049】
ここで、反応式(3)(Mg→Mg
2++2e)および(4)(Mg
2++2e→Mg)の組み合わせは、反応式(8)および(9)の組み合わせと明らかに異なっている。反応式(8)および(9)の組み合わせが進行する蓄電デバイスの場合、マグネシウムは、僅かに非水電解質中に存在しているマグネシウムイオンを除き、ほぼ全量が負極中に存在する。このことは、非水電解質中のBF
4-が負極上のマグネシウム金属に接近して結合することにより、マグネシウム金属が酸化され、BF
4-が負極から離脱することにより第二金属塩が還元されることを意味する。
【0050】
反応式(8)および(9)で示される反応では、反応式(3)および(4)で示される反応に比べ、大電流による放電と充電が可能である。これは、マグネシウムイオンとフルオロ錯体イオンとの反応が、マグネシウムイオンの溶出反応よりも容易であることや、電解質中でのBF
4-の移動性が、マグネシウムイオンの移動性よりも高いことに起因する。
【0051】
反応式(8)および(9)で示される反応では、多原子アニオンが電解質中を移動すればよく、マグネシウムイオンが電解質中を移動する必要はない。そのため、マグネシウムイオン伝導性を有する電解質を用いる必要がない。従って、マグネシウム金属を負極活物質として用いる場合でも、様々な非水電解質を用いることができる。また、多原子アニオン導電性を有する電解質は、取り扱いが容易であり、調製も容易である。更に、電解質がマグネシウムイオン伝導性を有する必要がないため、電解質にトリフルオロメタンスルホン酸アルキルを添加する必要もない。よって、金属部品の腐食が起りにくく、電解質の安定な電位窓が広くなる。
【0052】
電気化学エネルギー蓄電デバイスである非水電解質二次電池は、第二多原子アニオンと第二金属イオンとを有する第二金属塩を負極活物質として用い、リチウムイオン電池で採用されているLiCoO
2、LiNiO
2、Li(Ni
1/3Mn
1/3Co
1/3)O
2、LiMn
2O
4、Li(Li
xMn
1-x)O
2などのリチウム含有複合酸化物を正極活物質として用いることにより構成することができる。この場合、リチウムイオンを含む電解質を用いることで、放電反応で、第二金属塩が生成し、充電反応では、第二金属が生成する。例えば、負極活物質として第二金属塩であるAl(BF
4)
3を用いる場合、リチウムイオンを含む電解質を用いることで、負極には、充電時にAl(BF
4)
3が生成し、放電時にアルミニウム金属とLiBF
4が生成する。
【0053】
非水電解質二次電池の正極として、黒鉛を用いることもできる。この場合、充電では、フルオロ錯体イオンが黒鉛の層間に挿入する一方で、負極からフルオロ錯体イオンが放出され、負極にマグネシウム金属が生成する。また、ポリピロール、ポリチオフェンなどの導電性高分子や、=N−O・型のフリーラジカルがπ共役電子群を有する高分子に組み込まれたラジカル導電性高分子を正極活物質に用いることもできる。これらの材料は、合成時にフルオロ錯体イオンを取り込んでいる。よって、電池の組み立て時には、マグネシウム金属を負極活物質に用いればよい。組み立て後の電池は、充電状態である。この電池を放電することで、正極活物質からフルオロ錯体イオンが放出され、負極にマグネシウムイオンとフルオロ錯体イオンとを有する第二金属塩が生成する。
【0054】
同様に、電気化学エネルギー蓄電デバイスであるハイブリッドキャパシタは、第二多原子アニオンと第二金属イオンとを有する第二金属塩を負極活物質として用い、炭素材料などを正極活物質として用いることにより構成することができる。
【0055】
炭素材料は、活性炭を含むことが好ましい。活性炭としては、ヤシ殻等の天然植物系活性炭、フェノール等の合成樹脂系活性炭、コークス等の化石燃料系活性炭等が挙げられる。また、カーボンブラックを賦活化することによって得られる超微粉末活性炭を用いてもよい。
【0056】
負極活物質である第二金属塩と、非水電解質とは、共通のフルオロ錯体イオンを含むことが好ましい。例えば、マグネシウムイオンとフルオロ錯体イオンとの塩を負極に用い、フルオロ錯体イオンを含む非水電解質を用い、電気二重層キャパシタなどで用いられる炭素材料を正極活物質に用いて、ハイブリッドキャパシタを組み立てることができる。このようなハイブリッドキャパシタでは、充電により、フルオロ錯体イオンが分極性正極の表面に吸着する一方で、負極からフルオロ錯体イオンが放出され、負極にマグネシウム金属が生成する。
【0057】
ハイブリッドキャパシタおよび非水電解質二次電池は、充電状態では、負極にマグネシウム金属を含む。この状態から放電を行うと、マグネシウム金属から僅かにマグネシウムイオンが非水電解質中に溶出するが、反応式(8)が反応式(3)に比べて早いため、高速放電性に優れるという利点がある。
【0058】
第一活物質として第一多原子アニオンと第一金属イオンとを有する第一金属塩を含む第一電極と、第二活物質として第二多原子アニオンと第二金属イオンとを有する第二金属塩を含む第二電極と、第一電極と第二電極との間に介在する非水電解質とを具備する電気化学エネルギー蓄積デバイスを構成することもできる。この場合、第一多原子アニオンと前記第二原子アニオンは、同じであることが好ましい。
【0059】
例えば、第一金属塩がFe(BF
4)
2であり、第二金属塩がMg(BF
4)
2である場合、第一電極における還元反応は反応式(10)で示すことができ、第二電極における酸化反応は反応式(11)で示すことができる。よって、以上を加算すると、放電反応としては、反応式(12)で示す反応が進行することになる。
【0060】
Fe(BF
4)
2+2e→Fe+2BF
4- ・・・(10)
Mg+2BF
4-→Mg(BF
4)
2+2e・・・(11)
Fe(BF
4)
2+Mg→Fe+Mg(BF
4)
2 ・・・(12)
【0061】
第一多原子アニオンおよび第二多原子アニオンは、それぞれ独立に、ホウ素を核とする錯体イオン、リンを核とする錯体イオン、ヒ素を核とする錯体イオン、アンチモンを核とする錯体イオン、過塩素酸イオン(ClO
4-)、スルホン酸イオン、イミドイオン、メチドイオン、アルキルホスフェートイオン、CN
-、NO
3-、SO
3-、SO
32-、SO
42-、S
2O
32-、SCN
-、CO
32-、PO
43-、CH
3CO
2-、C
2H
5CO
2-、CF
3SO
3-、C
6H
5CO
-(安息香酸イオン)、
-OOC−COO
-(シュウ酸イオン)およびC
6H
4(CO
2)
2-(フタル酸イオンのオルト、メタおよびパラ体)よりなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。CH
3CO
2-、C
2H
5CO
2-、CF
3SO
3-、C
6H
5CO
-、
-OOC−COO
-およびC
6H
4(CO
2)
2-などの有機酸イオンに結合する水素原子の1つ以上は、フッ素原子に置換されていてもよい。第一電極または第二電極には、多原子アニオンが1種のみ単独で含まれていてもよく、複数種が含まれていてもよい。
【0062】
非水電解質にイオン液体を用いる場合は、第一多原子アニオンおよび第二多原子アニオンは、それぞれ独立に、ホウ素を核とする錯体イオン、イミドイオン、CF
3SO
3-および過塩素酸イオンよりなる群から選択される少なくとも1種であることが特に好ましい。
