【0013】
以下、本明細書で開示される技術の特徴を整理する。なお、以下に記す事項は、各々単独で技術的な有用性を有している。
(特徴1)本明細書で開示される技術は、IGBT構造が形成されている半導体層内にダイオード構造を一体化させた逆導通IGBTに具現化される。
(特徴2)本明細書で開示される逆導通IGBTは、エミッタ領域上に設けられているとともにエミッタ領域とエミッタ電極の間に介在している介在領域を有していることを特徴としている。
(特徴3)介在領域とエミッタ領域が、トンネルダイオードを構成してもよい。この場合、介在領域は、介在領域とエミッタ領域が逆バイアスされているときにトンネル電流が流れるように構成されている。この形態によると、IGBT構造がオンするときに、介在領域を介してトンネル電流が流れるので、IGBT構造のオン電圧の増加が抑えられる。
(特徴4)介在領域の不純物濃度は、1×10
20cm
-3以上であってもよい。エミッタ領域の不純物濃度は、1×10
20cm
-3以上であってもよい。このような高濃度の介在領域と高濃度のエミッタ領域は、トンネルダイオードを構成する。この場合、介在領域は、介在領域とエミッタ領域が逆バイアスされているときにトンネル電流が流れるように構成される。この形態によると、IGBT構造がオンするときに、介在領域を介してトンネル電流が流れるので、IGBT構造のオン電圧の増加が抑えられる。
(特徴5)本明細書で開示される逆導通IGBTの半導体層は、ドリフト領域下の一部に設けられている第2導電型のコレクタ領域、及びドリフト領域下の他の一部に設けられている第1導電型のカソード領域を備えていてもよい。ここで、ドリフト領域下に設けられるコレクタ領域とカソード領域のレイアウトは特に限定されない。一例では、半導体層を特定の断面で観測したときに、コレクタ領域とカソード領域が交互に配置されるレイアウトであってもよい。
(特徴6)本明細書で開示される逆導通IGBTでは、半導体層を平面視したときに、コレクタ領域が存在する範囲をIGBT範囲とし、カソード領域が存在する範囲をダイオード範囲としたときに、介在領域は、少なくともダイオード範囲に設けられていてもよい。より好ましくは、介在領域は、IGBT範囲にも設けられていてもよい。
【実施例1】
【0014】
図1に示されるように、逆導通IGBT1は、IGBT範囲とダイオード範囲に区画された半導体層10、半導体層10の裏面を被覆するコレクタ電極22、半導体層10の表面を被覆するエミッタ電極24及び半導体層10の表層部に形成されている複数のトレンチゲート30を備えている。一例では、コレクタ電極22の材料にアルミニウムが用いられており、エミッタ電極24の材料にアルミニウムが用いられている。トレンチゲート30は、ポリシリコンを材料とするトレンチゲート電極32と、そのトレンチゲート電極32を被覆する酸化シリコンを材料とするゲート絶縁膜34を有している。一例では、複数のトレンチゲート30は、半導体層10の表面を平面視したときに、ストライプ状に配置されている。
【0015】
図1に示されるように、半導体層10は、シリコン基板であり、p
+型のコレクタ領域11、n
+型のカソード領域12、n
+型のバッファ領域13、n型のドリフト領域14、p型のボディ領域15、p
+型のボディコンタクト領域16、n
+型のエミッタ領域17、及びp
+型の介在領域18を含んでいる。
【0016】
コレクタ領域11は、半導体層10の裏層部の一部に設けられている。また、コレクタ領域11は、ドリフト領域14下の一部に設けられており、IGBT範囲に配置されている。コレクタ領域11の不純物濃度は濃く、コレクタ電極22にオーミック接触している。コレクタ領域11は、例えば、イオン注入技術を利用して、半導体層10の裏層部の一部にボロンを導入することで形成されている。
【0017】
カソード領域12は、半導体層10の裏層部の一部に設けられている。また、カソード領域12は、ドリフト領域14下の一部に設けられており、ダイオード範囲に配置されている。カソード領域12の不純物濃度は濃く、コレクタ電極22にオーミック接触している。カソード領域12は、例えば、イオン注入技術を利用して、半導体層10の裏層部の一部にリンを導入することで形成されている。なお、この例では、IGBT範囲とダイオード範囲が明確に区画されるように、複数のトレンチゲート30に対応して1つのコレクタ領域11が配置され、複数のトレンチゲート30に対応して1つのカソード領域12が配置されている。このレイアウトは一例であり、この例に代えて、様々なレイアウトを採用することができる。例えば、複数のカソード領域12がコレクタ領域11に対して分散して配置されたレイアウトであってもよい。
