(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6087842
(24)【登録日】2017年2月10日
(45)【発行日】2017年3月1日
(54)【発明の名称】ニュートンリングの生じやすさが低減された電子デバイス及び/又はその製造方法
(51)【国際特許分類】
G02F 1/1335 20060101AFI20170220BHJP
G02F 1/13357 20060101ALI20170220BHJP
G02F 1/1333 20060101ALI20170220BHJP
G02F 1/13 20060101ALI20170220BHJP
G02B 5/20 20060101ALI20170220BHJP
G02B 1/11 20150101ALI20170220BHJP
G02B 5/30 20060101ALI20170220BHJP
G02B 1/10 20150101ALI20170220BHJP
【FI】
G02F1/1335
G02F1/13357
G02F1/1333
G02F1/13 505
G02B5/20 101
G02B1/10 A
G02B5/30
G02B1/10 Z
【請求項の数】18
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-552545(P2013-552545)
(86)(22)【出願日】2012年1月19日
(65)【公表番号】特表2014-510297(P2014-510297A)
(43)【公表日】2014年4月24日
(86)【国際出願番号】US2012021799
(87)【国際公開番号】WO2012106124
(87)【国際公開日】20120809
【審査請求日】2015年1月13日
(31)【優先権主張番号】13/020,987
(32)【優先日】2011年2月4日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】593005002
【氏名又は名称】ガーディアン・インダストリーズ・コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100104215
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100117330
【弁理士】
【氏名又は名称】折居 章
(74)【代理人】
【識別番号】100123733
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 大樹
(74)【代理人】
【識別番号】100160989
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 正好
(74)【代理人】
【識別番号】100168181
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 哲平
(74)【代理人】
【識別番号】100168745
【弁理士】
【氏名又は名称】金子 彩子
(74)【代理人】
【識別番号】100170346
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 望
(74)【代理人】
【識別番号】100176131
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】クラスノブ アレクセイ
(72)【発明者】
【氏名】デン ボア ウィレム
(72)【発明者】
【氏名】ブロードウェイ デイビット エム.
【審査官】
廣田 かおり
(56)【参考文献】
【文献】
特開平11−054053(JP,A)
【文献】
特開平01−196030(JP,A)
【文献】
特開2009−075297(JP,A)
【文献】
特開2008−083491(JP,A)
【文献】
特開2008−256728(JP,A)
【文献】
特開2008−053231(JP,A)
【文献】
特開2004−101851(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/1335
G02B 5/20
G02B 5/30
G02F 1/13
G02F 1/1333
G02F 1/13357
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶材料含有層を挟持するTFT基板及びカラーフィルター基板と、
光を放出するように構成され、かつ、前記TFT基板と隣接して供給されたバックライトと、