【0063】
ここで、各錯体イオンは、フルオロ錯体イオンであることが好ましい。
フルオロ錯体イオンが、ホウ素を核とする場合、BF
4- 、BF
x(CF
3)
y―(x+y=4、x≠4)、BF
x(C
2F
5)
y―(x+y=4、x≠4)、BF
x(C
3F
7)
y―(x+y=4、x≠4)、BF
x(C
4F
9)
y―(x+y=4、x≠4)などが挙げられる。これらのフルオロ錯体イオンにおいて、フッ素原子およびパーフルオロアルキル基より選ばれる2つ以上が、1つ以上のシュウ酸イオン残基(O−C(=O)−C(=O)−O)に置き換わっていてもよい。ホウ素を核とするフルオロ錯体イオンの中では、式量が小さく、移動度が最も高いBF
4-が特に好ましい。
【0064】
フルオロ錯体イオンが、リンを核とする場合、PF
6-、PF
x(CF
3)
y―(x+y=6、x≠6)、PF
x(C
2F
5)
y―(x+y=6、x≠6)、PF
x(C
3F
7)
y―(x+y=6、x≠6)、PF
x(C
4F
9)
y― (x+y=6、x≠6)などが挙げられる。これらのフルオロ錯体イオンにおいて、フッ素原子およびパーフルオロアルキル基より選ばれる2つ以上が、1つ以上のシュウ酸イオン残基(O−C(=O)−C(=O)−O)に置き換わっていてもよい。リンを核とするフルオロ錯体イオン中では、式量が小さく、移動度が最も高いPF
6-が特に好ましい。
【0065】
フルオロ錯体イオンの核種としては、上記のホウ素やリンのほかに、ヒ素やアンチモン などであってもよい。
【0066】
多原子アニオンは、過塩素酸イオン(ClO
4-)、CF
3SO
3-、C
2F
5SO
3-、C
3F
7SO
3-、C
4F
9SO
3-などのスルホン酸イオン、(FSO
2)
2N
-、(FSO
2)(CF
3SO
2)N
-、(CF
3SO
2)
2N
-、TFSIと略記)、(C
2F
5SO
2)
2N
-、(CF
3SO
2)(C
4F
9SO
2)N
-、(CF
3SO
2)(CF
3CO)N
-などの鎖状イミドイオン、5員環の(CF
2SO
2)
2N
-、6員環のCF
2(CF
2SO
2)
2N
-などの環状イミドイオンなどでもよい。イミドイオン中では、式量が最も小さい(FSO
2)
2N
-が特に好ましい。
【0067】
多原子アニオンは、(CF
3SO
2)
3C
-のようなメチドイオンであってもよい。
【0068】
多原子アニオンは、(CH
3O)
2PO
2-、(C
2H
5O)
2PO
2-、(CH
3O)(C
2H
5O)PO
2-などのアルキルホスフェートイオンでもよい。ここで、アルキル基に結合する水素原子の1つ以上がフッ素原子に置換されていてもよい。
【0069】
ここで、非水電解質は、有機溶媒およびこれに溶解する溶質を含む。非水電解質は、イオン液体でもよい。
【0070】
非水電解質の溶質は、例えば、第三金属イオンであるカチオンとアニオンとを含む塩である。第三金属イオンであるカチオンは、アルカリ金属およびアルカリ土類金属のカチオンよりなる群から選択される少なくとも1種を含む。具体的には、第三金属イオンは、Li
+、Na
+、K
+、Rb
+、Cs
+、Mg
2+、Ca
2+、Sr
2+およびBa
2+よりなる群から選択される少なくとも1種である。溶質のアニオンは、第一活物質または第二活物質を構成する第一または第二多原子アニオンであってもよいし、異なっていてもよい。コンバージョン反応では、アルカリ金属イオンなどが多原子アニオンと結合するか、逆に、金属イオンと多原子アニオンとの解離が起きてアルカリ金属イオンなどが放出されればよい。
【0071】
非水電解質の溶質は、例えば、第三多原子アニオンと第三金属イオンとを含む。このとき、第三金属イオンは、アルカリ金属およびアルカリ土類金属のカチオンよりなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。また、第三多原子アニオンとしては、第一または第二多原子アニオンとして例示したものを任意に用いることができる。ただし、第三多原子アニオンの少なくとも一部は、第一または第二多原子アニオンと同じであることが好ましい。好ましい溶質としては、例えば、リチウムとフルオロ錯体イオンとの塩が挙げられる。
【0072】
第二活物質として第二金属塩を用いる場合、非水電解質の溶質を構成する第三金属イオンとして、第二金属塩と共通のカチオン(第二金属イオン)を用いることが好ましい。例えば、第二金属塩がマグネシウム塩である場合、微量のマグネシウムイオンを非水電解質中に存在させることで、第二電極からの第二金属塩の非水電解質への溶解を抑制することができる。
【0073】
溶媒は、有機溶媒でもよく、イオン液体でもよく、有機溶媒とイオン液体との混合物であってもよい。
【0074】
有機溶媒は、環状カーボネート、環状エステル、鎖状カーボネート、環状エーテル、鎖状エーテル、ニトリル類および複素環化合物よりなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。中でも、環状カーボネート、鎖状カーボネート、環状エーテルおよび鎖状エーテルよりなる群から選択される少なくとも1種を用いることが好ましい。これらの有機溶媒は、1種を単独で用いてもよく、複数種を混合して用いてもよい。
【0075】
環状カーボネートとしては、プロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)、ブチレンカーボネート(BC)、ビニレンカーボネート(VC)、ビニルエチレンカーボネート(VEC)、フルオロエチレンカーボネート(FEC)などが挙げられる。
【0076】
環状エステルとしては、γ−ブチロラクトン(GBL)、α−メチル−γ−ブチロラクトン(MGBL)、γ−バレロラクトン(GVL)、フラノン(FL)、3−メチル−2(5H)−フラノン(MFL)、α−アンゲリカラクトン(AGL)などが挙げられる。
【0077】
鎖状カーボネートとしては、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、メチルプロピルカーボネート(MPuC)、メチルブチルカーボネート(MBC)、メチルペンチルカーボネート(MPeC)などが挙げられる。
【0078】
環状エーテルとしては、テトラヒドロフラン(THF)、2−メチルテトラヒドロフラン(MTHF)、2,5−ジメチルテトラヒドロフラン(dMTHF)、1,3−ジオキソラン(DIOX)、2−メチル−1,3−ジオキソラン(MDIOX)、テトラヒドロピラン(THP)、2−メチル−テトラヒドロピラン(MTHP)などが挙げられる。
【0079】
鎖状エーテルとしては、ジエチルエーテル(DEEt)、メチルブチルエーテル(MBE)、1,2−ジメトキシエタン(DME)、1−メトキシ−2−エトキシエタン(EME)、1,2−ジエトキシエタン(DEE)、ジグライム(diglyme)、トリグライム(triglyme)、テトラグライム(tetraglyme)、両末端が非プロトン性のポリエチレングリコールなどが挙げられる。
【0080】
ニトリル類としては、アセトニトリル(AN)、プロピオニトリル(PN)、アジポニトリル(AGN)などが挙げられる。
【0081】
