特許第6087866号(P6087866)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ トヨタ自動車株式会社の特許一覧 ▶ 株式会社豊田自動織機の特許一覧

<>
  • 特許6087866-排気浄化装置の異常診断装置 図000002
  • 特許6087866-排気浄化装置の異常診断装置 図000003
  • 特許6087866-排気浄化装置の異常診断装置 図000004
  • 特許6087866-排気浄化装置の異常診断装置 図000005
  • 特許6087866-排気浄化装置の異常診断装置 図000006
  • 特許6087866-排気浄化装置の異常診断装置 図000007
  • 特許6087866-排気浄化装置の異常診断装置 図000008
  • 特許6087866-排気浄化装置の異常診断装置 図000009
  • 特許6087866-排気浄化装置の異常診断装置 図000010
  • 特許6087866-排気浄化装置の異常診断装置 図000011
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6087866
(24)【登録日】2017年2月10日
(45)【発行日】2017年3月1日
(54)【発明の名称】排気浄化装置の異常診断装置
(51)【国際特許分類】
   F01N 3/18 20060101AFI20170220BHJP
   F01N 3/08 20060101ALI20170220BHJP
   F01N 3/28 20060101ALI20170220BHJP
   B01D 53/86 20060101ALI20170220BHJP
【FI】
   F01N3/18 CZAB
   F01N3/08 B
   F01N3/28 301C
   B01D53/86 222
【請求項の数】3
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-107402(P2014-107402)
(22)【出願日】2014年5月23日
(65)【公開番号】特開2015-222061(P2015-222061A)
(43)【公開日】2015年12月10日
【審査請求日】2015年6月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100100549
【弁理士】
【氏名又は名称】川口 嘉之
(74)【代理人】
【識別番号】100085006
【弁理士】
【氏名又は名称】世良 和信
(74)【代理人】
【識別番号】100113608
【弁理士】
【氏名又は名称】平川 明
(74)【代理人】
【識別番号】100123319
【弁理士】
【氏名又は名称】関根 武彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123098
【弁理士】
【氏名又は名称】今堀 克彦
(74)【代理人】
【識別番号】100143797
【弁理士】
【氏名又は名称】宮下 文徳
(72)【発明者】
【氏名】中村 好孝
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 怜
【審査官】 櫻田 正紀
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−248963(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/00 − 3/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関の排気通路に配置され、選択還元型触媒を具備する排気浄化装置と、
前記排気浄化装置へ流入する排気にアンモニア又はアンモニアの前駆体である添加剤を添加する添加装置と、
内燃機関の運転状態を示すパラメータを利用して、前記排気浄化装置へ流入するNO量であるNO流入量を推定する推定手段と、
前記推定手段により推定されたNO流入量をパラメータとして、前記排気浄化装置に吸着されているアンモニアの量であるNH吸着量を取得する第一取得手段と、
前記第一取得手段により取得されるNH吸着量をパラメータとして、前記添加装置から添加される添加剤の量を制御する制御手段と、
前記推定手段が推定したNO流入量をパラメータとして、前記排気浄化装置のNO浄化性能に相関する物理量を演算し、その演算結果と所定の閾値とを比較することにより前記排気浄化装置が異常であるか否かを診断する診断手段と、
を備えた排気浄化装置の異常診断装置において、
前記推定手段によりNO流入量が推定されたときの内燃機関の運転状態と同等の運転状態において、内燃機関から排出されるNOの量が最も多くなると想定した場合に前記排気浄化装置へ流入するNO量である最大NO流入量をパラメータとして、前記排気浄化装置が正常であると想定した場合における前記排気浄化装置のNH吸着量である最低NH吸着量を取得する第二取得手段をさらに備え、
前記診断手段は、前記最低NH吸着量が所定量以上であるときは前記物理量と第一閾値とを比較することにより前記排気浄化装置のNO浄化性能が正常時より劣化しているか否かを判定し、前記最低NH吸着量が前記所定量未満であるときは前記物理量と前記第一閾値より小さい第二閾値とを比較することにより前記排気浄化装置のNO浄化性能が完全に失われているか否かを判定することを特徴とする排気浄化装置の異常診断装置。
【請求項2】
請求項1において、前記診断手段は、前記最低NH吸着量が前記所定量より少ない下限値以下であるときは診断を行わないことを特徴とする排気浄化装置の異常診断装置。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記最低NH吸着量が前記所定量以上である場合は、前記診断手段は、前記物理量を異なるタイミングで複数回演算し、複数回の演算結果の平均値が前記第一閾値より大きければ前記排気浄化装置のNO浄化性能が正常時より劣化していないと判定し、複数回の演算結果の平均値が前記第一閾値以下であれば前記排気浄化装置のNO浄化性能が正常時より劣化していると判定し、
