(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
軸部の一端側に傘部を一体的に形成したポペットバルブの傘部から軸部にかけて中空部が形成され、前記中空部に不活性ガスとともに冷却材が装填された中空ポペットバルブにおいて、
前記中空部は、前記バルブ傘部内の大径中空部と、該大径中空部の中央部に連通する前記バルブ軸部内の直線状の小径中空部とを備え、
前記大径中空部の底面または天井面に、周方向に向かって傾斜する傾斜面を備えたスワール流形成用の凸部が周方向略等間隔に設けられて、前記バルブが軸方向に往復動作する際に、前記大径中空部内の冷却材に前記バルブの中心軸線周りにスワール流が形成されることを特徴とする中空ポペットバルブ。
前記大径中空部の底面および天井面には、前記スワール流形成用の凸部がそれぞれ設けられるとともに、前記底面側の凸部の傾斜面の傾斜方向と前記天井面側の凸部の傾斜面の傾斜方向が周方向に対し上下逆向きとなるように構成されたことを特徴とする請求項1に記載の中空ポペットバルブ。
前記スワール流形成用の凸部は、前記大径中空部の外周面から所定距離離間して設けられて、該スワール流形成用の凸部の外周に大径中空部の外周面に沿った円環状の流路が形成されるとともに、前記凸部の傾斜面が前記流路に向けて傾斜することを特徴とする請求項1または2に記載の中空ポペットバルブ。
前記大径中空部は、前記バルブ傘部の外形に略倣うテーパ形状の外周面を備えた円錐台形状に構成されるとともに、前記バルブ軸部内に設けた小径中空部が前記円錐台形状の大径中空部の天井面に略直交するように連通して、前記バルブの開閉動作に伴って、少なくとも前記大径中空部内の冷却材に前記バルブの中心軸線周りにタンブル流が形成されることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の中空ポペットバルブ。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来の冷媒入り中空ポペットバルブでは、傘部内の円盤状大径中空部と軸部内の直線状小径中空部間の連通部が滑らかな曲線領域(内径が徐々に変わる遷移領域)で構成されているが、この連通部が滑らかに連続する形状であることで、バルブの開閉動作(バルブの軸方向への往復動作)の際に冷却材(液体)が封入ガスとともに大径中空部と小径中空部間をスムーズに移動できて、バルブの熱引き効果が上がると考えられている。
【0007】
然るに、従来技術では、バルブの開閉動作に合わせて大径中空部と小径中空部間で冷却材(液体)がスムーズに移動できることから、中空部内の冷却材(液体)は、上層部,中層部,下層部が攪拌されることなく互いに上下関係を保持したままの状態で軸方向に移動している。
【0008】
このため、熱源に近い側の冷却材下層部における熱が冷却材中層部,上層部に積極的に伝達されず、熱引き効果(熱伝導性)が十分に発揮されない、ということが分かった。
【0009】
そこで、発明者は、バルブの開閉動作(軸方向の往復動作)の際に冷却材に作用する慣性力を利用して、大径中空部内の冷却材に水平方向の旋回流(以下、水平方向の旋回流をスワール流という)を形成することを思いついた。
【0010】
即ち、バルブの開閉動作(軸方向の往復動作)の際には、中空部内の冷却材は慣性力によって上下方向に移動するが、例えば、スワール流形成用の傾斜面(慣性力によって下方に押圧される冷却材を周方向に案内する傾斜面)を備えた凸部を大径中空部の底面に設ければ、バルブの開閉動作、特に開弁動作に伴って、大径中空部内の冷却材がスワール流形成用の傾斜面に押し付けられて、該傾斜面に沿って周方向に向う流れが発生し、冷却材の下層部にスワール流が形成されて、冷却材が攪拌され、熱引き効果が上がる、と考えた。
【0011】
本発明は、前記した従来技術の問題点および発明者の知見に基づいてなされたもので、その目的は、バルブの開閉動作に伴ってバルブ傘部内の大径中空部の冷却材に形成されるスワール流によって、中空部内の冷却材が攪拌されて熱引き効果が改善される中空ポペットバルブを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記目的を達成するために、本発明(請求項1)に係る中空ポペットバルブにおいては、軸部の一端側に傘部を一体的に形成したポペットバルブの傘部から軸部にかけて中空部が形成され、前記中空部に不活性ガスとともに冷却材が装填された中空ポペットバルブにおいて、
前記中空部は、前記バルブ傘部内の大径中空部と、該大径中空部の中央部に連通する前記バルブ軸部内の直線状の小径中空部とを備え、
前記大径中空部の底面または天井面に、周方向に向かって傾斜する傾斜面を備えたスワール流形成用の凸部が周方向略等間隔に設けられて、前記バルブの開閉動作に伴って、前記大径中空部内の冷却材に前記バルブの中心軸線周りにスワール流が形成されるように構成した。
【0013】
(作用)バルブの開閉動作(軸方向の往復動作)に伴って、中空部内の冷却材には慣性力が作用することで、冷却材は中空部内を軸方向に移動する。そして、バルブが閉弁状態から開弁状態に移行する際(バルブが下降する際)は、
図4(a)に示すように、中空部内の冷却材(液体)に慣性力が上向きに作用し、冷却材(液体)は大径中空部の天井面に向かって移動し、大径中空部の天井面にスワール流形成用の凸部が設けられている場合は、
図3に示すように、冷却材が該凸部の傾斜面に押圧されることで該傾斜面に沿った流れ(傾斜面の傾斜する方向である周方向に向かう流れ)F32が発生し、大径中空部内の冷却材の上層部にスワール流F30が形成される。
【0014】
一方、バルブが開弁状態から閉弁状態に移行する際(バルブが上昇する際)は、