窒素元素や硫黄元素を含む有機溶媒を用いてもよく、例えば、N−メチルピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)などを用いることができる。
【0082】
有機溶媒は、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、テトラヒドロフランおよびジメトキシエタンよりなる群から選択される少なくとも1種であることが特に好ましい。
【0083】
非水電解質の溶質は、第三多原子アニオンと、脂肪族4級アンモニウムイオンとの塩であってもよい。脂肪族4級アンモニウムイオンとしては、テトラエチルアンモニウムイオン((C
2H
5)
4N
+)、テトラプロピルアンモニウムイオン((C
3H
7)
4N
+)、テトラブチルアンモニウムイオン((C
4H
9)
4N
+)、テトラオクチルアンモニウムイオン((C
8H
17)
4N
+)、トリエチルメチルアンモニウムイオン((C
2H
5)
3(CH
3)N
+)、トリブチルメチルアンモニウムイオン((C
4H
9)
3(CH
3)N
+)、トリオクチルメチルアンモニウムイオン((C
8H
17)
3(CH
3)N
+)、トリメチルプロピルアンモニウムイオン((CH
3)
3(C
3H
7)N
+、TMPA)、ジエチルジメチルアンモニウムイオン((C
2H
5)
2(CH
3)
2N
+)、ジエチルメチル−(2−メトキシエチル)アンモニウムイオン((C
2H
5)
2(CH
3)(CH
3OCH
2CH
2)N
+、DEME)、エチルジメチル−(2−メトキシエチル)アンモニウムイオン((C
2H
5)(CH
3)
2(CH
3OCH
2CH
2)N
+、MOEDEA)、スピロ−(1,1)−ビピロリジニウムイオン((C
4H
8)
2N
+)、ブチルメチルピロリジニウムイオン((C
4H
9)(CH
3)(C
4H
8)N
+)、プロピルメチルピペリジニウムイオン((C
3H
7)(CH
3)(C
5H
10)N
+)が挙げられる。
【0084】
金属イオンと多原子アニオンとを含む金属塩の溶解性は、非水電解質を構成する有機溶媒の種類により異なる。金属塩を溶解し易い有機溶媒を用いる場合には、溶質を高濃度に溶解した非水電解質を用いることが好ましい。例えば、溶質であるテトラフルオロホウ酸リチウム(LiBF
4)と有機溶媒であるテトラヒドロフラン(THF)とを、LiBF
4/THF=1/2のモル比で混合した非水電解質は、活物質であるFe(BF
4)
2を溶解しにくい。活物質を構成する金属イオンがCuの場合も同様である。有機溶媒を非水電解質に用いる場合、溶質/非水溶媒のモル比は、1/6以上が好ましく、1/4以上が更に好ましく、1/2以下が好ましい。すなわち、非水電解質に含まれる第三金属イオンと有機溶媒とのモル比は、例えば、第三金属イオン/有機溶媒=1/2〜1/6であることが好ましい。
【0085】
非水電解質は、イオン液体でもよい。イオン液体は、カチオンとアニオンとからなる塩であり、常温では液体を呈している。第三多原子アニオンと脂肪族4級アンモニウムイオンとの組み合わせを選択することにより、イオン液体が得られる。例えば、テトラフルオロホウ酸ジエチルメチル−2−メトキシエチルアンモニウム(DEME・BF
4)はイオン液体である。イオン液体は、有機溶媒と併用してもよいが、有機溶媒を用いない方が、酸化電位の高い非水電解質を得ることができ、非水電解質二次電池などの電圧を高く設定することができる。イオン液体は、1種を単独で用いてもよく、複数種を組み合わせて用いてもよい。
【0086】
有機溶媒を含まず、イオン液体を含む非水電解質には、第三多原子アニオンと第三金属イオンとを含む溶質を含ませてもよく、含ませなくてもよい。イオン液体に第三多原子アニオンと第三金属イオンとを含む溶質を溶解させる場合、イオン液体が非水電解質の溶媒としても機能する。
【0087】
イオン液体の融点は常温であることが好ましいが、例えば100℃以下の融点を有する塩であれば、蓄電デバイスの非水電解質に用いることができる。ただし、AlCl
4-やAl
2Cl
7-のようなアニオンを含むクロロアルミネート系溶融塩は用いない方がよい。
【0088】
非水電解質二次電池、ハイブリッドキャパシタなどの電気化学エネルギー蓄積デバイスに用いるイオン液体のカチオンとしては、イミダゾリウムイオン、ピリジニウムイオン、アンモニウムイオン、ピロリジニウムイオン、ピペリジニウムイオン、ホスホニウムイオンなどを用いることができる。中でも電位窓が広いことから、脂肪族アルキル基を有するイオンを用いることが好ましい。
【0089】
脂肪族アルキル基を有するイオンとしては、上記の脂肪族4級アンモニウムイオンが好適である。ホスホニウムイオンとしては、4級アルキルアンモニウムイオンのN原子をP原子に置き換えたものが挙げられる。
【0090】
非水電解質二次電池、ハイブリッドキャパシタなどの電気化学エネルギー蓄積デバイスに用いるイオン液体のアニオンとしては、上記の第一または第二多原子アニオンを用いることができる。中でも、BF
4-、PF
3(C
2F
5)
3-などのフルオロ錯体イオン、過塩素酸イオン(ClO
4-)、CF
3SO
3-などのスルホン酸イオン、(CF
3SO
2)
2N
-や(C
2F
5SO
2)
2N
-などのイミドイオンが好ましい。
【0091】
以下、イオン液体を非水電解質とする電気化学エネルギー蓄積デバイスについて、更に詳細に説明する。
正極活物質としてCu(BF
4)
2を使用し、非水電解質の溶質としてLiBF
4および溶媒として(C
2H
5)
2(CH
3)(CH
3OCH
2CH
2)N・BF
4(DEME・BF
4)を用いる場合、電気化学的な還元反応および酸化反応は、Feの場合と同様に、それぞれ、反応式(13)および(14)で表される。FeをCuに代えると、活物質の反応電位が引き上げられるため、非水電解質二次電池などのエネルギー密度は高くなる。
Cu(BF
4)
2+2Li
++2e→Cu+2LiBF
4・・・(13)
Cu+2LiBF
4→Cu(BF
4)
2+2Li
++2e・・・(14)
【0092】
また、正極活物質をCu(CF
3SO
3)
2に代えると、以下の反応式(15)および(16)で表される電気化学的な還元反応および酸化反応が優先的に起こる。
Cu(CF
3SO
3)
2+2Li
++2e→Cu+2LiCF
3SO
3・・・(15)
Cu+2LiCF
3SO
3→Cu(CF
3SO
3)
2+2Li
++2e・・・(16)
【0093】
すなわち、銅イオン(Cu
2+)とBF
4-イオンとの反応は抑制される。これは、銅イオンとスルホン酸イオン(CF
3SO
3-)との結びつきが、BF
4-との結びつきよりも強いためである。
【0094】
イオン液体に溶解させる溶質としてリチウム塩を選択する場合、好ましい非水電解質の組成としては、例えば、下記組成(a)〜(i)が挙げられる。下記組成によれば、活物質がCu(還元状態)である場合でも、電気化学的な酸化反応と還元反応の可逆性が良好になる。ここで、複数種のアニオンが非水電解質に存在する場合、Cuと優先的に反応するアニオンは、イオン液体に溶解させる前にリチウムイオン(Li
+)と結合していたアニオンである。なお、下記組成はモル比で示されており、TFSIは(CF
3SO
2)
2N
-の略記、FAPはPF
3(C
