(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の吸着ボードは、臭い成分や有害気体成分を吸着する目的で製造されたものである。この吸着ボードは素材として活性炭を使用することにより吸着性能が与えられる。
本発明の吸着ボードに用いられる活性炭は、籾殻をアルカリ液で処理したのち、CO
2賦活処理、もしくはZnCl
2賦活処理などの賦活処理がされたものであり、この活性炭は、珪素含有率が0.5〜6重量%であるものである。
【0013】
籾殻のアルカリ処理は籾殻をNaOH水溶液やKOH水溶液などのアルカリ水溶液と籾殻とを混合して攪拌することにより行うことができる。アルカリ水溶液の濃度は0.5〜2モルであることが好ましい。処理温度は70〜90℃、処理時間は処理温度にもよるが0.5〜2時間が好ましい。処理温度が80〜85℃、処理時間が0.8〜1.2時間であることがさらに好ましい。
【0014】
このアルカリ処理により籾殻粒子の表面の珪素成分が処理時間が進むにつれ脱落する。アルカリ処理が過度に行われると籾殻粒子の表面の珪素成分がほぼ完全に脱落するが、本発明においては、籾殻粒子の表面に珪素成分が若干残留する程度のアルカリ処理を行う。
【0015】
籾殻粒子の表面に珪素成分が残留する度合いはアルカリ処理後の籾殻の珪素成分の定量分析により求める。本発明においては、アルカリ処理後の籾殻の珪素含有率が0.5〜6重量%であることが好ましい。籾殻粒子の表面に珪素成分が残留する度合いはアルカリ処理の温度と時間を制御することにより調整することができる。
【0016】
籾殻をアルカリ液で処理したのちのCO
2賦活処理は、例えば、CO
2雰囲気中800〜900℃、0.5〜1時間で行うことが好ましい。
【0017】
籾殻をアルカリ液で処理したのちのZnCl
2賦活処理は、例えば、1〜2モル/LのZnCl
2水溶液にアルカリ処理された籾殻を浸漬したのち水分を蒸発させ乾燥後、N
2雰囲気中500〜600℃、1〜2時間で行うことが好ましい。アルカリ処理後の籾殻の珪素含有率は0.5〜6重量%であることが好ましい。アルカリ処理後の籾殻を上述の賦活処理することにより、BET比表面積が1000m
2/g以上である籾殻活性炭を得ることができる。これに対して、籾殻をアルカリ処理することなく賦活処理を行った場合は、籾殻表面の珪素成分皮膜が障害となって充分な賦活がなされないため、得られる籾殻活性炭のBET比表面積はたかだか400〜500m
2/gである。
【0018】
また、籾殻粒子の表面の珪素成分がほぼ完全に脱落し、珪素含有率が0.5重量%未満となるようなアルカリ処理が行われると、その後の賦活処理により得られた籾殻活性炭の珪素含有率も0.5重量%未満となり、比表面積は1000m
2/g以上であるが、このような籾殻活性炭はポリビニルアルコール系樹脂との親和性に乏しいので、ポリビニルアルコール系樹脂を接着剤として籾殻活性炭粒子同士を結着して得られる成形体は強度が低い。
【0019】
これに対して、アルカリ処理後の籾殻を上述の賦活処理することにより得られた本発明の籾殻活性炭は珪素含有率が0.5〜6重量%であり、珪素成分が表面に残留しているので、ポリビニルアルコール系樹脂との親和性が良く、このような籾殻活性炭を用いてポリビニルアルコール系樹脂を接着剤として籾殻活性炭粒子同士を結着して得られる成形体は強度が高い。また、この籾殻活性炭は比表面積が上述のように大きいので、成形体も優れた吸着能を有する。籾殻活性炭の珪素含有率が6重量%を越えて大きい場合は比表面積が1000m
2/g未満となり、成形体の吸着能が劣る。
【0020】
アルカリ処理による籾殻の珪素成分の除去の程度は、使用するアルカリ処理液の種類や濃度や処理温度や処理時間に影響される。
図1にアルカリ処理液としてNaOH水溶液を用い、処理温度85℃、処理時間1時間としたときの、水溶液の濃度と処理後の籾殻中の残留珪素の比率(重量%)との関係を示す。
図1によると、処理液濃度が0.25〜1モル/Lであれば処理後の籾殻中の残留珪素の比率が1.8〜2重量%となる
。処理液濃度が0.15モル/L以下であると処理後の籾殻中の残留珪素の比率が11.1重量%以上となる。
【0021】
図2にアルカリ処理液としてNaOH水溶液を用い、処理液濃度1モル/L、処理時間1時間としたときの、処理温度と処理後の籾殻中の残留珪素の比率(重量%)との関係を示す。
