(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6088237
(24)【登録日】2017年2月10日
(45)【発行日】2017年3月1日
(54)【発明の名称】ギアードモータおよびバルブ駆動装置
(51)【国際特許分類】
H02K 11/21 20160101AFI20170220BHJP
H02K 7/116 20060101ALI20170220BHJP
【FI】
H02K11/21
H02K7/116
【請求項の数】14
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2012-276846(P2012-276846)
(22)【出願日】2012年12月19日
(65)【公開番号】特開2014-121237(P2014-121237A)
(43)【公開日】2014年6月30日
【審査請求日】2015年11月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002233
【氏名又は名称】日本電産サンキョー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002158
【氏名又は名称】特許業務法人上野特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100095669
【弁理士】
【氏名又は名称】上野 登
(72)【発明者】
【氏名】小田 翔太
(72)【発明者】
【氏名】原 哲彦
【審査官】
三澤 哲也
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−233446(JP,A)
【文献】
特開2012−005260(JP,A)
【文献】
特開2010−130865(JP,A)
【文献】
特開2010−093869(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 11/21
H02K 7/116
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータの動力が伝達されて回転する回転部材と、
この回転部材に形成された保持穴に挿入される磁石と、
この磁石を検出する一または複数の検出部材を有し、この検出部材による磁石の検知により前記回転部材の回転位置を得る検出手段と、
を備え、
前記回転部材には、前記回転部材の回転方向の一方側に位置する前記保持穴の内壁面から突出方向が異なる複数の変形部が形成され、前記保持穴に挿入された前記磁石により前記変形部が変形した状態で、前記磁石が前記回転部材の回転方向の他方側に位置する前記保持穴の内壁面に接触していることを特徴とするギアードモータ。
【請求項2】
前記磁石は、前記回転部材の回転方向の他方側に位置する前記保持穴の内壁面に複数箇所で接触し、前記磁石と前記内壁面が接触する複数箇所の接線が交差することを特徴とする請求項1に記載のギアードモータ。
【請求項3】
前記回転部材が一方に回転するときに、前記検出手段が前記検出部材によって前記磁石を検出することで前記回転部材の回転位置を得るように設定されている場合において、
前記回転部材が一方に回転するとき、前記磁石における前記保持穴の内壁面に接触する側の方が、前記磁石における前記変形部に接触する側よりも先に前記検出部材の検出範囲に進入するように構成されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のギアードモータ。
【請求項4】
前記回転部材には、当該回転部材が一方に回転しているときに前記検出部材に検出される第一磁石、および当該回転部材が他方に回転しているときに前記検出部材に検出される第二磁石が固定されており、
前記回転部材が一方および他方に回転しているときのいずれの場合においても、前記磁石における前記保持穴の内壁面に接触する側の方が、前記磁石における前記変形部に接触する側よりも先に前記検出部材の検出範囲に進入するように構成されていることを特徴とする請求項3に記載のギアードモータ。
【請求項5】
前記第一磁石が前記検出部材の一つである第一検出部材に検知され、前記第二磁石が前記第一検出部材とは異なる検出部材である第二検出部材に検出されるように構成されていることを特徴とする請求項4に記載のギアードモータ。
【請求項6】
前記第一検出部材および前記第二検出部材が搭載される基板を備え、
前記回転部材は、前記モータの出力側の端面と対向するとともに、前記モータの端子が前記基板に接続されていることを特徴とする請求項5に記載のギアードモータ。
【請求項7】
請求項5または請求項6に記載のギアードモータを備え、前記モータの動力によって前記回転部材と連繋されたバルブを駆動させることにより、入力される一方の流体と他方の流体の混合比を変化させて出力するバルブ駆動装置であって、
