(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、軟磁性粉末に対して熱処理を施す際には、相変態に伴うエネルギー放出(発熱)が急激に起こり、軟磁性合金粉末の温度が急上昇して結晶粒の粗大化や不純物の生成が引き起こされ、軟磁気特性が劣化することがあり、上記特許文献1に開示されている技術においてはかかる問題に対して何ら考慮がなされていない。また、熱処理に伴う結晶粒の粗大化や不純物の生成を抑制しながらも、十分なα−Feを析出させるためには複雑な熱処理パターンが必要となる。
【0006】
本発明は、熱処理工程における試料温度の上昇を抑制し且つ複雑な熱処理パターンを行うことなく軟磁気特性を向上させた軟磁性合金粉末を提供し、併せて、当該軟磁性合金粉末を用いた圧粉磁芯及び当該圧粉磁芯の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、第1の軟磁性合金粉末として、組成式Fe
aB
bSi
cP
xC
yCu
zで表わされ、79≦a≦86at%、5≦b≦13at%、0≦c≦8at%、1≦x≦10at%、0≦y≦5at%、0.4≦z≦1.4at%、及び0.06≦z/x≦1.20を満たす軟磁性合金粉末であって、
当該軟磁性合金粉末は、結晶相を主相とする結晶相部及び非晶質相を主相とする非晶質相部とを有する軟磁性合金粉末粒を有しており、
当該軟磁性合金粉末粒における前記結晶相部の割合は、50重量%未満である、
軟磁性合金粉末が得られる。
【0008】
また、本発明によれば、第2の軟磁性合金粉末として、第1の軟磁性合金粉末であって、
前記Feの3at%以下を、Ti、V、Zr、Hf、Nb、Ta、Mo、W、Cr、Co、Ni、Al、Mn、Ag、Au、Zn、S、Ca、Sn、As、Sb、Bi、N、O、Mg、白金族元素、及び希土類元素のうち、1種類以上の元素で置換してなる、
軟磁性合金粉末が得られる。
【0009】
また、本発明によれば、第3の軟磁性合金粉末として、第1又は第2の軟磁性合金粉末であって、
前記軟磁性合金粉末粒の中心部には、前記結晶相部が位置しており、
前記軟磁性合金粉末粒の外周部には、前記非晶質相部が位置している、
軟磁性合金粉末が得られる。
【0010】
また、本発明によれば、第4の軟磁性合金粉末として、第3の軟磁性合金粉末であって、
前記非晶質相部の前記軟磁性合金粉末粒における径方向の厚さは2μm以上である、
軟磁性合金粉末が得られる。
【0011】
また、本発明によれば、第1の圧粉磁芯として、第1乃至第4のいずれかの軟磁性合金粉末と結合剤とを混合した後に加圧成型し、更に熱処理をしてなる圧粉磁芯であって、
当該圧粉磁芯において、前記軟磁性合金粉末粒の前記中心部には粒径60nm未満の結晶粒が分散しており、前記軟磁性合金粉末粒の前記外周部には粒径40nm未満の結晶粒が分散している、
圧粉磁芯が得られる。
【0012】
また、本発明によれば、第2の圧粉磁芯として、第1の圧粉磁芯であって、
前記中心部における結晶粒の割合及び前記外周部における結晶粒の割合は、夫々35vol%以上である、
圧粉磁芯が得られる。
【0013】
また、本発明によれば、第1乃至第4のいずれかの軟磁性合金粉末と結合剤とを混合した後に加圧成型する工程と、成型された前記軟磁性合金粉末を熱処理する工程とを備える、
圧粉磁芯の製造方法が得られる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、熱処理前の軟磁性合金粉末において、中心部に結晶相を有し且つ外周部に非晶質層を有する軟磁性合金粉末を用いたことから、熱処理工程における発熱量を減少させることができる。詳しくは、中心部の結晶相の存在により熱容量に対する発熱量が減少し、熱処理時における試料温度の上昇を抑制することができる。これにより、結晶粒の粗大化や不純物の生成が起こらないことから、圧粉磁芯の磁気的特性を向上させることができる。
【0015】
また、軟磁性合金粉末の最表面に非晶質相が存在していることにより、充填率を低減させることなく圧粉磁心を作製できる。更に、本発明によれば、複雑な熱処理パターンを施すことなく圧粉磁心を作製することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施の形態による圧粉磁心の製造方法は、