前記最低NH吸着量が前記所定量未満である場合は、前記診断手段は、前記物理量を異なるタイミングで複数回演算し、複数回の演算結果のすべてが前記第二閾値以下であれば前記排気浄化装置のNO浄化性能が完全に失われていると判定し、複数回の演算結果の少なくとも一つが前記第二閾値より大きければ前記排気浄化装置が完全に失われてはいないと判定することを特徴とする排気浄化装置の異常診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関の排気通路に配置された選択還元型触媒(SCR(Selective Catalytic Reduction)触媒)の異常を診断する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関の排気浄化装置として、SCR触媒と、該SCR触媒へ流入する排気にアンモニア(NH)又はNHの前駆体である添加剤を添加する添加装置と、を備えたものが知られている。このような排気浄化装置の異常を検出する技術として、SCR触媒へ流入するNOの量(以下、「NO流入量」と称する)をパラメータとして排気浄化装置の異常を診断する技術が知られている。たとえば、NO流入量をパラメータとしてSCR触媒のNO浄化率(NO流入量に対して、SCR触媒により浄化されたNOの量の割合)を演算し、その演算結果に基づいて排気浄化装置の異常を診断する方法が知られている(たとえば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−36857号公報
【特許文献2】特開2013−181453号公報
【特許文献3】特開2013−036345号公報
【特許文献4】特開2012−255397号公報
【特許文献5】特開2009−019520号公報
【特許文献6】特開平07−026943号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記したような排気浄化装置の異常診断方法において、NO流入量の推定値を用いることが考えられる。その際、NO流入量は、吸入空気量、燃料噴射量、燃料噴射時期、及び機関回転速度等のような内燃機関の運転状態を示すパラメータを用いて推定される。
【0005】
ところで、排気浄化装置へ実際に流入するNOの量(以下、「実NO流入量」と記す)は、上記したようなパラメータ以外の要因によって変化する場合がある。たとえば、混合気が燃焼する際に発生するNOの量は、湿度が低くなるほど多くなる傾向がある。そのため、実NO流入量は、湿度が低くなるほど多くなる。
【0006】
実NO流入量が内燃機関の運転状態以外の要因によって変化すると、NO流入量の推定値(以下、「推定NO流入量」と記す)と実NO流入量とのずれが大きくなる。また、吸入空気量の測定に用いられるエアフローメータの測定誤差が大きい場合も、推定NO流入量と実NO流入量とのずれが大きくなる。
【0007】
推定NO流入量と実NO流入量とのずれが大きいときに、推定NO流入量をパラメータとして排気浄化装置の異常診断が行われると、誤診断を招く可能性がある。特に、湿度の低下やエアフローメータの測定誤差によって推定NO流入量が実NO流入量より少なくなる場合は、推定NO流入量をパラメータとして算出されるNO浄化率が実際のNO浄化率より小さくなり、SCR触媒が正常であるにもかかわらずSCR触媒が異常であると誤診断される可能性がある。
【0008】
本発明は、上記したような実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、推定NO
流入量をパラメータとして、SCR触媒を具備する排気浄化装置の異常を診断する排気浄化装置の異常診断装置において、推定NO流入量が実NO流入量より少なくなる場合に、SCR触媒が正常であるにもかかわらず異常であると誤診断されることを抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、推定NO流入量をパラメータとして、SCR触媒を具備する排気浄化装置の異常診断を行う排気浄化装置の異常診断装置において、内燃機関の運転状態以外の要因によってNO流入量が最も多くなる条件を想定した場合のSCR触媒のNH吸着量である最低NH吸着量を求め、その最低NH吸着量に応じて診断モードを変更するようにした。
【0010】
詳細には、本発明に係わる排気浄化装置の異常診断装置は、
内燃機関の排気通路に配置され、選択還元型触媒を具備する排気浄化装置と、
前記排気浄化装置へ流入する排気にアンモニア又はアンモニアの前駆体である添加剤を添加する添加装置と、
内燃機関の運転状態を示すパラメータを利用して、前記排気浄化装置へ流入するNO量であるNO流入量を推定する推定手段と、
前記推定手段により推定されたNO流入量をパラメータとして、前記排気浄化装置に吸着されているアンモニアの量であるNH吸着量を取得する第一取得手段と、
前記第一取得手段により取得されるNH吸着量をパラメータとして、前記添加装置から添加される添加剤の量を制御する制御手段と、
前記推定手段が推定したNO流入量をパラメータとして、前記排気浄化装置のNO浄化性能に相関する物理量を演算し、その演算結果に基づいて前記排気浄化装置が異常であるか否かを診断する診断手段と、
を備えた排気浄化装置の異常診断装置において、
前記推定手段によりNO流入量が推定されたときの内燃機関の運転状態と同等の運転状態において、前記排気浄化装置が正常であり、且つ内燃機関から排出されるNOの量が最も多くなると想定した場合の前記排気浄化装置のNH吸着量である最低NH吸着量を取得する第二取得手段をさらに備え、
前記診断手段は、前記最低NH吸着量が所定量以上であるときは前記物理量と第一閾値とを比較することにより前記排気浄化装置のNO浄化性能が正常時より劣化しているか否かを判定し、前記最低NH吸着量が前記所定量未満であるときは前記物理量と前記第一閾値より小さい第二閾値とを比較することにより前記排気浄化装置のNO浄化性能が完全に失われているか否かを判定するようにした。
【0011】
ここでいう「排気浄化装置のNO浄化性能が完全に失われている」とは、排気浄化装置の劣化によって排気浄化装置が排気中のNOを全く浄化することができなくなっている状態に加え、排気浄化装置が排気通路から取り外されている状態も含むものとする。
【0012】
このように構成された排気浄化装置の異常診断装置において、診断手段は、推定手段によって推定されたNO流入量(推定NO流入量)をパラメータとして、排気浄化装置のNO浄化性能に相関する物理量を求め、その物理量に基づいて排気浄化装置の異常を診断する。たとえば、診断手段は、前記物理量が所定の閾値以下になると、排気浄化装置が異常であると診断する。ここでいう物理量は、たとえば、排気浄化装置のNO浄化率、又は排気浄化装置のNO浄化量等である。そして、所定の閾値は、NO浄化率又はNO浄化量が該閾値以下になると、排気浄化装置が異常であると考えられる値である。
【0013】
ところで、排気浄化装置へ流入するNOの量は、内燃機関の運転状態以外の要因によっても変化する。たとえば、混合気が燃焼する際に発生するNOの量は、湿度が低くな