前記カラーフィルター基板と隣接するカバーガラス基板と、
前記カラーフィルター基板と前記カバーガラス基板との間の領域にあり、かつ、前記カバーガラス基板の内部又はその上の対応する変形個所と隣接している少なくとも1つの空気溜り部と、
前記カラーフィルター基板に面した前記カバーガラス基板の第1主表面の上に直接的に又は間接的に供給された第1反射防止(antireflective、AR)コーティングと、
前記カバーガラス基板の第2主表面の上に直接的に又は間接的に供給された第2ARコーティングと、
を備え、
前記第1及び第2ARコーティングを光学的に調整して、少なくとも1つの前記空気溜り部と前記対応する変形個所とに隣接する領域であってしかも前記カラーフィルター基板と前記カバーガラス基板との対向面間にある領域において前記バックライトから放出された光の建設的干渉を抑えることで、それに応じてニュートンリングの発生及び/又は強度を低減させ、
前記第1及び第2ARコーティングが、前記カバーガラス基板から順に
厚さ90〜120nmの中程度の屈折率の層と、
厚さ10〜25nmの高屈折率の層と、
厚さ80〜120nmの低屈折率の層と、
を備えており、前記中程度の屈折率の層の550nmでの屈折率が1.6〜1.9であり、前記高屈折率の層の550nmでの屈折率が2.0よりも高く、そして前記低屈折率の層の550nmでの屈折率が1.6よりも低い、
液晶ディスプレイ(LCD)装置。
【請求項2】
前記低屈折率の層の550nmでの屈折率が1.45〜1.55である、
請求項1に記載の液晶ディスプレイ(LCD)装置。
【請求項3】
前記高屈折率の層の550nmでの屈折率が2.2〜2.6である、
請求項1又は2に記載の液晶ディスプレイ(LCD)装置。
【請求項4】
前記高屈折率の層がTi、Nb、Zr及び/又はCrの酸化物を含み、そして前記低屈折率の層がSi、Ti及び/若しくはAlの酸化物及び/又は窒化物を含む、
請求項1〜3のいずれか1項に記載の液晶ディスプレイ(LCD)装置。
【請求項5】
前記第1及び第2ARコーティングが、接着接合されたARフィルムである、
請求項1〜4のいずれか1項に記載の液晶ディスプレイ(LCD)装置。
【請求項6】
前記カラーフィルター基板上に配置された前面偏光板と、
前記TFT基板と前記バックライトとの間に挿入された背面偏光板と
を更に備える、
請求項1〜5のいずれか1項に記載の液晶ディスプレイ(LCD)装置。
【請求項7】
互いに実質上平行になっている第1ガラス基板及び第2ガラス基板と、
光を放出するように構成されたバックライトと、
前記第1ガラス基板内の少なくとも1か所の変形個所であって、前記変形個所がそれぞれ対応する空気溜り部によって少なくとも部分的に取り囲まれており、前記第1ガラス基板及び前記第2ガラス基板が、前記少なくとも1か所の変形個所及び前記対応する空気溜り部に隣接した領域では互いに平行になっていない少なくとも1か所の変形個所と、
前記第2ガラス基板に面した前記第1ガラス基板の両主表面に設けられ、前記バックライトから放出される光の反射を前記第1ガラス基板と前記第2ガラス基板との間で抑え、それに応じてニュートンリングの発生及び/又は強度を低減するように構成されているニュートンリング防止(Anti-Newton Ring、ANR)コーティングと、
を備え、
前記第ANRコーティングが、前記第1ガラス基板から順に
厚さ90〜120nmの中程度の屈折率の層と、
厚さ10〜25nmの高屈折率の層と、
厚さ80〜120nmの低屈折率の層と、
を備えており、前記中程度の屈折率の層の550nmでの屈折率が1.6〜1.9であり、前記高屈折率の層の550nmでの屈折率が2.0よりも高く、そして前記低屈折率の層の550nmでの屈折率が1.6よりも低い、
電子デバイス。
【請求項8】
高屈折率の層がTi、Nb、Zr及び/又はCrの酸化物を含み、
前記低屈折率の層がSi、Ti及び/若しくはAlの酸化物及び/又は窒化物を含む、
請求項7に記載の電子デバイス。
【請求項9】
前記電子デバイスがフラットパネルデバイス又はタッチパネルデバイスである、
請求項7又は8に記載の電子デバイス。
【請求項10】
前記電子デバイスがコピー機又は写真引き伸ばし機である、
請求項7〜9のいずれか1項に記載の電子デバイス。
【請求項11】
前記第1ガラス基板と前記第2ガラス基板とが、空気溜り部に隣接した領域では2000nm以上離れていない、
請求項7〜10のいずれか1項に記載の電子デバイス。
【請求項12】
第1ガラス基板の両主表面にニュートンリング防止(ANR)コーティングを配置する工程を含み、