図4(b)に示すように、中空部内の冷却材(液体)に慣性力が下向きに作用し、冷却材(液体)は大径中空部の底面に向かって移動し、大径中空部の底面にスワール流形成用の凸部が設けられている場合は、
図3に示すように、冷却材が該凸部の傾斜面に押圧されることで該傾斜面に沿った流れ(傾斜面の傾斜する方向である周方向に向かう流れ)F22が発生し、大径中空部内の冷却材の下層部にスワール流F20が形成される。
【0015】
このように、バルブの開閉動作(軸方向の往復動作)に伴って、大径中空部内の冷却材の上層部または下層部にスワール流が形成されて、大径中空部内の冷却材の少なくとも上層部または下層部が積極的に攪拌されて、大径中空部内の冷却材による熱伝達が活発となる。
【0016】
詳しくは、バルブの開閉動作(軸方向の往復動作)が繰り返されると、中空部内の冷却材は不活性ガスとの混合状態となり、大径中空部内では、バルブの開閉動作に伴って形成されるスワール流によって周方向に回転し、小径中空部内においても大径中空部内の冷却材に引っ張られるように同方向に回転する。そして、大径中空部内の冷却材に作用する遠心力が小径中空部内の冷却材に作用する遠心力よりも大きいため、
図2に示すように、相対的に圧力が低下する大径中空部に向って小径中空部内の冷却材が不活性ガスとともに渦F40を作りながら引き込まれる。
【0017】
この結果、第1には、小径中空部から大径中空部に冷却材が流入し、中空部内の冷却材の攪拌が促進される。
【0018】
第2には、小径中空部内の冷却材の液面レベル(最上点)が相対的に上昇し、冷却材と小径中空部形成壁との接触面積が増えて、バルブ軸部における熱伝達効率が高められる。
【0019】
請求項2においては、請求項1に記載の中空ポペットバルブにおいて、前記大径中空部の底面および天井面に前記スワール流形成用の凸部をそれぞれ設けるとともに、前記底面側の凸部の傾斜面の傾斜方向と前記天井面側の凸部の傾斜面の傾斜方向が
周方向に対し上下逆向きとなるように構成した。
【0020】
(作用) 大径中空部内の冷却材は、バルブの開閉動作に伴って形成されるスワール流によって周方向に回転するが、バルブが下降する際に冷却材の上層部に形成されるスワール流と、バルブが上昇する際に冷却材の下層部に形成されるスワール流の周方向の向きがそれぞれ同じであるため、バルブの開閉動作(軸方向の往復動作)に伴って、大径中空部内の冷却材全体が同方向に積極的に攪拌されて、大径中空部内の冷却材による熱伝達がいっそう活発となる。
【0021】
詳しくは、大径中空部内の冷却材は、バルブの下降動作によって形成されるスワール流によって周方向に回転し、バルブの上昇動作によって形成されるスワール流によって周方向への回転が加速される、即ち、中空部内の冷却材の回転に勢いがあるので、相対的に圧力が低下する大径中空部に向って小径中空部内の冷却材が不活性ガスとともに渦を作りながら確実に引き込まれる。
【0022】
このため、第1には、小径中空部から大径中空部に冷却材が確実に流入し、中空部内の冷却材の攪拌がいっそう促進される。
【0023】
第2には、小径中空部内の冷却材の液面レベル(最上点)が相対的にいっそう上昇し、冷却材と小径中空部形成壁との接触面積がいっそう増えて、バルブ軸部における熱伝達効率がさらに高められる。
【0024】
請求項3においては、請求項1または2に記載の中空ポペットバルブにおいて、
前記スワール流形成用の凸部を該大径中空部の外周面から所定距離離間するように設けて、該スワール流形成用の凸部の外周に大径中空部の外周面に沿った円環状の流路を形成するとともに、前記凸部の傾斜面が前記流路に向けて傾斜するように構成した。
【0025】
(作用)バルブの開閉動作(軸方向の往復動作)に伴って発生した、スワール流形成用の凸部の傾斜面に沿った流れ(傾斜面の傾斜する方向である周方向に向かう流れ)は、周方向に隣接するスワール流形成用の凸部と干渉することなく、大径中空部の外周面に沿った円環状の流路に導かれて、大径中空部内の冷却材の下層部または上層部に、大径中空部の外周面に沿ったスワール流がスムーズに形成される。
【0026】
なお、大径中空部の底面は、一般には、大径中空部の天井面および外周面を画成する傘部外殻の凹部(の開口側内周面)に接合された円盤形状のキャップで構成されるが、傘部外殻とは別体のキャップに、鍛造,切削,溶接等によってスワール流形成用の凸部を一体化することは、容易である。
【0027】
請求項4においては、請求項1〜3のいずれかに記載の中空ポペットバルブにおいて、
前記大径中空部を、前記バルブ傘部の外形に略倣うテーパ形状の外周面を備えた略円錐台形状に形成するとともに、前記バルブ軸部内に設けた小径中空部を前記大径中空部の天井面に略直交するように連通して、前記バルブの開閉動作に伴って、前記大径中空部内の冷却材に前記バルブの中心軸線周りにタンブル流が形成されるように構成した。
【0028】
(作用)バルブの開閉動作(軸方向の往復動作)に伴って、中空部内の冷却材は慣性力により中空部内を軸方向に移動するが、大径中空部が略円錐台形状に形成されることで、冷却材の移動によって大径中空部内に圧力差が生じ、大径中空部内の冷却材にタンブル流が形成される。
【0029】
詳しくは、バルブが閉弁状態から開弁状態に移行する際(バルブが下降する際)は、
図4(a)に示すように、直線状の小径中空部内では、冷却材全体が慣性力によってスムーズに上方に移動するが、大径中空部との連通部には庇状の環状段差部15が形成されているため、連通部の近傍に乱流F4(
図5(a)参照)が発生する。一方、大径中空部内では、
図4(a)に示すように、大径中空部中央寄りの冷却材に作用する慣性力(上向き)が大径中空部周辺領域の冷却材に作用する慣性力よりも大きいため、