2F
5)
3-の略記である。
【0095】
Li・TFSI/TMPA・TFSI=1/10・・・(a)
Li・TFSI/DEME・TFSI=1/10・・・(b)
LiBF
4/DEME・BF
4=1/10・・・(c)
Li・FAP/MOEDEA・FAP=1/20・・・(d)
LiClO
4/TMPA・TFSI=1/10・・・(e)
LiCF
3SO
3/DEME・TFSI=1/10・・・(f)
LiCF
3SO
3/DEME・BF
4=1/10・・・(g)
LiBF
4/MOEDEA・FAP=1/20・・・(h)
LiClO
4/MOEDEA・FAP=1/20・・・(i)
【0096】
イオン液体を使用する非水電解質は、必要に応じて、有機溶媒を含んでいてもよい。ただし、有機溶媒が多くなると、電気化学エネルギー蓄積デバイスに用いられる活物質の非水電解質への溶解度が高くなる。そのため、有機溶媒の量は、概ねイオン液体に対して等モル以下とすることが好ましい。有機溶媒としては、既に述べたものを特に限定なく用いることができる。有機溶媒は、単独で用いてもよく、複数種で組み合わせて用いてもよい。
【0097】
次に、多原子アニオンと金属イオンとを有する金属塩の具体的な製造方法について説明する。
まず、鉄イオンとフルオロ錯体イオンとを有する第一金属塩を例にとって説明する。活物質が非水電解質に溶解しにくい場合、活物質を電気化学的に製造することができる。イオン液体を含む非水電解質には、活物質が溶解しにくいため、活物質を電気化学的に製造する場合の非水電解質として適している。例えば、LiBF
4/DEME・BF
4=1/10のモル比の非水電解質中で、鉄線を電気化学的に酸化することで、Fe/BF
4=1/2のモル比の活物質(Fe(BF
4)
2)を効率よく製造することができる。
【0098】
また、溶質であるテトラフルオロホウ酸リチウム(LiBF
4)と有機溶媒であるテトラヒドロフラン(THF)とを含む非水電解質は、活物質であるFe(BF
4)
2を溶解しにくい。活物質を構成する金属イオンがCuの場合も同様である。従って、例えばLiBF
4/THF=1/10のモル比の非水電解質中で、鉄線を電気化学的に酸化することにより、Fe(BF
4)
2を得ることができる。
【0099】
次に、マグネシウムイオンとフルオロ錯体イオンとを有する第二金属塩を例にとって説明する。マグネシウムイオンとフルオロ錯体イオンとを有する塩は、フルオロ錯体イオンを含む非水電解質中で、マグネシウム金属を電気化学的に酸化することにより調製できる。
【0100】
例えば、テトラフルオロホウ酸リチウム(LiBF
4)やテトラフルオロホウ酸テトラブチルアンモニウム((C
4H
9)
4NBF
4)を、テトラヒドロフラン(THF)に溶解して非水電解質を調製する。次に、マグネシウム金属を、得られた非水電解質に浸漬して、対極との間に酸化電流を流すだけでよい。酸化電流を流すときのマグネシウム金属の電位は、反応式(8)における過電圧を上回るように設定する。
【0101】
非水電解質中にリチウムイオンが含まれる場合、対極として金属などの導電性材料を用いると、対極にリチウム金属が析出する。また、非水電解質中にテトラブチルアンモニウムイオンが含まれる場合には、黒鉛を対極として用いればよい。このときは、テトラブチルアンモニウムイオンが、黒鉛の層間に挿入される。一方、マグネシウム金属の表面には、白色の化合物(第二金属塩)が生成する。
【0102】
また、第二金属塩は、例えば、テトラフルオロホウ酸テトラブチルアンモニウム((C
4H
9)
4NBF
4)をテトラヒドロフラン(THF)に溶解させて非水電解質を調製し、得られた非水電解質と塩化マグネシウム(MgCl
2)とを混合して、撹拌することによっても得られる。このとき、[(C
4H
9)
4N]
2[MgCl
4]・2THFが生成して沈殿が生じ、同時にMg(BF
4)
2が溶解した溶液が得られる。この溶液から沈殿を濾過して除去し、THFを蒸発させることで、白色の化合物を得ることができる。
【0103】
さらに、三フッ化ホウ素ジエチルエーテル錯体(BF
3・C
4H
10O)を含むジエチルエーテル溶液に、フッ化マグネシウム(MgF
2)を混合して撹拌してもよい。フッ化マグネシウムと三フッ化ホウ素とが反応し、白色の化合物を得ることができる。
【0104】
マグネシウムイオンとフルオロ錯体イオンとを含む第二金属塩を利用する場合、非水電解質には、第二金属塩が、僅かに溶解することが好ましい。より具体的には、電解質中のマグネシウムイオン/非水溶媒のモル比が、0より大きく、1/50以下、好ましくは1/100以下となる程度に、第二金属塩が非水電解質に溶解することが好ましい。このように第二金属塩が僅かに非水電解質に溶解する場合、フルオロ錯体イオンとマグネシウムイオンとの結合と、マグネシウムイオンからのフルオロ錯体イオンの分離とが容易になる。
【0105】
マグネシウムイオンとフルオロ錯体イオンとを含む第二金属塩を僅かに溶解する非水溶媒としては、上記の環状エーテルおよび鎖状エーテルが好ましい。中でも、環状エーテルが好ましく、テトラヒドロフラン(THF)および2−メチルテトラヒドロフラン(MTHF)が更に好ましく、テトラヒドロフラン(THF)が特に好ましい。
【0106】
マグネシウムイオンとフルオロ錯体イオンとを含む第二金属塩は、非水電解質に含まれる非水溶媒の付加体であってもよい。例えば、非水溶媒がテトラヒドロフラン(THF)である場合、第二金属塩は、Mg(BF
4)
2・6THFで示される化合物(付加体)であってもよい。
【0107】
第一金属塩を含む第一電極(例えば正極)および第二金属塩を含む第二電極(例えば負極)は、それぞれ、第一または第二活物質である第一または第二金属塩の粉末と、アセチレンブラックなどの導電性粉末と、ポリフッ化ビニリデンなどの結着剤と、を混合することにより得られる合剤から作製することができる。合剤は、粉末混合物の状態で成形してもよく、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)などの分散媒に分散させてスラリーを調製し、スラリーを導電性の箔(集電体)の表面に塗布して作製してもよい。正極の作製では、導電性の箔として、鉄、銅、アルミニウムまたはこれらの少なくとも1種を主成分とする合金が用いられる。負極の作製には、導電性の箔として、鉄、銅またはこれらの少なくとも1種を主成分とする合金が用いられる。
【0108】
より具体的には、非水電解質二次電池やハイブリッドキャパシタの正極は、正極活物質である第一金属塩、アセチレンブラックなどの導電性粉末と、ポリフッ化ビニリデンなどの結着剤とを混合することにより得られる合剤から作製することができる。
【0109】
また、非水電解質二次電池やハイブリッドキャパシタの負極は、負極活物質である第二金属塩やマグネシウム金属粉末、アセチレンブラックなどの導電性粉末と、ポリフッ化ビニリデンなどの結着剤とを混合することにより得られる合剤から作製することができる。また、マグネシウム金属を負極活物質として用いる場合には、箔状や板状のマグネシウム金属を用いてもよい。
【0110】
合剤を分散させる分散媒は、有機溶媒(特にエーテル系溶媒)やフルオロ錯体イオンを含むイオン液体であることが好ましい。
【0111】
[実施例]
