(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6088512
(24)【登録日】2017年2月10日
(45)【発行日】2017年3月1日
(54)【発明の名称】ピストン弁を備える流体試料ホルダー
(51)【国際特許分類】
F16K 7/07 20060101AFI20170220BHJP
G01N 30/26 20060101ALI20170220BHJP
G01N 30/32 20060101ALI20170220BHJP
G01N 30/16 20060101ALI20170220BHJP
F16K 15/14 20060101ALI20170220BHJP
【FI】
F16K7/07 Z
G01N30/26 M
G01N30/32 A
G01N30/26 N
G01N30/16 Z
F16K15/14 Z
【請求項の数】8
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-522077(P2014-522077)
(86)(22)【出願日】2012年7月25日
(65)【公表番号】特表2014-527602(P2014-527602A)
(43)【公表日】2014年10月16日
(86)【国際出願番号】EP2012064610
(87)【国際公開番号】WO2013014193
(87)【国際公開日】20130131
【審査請求日】2015年7月23日
(31)【優先権主張番号】1113009.3
(32)【優先日】2011年7月28日
(33)【優先権主張国】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】597064713
【氏名又は名称】ジーイー・ヘルスケア・バイオサイエンス・アクチボラグ
(74)【代理人】
【識別番号】100137545
【弁理士】
【氏名又は名称】荒川 聡志
(74)【代理人】
【識別番号】100105588
【弁理士】
【氏名又は名称】小倉 博
(74)【代理人】
【識別番号】100129779
【弁理士】
【氏名又は名称】黒川 俊久
(72)【発明者】
【氏名】ルンクヴィスト,マッツ
【審査官】
北村 一
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭64−026150(JP,A)
【文献】
特開平07−174248(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2003/0132241(US,A1)
【文献】
実開昭59−154331(JP,U)
【文献】
特開昭61−017778(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16K 7/07
F16K 15/00−15/20
G01N 30/00−30/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体処理装置と液体試料を授受できるようにするのに適した流体試料ホルダーであって、当該液体試料ホルダーが、
試料流体リザーバと、
試料流体リザーバと流体処理装置の間を流体連通させる試料流体ポートと、
同じくリザーバと流体処理装置の間を流体連通させる緩衝液ポートと、
リザーバ内の摺動シールであって、リザーバの壁とほぼ密閉式に係合することにより、リザーバ内に第1の領域と第2の領域とを別々に画成する外側部分を含む摺動シールと
を備えており、
第1の領域が試料流体ポートと流体連通し、第2の領域が緩衝液ポートと流体連通し、摺動シールが、第1の領域と第2の領域の作用流体圧力差を利用してリザーバ内で移動可能であることにより第1の領域及び第2の領域の各々の容積を変化させ、少なくとも外側部分が、作用流体圧力差を超える圧力差を受けたとき弾性式に屈曲し、そのように屈曲する際に、第1の領域と第2の領域の間に流体が流れるようにする材料から形成されており、摺動シールが、狭められた中央部分を備える略円筒形の面を含むことで砂時計形状を形成する外形を有し、摺動シールの外側部分が、円筒形の面の一端にあるか或いは一端に隣接しており、摺動シールの外形がさらに、複数の凹部を含み、各々の凹部が第2の領域に対して開放していて、狭められた中央部分と第2の領域の間を流体連通せしめ、凹部が各々、円筒形の外面の全体の中心線に平行な面に対して傾斜する内面を含んでいる、流体試料ホルダー。
【請求項2】
摺動シールが中空であり、中空部分が、第1の領域に対して開放している、請求項1記載の流体試料ホルダー。
【請求項3】
摺動シールの中空部分と外形の間の摺動シールの壁が、屈曲を可能にするように十分薄くなっている、請求項2記載の流体試料ホルダー。
【請求項4】
屈曲が、複数の凹部に隣接する密閉部分において生じる、請求項3記載の流体試料ホルダー。
【請求項5】