図5(a)に示すように、大径中空部中央寄りから天井面に沿って半径方向外側に向う流れF1が発生する。このとき、大径中空部の底面側では、大径中空部中央寄りの冷却材が上方に移動することで、中央寄りの領域が負圧になって、半径方向外側から内側に向かう流れF3が発生し、これに伴って、大径中空部のテーパ形状外周面に沿って下方に向かう流れF2が発生する。
【0030】
即ち、大径中空部内の冷却材には、矢印F1→F2→F3→F1に示すように、バルブの中心軸線の周りに縦方向外回りの旋回流(以下、外回りのタンブル流という)T1が形成される。
【0031】
また、バルブが開弁状態から閉弁状態に移行する際(バルブが上昇する際)は、
図4(b)に示すように、中空部内の冷却材(液体)は慣性力によって下方に移動する。小径中空部内では、バルブが閉弁状態から開弁状態に移行する際に上方に移動した冷却材全体がスムーズに下方に移動するが、大径中空部との連通部において乱流F5が発生する。一方、大径中空部内では、
図4(b)に示すように、大径中空部中央寄りの冷却材に作用する慣性力(下向き)が大径中空部周辺領域の冷却材に作用する慣性力よりも大きいため、
図5(b)に示すように、大径中空部中央寄りから底面に沿って半径方向外側に向かう流れF6が発生する。このとき、大径中空部の天井面側では、大径中空部中央寄りの冷却材が下方に移動することで、中央寄りの領域が負圧になって、半径方向外側から内側に向かう流れF8が発生し、これに伴って、大径中空部のテーパ形状外周面に沿って上方に向かう流れF7が発生する。
【0032】
即ち、大径中空部の冷却材には、矢印F6→F7→F8→F6に示すように、バルブの中心軸線の周りに縦方向内回りの旋回流(以下、内回りのタンブル流という)T2が形成される。
【0033】
このように、バルブの開閉動作に伴って、バルブの大径中空部内の冷却材には、
図2,3に示すようなスワール流F20,F30が形成されることに加えて、
図5(a),(b)に示すようなタンブル流T1,T2も形成されて、冷却材の上層部、中層部、下層部がより積極的に攪拌されるため、バルブの熱引き効果(熱伝導性)が著しく改善される。
【発明の効果】
【0034】
本願発明に係る中空ポペットバルブによれば、バルブの開閉動作(軸方向の往復動作)に伴って、大径中空部内にスワール流が形成されて、大径中空部内の冷却材とともに小径中空部内の冷却材も周方向に回転して攪拌されるので、中空部内の冷却材による熱伝達が活発となって、バルブの熱引き効果(熱伝導性)が改善されて、エンジンの性能が向上する。
【0035】
請求項2に係る中空ポペットバルブによれば、バルブの開閉動作(軸方向の往復動作)に伴って、大径中空部内に勢いのあるスワール流が形成されて、大径中空部内の冷却材ともに小径中空部内の冷却材も周方向に勢いよく回転して攪拌されるので、中空部内の冷却材による熱伝達がいっそう活発となって、バルブの熱引き効果(熱伝導性)がさらに改善されて、エンジンの性能がいっそう向上する。
【0036】
請求項3に係る中空ポペットバルブによれば、大径中空部内の冷却材の下層部または上層部では、大径中空部の外周面に沿ったスワール流がスムーズに形成されて、大径中空部内の冷却材の攪拌が確実に促進されるので、中空部内の冷却材による熱伝達がより活発となって、バルブの熱引き効果(熱伝導性)が確実に改善されて、エンジンの性能が向上する。
【0037】
請求項4に係る中空ポペットバルブによれば、バルブの開閉動作に伴って、大径中空部内の冷却材には、スワール流に加えてタンブル流も形成されるので、中空部内の冷却材全体がより積極的に攪拌されるので、中空部内の冷却材による熱伝達がさらにいっそう活発となって、バルブの熱引き効果(熱伝導性)がさらにいっそう改善されて、エンジンの性能がよりいっそう向上する。
【発明を実施するための形態】
【0039】
次に、本発明の実施の形態を実施例に基づいて説明する。
【0040】
図1〜
図6は、本発明の第1の実施例である内燃機関用の中空ポペットバルブを示す。
【0041】
これらの図において、符号10は、真っ直ぐに延びる軸部12の一端側に、外径が徐々に大きくなるR形状のフィレット部13を介して、傘部14が一体的に形成された耐熱合金製の中空ポペットバルブで、傘部14の外周には、テーパ形状のフェース部16が設けられている。
【0042】
詳しくは、円筒形状の軸部12aの一端側に傘部外殻14aが一体的に形成されたバルブ中間品である軸一体型シェル(以下、単にシェルという)11(
図1,6参照)と、シェル11の軸部12aに軸接された軸端部材12bと、シェル11の傘部外殻14aの円錐台形状の凹部14bにおける開口側内周面14cに接合された円盤形状のキャップ18とによって、傘部14から軸部12にかけて中空部Sが設けられた中空ポペットバルブ10が構成され、中空部Sには、金属ナトリウム等の冷却材19がアルゴンガスなどの不活性ガスとともに装填されている。冷却材19の装填量は、多い方が熱引き効果に優れるものの、所定量以上では熱引き効果としての差が僅かとなるため、費用対効果(冷却材19が多ければ、コストもかかること)を考慮して、例えば、中空部Sの容積の約1/2〜約4/5の量が装填されていればよい。
【0043】
なお、
図1における符号2はシリンダヘッド、符号6は燃焼室4から延びる排気通路で、排気通路6の燃焼室4への開口周縁部には、バルブ10のフェース部16が当接するテーパ面8aを備えた円環状のバルブシート8が設けられている。符号3は、シリンダヘッド2に設けられたバルブ挿通孔で、バルブ挿通孔3の内周面は、バルブ10の軸部12が摺接するバルブガイド3aで構成されている。符号9は、バルブ10を閉弁方向(
