(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
少なくとも一方の面に無機系粒子を含有する塗工層を設けられることによって、リチウムイオン二次電池セパレータとなるリチウムイオン二次電池セパレータ用基材において、合成樹脂短繊維からなる不織布であり、不織布全体の平均繊維径が5.5μm以下であり、不織布の一方の面の表面を構成する繊維の平均繊維径と、反対の面の表面を構成する繊維の平均繊維径とが異なり、平均繊維径の大きい面の平均繊維径D(W)と平均繊維径の小さい面の平均繊維径D(T)の比率R=D(W)/D(T)が1.10以上2.58以下であることを特徴とするリチウムイオン二次電池セパレータ用基材。
平均繊維径の大きい面の平均繊維径D(W)と平均繊維径の小さい面の平均繊維径D(T)の比率R=D(W)/D(T)が、1.30〜2.50である請求項1記載のリチウムイオン二次電池セパレータ用基材。
請求項1〜3のいずれか記載のリチウムイオン二次電池セパレータ用基材の少なくとも一方の面に、無機系粒子を含有する塗工層を設けてなるリチウムイオン二次電池セパレータ。
【背景技術】
【0002】
近年の携帯電子機器の普及及びその高性能化に伴い、高エネルギー密度を有する二次電池が望まれている。この種の電池として、有機電解液(非水電解液)を使用するリチウムイオン二次電池が注目されてきた。このリチウムイオン二次電池は、平均電圧として従来の二次電池であるアルカリ二次電池の約3倍である3.7V程度が得られることから高エネルギー密度となるが、アルカリ二次電池のように水系の電解液を用いることができないため、十分な耐酸化還元性を有する非水電解液を用いている。非水電解液は可燃性であるため発火等の危険性があり、その使用において安全性には細心の注意が払われている。発火等の危険に曝されるケースとしていくつか考えられるが、特に過充電が危険である。
【0003】
過充電を防止するために、現状の非水系二次電池では定電圧・定電流充電が行われ、電池に精密なIC(保護回路)が装備されている。この保護回路にかかるコストは大きく、非水系二次電池をコスト高にしている要因にもなっている。
【0004】
保護回路で過充電を防止する場合、当然保護回路がうまく作動しないことも想定され、本質的に安全であるとは言い難い。現状の非水系二次電池には、過充電時に保護回路が壊れ、過充電されたときに安全に電池を破壊する目的で、安全弁・PTC素子の装備、セパレータには熱ヒューズ機能を有する工夫がなされている。しかし、上記のような手段を装備していても、過充電される条件によっては、確実に過充電時の安全性が保証されているわけではなく、実際には非水系二次電池の発火事故は現在でも起こっている。
【0005】
セパレータとしては、ポリエチレン等のポリオレフィンからなるフィルム状の多孔質フィルムが多く使用されており、電池内部の温度が130℃近傍になった場合、溶融して微多孔を塞ぐことで、リチウムイオンの移動を防ぎ、電流を遮断させる熱ヒューズ機能(シャットダウン機能)があるが、何らかの状況により、さらに温度が上昇した場合、ポリオレフィン自体が溶融してショートし、熱暴走する可能性が示唆されている。そこで、現在、200℃近くの温度でも溶融及び収縮しない耐熱性セパレータが開発されている。
【0006】
耐熱性セパレータとしては、ポリエステル系繊維で構成した不織布、ポリエステル系繊維に耐熱性繊維であるアラミド繊維を配合した不織布があるが、孔径が大きく内部短絡が起きるため、実用的ではない(例えば、特許文献1〜3参照)。一方、不織布や織布等の基材に種々の複合化処理を行って、リチウムイオン二次電池セパレータとする例も報告されている。例えば、ポリオレフィンからなるフィルム状の多孔質フィルムを、ポリエステル系繊維で構成した不織布の基材に積層させて複合化する例や、不織布や織布の基材にフィラー粒子の含有や、樹脂の表面塗工による複合化処理を行って耐熱性を持たせる例が報告されている(例えば、特許文献4〜6参照)。しかしながら、基材として用いられている不織布については、孔が大きく、表面の平滑性が低いため、表面塗工により複合化した際の表面のバラつきが大きく、また、フィラー粒子や樹脂等の複合化物の脱落を招き易いなどの品質的な問題があった。