図1に示されるように、概略、2つの工程:即ち、軟磁性合金粉末(詳しくは後述する)を作製する粉末作製工程と;当該軟磁性合金粉末を用いて圧粉磁心を作製する磁心作製工程とを備えている。磁心作製工程では、混合粉末にシリコーン系などの耐熱性が高く絶縁性が良好な結合材を混合することにより、造粒粉を得る。次いで、金型を用いて造粒粉を加圧成型して圧粉体を得る。その後、圧粉体を熱処理して、ナノ結晶化と結合材の硬化を同時に行い、圧粉磁心を作製する。
【0018】
ここで、粉末作製工程の説明の前に本実施の形態による軟磁性合金粉末の組成について説明する。本実施の形態による軟磁性合金粉末の組成式は、Fe
aB
bSi
cP
xC
yCu
zで表わされ、79≦a≦86at%、5≦b≦13at%、0≦c≦8at%、1≦x≦10at%、0≦y≦5at%、0.4≦z≦1.4at%、及び0.06≦z/x≦1.20を満たしている。
【0019】
上記軟磁性合金粉末において、Feは主元素であり、磁性を担う必須元素である。飽和磁束密度の向上及び原料価格の低減のため、Feの割合が多いことが基本的には好ましい。Feの割合が79at%より少ないと、望ましいBsが得られない。Feの割合が84at%より多いと、液体急冷条件下における非晶質相の形成が困難になる。なお、1.60T以上の飽和磁束密度を有する圧粉磁芯を得るためには、Feの割合は、80at%以上であることが望ましい。
【0020】
また、上記軟磁性合金粉末において、Bは非晶質相形成を担う必須元素である。Bの割合が3at%より少ないと、液体急冷条件下における非晶質相の形成が困難になる。13at%より多いと、ΔTが減少し、均質なナノ結晶組織を得ることができない。特に、原料を溶湯とする際に融点を低くし量産化を容易にするためには、Bの割合は、10at%以下であることが望ましい。
【0021】
また、上記軟磁性合金粉末において、Siは非晶質相形成を担う元素であり、必ずしも含まれなくても良いが、微細結晶化にあたっては微細結晶の安定化に寄与する。Siの割合が8at%よりも多いと非晶質形成能が低下する。特に、合金溶湯を急冷する際に容易に非晶質の形成が行われることを考慮すると、Siの割合は、5at%以下であることが望ましい。
【0022】
また、上記軟磁性合金粉末において、Pは非晶質相形成を担う必須元素である。Pの割合が1at%より少ないと、液体急冷条件下における非晶質相の形成が困難になる。Pの割合が10at%より多いと、Bsが低下する。特に、本実施の形態においては、B、Si及びPの組み合わせを用いることで、いずれか一つしか用いない場合と比較して、非晶質相形成能や微細結晶の安定性を高めることができる。
【0023】
また、上記軟磁性合金粉末において、Cは非晶質形成を担う元素であり、必ずしも含まれなくても良い。Cは安価であるため、Cの添加により他の半金属量が低減され、総材料コストが低減される。ただし、Cの割合が5at%を超えると、合金組成物が脆化する。特に、原料の溶湯時におけるCの蒸発に起因した組成のばらつきを抑えるためには、Cの割合は3at%以下であることが望ましい。また、本実施の形態においては、B、Si、P、Cの組み合わせを用いることで、いずれか一つしか用いない場合と比較して、非晶質相形成能や微細結晶の安定性を高めることができる。
【0024】
また、上記軟磁性合金粉末において、Cuは微細結晶化に寄与する必須元素である。Cuの割合が0.4at%より少ないと、ナノ結晶化が困難になる。Cuの割合が1.4at%より多いと、非晶質相が不均質になり、熱処理によって均質なナノ結晶組織が得られないことに加え、材料コストが嵩む。特に、軟磁性合金粉末の酸化及びナノ結晶への粒成長を考慮すると、Cuの割合は、0.5at%以上、1.3at%以下であることが好ましい。
【0025】