図2によると、処理温度が40〜85℃であれば処理後の籾殻中の残留珪素の比率が5.5〜2重量%となる。また、処理温度が20℃であれば処理後の籾殻中の残留珪素の比率が17重量%となる。
【0022】
図3にアルカリ処理液としてKOH水溶液を用い、処理温度85℃、処理時間1時間としたときの、水溶液の濃度と処理後の籾殻中の残留珪素の比率(重量%)との関係を示す。
図3によると、処理液濃度が0.251モル/Lであれば処理後の籾殻中の残留珪素の比率が3.6重量%となる。また、処理液濃度が0.05〜1モル/L以下であると処理後の籾殻中の残留珪素の比率が16.7重量%以上となる。
【0023】
本発明の吸着ボードは、本発明の籾殻活性炭と、接着剤であるポリビニルアルコール系樹脂の水溶液とを混合してなる素地体をプレス成形し、プレスされた状態で加熱乾燥して得ることができる。あるいは、このような素地体を凍結し、次いで解凍したのちプレスし、プレスされた状態で加熱乾燥して得ることができる。いずれの場合においても、プレスされた状態で加熱乾燥したのち、無荷重状態でさらに加熱乾燥してもよい。
【0024】
本発明の吸着ボードにおけるこの接着剤の含有比率は2〜20重量%であることが好ましい。
【0025】
本発明において用いるポリビニルアルコール系樹脂は、一般的に酢酸ビニルを共重合して得られるポリ酢酸ビニルをケン化して得られるもので、ビニルアルコール構造単位を主成分とし、そのケン化度に応じて未ケン化部分である酢酸ビニル構造単位を有する水溶性樹脂である。
【0026】
本発明で用いられるポリビニルアルコール系樹脂の平均重合度(JIS K6726に準拠して測定)は、通常500〜10000であり、特に800〜3000、殊に1500〜2600である。
かかる平均重合度が小さすぎると、得られる吸着ボードの機械的強度が不十分となる場合があり、大きすぎると、籾殻活性炭とポリビニルアルコール系樹脂の水溶液を混合してなる素地体の流動性が不足し、プレス成形時に過度な圧力が必要となる場合がある。
また、ポリビニルアルコール系樹脂は、ケン化度(JIS K6726に準拠して測定)が、通常50〜100モル%、特に80〜99.9モル%、殊に86〜99.8モル%であるのものが好ましく用いられる。
【0027】
また、本発明では、ポリビニルアルコール系樹脂として、ビニルアルコール構造単位を主成分とし、部分的に側鎖に各種官能基を導入した変性ポリビニルアルコール系樹脂を用いることができる。かかる変性ポリビニルアルコール系樹脂としては、公知のものを用いることが可能であり、酢酸ビニルの重合時に各種単量体を共重合させ、これをケン化して得られた変性ポリビニルアルコール系樹脂や、未変性ポリビニルアルコールに後変性によって各種官能基を導入した変性ポリビニルアルコール系樹脂などが挙げられる。
【0028】
本発明の籾殻活性炭は単独でポリビニルアルコール系樹脂を接着剤として籾殻活性炭粒子同士を結着して成形体を得ることができるが、吸着性能を著しく損なわない程度に、例えば含有率30重量%以下で充填材を含有させてもよい。このような充填材としては、木材屑、籾殻以外の種子殻、石膏、炭酸カルシウムなどの無機塩類が例示される。
【0029】
本発明の吸着ボードの他の態様は、本発明の籾殻活性炭を含む粒子同士がポリビニルアルコール系樹脂を介して結合されてなる活性炭層を含む吸着ボードである。このような吸着ボードは、パーティクルボードのような基材ボードの表面に、本発明の籾殻活性炭とポリビニルアルコール系樹脂の水溶液とを混合してなる素地体を層状に塗布したのち加熱乾燥して得ることができる。あるいはその素地体を予めシート状に成形したのち基材ボードの表面に貼付して加熱乾燥して得ることができる。さらには、2個の基材ボードのあいだにこの素地体を層状にサンドイッチして加熱乾燥して得ることができる。
【0030】
本発明の吸着ボードのさらに他の態様は、本発明の籾殻活性炭と籾殻粒を含む粒子同士がポリビニルアルコール系樹脂を介して結合されてなる吸着ボードである。このような吸着ボードは、本発明の籾殻活性炭と、籾殻と、ポリビニルアルコール系樹脂の水溶液とを混合してなる素地体をプレス成形し、プレスされた状態で加熱乾燥して得ることができる。あるいは、このような素地体を凍結し、次いで解凍したのちプレスし、プレスされた状態で加熱乾燥して得ることができる。いずれの場合においても、プレスされた状態で加熱乾燥したのち、無荷重状態でさらに加熱乾燥してもよい。籾殻とポリビニルアルコール系樹脂との接着力が高いので、この態様では極めて高強度の吸着ボードを得ることができる。また、この態様においても、吸着性能を著しく損なわない程度に、例えば含有率30重量%以下で充填材を含有させてもよい。このような充填材としては、木材屑、籾殻以外の種子殻、石膏、炭酸カルシウムなどの無機塩類が例示される。