【0007】
基材の緻密性を改良すべく、基材を構成する合成樹脂短繊維の平均繊維径を小さくし、特定の繊維径、繊維長の繊維を含有させた基材が報告されている(例えば、特許文献7、8参照)。しかしながら、基材を製造する条件によっては、繊維の分散性が悪化し、基材の均一性を損ねる場合があった。また、基材を構成する繊維として、フィブリル化された繊維を配合し、より緻密性を改良した基材も報告されている(例えば、特許文献9〜11参照)。しかしながら、基材の更なる強度向上が望まれている。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明のリチウムイオン二次電池セパレータ用基材(以下、「基材」と略す場合がある)について詳細に説明する。本発明の基材は、合成樹脂短繊維からなる不織布であり、不織布全体の平均繊維径が5.5μm以下であり、不織布の一方の面の表面を構成する繊維の平均繊維径と、反対の面の表面を構成する繊維の平均繊維径とが異なり、平均繊維径の大きい面の平均繊維径D(W)と平均繊維径の小さい面の平均繊維径D(T)の比率R=D(W)/D(T)が1.10以上であることを特徴とする。
【0014】
本発明における繊維の平均繊維径は、以下の手順に従って測定を行った。
1)本発明のリチウムイオン二次電池セパレータ用基材に使用する不織布の表面の顕微鏡写真を倍率1000倍で撮る。
2)上記の写真において、不織布の流れ方向(機械方向、MD)に対して直角の方向(幅方向、CD)に線を引き、引いた線と交わる繊維を対象に、繊維径を測定する。
3)測定対象となった繊維については、線に対して繊維が、直交、または斜めに交わる場合には、繊維軸に対して、直交する方向の繊維幅を計測する。
4)複数の顕微鏡写真に対して、1)〜3)の測定で、少なくとも、50本以上の繊維の繊維径を測定して算術平均した。
【0015】
本発明において、不織布の両面に関して、それぞれ平均繊維径を測定し、この両面の平均繊維径の平均値を「不織布全体の平均繊維径」とする。
【0016】
本発明の基材に対して、少なくとも一方の面に無機系粒子を含有する塗工層を設ける際、無機系粒子を含有する塗工液が不織布に適度に浸透する必要がある。塗工液が不織布に浸透することで、塗工層と不織布の界面の結着力が強くなり、塗工層の強度が強くなる。また、不織布内の空隙に、塗工液が適度に浸透することで、基材の強度が向上する。しかしながら、本発明のリチウムイオン二次電池セパレータ用基材に使用する不織布全体の平均繊維径が5.5μmを超えた場合、不織布内で繊維同士が交差する密度が低くなり、強度が発現しにくくなる。また、不織布の厚さ方向に塗工液が浸透しやすく、塗工液を塗布した反対面に、塗工液が貫通してしまう。その結果、塗工液を塗布する際に塗工機を汚し、作業性を著しく悪化させると共に、貫通した塗工液がリチウムイオン二次電池セパレータ用基材の均一性を損なう。本発明の基材として使用される不織布全体の平均繊維径は、5.5μm以下であり、より好ましくは、3.4〜5.0μmの範囲であり、更に好ましくは、3.9〜5.0μmの範囲である。
【0017】
本発明の基材として使用される不織布は、一方の面の表面を構成する繊維の平均繊維径と反対の面の表面を構成する繊維の平均繊維径が異なり、平均繊維径の大きい面の平均繊維径D(W)と平均繊維径の小さい面の平均繊維径D(T)の比率R=D(W)/D(T)が1.10以上であり、比率Rが1.30〜2.50であることがより好ましい。
【0018】
平均繊維径の大きい面の平均繊維径D(W)と平均繊維径の小さい面の平均繊維径D(T)の比率Rが1.10未満である場合、無機系粒子を含有する塗工層を設ける際に、不織布表面への塗工液の浸透が進みにくく、液付きが悪くなることがあり、塗工層が面方向で均一に付着しにくくなり、均一性を損なう場合がある。
【0019】