前記第一磁石が前記第一検出部材に検出される位置は前記一方の流体のみが出力される状態に設定され、前記第二磁石が前記第二検出部材に検出される位置は前記他方の流体のみが出力される状態に設定されることを特徴とするバルブ駆動装置。
【請求項8】
前記保持穴は、前記検出部材が設置される側の反対側が挿入口である有底の穴であることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか一項に記載のギアードモータ。
【請求項9】
前記回転部材における前記挿入口の周囲が溶融され、前記磁石の挿入方向において当該溶融された部分と前記保持穴の底により前記磁石が挟まれた状態にあることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか一項に記載のギアードモータ。
【請求項10】
前記変形部は、前記保持穴の内壁面における底側に形成されていることを特徴とする請求項9に記載のギアードモータ。
【請求項11】
前記磁石は、前記回転部材の一方側に位置する二つの変形部のそれぞれと接触し、前記回転部材の回転方向の他方側に位置する前記保持穴の内壁面と二箇所で接触していることを特徴とする請求項1から請求項10のいずれか一項に記載のギアードモータ。
【請求項12】
前記磁石が二つの変形部のそれぞれに接触する二箇所と、前記磁石が前記回転部材の回転方向の他方側に位置する前記保持穴の内壁面に接触する二箇所は、磁石の中心を対称点とする点対称位置に位置することを特徴とする請求項11に記載のギアードモータ。
【請求項13】
前記磁石が変形部に接触する二箇所、および、前記磁石が前記回転部材の回転方向の他方側に位置する前記保持穴の内壁面に接触する二箇所は、前記回転部材の回転中心を中心とし前記磁石の中心を通る円までの最短距離が等しいことを特徴とする請求項12に記載のギアードモータ。
【請求項14】
前記磁石は焼結磁石であることを特徴とする請求項1から請求項13のいずれか一項に記載のギアードモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータの動力が伝達されて回転する回転部材およびこの回転部材の回転位置を検出する手段を備えたギアードモータ、およびこのようなギアードモータを用いたバルブ駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
このような回転部材の回転位置を検出する手段を備えたギアードモータとして下記特許文献1に記載のものが公知である。このギアードモータでは、回転部材(出力部材)に磁石(磁性体)を固定し、この固定した磁石を検出することにより回転部材の回転位置を検出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−233446号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、上記特許文献1のギアードモータでは、回転部材に形成された穴に磁石が遊嵌される構成であるため、磁石の固定位置にばらつきが生じ、その分回転部材の回転位置の検出精度が低下してしまう。また、特許文献1の
図6に変形例として記載される二つの舌片145の間に磁石が挟まれる構成としても、一方の舌片145が他方よりも大きく変形するなどし、磁石の固定位置にばらつきが生じてしまう。
【0005】
上記問題に鑑みて、本発明は、固定された磁石により回転位置が検出される回転部材を備えたギアードモータおよびこのようなギアードモータを用いたバルブ駆動装置において、当該回転位置の検出精度を高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために本発明にかかるギアードモータは、モータの動力が伝達されて回転する回転部材と、この回転部材に形成された保持穴に挿入される磁石と、この磁石を検出する一または複数の検出部材を有し、この検出部材による磁石の検知により前記回転部材の回転位置を得る検出手段と、を備え、前記回転部材には、前記回転部材の回転方向の一方側に位置する前記保持穴の内壁面から
突出方向が異なる複数の変形部が形成され、前記保持穴に挿入された前記磁石により前記変形部が変形した状態で、前記磁石が前記回転部材の回転方向の他方側に位置する前記保持穴の内壁面に接触していることを要旨とするものである。
【0007】
上記本発明によれば、変形部が変形することによって生ずる反力により、磁石は変形部の反対側(回転方向の他方側)に位置する内壁面に接触した状態となる。つまり、この内壁面を基準として磁石が位置決めされるから、回転部材の磁石の位置決め精度(回転部材の回転方向における位置決め精度)が高まり、回転部材の回転位置の検出精度が良好なものとなる。
【0008】
また、