【0018】
バッファ領域13は、コレクタ領域11とボディ領域15の間、及びカソード領域12とボディ領域15の間に設けられており、IGBT範囲とダイオード範囲の双方に配置されている。バッファ領域13は、例えば、イオン注入技術を利用して、半導体層10の利面からボロンを導入することで形成されている。
【0019】
ドリフト領域14は、バッファ領域13とボディ領域15の間に設けられており、IGBT範囲とダイオード範囲の双方に配置されている。ドリフト領域14は、トレンチゲート30の底部に接している。ドリフト領域14は、半導体層10に他の領域を形成した残部であり、不純物濃度は厚み方向に一定である。
【0020】
ボディ領域15は、ドリフト領域14上に設けられており、IGBT範囲とダイオード範囲の双方に配置されている。ボディ領域15は、トレンチゲート30の側面に接している。換言すると、トレンチゲート30は、半導体層10の表面から深部に向けて伸びており、ボディ領域15を貫通してドリフト領域14に達している。ボディ領域15は、例えば、イオン注入技術を利用して、半導体層10の表面からボロンを導入することで形成されている。
【0021】
複数のボディコンタクト領域16は、ボディ領域15上に設けられており、IGBT範囲とダイオード範囲の双方に配置されており、半導体層10の表面に露出している。ボディコンタクト領域16の不純物濃度はボディ領域15よりも濃く、エミッタ電極24にオーミック接触している。ボディコンタクト領域16は、例えば、イオン注入技術を利用して、半導体層10の表層部の一部にボロンを導入することで形成されている。
【0022】
複数のエミッタ領域17は、ボディ領域15上に設けられており、IGBT範囲とダイオード範囲の双方に配置されており、トレンチゲート30の側面に接している。複数のエミッタ領域17は、例えば、イオン注入技術を利用して、半導体層10の表面からリンを導入することで形成されている。
【0023】
複数の介在領域18は、エミッタ領域17上に設けられており、IGBT範囲とダイオード範囲の双方に配置されており、トレンチゲート30の側面に接している。複数の介在領域18は、エミッタ領域17とエミッタ電極24の間に介在している。このため、エミッタ領域17は、介在領域18によってエミッタ電極24から隔てられており、エミッタ電極24に接触していない。複数の介在領域18は、例えば、イオン注入技術を利用して、半導体層10の表層部の一部にボロンを導入することで形成されている。
【0024】
図2に、逆導通IGBT1の等価回路を示す。MOS構造は、ドリフト領域14とボディ領域15とエミッタ領域17とトレンチゲート30で構成される。ダイオードD1は、p型のボディ領域15とn型のドリフト領域14の間に構成されるpnダイオードである。逆導通IGBT1では、ダイオードD1がフリーホイールダイオードとして動作する。抵抗R1は、ドリフト抵抗を示す。ダイオードD2は、p型のコレクタ領域11とn型のバッファ領域13の間に構成されるpnダイオードである。抵抗R2は、カソード抵抗を示す。逆導通IGBT1は、ダイオードD3を有することを特徴としている。ダイオードD3は、p型の介在領域18とn型のエミッタ領域17の間に構成される。
【0025】
背景技術で説明したように、逆導通IGBT1が3相インバータに用いられた場合、ダイオードD1に還流電流が流れているときに、トレンチゲート30にゲートオン電圧が印加されるモードが存在する。
【0026】
例えば、介在領域18が設けられていない例では、トレンチゲート30にゲートオン電圧が印加されると、トレンチゲート30の側面の全体にチャネルが形成される。このため、このチャネルを介してエミッタ電極24とドリフト領域14が短絡し、ボディ領域15とドリフト領域14で構成されるダイオードD1の順方向に十分な電圧が印加され難くなるゲート干渉が強く現れる。
【0027】
一方、本実施例の逆導通IGBT1では、