本発明の基材の平均繊維径の大きい面の平均繊維径D(W)と平均繊維径の小さい面の平均繊維径D(T)の比率R=D(W)/D(T)は、1.30〜2.50の範囲であることがより好ましい。比率Rが1.30以上の場合、無機系粒子を含有する塗工層を設ける際の塗工液の基材への液付き、均一性の改良効果がより顕著となる。しかしながら、比率Rが2.50を超える場合、平均繊維径の大きい面と平均繊維径の小さい面の厚み方向での強度差が生じ、リチウムイオン二次電池セパレータ用基材の面方向にボコツキが生じる場合や、カールが発生する場合がある。
【0020】
本発明の基材として使用される不織布の平均繊維径の大きい面の平均繊維径D(W)と平均繊維径の小さい面の平均繊維径D(T)の比率R=D(W)/D(T)を調整する方法としては、異なる平均繊維径を持った繊維のスラリーを、2層以上の多層のウエッブを重ね合わせる多層抄紙法で不織布を抄紙すること、基材の熱カレンダー条件を調整することで達成できる。
【0021】
さらに、本発明の基材として使用される不織布に、繊維の長さが1mm以下の合成樹脂極短繊維(以下、「合成樹脂極短繊維」と略す場合がある)を含有させることにより、本発明のリチウムイオン二次電池セパレータ用基材の均一性が向上する。特に、不織布の平均繊維径の小さい面を構成する層(以下、「平均繊維径の小さい層」と記載する場合がある)に配合することで、不織布製造時における繊維径の小さい繊維の過剰な絡み合いを抑えることができ、均一性に優れた不織布を提供することができると共に、無機系粒子を含有する塗工層を不織布の平均繊維径の大きい面を構成する層(以下、「平均繊維径の大きい層」と記載する場合がある)に設ける際には、塗工液の貫通を抑えることができる。
【0022】
本発明の基材において、合成樹脂極短繊維の好ましい含有量は、不織布全体に対して、1〜30質量%であり、より好ましくは5〜20質量%である。1質量%未満では、合成樹脂極短繊維を含有させない場合と比較して、緻密性及び均一性が変わらない場合がある。30質量%を超えてもよいが、30質量%を超えると改善効果が飽和する。
【0023】
本発明の基材の目付けは、6.0〜30.0g/m
2であるのが好ましい。30.0g/m
2を超えると、基材だけでセパレータの大半を占めることになり、複合化による効果を得られ難くなる。6.0g/m
2未満であると、均一性を得ることが難しくなり、複合化後の表面に大きなバラつきが発生し易くなる傾向がある。より好ましくは8.0〜20.0g/m
2である。なお、目付けはJIS P 8124(紙及び板紙−坪量測定法)に規定された方法に基づく坪量を意味する。
【0024】
本発明の基材として使用される不織布において、平均繊維径の大きい層と平均繊維径の小さい層を多層抄紙法で製造する際には、それぞれの層における目付けの比率を適宜、調整することができる。一層の目付けとしては、不織布製造時の製造効率や品質の観点から、少なくとも、3g/m
2以上、より好ましくは、5g/m
2以上になるように調整することが好ましい。
【0025】
合成樹脂短繊維は、熱融着短繊維(バインダー用短繊維)でも、非熱融着短繊維でも構わない。熱融着短繊維として用いる際は、芯鞘型、偏芯型、サイドバイサイド型、海島型、オレンジ型、多重バイメタル型の複合繊維、あるいは単一成分タイプなどが挙げられるが、均一性を得るという点から特に単一成分タイプであることが好ましい。
【0026】
合成樹脂短繊維及び合成樹脂極短繊維を構成する樹脂としては、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリ酢酸ビニル系樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、ポリアミド系樹脂、アクリル系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、ポリビニルエーテル系樹脂、ポリビニルケトン系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ジエン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、フェノール系樹脂、メラミン系樹脂、フラン系樹脂、尿素系樹脂、アニリン系樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、アルキド樹脂、フッ素系樹脂、シリコーン系樹脂等が挙げられる。