(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
上記組換え酵母は、ペントースリン酸経路における非酸化過程の経路を構成する酵素群から選ばれる酵素をコードする遺伝子が導入されたものであることを特徴とする請求項1記載のエタノールの製造方法。
ペントースリン酸経路における非酸化過程の経路を構成する酵素群は、リボース-5-リン酸イソメラーゼ、リブロース-5-リン酸-3-エピメラーゼ、トランスケトラーゼ及びトランスアルドラーゼであることを特徴とする請求項3記載のエタノールの製造方法。
上記培地はセルロースを含有しており、上記エタノール発酵では、少なくとも上記セルロースの糖化が同時に進行することを特徴とする請求項1記載のエタノールの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明を図面及び実施例を用いてより詳細に説明する。
【0041】
本発明に係るエタノールの製造方法は、キシロース代謝能を有し、アセトアルデヒド脱水素酵素遺伝子を導入した組換え酵母を使用し、培地に含まれる糖源からエタノールを合成する方法である。本発明に係るエタノールの製造方法では、上記組換え酵母により培地に含まれる酢酸を代謝することができ、エタノール発酵に伴って培地中の酢酸濃度が低減するといった特徴がある。
【0042】
<組換え酵母>
本発明に係るエタノールの製造方法に使用される組換え酵母は、キシロースイソメラーゼ遺伝子とアセトアルデヒド脱水素酵素遺伝子とを導入した酵母であって、キシロース代謝能を有する酵母である。ここで、キシロース代謝能を有する酵母とは、本来的にはキシロース代謝能を有しない酵母に対してキシロースイソメラーゼ遺伝子が導入されることによりキシロース代謝能が付与された酵母、本来的にはキシロース代謝能を有しない酵母に対してキシロースイソメラーゼ遺伝子及びその他のキシロース代謝関連遺伝子が導入されることによりキシロース代謝能が付与された酵母、本来的にキシロース代謝能を有する酵母のいずれも含む意味である。
【0043】
キシロース代謝能を有する酵母は、培地中に含まれるキシロースを資化してエタノールを生産することができる。なお、培地中に含まれるキシロースとは、キシロースを構成糖とするキシランやヘミセルロース等を糖化するプロセスによって得られたものでも良いし、培地に含まれるキシランやヘミセルロース等が糖化酵素により糖化されることで培地に供給されるものであってもよい。後者の場合は、所謂、同時糖化発酵の系を意味する。
【0044】
キシロースイソメラーゼ遺伝子(XI遺伝子)としては、特に限定されず、如何なる生物種由来の遺伝子を使用しても良い。例えば、特開2011-147445号公報に開示されたシロアリの腸内原生生物由来の複数のキシロースイソメラーゼ遺伝子を、特に制限されることなく使用することができる。また、キシロースイソメラーゼ遺伝子としては、嫌気性のカビであるピロマイセス(Piromyces)sp. E2種由来(特表2005-514951号公報)、嫌気性のカビであるシラマイセス・アベレンシス(Cyllamyces aberensis)由来、バクテリアであるバクテロイデス・セタイオタミクロン(Bacteroides thetaiotaomicron)由来、バクテリアであるクロストリディウム・ファイトファーメンタス由来、ストレプトマイセス・ムリナスクラスター由来の遺伝子を利用することもできる。
【0045】
具体的に、キシロースイソメラーゼ遺伝子としては、ヤマトシロアリ(Reticulitermes speratus)腸内原生生物由来のキシロースイソメラーゼ遺伝子を使用することが好ましい。このヤマトシロアリ(Reticulitermes speratus)腸内原生生物由来のキシロースイソメラーゼ遺伝子のコーディング領域の塩基配列及び当該遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列をそれぞれ配列番号3及び4に示す。
【0046】
ただし、キシロースイソメラーゼ遺伝子としては、配列番号3及び4にて特定されるものに限定されず、塩基配列やアミノ酸配列は異なるがパラログの関係又は狭義のホモログの関係にある遺伝子であっても良い。
【0047】
また、キシロースイソメラーゼ遺伝子は、これら配列番号3及び4にて特定されるものに限定されず、例えば、配列番号4のアミノ酸配列に対して70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の配列類似性又は同一性を有するアミノ酸配列を有し、キシロースイソメラーゼ活性を有するタンパク質をコードするものでも良い。配列類似性及び同一性の値は、BLASTアルゴリズムを実装したBLASTNやBLASTXプログラムにより算出することができる(デフォルトの設定)。なお、配列類似性の値は、一対のアミノ酸配列をペアワイズ・アライメント分析した際に完全に一致するアミノ酸残基と、物理化学的に機能が類似するアミノ酸残基との合計を算出し、比較した全アミノ酸残基中の上記合計数の割合として算出される。なお、同一性の値は、一対のアミノ酸配列をペアワイズ・アライメント分析した際に完全に一致するアミノ酸残基を算出し、比較した全アミノ酸残基中の上記アミノ酸残基数の割合として算出される。
【0048】
さらに、キシロースイソメラーゼ遺伝子は、これら配列番号3及び4にて特定されるものに限定されず、例えば、配列番号4のアミノ酸配列に対して、1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入又は付加されたアミノ酸配列を有し、アセトアルデヒド脱水素酵素活性を有するタンパク質をコードするものでも良い。ここで、数個とは、例えば、2〜30個、好ましくは2〜20個、より好ましくは2〜10個、最も好ましくは2〜5個である。
【0049】
さらにまた、キシロースイソメラーゼ遺伝子は、これら配列番号3及び4にて特定されるものに限定されず、例えば、配列番号3の塩基配列からなるDNAの相補鎖の全部又は一部に対して、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつキシロースイソメラーゼ活性を有するタンパク質をコードするものでもよい。ここでいう「ストリンジェントな条件」とはいわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件を意味し、例えばMolecular Cloning: A Laboratory Manual(Third Edition)を参照して適宜決定することができる。具体的には、サザンハイブリダイゼーションの際の温度や溶液に含まれる塩濃度、及びサザンハイブリダイゼーションの洗浄工程の際の温度や溶液に含まれる塩濃度によりストリンジェンシーを設定することができる。より詳細には、ストリンジェントな条件としては、例えば、ナトリウム濃度が25〜500mM、好ましくは25〜300mMであり、温度が42〜68℃、好ましくは42〜65℃である。より具体的には、5×SSC(83mM NaCl、83mMクエン酸ナトリウム)、温度42℃である。
【0050】
上述したように、配列番号3と異なる塩基配列からなる遺伝子、又は配列番号4とは異なるアミノ酸配列をコードする遺伝子が、キシロースイソメラーゼ遺伝子として機能するか否かは、当該遺伝子を適当なプロモーターとターミネーター等の間に組み込んだ発現ベクターを作製し、この発現ベクターを用いて例えば大腸菌等の宿主を形質転換し、発現するタンパク質のキシロースイソメラーゼ活性を測定すればよい。キシロースイソメラーゼ活性とは、キシロースをキシルロースに異性化する活性を意味する。よって、キシロースイソメラーゼ活性は、基質としてキシロースを含む溶液を準備し、検査対象のタンパク質を適当な温度で作用させ、キシロースの減少量及び/又はキシルロースの生成量を測定することで評価できる。
【0051】
特に、キシロースイソメラーゼ遺伝子としては、配列番号4に示すアミノ酸配列における特定のアミノ酸残基に対して特定の変異を導入したアミノ酸配列からなり、キシロースイソメラーゼ活性が向上した変異型キシロースイソメラーゼをコードする遺伝子を使用することが好ましい。具体的に、変異型キシロースイソメラーゼをコードする遺伝子としては、配列番号4に示すアミノ酸配列における337番目のアスパラギンがシステインに置換されたアミノ酸配列をコードする遺伝子を挙げることができる。配列番号4に示すアミノ酸配列における337番目のアスパラギンがシステインに置換されたアミノ酸配列からなるキシロースイソメラーゼは、野生型のキシロースイソメラーゼと比較して優れたキシロースイソメラーゼ活性を有する。なお、変異型キシロースイソメラーゼは、上記337番目のアスパラギンをシステインに置換したものに限定されず、上記337番目のアスパラギンをシステイン以外のアミノ酸に置換したものでも良いし、上記337番目のアスパラギンに加えて更に異なるアミノ酸残基を他のアミノ酸に置換したものでも良いし、上記337番目のアスパラギン以外の他のアミノ酸残基を置換したものでも良い。
【0052】
一方、キシロースイソメラーゼ遺伝子以外のキシロース代謝関連遺伝子とは、キシロースをキシリトールに変換するキシロースリダクターゼをコードするキシロースリダクターゼ遺伝子、キシリトールをキシルロースに変換するキシリトールデヒドロゲナーゼをコードするキシリトールデヒドロゲナーゼ遺伝子及びキシルロースをリン酸化してキシルロース5-リン酸を生成するキシルロキナーゼをコードするキシルロキナーゼ遺伝子を含む意味である。なお、キシルロキナーゼにより生成されたキシルロース5-リン酸は、ペントースリン酸経路に入り代謝されることとなる。
【0053】
キシロース代謝関連遺伝子としては、特に限定されないが、Pichia stipitis由来のキシロースリダクターゼ遺伝子及びキシリトールデヒドロゲナーゼ遺伝子、Saccharomyces cerevisiae由来のキシルロキナーゼ遺伝子を挙げることができる(Eliasson A. et al., Appl. Environ. Microbiol, 66:3381-3386及びToivari MN et al., Metab. Eng. 3:236-249参照)。その他にも、キシロースリダクターゼ遺伝子としては、Candida tropicalisやCandida prapsilosis由来のキシロースリダクターゼ遺伝子を利用することができる。キシリトールデヒドロゲナーゼ遺伝子としては、Candida tropicalisやCandida prapsilosis由来のキシリトールデヒドロゲナーゼ遺伝子を利用することができる。キシルロキナーゼ遺伝子としては、Pichia stipitis由来のキシルロキナーゼ遺伝子を利用することもできる。