次に、実施例に基づいて本発明を具体的に説明する。ただし、以下の実施例は、本発明を限定するものではない。
なお、以下の実験は、全てアルゴン雰囲気のグローブボックス中で行った。
【0112】
(実施例1)
鉄イオン(Fe
2+)と多原子アニオン(BF
4-)を、Fe
2+/BF
4-=1/2のモル比で含む材料を電気化学的に合成し、その電気化学的な酸化電位と還元電位との乖離(ヒステリシス)の程度を確認した。
【0113】
ここでは、LiBF
4(キシダ化学(株)製)と、テトラヒドロフラン(THF、キシダ化学(株)製)とを、LiBF
4/THF=1/10のモル比で含む非水電解質を調製した。
【0114】
作用極として、直径1mmの鉄線((株)ニラコ製)を準備した。
対極および参照極として、ニッケル製リードにリチウム箔(本城金属(株)製)を圧着したものを準備した。
【0115】
作用極、参照極および対極を、非水電解質に浸漬し、作用極の電位範囲2.0〜4.0V、掃引速度1mV/秒の条件で、サイクリックボルタムメトリーを行った。このとき、作用極には、大きな鉄線の溶解電流が流れた。8サイクル後、作用極をテトラヒドロフランで洗浄し、その表面を走査型電子顕微鏡で 観察したところ、析出物が存在することを確認した。
【0116】
図1は、作用極の表面の顕微鏡写真である。
図2は、析出物のX線回折パターンである。
【0117】
X線回折パターンより、析出物は新規物質であることが判明した。ICP発光分析、イオンクロマトグラフィー、熱分析などにより、新規物質の組成を分析したところ、Fe(BF
4)
2・6THF(Fe(BF
4)
2とTHFとの付加体)であると同定された。
【0118】
次に、Fe(BF
4)
2・6THFの電気化学的な酸化還元反応を行い、ヒステリシスの程度を確かめた。具体的には、Fe(BF
4)
2・6THFが付着した作用極を、新たに調製したモル比がLiBF
4/THF=1/10の非水電解質に浸漬し、電位範囲2.0〜3.2V、掃引速度1mV/秒の条件で、サイクリックボルタムメトリーを8サイクル繰り返した。ここで、非水電解質を交換したのは、鉄イオンが溶解していない非水電解質を用いることで、鉄イオンの電気化学的な酸化と還元が重複して進行することを避けるためである。
【0119】
図3は、Fe(BF
4)
2・6THFのサイクリックボルタモグラムである。このときの電気化学反応は、反応式(A)で表される。Fe(BF
4)
2・6THFの電気容量は81mAh/gである。
Fe(BF
4)
2・6THF+2Li
++2e⇔Fe+2LiBF
4+6THF・・・(A)
【0120】
図3では、酸化波と還元波のピーク間隔が約0.5Vであり、ヒステリシスが小さいことが理解できる。このことから、Fe(BF
4)
2・6THFを用いることで、電気化学エネルギー蓄積デバイスの電極反応が極めて良好に進行することがわかる。
【0121】
(実施例2)
次に、非水電解質におけるLiBF
4/THFのモル比を変更し、実施例1と同様に、鉄イオン(Fe
2+)と多原子アニオン(BF
4-)を、Fe
2+/BF
4-=1/2のモル比で含む材料を電気化学的に合成し、その電気化学的な酸化電位と還元電位とのヒステリシスの程度を確認した。
【0122】
具体的には、実施例1で用いたモル比がLiBF
4/THF=1/10の非水電解質の代わりに、LiBF
4/THF=1/2の高溶質濃度の非水電解質を用いた。そして、実施例1と同様に、鉄線を作用極、リチウム箔を参照極および対極として用い、電位範囲2.0〜4.0V、掃引速度1mV/秒の条件で、サイクリックボルタムメトリーを行った。
図4は、8サイクル目のサイクリックボルタモグラムである。
【0123】
図4によると、LiBF
4/THF=1/2の非水電解質を用いると、作用極の電位を4Vまで掃引しても、鉄線からの著しい溶解電流は観測されない。一方、電気化学的な酸化波と還元波は可逆的に現れている。
図4から、作用極の表面を覆うFe(BF
4)
2は、非水電解質に溶解しにくく、かつ高電位でも分解しにくいことが示唆される。
【0124】
実験中、LiBF
4の析出は認められなかった。もし、鉄線が反応式(A)において左向きで反応したとすると、非水電解質中のLiBF
4は飽和になり、析出するはずである。したがって、溶質濃度の高い非水電解質中のTHFはFe(BF
4)
2に付加しにくく、反応式(B)で表される反応が進行していることが理解できる。
Fe(BF
4)
2+2Li
++2e⇔Fe+2LiBF
4 ・・・(B)
Fe(BF
4)
2の電気容量は234mAh/gであり、Li
0.5CoO
2の約1.6倍である。
【0125】
なお、有機溶媒にジメトキシエタン(DME)を用い、LiBF
4/DME=1/2の非水電解質を用いる場合にも、同様の結果が得られる。
【0126】
(実施例3)
次に、実施例2と同様に、LiBF
4/THF=1/2の非水電解質を用い、鉄線の代わりに、直径1mmの銅線((株)ニラコ製)を作用極として用いて、電位範囲2.0〜4.5V、掃引速度1mV/秒の条件で、サイクリックボルタムメトリーを行った。
図5は、8サイクル目のサイクリックボルタモグラムである。
【0127】
図5より、銅線を用いる場合にも、ヒステリシスの小さい酸化反応と還元反応が進行することが理解できる。
図5の酸化波および還元波には、それぞれ複数のピークが見られることから、 反応式(C)、(D)および(E)で表される反応が進行していること考えられる。
【0128】
Cu(BF
4)
2+2Li
++2e⇔Cu+2LiBF
4 ・・・(C)
Cu(BF
4)
2+Li
++e⇔CuBF
4+LiBF
4 ・・・(D)
CuBF
4+Li
++e⇔Cu+LiBF
4 ・・・(E)
【0129】
図4、5の比較より、金属イオンを鉄から銅に変更することにより、作用極の電位が約1V上昇することがわかる。Cu(BF
4)
2の電気容量は226mAh/gであり、Li
0.5CoO
2の約1.6倍である。
【0130】
(実施例4)
次に、非水電解質の有機溶媒を、THFから環状カーボネートであるプロピレンカーボネート(PC、キシダ化学(株)製)に変更した。具体的には、モル比がLiBF
4/PC=1/2の非水電解質を用い、銅線を作用極、リチウム箔を参照極および対極として用い、電位範囲2.0〜4.2V、掃引速度1mV/秒の条件で、サイクリックボルタムメトリーを行った。
図6は、8サイクル目のサイクリックボルタモグラムである。
【0131】
図6より、PCを用いる場合にも、ヒステリシスの小さい酸化反応と還元反応が進行することが理解できる。環状カーボネートとしてエチレンカーボネートを用いる場合や、鎖状カーボネートであるジメチルカーボネートを用いる場合にも、同様の結果が得られる。
【0132】
(実施例5)
次に、非水電解質の溶質を、ビス(トリフルオメタンスルホニル)イミドイオン(TFSIイオン)を含むリチウムビス(トリフルオメタンスルホニル)イミド(LiTFSI、(CF
3SO
2)
2NLi、キシダ化学(株)製)に変更した。具体的には、LiTFSI/THF=1/2のモル比の非水電解質を調製した。そして、鉄線を作用極、リチウム箔を参照極および対極として用い、電位範囲2.0〜4.0V、掃引速度1mV/秒の条件で、サイクリックボルタムメトリーを2サイクル行い、作用極の表面に鉄を含む活物質を析出させた。
【0133】