るほど多くなる傾向がある。そのため、湿度が非常に低い環境(たとえば、10%程度)で内燃機関が運転されるときは、該内燃機関から排出されるNOの量が非常に多くなり、それに伴って排気浄化装置へ流入するNOの量も非常に多くなる。そのような場合は、推定手段により推定される推定NO流入量は、実際のNO流入量(実NO流入量)より少なくなる可能性がある。また、推定NO流入量を推定するためのパラメータがセンサによって測定される場合は、センサの測定誤差によって推定NO流入量が実NO流入量より少なくなる可能性がある。
【0014】
したがって、推定手段が推定NO流入量を推定したときの内燃機関の運転状態と同等の運転状態においても、湿度やセンサの測定誤差等によって推定NO流入量が実NO流入量より少なくなる可能性がある。
【0015】
ここで、第一取得手段は、推定手段により推定される推定NO流入量をパラメータとして、排気浄化装置のNH吸着量を取得する。そして、制御手段は、第一取得手段によって取得されたNH吸着量に応じて、添加装置から添加される添加剤の量を制御する。その際、推定NO流入量が実NO流入量より少なければ、第一取得手段により取得されるNH吸着量(以下、「推定NH吸着量」と記す)が実際のNH吸着量(以下、「実NH吸着量」と記す)より多くなる。推定NH吸着量が実NH吸着量より多いときに、推定NH吸着量に基づいて添加装置から添加される添加剤の量が制御されると、添加剤の添加量が実NH吸着量に見合った量より少なくなり、推定NH吸着量と実NH吸着量とのずれが拡大する。
【0016】
よって、推定NH吸着量に対して実NH吸着量が大幅に少ないときに、排気浄化装置の異常診断処理が実行される可能性がある。推定NH吸着量に対して実NH吸着量が大幅に少ないときに排気浄化装置の異常診断処理が実行されると、排気浄化装置のNO浄化性能が正常であっても、NO浄化性能に相関する物理量が所定の閾値以下になる可能性がある。たとえば、推定NH吸着量が予め定められた規定量以上であるときに異常診断処理が実行される方法においては、異常診断処理が実行される際の実NH吸着量が規定量より少なくなる可能性がある。その場合は、推定NO流入量をパラメータとして演算される物理量が所定の閾値以下となり、排気浄化装置が正常であるにもかかわらず異常であると誤診断されてしまう。また、異常診断処理が実行される時点の推定NH吸着量に応じて閾値が変更される方法においては、異常診断処理が実行される際の実NH吸着量が推定NH吸着量より少なくなる可能性がある。その場合は、推定NO流入量をパラメータとして演算される物理量が所定の閾値以下となり、排気浄化装置が正常であるにもかかわらず異常であると誤診断されてしまう。
【0017】
これに対し、本発明の排気浄化装置の異常診断装置は、前記推定手段によりNO流入量が推定されたときの内燃機関の運転状態と同等の運転状態において、排気浄化装置が正常であり、且つ内燃機関から排出されるNOの量が最も多くなると想定した場合のNH吸着量(最低NH吸着量)を求め、その最低NH吸着量が所定量以上であるときは前記物理量と第一閾値とを比較することにより排気浄化装置のNO浄化性能が正常時より劣化しているか否かを判定し、最低NH吸着量が所定量未満であるときは前記物理量と前記第一閾値より小さい第二閾値とを比較することにより排気浄化装置のNO浄化性能が完全に失われているか否かを判定する。
【0018】
ここでいう「所定量」は、正常な排気浄化装置のNH吸着量が該所定量以上であるときはNO浄化性能が十分に高くなり、正常な排気浄化装置のNH吸着量が該所定量を下回るとNO浄化性能が急激に低下すると考えられる量、又はその量に所定のマージンを加算した量である。また、「第一閾値」は、前記物理量が該第一閾値以下になると、排気浄化装置のNO浄化性能が正常時より劣化しているとみなすことができる値である。
「第二閾値」は、排気浄化装置のNO浄化性能が完全に失われている場合の前記物理量の値(たとえば、零)である。
【0019】
最低NH吸着量は、前述したように、推定手段によりNO流入量が推定されたときの内燃機関の運転状態と同等の運転状態において、排気浄化装置が正常であり、且つ内燃機関から排出されるNOの量が最も多くなると想定した場合のNH吸着量である。つまり、最低NH吸着量は、SCR触媒が正常であるときに、実NH吸着量が取り得る下限に相当する。そのため、最低NH吸着量が所定量以上であるときに、排気浄化装置のNO浄化性能が正常であれば、実NH吸着量が所定量以上であるとみなすことができる。その結果、実NH吸着量が推定NH吸着量より少ないときに異常診断処理が実行されても、排気浄化装置が正常であれば、前記物理量が第一閾値以下になり難い。よって、排気浄化装置が正常であるにもかかわらず劣化していると誤診断され難くなる。
【0020】
一方、最低NH吸着量が所定量未満であるときは、排気浄化装置が正常であっても、実NH吸着量が所定量以上になる場合と実NH吸着量が所定量未満になる場合とが想定される。そのため、実NH吸着量が推定NH吸着量より少ないときに、前記物理量と前記第一閾値とが比較されると、排気浄化装置が正常であっても、前記物理量が第一閾値以下になる可能性がある。よって、最低NH吸着量が所定量未満である場合は、排気浄化装置のNO浄化性能が正常時より劣化しているか否か(NO浄化性能が完全に失われてはいないが、正常時よりNO浄化性能が低下しているか否か)を正確に診断することは難しい。ただし、最低NH吸着量が所定量未満である場合であっても、排気浄化装置のNO浄化性能が完全に失われているか否かを判別することは可能である。すなわち、排気浄化装置のNO浄化性能が完全に失われてはいない場合は、前記物理量が零より大きくなる。一方、排気浄化装置のNO浄化性能が完全に失われている場合は、前記物理量は、実NH吸着量にかかわらず零になる。よって、最低NH吸着量が所定量未満である場合に、前記物理量と第二閾値とを比較すれば、排気浄化装置のNO浄化性能が完全に失われているか否かを判別することが可能となり、排気浄化装置が正常であるにもかかわらず異常であると誤診断されることも抑制される。
【0021】
したがって、本発明の排気浄化装置の異常診断装置によれば、推定NH吸着量に対して実NH吸着量が少なくなるときに排気浄化装置の異常診断処理が行われても、排気浄化装置のNO浄化性能が正常であるにもかかわらず異常であると誤診断されることが抑制される。
【0022】
本発明の排気浄化装置の異常診断装置において、診断手段は、最低NH吸着量が所定量より少ない下限値以下であるときは診断を行わないようにしてもよい。ここでいう下限値は、最低NH吸着量が該下限値以下になると、排気浄化装置が正常であっても前記物理量が第二閾値以下になると考えられるNH吸着量(たとえば、零)である。
【0023】