【0054】
また、キシロース代謝能を本来的に有する酵母としては、特に限定されないが、Pichia stipitis、Candida tropicalis及びCandida prapsilosis等を挙げることができる。
【0055】
一方、キシロース代謝能を有する酵母に導入するアセトアルデヒド脱水素酵素遺伝子としては、特に限定されず、如何なる生物由来の遺伝子を使用しても良い。また、アセトアルデヒド脱水素酵素遺伝子は、酵母等の真菌以外の生物、例えば、細菌や動物、植物、昆虫、藻類由来の遺伝子を使用する場合、導入する酵母におけるコドン使用頻度に併せて塩基配列を改変した遺伝子を使用することが好ましい。
【0056】
より具体的に、アセトアルデヒド脱水素酵素遺伝子としては、大腸菌におけるmhpF遺伝子や、Applied and Environmental Microbiology, May 2004, p. 2892-2897, Vol. 70, No. 5に開示されるようにEntamoeba histolyticaにおけるALDH1遺伝子を使用することができる。ここで、大腸菌におけるmhpF遺伝子の塩基配列及びmhpF遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列をそれぞれ配列番号1及び2に示す。
【0057】
ただし、アセトアルデヒド脱水素酵素遺伝子としては、配列番号1及び2にて特定されるものに限定されず、EC番号1.2.1.10に定義される酵素であれば、塩基配列やアミノ酸配列は異なるがパラログの関係又は狭義のホモログの関係にある遺伝子であっても良い。アセトアルデヒド脱水素酵素遺伝子としては、例えば、大腸菌におけるadhE遺伝子、Clostridium beijerinckii由来のアセトアルデヒド脱水素遺伝子及びChlamydomonas reinhardtii由来のアセトアルデヒド脱水素遺伝子を挙げることができる。ここで、大腸菌におけるadhE遺伝子の塩基配列及びadhE遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列をそれぞれ配列番号19及び20に示す。また、Clostridium beijerinckii由来のアセトアルデヒド脱水素遺伝子の塩基配列及びこの遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列をそれぞれ配列番号21及び22に示す。さらに、Chlamydomonas reinhardtii由来のアセトアルデヒド脱水素遺伝子の塩基配列及びこの遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列をそれぞれ配列番号23及び24に示す。
【0058】
また、アセトアルデヒド脱水素酵素遺伝子は、これら配列番号1及び2、19及び20、21及び22並びに23及び24にて特定されるものに限定されず、例えば、配列番号2、20、22又は24のアミノ酸配列に対して70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の配列類似性又は同一性を有するアミノ酸配列を有し、アセトアルデヒド脱水素酵素活性を有するタンパク質をコードするものでも良い。配列類似性及び同一性の値は、BLASTアルゴリズムを実装したBLASTNやBLASTXプログラムにより算出することができる(デフォルトの設定)。なお、配列類似性の値は、一対のアミノ酸配列をペアワイズ・アライメント分析した際に完全に一致するアミノ酸残基と、物理化学的に機能が類似するアミノ酸残基との合計を算出し、比較した全アミノ酸残基中の上記合計数の割合として算出される。なお、同一性の値は、一対のアミノ酸配列をペアワイズ・アライメント分析した際に完全に一致するアミノ酸残基を算出し、比較した全アミノ酸残基中の上記アミノ酸残基数の割合として算出される。
【0059】
さらに、アセトアルデヒド脱水素酵素遺伝子は、これら配列番号1及び2、19及び20、21及び22並びに23及び24にて特定されるものに限定されず、例えば、配列番号2、20、22又は24のアミノ酸配列に対して、1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入又は付加されたアミノ酸配列を有し、アセトアルデヒド脱水素酵素活性を有するタンパク質をコードするものでも良い。ここで、数個とは、例えば、2〜30個、好ましくは2〜20個、より好ましくは2〜10個、最も好ましくは2〜5個である。
【0060】
さらにまた、アセトアルデヒド脱水素酵素遺伝子は、これら配列番号1及び2、19及び20、21及び22並びに23及び24にて特定されるものに限定されず、例えば、配列番号1、19、21又は23の塩基配列からなるDNAの相補鎖の全部又は一部に対して、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつアセトアルデヒド脱水素酵素活性を有するタンパク質をコードするものでもよい。ここでいう「ストリンジェントな条件」とはいわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件を意味し、例えばMolecular Cloning: A Laboratory Manual(Third Edition)を参照して適宜決定することができる。具体的には、サザンハイブリダイゼーションの際の温度や溶液に含まれる塩濃度、及びサザンハイブリダイゼーションの洗浄工程の際の温度や溶液に含まれる塩濃度によりストリンジェンシーを設定することができる。より詳細には、ストリンジェントな条件としては、例えば、ナトリウム濃度が25〜500mM、好ましくは25〜300mMであり、温度が42〜68℃、好ましくは42〜65℃である。より具体的には、5×SSC(83mM NaCl、83mMクエン酸ナトリウム)、温度42℃である。
【0061】
上述したように、配列番号1、19、21若しくは23と異なる塩基配列からなる遺伝子、又は配列番号2、20、22若しくは24とは異なるアミノ酸配列をコードする遺伝子が、アセトアルデヒド脱水素酵素遺伝子として機能するか否かは、当該遺伝子を適当なプロモーターとターミネーター等の間に組み込んだ発現ベクターを作製し、この発現ベクターを用いて例えば大腸菌等の宿主を形質転換し、発現するタンパク質のアセトアルデヒド脱水素酵素活性を測定すればよい。アセトアルデヒド脱水素酵素活性は、基質としてアセトアルデヒド、CoA及びNAD
+を含む溶液を準備し、検査対象のタンパク質を適当な温度で作用させ、生成したアセチルリン酸をリン酸アセチル転移酵素の作用によりアセチルリン酸に変換して測定でき、或いは生成するNADHを分光学的に計測して測定することができる。
【0062】
ところで、本発明に係るエタノールの製造方法に使用される組換え酵母は、キシロース代謝能を有し、少なくともアセトアルデヒド脱水素酵素遺伝子を導入した酵母であって、更に他の遺伝子が導入された酵母であってもよい。他の遺伝子としては特に限定されないが、例えば、グルコース等の糖代謝に関与する遺伝子を導入したものであっても良い。一例として組換え酵母は、β−グルコシダーゼ遺伝子を導入することでβ−グルコシダーゼ活性を有する酵母とすることができる。
【0063】
ここでβ−グルコシダーゼ活性とは、糖のβ-グリコシド結合を加水分解する反応を触媒する活性を意味する。すなわち、β−グルコシダーゼは、セロビオース等のセロオリゴ糖をグルコースに分解することができる。β−グルコシダーゼ遺伝子は、細胞表層提示型遺伝子として導入することもできる。ここで、細胞表層提示型遺伝子とは、当該遺伝子がコードするタンパク質が細胞の表層にディスプレイされるように発現するように改変された遺伝子である。例えば、細胞表層提示型βグルコシダーゼ遺伝子とは、βグルコシダーゼ遺伝子と細胞表層局在タンパク質遺伝子とを融合した遺伝子である。細胞表層局在タンパク質とは、酵母の細胞表層に固定され、細胞表層に存在するタンパク質をいう。例えば、凝集性タンパク質であるα-またはa-アグルチニン、FLOタンパク質などが挙げられる。一般に細胞表層局在タンパク質は、N末端側に分泌シグナル配列及びC末端側にGPIアンカー付着認識シグナルを有している。分泌シグナルを有する点では分泌性タンパク質と共通しているが、細胞表層局在タンパク質はGPIアンカーを介して細胞膜に固定されて輸送される点が分泌性タンパク質と異なる。細胞表層局在タンパク質は、細胞膜通過の際、GPIアンカー付着認識シグナル配列が選択的に切断され、新たに突出したC末端部分でGPIアンカーと結合して細胞膜に固定される。その後ホスファチジルイノシトール依存性ホスホリパーゼC(PI-PLC)によりGPIアンカーの根元部分が切断される。ついで、細胞膜から切り離されたタンパク質は細胞壁に組み込まれて細胞表層に固定され、細胞表層に局在する(例えば、特開2006−174767号公報参照)。
【0064】
βグルコシダーゼ遺伝子としては、特に限定されないが、例えば、Aspergillus aculeatus由来のβグルコシダーゼ遺伝子(Murai et al., Appl. Environ. Microbiol. 64:4857-4861)を挙げることができる。その他にも、βグルコシダーゼ遺伝子としては、Aspergillus oryzae由来のβグルコシダーゼ遺伝子、Clostridium cellulovorans由来のβグルコシダーゼ遺伝子及びSaccharomycopsis fibligera由来のβグルコシダーゼ遺伝子等を利用することができる。
【0065】
また、本発明に係るエタノールの製造方法に使用される組換え酵母は、βグルコシダーゼ遺伝子に加えて、或いはβグルコシダーゼ遺伝子以外に、セルラーゼを構成する他の酵素をコードする遺伝子を導入したものでもよい。βグルコシダーゼ以外にセルラーゼを構成する酵素としては、結晶セルロースの末端からセロビオースを遊離するエキソ型のセロビオハイドロラーゼ(CBH1及びCBH2)、結晶セルロースを分解できないが非結晶セルロース(アモルファスセルロース)鎖をランダムに切断するエンド型のエンドグルカナーゼ(EG)を挙げることができる。