前記第1ガラス基板は、前記第2ガラス基板と実質上平行に方向付けをすることができ、
前記第1ガラス基板に少なくとも1か所の変更箇所を形成するが、前記変形個所はそれぞれ対応する空気溜り部によって少なくとも部分的に取り囲まれており、前記第1ガラス基板と前記第2ガラス基板とは、前記少なくとも1か所の変形個所及び前記対応する空気溜り部に隣接する領域では互いに平行になっておらず、
前記ANRコーティングが、バックライトから放出される光の反射を第1ガラス基板と第2ガラス基板との間で抑え、それに応じてニュートンリングの発生及び/又は強度を低減するように構成され、
前記第ANRコーティングが、前記第1ガラス基板から順に
厚さ90〜120nmの中程度の屈折率の層と、
厚さ10〜25nmの高屈折率の層と、
厚さ80〜120nmの低屈折率の層と、
を備えており、前記中程度の屈折率の層の550nmでの屈折率が1.6〜1.9であり、前記高屈折率の層の550nmでの屈折率が2.0よりも高く、そして前記低屈折率の層の550nmでの屈折率が1.6よりも低い、
被覆物品の製造方法。
【請求項13】
前記高屈折率の層がTi、Nb、Zr及び/又はCrの酸化物を含み、
前記低屈折率の層がSi、Ti及び/若しくはAlの酸化物及び/又は窒化物を含む、
請求項12に記載の被覆物品の製造方法。
【請求項14】
前記高屈折率の層の550nmでの屈折率が2.2〜2.6である、
請求項12又は13に記載の被覆物品の製造方法。
【請求項15】
前記第1ガラス基板がカバーガラス基板であり、そして前記第2ガラス基板がカラーフィルター基板である、
請求項12〜14のいずれか1項に記載の被覆物品の製造方法。
【請求項16】
第1ガラス基板及び第2ガラス基板を互いに実質上平行関係で供給する工程を含み、
前記第1ガラス基板に少なくとも1か所の変更箇所を形成するが、前記変形個所はそれぞれ対応する空気溜り部によって少なくとも部分的に取り囲まれており、前記第1ガラス基板と前記第2ガラス基板とは前記少なくとも1か所の変形個所及び前記対応する空気溜り部に隣接した領域では互いに平行になっておらず、
ニュートンリング防止(ANR)コーティングを、前記第1ガラス基板の両主表面上に配置し、前記ANRコーティングが、前記第2ガラス基板に隣接して配置されたバックライトから放出される光の反射を前記第1ガラス基板と前記第2ガラス基板との間で抑え、それに応じてニュートンリングの発生及び/又は強度を低減するように構成され、
前記第ANRコーティングが、前記第1ガラス基板から順に
厚さ90〜120nmの中程度の屈折率の層と、
厚さ10〜25nmの高屈折率の層と、
厚さ80〜120nmの低屈折率の層と、
を備えており、前記中程度の屈折率の層の550nmでの屈折率が1.6〜1.9であり、前記高屈折率の層の550nmでの屈折率が2.0よりも高く、そして前記低屈折率の層の550nmでの屈折率が1.6よりも低い、
電子デバイスの製造方法。
【請求項17】
前記電子デバイスがフラットパネルディスプレイ装置である、
請求項16に記載の電子デバイスの製造方法。
【請求項18】
前記高屈折率の層がTi、Nb、Zr及び/又はCrの酸化物を含みそして550nmでの屈折率が2.1より大きく、
前記低屈折率の層がSi、Ti及び/若しくはAlの酸化物及び/又は窒化物を含みそして550nmでの屈折率が1.6未満である、
請求項16又は17に記載の電子デバイスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の特定の実施態様例は、電子デバイス及び/又はその製造方法に関する。さらに詳細には、本発明の特定の実施態様例は、ニュートンリングの生じやすさが低減された改良型ディスプレイ装置(例えば、LCD装置)及び/又はその製造方法に関する。特定の実施態様例では、反射防止(AR)コーティングは、1か所以上の偶発的なガラス変形個所を取り囲む空気溜り部によって生じるニュートンリングの形成を低減するのに役立つように、ディスプレイ装置のカバーガラス上に設ける。
【背景技術】
【0002】
LCD装置は当該技術分野で公知である。例えば、米国特許第7,602,360号、同第7,408,606号、同第6,356,335号、同第6,016,178号及び同第5,598,285号を参照し、これにより前記特許公報の全体をそれぞれ本明細書に組み込む。
【0003】
図1は典型的なLCDディスプレイ装置1の断面図である。ディスプレイ装置1は一般に、第1基板4と第2基板6との間に挟持された液晶材料層2を備えており、そして第1基板4及び第2基板6は通常ホウケイ酸ガラス基板である。第1基板4はカラーフィルター基板と呼ばれることが多く、また、第2基板6はアクティブ基板又はTFT基板と呼ばれることが多い。