なお、PとCuとの間には、強い原子間引力がある。従って、上記軟磁性合金粉末が特定の比率のPとCuとを含んでいると、10nm以下のサイズのクラスターが形成され、この微細なクラスターによって微細結晶の形成の際にbccFe結晶は微細構造を有するようになる。詳しくは、Pの割合(x)とCuの割合(z)との特定の比率(z/x)は0.08以上、1.2以下である。特に、軟磁性合金粉末の脆化及び酸化を考慮すると、特定の比率(z/x)は、0.08以上、0.8以下であることが望ましい。
【0026】
また、上記軟磁性合金粉末において、Feの3at%以下をTi、Zr、Hf、Nb、Ta、Mo、W、Cr、Co、Ni、Al、Mn、Ag、Zn、S、Sn、As、Sb、Bi、Y、N、O、Mg、Ca、V及び希土類元素のうち1種類以上の元素で置換することにより、ことにより良好な磁気特性が得られる。これらの元素
は、基本的に不純物元素であり、製造過程において軟磁性合金粉末に含有される可能性がある。不純物元素を多く含有した場合には、磁気特性が劣化すると考えられるが、Fe置換が3at%以下であれば、耐食性の改善や電気抵抗の調整などのため、飽和磁束密度の著しい低下が生じない範囲で置換可能で、良好な磁気特性を維持できる。
【0027】
図1を再び参照すると、粉末作製工程においては、例えば、溶湯を細かく粉末化するアトマイズ法を用いて所望とする軟磁性合金粉末を得ることができる。詳しくは、Feや半金属元素等の原料を秤量した後、溶解して合金溶湯を生成する。この合金溶湯をノズルから排出して出来た合金溶湯の流れに冷却媒体を衝突させて、合金溶湯を微細化すると共に急冷し、軟磁性合金粉末を得る。ここで、冷却媒体についての限定は特にはない。従って、例えば、アルゴンなどの不活性ガスや窒素及び空気などの各種気体を用いるガスアトマイズ法や、高圧の水を用いる水アトマイズ法を採用することができる。加えて、微細化と急冷とに異なる媒体を用いて実施しても良い。
【0028】
冷却媒体は粉末(溶湯)の外周表面と接触するため、粉末においては粒子の表面近傍の方が中心部よりも急冷速度が速く、非晶質性が良好になる。従って、
図2に示されるように、本実施の形態による軟磁性合金粉末においては、粒子の中心部に結晶相を主相とする結晶相部が生じ、粒子の外周部には非晶質相を主相とする非晶質相部が生じている粉末が作製される。なお、冷却媒体の種類や粉末粒径、合金溶湯の出湯温度を変更することで、得られる粉末における結晶相部の粒子全体に占める割合を制御することが可能である。
【0029】
図2に示されるように、磁心作製工程において使用される軟磁性合金粉末、即ち熱処理前の軟磁性合金粉末は、非晶質相部の厚みが粉末外表面より2μm以上あり、中心部にはbccFe(αFe,Fe−Si)から成る結晶相部を有している。なお、圧粉磁芯の充填率を維持する効果を十分に得るためには、非晶質相部の厚みが粉末外表面より5μm以上あることが望ましい。一方、結晶相部の割合は、粉末全体に対して50重量%未満である。結晶相部の割合が少ない場合には温度上昇抑制効果が小さくなり、多い場合には大きな結晶粒子の割合が多くなる。よって、後述する熱処理後における圧粉磁心の磁気特性の劣化を考慮すると、結晶相部の割合は、粒子全体に対して10重量%以上、30重量%未満であることが望ましい。
【0030】
本発明による軟磁性合金粉末は、
図3に示されるように、所定の昇温速度となるように加熱し続けた場合に、発熱ピークを2つ以上有するようなDSC曲線を得られるようなものであり、結晶相部の割合の測定については、
示差走査熱量分析計(DSC)によって行われる。詳しくは、結晶相部の割合は、非晶質であることが確認されている同じ合金組成の薄帯における発熱量を基準にして、bccFe(αFe,Fe−Si)の析出に伴う単位重量あたりの発熱量が減少した割合として求めることができる(減少分がアトマイズ時に結晶化した割合、すなわち結晶相部の割合を示す)。
【0031】
また、非晶質相部の厚みについては、電子顕微鏡による軟磁性合金粉末断面の組織観察において求めることができる。軟磁性合金粉末断面は、軟磁性合金粉末を冷間樹脂中に埋め込み硬化し、研磨することで作製する。作製した軟磁性合金粉末断面のうち、大きなもの(埋め込んだ粉末のD