このうち、強度特性の点から、ポリエステル系樹脂、アクリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂が好ましい。特に、ポリエステル系樹脂が好ましい。
【0027】
ポリエステル系樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート系、ポリブチレンテレフタレート系、ポリトリメチレンテレフタレート系、ポリエチレンナフタレート系、ポリブチレンナフタレート系、ポリエチレンイソフタレート系などが挙げられる。これらは、単独または2種類以上を併用しても良い。これらの中でも、リチウムイオン二次電池セパレータ用基材に使用する場合には、耐熱性に優れているポリエチレンテレフタレート系樹脂が好ましい。
【0028】
本発明の基材において、不織布の製造方法としては、繊維ウェブを形成し、繊維ウェブ内の繊維を接着・融着・絡合させる方法を用いることができる。得られた不織布は、そのまま使用しても良いし、複数枚からなる積層体として使用することもできる。繊維ウェブの製造方法としては、例えば、カード法、エアレイ法等の乾式法、抄紙法等の湿式法、スパンボンド法、メルトブロー法等がある。このうち、湿式法によって得られるウェブは、均質かつ緻密であり、リチウムイオン二次電池セパレータ用基材として好適に用いることができる。湿式法は、繊維を水中に分散して均一な抄紙スラリーとし、この抄紙スラリーを円網、長網、傾斜式等のワイヤーの少なくとも1つを有する抄紙機を用いて、繊維ウェブを得る方法である。
【0029】
繊維ウェブから不織布を製造する方法としては、水流交絡法、ニードルパンチ法、バインダー接着法等を使用することができる。特に、均一性を重視して前記湿式法を用いる場合、バインダー接着法を施して熱融着短繊維を接着することが好ましい。バインダー接着法により、均一なウェブから均一な不織布が形成される。このようにして製造した湿式不織布に対して、カレンダーなどによって圧力を加えて、厚さを調整し、あるいは厚さを均一化することが好ましい。ただし、熱融着短繊維が皮膜化しない温度(熱融着短繊維の融点よりも20℃以上低い温度)で加圧するのが好ましい。
【0030】
本発明のリチウムイオン二次電池セパレータ用基材において、合成樹脂極短繊維以外の合成樹脂短繊維の繊維長としては、2mmを超えて7mm以下が好ましく、3〜6mmがより好ましく、3〜5mmが更に好ましい。繊維長が7mmを超えた場合、平均繊維径との兼ね合いから、不織布の製造における繊維の分散が難しくなることがあり、地合不良等が発生し、良好な繊維ウェブの形成ができなくなるといった問題が生じることがある。一方、合成樹脂短繊維の繊維長が2mm以下の場合、基材として必要な強度が発現しなくなることがある。
【0031】
本発明のリチウムイオン二次電池セパレータ用基材において、合成樹脂短繊維の繊度は、0.007〜1.3dtexが好ましく、0.02〜1.1dtexがより好ましく、0.04〜0.8dtexがさらに好ましい。合成樹脂短繊維の繊度が、1.3dtexを超えた場合、厚さ方向における繊維本数が少なくなるため、必要とされるセパレータ基材の緻密性が確保できなくなる場合がある。合成樹脂短繊維の繊度が、0.007dtex未満の場合、繊維の安定製造が困難になる。
【0032】
