(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。
図1に、本実施形態における車両用内燃機関の概要を示す。本実施形態における内燃機関は、火花点火式の4ストロークエンジンであり、複数の気筒1(
図1には、そのうち一つを図示している)を具備している。各気筒1の吸気ポート近傍には、燃料を噴射するインジェクタ11を設けている。また、各気筒1の燃焼室の天井部に、点火プラグ12を取り付けてある。点火プラグ12は、点火コイルにて発生した誘導電圧の印加を受けて、中心電極と接地電極との間で火花放電を惹起するものである。
【0011】
吸気を供給するための吸気通路3は、外部から空気を取り入れて各気筒1の吸気ポートへと導く。吸気通路3上には、エアクリーナ31、スロットルバルブ32、サージタンク33、吸気マニホルド34を、上流からこの順序に配置している。加えて、吸気通路3における、スロットルバルブ32の上流側と下流側とを短絡するバイパス流路35には、当該流路35の開度を調節することのできるアイドルスピードコントロールバルブ36を設けてある。
【0012】
排気を排出するための排気通路4は、気筒1内で燃料を燃焼させた結果発生した排気を各気筒1の排気ポートから外部へと導く。この排気通路4上には、排気マニホルド42及び排気浄化用の三元触媒41を配置している。
【0013】
図2に、車両の電装系の回路6を示す。オルタネータ62は、内燃機関のクランクシャフトから駆動力の回転を受けて発電し、車載のバッテリ61を充電し、及び/または、各種の電気負荷51、52、53、54に電力を供給する。電気負荷の例としては、内燃機関のクランクシャフトとエアコンディショナのコンプレッサとの間に介在するマグネットクラッチ51や、エアコンディショナの冷媒用のコンデンサ及び/または冷却水用のラジエータを空冷するためのファンを駆動するファンモータ52、室内に送風するためのブロワファンを駆動するファンモータ53、車両のヘッドランプその他の電灯54、等を挙げることができる。
【0014】
各電気負荷51、52、53、54への通電のON/OFFはそれぞれ、回路6上のリレースイッチ63、64、65、66を介して切り換えられる。
【0015】
本実施形態の内燃機関の制御装置たるECU(Electronic Control Unit)0は、プロセッサ、メモリ、入力インタフェース、出力インタフェース等を有したマイクロコンピュータシステムである。
【0016】
入力インタフェースには、車両の実車速を検出する車速センサから出力される車速信号a、クランクシャフトの回転角度及びエンジン回転数を検出するエンジン回転センサから出力されるクランク角信号(N信号)b、アクセルペダルの踏込量またはスロットルバルブ32の開度をアクセル開度(運転者が要求する機関出力、いわば要求負荷)として検出するセンサから出力されるアクセル開度信号c、シフトレバーのレンジを知得するためのセンサ(シフトポジションスイッチ)から出力されるシフトレンジ信号d、吸気通路3(特に、サージタンク33)内の吸気温及び吸気圧を検出する温度・圧力センサから出力される吸気温・吸気圧信号e、機関の冷却水温を検出する水温センサから出力される冷却水温信号f、吸気カムシャフトまたは排気カムシャフトの複数のカム角にてカム角センサから出力されるカム角信号(G信号)g、車載のバッテリの充電状態を示すバッテリ電圧、バッテリ電流及びバッテリ温度を検出するセンサから出力されるバッテリ信号h等が入力される。
【0017】
出力インタフェースからは、点火プラグ12のイグナイタに対して点火信号i、インジェクタ11に対して燃料噴射信号j、アイドルスピードコントロールバルブ36に対して開度操作信号k、リレースイッチ63に対してON(即ち、通電)信号l、リレースイッチ64に対してON信号m、リレースイッチ65に対してON信号n、リレースイッチ66に対してON信号o、オルタネータ62の制御回路(ICレギュレータ)に対して発電電圧の大きさを指示する信号p等を出力する。
【0018】