【0066】
また、組換え酵母に導入する他の遺伝子としては、アセトアルデヒドをエタノールに変換する活性を有するアルコール脱水素酵素遺伝子(ADH1遺伝子)、酢酸をアセチル-CoAに変換する活性を有するアセチル-CoA合成酵素遺伝子(ACS1遺伝子)、アセトアルデヒドを酢酸に変換する活性を有する遺伝子(ALD4遺伝子、ALD5遺伝子及びALD6遺伝子)を挙げることができる。なお、エタノールをアセトアルデヒドに変換する活性を有するアルコール脱水素酵素遺伝子(ADH2遺伝子)を破壊しても良い。
【0067】
さらに、本発明に係るエタノールの製造方法に使用される組換え酵母は、アセトアルデヒドをエタノールに変換する活性を有するアルコール脱水素酵素遺伝子(ADH1遺伝子)を高発現する特徴を有するものが好ましい。当該遺伝子を高発現させるには、内在する当該遺伝子のプロモーターを高発現用プロモーターに置換する、当該遺伝子を発現可能に有する発現ベクターを酵母に導入するといった方法が挙げられる。
【0068】
Saccharomyces cerevisiaeのADH1遺伝子の塩基配列及び当該遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列をそれぞれ配列番号5及び6に示す。ただし、高発現対象のアルコール脱水素酵素遺伝子としては、配列番号5及び6にて特定されるものに限定されず、塩基配列やアミノ酸配列は異なるがパラログの関係又は狭義のホモログの関係にある遺伝子であっても良い。
【0069】
また、アルコール脱水素酵素遺伝子は、これら配列番号5及び6にて特定されるものに限定されず、例えば、配列番号6のアミノ酸配列に対して70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の配列類似性又は同一性を有するアミノ酸配列を有し、アルコール脱水素酵素活性を有するタンパク質をコードするものでも良い。配列類似性及び同一性の値は、BLASTアルゴリズムを実装したBLASTNやBLASTXプログラムにより算出することができる(デフォルトの設定)。なお、配列類似性の値は、一対のアミノ酸配列をペアワイズ・アライメント分析した際に完全に一致するアミノ酸残基と、物理化学的に機能が類似するアミノ酸残基との合計を算出し、比較した全アミノ酸残基中の上記合計数の割合として算出される。なお、同一性の値は、一対のアミノ酸配列をペアワイズ・アライメント分析した際に完全に一致するアミノ酸残基を算出し、比較した全アミノ酸残基中の上記アミノ酸残基数の割合として算出される。
【0070】
さらに、アルコール脱水素酵素遺伝子は、これら配列番号5及び6にて特定されるものに限定されず、例えば、配列番号6のアミノ酸配列に対して、1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入又は付加されたアミノ酸配列を有し、アルコール脱水素酵素を有するタンパク質をコードするものでも良い。ここで、数個とは、例えば、2〜30個、好ましくは2〜20個、より好ましくは2〜10個、最も好ましくは2〜5個である。
【0071】
さらにまた、アルコール脱水素酵素遺伝子は、これら配列番号5及び6にて特定されるものに限定されず、例えば、配列番号5の塩基配列からなるDNAの相補鎖の全部又は一部に対して、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつアルコール脱水素酵素活性を有するタンパク質をコードするものでもよい。ここでいう「ストリンジェントな条件」とはいわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件を意味し、例えばMolecular Cloning: A Laboratory Manual(Third Edition)を参照して適宜決定することができる。具体的には、サザンハイブリダイゼーションの際の温度や溶液に含まれる塩濃度、及びサザンハイブリダイゼーションの洗浄工程の際の温度や溶液に含まれる塩濃度によりストリンジェンシーを設定することができる。より詳細には、ストリンジェントな条件としては、例えば、ナトリウム濃度が25〜500mM、好ましくは25〜300mMであり、温度が42〜68℃、好ましくは42〜65℃である。より具体的には、5×SSC(83mM NaCl、83mMクエン酸ナトリウム)、温度42℃である。
【0072】
上述したように、配列番号5と異なる塩基配列からなる遺伝子、又は配列番号6とは異なるアミノ酸配列をコードする遺伝子が、アセトアルデヒドをエタノールに変換する活性を有するアルコール脱水素酵素遺伝子として機能するか否かは、当該遺伝子を適当なプロモーターとターミネーター等の間に組み込んだ発現ベクターを作製し、この発現ベクターを用いて例えば酵母等の宿主を形質転換し、発現するタンパク質のアルコール脱水素酵素活性を測定すればよい。アセトアルデヒドをエタノールに変換するアルコール脱水素酵素活性は、基質としてアルデヒド及びNADH又はNADPHを含む溶液を準備し、検査対象のタンパク質を適当な温度で作用させ、生成するアルコールを計測するか、又はNAD+若しくはNADP+を分光学的に計測して測定することができる。
【0073】
さらに、本発明に係るエタノールの製造方法に使用される組換え酵母は、エタノールをアルデヒドに変換する活性を有するアルコール脱水素酵素遺伝子(ADH2遺伝子)の発現量が低下した特徴を有するものが好ましい。当該遺伝子の発現量を低下させるには、内在する当該遺伝子のプロモーターを改変する、当該遺伝子を欠損させるといった方法が挙げられる。当該遺伝子を欠損させる際には、二倍体の組換え酵母に存在する一対のADH2遺伝子のうち一方を欠損させても良いし、両方を欠損させても良い。遺伝子の発現を抑制する手法としては、所謂、トランスポゾン法、トランスジーン法、転写後遺伝子サイレンシング法、RNAi法、ナンセンス仲介減衰(Nonsense mediated decay, NMD)法、リボザイム法、アンチセンス法、miRNA(micro-RNA)法、siRNA(small interfering RNA)法等を挙げることができる。
【0074】
Saccharomyces cerevisiaeのADH2遺伝子の塩基配列及び当該遺伝子がコードするタンパク質のアミノ酸配列をそれぞれ配列番号7及び8に示す。ただし、対象のアルコール脱水素酵素遺伝子としては、配列番号7及び8にて特定されるものに限定されず、塩基配列やアミノ酸配列は異なるがパラログの関係又は狭義のホモログの関係にある遺伝子であっても良い。
【0075】
また、アルコール脱水素酵素遺伝子は、これら配列番号7及び8にて特定されるものに限定されず、例えば、配列番号8のアミノ酸配列に対して70%以上、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、最も好ましくは95%以上の配列類似性又は同一性を有するアミノ酸配列を有し、アルコール脱水素酵素活性を有するタンパク質をコードするものでも良い。配列類似性及び同一性の値は、BLASTアルゴリズムを実装したBLASTNやBLASTXプログラムにより算出することができる(デフォルトの設定)。なお、配列類似性の値は、一対のアミノ酸配列をペアワイズ・アライメント分析した際に完全に一致するアミノ酸残基と、物理化学的に機能が類似するアミノ酸残基との合計を算出し、比較した全アミノ酸残基中の上記合計数の割合として算出される。なお、同一性の値は、一対のアミノ酸配列をペアワイズ・アライメント分析した際に完全に一致するアミノ酸残基を算出し、比較した全アミノ酸残基中の上記アミノ酸残基数の割合として算出される。
【0076】
さらに、アルコール脱水素酵素遺伝子は、これら配列番号7及び8にて特定されるものに限定されず、例えば、配列番号8のアミノ酸配列に対して、1又は数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入又は付加されたアミノ酸配列を有し、アルコール脱水素酵素活性を有するタンパク質をコードするものでも良い。ここで、数個とは、例えば、2〜30個、好ましくは2〜20個、より好ましくは2〜10個、最も好ましくは2〜5個である。
【0077】
さらにまた、アルコール脱水素酵素遺伝子は、これら配列番号7及び8にて特定されるものに限定されず、例えば、配列番号7の塩基配列からなるDNAの相補鎖の全部又は一部に対して、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし、かつアルコール脱水素酵素活性を有するタンパク質をコードするものでもよい。ここでいう「ストリンジェントな条件」とはいわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件を意味し、例えばMolecular Cloning: A Laboratory Manual(Third Edition)を参照して適宜決定することができる。具体的には、サザンハイブリダイゼーションの際の温度や溶液に含まれる塩濃度、及びサザンハイブリダイゼーションの洗浄工程の際の温度や溶液に含まれる塩濃度によりストリンジェンシーを設定することができる。より詳細には、ストリンジェントな条件としては、例えば、ナトリウム濃度が25〜500mM、好ましくは25〜300mMであり、温度が42〜68℃、好ましくは42〜65℃である。より具体的には、5×SSC(83mM NaCl、83mMクエン酸ナトリウム)、温度42℃である。
【0078】
上述したように、配列番号7と異なる塩基配列からなる遺伝子、又は配列番号8とは異なるアミノ酸配列をコードする遺伝子が、エタノールをアルデヒドに変換する活性を有するアルコール脱水素酵素遺伝子として機能するか否かは、当該遺伝子を適当なプロモーターとターミネーター等の間に組み込んだ発現ベクターを作製し、この発現ベクターを用いて例えば酵母等の宿主を形質転換し、発現するタンパク質のアルコール脱水素酵素活性を測定すればよい。エタノールをアルデヒドに変換するアルコール脱水素酵素活性は、基質としてアルコールとNAD+又はNADP+を含む溶液を準備し、検査対象のタンパク質を適当な温度で作用させ、生成するアルデヒドを計測するか、NADH又はNADPHを分光学的に計測して測定することができる。
【0079】