このような突出方向が異なる複数の変形部が形成されていれば、磁石に異なる方向の力が伝わった状態で当該磁石が回転方向の他方側に位置する内壁面に押しつけられるため、磁石の位置決め精度を回転部材の回転方向だけでなく、回転部材の径方向においても向上することができる。
【0010】
前記磁石は、前記回転部材の回転方向の他方側に位置する前記保持穴の内壁面に複数箇所で接触し、前記磁石と前記内壁面が接触する複数箇所の接線が交差していればよい。
【0011】
上記構成によれば、磁石は回転方向の他方側に位置する内壁面と、異なる複数の方向で当接するように押しつけられるため、磁石の位置決め精度を回転部材の回転方向だけでなく、回転部材の径方向においても向上することができる。
【0012】
また、前記回転部材が一方に回転するときに、前記検出手段が前記検出部材によって前記磁石を検出することで前記回転部材の回転位置を得るように設定されている場合において、前記回転部材が一方に回転するとき、前記磁石における前記保持穴の内壁面に接触する側の方が、前記磁石における前記変形部に接触する側よりも先に前記検出部材の検出範囲に進入するように構成されていればよい。
【0013】
また、前記回転部材には、当該回転部材が一方に回転しているときに前記検出部材に検出される第一磁石、および当該回転部材が他方に回転しているときに前記検出部材に検出される第二磁石が固定されており、前記回転部材が一方および他方に回転しているときのいずれの場合においても、前記磁石における前記保持穴の内壁面に接触する側の方が、前記磁石における前記変形部に接触する側よりも先に前記検出部材の検出範囲に進入するように構成されていればよい。
【0014】
また、前記第一磁石が前記検出部材の一つである第一検出部材に検知され、前記第二磁石が前記第一検出部材とは異なる検出部材である第二検出部材に検出されるように構成されていればよい。
【0015】
このように第一検出部材が検知する磁石と第二検出部材が検知する磁石を異なる磁石としたことにより、第一磁石が第一検出部材に検知される回転部材の回転位置から第二磁石が第二検出部材に検出される回転部材の回転位置までの回転部材の回転角度を、回転部材の回転中心を中心とする第一検出部材から第二検出部材までの角度を異なる角度にすることができる。このため、第一検出部材と第二検出部材の配置位置の自由度が向上する。
【0016】
また、前記第一検出部材および前記第二検出部材が搭載される基板を備え、前記記回転部材は、前記モータの出力側の端面と対向するとともに、前記モータの端子が前記基板に接続されていればよい。
【0017】
上記構成によれば、回転部材をモータの出力側の端面に近接して配置できるため、回転部材の軸線方向におけるギアードモータのサイズを小さくすることができる。この場合、第一検出部材と第二検出部材が配置可能な位置はモータの出力側の端面およびモータの端子と基板の接続位置を避ける必要があるが、第一検出部材が検知する磁石と第二検出部材が検知する磁石を異なる磁石としたことにより、第一磁石が第一検出部材に検知される回転部材の回転位置から第二磁石が第二検出部材に検出される回転部材の回転位置までの回転部材の回転角度を、回転部材の回転中心を中心とする第一検出部材から第二検出部材までの角度を異なる角度にすることができる。
【0018】
上記ギアードモータを備え、前記モータの動力によって前記回転部材と連繋されたバルブを駆動させることにより、入力される一方の流体と他方の流体の混合比を変化させて出力するバルブ駆動装置であって、前記第二磁石が前記第一検出部材に検出される位置は前記一方の流体のみが出力される状態に設定され、前記第一磁石が前記第二検出部材に検出される位置は前記他方の流体のみが出力される状態に設定されるようなバルブ駆動装置とすればよい。
【0019】
上記構成によれば、一方の流体のみが出力される状態、他方の流体のみが出力される状態を正確に検出することが可能なバルブ駆動装置とすることができる。
【0020】
仮に、磁石における変形部に接触する側の方が先に検出部材の検出範囲に進入するように設定すると、磁石の寸法のばらつきによって検出精度が低下してしまう可能性があるところ、上記構成によれば磁石における前記保持穴の内壁面に接触する側の方が先に検出部材の検出範囲に進入するため、このような磁石の寸法のばらつきの影響を低減することができる。
【0021】
また、前記保持穴は、前記検出部材が設置される側の反対側が挿入口である有底の穴であればよい。
【0022】
このような構成とすれば、磁石の軸方向(回転部材の回転軸方向)における位置決め精度が向上する。
【0023】
また、前記回転部材における前記挿入口の周囲が溶融され、前記磁石の挿入方向において当該溶融された部分と前記保持穴の底により前記磁石が挟まれた状態にあればよい。
【0024】
このような熱によって挿入口の周囲を溶融し開口を塞ぐことにより磁石の脱落を防止する構成とする場合であっても、上記回転方向および軸方向における磁石の位置決め精度に影響がない。
【0025】