ECU0のプロセッサは、予めメモリに格納されているプログラムを解釈、実行し、運転パラメータを演算して内燃機関の運転を制御する。ECU0は、内燃機関の運転制御に必要な各種情報a、b、c、d、e、f、g、hを入力インタフェースを介して取得し、エンジン回転数を知得するとともに気筒1に充填される吸気量を推算する。そして、それらエンジン回転数及び吸気量等に基づき、要求される燃料噴射量、燃料噴射タイミング(一度の燃焼に対する燃料噴射の回数を含む)、燃料噴射圧、点火タイミングといった各種運転パラメータを決定する。運転パラメータの決定手法自体は、既知のものを採用することが可能である。ECU0は、運転パラメータに対応した各種制御信号i、j、k、l、m、n、o、pを出力インタフェースを介して印加する。
【0019】
本実施形態のECU0は、各気筒1における燃料の燃焼が正常であるか不良(失火を含む)であるかを、各気筒1の膨張行程における機関のクランクシャフトの回転速度(エンジン回転数)を参照して判定する。その上で、エンジンストールを招くおそれのある燃焼不良を感知したときには、機関の回転トルクを増強するような補正制御を実行する。
【0020】
ECU0は、クランク角信号bを参照し、気筒1における膨張行程中の複数の時点で、機関の回転速度の瞬時値
を測定するとともに機関の回転速度の移動平均値を
算出する。エンジン回転センサは、所定の回転角度毎、例えばクランクシャフトが10°CA(クランク角度)回転する毎に、クランク角信号bとしてパルスを発生させる。ECU0は、そのパルス列に基づき、クランクシャフトが所定角度回転するのに要した時間を、機関の回転速度を示唆する値として反復的に計測する。
【0021】
本実施形態のECU0は、膨張行程にある気筒1の圧縮上死点後クランクシャフトが90°CA回転した時点、120°CA回転した時点、及び150°CA回転した時点の各々にて、計測された機関の回転速度の瞬時値を得る。
【0022】
さらに、上記の各時点の間隔、即ち30°CAの期間内に反復的に計測された機関の回転速度の瞬時値から、各時点における機関の回転速度の移動平均値を算出する。例えば、圧縮上死点後90°CAの時点における回転速度の移動平均値は、圧縮上死点後70°CA、80°CA及び90°CAのそれぞれの時点で計測された回転速度の瞬時値を平均することにより求められる。
【0023】
圧縮上死点後90°CA、120°CA、150°CAの各時点は、クランク角信号bに含まれるパルス列(パルスの個数)から知ることが可能であるが、クランク角信号bのパルス列に基づかず、タイマ等により各時点に相当するタイミングを知得しても構わない。
【0024】
しかして、ECU0は、圧縮上死点後90°CA、120°CA、150°CAの各時点について、機関の回転速度の瞬時値から移動平均値を減算した差分を得、その差分を判定閾値と比較する。
【0025】
図3に、内燃機関の回転速度の瞬時値及び移動平均値の推移を例示する。
図3中、細い実線は瞬時値を、太い破線は移動平均値を示す。t
1、t
2及びt
3は、膨張行程にある気筒1において燃焼が正常に行われた場合の、当該気筒1の圧縮上死点後90°CA、120°CA及び150°CAの時点にそれぞれ対応している。燃焼が正常な場合、膨張行程中にクランクシャフトの回転トルクが増大して機関が加速し、各時点t
1、t
2、t
3における回転速度の瞬時値と移動平均値との差分は正となる。
【0026】
翻って、t
4、t
5及びt
6は、膨張行程にある気筒1において燃焼が正常に行われなかった場合の、当該気筒1の圧縮上死点後90°CA、120°CA及び150°CAの時点にそれぞれ対応している。燃焼不良の場合、膨張行程中にもかかわらずクランクシャフトの機関が減速することから、各時点t
4、t
5、t
6おける回転速度の瞬時値と移動平均値との差分は負となる。このことを利用すれば、エンジンストールを招くおそれのある燃焼不良を速やかに感知できる。
【0027】
尤も、燃焼不良の判定閾値には工夫が必要である。