【0004】
第1基板4又はカラーフィルター基板4の上には通常、例えばディスプレイの色品質を高めるためにブラックマトリックス8が形成されている。ブラックマトリックスを形成するために、ポリマーベース、アクリルベース、ポリイミドベース、金属ベース又は他の好適なベースをブランケット層として配置した後、フォトリソグラフィー法等を用いてパターニングしてよい。各カラーフィルター10は、ブラックマトリックスに形成されたホールの中に配置する。通常、各カラーフィルターは、赤色10a、緑色10b及び青色10cのカラーフィルターから構成されることが多いが、前記要素の代わりに又は前記要素に加えて他の色を用いてもよい。各カラーフィルターはフォトリソグラフィー法で形成されてもよく、インクジェット法で形成されてもよく、又は他の好適な方法で形成されてもよい。インジウムスズ酸化物(ITO)又は他の好適な導電性材料で形成された共通電極12は通常、基板の実質上全体に形成するか、又はブラックマトリックス12と各カラーフィルター10a、10b及び10cの上に形成する。
【0005】
第2基板6又はTFT基板6の上にはTFTアレイ14が形成されている。TFTは、駆動回路(図示せず)によって選択的に作動して液晶材料層2内の液晶光バルブの機能を制御する。TFT基板及びその上に形成されたTFTアレイについては、例えば米国特許第7,589,799号、同第7,071,036号、同第6,884,569号、同第6,580,093号、同第6,362,028号、同第5,926,702号及び同第5,838,037号に記載されており、これにより、前記特許公報の全体をそれぞれ本明細書に組み込む。
【0006】
図1に示されてはいないが、通常のLCDディスプレイ装置には光源、1つ以上の偏光板及び/又はアライメント層等が収容されていてもよい。また、カバーガラスを設けることで、例えばカラーフィルター基板及び/又は他の更に内側の構成要素を保護するのに役立つ可能性もある。
【0007】
例えばLCD等のフラットパネルディスプレイ、写真引き伸ばし機、タッチパネルディスプレイ、コピー機等を含む多数の光学アセンブリでは、ニュートンリングが生じる。ニュートンリング現象は、例えば2枚のガラス(又は他の少なくとも部分的に透明な媒体、例えばタッチパネルディスプレイの場合の透明導電酸化物(TCO)コーティングしたガラス)を互いに近接近させて空気溜り部を形成すると観測される。
【0008】
図2はニュートンリングの外観を説明するのに役立つ部分概略図である。更に詳細には、第1基板20及び第2基板22は互いに間隔を空けて設置する。ただし、第1基板20及び第2基板22は互いに完全に平行になっていない。平行関係にないことは、例えば第1基板20と第2基板22の間のような不完全な咬合法や、基板の一方若しくは両方を曲げること等に起因してよい。平行関係にないことによって空気溜り部24a及び24bが生じる。一部の光26は第1基板20及び第2基板22を通して伝わることができる。
【0009】
しかし、一部の透過光及び/又は反射光26bは、第1基板20及び第2基板22の向かい合った「内」表面間で跳ね返る。跳ね返った光26bは、ガラスを通過する反射されない光線と建設的に干渉する(constructively interferes)。その結果生じた干渉縞が、望ましくないニュートンリング28を引き起こす。単色光で照らすと、ニュートンリングは2表面間の接点に中心を持つ明るいリングと暗いリングが交互に並んだ連続的な同心円のように見える。白色光で照らすと、ニュートンリングは虹色の同心円パターンのように見えるが、これは、波長の異なる光が前記表面間の様々な厚さの空気溜り部で干渉することに起因する。ニュートンリングは一般に、LCD装置の最も外側の表面を押圧すると現れる可能性がある。
【0010】
ニュートンリングは通常、画質を低下して審美的にマイナスの影響をもたらすと判断されるので、大抵の用途において好ましくない。
【0011】
ニュートンリングの発生を低減しようとする中で多くの技法が現れた。例えば、米国特許第7,342,253号、同第6,956,631号、同第6,953,432号、同第6,429,921号及び同第5,594,574、並びに米国出願公開番号2002/0154100、同2008/0024870及び同2010/0165551を参照のこと。これにより、これら各特許/出願公開公報の内容を全て参照として本明細書に組み込む。
【0012】