また、前記変形部は、前記保持穴の内壁面における底側に形成されていればよい。
【0026】
このように変形部が底側に形成されていれば、磁石の挿入が容易である。また、このように挿入を容易にしても、検出部材に近い底側の位置決め精度は低下しないため、検出手段による検出精度が低下しない。
【0027】
また、前記磁石は、前記回転部材の一方側に位置する二つの変形部のそれぞれと接触し、前記回転部材の回転方向の他方側に位置する前記保持穴の内壁面と二箇所で接触していればよい。
【0028】
また、前記磁石が二つの変形部のそれぞれに接触する二箇所と、前記磁石が前記回転部材の回転方向の他方側に位置する前記保持穴の内壁面に接触する二箇所は、磁石の中心を対称点とする点対称位置に位置していればよい。
【0029】
このような構成とすれば、磁石を対向する位置で挟み込むため、磁石が軸方向に直交する平面方向にずれにくくなる。
【0030】
また、前記磁石が二つの変形部のそれぞれに接触する二箇所と、前記磁石が前記回転部材の回転方向の他方側に位置する前記保持穴の内壁面に接触する二箇所は、前記回転部材の回転中心を中心とし前記磁石の中心を通る円までの最短距離が等しければよい。
【0031】
このようにすれば、回転部材の径方向において、一方の変形部が磁石を押す力の成分と、他方の変形部が磁石を押す力の成分とが打ち消し合う。つまり、磁石に対して回転部材の径方向に作用する力の和が0になるため、磁石が径方向にずれてしまうことを抑制することができる。
【0032】
また、前記磁石は焼結磁石であるとよい。
【0033】
焼結磁石は焼結によって寸法が変化する。このような外形寸法にばらつきがある焼結磁石であっても正確に位置決めすることができる。
【発明の効果】
【0034】
本発明によれば、回転部材に対する磁石の位置決め精度が向上するため、検出手段(検出部材)による回転部材の回転位置の検出精度が優れたものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【
図1】本発明の実施形態にかかるギアードモータの分解図である。
【
図3】回転部材に形成された保持穴の断面図(
図2のA−A線断面図)である。
【
図4】
図4(a)は保持穴の拡大図であり、
図4(b)は保持穴に磁石が挿入された状態を示した図であり、
図4(c)は突状部分を溶融させて保持穴の開口を封鎖した状態を示したものである。
【
図5】基板およびそれに実装された検出部材の平面図である。
【
図6】回転部材に形成された保持穴と基板に実装された検出部材の位置関係を示した図である。
【
図8】回転部材の回転方向、保持穴に保持された磁石(磁石が接触する内壁面)、および検出部材の位置関係を示した図である。なお、実際には突状部分が溶融されて磁石は露出していないが、説明のため突状部分が溶融されておらず磁石が露出している状態を示している。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明の実施形態について
図1〜
図8を参照して詳細に説明する。本発明の実施形態にかかるギアードモータ1は、回転部材10、磁石20、および検出部材30を有する検出手段を備える。以下、各構成ならびにその他の構成について説明する。なお、以下の説明における軸方向(高さ方向)とは、回転部材10の回転軸方向に沿う方向をいい、上ケース91側を上(高)、下ケース92側を下(低)とする。また、面方向とは軸方向に直交する面方向をいう。
【0037】
回転部材10は、モータであるモータ40の動力が伝達されて回転する熱可塑性の合成樹脂製の部材である。回転部材10は、図示しない軸部が下ケース92に形成される軸受部921(
図1、
図7参照)に回転自在に支持される。本実施形態にかかるギアードモータ1は、駆動源としてステッピングモータであるモータ40を用いている。モータ40の出力軸(ロータ)と一体的に回転するモータ歯車401は、一番車41の大径歯部に噛み合っている。一番車41の小径歯部は、二番車42の大径歯部に噛み合っている。二番車42の小径歯部は、回転部材10の歯車部11に噛み合っている。モータ40が回転すると、その動力は一番車41および二番車42を介して回転部材10まで伝達される。回転部材10は、各構成部材を収容するケースの一方である上ケース91に形成された貫通孔911を通じてケースの外側に位置する出力部12を有する。出力部12には図示されない駆動対象物が直接または(連繋部材等を介して)間接的に連結される。つまり、出力部12まで伝達された動力は、外部の駆動対象物まで伝達される。駆動対称物としては、給湯器の流量調整(湯と水の混合割合の調整)を行うバルブが例示できる。なお、出力部12は、内側に、駆動対象物または連繋部材が係合するDカット121とスプライン122が軸方向に異なる位置に形成されてなるものである。スプライン122によって出力部12とそれに係合される部材の回転方向における相対位置を高い精度で位置合わせすることができる。また、Dカット121によってスプライン122とそれに係合される部分がずれて(数歯ずれて)係合されることを防止することができる。