本発明のリチウムイオン二次電池セパレータは、本発明のリチウムイオン二次電池セパレータ用基材の少なくとも一方の面に、無機粒子を含有する塗工層を設けてなる。基材に設けられる塗工層は、無機系粒子を含有し、場合によってバインダー樹脂を含有してなる。無機系粒子としては、α−アルミナ、β−アルミナ、γ−アルミナ等のアルミナ、ベーマイト等のアルミナ水和物、酸化マグネシウム、酸化カルシウム等を用いることができる。これらの中でも、リチウムイオン電池に用いられる電解質に対する安定性が高い点で、α−アルミナ又はアルミナ水和物が好ましく用いられる。バインダー樹脂としては、スチレン−ブタジエン樹脂、アクリル酸エステル樹脂、メタクリル酸エステル樹脂、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素樹脂等、各種の合成樹脂を用いることができる。
【0033】
本発明において、塗工層を形成せしめるのに用いる塗工液には、前記無機系粒子及びバインダー樹脂の他に、ポリアクリル酸、カルボキシメチルセルロースナトリウム等の各種分散剤、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリエチレンオキサイド等の各種増粘剤、各種の濡れ剤、防腐剤、消泡剤等の各種添加剤を、必要に応じ配合せしめることもできる。これら添加剤のうち、増粘剤、濡れ剤等の薬剤は、本発明における塗工液の浸透度合いの調整に好適に用いることができる。
【0034】
本発明において、基材の上に塗工層を設ける際の塗工方法に特に制限はなく、例えば、従来公知のエアドクターコーター、ブレードコーター、ナイフコーター、ロッドコーター、スクイズコーター、含浸コーター、グラビアコーター、キスロールコーター、ダイコーター、リバースロールコーター、トランスファーロールコーター、スプレーコーター等が挙げられる。
【0035】
本発明において、基材の上に設ける無機系粒子を含有する塗工層の塗工量としては、1.0〜20.0g/m
2が好ましく、更に4.0〜15.0g/m
2がより好ましい。塗工層の付着量が1.0g/m
2未満であると、不織布表面を十分被覆することができず、細孔径が大きくなり、ショートが発生するなど、良好な電池特性が発現しなくなる場合がある。一方、塗工層の付着量が20.0g/m
2を超えると、セパレータの薄膜化が困難となる場合がある。
【実施例】
【0036】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は本実施例に限定されるものではない。なお、実施例中における部や百分率は、断りのない限り、すべて質量によるものである。
【0037】
<不織布の製造>
実施例1〜18、比較例1〜3のリチウムイオン二次電池セパレータ用基材として使用される不織布は、表1記載の繊維配合のスラリーを調製し、円網と傾斜ワイヤーの2層抄き合わせによって湿式法を用いて抄き上げ、120℃のシリンダードライヤーによって、バインダー用ポリエチレンテレフタレート(PET)系短繊維を接着させて不織布強度を発現させ、坪量12g/m
2、幅50cmの不織布を作製した。次に、ロール温度180℃でカレンダー処理を行い、坪量12g/m
2、厚さ17μmの不織布を製造した。
【0038】
<リチウムイオン二次電池セパレータの製造>
体積平均粒子径2.3μm、比表面積3m
2/gのベーマイト100部を、その1質量%水溶液の25℃における粘度が200mPa・sのカルボキシメチルセルロースナトリウム塩0.3%水溶液120部に混合し十分撹拌し、次いで、その1質量%水溶液の25℃における粘度が7000mPa・sのカルボキシメチルセルロースナトリウム塩0.5%水溶液300部及び、ガラス転移点5℃、体積平均粒子径0.2μmのカルボキシ変性スチレンブタジエン樹脂(SBR)エマルション(固形分濃度50%)10部を混合、撹拌して塗工液を作製した。本塗工液を、グラビアコーターを使って、絶乾塗工量15g/m
2になるように、表2記載の不織布の面に塗工、乾燥し、実施例1〜18、比較例1〜3のリチウムイオン二次電池セパレータを製造した。なお、「塗工面」の欄において、「大」は平均繊維径の大きい面に塗工したことを示し、「小」は平均繊維径の小さい面に塗工したことを示している。「同」は不織布の両面の平均繊維径が同一であることを示している。「同」の場合は、塗工層を設けた側の抄紙機の型を合わせて記載した。「両」は基材の両面に、片面あたり7.5g/m