外側部分を含む摺動シールが、単一部品の材料から形成され、単一部品の成形材料から形成され、単一部品の成形プラスチック材料から形成される、請求項1記載の流体試料ホルダー。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載の試料ホルダーを含む流体処理装置。
【請求項7】
請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載の試料ホルダーを含むクロマトグラフィーカラム。
【請求項8】
流体をクロマトグラフィーカラム装置に送達するための方法であって、
試料流体を中に含む請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載の試料流体ホルダーを設けるステップと、
作用圧力下で緩衝液が試料ホルダーに流れるようにクロマトグラフィーカラム装置を作動するステップと、
試料ホルダー内の摺動シールを緩衝液によって移動させることによって、試料ホルダー内の試料流体のみが試料流体ポートを通って試料ホルダーから出るようにするステップと、
作用圧力が増大する場所である終端地点に到達するまで摺動シールを移動させるステップと、
摺動シールの外側部分の弾性式の屈曲を利用して、増大した作用圧力の影響下で緩衝液が摺動シールを超えて流れるようにするステップと
を含んでなる方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料ホルダーに関し、限定されるわけではないが、特に、クロマトグラフィーカラムその他の流体処理装置と液体試料を授受することができる試料ホルダーに関する。
【背景技術】
【0002】
例えば市販品でのクロマトグラフィープロセスでタンパク質精製する際に、少量の試料流体を用いる必要がある場合、かかる試料流体は、クロマトグラフィーカラムに接続できるリザーバを有する流体試料ホルダー内で用意される。リザーバは、流体を排出するための出口と、緩衝液を受け入れるための入口とを有する。使用中、緩衝液は加圧され、試料流体を出口から押し出す。試料と緩衝液を分離するために、試料流体と緩衝液の間に可動式の仕切りが設けられている。
【0003】
市販の流体試料ホルダーにおいて、仕切りは、摺動シールの形態である。摺動シールは、シールがその移動距離の終端に到達したときに開放する複数の要素で構成された金属弁を有することが知られている。この作用によって、緩衝液が摺動シールを通り抜けて試料流体に到達することが可能になる。この作用によって、緩衝液が、最小限の混合作用でクロマトグラフィーカラムに向けて試料流体を押し続けることが可能になり、また緩衝液が試料ホルダーを清掃しようとすることも可能になる。しかしながら既知の弁は、複雑であり、その結果費用が高い。加えて、部品の数が多いことにより、弁を清掃するのが困難である。
【0004】
本発明の一実施形態は、上記に挙げた欠点並びに従来の設計に関する他の問題に対処している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】仏国特許第2305713号
【発明の概要】
【0006】
本発明の第1の態様では、流体処理装置と液体試料を授受できるようにするのに適した流体試料ホルダーを提供するが、本試料ホルダーは、試料流体リザーバと、試料流体リザーバと流体処理装置の間を流体連通させる試料流体ポートと、同じくリザーバと流体処理装置の間を流体連通させる緩衝液ポートと、リザーバ内の摺動シールであって、リザーバの壁とほぼ密閉式に係合することにより、リザーバ内に第1及び第2の流体の別々の領域を画成する外側部分を含む摺動シールとを備え、第1の領域は、試料流体ポートと流体連通し、第2の領域は、緩衝液ポートと流体連通し、摺動シールは、第1の領域と第2の領域の作用流体圧力差を利用してリザーバ内で移動可能であることにより第1の領域及び第2の領域の各々の容積を変化させ、少なくとも外側部分は、作用流体圧力差を超える圧力差を受けたとき弾性式に屈曲し、そのように屈曲する際、第1の領域と第2の領域の間を流体が流れることを可能にする材料から形成される。
【0007】
一実施形態において、摺動シールは、狭められた中央部分を備える略円筒形の面を含むことで砂時計形状を形成する外形を有し、任意選択で摺動シールの外側部分は、円筒形の面の一端にある、又は一端に隣接している。
【0008】
好ましくは摺動シールの外形はさらに、複数の凹部を含み、各々の凹部は、第2の領域に対して開放しているため、狭められた中央部分と第2の領域の間の流体連通を可能にする。
【0009】
より好ましくは、凹部は各々、円筒形の外面の全体の中心線に平行な面に対して傾斜する内面を含む。
【0010】
一実施形態において、摺動シールは中空であり、この中空部分は、第1の領域に対して開放している。
【0011】
好ましくは摺動シールの中空部分と外形の間の摺動シールの壁は、屈曲を可能にするように十分薄くなっている。