最低NH吸着量が零になると、実NH吸着量も零になる可能性がある。実NH吸着量が零になると、排気浄化装置のNO浄化性能が完全に失われてはいなくても、前記物理量が第二閾値以下になる可能性がある。よって、最低NH吸着量が前記下限値以下であるときに異常診断処理が実行されると、排気浄化装置のNO浄化性能が完全に失われてはいないにもかかわらず、NO浄化性能が完全に失われていると誤診断される可能性がある。
【0024】
これに対し、最低NH吸着量が下限値以下であるときに異常診断処理が実行されなければ、排気浄化装置のNO浄化性能が完全に失われてはいないにもかかわらず、NO浄化性能が完全に失われていると誤診断されることが抑制される。
【0025】
本発明の排気浄化装置の異常診断装置において、最低NH吸着量が所定量以上である場合は、診断手段は、前記物理量を異なるタイミングで複数回演算し、複数回の演算結果の平均値が前記第一閾値より大きければ前記排気浄化装置のNO浄化性能が正常時より劣化していないと判定し、複数回の演算結果の平均値が前記第一閾値以下であれば前記排気浄化装置のNO浄化性能が正常時より劣化していると判定してもよい。また、最低NH吸着量が所定量未満である場合は、診断手段は、前記物理量を異なるタイミングで複数回演算し、複数回の演算結果のすべてが前記第二閾値以下であれば排気浄化装置のNO浄化性能が完全に失われていると判定し、複数回の演算結果の少なくとも一つが前記第二閾値より大きければ排気浄化装置のNO浄化性能が完全に失われてはいないと判定してもよい。
【0026】
このような方法により故障診断が実施されると、排気浄化装置のNO浄化性能が正常時より劣化していないにもかかわらず劣化していると誤判定されることがより確実に抑制される。さらに、排気浄化装置のNO浄化性能が完全に失われてはいないにもかかわらず完全に失われていると誤診断されることもより確実に抑制される。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、SCR触媒を具備する排気浄化装置の異常診断装置において、SCR触媒が正常であるにもかかわらず異常であると誤診断されることを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明を適用する内燃機関の排気系の概略構成を示す図である。
図2】SCR触媒を通過する排気の流量とSCR触媒の温度とSCR触媒のNO浄化率との関係を示す図である。
図3】SCR触媒のNH吸着量とSCR触媒の温度とSCR触媒から流出する排気のNH濃度との関係を示す図である。
図4】SCR触媒のNH吸着量とSCR触媒のNO浄化率との関係を示す図である。
図5】最低NH吸着量に応じて診断モードを切り替える際にECUが実行する処理ルーチンを示すフローチャートである。
図6】SCR触媒のNO浄化性能が正常時より劣化しているかを診断する際にECUが実行する処理ルーチンを示すフローチャートである。
図7】SCR触媒のNO浄化性能が完全に失われているかを診断する際にECUが実行する処理ルーチンを示すフローチャートである。
図8】SCR触媒が正常であり、且つ内燃機関から排出されるNOの量が最も多くなる条件下における、SCR触媒の温度とSCR触媒が吸着可能なNH量の上限値との関係を示す図である。
図9】最低NH吸着量と診断モードとの関係を示す図である。
図10】最低NH吸着量に応じて診断モードを切り替える際にECUが実行する処理ルーチンの他の例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の具体的な実施形態について図面に基づいて説明する。本実施形態に記載される構成部品の寸法、材質、形状、相対配置等は、特に記載がない限り発明の技術的範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0030】
図1は、本発明を適用する内燃機関の排気系の概略構成を示す図である。図1に示す内燃機関1は、希薄燃焼運転される圧縮着火式の内燃機関(ディーゼルエンジン)である。なお、内燃機関1は、希薄燃焼運転可能な火花点火式の内燃機関(ガソリンエンジン)で
あってもよい。
【0031】
内燃機関1には、気筒内から排出される既燃ガス(排気)を流通させるための排気管2が接続されている。排気管2の途中には、第一触媒ケーシング3が配置されている。第一触媒ケーシング3より下流の排気管2には、第二触媒ケーシング4が配置されている。
【0032】
第一触媒ケーシング3は、たとえば、筒状のケーシング内に酸化触媒とパティキュレートフィルタを内装している。その際、酸化触媒は、パティキュレートフィルタの上流に配置される触媒担体に担持されてもよく、或いはパティキュレートフィルタに担持されてもよい。なお、第一触媒ケーシング3は、酸化触媒の代わりに、三元触媒又は吸蔵還元型触媒を収容してもよい。
【0033】
第二触媒ケーシング4は、筒状のケーシング内に、SCR触媒が担持された触媒担体を収容する。前記触媒担体は、たとえば、コーディライトやFe−Cr−Al系の耐熱鋼等から形成されるハニカム形状の横断面を有するモノリスタイプの基材に、アルミナ系又はゼオライト系の活性成分(担体)をコーティングしたものである。なお、第二触媒ケーシング4におけるSCR触媒の下流には、酸化触媒が担持された触媒担体が配置されてもよい。その場合の酸化触媒は、SCR触媒へ供給されるNHのうち、SCR触媒をすり抜けたNHを酸化するために設けられる。第二触媒ケーシング4は、本発明に係わる排気浄化装置に相当する。
【0034】
第一触媒ケーシング3と第二触媒ケーシング4との間の排気管2には、NH又はNHの前駆体である添加剤を排気中へ添加(噴射)するための添加弁5が配置されている。添加弁5は、ポンプ50を介して添加剤タンク51に接続されている。ポンプ50は、添加剤タンク51に貯留されている添加剤を吸引するとともに、吸引された添加剤を添加弁5へ圧送する。添加弁5は、ポンプ50から圧送されてくる添加剤を排気管2内へ噴射する。添加弁5とポンプ50と添加剤タンク51との組合せは、本発明に係わる添加装置に相当する。
【0035】
ここで、添加剤タンク51に貯留される添加剤としては、NHガス、又は尿素やカルバミン酸アンモニウム等の水溶液である。本実施例では、当該添加剤として尿素水溶液を用いるものとする。添加弁5から尿素水溶液が噴射されると、該尿素水溶液が排気とともに第二触媒ケーシング4へ流入する。その際、尿素水溶液が排気の熱を受けて熱分解され、又はSCR触媒により加水分解される。尿素水溶液が熱分解又は加水分解されると、NHが生成される。このようにして生成されたNHは、SCR触媒に吸着(又は吸蔵)される。SCR触媒に吸着されたNHは、排気中に含まれるNOと反応してNや水(HO)を生成する。つまり、NHは、NOの還元剤として機能する。