【0038】
磁石20(
図4参照)は、回転部材10に形成された保持穴13に挿入された状態で固定されている。本実施形態では、回転部材10に焼結磁石である二つの磁石20(第一磁石21および第二磁石22)が固定されている。この保持穴13の形状(回転部材10に対する磁石20の位置決め方法)については後述する。回転部材10が回転すると、それに固定された磁石20は回転部材10の回転中心を中心とする円に沿って移動する。本実施形態では、第一磁石21および第二磁石22は回転部材10の回転中心から等距離にある。
【0039】
検出手段は、一または複数の検出部材30(例えばホールIC)を有し、この検出部材30からの信号を受ける基板50に設けられた電気的要素である。本実施形態では、基板50上に二つの検出部材30(第一検出部材31および第二検出部材32)が実装されている。両検出部材30は、回転部材10が回転したときに磁石20(保持穴13)が描く軌跡(円)と軸方向で重なる位置に設けられている(
図6参照)。基板50は、下ケース92に形成された複数の位置決め突起922(
図1、
図7参照)が基板50に形成された位置決め孔53(
図5参照)に通されることによって位置決めされる。つまり、回転部材10を支持する軸受部921および基板50を位置決めする位置決め突起922の両方が下ケース92に形成されているため、これら軸受部921および位置決め突起922によって回転部材10と基板50が位置決めされることにより、両検出部材30が上記円と軸方向で重なる位置となるように位置決めされる。基板50には、端子ピン51の一端側が接続されている。端子ピン51の他端側は下ケース92に形成されたコネクタハウジング部923の内側に位置している。また、基板50は、モータ接続ピン52を介してモータ40と電気的に接続されている。電源や外部の制御機器は、コネクタハウジング部923と端子ピン51によって構成されるコネクタ部を介して基板50(制御手段)と電気的に接続される。
【0040】
回転部材10が回転し、磁石20と検出部材30の距離が所定距離以下となった場合には、検出手段は検出部材30からのON信号を得る。逆に言えば磁石20と検出部材30の距離が所定距離を超えている場合には、検出手段は検出部材30からのOFF信号(信号無)を得る。検出手段は、この信号の切り替わりを基準として回転部材10の回転位置を得る。なお、ここでいう「回転位置を得る」には、回転部材10の具体的な角度を得る(算出する)ことだけでなく、回転部材10が原位置等の基準位置に到達したかどうか、すなわち回転部材10が特定の位置まで回転したという情報を取得することを含む。また、本実施形態では、信号がOFFからONへ切り替わったとき、「磁石20が検出部材30の検出範囲に進入した」ものと規定する。
【0041】
このように検出手段は、検出部材30による磁石20の検知の有無により、回転部材10の回転位置を得る。そのため、検出手段(検出部材30)によって回転部材10の回転位置を正確に得るためには、回転部材10に対して磁石20を正確に位置決めすることが重要となる。以下、かかる磁石20の位置決めについて詳細に説明する。
【0042】
回転部材10には円柱形状の磁石20が挿入される保持穴13が形成されている。
図3および
図4(a)に示すように、かかる保持穴13は、検出部材30側(下側)に底136を有し、(磁石20が固定されていない状態において)その反対側が開口した有底の穴である。なお、底136には挿入する磁石20よりも小さな(磁石20が通ることのない)貫通孔137が形成されている。磁石20に極性を示すマークが付されている場合には、後述する熱かしめによって開口が塞がれた後でも、この貫通孔137を通じて磁石20の極性を確認することができる。この磁石20が収容される保持穴13はできるだけ回転部材10の中心から離すことが望ましい。後述するように、回転部材10の回転位置を検出する際に、その誤差を小さくするためである。
【0043】
保持穴13の軸方向に延びる内壁面は、回転部材10の径方向に対して傾斜した四つの面1331,1332,1341,1342を有する。四つの面のうちの二つの面は、回転部材10の回転方向の一方側に位置する。また、内壁面1331と内壁面1342および内壁面1332と内壁面1341は平行に対向する。別の二つの面は、回転部材10の回転方向の他方側に位置する。ここで、回転部材10の回転方向の一方側または他方側とは、回転部材10の回転中心と保持穴13の中心C(保持穴13に円柱形状の磁石20が挿入された状態においてはその磁石20の中心と略一致する。以下当該中心を磁石20の中心Cと称することもある)とを結んだ