さらに、組換え酵母に導入する他の遺伝子としては、バイオマスを構成するヘミセルロースに含まれる5炭糖であるL-アラビノースの代謝経路に関与する遺伝子を挙げることができる。このような遺伝子としては、例えば、原核生物由来のL-アラビノースイソメラーゼ遺伝子、L-リブロキナーゼ遺伝子、L-リブロース-5-ホスフェート4-エピメラーゼ遺伝子や、真核生物由来のL-アラビトール-4-デヒドロゲナーゼ遺伝子、L-キシロースレダクターゼ遺伝子を挙げることができる。
【0080】
特に、組換え酵母に導入する他の遺伝子としては、培地中のキシロースの利用を促進できるような遺伝子を挙げることができる。具体的には、キシルロースを基質としてキシルロース-5-リン酸を生成する活性を有するキシルロキナーゼをコードする遺伝子を挙げることができる。キシルロキナーゼ遺伝子を導入することによって、ペントースリン酸経路の代謝流束を向上させることができる。
【0081】
さらに組換え酵母は、ペントースリン酸経路における非酸化過程の経路を構成する酵素群から選ばれる酵素をコードする遺伝子が導入することができる。ペントースリン酸経路における非酸化過程の経路を構成する酵素としては、リボース-5-リン酸イソメラーゼ、リブロース-5-リン酸-3-エピメラーゼ、トランスケトラーゼ及びトランスアルドラーゼを挙げることができる。これら酵素をコードする遺伝子を1種以上導入することが好ましい。また、これら遺伝子のうち2種以上組み合わせて導入することがより好ましく、3種以上組み合わせて導入することが更に好ましく、全種類の遺伝子を導入することが最も好ましい。
【0082】
より具体的にキシルロキナーゼ(XK)遺伝子としては、特に由来生物を限定せずに用いることができる。なおXK遺伝子は、キシルロースを資化する細菌や酵母など多くの微生物が保持している。XK遺伝子に関する情報は、NCBIのHP等の検索により適宜入手できる。好ましくは、酵母、乳酸菌、大腸菌、植物などに由来するXK遺伝子が挙げられる。XK遺伝子としては、例えば、S. cerevisiae S288C 株由来のXK遺伝子であるXKS1(GenBank:Z72979)(CDSのコード領域の塩基配列及びアミノ酸配列)が挙げられる。
【0083】
また、より具体的にトランスアルドラーゼ(TAL)遺伝子、トランスケトラーゼ(TKL)遺伝子、リブロース-5-リン酸エピメラーゼ(RPE)遺伝子、リボース-5-リン酸ケトイソメラーゼ(RKI)遺伝子は、特に由来生物を限定せずに用いることができる。これら遺伝子はペントースリン酸経路を備える多くの生物であれば保持している。例えば、S.cerevisiaeなど汎用酵母もこれらの遺伝子を保持している。これらの遺伝子に関する情報は、NCBI等のHPにアクセスすることにより適宜入手できる。好ましくは、真核細胞又は酵母等、宿主真核細胞と同一の属、さらに好ましくは宿主真核細胞と同一種に由来の各遺伝子が挙げられる。TAL遺伝子としてはTAL1遺伝子、TKL遺伝子としてはTKL1遺伝子及びTKL2遺伝子、RPE遺伝子としてはRPE1遺伝子、RKI遺伝子としてはRKI1遺伝子を好ましく用いることができる。例えば、これら遺伝子としては、S. cerevisiae S288 株由来のTAL1遺伝子であるTAL1遺伝子(GenBank:U19102)、S. cerevisiae S288 株由来のTKL1遺伝子(GenBank:X73224)、S. cerevisiae S288 株由来のRPE1遺伝子(Genbank:X83571)、S. cerevisiae S288 株由来のRKI1遺伝子(GenBank:Z75003)が挙げられる。
【0084】
<組換え酵母の作製>
上述したキシロースイソメラーゼ遺伝子及びアセトアルデヒド脱水素酵素遺伝子を宿主となる酵母ゲノムに導入することにより、本発明に使用できる組換え酵母を作製することができる。ここで、キシロースイソメラーゼ遺伝子及びアセトアルデヒド脱水素酵素遺伝子は、キシロース代謝能を有しない酵母に導入しても良いし、キシロース代謝能を本来的に有する酵母に導入しても良いし、キシロース代謝能を有しない酵母にキシロース代謝関連遺伝子とともに導入されても良い。また、キシロースイソメラーゼ遺伝子、アセトアルデヒド脱水素酵素遺伝子及び上述した遺伝子を酵母に導入する際、全ての遺伝子を同時に導入しても良いし、異なる発現ベクターを利用して逐次導入しても良い。
【0085】
宿主として用いることができる酵母としては、特に限定するものではないがCandida Shehatae、Pichia stipitis、Pachysolen tannophilus、Saccharomyces cerevisiae及びSchizosaccaromyces pombeなどの酵母が挙げられ、特にSaccharomyces cerevisiaeが好ましい。また、酵母としては、実験面での利便性のために使われる実験株でも良いし、実用面での有用性のために使われている工業株(実用株)でも良い。工業株としては、例えば、ワイン、清酒や焼酎作りに用いられる酵母株を挙げることができる。
【0086】
また、宿主となる酵母としては、ホモタリック性を有する酵母を使用することが好ましい。特開2009−34036号公報に開示される手法によれば、ホモタリック性を有する酵母を利用することで、簡便にゲノムへの多コピー遺伝子導入が可能となる。ホモタリック性を有する酵母とは、ホモタリックな酵母と同義である。ホモタリック性を有する酵母としては、特に限定されず、如何なる酵母をも使用することができる。ホモタリック性を有する酵母としては、Saccharomyces cerevisiae OC-2株(NBRC2260)を挙げることができるが、これに限定されるものではない。その他にもホモタリック性を有する酵母としては、アルコール酵母(台研396号、NBRC0216)(出典:「アルコール酵母の諸特性」酒研会報、No37、p18-22(1998.8))、ブラジルと沖縄で分離したエタノール生産酵母(出典:「ブラジルと沖縄で分離したSaccharomyces cerevisiae野生株の遺伝学的性質」日本農芸化学会誌、Vol.65、No.4、p759-762(1991.4))及び180(出典「アルコール発酵力の強い酵母のスクリーニング」日本醸造協会誌、Vol.82、No.6、p439-443(1987.6))を挙げることができる。また、ヘテロタリックな表現型を示す酵母においても、HO遺伝子を発現可能に導入することによってホモタリック性を有する酵母として使用することができる。すなわち、本発明において、ホモタリック性を有する酵母とは、HO遺伝子を発現可能に導入された酵母も含む意味である。
【0087】
なかでも、Saccharomyces cerevisiae OC-2株は、従来ワイン醸造の場面で利用されてきた安全性を確認されている菌株であるため好ましい。また、Saccharomyces cerevisiae OC-2株は、後述する実施例で示したように、高糖濃度の条件下におけるプロモーター活性が優れた菌株であるため好ましい。特にSaccharomyces cerevisiae OC-2株は、高糖濃度条件においてピルビン酸脱炭酸酵素遺伝子(PDC1)のプロモーター活性が優れているため好ましい。
【0088】
また、導入する遺伝子のプロモーターとしては、特に限定されないが、例えばグリセルアルデヒド3リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子(TDH3)のプロモーター、3-ホスホグリセレートキナーゼ遺伝子(PGK1)のプロモーター、高浸透圧応答7遺伝子(HOR7)のプロモーターなどが利用可能である。なかでもピルビン酸脱炭酸酵素遺伝子(PDC1)のプロモーターが下流の目的遺伝子を高発現させる能力が高いために好ましい。
【0089】
すなわち、上述した遺伝子は、発現を制御するプロモーターやその他の発現制御領域とともに酵母のゲノムに導入してもよい。または、上述した遺伝子は、宿主となる酵母のゲノムに本来的に存在する遺伝子のプロモーターやその他の発現制御領域により発現制御されるように導入してもよい。
【0090】
また、上述した遺伝子を導入する方法としては、酵母の形質転換方法として知られている従来公知のいかなる手法をも適用することができる。具体的には、例えば、例えば、エレクトロポレーション法“Meth. Enzym., 194, p182 (1990)”、スフェロプラスト法“Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 75 p1929(1978)”、酢酸リチウム法“J.Bacteriology, 153, p163(1983)”、Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 75 p1929 (1978)、Methods in yeast genetics, 2000 Edition : A Cold Spring Harbor Laboratory Course Manualなどに記載の方法で実施可能であるが、これに限定されない。
【0091】
<エタノール製造>
以上で説明した組換え酵母を使用してエタノールを製造する際には、少なくともキシロースを含有する培地にてエタノール発酵培養を行う。すなわち、エタノール発酵を行う培地とは、炭素源として少なくともキシロースを含有することとなる。なお、培地には、予めグルコース等の他の炭素源が含まれていても良い。
【0092】
また、エタノール発酵に利用する培地に含まれるキシロースは、バイオマス由来とすることができる。言い換えると、エタノール発酵に利用する培地は、セルロース系バイオマスと、セルロース系バイオマスに含まれるヘミセルロースを糖化してキシロースを生成するヘミセルラーゼとを含む組成であってもよい。ここで、セルロース系バイオマスとしては、従来公知の前処理を施したものであっても良い。前処理としては、特に限定されないが、例えば、リグニンを微生物によって分解する処理や、セルロース系バイオマスの粉砕処理等を挙げることができる。また、前処理としては、例えば、粉砕したセルロース系バイオマスを希硫酸溶液やアルカリ溶液、イオン液体に浸漬する処理、水熱処理、微粉砕処理といった処理を適用しても良い。これら前処理により、バイオマスの糖化率を向上させることができる。
【0093】