図1上方向)に付勢するバルブスプリング、符号12cは、バルブ軸端部に設けたコッタ溝である。
【0044】
また、燃焼室4や排気通路6の高温ガスにさらされる部位である、シェル11およびキャップ18は、耐熱鋼で構成されているのに対し、機械的強度が要求されるものの、シェル11およびキャップ18ほどの耐熱性が要求されない軸端部材12bについては、一般的な鋼材で構成されている。
【0045】
次に、バルブ10が開閉動作する際に、大径中空部S1内の冷却材19にタンブル流(縦方向の旋回流)が形成される構造について説明する。
【0046】
バルブ10内の中空部Sは、バルブ傘部14内に設けられた円錐台形状の大径中空部S1と、バルブ軸部12内に設けられた直線状(棒状)の小径中空部S2とが直交するように連通する構造で、大径中空部S1の円形天井面(
小径中空部S2の開口周縁部である、傘部外殻14aの円錐台形状の凹部14bの底面)14b1は、バルブ10の中心軸線Lに対し直交する平面で構成されている。
【0047】
即ち、大径中空部S1における小径中空部S2との連通部Pには、先行文献1,2のような滑らかな形状に代えて、大径中空部S1側から見て庇状の環状段差部15が形成されており、この環状段差部15の大径中空部S1に臨む側(面)14b1がバルブ10の中心軸線Lに対し直交する平面で構成されている。換言すれば、
小径中空部S2の開口周縁部(傘部外殻14aの円錐台形状の凹部14bの底面)14b1と、
小径中空部S2の内周面によって、庇状の環状段差部15が画成されている。
【0048】
このように、大径中空部S1が円錐台形状に形成されたバルブ10では、後で詳しく説明するが、バルブ10が開閉動作(軸方向の往復動作)する際に、中空部S内の冷却材19は、作用する慣性力によって中空部S内を軸方向に移動する。そして、大径中空部S1では、冷却材19が軸方向に移動することで大径中空部S1内に圧力差が生じ、大径中空部S1内の冷却材19には、
図5(a),(b)の矢印F1→F2→F3;F6→F7→F8に示すようなタンブル流T1,T2が形成され、小径中空部S2内の冷却材19には、連通部Pの近傍に乱流F4,F5が形成される。
【0049】
即ち、バルブ10の開閉動作の際に、中空部S内全体の冷却材19に形成されるタンブル流T1,T2や乱流F4.F5によって、中空部S内の冷却材19の下層部,中層部,上層部が積極的に攪拌されることとなって、バルブ10における熱引き効果(熱伝導性)が大幅に改善されている。
【0050】
特に、本実施例では、大径中空部S1の円形の天井面(円錐台の上面)14b1とその外周面(円錐台の外周面)14b2が鈍角をなすので、バルブ10の開閉動作の際に、大径中空部S1の天井面から外周面14b2に沿った流れF1→F2や、大径中空部S1の外周面14b2から天井面に沿った流れF7→F8の発生がスムーズとなる分、
大径中空部S1内の冷却材19に形成されるタンブル流T1,T2が活発になり、中空部S内の冷却材19の攪拌がそれだけ促進されて、バルブ10における熱引き効果(熱伝導性)が著しく改善されている。
【0051】
次に、バルブ10が開閉動作する際に、大径中空部S1内の冷却材19にスワール流(水平方向の旋回流)が形成される構造について説明する。
【0052】
大径中空部S1の底面を構成するキャップ18の裏側および大径中空部S1の天井面(円錐台の上面)である小径中空部S2の開口周縁部14b1には、
図2,3に示すように、周方向に向って傾斜する傾斜面22,32を備えたスワール流形成用の凸部20,30が周方向略等間隔にそれぞれ3個づつ隣接して設けられている。
【0053】
即ち、
図2,3に示すように、大径中空部S1の底面中央には、周方向
に対し時計回りに傾斜する傾斜面22を備えたスワール流形成用の凸部20が設けられ、一方、大径中空部S1の天井面には、小径中空部S2との連通部Pを取り囲むよう
に、周方向
に対し反時計回りに傾斜する傾斜面32を備えたスワール流形成用の凸部30が設けられている。
詳しくは、大径中空部S1の底面中央には、周方向時計回りに進むに従い下方向に傾斜する傾斜面22が設けられており、冷却材19が軸方向の下向きに移動した際には、周方向時計回りに回る冷却材19のスワール流F20が形成される。一方、大径中空部S1の天井面には、周方向時計回りに進むに従い上方向に傾斜する傾斜面32が設けられており、冷却材19が軸方向の上向きに移動した際には、周方向時計回りに回る冷却材19のスワール流F30が形成される。換言すれば、凸部20の傾斜面22と凸部30の傾斜面32の周方向に対する傾斜方向が上下逆向きに形成されている。
【0054】
このように、大径中空部S1の底面および天井面にスワール流形成用の凸部20,30が設けられたバルブ10では、後で詳しく説明するが、バルブ10が開閉動作(軸方向の往復動作)する際に、中空部S内の冷却材19は、作用する慣性力によって中空部S内を軸方向に移動する。
【0055】
そして、大径中空部S1内では、冷却材(液体)19がスワール流形成用の凸部20,30の傾斜面22,32に押圧されることで、
図2,3に示すように、傾斜面22,32に沿った流れF22,F32が発生し、これらの流れF22,F32が集まって、大径中空部S1内の冷却材19の下層部,上層部にスワール流F20,F30が形成される。この結果、大径中空部S1内の冷却材19が周方向に攪拌されて、バルブ10における熱引き効果(熱伝導性)が大幅に改善される。
【0056】
特に本実施例では、第1には、大径中空部S1の底面に設けられたスワール流形成用の凸部20の傾斜面22と、天井面(円錐台の上面)14b1に設けられたスワール流形成用の凸部30の傾斜面32が、周方向