続いて、同じ組成の新たな非水電解質に作用極を浸漬し、電位範囲2.0〜2.9V、掃引速度1mV/秒の条件で、サイクリックボルタムメトリーを20サイクル行った。
図7は、20サイクル目のサイクリックボルタモグラムである。
【0134】
図7より、LiTFSIを含む非水電解質を用いる場合にも、鉄線の電気化学的な酸化反応と還元反応が良好に進行することが理解できる。このとき、鉄線の表面に鉄イオンとTFSIイオンを含む金属塩が生成するコンバージョン反応が進行していると考えられる。Fe(TFSI)
2の電気容量は160mAh/gであり、Li
0.5CoO
2の約1.1倍である。
【0135】
(実施例6)
次に、以下の要領で、マグネシウムイオン(Mg
2+)と多原子アニオン(BF
4-)を含む材料を電気化学的に合成し、その電気化学的な酸化電位と還元電位との乖離(ヒステリシス)の程度を確認した。
【0136】
まず、LiBF
4(キシダ化学(株)製)と、テトラヒドロフラン(THF、キシダ化学(株)製)とを、LiBF
4/THF=1/10のモル比で含む非水電解質を調製した。
【0137】
作用極には、インジウムを介してニッケルリードを接続したマグネシウムリボン((株)高純度化学研究所 製)を用いた。作用極は、ポリプロピレン製のセパレータ(セルガード、 ポリポア社製)の袋に収納した。対極および参照極は、実施例1と同様に作製した。
【0138】
作用極、参照極および対極を、非水電解質に浸漬し、作用極に対して1mAのアノード電流を20時間流したところ、マグネシウムリボンの表面に析出物が溜まり、セパレータの袋が膨らんだ。セパレータの袋内に溜まった析出物をTHFで洗浄し、LiBF
4を分離することで白色物質を得た。イオンクロマトグラフィーなどを用いて分析したところ、白色物質はMg(BF
4)
2・6THFの組成を有する新規物質であった。以上より、作用極では、反応式(F)が進行していることが示唆される。
Mg+2BF
4-+6THF→Mg(BF
4)
2・6THF+2e・・・(F)
【0139】
Mg(BF
4)
2・6THFを生成する際のアノード電気量、Mg(BF
4)
2・6THFの実際の収量、洗浄に用いたTHF量などを考慮すると、Mg(BF
4)
2・6THFの溶解度は、Mg/THFのモル比では1/100以下であった。
【0140】
(実施例7)
次に、以下の要領で、実施例6で合成したMg(BF
4)
2・6THFから、非水電解質中でマグネシウム金属を電気化学的に生成可能であることを確認した。ここでも、モル比がLiBF
4/THF=1/10の非水電解質を用いた。
【0141】
Mg(BF
4)
2・6THFとジグライム(diglyme、キシダ化学(株)製)とを混合してペースト状にし、鉄箔((株)ニラコ製)に塗布した。塗布したペーストを室温で減圧乾燥し、鉄リード線を抵抗溶接してMg(BF
4)
2を含む作用極を作製した。一方、実施例1と同様に、リチウム金属の対極と参照極を作製した。
【0142】
作用極、参照極および対極を、非水電解質に浸漬し、作用極の電位を参照極に対して0.6Vに維持し、72時間保持した。0.6Vの電位は、非水電解質中のリチウムイオンの還元によりマグネシウムとリチウムの合金が形成されない電位である。
【0143】
0.6Vに保持した後の作用極を、THFで洗浄し、乾燥後、走査型電子顕微鏡で観察すると、
図8に示すように、板状もしくは髭状の析出物が見られた。X線光電子分光法により、マグネシウムの状態を調べると、結合エネルギーが49eVのピークが観測された。このことから、Mg(BF
4)
2・6THFは、マグネシウム金属に還元されていることを確認した。すなわち、作用極では、反応式(G)が進行した。
Mg(BF
4)
2・6THF+2e→Mg+2BF
4-+6THF・・・(G)
【0144】
実施例6および実施例7から、BF
4-を含む非水電解質中で、電気化学的な還元によるマグネシウム金属の生成と、マグネシウム金属の酸化によるマグネシウム化合物(第二金属塩)の生成が可能であることが理解できる。すなわち、マグネシウムイオン伝導性の非水電解質を用いることなく、マグネシウム金属を負極材料として使用できることがわかる。非水電解質中でマグネシウム化合物からマグネシウム金属を生成させる反応や、その逆反応が進行する理由として、マグネシウム化合物が僅かに非水電解質に溶解することが挙げられる。
【0145】
なお、Mg(BF
4)
2は、非水電解質二次電池の活物質として適する一方で、6水和塩であるMg(BF
4)
2・6H
2Oの熱処理によって得ることは困難である。ところが、本発明によれば、Mg(BF
4)
2を容易に得ることができるため、マグネシウム金属を負極とする二次電池の提供が容易となる。
【0146】
(
参考例1)
活性炭粉末を正極に用い、実施例6で合成したMg(BF
4)
2・6THFを負極に用いて、ハイブリッドキャパシタを作製した。
【0147】
(i)正極
フェノール樹脂を原料とする比表面積1700m
2/gの活性炭粉末と、導電剤であるアセチレンブラックと、結着剤であるカルボキシメチルセルロースのアンモニウム塩と、分散媒である水およびメタノールとを、10/2/1/100/40の重量比で混合して、ペーストを調製した。このペーストを厚さ20μmのアルミニウム箔製の集電体の片面に塗布後、乾燥して、厚さ80μmの活性炭粉末層を有する正極を形成した。正極を30mm×30mmのサイズに切断後、リードを具備する厚さ0.5mmのアルミニウム集電板に超音波溶接した。
【0148】
(ii)負極
Mg(BF
4)
2・6THFと、導電剤である銅粉((株)高純度化学研究所製)と、増粘剤であるジグライムとを、80/10/10の重量比で混合してペーストを調製した。このペーストを厚さ15μmの電解銅箔製の集電体の片面に塗布後、乾燥と圧延を行い、厚さ10μmの活物質層を有する負極を形成した。負極を30mm×30mmのサイズに切断後、リードを具備する厚さ0.5mmの銅集電板に超音波溶接した。
【0149】
(iii)非水電解質
モル比がLiBF
4/THF=1/10の非水電解質を調製した。
【0150】
(iv)キャパシタ
作製した正極と負極とを、非水電解質に浸漬し、両極間に2.3Vの電圧を印加し、1時間保持した。そして、1mAの電流で1.3Vまで放電して、放電容量Aを測定した。続いて、同様に、両極間の電圧を2.3Vで保持し、10mAの電流で1.3Vまで放電して、放電容量Bを測定した。測定された放電容量Bを用いて、B/A比を求めたところ、0.994であった。
【0151】
(比較例1)
リチウム金属を負極に用いる他は、実施例8と同様にして、ハイブリッドキャパシタを組み立てた。
【0152】
作製した活性炭粉末層を有する正極と、リチウム金属からなる負極とを、非水電解質に浸漬し、両極間に3.3Vの電圧を印加し、1時間保持した。そして、1mAの電流で2.3Vまで放電して、放電容量A´を測定した。続いて、同様に、両極間の電圧を3.3Vで保持し、10mAの電流で2.3Vまで放電して、放電容量B´を測定した。測定された放電容量B´を用いて、B´/A´を求めたところ、0.939であった。
【0153】
実施例8および比較例1のハイブリッドキャパシタの放電容量比を比較すると、実施例8のハイブリッドキャパシタは、高速放電に優れることがわかる。これは、実施例8のハイブリッドキャパシタは、非水電解質中をBF