なお、以上で説明した組換え酵母を使用してエタノールを製造する際には、上記培地が更にセルロース及びセルラーゼを含む組成であってもよい。この場合、上記培地には、セルラーゼがセルロースに作用することで生成するグルコースを含有することとなる。エタノール発酵に利用する培地がセルロースを含有する場合、当該セルロースは、バイオマス由来とすることができる。言い換えると、エタノール発酵に利用する培地は、セルロース系バイオマスに含まれるセルラーゼを糖化できるセルラーゼを含む組成であってもよい。
【0094】
また、エタノール発酵に利用する培地は、セルロース系バイオマスを糖化処理した後の糖化液を添加してもよい。この場合、糖化液には、残存するセルロースやセルラーゼとセルロース系バイオマスに含まれるヘミセルロースに由来するキシロースとが含まれる。
【0095】
以上のように、本発明に係るエタノールの製造方法は、少なくともキシロースを糖源とするエタノール発酵の工程を含むこととなる。本発明に係るエタノールの製造方法は、キシロースを糖源としたエタノール発酵によりエタノールを製造することができる。本発明に係る組換え酵母を利用したエタノールの製造方法では、エタノール発酵の後、培地からエタノールを回収する。エタノールの回収方法は、特に限定されず、従来公知のいかなる方法も適用することができる。例えば、上述したエタノール発酵が終了した後、固液分離操作によってエタノールを含む液層と、組換え酵母や固形成分を含有する固層とを分離する。その後、液層に含まれるエタノールを蒸留法によって分離・精製することで、純度の高いエタノールを回収することができる。なお、エタノールの精製度は、エタノールの使用目的にあわせて適宜調整することができる。
【0096】
一般に、バイオマスに由来する糖を利用してエタノールを製造する場合、上述した前処理や糖化処理において酢酸やフルフラールといった発酵阻害物質が生産される場合がある。特に酢酸については、酵母の生育・増殖を阻害し、キシロースを糖源とするエタノール発酵の効率を低下させることが知られている。
【0097】
しかしながら、本発明においては、キシロースイソメラーゼ遺伝子及びアセトアルデヒド脱水素酵素遺伝子を導入した組換え酵母を使用しているため、培地に含まれる酢酸を代謝することができ、培地に含まれる酢酸濃度を低く抑えることができる。よって、本発明に係るエタノールの製造方法は、キシロースイソメラーゼ遺伝子及びアセトアルデヒド脱水素酵素遺伝子を導入していない酵母を使用した場合と比較して優れたエタノール収率を達成できる。
【0098】
また、本発明に係るエタノールの製造方法によれば、組換え酵母を所定期間培養した後においても培地中の酢酸濃度が低いため、所定期間培養後の培地の一部を利用して新たに培養を開始する連続培養系に使用しても、酢酸の持ち込み量を低減できる。また、本発明に係るエタノールの製造方法によれば、エタノール発酵工程の終了後、菌体を回収して再利用する場合でも同様な理由から酢酸の持ち込み量を低減できる。
【0099】
また、本発明に係るエタノールの製造方法は、培地に含まれるセルロースをセルラーゼにより糖化する工程と、キシロースと糖化により生成されたグルコースとを糖源とするエタノール発酵の工程とが同時に進行する、いわゆる同時糖化発酵処理としても良い。ここで、同時糖化発酵処理とは、セルロース系バイオマスを糖化する工程とエタノール発酵工程とを区別せずに同時に実施する処理を意味する。
【0100】
なお、糖化方法としては、特に限定されないが、セルラーゼやヘミセルラーゼ等のセルラーゼ製剤を利用する酵素法等を挙げることができる。セルラーゼ製剤は、セルロース鎖及びヘミセルロース鎖の分解に関与する複数の酵素を含んでおり、エンドグルカナーゼ活性、エンドキシラナーゼ活性、セロビオヒドロラーゼ活性、グルコシダーゼ活性及びキシロシダーゼ活性等の複数の活性を示す。セルラーゼ製剤としては、特に限定されないが、例えば、Trichoderma reeseiや、Acremonium cellulolyticusなどが生産するセルラーゼを挙げることができる。セルラーゼ製剤としては、市販されているものを使用しても良い。
【0101】
同時糖化発酵処理では、セルロース系バイオマス(前処理後であってもよい)を含む培地にセルラーゼ製剤と上述した組換え微生物とを加え、所定の温度範囲で当該組換え酵母を培養する。培養温度としては特に限定されないが、エタノール発酵の効率を考慮して25〜45℃とすることができ、30〜40℃とすることが好ましい。また、培養液のpHを4〜6とすることが好ましい。また、培養に際して、攪拌や振とうしてもよい。さらに、先に酵素の至適温度(40〜70℃)で糖化を行い、その後、温度を所定の温度(30〜40℃)に下げて酵母を添加するといった変則的な同時糖化発酵でもよい。
【実施例】
【0102】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されるものではない。
【0103】
〔実施例1〕
本実施例では、キシロースイソメラーゼ遺伝子及び大腸菌のアセトアルデヒド脱水素酵素遺伝子(mhpF遺伝子)を導入した組換え酵母を作製し、この組換え酵母の酢酸代謝能を評価した。
【0104】
<導入ベクターの作製>
(1)XKS1遺伝子導入用ベクター
S. cerevisiae由来のキシルロキナーゼ(XK)遺伝子の酵母導入用ベクターとして、
図1に示すpUC-HIS3U-P_HOR7-XKS1-T_TDH3-P_TDH2-hph-T_CYC1-HIS3Dを作製した。このベクターには、5’側にHOR7プロモーター及び3’側にTDH3ターミネーターが付加されたS. cerevisiae NBRC304 株由来のXK遺伝子であるXKS1遺伝子(genebank:X61377)、酵母ゲノム上への相同組換え領域となるヒスチジン合成酵素(HIS3)遺伝子の上流約500bpの領域(HIS3U)及びその遺伝子内の約500bpの領域(HIS3D)、並びに5’側にTDH2プロモーター及び3’側にCYC1ターミネーターが付加されたハイグロマイシンフォスフォトランスフェラーゼ(hph)遺伝子(マーカー遺伝子)が含まれている。なお、相同組換え領域の外側には制限酵素Sse8387Iのサイトを導入した。また、S. cerevisiae NBRC304 株由来XKS1遺伝子のコーディング領域の塩基配列及び当該遺伝子がコードするキシルロキナーゼのアミノ酸配列をそれぞれ配列番号9及び10に示した。
【0105】
(2)XI遺伝子導入用ベクター
ヤマトシロアリ(Reticulitermes speratus)腸内原生生物由来のキシロースイソメラーゼ(RsXI-C1、特開2011-147445参照)遺伝子の酵母導入用ベクターとして、
図2に示すpUC-R67-HOR7p-RsXI-T_TDH3-TRP1d-R45を作製した。このベクターには、5’側にHOR7プロモーター及び3’側にTDH3ターミネーターが付加されたRsXI-C1遺伝子、酵母ゲノム上への相同組換え領域となるrRNA遺伝子(rDNA)との相同配列であるR45及びR67、並びにプロモーター部分を欠失して発現量を低下させたTRP1dマーカー遺伝子が含まれている。なお、相同組換え領域の外側には制限酵素Sse8387Iのサイトを導入した。R45及びR67により、RsXI-C1を含む遺伝子が第12番染色体上のrDNA座に多コピー導入される。さらにTRP1dマーカーは多コピーで染色体上に導入された場合にはじめてマーカーとして機能する。よって、本ベクターを利用することによって、多コピー導入が可能となる。なお、本実施例においてRsXI-C1遺伝子は、全領域を酵母のコドン使用頻度に合わせて使用するコドンを変換した塩基配列を設計し、その塩基配列に基づいて全合成したものを使用した。本実施例で設計したRsXI-C1遺伝子の塩基配列及び当該遺伝子がコードするキシロースイソメラーゼのアミノ酸配列をそれぞれ配列番号3及び4に示した。
【0106】
(3)TAL1・TKL1遺伝子導入用ベクター
S. cerevisiae由来のトランスアルドラーゼ1(TAL1)遺伝子及びトランスケトラーゼ1(TKL1)遺伝子の酵母導入用ベクターとして、
図3に示すpUC-LEU2U-P_HOR7-TAL1-T_TDH3-P_HOR7-TKL1-T_TDH3-HIS3-LEU2Dを作製した。このベクターには、5’側にHOR7プロモーター及び3’側にTDH3ターミネーターが付加されたS. cerevisiae S288 株由来のTAL1遺伝子であるTAL1遺伝子(genebank:U19102);5’側にHOR7プロモーター及び3’側にTDH3ターミネーターが付加されたS. cerevisiae S288 株由来のTKL1遺伝子であるTKL1遺伝子(genebank:X73224);酵母ゲノム上への相同組換え領域となるロイシン合成酵素(LEU2)遺伝子3’側末端より上流約500bpの領域(LEU2U)及びその遺伝子5’側末端上流の約450bpの領域(LEU2D);並びにヒスチジン合成酵素(HIS3)遺伝子(マーカー遺伝子)が含まれている。なお、相同組換え領域の外側には制限酵素Sse8387Iのサイトを導入した。また、S. cerevisiae S288 株由来TAL1遺伝子のコーディング領域の塩基配列及び当該遺伝子がコードするトランスアルドラーゼ1のアミノ酸配列をそれぞれ配列番号11及び12に示した。さらにS. cerevisiae S288 株由来TKL1遺伝子のコーディング領域の塩基配列及び当該遺伝子がコードするトランスケトラーゼ1のアミノ酸配列をそれぞれ配列番号13及び14に示した。
【0107】
(4)RPE1・RKI1遺伝子導入、GRE3遺伝子破壊用ベクター
S. cerevisiae由来のリブロースリン酸エピメラーゼ1(RPE1)遺伝子及びリボースリン酸ケトイソメラーゼ(RKI1)遺伝子の酵母導入用ベクターとして、
図4に示すpUC-GRE3U-P_HOR7-RPE1-T_TDH3-P_HOR7-RKI1-T_TDH3-LEU2-GRE3Dを作製した。このベクターには、5’側にHOR7プロモーター及び3’側にTDH3ターミネーターが付加されたS. cerevisiae S288 株由来のRPE1遺伝子であるRPE1遺伝子(genebank:X83571);5’側にHOR7プロモーター及び3’側にTDH3ターミネーターが付加されたS. cerevisiae S288 株由来のRKI1遺伝子(genebank:Z75003);酵母ゲノム上への相同組換え及びアルドースレダクターゼ3(GRE3)遺伝子を破壊するための領域となるGRE3遺伝子の3’末端領域約500bpを含む約800bpの領域(GRE3U)及びGRE3遺伝子の上流約1000bpの領域(GRE3D);並びにロイシン合成酵素(LEU2)遺伝子(マーカー遺伝子)が含まれている。なお、相同組換え領域の外側には制限酵素Sse8387Iのサイトを導入した。また、S. cerevisiae S288 株由来RPE1遺伝子のコーディング領域の塩基配列及び当該遺伝子がコードするリブロースリン酸エピメラーゼ1のアミノ酸配列をそれぞれ配列番号15及び16に示した。さらに、S. cerevisiae S288株由来RKI1遺伝子のコーディング領域の塩基配列及び当該遺伝子がコードするリボースリン酸ケトイソメラーゼのアミノ酸配列をそれぞれ配列番号17及び18に示した。