に対し上下逆方向に傾斜するため、大径中空部S1の冷却材19の下層部および上層部には、時計回りのスワール流F20,F30が形成される。
【0057】
このため、大径中空部S1内の冷却材19全体が時計回りに攪拌されて、中空部S内の冷却材19による熱伝達がいっそう活発化されて、バルブ10の熱引き効果(熱伝導性)が大幅に改善される。
【0058】
詳しくは、バルブ10の開閉動作(軸方向の往復動作)が繰り返されると、中空部S内の冷却材19は不活性ガスとの混合状態となり、大径中空部S内では、バルブ10の開閉動作に伴って形成されるスワール流F20,F30によって周方向時計回りに回転し、小径中空部S2内においても大径中空部S1内の冷却材19に引っ張られるように周方向時計回りに回転する。特に、大径中空部S1内の冷却材19は、バルブ10の下降動作で形成されるスワール流F30による周方向への回転が、バルブ10の上昇動作で形成されるスワール流F20による周方向への回転によって加速されるので、中空部S内の冷却材19の回転には勢いがある。そして、大径中空部S1内の冷却材19に作用する遠心力が小径中空部S2内の冷却材19に作用する遠心力よりも大きいため、
図2に示すように、相対的に圧力が低下する大径中空部S1に向って小径中空部S2内の冷却材19が不活性ガスとともに渦F40を作りながら引き込まれる。
【0059】
この結果、小径中空部S2から
大径中空部S1に冷却材19が流入し、中空部S内の冷却材19の攪拌が促進される。
【0060】
また、小径中空部S2内の冷却材19の液面レベル(最上点)は、小径中空部S2内に渦F40が形成されて液面中央部が窪むことで相対的に上昇し、冷却材19と小径中空部S2形成壁との接触面積が増えて、バルブ軸部12における熱伝達効率が高められる。
【0061】
第2には、スワール流形成用の凸部20,30は、
図2,3に示すように、大径中空部S1の外周面14b2から所定距離離間して設けられて、大径中空部S1内の凸部20,30の外周には、大径中空部S1の外周面14b2に沿った円環状の流路24,34がそれぞれ形成されている。そして、各凸部20,30は、大径中空部S1の底面や天井面に対し最も段差のある円弧状の背面壁20a,30a(
図2,3参照)から周方向外側に向けて傾斜面22,32が延びている。特に、大径中空部S1の底面側の凸部20の傾斜面22は、
図2(b)に示すように、隣接する凸部20の円弧状の背面壁20aに沿って凸部20外側の円環状の流路24に向けて延びている。
【0062】
このため、バルブ10が下降する際は、大径中空部S1内の冷却材19がスワール流形成用の凸部30(の傾斜面32)に押圧されて、傾斜面32に沿った流れF32が発生するが、この傾斜面32に沿った流れF32は、下流側に隣接する凸部30の円弧状の背面壁30a外側寄りに案内されて,主には大径中空部
S1の外周面14b2に沿った円環状の流路34に導かれるので、大径中空部S1の冷却材19の上層部では、大径中空部S1の外周面14b2(円環状の流路34)に沿ったスワール流F30がスムーズに形成される。また、傾斜面32に沿った流れF32の一部は、円弧状の背面壁30a内側寄りに案内されて、小径中空部S2との連通部に導かれるので、大径中空部S1の小径中空部S2との連通部Pにも、スワール流F31が形成される。
【0063】
一方、バルブ10が上昇する際は、大径中空部S1内の冷却材19がスワール流形成用の凸部20(の傾斜面22)に押圧されて、傾斜面22に沿った流れF22が発生するが、この傾斜面22に沿った流れF22は、下流側に隣接する凸部20の背面壁20aに案内されて、大径中空部S1の外周面14b2に沿った円環状の流路24に導かれるので、大径中空部S1の冷却材19の下層部では、大径中空部S1の外周面14b2(円環状の流路24)に沿ったスワール流F20がスムーズに形成される。
【0064】
このように、大径中空部
S1内におけるスワール流F20,F30の形成がスムーズである分、大径中空部S1および小径中空部
S2内の冷却材19の回転の勢いが強く、小径中空部S2から大径中空部
S1への冷却材19の流入も多く、中空部S内の冷却材19の攪拌が確実に促進されるとともに、小径中空部S2内の冷却材19の液面レベル(最上点)の相対的な上昇も大きくなって、冷却材19の小径中空部S2形成壁との接触面積の増加が増えることで、バルブ軸部12における熱伝達効率が確実に高められる。
【0065】
次に、バルブ10が開閉動作する際に、小径中空部S2内の冷却材19に乱流F9、F10(
図5(a),(b)参照)が形成される構造について説明する。
【0066】
小径中空部S2は、内径d1が比較的大きいバルブ軸端部寄りの小径中空部S21と、内径d2が比較的小さい(d2<d1)バルブ傘部14寄りの小径中空部S22で構成されて、小径中空部S21,S22間には、円環状の段差部17が形成されるとともに、段差部17を越えた位置まで冷却材19が装填されている。
【0067】
このため、バルブ10が開閉動作する際に、小径中空部S2内の冷却材19は、作用する慣性力によって上下方向に移動するが、
図5(a),(b)に示すように、段差部17近傍の冷却材19の移動方向下流側に、乱流F9,F10が発生する。
【0068】
次に、バルブ10が開閉動作する際の中空部S内の冷却材19の動きを、
図2,3,4,5に基づいて詳しく説明する。
【0069】
バルブ10が閉弁状態から開弁状態に移行する際(バルブ10が下降する際)は、
図4(a)に示すように、中空部S1,S2内の冷却材(液体)19に慣性力が上向きに作用し、中空部S1,S2では冷却材(液体)19が上方に移動する。
【0070】