図4は、ある特定の気筒1について、圧縮上死点後90°CA、120°CA及び150°CAの角時点での機関の回転速度の瞬時値と移動平均値との差分を複数回求めた実験の結果である。
図4中、四角枠で囲まれていないプロット点は正常燃焼の場合の差分を示し、四角枠で囲まれたプロット点α、βは燃焼不良の場合の差分を示している。
【0028】
図4に示しているように、正常燃焼の場合の回転速度の差分のばらつきは、膨張行程中の比較的早い時期、即ち圧縮上死点後のクランク角度が小さい時点では大きい。そして、膨張行程中の遅い時期になるほど、即ち圧縮上死点後のクランク角度が大きくなるほど、ばらつきは小さくなる傾向にある。
【0029】
圧縮上死点後90°CAの時点での差分は顕著にばらついており、これと比較するべき判定閾値を高く設定すると、正常な燃焼を不良であると誤判定してしまう可能性が高まる。これに対し、圧縮上死点後150°CAの時点での差分は、ばらつきがずっと小さい(換言すれば、S/N比が大きい)。従って、本実施形態では、120°CA時点での差分と比較するべき判定閾値を、90°CA時点での差分と比較するべき判定閾値よりも高く設定する。さらに、150°CA時点での差分と比較するべき判定閾値を、120°CA時点での差分と比較するべき判定閾値よりも高く設定する。これにより、確実に燃焼不良を検出しながら、誤判定を予防することができる。
【0030】
また、
図4に示しているように、気筒1において初めて失火したときの回転速度の差分αは、複数回連続して失火し続けているときの回転速度の差分βと比較して、より大きく落ち込む。つまり、本実施形態の検知手法を採用すれば、この初回の失火を即時的に検出でき、機関の回転トルクの増強のための補正制御を速やかに実行することが可能となって、エンジンストールの防止に大きく寄与する。
【0031】
図5に、内燃機関の気筒1での燃焼の正常/不良の判定に際してECU0が実行する処理の手順例を示す。
図5に示しているルーチンは、エンジンストールの危険のある状況、例えば、車速が所定値未満または停車している、エンジン回転数が所定値未満である、現在アイドリング中である、等のうちの何れかに該当する場合に実行する。現在エンジン回転数が所定値以上である等、仮に燃焼不良が発生したとしてもエンジンストールの危険性が低い状況では、このルーチンを実行せず、ECU0の演算負荷を軽減することが許される。
【0032】
ECU0は、膨張行程にある気筒1の圧縮上死点後90°CAの時点の機関の回転速度の瞬時値及び移動平均値を測定し(ステップS1、S2)、両者の差分を演算して(ステップS3)、この差分を圧縮上死点後90°CAの時点に対応する判定閾値と比較する(ステップS4)。差分が判定閾値を下回っているならば、当該気筒1の膨張行程における燃焼が不良であると判定する。
【0033】
ステップS4にて差分が判定閾値以上であるならば、次に、同じ膨張行程にある気筒1の圧縮上死点後120°CAの時点における機関の回転速度の瞬時値及び移動平均値を測定し(ステップS5、S6)、両者の差分を演算する(ステップS7)。そして、その差分を、圧縮上死点後120°CAの時点に対応する判定閾値と比較する(ステップS8)。既に述べた通り、ステップS8における判定閾値は、ステップS4における判定閾値よりも高い。差分が判定閾値を下回っているならば、当該気筒1の膨張行程における燃焼が不良であると判定する。
【0034】
ステップS8にて差分が判定閾値以上であるならば、続いて、同じ膨張行程にある気筒1の圧縮上死点後150°CAの時点の機関の回転速度の瞬時値及び移動平均値を測定し(ステップS9、S10)、両者の差分を演算する(ステップS11)。そして、その差分を、圧縮上死点後150°CAの時点に対応する判定閾値と比較する(ステップS12)。ステップS12における判定閾値は、ステップS8における判定閾値よりも高い。差分が判定閾値を下回っているならば、当該気筒1の膨張行程における燃焼が不良であると判定する。さもなくば、当該気筒1の膨張行程における燃焼は正常であると判定する。
【0035】