90程度)を選択することで、粉末のほぼ中心を通る断面の観察が可能である。すなわち、分級等により、粒度分布を調整した軟磁性合金粉末を作製することで、所定の粒径の粉末を観察することができる。非晶質相部の厚みは、粉末作製工程により得られた軟磁性合金粉末における平均粒径D
50程度の粉末を10個以上選択し、各粉末あたり3箇所を測定して算出した平均値である。
【0032】
磁心作製工程においては、本発明による軟磁性合金粉末をシリコーン系などの耐熱性が高く絶縁性が良好な結合材と混合・造粒して造粒粉を得る。次いで、金型を用いて造粒粉を加圧成型して圧粉体を得る。その後、圧粉体を熱処理して、ナノ結晶化と結合材の硬化を同時に行い、圧粉磁心を得る。
【0033】
ここで、本実施の形態による熱処理は、軟磁性合金粉末を毎分10℃以上の昇温速度で加熱し、ナノ結晶を析出させる。その熱量の状況は、DSC(Differential
ScanningCalorimetry:示差走査熱量測定、以下DSCと記す)で、測定することができる。DSCは、測定試料と基準物質との間の熱量の差を計測することで、縦軸に重量で規格化した熱流、横軸に温度や時間をとった曲線となる。DSCで測定されるDSC曲線について説明する。
図3は、本発明の実施の形態に係るDSC曲線の説明図である。DSC曲線は、Pt製試料容器中に投入した試料をDSC装置内に設置し、不活性雰囲気中において昇温速度40℃/分で試料を目的の温度まで加熱することで得られる。ここで、熱処理は、
図3に示すDSC曲線において、「第一結晶化開始温度Tx
1−50℃」以上、「第二結晶化開始温度Tx
2」未満で行われる。「第一結晶化開始温度Tx
1−50℃」以上、「第二結晶化開始温度Tx
2」未満の適切な温度範囲で熱処理が行われると、平均粒径5nm以上50nm以下のbccFeナノ結晶が析出し、軟磁気特性の向上が図れる。熱処理温度が「第二結晶化開始温度Tx
2」を超えてしまうと、Fe−BやFe−Pなどが析出し、軟磁気特性が劣化してしまう。また、
図3に示すDSC曲線において、ベースラインに対する山のピークは発熱反応、谷のピークは吸熱反応として現れる。従って、熱処理工程においては第一結晶化のみを促進するように、熱処理することで、優れた磁気特性を有する圧粉磁心を製造することができる。
【0034】
以上のようにして得られた圧粉磁心に含まれるFe基ナノ結晶合金粉末は、粉末(粒子)の中心部においては結晶粒径60nm以下の結晶粒が非晶質中に体積分率で35vol%以上分散し、粉末(粒子)の外周部においては結晶粒径40nm以下の結晶粒が非晶質中に体積分率35vol%以上分散した構造を有している。特に、低保磁力化及び良好な磁気特性を得るためには、粉末(粒子)の中心部における結晶粒径は35nm未満であることが望ましく、粉末(粒子)の外周部における結晶粒径は30nm未満であることが望ましい。また、より高い飽和磁束密度Bsを得るためには、中心部及び外周部の夫々の非晶質中に占める結晶粒の体積分率は、50vol%以上であることが望ましい。中心部及び外周部の夫々の非晶質中に占める結晶粒の割合(体積分率)が多いほど、高い飽和磁束密度Bsが得られることから、コア等の応用製品の小型化に対して有利となる。詳しくは、上記結晶粒の体積分率が35vol%以上である場合、1.60T以上の飽和磁束密度Bsが得られ、上記結晶粒の体積分率が50vol%以上である場合、1.73T以上の飽和磁束密度Bsが得られる。
【0035】
結晶粒径、結晶相部の体積分率については、非晶質相の厚みと同様に、電子顕微鏡による軟磁性合金粉末断面の組織観察において求めることができる。結晶粒径は、軟磁性合金粉末断面の組織写真において、所定位置(外周部/中心部)における結晶粒を30個以上選択し、各粒子の長径と短径を測定して算出した平均値である。結晶相部の体積分率は、線分法により求めており、組織写真に任意に引いた直線において、その直線の長さのうち、結晶相部を通過している長さの総和が占める割合で表される。
【0036】
以上より、本発明においては、非晶質性合金粉末が粉末全体に対して50重量%未満の割合で結晶相部を有し、熱処理工程において急激な発熱を抑制できることから、結晶の粗大化や不要な化合物の生成の抑制されたものであり、また、軟磁性合金粉末において、表面に2μm以上の非晶質相部を有することから、発熱を抑制しつつも充填率の低下を防ぐことが可能であり、従って、圧粉磁心も優れた軟磁気特性と高飽和磁束密度を有するものとなる。