【0012】
一実施形態において、屈曲は、複数の凹部に隣接する密閉部分において生じる。
【0013】
一実施形態において、外側部分を含む摺動シールは、単一部品の材料から形成され、任意選択で単一部品の成形材料から形成され、任意選択で単一部品の成形プラスチック材料から形成される。
【0014】
本発明の第2の態様では、流体リザーバの2つの領域の流体分離のための摺動シールが提供され、この摺動シールは、2つの領域の作用流体圧力差を利用してリザーバの中で移動可能であることにより、実質的に流体の流れがシールを超えずに2つの領域のそれぞれの容積を変化させ、シールは、リザーバの壁と摺動密閉式に係合するための外側部分を備え、シールは、作用流体圧力差を超える圧力差を受けたとき弾性式に屈曲する単一部品の成形プラスチック材料から形成されており、そのように屈曲する際、2つの領域の間を流体が流れることを可能にする。
【0015】
本発明の第3の態様では、第1又は第2の態様による試料ホルダー又は摺動シールを含む流体処理装置が提供される。
【0016】
本発明の第4の態様では、第1又は第2の態様による試料ホルダー又は摺動シールを含むクロマトグラフィーカラムが提供される。
【0017】
本発明の第5の態様では、流体をクロマトグラフィーカラム装置に送達するための方法が提供されており、この方法は、
試料流体を中に含む試料流体ホルダーを設けるステップと、
緩衝液を作用圧力下で試料ホルダーに流れるようにさせるように装置を作動するステップと、
試料ホルダー内の摺動シールを緩衝液によって移動させることによって、試料ホルダー内の試料流体のみが試料流体ポートを通って試料ホルダーから出るようにさせるステップと、
摺動シールの移動が、作用圧力が増大させられる場所である終端地点に到達することを可能にするステップと、
摺動シールの外側部分の弾性式の屈曲を利用して、増大した作用圧力の影響下で緩衝液が摺動シールを超えて流れるようにするステップとを含む。
【0018】
本発明は、本明細書に記載される任意の特徴に拡張され、例えば適宜図面を参照して本明細書に実質的に記載された試料ホルダー又は流体処理装置に拡張される。
【0019】
本発明は、多くの方法において効果を発揮することができ、1つの実施形態のみが、添付の図面を参照して以下に記載されている。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】流体処理装置と共に使用される試料ホルダーの一般的な構成を示す図である。
【
図2】
図1に概略的に示されるタイプの試料ホルダーの断面図である。
【
図3】
図2の試料ホルダー内で使用される摺動シールの絵による図である。
【
図4】
図2の試料ホルダー内で使用される摺動シールの絵による図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1を参照すると、クロマトグラフィーカラム10の形態の流体処理装置5が概略的に示されており、これは、この場合複数の流体試料ホルダー20、20’及び20”によって供給される供給導管11を有する。各々の試料ホルダーは、同一であるが、試料ホルダー20をより詳細に以下に記載する。試料ホルダー20は、摺動シール25によって隔てられた内側の第1の領域22と第2の領域24とを含む流体リザーバ15を有する。第1の領域22が試料流体を保持するのに対して、第2の領域24は、緩衝液14を受け入れる。試料ホルダー20は、選択弁18を介して選択式にポンプ16に接続され、緩衝液ポート21を介して加圧下で緩衝液を受け取ることができる。摺動シール25は、加圧緩衝液14の影響下で移動し、第1の領域22の中の試料流体12が試料流体ポート23を通ってホルダー20から外に流れるようにする。試料流体12は、導管11に沿ってクロマトグラフィーカラム10の中へと流れ、そこで利用される。例えば試料は、タンパク質の精製工程で使用される場合がある。
【0022】
この点について、記載される特徴は概して従来通りのものである。しかしながら試料ホルダー20の構造は、改良されており、これらの改善点は以下に記載される。
【0023】
図2を追加として参照すると、試料ホルダー20は、2つの端部取り付け具202及び204を有し、これらは各々一体式のねじ込み部分206と208をそれぞれ含む。このねじ込み部分206及び208はそれぞれ、相補的なねじ込み端部を有する外側の管210と嵌合する。2つの端部取り付け具が回転されることで、パイプコネクタ212及び214を内側の管220の各々の端部にクランプ締めする。各々のパイプコネクタと内側の管220の間の密閉リング216が、液密シールを形成する。
【0024】