【0036】
このように構成された内燃機関1には、ECU(Electronic Control Unit)8が併設
されている。ECU8は、CPU、ROM、RAM、バックアップRAM等を備えた電子制御ユニットである。ECU8には、NOセンサ6、排気温度センサ7、クランクポジションセンサ9、アクセルポジションセンサ10、及びエアフローメータ11等の各種センサが電気的に接続されている。
【0037】
NOセンサ6は、第二触媒ケーシング4より下流の排気管2に配置され、第二触媒ケーシング4から流出する排気のNO濃度に相関する電気信号を出力する。なお、第二触媒ケーシング4がSCR触媒と酸化触媒とを収容している場合は、NOセンサ6は、SCR触媒と酸化触媒との間に配置されるものとする。排気温度センサ7は、第二触媒ケーシング4より下流の排気管2に配置され、第二触媒ケーシング4から流出する排気の温度と相関する電気信号を出力する。
【0038】
クランクポジションセンサ9は、内燃機関1の出力軸(クランクシャフト)の回転位置に相関する電気信号を出力する。アクセルポジションセンサ10は、アクセルペダルの操作量(アクセル開度)に相関する電気信号を出力する。エアフローメータ11は、内燃機関1に吸入される空気の量(質量)に相関する電気信号を出力する。
【0039】
また、ECU8は、内燃機関1に取り付けられた各種機器(たとえば、燃料噴射弁等)、添加弁5、及びポンプ50等と電気的に接続されている。ECU8は、前記した各種センサの出力信号に基づいて、内燃機関1の各種機器、添加弁5、及びポンプ50等を電気的に制御する。たとえば、ECU8は、内燃機関1の燃料噴射制御等のような既知の制御に加え、添加弁5から間欠的に添加剤を噴射させる添加制御や第二触媒ケーシング4の異常を診断する処理(異常診断処理)を実行する。
【0040】
まず、添加制御においては、ECU8は、第二触媒ケーシング4のSCR触媒に吸着されているNH量の推定値(推定NH吸着量)を求め、その推定NH吸着量に基づいて添加弁5を制御する。
【0041】
推定NH吸着量は、SCR触媒に供給されるNH(尿素水溶液が排気中で熱分解されて生成されるNHと尿素水溶液がSCR触媒において加水分解されて生成されるNH)の量から、SCR触媒において消費されるNHの量(NOの還元に消費されるNHの量)とNHスリップ量とを減算した値を積算することによって求められる。
【0042】
SCR触媒へ流入するNHの量は、添加弁5から添加される尿素水溶液の量をパラメータとして演算される。
【0043】
SCR触媒において消費されるNHの量は、NO流入量とNO浄化率とをパラメータとして演算される。その際、NO流入量は、内燃機関1から排出されるNOの量(内燃機関1において混合気が燃焼する際に発生するNOの量)に相関する。内燃機関1から排出されるNOの量は、混合気に含まれる酸素の量と、混合気に含まれる燃料の量と、燃料噴射時期と、機関回転速度とに相関する。混合気に含まれる酸素の量は、吸入空気量(エアフローメータ11の出力信号)に相関する。混合気に含まれる燃料の量は、燃料噴射量に相関する。よって、ECU8は、エアフローメータ11の出力信号と、燃料噴射量と、燃料噴射時期と、機関回転速度と、をパラメータとして、NO流入量の推定値(推定NO流入量)を演算する。なお、上記した種々のパラメータと推定NO流入量との関係は、予め実験的に求めておき、それらの関係をマップや関数式の態様でECU8のROMに記憶させておくようにしてもよい。このようにECU8が推定NO流入量を求めることにより、本発明に係わる推定手段が実現される。また、NO浄化率は、SCR触媒へ流入する排気の流量(単位時間あたりの吸入空気量と単位時間あたりの燃料噴射量との総和)とSCR触媒の温度とをパラメータとして推定される。図2は、排気の流量(単位時間あたりの吸入空気量と単位時間あたりの燃料噴射量との総和)と、SCR触媒の温度と、NO浄化率との関係を示す図である。NO浄化率は、排気流量が多くなるほど小さくなり、且つSCR触媒の温度が高くなるほど大きくなる(ただし、SCR触媒の温度が上限温度(たとえば、350℃)を超えると、SCR触媒の温度が高くなるほど小さくなる)傾向がある。よって、図2に示すような関係を規定したマップ又は関数式を予め求めておき、そのマップ又は関数式に基づいてNO浄化率が求められる。
【0044】
NHスリップ量は、推定NH吸着量の前回の演算値と、SCR触媒の温度と、単位時間あたりにSCR触媒を通過する排気の流量と、をパラメータとして求められる。図3は、SCR触媒を通過する排気の流量が一定である場合において、NH吸着量とSCR触媒の温度とSCR触媒から流出する排気のNH濃度との関係を示す図である。図3
おいて、SCR触媒から流出する排気のNH濃度は、NH吸着量が多くなるほど濃くなり、且つSCR触媒の温度が高くなるほど濃くなる。よって、SCR触媒を通過する排気の流量が一定である場合は、NHスリップ量は、NH吸着量が多くなるほど、且つSCR触媒の温度が高くなるほど多くなるといえる。一方、SCR触媒から流出する排気のNH濃度が一定であれば、単位時間あたりにSCR触媒を通過する排気の流量が多くなるほど、単位時間あたりのNHスリップ量が多くなる。そこで、ECU8は、図3に示したような関係に基づいて、SCR触媒から流出する排気のNH濃度を求め、該NH濃度に単位時間あたりの排気流量(単位時間あたりの吸入空気量と単位時間あたりの燃料噴射量との総和)を乗算することにより、NHスリップ量を算出する。
【0045】
ECU8は、上記した方法により求められた推定NH吸着量が規定量より少なくなると、添加弁5から尿素水溶液を噴射させる。ここでいう「規定量」は、たとえば、SCR触媒が吸着することができる最大のNH量(SCR触媒のNH吸着速度とNH脱離速度とが平衡状態になるときのNH吸着量)から所定のマージンを差し引いた量である。なお、ECU8が上記した方法によって推定NH吸着量を求めることにより、本発明に係わる第一取得手段が実現される。また、ECU8が上記した方法によって添加弁5を制御することにより、本発明に係わる制御手段が実現される。
【0046】
次に、前記した方法により求められた推定NH吸着量が規定量以上であるときに、ECU8は、異常診断処理を実行する。具体的には、ECU8は、推定NH吸着量が規定量以上であるときに、SCR触媒のNO浄化性能に相関する物理量を求め、その物理量に基づいてSCR触媒の異常を診断する。
【0047】