図4に示す直線(平面)Lを境界線(面)として、その境界の一方側または他方側のことをいうものとする。また、「一方側」および「他方側」とは、相反する方向であることをいうものであって、左回転方向や右回転方向といった具体的な方向を特定するものではない。
【0044】
回転部材10の回転方向の一方側に位置する二つの内壁面1331,1332は、略「V」字状に位置する。具体的には、回転部材10の回転方向の他方側に向かって両壁面の間隔がだんだんと広がる方向に傾斜している。両壁面から回転部材10の回転中心を中心とし磁石20の中心Cを通る円(以下、この円を単に「基準円R」と称することもある)までの最短距離は等しくなるように設定されている。したがって、二つの内壁面1331,1332(またはその内壁面1331,1332を延長した仮想面)が交差する箇所は、当該基準円R上に位置する。この二つ内壁面1331,1332のそれぞれからは、穴(空間)に向かって突出する突起である変形部P(第一変形部P1および第二変形部P2)が形成されている。両変形部Pは、外力によって塑性変形可能な突起である。第一変形部P1と基準円Rまでの最短距離は、第二変形部P2と基準円Rまでの最短距離は等しくなるように設定されている。つまり、第一変形部P1と第二変形部P2の突出方向に延びる直線(突起の先端の中央と根元部分の中央を結んだ直線)が交差する箇所は、当該基準円R上に位置する。このように、回転部材10の回転方向の一方側には、突出方向が異なる二つの変形部Pが形成されている。
【0045】
また、変形部Pは、回転部材10の回転方向の一方側に位置する二つの内壁面1331,1332における上下方向全体に亘って形成されているわけではなく、当該内壁面1331,1332における底136側に形成されている(
図3参照)。つまり、保持穴13の底136から上に向かって延びる変形部Pの高さ方向の長さが、当該内壁面1331,1332の高さよりも小さくなるように設定されている。
【0046】
一方、回転部材10の回転方向の他方側に位置する二つの内壁面1341,1342(以下、第一内壁面1341、第二内壁面1342と両者を区別して称することもある)は、略「V」字状に位置する。具体的には、回転部材10の回転方向の一方側に向かって両壁面の間隔がだんだんと広がる方向に傾斜している。両壁面から基準円Rまでの最短距離は等しくなるように設定されている。この回転方向の他方側に位置する二つの内壁面1341,1342(またはその内壁面1341,1342を延長した仮想面)が交差する箇所は、基準円R上に位置する。この回転部材10の回転方向の他方側に位置する二つの内壁面1341,1342には、上記変形部Pのような突起は形成されておらず、平坦な面となっている。なお、上述したように「他方側」とは、上述の「一方側」の反対方向をいうものであって、具体的な方向を特定するものではない。つまり、回転方向における片側に変形部P(変形部Pが形成された内壁面1331,1332)が、別の側に変形部Pが平成されていない内壁面1341,1342が形成されていればよい。
【0047】
このような形状である保持穴13内に磁石20を挿入すると、変形部Pが磁石20に押されて変形する(潰れる)。磁石20は、変形した変形部Pからの反力によって、回転部材10の回転方向の他方側に位置する第一内壁面1341および第二内壁面1342のそれぞれに接触する。つまり、磁石20は、二つの変形部Pと、その変形部Pの反対側に設けられた二つの内壁面1341,1342に点接触した状態(少なくとも四点(
図4(b)に点M1〜M4で示す)で接触した状態)にある。磁石20が二つの変形部Pのそれぞれに接触する二箇所と、磁石20が第一内壁面1341および第二内壁面1342のそれぞれに接触する二箇所は、磁石20の中心Cを対称点とする点対称位置に位置する。また、磁石20が二つの変形部Pのそれぞれに接触する二箇所の接線と、磁石20が第一内壁面1341および第二内壁面1342のそれぞれに接触する二箇所の接線はそれぞれ交差する。つまり、第一変形部P1が磁石20を押す方向と第二変形部P2が磁石20を押す方向が異なるとともに、磁石20が第一内壁面1341を押す方向と磁石20が第一内壁面1341を押す方向第二内壁面1342を押す方向が異なる。このように、磁石20は変形部Pによって押され、回転部材10の回転方向の他方側に位置する二つの内壁面1341,1342のそれぞれに接触しているから、これらの内壁面1341,1342が磁石20を面方向に位置決めする基準となっている。
【0048】
磁石20が保持穴13に挿入された後、その保持穴13の周囲に形成された突状部分135が溶融され(
図4(c)において溶融された部分を135mで示す)、保持穴13の開口が塞がれる。磁石20は、突状部分135が溶融されてなる開口を塞ぐ部分と、保持穴13の底136に挟まれた状態になる。つまり、保持穴13の底136が、磁石20を軸方向に位置決めする基準となっている。なお、歯車部11の上面(保持穴13の開口が設けられる側の面)は突状部分の上面より上側に設けられる。このため、溶融された突状部分135が歯車部11が歯部に流れることを防止できる。