【0108】
(5)ADH2遺伝子破壊用ベクター
宿主に内在するADH2遺伝子の破壊用ベクターとして、
図5に示すpCR-ADH2U-URA3-ADH2Dを作製した。このベクターには、酵母ゲノム上への相同組換え及びアルコールデヒドロゲナーゼ2(ADH2)遺伝子を破壊するための領域として、ADH2遺伝子の上流約700bpの領域(ADH2U)、ADH2遺伝子の下流約800bpの領域(ADH2D)、並びにオロチジン−5’−リン酸デカルボキシラーゼ(URA3)遺伝子(マーカー遺伝子)が含まれている。
【0109】
(6)ADH1遺伝子導入用ベクター
アルコールデヒドロゲナーゼ1(ADH1)遺伝子の酵母導入用ベクターとして、
図6に示すpCR-ADH2part-T_CYC1-P_TDH3-ADH1-T_ADH1-URA3-ADH2Dを作製した。このベクターには、5’側にTDH3プロモーター及び3’側にADH1ターミネーターが付加されたS. cerevisiae S288 株由来のADH1遺伝子(genebank:Z74828.1)、酵母ゲノム上への相同組換え領域となるADH2遺伝子の3’側末端より上流約450bpの領域(ADH2part)及び3’側末端より下流の約700bpの領域(ADH2D)、ADH2のターミネーターとしてCYC1ターミネーター、並びにURA3遺伝子(マーカー遺伝子)が含まれている。
【0110】
(7)mhpF遺伝子導入用ベクター
E. coli由来のアセトアルデヒド脱水素酵素(mhpF)遺伝子の酵母導入用ベクターとして、
図7に示すpCR-ADH2part-T_CYC1-ERO1_T-mhpF-HOR7_P-URA3-ADH2Dを作製した。このベクターには、5’側にHOR7プロモーター及び3’側にERO1ターミネーターが付加されたE. coli由来のアセトアルデヒド脱水素遺伝子(mhpF遺伝子)、酵母ゲノム上への相同組換え領域となるADH2遺伝子の3’側末端より上流約450bpの領域(ADH2part)及び3’側末端より下流の約700bpの領域(ADH2D)、ADH2のターミネーターとしてCYC1ターミネーター、並びにURA3遺伝子を含む遺伝子(マーカー遺伝子)が含まれている。なお、本実施例においてmhpF遺伝子は、全領域を酵母のコドン使用頻度に合わせて使用コドンを変換した塩基配列を設計し、その塩基配列に基づいて全合成したものを使用した。本実施例で設計したmhpF遺伝子の塩基配列及び当該遺伝子がコードするアセトアルデヒド脱水素酵素のアミノ酸配列をそれぞれ配列番号1及び2に示した。
【0111】
(8)mhpF・ADH1遺伝子導入用ベクター
mhpF遺伝子及びADH1遺伝子の酵母導入用ベクターとして、
図8に示すpCR-ADH2part-T_CYC1-P_TDH3-ADH1-T_ADH1-ERO1_T-mhpF-HOR7_P-URA3-ADH2Dを作製した。このベクターには、5’側にHOR7プロモーター及び3’側にERO1ターミネーターが付加されたmhpF遺伝子(上記(7)と同じ)、5’側にTDH3プロモーター及び3’側にADH1ターミネーターが付加されたS. cerevisiae S288 株由来のADH1遺伝子(上記(6)と同じ)、酵母ゲノム上への相同組換え領域となるADH2遺伝子の3’側末端より上流約450bpの領域(ADH2part)、及び3’側末端より下流の約700bpの領域(ADH2D)、ADH2のターミネーターとしてCYC1ターミネーター、並びにURA3遺伝子(マーカー遺伝子)が含まれている。
【0112】
(9)mhpF遺伝子導入、ADH2破壊用ベクター
mhpF遺伝子の酵母導入及びADH2遺伝子破壊用ベクターとして、
図9に示すpCR-ADH2U-ERO1_T-mhpF-HOR7_P-URA3-ADH2Dを作製した。このベクターには、5’側にHOR7プロモーター及び3’側にERO1ターミネーターが付加されたmhpF遺伝子(上記(7)と同じ)、酵母ゲノム上への相同組換え及びADH2遺伝子を破壊するための領域となるADH2遺伝子の上流約700bpの領域(ADH2U)及びADH2遺伝子の上流約800bpの領域(ADH2D)、並びにURA3遺伝子(マーカー遺伝子)が含まれている。
【0113】
(10)mhpF遺伝子及びADH1遺伝子導入、ADH2破壊用ベクター
mhpF遺伝子及びADH1遺伝子の酵母導入並びにADH2遺伝子破壊用ベクターとして、
図10に示すpCR-ADH2U-P_TDH3-ADH1-T_ADH1-ERO1_T-mhpF-HOR7_P-URA3-ADH2Dを作製した。このベクターには、5’側にHOR7プロモーター及び3’側にERO1ターミネーターが付加されたmhpF遺伝子(上記(7)と同じ)、5’側にTDH3プロモーター及び3’側にADH1ターミネーターが付加されたS. cerevisiae S288 株由来のADH1遺伝子(上記(6)と同じ)、酵母ゲノム上への相同組換え及びADH2遺伝子を破壊するための領域となるADH2遺伝子の上流約700bpの領域(ADH2U)及びADH2遺伝子の上流約800bpの領域(ADH2D)、並びにURA3遺伝子(マーカー遺伝子)が含まれている。
【0114】
(11)コントロールベクター(マーカー遺伝子のみ)
マーカー遺伝子のみ導入するコントロールベクターとして、
図11に示すpCR-ADH2part-T_CYC1-URA3-ADH2Dを作製した。このベクターには、酵母ゲノム上への相同組換え領域となるADH2遺伝子の3’側末端より上流約450bpの領域(ADH2part)及び3‘側末端より下流の約700bpの領域(ADH2D)、ADH2のターミネーターとしてCYC1ターミネーター、並びにURA3遺伝子(マーカー遺伝子)が含まれている。
【0115】
<ベクター導入酵母株の作製>
2倍体酵母のSaccharomyces cerevisiae OC2-T株(Saitoh, S.ら、J. Ferment. Bioeng. 1996年、81巻 98-103)を5-フルオロオロチン酸添加培地で選抜し(Boeke, J.D., et al. 1987 Methods Enzymol.;154:164-75.)、ウラシル要求性となった株を宿主とした。
【0116】
酵母の形質転換はFrozen-EZ Yeast Transformation II(ZYMO RESEARCH)を用い、添付のプロトコルに従って行った。まず、pUC-HIS3U-P_HOR7-XKS1-T_TDH3-P_TDH2-hph-T_CYC1-HIS3Dベクターを制限酵素Sse8387Iで消化した断片を用いて、OC2-T株の形質転換を行い、YPD+HYG寒天培地に塗布し、生育したコロニーを純化した。純化された選択株をOC100株と命名した。つぎに、pUC-LEU2U-P_HOR7-TAL1-T_TDH3-P_HOR7-TKL1-T_TDH3-HIS3-LEU2Dベクターを制限酵素Sse8387Iで消化した断片を用いて、OC100株の形質転換を行い、ヒスチジンを含まないSD寒天培地(Mthods in Yeast Genetics ,Cold Spring Harbor Laboratory Press)に塗布し、生育したコロニーを純化した。純化された選択株をOC300株と命名した。つぎに、pUC-GRE3U-P_HOR7-RPE1-T_TDH3-P_HOR7-RKI1-T_TDH3-LEU2-GRE3Dベクターを制限酵素Sse8387Iで消化した断片を用いて、OC300株の形質転換を行い、ロイシンを含まないSD寒天培地に塗布し、生育したコロニーを純化した。純化された選択株をOC600株と命名した。つぎに、pUC-R67-HOR7p-RsXI-T_TDH3-TRP1d-R45ベクターを制限酵素Sse8387Iで消化した断片を用いて、OC600株の形質転換を行い、トリプトファンを含まないSD寒天培地に塗布し、生育したコロニーを純化した。純化された選択株をOC700株と命名した。以上のように作製したOC700株には、RsXI-C1遺伝子、XK遺伝子、TAL1遺伝子、TKL1遺伝子、RPE1遺伝子及びRKI1遺伝子が導入されている。
【0117】
次に、pCR-ADH2U-URA3-ADH2D、pCR-ADH2part-T_CYC1-P_TDH3-ADH1-T_ADH1-URA3-ADH2D、pCR-ADH2part-T_CYC1-ERO1_T-mhpF-HOR7_P-URA3-ADH2D、pCR-ADH2part-T_CYC1-P_TDH3-ADH1-T_ADH1-ERO1_T-mhpF-HOR7_P-URA3-ADH2D、pCR-ADH2U-ERO1_T-mhpF-HOR7_P-URA3-ADH2D、pCR-ADH2U-P_TDH3-ADH1-T_ADH1-ERO1_T-mhpF-HOR7_P-URA3-ADH2D、pCR-ADH2part-T_CYC1-URA3-ADH2Dの各ベクターの相同組換え部位間をPCRで増幅した断片を用いて、OC700株の形質転換を行い、ウラシルを含まないSD寒天培地に塗布し、生育したコロニーを純化した。純化された選択株をそれぞれ、Uz1048、Uz1047、Uz928、Uz1012、Uz926、Uz736及びUz1049株と命名した。
【0118】
<発酵試験>
上述のように得られたUz1048、Uz1047、Uz928、Uz1012、Uz926、Uz736及びUz1049系統の株からそれぞれ発酵能力が高い株を選び、フラスコ発酵試験を以下のように実施した。まず、グルコース濃度20g/LのYPD液体培地(イーストエキストラクト 10g/L、ペプトン 20g/L、グルコース 20g/L)を20ml分注した100ml容バッフル付きフラスコに供試株を植菌し、30℃ 120rpmで24時間培養を行った。集菌後、D20X60YAc6培地(グルコース20g/L、キシロース60g/L、イーストエキストラクト10g/L、酢酸6g/L)を10ml分注した20ml容フラスコに植菌し(菌濃度0.3g乾燥菌体/L)、振盪培養(80rpm、振幅35mm、30℃)にて発酵試験を行った。なお、フラスコにつける栓は、内径1.5mmニードルを通したゴム製で、ニードルの先に逆止弁を取り付けることでフラスコが嫌気的に保たれるようにした。