2の塗工層をそれぞれ塗工したことを示している。
【0039】
【表1】
【0040】
<評価>
実施例及び比較例で得られたリチウムイオン二次電池セパレータ用基材及びリチウムイオン二次電池セパレータについて、下記の評価を行い、結果を表2に示した。
【0041】
強度:
実施例及び比較例のセパレータを、50mm幅の短冊状に切り揃えた。試験片を卓上型材料試験機(商品名:STA−1150、(株)オリエンテック製)に据え付けた40mmφの固定枠に装着し、先端に丸み(曲率1.6)をつけた直径1.0mmの金属針((株)オリエンテック製)を試料面に対して直角に50mm/分の一定速度で貫通するまで降ろした。このときの最大荷重(g)を計測し、これを突刺強度とした。1試料について5ヶ所以上突刺強度を測定し、全測定値の中で最も小さい突刺強度について、50g以上であれば強度的に優れている、30g以上50g未満であれば実用上使用可能、30g未満であれば強度的に弱いと考える。
【0042】
塗工層強度:
実施例及び比較例のセパレータを、塗工層を内側になるように、折り目をつけて折り曲げ、その後、元に戻して広げ、折り目部分の塗工層のひび割れの様子を下記の指標により目視評価を行った。実用上、「3」以上であれば使用可能と判断した。
「5」:折り目部分の塗工層に損傷は見られない。
「4」:折り目部分に、数か所に小さなひび割れが見られる。
「3」:折り目部分に、数か所にひび割れが見られる。
「2」:折り目部分に、多数、ひび割れが見られる。
「1」:折り目部分を中心に、塗工層が不織布表面から剥がれてしまう。
【0043】
加工性:
実施例及び比較例において、基材として使用された不織布表面に、グラビアコーターを使って、塗工液を塗工する際の作業効率を加工性として下記の指標により評価を行った。実用上、「3」以上であれば使用可能と判断した。
「5」:塗工液が、不織布を貫通することがなく、コーターのバッキングロールが汚れない。
「4」:塗工液が、不織布を貫通することがないが、時々、コーターのバッキングロールの洗浄が必要。
「3」:塗工液が、不織布を時々貫通する。コーターのバッキングロールの洗浄を行い
ながら、運転は可能。
「2」:塗工液が、不織布の一部で貫通してしまい、部分的にコーターのバッキングロールが白くなってしまう。時々、停機し、ロール洗浄が必要。
「1」:塗工液が、不織布を貫通してしまい、コーターのバッキングロールが白くなってしまい、操業性がかなり悪い。頻繁に停機し、ロール洗浄が必要。
【0044】
均一性:
実施例及び比較例のセパレータの均一性は、幅150mm、長さ1000mmの面積のセパレータに関して、下記の指標により、目視評価を行った。実用上、「3」以上であれば使用可能と判断した。
「4」:セパレータの両面共に、均一性に優れている。
「3」:セパレータの両面に、非常に小さな突起、凹凸が見られる。
「2」:セパレータの両面に、小さな突起、凹凸が見られる。
「1」:セパレータの両面に、はっきりした突起、凹凸が見られる。
【0045】
取り扱い性:
実施例及び比較例のセパレータの取り扱い性は、A4サイズの基材を水平な台の上に静置し、セパレータの四隅のカール度合いを、下記の指標により、目視評価を行った。
実用上、「2」以上であれば使用可能と判断した。
「4」:セパレータのカールがない。
「3」:セパレータがややカールしているが、カール矯正は必要ない。
「2」:セパレータがカールしているが、カール矯正を行えば、使用可能。
「1」:セパレータが丸まってしまい、カール矯正が難しい。
【0046】
【表2】
【0047】
実施例1と比較例1を比較することで、不織布全体の平均繊維径が5.5μmを超えると、セパレータの強度も低下し、また、無機系粒子を含有する塗工層を設ける際に、塗工液の基材への浸透が早すぎる結果、塗工液が基材を貫通してしまい、リチウムイオン二次電池セパレータの均一性を損なうことがわかる。また、塗工時における加工性が低く、塗工工程の作業効率を低下させることがわかる。
【0048】