【0037】
なお、本実施の形態における軟磁性合金粉末は、粒子全体に非晶質相を有する粉末(即ち、中心部に結晶相を有していない粉末)が混在していても良い。また、上述した実施の形態では軟磁性合金粉末を用いた圧粉磁心について説明しているが、圧粉磁心以外の磁性部品への適用も同様に可能である。
【実施例】
【0038】
以下、本発明について実施例および比較例を用いて説明する。
【0039】
(実施例1〜3、比較例1及び2)
Fe、Fe−Si、Fe−B、Fe−P、Cuからなる原料をFe
81.4Si
3B
10P
5Cu
0.6の合金組成になるように秤量し、高周波溶解にて溶解した。溶解した合金溶湯を1300〜1550℃の範囲で保持した後、窒素雰囲気中において水アトマイズ法にて処理し、平均粒径45μm程度で、結晶相部の割合が異なる5種類の合金粉末を作製した。なお、鋳込み温度が高いほど、冷却すべき熱量が多くなり、急冷速度が低下するため、結晶の析出量が多くなる。結晶化に伴う発熱反応は示差走査型熱量分析計(DSC)を用いて、毎分40℃の昇温速度にて評価した。結晶相部の割合、非晶質相部の厚みについては、実施の形態において記述した方法にて求めている。
【0040】
圧粉磁心の作製については、軟磁性合金粉末と、当該軟磁性合金粉末に対して重量比で2.5%となる熱硬化性バインダを混合し、500μmのメッシュを通して造粒した。造粒粉4.5gを金型に入れ、油圧式自動プレス機により圧力980MPaにて成型し、外径20mm−内径13mmの円筒形状の圧粉体を作製した。赤外線加熱装置を用いて、450℃まで毎分40℃の昇温速度となるように圧粉体を加熱し、450℃にて10分間保持した後、空冷し、圧粉磁心を得た。電磁気特性については、B−Hアナライザを用いて、周波数20kHz−磁束密度100mTにおけるコアロスPcvを評価した。なお、熱処理後の粉末における結晶粒径および体積分率については、実施の形態において記述した方法にて測定している。表1に、アトマイズ後(熱処理前)の粉末特性および熱処理後の各種評価結果を示す。
【0041】
【表1】
【0042】
表1より、実施例1〜3においては、アトマイズ後(熱処理前)の粉末が50重量%未満の結晶層(結晶相部)を有しており、粉末外表面より2μm以上の厚みにて非晶質層(非晶質相を主相とする非晶質相部)を有することから、熱処理における急激な発熱が抑制され、熱処理後には、粉末外周部では40nm以下、粉末中心部では60nm以下の微細な結晶が析出した組織となり、500kW/m
3以下の低コアロス特性を有する圧粉磁心を作製できていることがわかる。一方、アトマイズ後の粉末が50重量%以上の結晶相部を有する比較例1及び比較例2においては、粉末中心部にて結晶粒が粗大化しており、コアロス特性が劣化している。実施例1〜3と、比較例1及び2とを比較すると、アトマイズ後の結晶相(結晶相部)の割合が大きくなるほど、熱処理後における粉末中心部の結晶粒が大きくなっており、粉末外周部の結晶粒は小さくなっている。粉末中心部については、上述した理由により、アトマイズ後の結晶相部の割合が大きい粉末では、急冷速度が低下しているため、アトマイズ時に生成した結晶が粗大化することを反映している。粉末外周部付近の結晶粒は、熱処理工程によって析出したものであるから、アトマイズ後の結晶相部の割合が大きいほど、熱処理工程において急激な発熱反応が抑えられ、微細な組織が形成できることを表している。
【0043】
(実施例4〜6、比較例3〜5)
Fe、Fe−Si、Fe−B、Fe−P、Cuからなる原料をFe
81.3Si
5B
9P
4Cu
0.7の合金組成になるように秤量し、高周波溶解にて溶解した。溶解した合金溶湯を1300〜1550℃の範囲で保持した後、窒素雰囲気中において水アトマイズ法にて処理し、平均粒径10μm程度で、結晶相部の割合が異なる6種類の軟磁性合金粉末を作製した。なお、鋳込み温度が高いほど、冷却すべき熱量が多くなり、急冷速度が低下するため、結晶の析出量が多くなる。結晶化に伴う発熱反応は示差走査型熱量分析計(DSC)を用いて、毎分40℃の昇温速度にて評価した。結晶相部部の割合、非晶質相部の厚みについては、実施の形態において記述した方法にて求めている。