しかし、大径中空部S1の小径中空部S2との連通部Pには、庇状の環状段差部15が形成されているため、連通部Pが滑らかな形状に形成されている先行文献1,2(従来の中空バルブ)のように、大径中空部S1内の冷却材19はスムーズに小径中空部S2側に移動できない。このため、小径中空部S2の連通部Pの近傍では、
図5(a)に示すように、乱流F4が発生する。
【0071】
また、小径中空部S2内の冷却材19には、内径の小さいバルブ傘部14寄りの小径中空部S22から内径の大きいバルブ軸端部寄りの小径中空部S21に移動する際に、
図5(a)に示すように、段差部17の下流側で乱流F9が発生する。
【0072】
一方、大径中空部S1内では、
図4(a)に示すように、大径中空部S1中央寄りの冷却材19に作用する慣性力(上向き)が大径中空部S1周辺領域の冷却材19に作用する慣性力よりも大きいため、
図5(a)に示すように、大径中空部S1内の冷却材19には、大径中空部S1中央寄りから天井面に沿って半径方向外側に向う流れF1が発生する。このとき、大径中空部S1の底面側では、大径中空部S1中央寄りの冷却材19が上方に移動することで、中央寄りの領域が負圧になって、半径方向外側から内側に向かう流れF3が発生し、これに伴って、大径中空部S1のテーパ形状外周面14b2に沿って下方に向かう流れF2が発生する。
【0073】
即ち、大径中空部S1内の冷却材19には、矢印F1→F2→F3→F1に示すように、バルブ10の中心軸線Lの周りに外回りのタンブル流T1が形成される。
【0074】
また、バルブ10が閉弁状態から開弁状態に移行する際(バルブ10が下降する際)は、
図3,5(a)に示すように、大径中空部S1の天井面に向かって移動した冷却材(液体)19が大径中空部S1の天井面に設けられているスワール流形成用の凸部30(の傾斜面32)に押圧されることで該傾斜面32に沿った流れ(傾斜面32の傾斜する方向である周方向に向かう流れ)F32が発生し、大径中空部S1内の冷却材19の上層部にスワール流F30が形成される。
【0075】
これにより、大径中空部S1内の冷却材19が周方向時計回りに回転し、この回転に引っ張られるように、小径中空部S2内の冷却材19も同方向に回転し、冷却材19に作用する遠心力が大きいため相対的に圧力が低下する大径中空部S1に向って、
図2に示すように、小径中空部S2内の冷却材19が不活性ガスとともに渦F40を作りながら引き込まれる。
【0076】
また、バルブ10が開弁状態から閉弁状態に移行する際(バルブ10が上昇する際)は、
図4(b)に示すように、中空部S1,S2内の冷却材(液体)19に慣性力が下向きに作用し、中空部S1,S2では冷却材(液体)19が下方に移動する。
【0077】
小径中空部S2内では、バルブ10が閉弁状態から開弁状態に移行する際に上方に移動した冷却材19全体がスムーズに下方に移動するが、内径の大きいバルブ軸端部寄りの小径中空部S21から内径の小さいバルブ傘部14寄りの小径中空部S22に移動する際に、
図5(b)に示すように、段差部17の下流側で乱流F10が発生する。さらに、大径中空部S1との連通部Pにおいても、乱流F5が発生する。
【0078】
一方、大径中空部S1内では、
図4(b)に示すように、大径中空部S1中央寄りの冷却材19に作用する慣性力(下向き)が、大径中空部S1周辺領域の冷却材19に作用する慣性力よりも大きいため、
図5(b)に示すように、大径中空部S1内の冷却材19には、大径中空部S1中央寄りから底面に沿って半径方向外側に向かう流れF6が発生する。このとき、大径中空部S1の天井面側では、大径中空部S1中央寄りの冷却材19が下方に移動することで、中央寄りの領域が負圧になって、半径方向外側から内側に向かう流れF8が発生し、これに伴って、大径中空部S1のテーパ形状外周面14b2に沿って上方に向かう流れF7が発生する。
【0079】
即ち、大径中空部S1の冷却材19には、矢印F6→F7→F8→F6に示すように、バルブ10の中心軸線Lの周りに内回りのタンブル流T2が形成される。
【0080】
また、バルブ10が開弁状態から閉弁状態に移行する際(バルブ10が上昇する際)は、
図3,5(b)に示すように、大径中空部S1の底面に向かって移動した冷却材(液体)19が大径中空部S1の底面に設けられているスワール流形成用の凸部20(の傾斜面22)に押圧されることで該傾斜面22に沿った流れ(傾斜面22の傾斜する方向である周方向に向かう流れ)F22が発生し、大径中空部S1内の冷却材19の下層部にスワール流F20が形成される。
【0081】
これにより、大径中空部S1内の冷却材19が周方向時計回りに回転し、この回転に引っ張られるように、小径中空部S2内の冷却材19も同方向に回転し、冷却材19に作用する遠心力が大きいため相対的に圧力が低下する大径中空部S1に向って、
図2に示すように、小径中空部S2内の冷却材19が不活性ガスとともに渦F40を作りながら引き込まれる。
【0082】
このように、バルブ10の開閉動作(上下方向の往復動作)に伴って、大径中空部S1内の冷却材19には、タンブル流T2,T3が形成されるとともに、スワール流F20,F30も形成されて、大径中空部S1内の冷却材19全体が積極的に攪拌されて、中空部S内の冷却材19による熱伝達が活発となる。
【0083】
詳しくは、バルブ10の開閉動作(上下方向の往復動作)に伴って大径中空部S1に形成されるスワール流F20,F30によって、大径中空部S1および小径中空部S2では、冷却材19が時計回りに攪拌されるとともに、小径中空部S2に発生した渦F40によって小径中空部S2から大径中空部S1に冷却材19が流入し、さらには、バルブ10の開閉動作(上下方向の往復動作)に伴って大径中空部S1の冷却材19の縦方向外回り(バルブ10の下降時)の攪拌と縦方向内回り(バルブ上昇時)の攪拌とが交互に繰り返されて、中空部S内の冷却材19による熱伝達が活発となる。