4-が移動するのに対し、比較例1のハイブリッドキャパシタは、BF
4-とともにLi
+が移動するためである。テトラヒドロフランに溶媒和されたLi
+の移動度が小さいことが原因である。
【0154】
(
参考例2)
以下の要領で、ポリチオフェンを含む正極、Mg(BF
4)
2・6THFを含む負極を具備する非水電解質二次電池を組み立てた。
【0155】
ポリチオフェンは、チオフェンを含むアセトニトリル溶液中で、チオフェンを電解重合することにより得た。まず、チオフェン(Th、シグマアルドリッチジャパン社製)と、テトラフルオロホウ酸リチウム(LiBF
4)と、アセトニトリル(AN、キシダ化学(株)製)とを、Th/LiBF
4/AN=1/1/100のモル比で含む溶液を調製した。次に、2枚の白金網((株)ニラコ製)とリチウム金属からなる参照極とを溶液に浸漬し、 一方の白金網に4.5Vの電位を印加したところ、17mAのアノード電流が流れ、ポリチオフェンが生成するのが観測された。300秒後、電位の印加を停止し、0.1mAのカソード電流を流したところ、3.0Vの電位に達するまでに、白金網の1cm
2あたり、0.12mAhの電気量を得た。
【0156】
負極には、マグネシウム金属を用いた。ここでは、25mm×25mmのマグネシウム箔(アルファ・イーサー社製)の表面をナイフで磨いた後、ニッケルリードを接続して負極として用いた。
【0157】
正極と負極とを、 厚さ25μmのポリプロピレン製の多孔質膜(セルガード、ポリポア社製)を介して一体化し、電極群を構成した。
【0158】
ここでは、テトラフルオロホウ酸テトラブチルアンモニウム((Bu)
4NBF
4、キシダ化学(株)製)およびTHFを含む、モル比が(Bu)
4NBF
4/THF=1/10の非水電解質を用いた。
【0159】
電極群を非水電解質に浸漬し、0.1mAの定電流で、2.0〜3.2Vの範囲で充放電を行ったところ、白金網の1cm
2あたり、0.09mAhの電気量を得た。
【0160】
(実施例10)
次に、非水電解質に、イオン液体を用いる場合について検討した。
まず、LiBF
4(キシダ化学(株)製)と、DEME・BF
4(関東化学(株)製)とを含む、モル比がLiBF
4/DEME・BF
4=1/10の非水電解質を調製した。DEMEは、ジエチルメチル−(2−メトキシエチル)アンモニウムイオン((C
2H
5)
2(CH
3)(CH
3OCH
2CH
2)N
+)である。
【0161】
作用極として、直径1mmの鉄線((株)ニラコ製)を準備した。
対極および参照極として、ニッケル製リードを圧着したリチウム箔(本城金属(株)製)を準備した。
【0162】
作用極、参照極および対極を、非水電解質に浸漬し、作用極の電位を3.2Vに保持し、作用極の表面に、鉄イオン(Fe
2+)と多原子アニオン(BF
4-)とを含む物質を析出させた。この物質をICP発光分析、イオンクロマトグラフィーおよび熱分析により同定したところ、Fe(BF
4)
2であった。
【0163】
次に、Fe(BF
4)
2を表面に析出させた作用極の電位を3.2Vに保持し、作用極を正極に見立て、LiBF
4/DEME・BF
4=1/10の非水電解質中で、5μAの定電流で、作用極の電位が2.0Vになるまで放電した。
【0164】
図9は、3.2Vの定電位での保持と、5μAでの定電流放電とを繰り返したときの、1、3および5サイクル目における放電曲線である。このとき起きている反応は、実施例2での反応と同様、反応式(B1)で表される反応である。
Fe(BF
4)
2+2Li
++2e→Fe+2LiBF
4・・・(B1)
【0165】
図9において、放電時の平坦電位は2.4Vであり、充電電位との差(ヒステリシス)は0.8Vである。よって、FeF
2の電位差(60℃で1V以上)よりも改善されていることがわかる。
【0166】
(実施例11)
次に、鉄線の代わりに、直径1mmの銅線((株)ニラコ製)を作用極として用いて、実施例10と同様の実験を行った。非水電解質、参照極および対極には、実施例10と同じものを用いた。ここでは、作用極、参照極および対極を、非水電解質に浸漬し、作用極の電位を4.5Vに保持し、作用極の表面にCu(BF
4)
2を析出させた。
【0167】
次に、Cu(BF
4)
2、導電剤であるアセチレンブラック(AB)および結着剤であるポリテトラフルオロエチレン粉末(PTFE)を、Cu(BF
4)
2/AB/PTFE=70/20/10の質量比で混練し、双ローラー圧延してシートを作製した。このシートから3mmのディスクを打ち抜き、100メッシュの白金網に圧着することで、試験極を得た。試験極は、電池やハイブリッドキャパシタの正極に相当する。
【0168】
得られた試験極を用いて、10μA/cm
2の定電流で、2.6〜4.2Vの範囲で充放電を行った。
図10は、1、3および5サイクル目における放電曲線である。
図10より、約3.4Vの平均電位で放電が起こることがわかる。この電位は、Fe(BF
4)
2に比べて1V程度高い電位である。また、放電曲線に屈曲が見られることから、反応式(C1)、(D1)および(E1)が進行していると判断できる。
【0169】
Cu(BF
4)
2+2Li
++2e→Cu+2LiBF
4・・・(C1)
Cu(BF
4)
2+Li
++e→CuBF
4+LiBF
4・・・(D1)
CuBF
4+Li
++e→Cu+LiBF
4・・・(E1)
【0170】
(実施例12)
次に、活物質および電解質(イオン液体)の多原子アニオンとして、PF
3(C
2F
5)
3-(FAP)を用いて、電気化学的挙動を調べた。
【0171】
まず、ニッケルリボンにリチウム箔を圧着したものを電極Aとして準備した。次に、黒鉛粉末(シグマアルドリッチ社製)とスチレンブタジエンゴムとを混練してシート状にしたものを電極Bとして準備した。電極Aと電極Bとを、非水電解質である(C
2H
5)(CH
3)
2(CH
3OCH
2CH
2)N・PF
3(C
2F
5)
3(MOEDEA・FAP)を染みこませたガラス繊維セパレータを介して対向させて、セルを組み立てた。MOEDEAは、エチルジメチル−(2−メトキシエチル)アンモニウムイオン((C
2H
5)(CH
3)
2(CH
3OCH
2CH
2)N
+)である。
【0172】
次に、電極Aに10μA/cm
2のアノード電流を流すことで、電極Aからリチウムイオン(Li
+)をガラス繊維セパレータに溶出させた。これにより、ガラス繊維セパレータに含まれていたMOEDEAイオンが電極Bに挿入される反応が進行した。通電を続けることで、ガラス繊維セパレータに含まれる非水電解質の組成(モル比)は、Li・FAP/MOEDEA・FAP=1/20となった。
【0173】
次に、上記セルから電極Bを取り出し、代わりに、厚さ100μmの銅箔((株)ニラコ製)を貼り合わせた。その結果、リチウム箔と、Li・FAPを含む非水電解質と、銅箔とを具備するセルが完成した。このセルを用いて、10μA/cm
2の定電流で、2.6〜4.2Vの範囲で充放電を行った。
【0174】
図11は、1、3および5サイクル目における放電曲線である。
図11より、Cu(BF
4)
2と同様、約3.4Vの平均電圧で放電が起こることがわかる。また、多原子イオンにFAPを用いると、BF