【0049】
本実施形態の回転部材10には二つの保持穴13(第一保持穴131および第二保持穴132)が形成され、両保持穴13内に磁石20が固定されている。本実施形態では、回転部材10の原位置から終端位置までの回転量が一回転未満となるように(一回転未満の間で往復動するように)設定されており、第一磁石21を基板50に設けられた第一検出部材31が検出することにより回転部材10(駆動対象物)の原位置を検出し、第二磁石22を基板50に設けられた第二検出部材32が検出することにより回転部材10(駆動対象物)の終端位置を検出する。具体的には次の通りである。
【0050】
原位置から終端位置に向かって回転部材10が回転した場合、
図8(a)に示すように第一磁石21が基板50に設けられた第一検出部材31に近づいていく。このとき、第一磁石21は、変形部Pの反対側に設けられた第一内壁面1341および第二内壁面1342に接触した側が先に第一検出部材31に近づいていく。つまり、第一磁石21における位置決めする基準である内壁面1341,1342に接触している部分が先に検出部材30に検出される。同様に、終端位置から原位置に向かって回転部材10が回転した場合、
図8(b)に示すように第二磁石22が基板50に設けられた第二検出部材32に近づいていく。このとき、第二磁石22は、変形部Pの反対側に設けられた二つの内壁面1341,1342に接触した側が先に第二検出部材32に近づいていく。つまり、第二磁石22も、位置決めする基準となっている内壁面1341,1342に接触している部分が先に検出部材30に検出される。このように、回転部材10の回転方向で見て、変形部Pが形成される側(磁石20が接触する第一内壁面1341および第二内壁面1342が形成される側)は、第一磁石21が挿入される保持穴13と第二磁石22が挿入される保持穴13とで異なる(逆に)設定されることにより、磁石20における第一内壁面1341および第二内壁面1342に接触している側が、先に検出部材30に検出されるように構成されている。
【0051】
上記原位置と終端位置といったような回転部材10の二つの回転位置を検出する場合、検出部材30を二つ設置すれば、回転部材10に固定される磁石20が一つであっても当該二つの回転位置を検出することができる。しかし、本実施形態では、磁石20を二つ設け、この二つの磁石20のそれぞれが対応する検出部材30に検出されるようにしている。このようにすることで、回転部材10に設けられた二つの磁石20の両方とも、基準面である第一内壁面1341および第二内壁面1342に接触している位置決め精度の高い部分が先に検出部材30の検出範囲内に進入するように設定することができる。また、このように磁石20を二つ設ければ、検出すべき二つの回転位置の角度の差が180度(検出すべき回転位置が最も離れるように設定される場合)であったとしても、検出部材30を近づけて配置することができる。つまり、一方の磁石20と一方の検出部材30の回転方向における相対的な位置関係と、他方の磁石20と一方の検出部材30の回転方向における相対的な位置関係を、回転部材10に対する二つの磁石20の固定位置を調整することにより適宜設定することができるため、検出部材30を近づけて(回転部材10を中心とする角度が、検出すべき二つの回転位置の角度の差より小さく)配置することができる。そのため、基板50の設計の自由度が向上する。なお、回転部材10の一つの回転位置を検出すればよい場合には、一つの磁石20に対し一つの検出部材30を設ければよいことになるが、このような場合であっても当該一つの磁石20における第一内壁面1341および第二内壁面1342に接触している部分が先に当該一つの検出部材30に検出されるようにするとよい。
【0052】
なお、保持穴13の大きさは、焼結磁石である磁石20が最も大きい場合でも挿入することができる大きさにする必要があり、磁石20の径のばらつき範囲が0.1mmであった場合、磁石20が最も小さい場合には磁石20と内壁面との間には0.1mm以上の隙間を設ける必要がある。回転部材10の中心から磁石20の中心までが10mmで磁石20の位置が周方向に0.1mmずれると、検出部材30が磁石20を検知する角度は、回転部材10の回転角度で約0.6度ずれることになる。
【0053】
このような構成を有する本実施形態にかかるギアードモータ1を、湯と水の混合割合の調整を行う給湯器のバルブの駆動用に適用し、回転部材10が原位置(終端位置)に位置するときの出力を水100%、回転部材10が終端位置(原位置)に位置するときの出力を湯100%とした場合、少なくとも当該水100%の出力となる状態および湯100%の出力となる状態を正確に制御することができる。なお、回転部材10には、検出部材30の異常により検知不良が発生した場合に、回転部材10の回転を停止させることのできる度当たりを形成しておくとよい。また、上記形状の保持穴13が形成された回転部材10は、単純な二分割の金型によって成型することができる(回転部材10をいわゆるアンダーカットの無い形状とすることができる)。