【0084】
また、小径中空部S
2内の段差部17は、
図1に示すように、バルブガイド3の排気通路6に臨む側の端部3bに略対応する位置に設けられて、内径の大きい軸端部寄り小径中空部S21を軸方向に長く形成することで、バルブ10の耐久性を低下させることなく、冷却材19との接触面積の増加によるバルブ軸部12における熱伝達効率を高めるとともに、小径中空部S21形成壁の薄肉化によるバルブ10の軽量化が図られている。
【0085】
即ち、小径中空部S2内の段差部17は、バルブ10が開弁(下降)しきった状態(
図1の仮想線参照)で、排気通路6内とならない所定位置(バルブ挿通孔3内の上下方向所定位置)にあって、バルブ軸部12における薄肉の小径中空部S21形成壁が排気通路6内の熱の影響を受けないように設定されている。
図1の符号17Xは、バルブ10が開弁(下降)しきった状態での段差部17の位置を示す。
【0086】
詳しくは、金属の疲労強度は高温になるほど低下するため、常に排気通路6内にあって高熱にさらされる部位である、バルブ軸部12におけるバルブ傘部14寄りの領域は、疲労強度の低下に耐え得る程度の肉厚に形成(内径d2を小さく)する必要がある。一方、熱源から離れ、しかも常にバルブガイド3aに摺接する部位である、バルブ軸部12における軸端部寄りの領域は、冷却材19を介して燃焼室4や排気通路6の熱が伝達されるものの、伝達された熱はバルブガイド3aを介して直ちにシリンダヘッド2に放熱されるため、バルブ傘部14寄りの領域ほどの高温とならないので、それだけ薄肉に形成することができる。
【0087】
即ち、バルブ軸部12における軸端部寄り領域は、バルブ傘部14寄りの領域よりも疲労強度が低下しないため、薄肉に形成(小径中空部S21の内径を大きく形成)しても、強度的(疲労により折損する等の耐久性)には問題がない。
【0088】
そこで、本実施例では、小径中空部S21の内径を大きく形成して、第1には、小径中空部S2全体の表面積(冷却材19との接触面積)を増やすことで、バルブ軸部12における熱伝達効率が高められている。第2には、小径中空部S2全体の容積を増やすことで、バルブ10の総重量が軽減されている。
【0089】
また、バルブの軸端部材12bは、シェル11ほどの耐熱性が要求されないため、シェル11の材料よりも耐熱性の低い廉価材を用いることで、バルブ10を安価に提供できる。
【0090】
次に、中空ポペットバルブ10の製造工程を、
図6に基づいて説明する。
【0091】
まず、
図6(a)に示すように、熱間鍛造工程により、円錐台形状の凹部14bを設けた傘部外殻14aと軸部12aとを一体的に形成したバルブ中間品であるシェル11を成形する。なお、シェル11(傘部外殻14a)を成形する際に、傘部外殻14aにおける凹部14bの底面14b1は、軸部12a(シェル11の中心軸線L)に対し直交する平面に形成されるとともに、該底面14b1には、スワール流形成用の凸部30が周方向略等間隔に隣接して円環状に形成される。
【0092】
熱間鍛造工程としては、金型を順次取り替える押し出し鍛造で、耐熱鋼製ブロックからシェル11(の傘部外殻14aの凹部14bにスワール流形成用の凸部30)を鍛造する押し出し鍛造、またはアップセッタで耐熱鋼製棒材の端部に球状部を据え込んだ後に、金型を用いてシェル11の傘部外殻14a(の凹部14bにスワール流形成用の凸部30)を鍛造する据え込み鍛造のいずれであってもよい。なお、熱間鍛造工程において、シェル11の傘部外殻14aと軸部12aとの間には、R形状フィレット部13が形成され、傘部外殻14aの外周面には、テーパ形状フェース部16が形成される。
【0093】
次に、
図6(b)に示すように、傘部外殻14aの凹部14bが上向きとなるようにシェル11を配置し、傘部外殻14aの凹部14bの底面14b1から軸部12aにかけて小径中空部S22に相当する孔14eをドリル加工により穿設する(孔穿設工程)。
【0094】
孔穿設工程により、大径中空部S1を構成する傘部外殻14aの凹部14bと、小径中空部S22を構成する軸部12a側の孔14eが連通することで、凹部14bと孔14eの連通部には、凹部14b側から見て庇状の環状段差部15が形成される。
【0095】
次に、
図6(c)に示すように、シェル11の軸端部側から、軸端部寄り小径中空部S21に相当する孔14fをドリル加工により穿設して、小径中空部S2内の段差部17を形成する(孔穿設工程)。
【0096】
次に、
図6(d)に示すように、シェル11の軸端部に軸端部材12bを軸接する(軸端部材軸接工程)。
【0097】
次に、
図6(e)に示すように、シェル11の傘部外殻14aの凹部14bの孔14eに冷却材(固体)19を所定量充填する(冷却材装填工程)。
【0098】
最後に、
図6(f)に示すように、アルゴンガス雰囲気下で、シェル11の傘部外殻14aの凹部14bの開口側内周面14cに、スワール流形成用の凸部20がその裏側に一体化されているキャップ18を接合(例えば、抵抗接合)して、バルブ10の中空部Sを密閉する(中空部密閉工程)。なお、キャップ18の裏側に凸部20を一体化するには、鍛造,切削,ロウ付け,溶接等の従来公知の方法で簡単に一体化できる。また、キャップ18の接合は、抵抗接合に代えて、電子ビーム溶接やレーザー溶接等を採用してもよい。
【0099】
図7は、本発明の第2の実施例である中空ポペットバルブを示す。
【0100】