【0119】
発酵開始65時間後にサンプリングを行い、発酵液中のグルコース、キシロース、酢酸、エタノールについてHPLC(LC-10A;島津製作所)を使用して、下記条件にて測定した。
カラム:AminexHPX-87H
移動相:0.01N H
2SO
4
流量:0.6ml/min
温度:30℃
検出器:示差屈折率検出器 RID-10A
【0120】
<発酵試験結果>
上記発酵試験の結果を表1に示す。
【0121】
【表1】
【0122】
表1から判るように、mhpF過剰発現株と比較して、mhpF遺伝子及びADH1遺伝子を過剰発現するとともにADH2遺伝子を破壊したUz736株で、キシロースの資化速度が大幅に向上し、その結果エタノールの生産性が向上した。ADH2破壊のみの株やADH1過剰発現のみの株はキシロースの資化速度が改善しないことから、相乗的な効果があったと考えられる。また、Uz736株では培地中の酢酸の濃度が有意に減少しており、酢酸資化能力も向上していることが明らかとなった。
【0123】
〔実施例2〕
本実施例では、キシロースイソメラーゼ遺伝子及び大腸菌のmhpF遺伝子、adhE遺伝子、Clostridium beijerinckii由来のアセトアルデヒド脱水素遺伝子又はChlamydomonas reinhardtii由来のアセトアルデヒド脱水素遺伝子を導入した組換え酵母を作製した。本実施例で作製した組換え酵母では、内在する一対のADH2遺伝子のうち一方又は両方を破壊した。
【0124】
<導入ベクターの作製>
(1)XI・XKS1・TKL1・TAL1・RKI1・RPE1遺伝子導入及びGRE3遺伝子破壊用プラスミド
GRE3遺伝子座にGRE3遺伝子を破壊しながら、ヤマトシロアリ(Reticulitermes speratus)腸内原生生物由来のキシロースイソメラーゼ遺伝子の377番目のアミノ酸をアスパラギンからシステインに置換され、キシロースの資化速度が向上した変異遺伝子(XI_N337C)、酵母由来のキシルロキナーゼ(XKS1)遺伝子、ペントースリン酸回路のトランスケトラーゼ1(TKL1)遺伝子、トランスアルドラーゼ1(TAL1)遺伝子、リブロースリン酸エピメラーゼ1(RPE1)遺伝子及びリボースリン酸ケトイソメラーゼ(RKI1)遺伝子を酵母に導入するために必要な配列を含むプラスミド、pUC-5U_GRE3-P_HOR7-TKL1-TAL1-FBA1_P-P_ADH1-RPE1-RKI1-TEF1_P-P_TDH1-XI_N337C-T_DIT1-P_TDH3-XKS1-T_HIS3-LoxP-G418-LoxP-3U_GRE3を作製した。
【0125】
このプラスミドには、5’側にSaccharomyces cerevisiae BY4742株由来の、HOR7プロモーターが付加されたTKL1遺伝子、FBA1プロモーターが付加されたTAL1遺伝子、ADH1プロモーターが付加されたRKI1遺伝子、TEF1プロモーターが付加されたRPE1遺伝子、TDH1プロモーターとDIT1ターミネーターが付加されたXI_N337C(全長を酵母のコドン使用頻度に合わせてコドンを変換した配列を全合成したもの)、TDH3プロモーターとHIS3ターミネーターが付加されたXKS1遺伝子、酵母ゲノム上への相同組換え領域としてGRE3遺伝子の5‘側末端より上流約700bpの領域の遺伝子配列(GRE3U)及びGRE3遺伝子3‘側末端より下流の約800bpの領域のDNA配列(GRE3D)、並びにマーカーとしてG418遺伝子を含む遺伝子配列(G418 marker)が含まれるように構築した。なお、マーカー遺伝子は両側にLoxP配列を導入することで、マーカー除去が可能な配列にしている。
【0126】
なお、本プラスミドに含まれる各DNA配列は表2のプライマーを用いて増幅することが可能である。各DNA断片を結合するため、表2のプライマーに隣接DNA配列と約15bp重複するようにDNA配列を付加したプライマーを用いて、Saccharomyces cerevisiae BY4742ゲノム、XI_N337C合成遺伝子DNA、LoxP配列の合成DNAを鋳型に目的のDNA断片を増幅し、In-Fusion HD Cloning Kit(タカラバイオ)等を用いて順次DNA断片を結合、プラスミドpUC19にクローニングして最終目的のプラスミドを作成した。
【0127】
【表2】
【0128】
(2)mhpF・ADH1遺伝子導入及びADH2遺伝子破壊用プラスミド
ADH2遺伝子座にADH2遺伝子を破壊しながら、E. coli由来のアセトアルデヒド脱水素遺伝子(mhpF)及び酵母由来のアルコールデヒドロゲナーゼ1(ADH1)遺伝子を酵母に導入するために必要な配列を含むプラスミド、pUC-5U_ADH2-P_TDH3-ADH1-T_ADH1-DIT1_T-mhpF-HOR7_P-URA3-3U_ADH2を作製した。
【0129】
このプラスミドには、5’側にSaccharomyces cerevisiae BY4742株由来の、TDH3プロモーターが付加されたADH1遺伝子、HOR7プロモーターとDIT1ターミネーターが付加されたmhpF遺伝子(全長を酵母のコドン使用頻度に合わせてコドンを変換した配列を全合成したもの)、酵母ゲノム上への相同組換え領域としてADH2遺伝子の5‘側末端より上流約700bpの領域の遺伝子配列(ADH2U)及びADH2遺伝子3‘側末端より下流の約800bpの領域のDNA配列(ADH2D)、並びにマーカーとしてURA3遺伝子を含む遺伝子配列(URA3 marker)が含まれるように構築した。
【0130】
なお、本プラスミドに含まれる各DNA配列は表3のプライマーを用いて増幅することが可能である。各DNA断片を結合するため、表3のプライマーに隣接DNA配列と約15bp重複するようにDNA配列を付加したプライマーを用いて、Saccharomyces cerevisiae BY4742ゲノム又はmhpF合成遺伝子DNAを鋳型に目的のDNA断片を増幅させ、In-Fusion HD Cloning Ki等を用いて順次DNA断片を結合、プラスミドpUC19にクローニングして最終目的のプラスミドを作成した。
【0131】
【表3】
【0132】
(3)adhE・ADH1遺伝子導入及びADH2遺伝子破壊用プラスミド
ADH2遺伝子座にADH2遺伝子を破壊しながら、E. coli由来のアセトアルデヒド脱水素遺伝子(adhE)及び酵母由来のアルコールデヒドロゲナーゼ1(ADH1)遺伝子を酵母に導入するために必要な配列を含むプラスミド、pUC-5U_ADH2-P_TDH3-ADH1-T_ADH1-DIT1_T-adhE-HOR7_P-URA3-3U_ADH2を作製した。
【0133】
このプラスミドには、5’側にSaccharomyces cerevisiae BY4742株由来の、TDH3プロモーターが付加されたADH1遺伝子、HOR7プロモーターとDIT1ターミネーターが付加されたadhE遺伝子(NCBIアクセスNo.NP_415757.1、全長を酵母のコドン使用頻度に合わせてコドンを変換した配列を全合成したもの)、酵母ゲノム上への相同組換え領域としてADH2遺伝子の5‘側末端より上流約700bpの領域の遺伝子配列(ADH2U)及びADH2遺伝子3‘側末端より下流の約800bpの領域のDNA配列(ADH2D)、並びにマーカーとしてURA3遺伝子を含む遺伝子配列(URA3 marker)が含まれるように構築した。
【0134】
なお、本プラスミドに含まれる各DNA配列は表4のプライマーを用いて増幅することが可能である。各DNA断片を結合するため、表4のプライマーに隣接DNA配列と約15bp重複するようにDNA配列を付加したプライマーを用いて、プラスミドpUC-5U_ADH2-P_TDH3-ADH1-T_ADH1-DIT1_T-mhpF-HOR7_P-URA3-3U_ADH2又はadhE合成遺伝子DNAを鋳型に目的のDNA断片を増幅、In-Fusion HD Cloning Kit等を用いて順次DNA断片を結合、プラスミドpUC19にクローニングして最終目的のプラスミドを作成した。
【0135】
【表4】
【0136】
(4)Clostridium beijerinckii由来のアセトアルデヒド脱水素遺伝子・ADH1遺伝子導入及びADH2遺伝子破壊用プラスミド
ADH2遺伝子座にADH2遺伝子を破壊しながら、Clostridium beijerinckii由来のアセトアルデヒド脱水素遺伝子及び酵母由来のアルコールデヒドロゲナーゼ1(ADH1)遺伝子を酵母に導入するために必要な配列を含むプラスミド、pUC-5U_ADH2-P_TDH3-ADH1-T_ADH1-DIT1_T-CloADH-HOR7_P-URA3-3U_ADH2を作製した。
【0137】
このプラスミドには、5’側にSaccharomyces cerevisiae BY4742株由来の、TDH3プロモーターが付加されたADH1遺伝子、HOR7プロモーターとDIT1ターミネーターが付加されたClostridium beijerinckii由来のアセトアルデヒド脱水素遺伝子(NCBIアクセスNo. YP_001310903.1、全長を酵母のコドン使用頻度に合わせてコドンを変換した配列を全合成したもの)、酵母ゲノム上への相同組換え領域としてADH2遺伝子の5‘側末端より上流約700bpの領域の遺伝子配列(ADH2U)及びADH2遺伝子3‘側末端より下流の約800bpの領域のDNA配列(ADH2D)、並びにマーカーとしてURA3遺伝子を含む遺伝子配列(URA3 marker)が含まれるように構築した。
【0138】
なお、本プラスミドに含まれる各DNA配列は表5のプライマーを用いて増幅することが可能である。各DNA断片を結合するため、表5のプライマーに隣接DNA配列と約15bp重複するようにDNA配列を付加したプライマーを用いて、プラスミドpUC-5U_ADH2-P_TDH3-ADH1-T_ADH1-DIT1_T-mhpF-HOR7_P-URA3-3U_ADH2又はClostridium beijerinckii由来のアセトアルデヒド脱水素の合成遺伝子DNAを鋳型に目的のDNA断片を増幅させ、In-Fusion HD Cloning Kit等を用いて順次DNA断片を結合、プラスミドpUC19にクローニングして最終目的のプラスミドを作成した。