SCR触媒のNO浄化性能を示す物理量としては、たとえば、SCR触媒のNO浄化率、又はSCR触媒のNO浄化量等を用いることができる。以下では、SCR触媒のNO浄化性能に相関する物理量として、NO浄化率を用いる例について述べる。異常診断処理に用いられるNO浄化率は、NH吸着量の推定に用いられるNO浄化率とは異なる方法により求められる。すなわち、異常診断処理に用いられるNO浄化率は、以下の式(1)により演算される。
Enox=(Anoxin−Anoxout)/Anoxin・・・(1)
【0048】
前記式(1)中のEnoxは、NO浄化率である。Anoxinは、NO流入量であり、前述したように、吸入空気量、燃料噴射量、燃料噴射時期、及び機関回転速度をパラメータとして演算される推定NO流入量が代入される。Anoxoutは、SCR触媒から流出するNOの量(以下、「NO流出量」と記す)であり、NOセンサ6の出力信号(NO濃度)と単位時間あたりの排気流量(単位時間あたりの吸入空気量と単位時間あたりの燃料噴射量との総和)とを乗算することにより求められる値が代入される。
【0049】
前記式(1)によりNO浄化率Enoxが算出されると、ECU8は、該NO浄化率Enoxが所定の閾値より大きいか否かを判別する。ここでいう「所定の閾値」は、NO浄化率Enoxが該閾値以下になると、SCR触媒が異常であると考えられる値である。よって、ECU8は、NO浄化率Enoxが所定の閾値より大きければ、SCR触媒が正常であると診断し、NO浄化率Enoxが所定の閾値以下であれば、SCR触媒が異常であると診断する。
【0050】
ところで、実際のNO流入量(実NO流入量)は、推定NO流入量の推定に用いられるパラメータ(吸入空気量、燃料噴射量、燃料噴射時期、及び機関回転速度)以外の要因によっても変化する。たとえば、混合気が燃焼する際に発生するNOの量は、湿度が低くなるほど多くなる傾向がある。そのため、湿度が非常に低い環境(たとえば、10
%程度)で内燃機関1が運転されるときは、該内燃機関1から排出されるNOの量が非常に多くなり、それに伴って実NO流入量も非常に多くなる。その結果、推定NO流入量に対して実NO流入量が多くなる可能性がある。また、推定NO流入量を推定するためのパラメータとして吸入空気量が用いられる場合は、吸入空気量を測定するセンサ(エアフローメータ11)の測定誤差によって推定NO流入量が実NO流入量より少なくなる可能性がある。よって、推定NO流入量が推定されたときの内燃機関1の運転状態と同等の運転状態であっても、湿度の変化やセンサの測定誤差等によって実NO流入量が推定NO流入量より多くなる可能性がある。
【0051】
また、尿素水溶液の添加制御に用いられる推定NH吸着量は、推定NO流入量をパラメータとして求められる。そのため、推定NO流入量が実NO流入量より少なくなると、推定NH吸着量が実際のNH吸着量より多くなる。推定NH吸着量が実NH吸着量より多いときに、推定NH吸着量に基づいて尿素水溶液の添加制御が行われると、尿素水溶液の添加量が実NH吸着量に見合った量より少なくなり、実NH吸着量が減少する。このような状態が続くと、推定NH吸着量と実NH吸着量とのずれが拡大する。
【0052】
その結果、推定NH吸着量に対して実NH吸着量が大幅に少ないときに、SCR触媒の異常診断処理が実行される可能性がある。たとえば、推定NH吸着量が規定量以上であるときに異常診断処理が実行される方法において、異常診断処理が実行される際の実NH吸着量が規定量に対して大幅に少なくなる可能性がある。その場合、SCR触媒のNO浄化性能が正常であっても、NO浄化率Enoxが所定の閾値以下になる可能性がある。その結果、SCR触媒が正常であるにもかかわらず、SCR触媒が異常であると誤診断される可能性がある。
【0053】
なお、内燃機関1から排出されるNOの量が最も多くなることを想定してNO流入量を推定し、それに応じて推定NH吸着量の演算や尿素水溶液の添加制御を行うことが考えられる。しかしながら、湿度があまり低くない場合やエアフローメータ11の測定誤差が小さい場合には、推定NH吸着量が実際のNH吸着量より少なくなるため、尿素水溶液が過剰に添加されてしまい、尿素水溶液の消費量が不要に増加したり、NHスリップ量が不要に増加したりという問題がある。よって、添加制御に用いられる推定NH吸着量については、湿度の低下等を考慮せずに推定することが望ましい。
【0054】
そこで、本実施例では、異常診断処理においてのみ、NO流入量が最も多くなる場合を想定したNH吸着量(最低NH吸着量)を求め、その最低NH吸着量に応じて診断モードを変更するようにした。ここでいう「最低NH吸着量」は、推定NO流入量が推定されたときの内燃機関1の運転状態と同等の運転状態において、SCR触媒が正常であり、且つ内燃機関1から排出されるNOの量が最も多くなると想定した場合のNH吸着量である。
【0055】
詳細には、異常診断処理の実行時における最低NH吸着量が所定量以上であるときは、NO浄化率と第一閾値とを比較することにより、SCR触媒のNO浄化性能が正常時より劣化しているか否かを判別する。また、異常診断処理の実行時における最低NH吸着量が前記所定量未満であるときは、NO浄化率と第二閾値とを比較することにより、SCR触媒のNO浄化性能が完全に失われている否かを判別する。
【0056】
前記所定量は、前記規定量より少ない量であり、正常なSCR触媒のNH吸着量が該所定量を下回ると、NO浄化率が急激に低下すると考えられるNH吸着量である。言い換えると、所定量は、SCR触媒が正常であり、且つSCR触媒のNH吸着量が該所定量以上であれば、NH吸着量が前記規定量以上であるときと略同等のNO浄化率を
得ることができる量である。
【0057】
図4は、SCR触媒が正常である場合における実NH吸着量とNO浄化率との関係を示す図である。図4に示すように、実NH吸着量が所定量以上であるときは、NO浄化率が最大値に張り付く。これに対し、実NH吸着量が所定量未満であるときは、実NH吸着量が少なくなるほど、NO浄化率が小さくなる。なお、SCR触媒が正常であっても、該SCR触媒の温度が高くなるほど実NH吸着量が少なくなるため、前記所定量はSCR触媒の温度が高くなるほど大きな値に変更されることが望ましい。
【0058】
また、前記第一閾値は、NO浄化率が該第一閾値以下になると、SCR触媒のNO浄化性能が正常時より劣化しているとみなすことができる値であり、予め実験等を利用した適合処理によって定められた値である。前記第二閾値は、SCR触媒のNO浄化性能が完全に失われているときのNO浄化率(たとえば、SCR触媒の劣化によりNO浄化性能が完全に無くなったときのNO浄化率、又はSCR触媒を収容した第二触媒ケーシング4が排気管2から取り外されているときのNO浄化率)であり、零である。
【0059】