【実施例】
【0031】
実施例、比較例におけるBET比表面積は島津製作所社製;トライスターII 2030により測定(N
2、77°K)した。
【0032】
籾殻活性炭の調製
【0033】
[実施例1]
1モルのNaOH水溶液10重量部に籾殻1重量部を投入し、85℃で1時間加熱処理した。処理後の籾殻を水洗、乾燥したのちCO
2賦活処理を行い、籾殻活性炭を得た。CO
2賦活処理条件は、CO
2流量:1000cc/min、温度900℃、処理時間30minであった。
【0034】
[実施例2]
実施例1で用いた籾殻に代えて粉砕された籾殻(100メッシュパス)を用いたほかは実施例1と同様にして籾殻活性炭を得た。
【0035】
[実施例3]
CO
2賦活処理に代えてZnCl
2賦活処理を行ったほかは実施例1と同様にして籾殻活性炭を得た。ZnCl
2賦活処理は、NaOH処理した籾殻1重量部を1モルのZnCl
2水溶液10重量部に投入し、100℃で水分を蒸発させたのち残渣物を105℃で12hr乾燥後、N
2雰囲気で500℃1hr加熱することにより行った。
【0036】
[実施例4]
実施例3で用いた籾殻に代えて実施例2で用いた粉砕された籾殻(100メッシュパス)を用いたほかは実施例3と同様にして籾殻活性炭を得た。
【0037】
[実施例5]
NaOH水溶液に代えて0.25モルのKOH水溶液を用いたほかは実施例1と同様にして籾殻活性炭を得た。得られた籾殻活性炭の比表面積は1150m
2/gであった。
【0038】
[比較例1]
実施例1で用いた未処理の籾殻に対して実施例1と同様のCO
2賦活処理を行い、籾殻活性炭を得た。
【0039】
[比較例2]
実施例2で用いた未処理の粉砕された籾殻に対して実施例1と同様のCO
2賦活処理を行い、籾殻活性炭を得た。
【0040】
[比較例3]
2モルのNaOH水溶液10重量部に籾殻1重量部を投入し、95℃で3時間加熱処理した。処理後の籾殻を水洗、乾燥したのち実施例1と同様のCO
2賦活処理を行い、籾殻活性炭を得た。
【0041】
表1に籾殻活性炭の灰分、BET比表面積、気孔容積、気孔サイズの測定結果を示す。
【0042】
【表1】
【0043】
なお、表1の実施例1、実施例2の灰分の成分のほとんどはSiO
2であった。実施例3、実施例4の灰分はZn成分を含むものであり、SiO
2の含有率は約2〜4重量%であった。
【0044】
吸着ボードの作成
【0045】
[実施例6]
実施例1で得られた籾殻活性炭1重量部を、ケン化度98.5%、重合度1800のポリビニルアルコール水溶液(濃度15重量%)の1重量部と混合し2MPaでプレス成形してプレス状態で180℃12分間の加熱を行い幅10mm、厚み7mm、長さ75mmのボード片を得た。このボード片は、内装材として使用するのに充分な強度と、優れた吸着能を有していた。
【0046】
[実施例7]
実施例5で得られた籾殻活性炭1重量部を実施例6と同様のポリビニルアルコール水溶液1重量部と混合し2MPaでプレス成形してプレス状態で180℃12分間の加熱を行い幅10mm、厚み7mm、長さ75mmのボード片を得た。このボード片は、内装材として使用するのに充分な強度と、優れた吸着能を有していた
【0047】
[比較例4]
比較例3で得られた籾殻活性炭を用いたほかは実施例6と同様にしてプレス成形、加熱してボード片を得た。このボード片は内装材として用いるための加工操作時に壊れてしまうほど強度が低く、実用化不能であった。
【0048】
[実施例8]
実施例2で得られた籾殻活性炭1重量部と籾殻1重量部とケン化度98.5%、重合度1800のポリビニルアルコールの10重量%水溶液3重量部を混練して混練物を得た。この混練物を攪拌しつつ80℃に加熱して乾燥し、粉粒体を得た。この粉粒体120gを縱10cm、横14.5cm、厚さ2.4cmのキャビティを有する型に入れて加圧成形し造形体とした。造形体を加圧状態でキャビティ内に0.2MPaの水蒸気源から水蒸気を3分間導入して造形体を処理した。開型してこの成形体を−20℃で20分間冷凍したのち室温で解凍した。解凍後80℃20分の加熱により加熱乾燥し籾殻成形体を得た。この籾殻成形体はかさ高であり優れた吸着能を有しかつ内装材として充分な強度を有していた。