実施例1と比較例2、3を比較することで、不織布全体の平均繊維径が5.5μm以下であり、不織布の一方の面の表面を構成する繊維の平均繊維径と、反対の面の表面を構成する繊維の平均繊維径が異なり、平均繊維径の大きい面の平均繊維径D(W)と平均繊維径の小さい面の平均繊維径D(T)の比率R=D(W)/D(T)が、1.10以上であることで、無機系粒子を含有する塗工層を設ける際に、塗工液の液付きが改善され、基材への塗工液の浸透も均一化され、セパレータの均一性も向上することがわかる。
【0049】
比較例2で得られたリチウムイオン二次電池セパレータは、不織布の一方の面の表面を構成する繊維の平均繊維径と、反対の面の表面を構成する繊維の平均繊維径が同じであり、不織布の厚み方向で平均繊維径に差異がない。その結果、無機系粒子を含有する塗工層を設ける際に、不織布表面への塗工液の浸透がしにくく、塗工層強度が低く、また、塗工層の均一性も低く、セパレータの均一性が実施例と比較して低下することがわかる。
【0050】
比較例3で得られたリチウムイオン二次電池セパレータは、不織布の一方の面の表面を構成する繊維の平均繊維径と、反対の面の表面を構成する繊維の平均繊維径が異なるが、平均繊維径の大きい面の平均繊維径D(W)と平均繊維径の小さい面の平均繊維径D(T)の比率R=D(W)/D(T)が、1.10未満であり、不織布表面への塗工液の浸透が低く、塗工層強度も実施例と比較して低下することがわかる。
【0051】
実施例1〜2、9と実施例3〜8を比較することで、平均繊維径の大きい面の平均繊維径D(W)と平均繊維径の小さい面の平均繊維径D(T)の比率Rが、1.3〜2.5であることで、より強度、塗工層強度、塗工工程の作業効率に優れたリチウムイオン二次電池セパレータ用基材を提供することができることがわかる。
【0052】
実施例5と実施例10〜12を比較すると、不織布全体の平均繊維径が同じレベルの基材において、平均繊維径の大きい面の平均繊維径D(W)を大きくすることで、比率Rを調整することも可能であり、また、平均繊維径の大きい面の平均繊維径D(W)を一定にして、平均繊維径の小さい面の平均繊維径D(T)を調整することで、比率Rを調整することが可能である。いずれの方法にせよ、不織布全体の平均繊維径を5.5μm以下、平均繊維径の大きい面の平均繊維径D(W)と平均繊維径の小さい面の平均繊維径D(T)の比率R=D(W)/D(T)が1.10以上になるように調整することで、強度、均一性、後工程での取り扱い性に優れたセパレータを提供することができる。
【0053】
実施例5と実施例13、14の比較、実施例7と実施例15、16の比較から、繊維の長さが1mm以下の合成樹脂極短繊維を含有させることにより、強度が向上し、平均繊維径の小さい層の緻密性が向上した結果、無機系粒子を含有する塗工層を設ける際に、塗工液の貫通を抑えることができ、塗工時における加工性を向上させることができる。また、不織布全体の均一性が向上し、取り扱い性も向上した。
【0054】
実施例7と実施例17の比較から、不織布全体の平均繊維径が5.5μm以下であり、不織布の一方の面の表面を構成する繊維の平均繊維径と、反対の面の表面を構成する繊維の平均繊維径が異なり、平均繊維径の大きい面の平均繊維径D(W)と平均繊維径の小さい面の平均繊維径D(T)の比率R=D(W)/D(T)が、1.10以上である基材の平均繊維径の大きい面の上に無機系粒子を含有する塗工層を設けても、平均繊維径の小さい面の上に無機系粒子を含有する塗工層を設けても、強度、塗工層強度、塗工工程の作業効率、外観に優れたリチウムイオン二次電池セパレータ用基材を提供することができることがわかる。また、平均繊維径の大きい面の上に無機系粒子を含有する塗工層を設けた方が、より強度、塗工層強度、塗工工程の作業効率、外観に優れたリチウムイオン二次電池セパレータ用基材を提供することができる。
【0055】
実施例7と実施例18の比較から、基材の両面に塗工層を設けることで、強度、塗工層強度、塗工工程の作業効率、外観において、より優れたリチウムイオン二次電池セパレータ用基材を提供することができることがわかる。