4-を用いる場合に比べ、サイクル特性が向上することがわかる。また、Cu(BF
4)
2と同様の電圧挙動であることから、反応式(H)で示される反応が進行していることが示唆される。
Cu(FAP)
2+2Li
++2e→Cu+2Li・FAP・・・(H)
【0175】
(実施例13)
次に、金属イオンとしてビスマスイオン(Bi
3+)を用いて、実施例10と同様の実験を行った。非水電解質、参照極および対極には、実施例10と同じものを用いた。作用極には、直径約1.5mmのビスマス線(アルファ・イーサー社製)を用いた。
【0176】
まず、作用極、参照極および対極を、非水電解質に浸漬し、1mV/秒の掃引速度で、1.7〜4.2Vの範囲でサイクリックボルタムメトリーを行った。
図12は、3サイクル目の波形である。
【0177】
図12より、電圧範囲1.7〜3.7Vにかけて、3つの還元ピークが現れることがわかる。ビスマスは+1と+3の価数を取り得ることから、4.2Vまでの掃引で生成したBi(BF
4)
3は、反応式(I)、(J)および(K)で表される反応により、Biにまで還元されることがわかる。Bi(BF
4)
3がBiまで還元されるときの電気容量は171mA/gである。
【0178】
Bi(BF
4)
3+3Li
++3e→Bi+3LiBF
4・・・(I)
Bi(BF
4)
3+2Li
++2e→BiBF
4+2LiBF
4・・・(J)
BiBF
4+Li
++e→Bi+LiBF
4・・・(K)
【0179】
次に、ビスマス粉末(アルファ・イーサー社製)、導電剤であるアセチレンブラック(AB)および結着剤であるポリテトラフルオロエチレン粉末(PTFE)を、Bi/AB/PTFE=70/20/10の質量比で混練し、双ローラーで圧延してシートを作製した。このシートから3mmのディスクを打ち抜き、100メッシュの白金網に圧着することで、試験極を得た。試験極は、電池やハイブリッドキャパシタの正極に相当する。
【0180】
得られた試験極を用いて、10μA/cm
2の定電流で、1.7〜3.6Vの範囲で充放電を行った。
図13は、1、3および5サイクル目における放電曲線である。
図13より、
図12における低電位側の還元電流に相当する放電曲線が得られることがわかる。
【0181】
(実施例14)
次に、活物質を構成する多原子アニオンと非水電解質を構成する多原子アニオンとが異なる場合に、活物質を構成する金属イオンの酸化還元反応が安定して進行することを確かめた。
【0182】
ここでは、モル比がLiCF
3SO
3/DEME・BF
4=1/10の非水電解質を用いた。参照極および対極には、実施例10と同じものを用いた。作用極には、直径1mmの銅線を用いた。
【0183】
作用極を4.5Vの電位に保持すると、Cu(BF
4)
2よりもCu(CF
3SO
3)
2が多く生成した。これは、銅イオンが充電においてはBF
4-よりもCF
3SO
3-と優先的に反応するためである。
【0184】
次に、Cu(CF
3SO
3)
2(triflate)、導電剤であるアセチレンブラック(AB)および結着剤であるポリテトラフルオロエチレン粉末(PTFE)を、triflate/AB/PTFE=70/20/10の質量比で混練し、双ローラーで圧延してシートを作製した。このシートから3mmのディスクを打ち抜き、100メッシュの白金網に圧着することで、試験極を得た。試験極は、電池やハイブリッドキャパシタの正極に相当する。
【0185】
次に、モル比がLiBF
4/DEME・BF
4=1/10の非水電解質を用い、試験極を用いて、10μA/cm
2の定電流で、2.6〜4.2Vの範囲で充放電を行った。
図14は、1、3および5サイクル目における放電曲線である。
【0186】
図14より、約3.3Vの平均電位で放電が進行することがわかる。この電位では、反応式(L)で示される反応が起こる。実施例11の
図10と比較すると、電位はCu(BF
4)
2に比べて0.1V程度低いが、サイクル特性は、大幅に改善されている。
Cu(CF
3SO
3)
2+2Li
++2e→Cu+2LiCF
3SO
3・・・(L)
【0187】
(実施例15)
実施例14と同様に、活物質を構成する多原子アニオンと非水電解質を構成する多原子アニオンとが異なる場合に、活物質を構成する金属イオンの酸化還元反応が安定して進行することを確かめた。
【0188】
ここでは、モル比がLiClO
4/TMPA・TFSI=1/10の非水電解質を用いた。TMPAはトリメチルプロピルアンモニウムイオンであり、TFSIは(CF
3SO
3)
2N
-である。参照極および対極には、実施例10と同じものを用いた。作用極には、直径1mmの銅線を用いた。
【0189】
まず、作用極を4.5Vの電位に保持することにより、Cu(ClO
4)
2を調製した。次に、Cu(ClO
4)
2、導電剤であるアセチレンブラック(AB)および結着剤であるポリテトラフルオロエチレン粉末(PTFE)を、Cu(ClO
4)
2/AB/PTFE=70/20/10の質量比で混練し、双ローラーで圧延してシートを作製した。このシートから3mmのディスクを打ち抜き、100メッシュの白金網に圧着することで、試験極を得た。そして、試験極を用いて、同じ組成の非水電解質中で、10μA/cm
2の定電流で、2.6〜4.2Vの範囲で充放電を行った。
図15は、1、3および5サイクル目における放電曲線である。
【0190】
図15より、約3.2Vの平均電位で放電が進行することがわかる。この電位では、反応式(M)で示される反応が起こる。実施例11の
図10と比較すると、電位はCu(BF
4)
2に比べて0.2V程度低いが、サイクル特性は、改善されている。
Cu(ClO
4)
2+2Li
++2e→Cu+2LiClO
4・・・(M)
【0191】
以上のように、金属イオンと多原子アニオンとを含む金属塩は、電気化学的に簡単に調製することができる。また、このような金属塩を用いると、ヒステリシスの小さい酸化反応と還元反応が進行する。よって、充電効率が高くなり、放電での電圧低下が抑制される。また、多原子アニオンの式量を小さくすることで、高エネルギー密度の電気化学エネルギー蓄積デバイスを得ることができる。
【0192】
また、金属イオンがマグネシウムイオンである場合、非水電解質中のマグネシウムイオン濃度が低くても、マグネシウム金属を負極に生成させることができる。よって、電気化学エネルギー蓄積デバイスの負極にマグネシウム金属を用いることができる。マグネシウムは、酸化還元電位が低く、かつ高容量であるので、高エネルギー密度の電気化学エネルギー蓄積デバイスに適している。
【0193】
図16に、電気化学エネルギー蓄電デバイス10の構成の一例を示す。蓄電デバイス10は、ケース1内に収容された非水電解質3と、非水電解質3に浸漬された正極2および負極4と、で構成されている。正極2と負極4とは、
図16に示されるように、多孔質膜(セパレータ)5を介して対向させることが望ましい。正極2に、金属製の正極リード2aを接続し、これをケース1から外部に導出することで、正極外部端子を形成することができる。また、負極4に、金属製の負極リード4aを接続し、これをケース1から外部に導出することで、負極外部端子を形成することができる。なお、上記構成は、電気化学エネルギー蓄電デバイス10の構成の一例に過ぎず、電気化学エネルギー蓄電デバイスの構成は、これに限定されない。