ここで、最低NH吸着量は、前述したように、推定NO流入量が推定されたときの内燃機関1の運転状態と同等の運転状態において、排気浄化装置が正常であり、且つ内燃機関から排出されるNOの量が最も多くなると想定した場合のNH吸着量である。つまり、最低NH吸着量は、SCR触媒が正常であるときに、実NH吸着量が取り得る下限に相当する。そのため、最低NH吸着量が所定量以上であり、且つSCR触媒が正常であるときは、実NH吸着量が所定量以上であるとみなすことができる。その結果、実NH吸着量が推定NH吸着量より少ないときに異常診断処理が実行されても、SCR触媒が正常であれば、NO浄化率Enoxが第一閾値以下になり難い。よって、最低NH吸着量が所定量以上であるときは、SCR触媒のNO浄化性能が正常時より劣化しているか否かを精度よく判別することができる。
【0060】
一方、最低NH吸着量が所定量未満であるときは、排気浄化装置が正常であっても、実NH吸着量が所定量以上になる場合と実NH吸着量が所定量未満になる場合とが想定される。そのため、実NH吸着量が推定NH吸着量より少ないときに、NO浄化率Enoxと第一閾値とが比較されると、SCR触媒が正常であるにもかかわらず、NO浄化率Enoxが第一閾値以下になる可能性がある。よって、最低NH吸着量が所定量未満である場合において、SCR触媒のNO浄化性能が正常時より劣化した状態(NO浄化性能が完全に失われてはいないが、正常時より劣化している状態)を正確に検出することは難しい。ただし、最低NH吸着量が所定量未満である場合であっても、SCR触媒のNO浄化性能が完全に失われているか否かを判別することは可能である。すなわち、SCR触媒のNO浄化性能が完全に失われてはいない場合は、NO浄化率が零より大きくなる。一方、SCR触媒のNO浄化性能が完全に失われている場合は、NO浄化率が零になる。よって、最低NH吸着量が所定量未満である場合に、NO浄化率と第二閾値とを比較すれば、SCR触媒のNO浄化性能が完全に失われているか否かを正確に判別することはできる。
【0061】
ここで、最低NH吸着量は、前述した推定NH吸着量と同様の方法によって求められる。ただし、SCR触媒において消費されるNHの量を求める際に使用されるNO流入量は、推定NO流入量とは異なる値が用いられる。すなわち、内燃機関1から排出されるNOの量が最も多くなることを想定した値(以下、「最大NO流入量」と称する)が用いられる。最大NO流入量は、例えば、混合気の燃焼によって生成されるNOの量が最も多くなる湿度(たとえば、10%程度)において、エアフローメータ11の測定誤差が最も大きくなる場合のNO流入量であり、前述した推定NO流入量に所定の係数(以下、「推定ずれ係数」と称する)を乗算して求められる。推定ずれ係数は、エ
アフローメータ11の測定誤差、及び混合気の燃焼時に生成されるNOの量が最も多くなる湿度を考慮した係数であり、予め実験等を利用した適合処理によって定められている。
【0062】
以下、本実施例における異常診断処理の実行手順について図5乃至図7に基づいて説明する。図5は、最低NH吸着量に応じて診断モードを切り替える際にECU8が実行する処理ルーチンを示すフローチャートである。図6は、SCR触媒のNO浄化性能が正常時より劣化しているかを診断する際にECU8が実行する処理ルーチンを示すフローチャートである。図7は、SCR触媒のNO浄化性能が完全に失われているかを診断する際にECU8が実行する処理ルーチンを示すフローチャートである。
【0063】
図5の処理ルーチンは、推定NH吸着量が規定量以上であるときにECU8によって繰り返し実行される処理ルーチンであり、予めECU8のROMに記憶されている。
【0064】
図5の処理ルーチンでは、ECU8は、S101の処理において、最低NH吸着量を演算する。詳細には、ECU8は、SCR触媒へ流入するNHの量から、SCR触媒において消費されるNHの量とNHスリップ量とを減算することにより算出する。その際、SCR触媒において消費されるNHの量は、最大NO流入量とNO浄化率とをパラメータとして演算される。詳細には、ECU8は、先ず、エアフローメータ11の出力信号と、燃料噴射量と、燃料噴射時期と、機関回転速度と、をパラメータとして、推定NO流入量を演算する。続いて、ECU8は、推定NO流入量に推定ずれ係数を乗算することにより、最大NO流入量を算出する。また、ECU8は、SCR触媒へ流入する排気の流量とSCR触媒の温度とをパラメータとして、NO浄化率を演算する。そして、ECU8は、最大NO流入量とNO浄化率とを乗算することにより、SCR触媒において浄化されるNO量を演算し、そのNO量をNHの量(SCR触媒において消費されるNHの量)に換算する。
【0065】
S102の処理では、ECU8は、S101の処理で求められた最低NH吸着量に上限ガード処理を施す。SCR触媒が吸着可能なNH量は、SCR触媒の温度に応じて変化する。ここで、SCR触媒が正常であり、且つ内燃機関1から排出されるNOの量が最も多くなる条件下における、SCR触媒の温度とSCR触媒が吸着可能なNH量の上限値との関係を図8に示す。図8において、SCR触媒の温度が第一温度temp1(たとえば、250℃)以下であるときは、SCR触媒が吸着可能なNH量の上限値は略一定となる。SCR触媒の温度が第一温度temp1を上回ると、SCR触媒の温度が高くなるほど、SCR触媒が吸着可能なNH量の上限値が少なくなる。そして、SCR触媒の温度が第一温度temp1より高い第二温度temp2(たとえば、450℃)以上になると、SCR触媒が吸着可能なNH量が零になる。そこで、ECU8は、S102の処理で求められた最低NH吸着量とSCR触媒の温度から特定される上限値とを比較し、いずれか小さい方の値を最低NH吸着量に設定する。なお、SCR触媒の温度としては、排気温度センサ7の測定値を用いてもよく、或いは内燃機関1の運転状態から推定される値を用いてもよい。
【0066】
ここで、ECU8がS101及びS102の処理を実行することにより、本発明に係わる第二取得手段が実現される。
【0067】
S103の処理では、ECU8は、前記S102の処理で設定された最低NH吸着量が所定量以上であるか否かを判別する。所定量は、前述したように、前記規定量より少ない量であり、正常なSCR触媒のNH吸着量が該所定量を下回ると、NO浄化率が急激に低下すると考えられるNH吸着量である。
【0068】
前記S103の処理で肯定判定された場合は、ECU8は、S104の処理へ進み、劣化診断モードを選択する。ここでいう劣化診断モードは、SCR触媒のNO浄化率と第一閾値とを比較することにより、SCR触媒のNO浄化性能が正常時より劣化しているか否かを診断するモードである。
【0069】