写真引き伸ばし機において現在利用可能な多くの現実的なニュートンリング防止(Anti-Newton RIng、ANR)解決策は主に、2枚のガラス(又はガラスとフィルム)のうちの1面のガラス表面に微細な凸凹を作成することによって物理的に分離することに基づいている。この凸凹は通常、ガラスに軽微な化学的なテクスチャー加工をすることによって又はガラス上のポリマー樹脂コーティングに適したサイズの粒子を埋込むことによって作成される。この解決策には数多くのバリエーションがある。
【0013】
図3は、ニュートンリングを出現させる構造を有する代表的なLCD装置の部分概略図である。
図3に示すように、液晶材料含有層はカラーフィルター基板4とTFT基板6とで挟持されている。カバーガラス32は最も外側の保護層として設けられている。カバーガラスには、上述のように、空気溜り部24a及び24bを生じさせる偶発的なガラス変形個所34がある。背面偏光板38a、TFT基板6、液晶材料含有層2、カラーフィルター基板4及び偶発的なガラス変形個所34と空気溜り部24a及び24bとに隣接した前面偏光板38bを通過したバックライト36からの光が建設的に干渉することで、ニュートンリング28が出現する。
【0014】
特定のLCD設計では、薄いカバーガラスを前面偏光板に積層する。しかし、薄いカバーガラスを前面偏光板に積層すると、積層材料とガラスとの屈折率が違うことから、望ましくない光反射が更に生じる。また、積層プロセスは、最終製造段階におけるディスプレイへのカバーガラスの積層が上手くいかないと装置全体が失われるかもしれないので、生産収率に悪影響を及ぼす可能性がある場合もある。
【0015】
特定の設計では、カバーガラスを前面偏光板には積層せずに、単に前面偏光板に寄せて配置する。この場合、カバーガラスの幾つかの箇所は、前面偏光板と接触していてもよく又は近接近して供給されていてもよいが、ニュートンリングを生じさせる可能性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかし残念なことに、従来のANR技術は一般に、LCD及び/又は他のフラットパネルディスプレイ製品に不向きである。例えば、テクスチャー加工表面の作成及び/又は埋め込み粒子の混入は通常、曇りを生じさせる。この曇りも同様に、通常ディスプレイ用途には好ましくない。というのも、曇りは、多くの場合容認できないとみなされている変形視症を引き起こすためである。
【0017】
そのため、当該技術分野では、改善されたニュートンリング防止法が必要であることが分かるであろう。さらに詳細には、当該技術分野では、ニュートンリングの生じやすさが低減されたフラットパネルディスプレイ(例えばLCD)装置の製造方法及び/又は前記方法で製造される装置が必要であることも分かるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の特定の実施態様例は、液晶ディスプレイ(LCD)装置に関する。TFT基板及びカラーフィルター基板で液晶材料含有層を挟持する。バックライトは、光を放出するように構成されており、TFT基板と隣接して供給する。カバーガラス基板はカラーフィルター基板と隣接している。少なくとも1つの空気溜り部は、カラーフィルター基板とカバーガラス基板との間の領域に形成されて、カバーガラス基板の内部又はその上の対応する変形個所と隣接している。第1反射防止(antireflective、AR)コーティングは、(a)カラーフィルター基板に面したカバーガラス基板の主表面又は(b)カバーガラス基板に面したカラーフィルター基板の主表面のどちらかの上に直接的に若しくは間接的に供給する。第1ARコーティングを光学的に調整して、少なくとも1つの空気溜り部と対応する変形個所とに隣接領域であってしかもカラーフィルター基板とカバーガラス基板の対向面間にある領域においてバックライトから放出された光の建設的な干渉を抑えることで、それに応じてニュートンリングの発生及び/又は強度を低減させる。
【0019】
本発明の特定の実施態様例は、電子デバイスに関する。第1ガラス基板及び第2ガラス基板は互いに実質上平行になっている。バックライトは光を放出するように構成されている。少なくとも1か所の変形個所を第1ガラス基板に形成するが、各変形個所は対応する空気溜り部によって少なくとも部分的に取り囲まれており、また、第1ガラス基板及び第2ガラス基板は、少なくとも1か所の変形個所及びその対応する空気溜り部に隣接した領域では互いに平行になっていない。第2基板に面した第1ガラス基板の主表面にニュートンリング防止(ANR)コーティングを設ける。ANRコーティングは、バックライトから放出される光の反射を第1基板と第2基板との間で抑えて、それに応じてニュートンリングの発生及び/又は強度を低減するように構成されている。