【0044】
圧粉磁心の作製については、軟磁性合金粉末と、当該軟磁性合金粉末に対して重量比で4%となる熱硬化性バインダを混合し、500μmのメッシュを通して造粒した。造粒粉2.5gを金型に入れ、油圧式自動プレス機により圧力980MPaにて成型し、外径13mm−内径8mmの円筒形状の圧粉体を作製した。赤外線加熱装置を用いて、440℃まで毎分40℃の昇温速度となるように圧粉体を加熱し、440℃にて10分間保持した後、空冷し、圧粉磁心を得た。電磁気特性については、B−Hアナライザを用いて、周波数300kHz−磁束密度50mTにおけるコアロスPcvを測定し、評価した。また、振動試料型磁力計(VSM)を用いて1500kA/mの磁場にて測定した飽和磁化より、飽和磁束密度を算出した。なお、熱処理後の粉末における結晶粒径および体積分率については、実施の形態において記述した方法にて測定している。表2に、アトマイズ後(熱処理前)の粉末特性および熱処理後の各種評価結果を示す。
【0045】
【表2】
【0046】
表2より、実施例4〜6及び比較例4、5のいずれにおいても、アトマイズ後(熱処理前)の粉末は50重量%未満の結晶相(結晶相部)を有しており、熱処理後については、粉末外周部では40nm以下、粉末中心部では60nm以下の微細な結晶が析出した組織となっている。一方、アトマイズ後の粉末が結晶相部を有していない(即ち、結晶相の割合が0質量%である)比較例3においては、熱処理後において、粉末の外周部及び中心部共に結晶粒径が40nm以上となっており、結晶の粗大化が生じている。アトマイズ後における非晶質層(非晶質相部)の厚みが2μm以上である実施例4〜6では、2μm未満の比較例4及び5に対して、充填率が低下することなく、1500kW/m
3以下の低コアロス特性を有する圧粉磁心を作製できていることがわかる。これは、軟磁性合金粉末の方がナノ結晶合金に比べてビッカース硬さが小さいために、加圧成形する際に変形しやすく、充填性が高まるためである。なお、前述の実施例1〜3及び比較例1、2と併せて比較すると、非晶質相部の厚みが増加するほど、充填率は高くなる傾向があるが、5μm以上の場合にはほぼ一定となることがわかる。
【0047】
なお、アトマイズ後の結晶相部の割合がそれぞれ10重量%及び19重量%である実施例5及び実施例6においては、熱処理後に、粉末外周部付近では30nm未満、粉末中心部では35nm未満の結晶粒径を有する良好な微細構造が形成され、1200kW/m
3以下の非常にロスの低い圧粉磁心を作製することができており、アトマイズ時に大きな結晶が生成するのを回避しつつ、急激な発熱を抑制する効果が特に高いことがわかる。
【0048】
(実施例7〜10)
Fe、Fe−Si、Fe−B、Fe−P、Cuからなる原料をFe
80.3Si
5B
10P
4Cu
0.7(実施例7)、Fe
81.4Si
5B
6P
7Cu
0.6(実施例8)、Fe
82.4Si
1B
11P
5Cu
0.6(実施例9)Fe
83.3Si
4B
8P
4Cu
0.7(実施例10)の夫々の合金組成になるように秤量し、高周波溶解にて溶解した。溶解した合金溶湯を1300〜1400℃の範囲で保持した後、窒素雰囲気中において水アトマイズ法にて処理し、平均粒径45μm程度の合金粉末を作製した。結晶化に伴う発熱反応は示差走査型熱量分析計(DSC)を用いて、毎分40℃の昇温速度にて評価した。結晶相部の割合、非晶質相部の厚みについては、実施の形態において記述した方法にて求めている。
【0049】