【0139】
【表5】
【0140】
(5)Chlamydomonas reinhardtii由来のアセトアルデヒド脱水素遺伝子・ADH1遺伝子導入及びADH2遺伝子破壊用プラスミド
ADH2遺伝子座にADH2遺伝子を破壊しながら、Chlamydomonas reinhardtii由来のアセトアルデヒド脱水素遺伝子及び、酵母由来のアルコールデヒドロゲナーゼ1(ADH1)遺伝子を酵母に導入するために必要な配列を含むプラスミド、pUC-5U_ADH2-P_TDH3-ADH1-T_ADH1-DIT1_T-ChlaADH1-HOR7_P-URA3-3U_ADH2を作製した。
【0141】
このプラスミドには、5’側にSaccharomyces cerevisiae BY4742株由来の、TDH3プロモーターが付加されたADH1遺伝子、HOR7プロモーターが付加されたとDIT1ターミネーターが付加されたChlamydomonas reinhardtii由来のアセトアルデヒド脱水素遺伝子(NCBIアクセスNo. 5729132, 全長を酵母のコドン使用頻度に合わせてコドンを変換した配列を全合成したもの)、酵母ゲノム上への相同組換え領域として、ADH2遺伝子の5‘側末端より上流約700bpの領域の遺伝子配列(ADH2U)、及びADH2遺伝子3‘側末端より下流の約800bpの領域のDNA配列(ADH2D)、並びにマーカーとして、URA3遺伝子を含む遺伝子配列(URA3 marker)が含まれるように構築した。
【0142】
なお、本プラスミドに含まれる各DNA配列は表6のプライマーを用いて増幅することが可能である。各DNA断片を結合するため、表6のプライマーに隣接DNA配列と約15bp重複するようにDNA配列を付加したプライマーを用いて、プラスミドpUC-5U_ADH2-P_TDH3-ADH1-T_ADH1-DIT1_T-mhpF-HOR7_P-URA3-3U_ADH2又はChlamydomonas reinhardtii由来のアセトアルデヒド脱水素の合成遺伝子DNAを鋳型に目的のDNA断片を増幅させ、In-Fusion HD Cloning Kit等を用いて順次DNA断片を結合、プラスミドpUC19にクローニングして最終目的のプラスミドを作成した。
【0143】
【表6】
【0144】
(6)mhpF遺伝子導入用プラスミド
ADH2遺伝子座にADH2遺伝子を破壊せず、ADH2遺伝子座近傍にE. coli由来のアセトアルデヒド脱水素遺伝子(mhpF)を酵母に導入するために必要な配列を含むプラスミド、pUC-ADH2-T_CYC1 -DIT1_T-mhpF-HOR7_P-URA3-3U_ADH2を作製した。
【0145】
このプラスミドには、5’側にSaccharomyces cerevisiae BY4742株由来の、HOR7プロモーターとDIT1ターミネーターが付加されたmhpF遺伝子(全長を酵母のコドン使用頻度に合わせてコドンを変換した配列を全合成したもの)、酵母ゲノム上への相同組換え領域としてADH2遺伝子及びADH2遺伝子3‘側末端より下流の約800bpの領域のDNA配列(ADH2D)、並びにマーカーとしてURA3遺伝子を含む遺伝子配列(URA3 marker)が含まれるように構築した。
【0146】
なお、本プラスミドに含まれる各DNA配列は表7のプライマーを用いて増幅することが可能である。各DNA断片を結合するため、表7のプライマーに隣接DNA配列と約15bp重複するようにDNA配列を付加したプライマーを用いて、プラスミドpUC-5U_ADH2-P_TDH3-ADH1-T_ADH1-DIT1_T-mhpF-HOR7_P-URA3-3U_ADH2又はSaccharomyces cerevisiae BY4742ゲノムを鋳型に目的のDNA断片を増幅させ、In-Fusion HD Cloning Kit等を用いて順次DNA断片を結合、プラスミドpUC19にクローニングして最終目的のプラスミドを作成した。
【0147】
【表7】
【0148】
<ベクター導入酵母株の作製>
2倍体酵母のSaccharomyces cerevisiae OC2株(NBRC2260)を5-フルオロオロチン酸添加培地で選抜し(Boeke, J.D., et al. 1987 Methods Enzymol.;154:164-75.)、ウラシル要求性となった株(OC2U)を宿主とした。酵母の形質転換は、Frozen-EZ Yeast Transformation II(ZYMO RESEARCH)を用い、添付のプロトコルに従って行った。
【0149】
上記(1)で作製したプラスミド:pUC-5U_GRE3-P_HOR7-TKL1-TAL1-FBA1_P-P_ADH1-RPE1-RKI1-TEF1_P-P_TDH1-XI_N337C-T_DIT1-P_TDH3-XKS1-T_HIS3-LoxP-G418-LoxP-3U_GRE3の相同組換え部位をPCRで増幅した断片を用いて、OC2U株の形質転換を行い、G418を含むYPD寒天培地に塗布し、生育したコロニーを純化した。純化された選択株をUz1252株と命名した。本株を胞子形成培地(1% リン酸カリウム、0.1% イーストエキストラクト、0.05% ブドウ糖、2% 寒天)で胞子を形成させ、ホモタリック性を利用して2倍化を行った。2倍体である染色体のGRE3遺伝子座領域に変異型XI遺伝子、TKL1遺伝子、TAL1遺伝子、RPE1遺伝子、RKI1遺伝子及びXKS1遺伝子が組み込まれGRE3遺伝子が破壊されている株を取得した。これをUz1252-3株とした。
【0150】
そして、上記(2)で作製したプラスミド:pUC-5U_ADH2-P_TDH3-ADH1-T_ADH1-DIT1_T-mhpF-HOR7_P-URA3-3U_ADH2、上記(3)で作製したプラスミド:pUC-5U_ADH2-P_TDH3-ADH1-T_ADH1-DIT1_T-adhE-HOR7_P-URA3-3U_ADH2、上記(4)で作製したプラスミド:pUC-5U_ADH2-P_TDH3-ADH1-T_ADH1-DIT1_T-CloADH-HOR7_P-URA3-3U_ADH2、上記(5)で作製したプラスミド:pUC-5U_ADH2-P_TDH3-ADH1-T_ADH1-DIT1_T-ChlaADH1-HOR7_P-URA3-3U_ADH2、及び上記(6)で作製したプラスミド:pUC-ADH2-T_CYC1 -DIT1_T-mhpF-HOR7_P-URA3-3U_ADH2の各プラスミドの相同組換え部位間をPCRで増幅した断片を用いて、上記Uz1252-3株の形質転換を行い、ウラシルを含まないSD寒天培地に塗布し、生育したコロニーを純化した。純化された選択株をそれぞれ、Uz1317株、Uz1298株、Uz1296株、Uz1330株、及びUz1320株と命名した。
【0151】
なお、これら全ての株はヘテロに(1コピー)組換えが起こっていることを確認した。得られたUz1317株、Uz1298株及びUz1296株については胞子形成培地で胞子を形成させ、ホモタリック性を利用して2倍化を行って得られた株をそれぞれUz1319株、Uz1318株及びUz1311株と命名した。
【0152】
また、コントロールとして、OC2ゲノムを鋳型にPCRで増幅したウラシル遺伝子を用いて、OC2U株の形質転換を行い、ウラシルを含まないSD寒天培地に塗布し、生育したコロニーを純化し、Uz1313株と命名した。Uz1313株を胞子形成培地で胞子を形成させ、ホモタリック性を利用して2倍化を行い、Uz1323株と命名した。
【0153】
なお、本実施例で作製した株の遺伝子型を表8に纏めた。
【0154】
【表8】
【0155】
<発酵試験>
上述のように作成した株からそれぞれ発酵能力が高い2株を選び、フラスコ発酵試験を以下のように実施した。まず、グルコース濃度20g/LのYPD液体培地(イーストエキストラクト 10g/L、ペプトン 20g/L、グルコース 20g/L)を20ml分注した100ml容バッフル付きフラスコに供試株を植菌し、30℃ 120rpmで24時間培養を行った。集菌後、D60X80YPAc4培地(グルコース60g/L、キシロース80g/L、イーストエキストラクト10g/L、ペプトン20g/L、酢酸4g/L)又はD40X80YPAc2培地(グルコース40g/L、キシロース80g/L、イーストエキストラクト10g/L、ペプトン20g/L、酢酸2g/L)を8ml分注した10ml容フラスコに植菌し、振盪培養(80rpm、振幅35mm、30℃)にて発酵試験を行った。なお、フラスコにつける栓は、内径1.5mmニードルを通したゴム製で、ニードルの先に逆止弁を取り付けることでフラスコが嫌気的に保たれるようにした。
【0156】
発酵液中のグルコース、キシロース、エタノールについてHPLC(LC-10A;島津製作所)を使用して、下記条件にて測定した。
カラム:AminexHPX-87H
移動相:0.01N H
2SO
4
流量:0.6ml/min
温度:30℃
検出器:示差屈折率検出器 RID-10A
【0157】
<発酵試験結果>
D60X80YPAc4培地を使用して発酵時間を66時間としたときの発酵試験(仕込み菌濃度0.3g乾燥菌体/L)の結果を表9及び10に示す。なお、表9及び10に示すデータは独立して取得した組換え株3株のデータ平均値である。
【0158】
【表9】
【0159】
【表10】
【0160】
D40X80YPAc2培地を使用して発酵時間を42時間としたときの発酵試験(仕込み菌濃度0.24g乾燥菌体/L)の結果を表11及び12に示し、またヘテロ導入株についてD40X80YPAc2培地を使用して発酵時間を42時間としたときの発酵試験(仕込み菌濃度0.3g乾燥菌体/L)の結果を表13に示す。なお、表11〜13に示すデータは独立して取得した組換え株3株のデータ平均値である。
【0161】
【表11】
【0162】
【表12】
【0163】
【表13】
【0164】
表9〜13から分かるように、コントロールと比較して、ADH2をヘテロ又はホモに破壊するとともに、ADH1と3種類のアセトアルデヒド脱水素酵素のいずれかを過剰発現した株は、キシロースの資化速度が大幅に向上し、酢酸の減少量も多く、その結果エタノールの生産性が向上した。なお、酢酸の減少量については、ADH2のヘテロ導入株よりADH2のホモ導入株の方が多かった。一方、アセトアルデヒド脱水素酵素のmhpFのみを発現した株は、キシロースの資化速度が低下し、酢酸は殆ど減少せず、エタノールの生産性が向上しなかった。