【0020】
本発明の特定の実施態様例は、被覆物品の製造方法に関する。第1ガラス基板の主表面にニュートンリング防止(ANR)コーティングを配置する。第1ガラス基板は、ANRコーティングが第2ガラス基板と面するように第2ガラス基板と実質上平行な関係で方向付けをする又は位置決めをすることができる。第1ガラス基板に少なくとも1か所の変形個所を形成するが、各変形個所は空気溜り部によって少なくとも部分的に取り囲まれており、また、第1ガラス基板と第2ガラス基板とは、前記少なくとも1か所の変形個所及び対応する空気溜り部に隣接した領域では互いに平行になっていない。ANRコーティングは、バックライトから放出される光の反射を第1基板と第2基板との間で抑え、それに応じてニュートンリングの発生及び/又は強度を低減するように構成されている。
【0021】
本発明の特定の実施態様例は、電子デバイスの製造方法に関する。第1ガラス基板及び第2ガラス基板を互いに実質上平行関係で供給する。第1ガラス基板に少なくとも1か所の変形個所を形成するが、各変形個所は空気溜り部によって少なくとも部分的に取り囲まれており、また、第1ガラス基板及び第2ガラス基板は前記少なくとも1か所の変形個所及び対応する空気溜り部に隣接した領域では互いに平行になっていない。ニュートンリング防止(ANR)コーティングを第2基板に面した第1ガラス基板の主表面上に配置する。ANRコーティングは、第2基板に隣接して配置されたバックライトから放出される光の反射を第1基板と第2基板との間で抑えて、それに応じてニュートンリングの発生及び/又は強度を低減するように構成されている。
【0022】
本明細書に記載の特徴、態様、利点及び実施態様例を組み合わせて、更なる実施形態を実行してもよい。
【0023】
例示的な実施態様例についての以下の詳細な説明を図面と合わせて参照することで、前記及びその他の特徴及び利点をより明確により十分に理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】典型的なLCDディスプレイ装置の断面図である。
【
図2】ニュートンリングの出現を説明するのに役立つ部分概略図である。
【
図3】ニュートンリングを出現させる構造を有する代表的なLCD装置の部分概略図である。
【
図4】実施態様例によるニュートンリングの発生低減に役立つ構造を有する、改良されたLCD装置の部分概略図である。
【
図5】実施態様例による反射防止/ニュートンリング防止コーティング例を含む被覆物品である。
【
図6a】カバーガラス基板の内(第2)表面に3層ARコーティングを有する場合と有しない場合の、空隙400nm、800nm、2000nm及び4000nmにおける波長(nm)に対する透過率(%)模擬データを表すグラフである。
【
図6b】カバーガラス基板の内(第2)表面に3層ARコーティングを有する場合と有しない場合の、空隙400nm、800nm、2000nm及び4000nmにおける波長(nm)に対する透過率(%)模擬データを表すグラフである。
【
図6c】カバーガラス基板の内(第2)表面に3層ARコーティングを有する場合と有しない場合の、空隙400nm、800nm、2000nm及び4000nmにおける波長(nm)に対する透過率(%)模擬データを表すグラフである。
【
図6d】カバーガラス基板の内(第2)表面に3層ARコーティングを有する場合と有しない場合の、空隙400nm、800nm、2000nm及び4000nmにおける波長(nm)に対する透過率(%)模擬データを表すグラフである。
【
図7a】ARコーティングを有する場合と有しない場合のガラス試料からそれぞれ得た干渉縞の3次元マップである。
【
図7b】ARコーティングを有する場合と有しない場合のガラス試料からそれぞれ得た干渉縞の3次元マップである。
【
図8a】ARコーティングを有する場合と有しない場合それぞれにおける、間に狭い空隙を有する2種のガラス積層体を通過したLCD光の(ヒトの目の感度に正規化された)総合的な明所視透過率の測定結果を表す。
【
図8b】ARコーティングを有する場合と有しない場合それぞれにおける、間に狭い空隙を有する2種のガラス積層体を通過したLCD光の(ヒトの目の感度に正規化された)総合的な明所視透過率の測定結果を表す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