圧粉磁心の作製については、軟磁性合金粉末と、軟磁性合金粉末に対して重量比で2.5%となる熱硬化性バインダを混合し、500μmのメッシュを通して造粒した。造粒粉4.5gを金型に入れ、油圧式自動プレス機により圧力980MPaにて成型し、外径20mm−内径13mmの円筒形状の圧粉体を作製した。赤外線加熱装置を用いて、450℃まで毎分40℃の昇温速度となるように圧粉体を加熱し、表3に示した熱処理条件にて熱処理を施した後に、空冷し、圧粉磁心を得た。電磁気特性については、B−Hアナライザを用いて、周波数20kHz−磁束密度100mTにおけるコアロスPcvを測定し、評価した。また、振動試料型磁力計(VSM)を用いて1500kA/mの磁場にて測定した飽和磁化より、飽和磁束密度を算出した。なお、熱処理後の粉末における結晶粒径および体積分率については、実施の形態において記述した方法にて測定している。表3に、アトマイズ後(熱処理前)の粉末特性および熱処理後の各種評価結果を示す。
【0050】
【表3】
【0051】
表3より、実施例7〜10においては、アトマイズ後(熱処理前)の粉末が50重量%未満の結晶相(結晶相部)を有しており、粉末外表面より5μm以上の厚みにて非晶質層(非晶質相部)を有することから、熱処理工程における急激な発熱が抑制され、熱処理後には、粉末外周部では40nm以下、粉末中心部では60nm以下の微細な結晶が析出した組織となり、500kW/m
3以下の低コアロス特性を有する圧粉磁心を作製できていることがわかる。特に、アトマイズ後の結晶相部の割合が30重量%以下であり、結晶化後の粉末外周部の結晶粒径が30nm未満、粉末中心部の結晶粒径が35nm未満である実施例7〜9においては、250kW/m
3以下の非常にロスの低い圧粉磁心を作製することができている。
【0052】
(実施例11〜13)
Fe、Fe−Si、Fe−B、Fe−P、Cuからなる原料をFe
83.4B
10P
6Cu
0.6(実施例11)、Fe
82.4B
10P
6C
1Cu
0.6(実施例12)、Fe
82.3B
10Si
3P
3C
1Cu
0.7(実施例13)の夫々の合金組成になるように秤量し、高周波溶解にて溶解した。溶解した合金溶湯を1300〜1400℃の範囲で保持した後、窒素雰囲気中において水アトマイズ法にて処理し、平均粒径45μm程度の合金粉末を作製した。結晶化に伴う発熱反応は示差走査型熱量分析計(DSC)を用いて、毎分40℃の昇温速度にて評価した。結晶相部の割合、非晶質相部の厚みについては、実施の形態において記述した方法にて求めている。
【0053】
圧粉磁心の作製については、軟磁性合金粉末と、当該軟磁性合金粉末に対して重量比で2.5%となる熱硬化性バインダを混合し、500μmのメッシュを通して造粒した。造粒粉4.5gを金型に入れ、油圧式自動プレス機により圧力980MPaにて成型し、外径20mm−内径13mmの円筒形状の圧粉体を作製した。赤外線加熱装置を用いて、450℃まで毎分40℃の昇温速度となるように圧粉体を加熱し、表4に示した熱処理条件にてナノ結晶化熱処理を施した後に、空冷し、圧粉磁心を得た。電磁気特性については、B−Hアナライザを用いて、周波数20kHz−磁束密度100mTにおけるコアロスPcvを測定し、評価した。なお、熱処理後の粉末における結晶粒径および体積分率については、実施の形態において記述した方法にて測定している。また、振動試料型磁力計(VSM)を用いて1500kA/mの磁場にて測定した飽和磁化より、飽和磁束密度を算出した。表4に、アトマイズ後(熱処理前)の粉末特性および熱処理後の各種評価結果を示す。
【0054】
【表4】
【0055】
また、実施例11〜13に加えて、上述した実施例7〜10における熱処理後粉に占める結晶層の割合と飽和磁束密度との関係を表5に示す。
【0056】
【表5】
【0057】
表5より、中心部及び外周部の夫々の非晶質中に占める結晶粒の割合(体積分率)が多いほど、高い飽和磁束密度Bsが得られることがわかる。このような高い飽和磁束密度Bsを得ることとすれば、コア等の応用製品の小型化に対して有利となる。具体的には、実施例7〜実施例13のいずれにおいても、結晶粒の体積分率が35vol%以上であり、1.60T以上の飽和磁束密度Bsが得られている。このうち、中心部及び外周部の少なくともどちらかの結晶粒の体積分率が50vol%以上である実施例9〜実施例13においては、1.70T以上の飽和磁束密度Bsが得られている。特に、中心部及び外周部いずれの結晶粒の体積分率も50vol%以上である実施例10、実施例11及び実施例13においては、1.73T以上の高い飽和磁束密度Bsが得られている。