図3に示されるように、介在領域18とエミッタ領域17の間にダイオードD3が形成されている。このため、電子電流がトレンチゲート30の側面のチャネルを介して流れるときに、このダイオードD3を通過する。換言すれば、トレンチゲート30の側面のチャネルは、エミッタ電極24に直接的に接続されておらず、ダイオードD3を介してエミッタ電極24に接続されている。このため、電子電流がダイオードD3を流れることにより、ダイオードD3の電圧降下によってボディ領域15とドリフト領域14の間に内蔵されるダイオードD1に順方向電圧が印加される。したがって、本実施例の逆導通IGBT1では、トレンチゲート30にゲート電圧が印加されていても、エミッタ電極24とドリフト領域14が短絡することがなく、ダイオードD1には順方向電圧が印加され、還流電流が良好に流れる。このように、逆導通IGBT1では、ゲート干渉が抑えられる。
【0028】
図4に、ボディ領域15とドリフト領域14の間に内蔵されるダイオードD1のIV特性を示す。
図4に示されるように、ダイオードD1のIV特性は、ゲート信号のオン・オフに依存していない。このため、本実施例の逆導通IGBT1では、ゲート干渉が抑制されている。
【0029】
また、
図5に示されるように、本実施例の逆導通IGBT1では、介在領域18の不純物濃度は濃く、厚みも薄いことを1つの特徴としている。具体的には、介在領域18の不純物濃度が1×10
20cm
-3以上であり、好ましくは1〜5×10
21cm
-3の範囲である。エミッタ領域17の不純物濃度が1×10
20cm
-3以上であり、好ましくは1〜5×10
21cm
-3の範囲である。この例では、介在領域18及びエミッタ領域17の双方の不純物濃度が約1×10
21cm
-3である。さらに、介在領域18の厚みはエミッタ領域17の厚みよりも薄く、0.2μm以下であり、好ましくは0.05〜0.1μmの範囲である。この例では、介在領域18の厚みが約0.05μmである。なお、この例では、介在領域18の不純物濃度の厚み方向の半値幅が、約0.1μmである。このような高濃度のエミッタ領域17と高濃度の介在領域18で構成されるダイオードD3は、トンネルダイオードとして機能する。このため、IGBT構造がオンするときに、エミッタ領域17と介在領域18の間のダイオードD3が逆バイアスされることによって、介在領域18を介してトンネル電流が流れる。このため、IGBT構造がオンするときは、エミッタ領域17と介在領域18の間のダイオードD3が実質的に消失し、ただの抵抗体と等価とみなすことができる。したがって、IGBT構造を介して流れる電流を阻害することがないので、IGBT構造のオン動作を妨げることはない。
【0030】
図6に、本実施例の逆導通IGBT1のIV特性を示す。ここで、比較例とは、介在領域18が設けられていない例である。
図6に示されるように、本実施例の逆導通IGBT1のIV特性については、介在領域18が設けられていたとしても、オン電圧の上昇が抑制されている。
【0031】
本実施例の逆導通IGBT1では、介在領域18がダイオード範囲とIGBT範囲の双方に設けられている。例えば、介在領域18がダイオード範囲のみに設けられていても、逆導通IGBT1は、ゲート干渉を抑える効果を奏することができる。好ましくは、介在領域18がダイオード範囲とIGBT範囲の双方に設けられているのが望ましい。ゲート干渉を抑える効果が高い。
【0032】
本実施例の逆導通IGBT1では、半導体層10にシリコン基板を用いた例を例示したが、半導体層10の半導体材料は特に限定されない。例えば、半導体層10の半導体材料は、炭化珪素、窒化ガリウム、窒化アルミニウム、又はダイヤモンドが用いられてもよい。
【0033】
また、
図7に示されるように、逆導通IGBT1の絶縁ゲートは、ポリシリコンを材料とするプレーナーゲート電極132と酸化シリコンを材料とするゲート絶縁膜134を有するプレーナーゲート130であってもよい。この例でも、p
+型の介在領域18とn型のエミッタ領域17の間にダイオードが構成されており、このダイオードの電圧降下によってボディ領域15とドリフト領域14の間に内蔵されるダイオードに順方向電圧が印加され、ゲート干渉が抑えられる。また、高濃度のエミッタ領域17と高濃度の介在領域18で構成されるダイオードがトンネルダイオードとして機能するので、IGBT構造のオン電圧の上昇が抑制されている。
【0034】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。