特定の実施態様例は、ニュートンリングの生じやすさが低減されたフラットパネルディスプレイ(例えば、LCD)装置の製造方法及び/又は当該方法で製造された装置に関する。特定の実施態様例では、反射防止(AR)コーティングは、1か所以上の偶発的なガラス欠陥個所を取り巻く空気溜り部によって生じるニュートンリングの形成を低減するのに役立つようにディスプレイ装置のカバーガラスに設けられる。特定の実施態様例では、ニュートンリング出現の原因である建設的な光学干渉は、例えば(カバーガラス又は前面偏光板の)少なくとも一つのガラス内表面での反射を低下させることによって抑えられる。したがって、特定の実施態様例は、2枚のガラスの密接な接触をなくすのではなく、むしろこのような接触に対するアセンブリ全体の光感度を低下させるものであってよい。
【0026】
特定の実施態様例では、LCDカバーガラスの第2表面を、透過光と建設的に干渉するコヒーレント光波の形成を低減するのに役立つような方法でコーティングする。特定の実施態様例では、反射防止(AR)コーティングを、前面偏光板に面したカバーガラスの第2表面に設けてよい。光学的観点から、この設計は、光反射を有利に低減し、ANR特性を有し、しかもARコーティングをディスプレイの内側に配置することでARコーティングのスクラッチ感度を改善する。
【0027】
特定の実施態様例では、ARコーティングはカバーガラスの主表面の片面に配置しても又はその両面に配置してもよい。ARコーティングをカバーガラスの主表面の両面に配置する実施態様例では、光反射を更に抑えると同時に、ANRの役割をも果たすことができる。
【0028】
図4は、実施態様例によるニュートンリングの発生低減に役立つ構造を有する、改良されたLCD装置の部分概略図である。
図4は、第1ARコーティング42a及び第2ARコーティング42bをカバーガラス基板32に設けていること以外は
図3と同様である。空気溜り部24a及び24bを取り囲む位置にガラス変形個所があったとしても、バックライト36からの光は、第1ARコーティング42a及び第2ARコーティング42bがあるためにカバーガラスの主表面両面での反射が低減される。内部反射を抑えることで、ガラス変形個所34並びに/又は空気溜り部24a及び24bに隣接する領域での建設的な干渉もそれに応じて抑えられる。建設的な干渉の抑制は、結果として、ニュートンリングの形成可能性を低減する。
【0029】
ARコーティングは、本発明の別の実施態様に関連して使用してもよい。ARコーティングはスパッタ法や湿式法等で適用してよい。特定の実施態様例では、ARフィルム(例えば、AR接着フィルム)を使用してもよい。特定の実施態様例では、AR層は、3層から構成される薄膜積層体である。層の厚さ及び/又は屈折率は様々であってよい。例えば、中程度の屈折率の層は、その周囲の層の屈折率に比べて高くてもよい。特定の実施態様例では、中程度の屈折率の層/高屈折率の層/低屈折率の層からなる積層体を設けてもよい。一般に高屈折率の層と低屈折率の層とを交互に繰り返す追加の層を更に設けてもよい。高屈折率の層に関連して使用可能な材料としては、例えば、TiNbO
X、TiO
x,NbO
x,NbZrO
x,TiCrO
x等を挙げることができる。低屈折率の層の例としては、例えば、SiO
x、SiO
xN
y、SiTiO
x,AlO
xN
y等が挙げられる。層の厚さ及び光学指数は有利なことに、透過光の建設的な光学干渉を抑えるのに役立つような方法で調整してよい。
【0030】
一例として、以下の物理的な厚さ及び(550nmでの)屈折率を挙げることができる。
【表1】
【0031】
前記配置を、実施態様例による反射防止/ニュートンリング防止コーティング例を含む被覆物品である
図5に示す。したがって、
図5の被覆物品例は、特定の実施態様例においてカバーガラス基板又は最も外側の基板として使用するのに適している。特定の実施態様例では、物品の被覆面は第2基板に面している。
図5の被覆物品例は、ガラス基板52から順に中程度の屈折率の層54、高屈折率の層56及び低屈折率の層58を備えた多層薄膜コーティングを直接的に又は間接的に支持するガラス基板52を含んでいる。
【0032】
また、3層ARコーティングの例は、同一出願人による同時係属中の出願番号12/923,146及び12/923,838にも開示されており、これにより、前記出願の全内容を参照として本明細書に組み込む。
【0033】
特定の実施態様例では、2層ARコーティングを設けてもよく、この場合、ガラス基板は、当該基板から順に高屈折率の層と低屈折率の層(例えば、前記又はその他の例の厚さ及び/又は屈折率の層)とを備えたコーティングを支持している。特定の実施態様例では、単層の広帯域ARコーティングを設けてもよい。例えば、前記単層の屈折率はガラスの屈折率よりも低くてよい。