【0054】
以上説明した本実施形態にかかるギアードモータ1によれば、次のような作用効果が奏される。
【0055】
本実施形態によれば、変形部Pが変形することによって生ずる反力により、磁石20は変形部Pの反対側(回転方向の他方側)に位置する第一内壁面1341,および第二内壁面1342に接触した状態となる。つまり、この両内壁面1341,1342を基準として磁石20が位置決めされるから、回転部材10の磁石20の位置決め精度(回転部材10の回転方向における位置決め精度)が高まり、回転部材10の回転位置の検出精度が良好なものとなる。
【0056】
また、突出方向が異なる第一変形部P1および第二変形部P2が形成されており、磁石20に異なる方向の力が伝わった状態で当該磁石20が回転方向の他方側に位置する第一内壁面1341および第二内壁面1342に押しつけられるため、磁石20の位置決め精度をさらに向上させることができる。
【0057】
また、磁石20における第一内壁面1341および第二内壁面1342に接触する側の方が先に検出部材30の検出範囲に進入するため、磁石20の寸法のばらつきによって検出精度が低下してしまうことを抑制することができる。
【0058】
また、回転部材10における挿入口の周囲が溶融され、磁石20の挿入方向において当該溶融された部分と保持穴13の底136により磁石20が挟まれた状態となるため、軸方向における磁石20の位置決め精度に優れる。さらに、このような熱によって挿入口の周囲を溶融し開口を塞ぐことにより磁石20の脱落を防止する構成とする場合であっても、回転方向および軸方向における磁石20の位置決め精度に影響がない。
【0059】
また、変形部Pは、保持穴13の内壁面1331,1332における底136側に形成されているため、磁石20の挿入が容易である。また、このように挿入を容易にしても、検出部材30に近い底136側の位置決め精度は低下しないため、検出手段による検出精度が低下しない。
【0060】
また、磁石20は、回転部材10の一方側に位置する二つの変形部Pのそれぞれと接触し、回転部材10の回転方向の他方側に位置する保持穴13の内壁面(第一内壁面1341および第二内壁面1342)と二箇所で接触する。そして、磁石20が二つの変形部Pのそれぞれに接触する二箇所と、磁石20が回転部材10の回転方向の他方側に位置する保持穴13の内壁面1341,1342に接触する二箇所は、磁石20の中心Cを対称点とする点対称位置に位置する。このように、磁石20を対向する位置で挟み込むため、磁石20が軸方向に直交する平面方向にずれにくくなる。
【0061】
また、磁石20が二つの変形部Pのそれぞれに接触する二箇所と、磁石20が回転部材10の回転方向の他方側に位置する保持穴13の内壁面(第一内壁面1341および第二内壁面1342)に接触する二箇所は、回転部材10の回転中心を中心とし磁石20の中心Cを通る基準円Rまでの最短距離が等しくなっている。そのため、回転部材10の径方向において、第一変形部P1が磁石20を押す力の成分と、第二変形部P2が磁石20を押す力の成分とが打ち消し合う。つまり、磁石20に対して回転部材10の径方向に作用する力の和が0になるため、磁石20が径方向にずれてしまうことを抑制することができる。
【0062】
また、磁石20が保持される保持穴13は、駆動対象物に直接または間接的に連結される出力軸に設けられている(モータ(モータ40)から駆動対象物までの動力伝達列における駆動対象物側に設けられている)ため、バックラッシュ等による検出精度の低下を抑制することができる。
【0063】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【0064】
上記保持穴13の形状は一例である。回転部材の回転方向の一方側に位置する保持穴の内壁面から突出する変形部が形成され、その変形部が変形することの反力により磁石が回転部材の回転方向の他方側に位置する保持穴の内壁面に接触するような形状であればよい。
【0065】
上記実施形態では、磁石20を円柱形状としたが、角柱形状としてもよい。磁石20を角柱形状とすると、板状の磁石を切断することで磁石20を生産することができるため、磁石20の生産コストを低減できる。
【符号の説明】
【0066】
1 ギアードモータ
10 回転部材
13(131,132) 保持穴
1331,1332 回転方向の一方側に位置する内壁面
P(P1,P2) 変形部
1341,1342 回転方向の他方側に位置する内壁面
135 突状部分
135m 保持穴の開口を塞ぐ突状部分が溶融した部分
136 底
137 貫通孔
20(21,22) 磁石
30(31,32) 検出部材
40 モータ(モータ)
50 基板
91 上ケース
92 下ケース