一方、前記S103の処理で否定判定された場合は、ECU8は、S105の処理へ進み、完全故障診断モードを選択する。ここでいう完全故障診断モードは、SCR触媒のNO浄化率と第二閾値とを比較することにより、SCR触媒のNO浄化性能が完全に失われている否かを診断するモードである。
【0070】
図5の処理ルーチンにおいて劣化診断モードが選択された場合に、ECU8は、図6の処理ルーチンを実行する。図6の処理ルーチンでは、ECU8は、先ずS201の処理において、劣化診断処理の実行条件が成立しているか否かを判別する。ここでいう実行条件は、推定NH吸着量が規定量以上であること、且つSCR触媒の温度がNOの浄化に適した温度範囲(たとえば、200℃〜350℃)に属していること、且つ内燃機関1の吸入空気量が比較的多いこと等である。
【0071】
S201の処理において否定判定された場合は、ECU8は、本処理ルーチンの実行を終了する。一方、S201の処理において肯定判定された場合は、ECU8は、S202の処理へ進む。
【0072】
S202の処理では、ECU8は、推定NO流入量とNOセンサ6の測定値とエアフローメータ11の測定値とをパラメータとして、NO浄化率を演算する。なお、NO浄化率は、異なるタイミングにおいて複数回にわたって演算される。その際、複数回の演算処理は、内燃機関1の運転条件が同等となるときに実施されることが望ましい。なお、複数回の演算処理が異なる運転条件下で実施された場合は、すべてのNO浄化率が同一運転条件下の値となるように補正してもよい。
【0073】
S203の処理では、ECU8は、前記S202の処理で算出された複数のNO浄化率の平均値(平均NO浄化率)を演算する。続いて、ECU8は、S204の処理へ進み、前記平均NO浄化率が第一閾値より大きいか否かを判別する。
【0074】
前記S204の処理において肯定判定された場合は、ECU8は、S205の処理へ進み、SCR触媒のNO浄化性能が劣化していないと判定(正常判定)する。一方、前記S204の処理において否定判定された場合は、ECU8は、S206の処理へ進み、SCR触媒のNO浄化性能が劣化していると判定(劣化判定)する。
【0075】
次に、図5の処理ルーチンにおいて完全故障診断モードが選択された場合に、ECU8は、図7の処理ルーチンを実行する。図7の処理ルーチンでは、ECU8は、先ずS301の処理において、完全故障診断処理の実行条件が成立しているか否かを判別する。ここでいう実行条件は、推定NH吸着量が規定量以上であること、且つSCR触媒の温度がNOの浄化に適した温度範囲(たとえば、200℃〜350℃)に属していること、且つ内燃機関1の吸入空気量が比較的少ないこと等である。
【0076】
S301の処理において否定判定された場合は、ECU8は、本処理ルーチンの実行を終了する。一方、S301の処理において肯定判定された場合は、ECU8は、S302の処理へ進む。
【0077】
S302の処理では、ECU8は、前述した図6のルーチンにおけるS202の処理と同様に、NO浄化率の演算を複数回行う。続いて、S303の処理では、ECU8は、
前記S302の処理で算出された複数のNO浄化率のうち、最も大きなNO浄化率(最大NO浄化率)を抽出する。
【0078】
S304の処理では、ECU8は、前記最大NO浄化率が第二閾値より大きいか否かを判別する。言い換えると、ECU8は、前記S302の処理で求められた複数のNO浄化率の内に、第二閾値より大きなNO浄化率があるか否かを判別する。S304の処理において肯定判定された場合は、ECU8は、S305の処理へ進み、SCR触媒のNO浄化性能が完全に失われてはいないと判定(正常判定)する。一方、前記S304の処理において否定判定された場合は、ECU8は、S306の処理へ進み、SCR触媒のNO浄化性能が完全に失われていると判定(完全故障判定)する。
【0079】
このようにECU8が図6、7の処理ルーチンを実行することにより、本発明に係わる診断手段が実現される。その結果、実NH吸着量が推定NH吸着量より少ないとき、特に実NH吸着量が所定量を下回るときに異常診断処理が実行されても、SCR触媒が正常であるにもかかわらず異常であると誤診断されることが抑制される。
【0080】
なお、図9に示すように、最低NH吸着量が所定量以上であるときは劣化診断モードで異常診断処理が実行され、最低NH吸着量が所定量未満且つ下限値より大きいときは完全故障診断モードで異常診断処理が実行され、最低NH吸着量が下限値以下であるときは異常診断処理が禁止(禁止モード)されるようにしてもよい。ここでいう下限値は、最低NH吸着量が該下限値以下になると、SCR触媒が正常であってもNO浄化率が第二閾値以下になる可能性があるNH吸着量(たとえば、零)である。
【0081】
最低NH吸着量が零になると、実NH吸着量が零になる可能性がある。実NH吸着量が零になると、SCR触媒のNO浄化性能が完全に失われてはいなくても、NO浄化率が第二閾値以下になる。よって、最低NH吸着量が下限値以下であるときに異常診断処理が実行されると、SCR触媒のNO浄化性能が完全に失われてはいないにもかかわらず、NO浄化性能が完全に失われていると誤診断される可能性がある。
【0082】
これに対し、最低NH吸着量が下限値以下であるときに異常診断処理の実行が禁止あされると、上記したような誤診断が起こり難くなる。よって、SCR触媒が正常であるときに、該SCR触媒が異常であると誤診断されることをより確実に抑制することができる。ここで、禁止モードを含む診断モードの切り替える手順について図10に沿って説明する。図10において、前述した図5の処理ルーチンと同様の処理は同一の符号を付している。
【0083】
図10の処理ルーチンでは、ECU8は、S104の処理において否定判定された場合に、S401の処理へ進み、最低NH吸着量が下限値より大きいか否かを判別する。S401の処理において肯定判定された場合は、ECU8は、S106の処理へ進む。一方、S401の処理において否定判定された場合は、ECU8は、S402の処理ヘ進み、異常診断処理の実行を禁止するモード(禁止モード)を選択する。禁止モードが選択された場合は、ECU8は、異常診断処理を実行しないため、SCR触媒のNO浄化性能が完全に失われてはいないにもかかわらず、NO浄化性能が完全に失われていると誤診断されることが抑制される。
【符号の説明】
【0084】
1 内燃機関
2 排気管
3 第一触媒ケーシング
4 第二触媒ケーシング
5 添加弁
6 NOセンサ
7 排気温度センサ
8 ECU
50 ポンプ
51 添加剤タンク
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10