【0034】
先に示唆したように、4層以上の層からなるARコーティングを設けてもよい。例えば、中程度の屈折率の層/高屈折率の層/低屈折率の層に、更に高屈折率の層と低屈折率の層とを交互に重ねたものを設けてもよい。特定の実施態様例では、カバーガラスと第1の中程度の屈折率の層との間に応力緩和層を設けてもよい。4層ARコーティングの例は、同一出願人による同時係属中の出願番号12/ , (2011年1月27日出願、事務所書類番号3691−2239、及び発明の名称「熱処理可能な4層反射防止コーティング("HEAT TREATABLE FOUR LAYER ANTI-REFLECTION COATING")」)にも開示されている。
【0035】
先に示唆したように、本発明の別の実施態様では、ARコーティングをカバーガラス基板の両面に設けてもよい。特定の実施態様例では、別法として又はさらに、前面偏光板上に配置されたARコーティングがカバーガラスに面するように前面偏光板の前面にARコーティングを設けてもよい。多重ARコーティングをニュートンリングの抑制に使用する実施態様では、同一の又は異なるARコーティングを使用してよい。
【0036】
図6a〜
図6dは、カバーガラス基板の内(第2)表面に3層ARコーティングを有する場合と有しない場合の、空隙400nm、800nm、2000nm及び4000nmにおける波長(nm)に対する透過率(%)の模擬データを表すグラフである。したがって、
図6a〜
図6dは、カバーガラス基板の内(第2)表面に3層ARコーティングを有する場合と有しない場合とにおいて、間に狭い空隙(それぞれ400nm、800nm、2000nm及び4000nm)がある2枚のガラスを通過した光透過スペクトルの結果をシミュレーションしている。干渉縞の最小値と最大値との間の縮小が認められることから、光学干渉効果の抑制、ひいてはニュートンリングの形成及び/又は程度が低減したことがはっきりと表されている。
【0037】
図7a及び
図7bは、ARコーティングを有する場合と有しない場合のガラス試料からそれぞれ得た干渉縞の三次元マップである。疑似カラーは透過光の強度を表している。
図7a及び
図7bから明らかなように、カバーガラスの第2表面上のARコーティングは緩衝縞の形成を大幅に抑制する。
【0038】
図8a及び
図8bは、ARコーティングを有する場合と有しない場合それぞれにおける、間に狭い空隙を有する2種のガラス積層体を通過したLCD光の(ヒトの目の感度に正規化された)総合的な明所視透過率の測定結果を表す。図から分かるように、AR層がることで、ヒトの目が感じる範囲のニュートンリングの形成が大幅に低減される。
【0039】
特定の実施態様例ではLCD装置について説明してきたが、本明細書に記載の方法は、例えばプラズマディスプレイ装置、タッチパネル等を包含する他のディスプレイ装置にも適用してもよい。さらに、特定の実施態様例の方法は、例えば写真引き伸ばし機、コピー機等のようにディスプレイに関係のない他の用途にも適用してよい。一般に、2枚の基板が互いに隣り合わせに配置された電子デバイスにはニュートンリング問題を有する可能性があり、そこで、本明細書に開示の実施態様例が有効である可能性がある。ここで、本明細書に開示の実施態様例では、一般に空気溜り部及び/又はガラス変形個所と隣接する表面上に反射防止コーティングを配置する必要があり、そうしなければニュートンリングの形成を招く。
【0040】
特定の実施態様例ではガラス基板について説明してきたが、本明細書に記載の方法は他の材料から成る基板に適用してもよい。したがって、特定の実施態様例のカバーガラス基板はホウケイ酸ガラス、ソーダ石灰ガラス又は他の形態のガラスであってよいが、プラスチック製基板、ポリマー基板及び/又は材料を含む装置にも本明細書に記載した方法例が有効である可能性がある。
【0041】
本明細書で使用するとき、「上に(ある)」、「によって支持されている」等の用語は、特に明記されていない限り、2つの要素が互いに直接隣り合っていることを表すものではないと解釈すべきである。言い換えると、第1層と第2層の間に層が1つ以上存在していても、第1層は第2層の「上に」ある又は第2層「によって支持されている」ということができる。
【0042】
本発明は、現在最も実用的で好ましい実施形態であると考えられるものについて記載してきたが、本発明は、開示した実施態様に限定されるものではなく、それどころか、特許請求の範囲の主旨及び範囲に包含される様々な変更及び同等の配置を網羅するものであると解されるべきである。