ステップS4、S8、S12における判定閾値は、内燃機関の運転領域に応じて、及び/または、内燃機関に作用する機械的な負荷の大きさに応じて上下させることが好ましい。吸気量及び燃料噴射量の少ない低負荷領域と、吸気量及び燃料噴射量の多い高負荷領域とでは、機関の回転速度の瞬時値と移動平均値との差分の大きさが異なる。コンプレッサ61によりエアコンディショナ用の冷媒を圧縮している場合や、オルタネータ62の発電機能により高電圧を発生させている場合と、そうでない場合とでも、やはり回転速度の差分の大きさは異なる。
【0036】
加えて、ステップS4、S8、S12における判定閾値は、全ての気筒1について同一であるとは限られない。判定閾値を、気筒1毎に異なる値としてもよい。吸気通路3から各気筒1に分配される吸気量の不均等の他、気筒1毎に種々の特性が少しずつ異なるからである。
【0037】
当該気筒1の膨張行程における燃焼が不良であると判定した暁には、エンジンストールを回避するために、機関の回転トルクを増強するような補正制御を実施する(ステップS13)。例えば、気筒1に充填される吸気(新気)量及び燃料噴射量を増加させるべく、アイドルスピードコントロールバルブ36の開度を拡大したり、スロットルバルブ32が電子スロットルバルブであればこのスロットルバルブ32の開度を拡大したりする。点火時期を進角することも考えられる。内燃機関に排気ガス再循環(Exhaust Gas Recirculation)装置が付帯している場合には、そのEGRバルブの開度を縮小する操作を行ってもよい。あるいは、内燃機関に作用する機械的な負荷を軽減する。クランクシャフトの回転トルクをコンプレッサに伝達するためのマグネットクラッチ51を切断すれば、クランクシャフトの回転速度の低落を抑えることが可能である。オルタネータ62の発電する電圧を低下させることも、同様である。
【0038】
本
実施形態では、内燃機関の気筒1における膨張行程中の少なくとも二つの時点で内燃機関の回転速度の瞬時値
を測定するとともに瞬時値に基づく移動平均値
を算出し、各時点での瞬時値
から移動平均値
を減算した差分を判定閾値と比較して、差分が判定閾値を下回る場合に当該気筒1の燃焼が不良であると判定するものであって、膨張行程中のより遅い時点での差分と比較するべき判定閾値を、膨張行程中のより早い時点での差分と比較するべき判定閾値よりも高く設定していることを特徴とする内燃機関の制御装置0を構成した。
【0039】
本実施形態によれば、エンジンストールを招くおそれのある燃焼不良または失火の発生を可及的速やかに感知することができ、補正制御を適時に開始することが可能となる。ひいては、エンジンストール耐力が向上する。
【0040】
なお、本発明は以上に詳述した実施形態に限られるものではない。例えば、上記実施形態では、気筒1の膨張行程における圧縮上死点後90°CA、120°CA、150°CAの三つの時点について機関の回転速度の瞬時値と移動平均値との差分を算出し、これらを各々判定閾値と比較していたが、回転速度の差分を求める時点は、上の三つの時点には限定されない。圧縮上死点後60°CAから180°CAまでの間の任意の複数の時点について回転速度の差分を求め、それらを各々判定閾値を比較して、当該気筒1の燃焼の正常/不良の判定を行うことが可能である。その場合にも、膨張行程中のより遅い時点での差分と比較するべき判定閾値を、膨張行程中のより早い時点での差分と比較するべき判定閾値よりも高く設定することは言うまでもない。早期検出性と耐誤検出性とをより高い次元で両立させるため、判定閾値を気筒1により分ける(ハード傾向に応じて分ける)こともできる。
【0041】
回転速度の差分を算出する時点の数、そして差分と判定閾値との比較を行う回数は、二度でもよいし、四度以上でもよい。
【0042】
本発明に係る燃焼不良の検知手法は、二気筒や三気筒といった、爆発燃焼の間隔が大きい少数気筒の内燃機関に対して特に有効であるが、四気筒以上の内燃機関に適用することも当然に可能である。
【0043】
その他、各部の具体的構成や処理の手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。