ポート21及び23が、パイプコネクタ214及び212内のアパーチャによって形成される。よって密閉ホルダー20が形成され、これは上記に記載した流体処理装置と流体連通するために2つのポートを有する。内側の管と外側の管は共に、透明な材料から形成されてよく、内側の管220は、ガラス材料から形成されることで相対的に不活性な試料壁面を形成し、外側の管は、透明又は半透明のプラスチック材料から形成されることで、内側の管が圧力を受けて破損した場合にいずれの粉砕したガラスも捕らえることが好ましい。内側の管220が、試料流体リザーバ15を形成する。
【0025】
摺動シール25は、成形材料から構築され、例えばポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリプロピレン(PP)又は高密度ポリプロピレン(HDPP)などの一体成形プラスチックから構築される。シール25は、概ねカップ形状でありその中空部27は下方に向いており、
図2に断面が示されている。成形シール25は比較的薄い壁セクションを有し、よって流体圧力下で弾性式に屈曲又は変形することができることは
図2より明らかであろう。
【0026】
図3及び
図4は、シール25をより詳細に示している。シール25は概ね「砂時計」形状を有し、すなわちそれは、その頂部253及び底部238の直径よりもその中央251において狭くなる直径を有する円筒形である。シールは、概ね「クローバ型」の端部面を含んでおり、この面は、3つの等置された支持端部面252と、3つの凹部254とを有する。各々の凹部は、シール25の中心線CLに対して傾斜する内面256を含む。
【0027】
内側の管220に嵌合する際、下部の直径258によって摺動密閉部分が形成される。領域24内の流体圧力が、端部面252及び内面256に作用することでシールを下方に押しやる。シールがその最も下の位置に到達し、下部パイプコネクタ214に当接する際、このとき領域24内及び中央の直径251の周りで逆圧が高まることになる。この逆圧は、シール25の変形によって緩和される。より詳細には、シール25は、圧縮されることによって屈曲又は弾性式に変形することになり、その結果流体が、密閉部分258と内側の管220の間を通過することになる。傾斜面256が中心線CLに向かって強制的に押しやられ、そうする間に矢印Fの方向に、すなわち三分葉形状に密閉部分258を押す。
【0028】
0.01から0.08MPa前後の第1の領域と第2の領域の作用圧力差は、シール部分258を超えるごくわずかな漏出を想定しており、摺動シール25の下方移動を実現することで正味の流体流れがポート23を通って流れ出るようにする。シール部分258を超える流れは、作用圧力差を超過する際に生じ、0.08から0.1MPa付近を超える圧力差が、シール25の周りにそのような流れを生じさせることが意図されている。この圧力差は、シール25がその最も下の位置に到達し、それがそれ以上に摺動することができない場合に生じる。
【0029】
上記の記載に対する追加、省略又は修正は、本明細書で定義される発明の範囲内で可能であることは技術を有する受取人には明らかであろう。
【0030】
例えば「上方」、「上部」又は「上向き」など、及び「下方」、「下向き」「下部」又は「最も下」などの用語の使用は、図示される構成を記述するために使用されており、可能性のある代わりの配向を制限することは意図していない。用語「流体」は、液体及び他の流動性物質を含めるように使用されており、これに限定するものではないが気体及び流動性粒子又はゲル状物質を含める。本発明は、上記に記載される装置に流体を導入することを主に意図しているが、シール25が上向きに移動するように圧力差を逆向きにすることによって流体処理装置から試料を収集するのに使用される場合もある。
【0031】
摺動シール25は、中空であるように記載されているが、必ずしもそうである必要はなく、この場合シールの材料は、それが屈曲することで、正規の作用圧力を超える圧力下で流体が流れることを可能にすることができるように十分に弾性式に可撓性である。
【0032】
記載されるホルダーは特に自動式の装置に向いており、この場合試料ホルダーを実質的に完全に空にする必要があり、流れが試料流体を装置へと押し続ける、又はホルダーが、例えば装置から切り離される前に緩衝液によって徹底的に洗い流される必要がある。しかしながら流れの継続又は洗浄ステップは、必ずしも利用される訳ではない。
【0033】
記載され図示される実施形態はよって、簡素であり費用の安い摺動シールを提供し、これは清掃し易く、再利用も容易である。摺動シール自体が、他の用途で利用される場合もあり、例えば摺動シールは、リザーバの第1の領域と第2の領域の作用流体圧力差を利用してリザーバ内で移動可能であることにより、実質的に流体の流れがシールを超えずに第1及び第2の領域のそれぞれの容積を変化させ、シールは、リザーバの壁と摺動密閉式に係合するための外側部分を有し、シールは、単一部品の成形プラスチック材料から形成され、この材料は作用流体圧力差を超える圧力差を受けたとき、弾性式に屈曲し、そのように屈曲したとき、第1の領域と第2の領域の間の流体の流れを可能にする。