前記した第1の実施例の中空ポペットバルブ10では、バルブ傘部14内の大径中空部S1が円錐台形状に形成されるとともに、バルブ軸部12内の直線状の小径中空部S2が大径中空部S1の円形の天井面14b1に直交するように連通しているが、この第2の実施例の中空ポペットバルブ10Aでは、バルブ軸部12内の小径中空部S2が、先行特許文献1,2と同様、縦断面が滑らかな曲線領域(内径が徐々に変わる遷移領域)Xを介してバルブ傘部14内の略円錐形状の大径中空部S1’に連通して、中空部S’が構成されている。
【0101】
なお、符号14a’は、大径中空部S1’に相当する凹部14b’が設けられた傘部外殻、符号14b2’は、円錐形状の大径中空部S1’の外周面を示す。
【0102】
また、前記した第1の実施例の中空ポペットバルブ10では、大径中空部S1の底面(キャップ18の裏側)および天井面にスワール流形成用の凸部20,30が設けられているが、この第2の実施例の中空ポペットバルブ10Aでは、大径中空部S1’の底面側(キャップ18の裏側)だけにスワール流形成用の凸部20が設けられて、バルブ10Aが開弁状態から閉弁状態に移行する際(バルブ10Aが上昇する際)に、大径中空部S1’内の冷却材19の下層部にバルブの中心軸線L’周りにスワール流F20’が形成されるようになっている。
【0103】
その他は、前記した第1の実施例の中空ポペットバルブ10と同一であり、同一の符号を付すことで、その重複した説明は省略する。
【0104】
即ち、この中空ポペットバルブ10Aでは、前記した第1の実施例の中空ポペットバルブ10と同様、バルブ10Aの開閉動作(軸方向の往復動作)の際、特にバルブ10Aが上昇する際に、大径中空部S1’内の冷却材19に、スワール流形成用の凸部20の傾斜面22に沿った流れが発生し、この流れがスワール流形成用の凸部20外側の円環状の流路24’に集まって、大径中空部S1’の外周面14b2’に沿ったスワール流F20’を形成し、このスワール流F20’が大径中空部S1’内の冷却材19の下層部を攪拌し、これによって中空部S’内の冷却材19による熱伝達が活発となることで、バルブ10Aの熱引き効果が改善されている。
【0105】
図8、9は、本発明の第3の実施例である中空ポペットバルブを示す。
【0106】
前記した第1,第2の実施例の中空ポペットバルブ10,10Aでは、バルブ軸部12内の小径中空部S2が、バルブ軸端部寄りの内径が大きい小径中空部S21と、バルブ傘部寄りの内径が小さい小径中空部S22で構成されて、小径中空部S2の長手方向の途中に段差部17が形成されているのに対し、本実施例の中空ポペットバルブ10Bでは、バルブ軸部12内の小径中空部S2’が長手方向に一定の内径に形成されている。
【0107】
その他は、前記した第1の実施例の中空ポペットバルブ10と同一であり、同一の符号を付すことで、その重複した説明は省略する。
【0108】
即ち、第1,第2の実施例の中空ポペットバルブ10,10Aでは、バルブ10,10Aの開閉動作の際に、小径中空部S2内に設けられた段差部17によって、小径中空部S2内の冷却材19が攪拌されるのに対し、本実施例の中空ポペットバルブ10Bでは、そのような作用(段差部17による冷却材19の攪拌作用)がないが、バルブ10Bの開閉動作の際に、大径中空部S1内の冷却材19には、前記した第1の実施例の中空ポペットバルブ10の場合と同様、バルブの中心軸線L”周りにタンブル流T1,T2(
図5参照)に加えてスワール流F20,F30(
図2,3参照)が形成されるとともに、小径中空部S2’内の冷却材19には、乱流F4,F5および渦F40(
図5参照)が発生するので、中空部S”内の冷却材19全体が積極的に攪拌されて、バルブ10Bにおける熱引き効果(熱伝導性)が大幅に改善されている。
【0109】
また、中空ポペットバルブ10Bの製造工程を
図9に示すが、バルブ軸部12内の小径中空部S2’に段差部を設けないため、小径中空部S2’に相当する孔14e’を穿設する孔穿設工程が1工程で済み、しかも軸端部材を軸接する軸接工程も不要となるなど、バルブの製造工程が簡潔となっている。
【0110】
中空ポペットバルブ10Bを製造するには、まず、
図9(a)に示すように、熱間鍛造工程により、円錐台形状の凹部14bを設けた傘部外殻14aと軸部12とを一体的に形成したシェル11’を成形する。シェル11’(傘部外殻14a)の成形と同時に、傘部外殻14aにおける凹部14bの底面14b1には、スワール流形成用の凸部30が周方向略等間隔に隣接して円環状に形成される。
【0111】
次に、
図9(b)に示すように、傘部外殻14aの凹部14bの底面14b1から軸部12にかけて、小径中空部S2’に相当する孔14e’をドリル加工により穿設する(孔穿設工程)。
【0112】
次に、
図9(c)に示すように、シェル11’の傘部外殻14aの凹部14bに開口する孔14e’に冷却材(固体)19を所定量挿入する(冷却材装填工程)。
【0113】
最後に、
図9(d)に示すように、アルゴンガス雰囲気下で、シェル11’の傘部外殻14aの凹部14bの開口側内周面14cに、スワール流形成用の凸部20がその裏側に一体化されているキャップ18を接合(例えば、抵抗接合)して、バルブ10
Bの中空部
S”(図8参照)を密閉する(中空部密閉工程)。
【0114】
図10は、バルブ傘部内の大径中空部の底面(キャップ裏面側)に設けるスワール流形成用の凸部の他の実施例を示す斜視図である。
【0115】
前記した第1〜第3の実施例では、大径中空部S1,S1’の底面を構成するキャップ18の裏側に設けるスワール流形成用の凸部20は、最も段差のある円弧状の背面壁20aから周方向に向けて傾斜する傾斜面22を備えた平面視旋回羽根形状に形成されているが、
図10に示すスワール流形成用の凸部120は、最も段差のある背面壁120aから周方向に向けて傾斜する傾斜面122を備えた側面視三角形・平面視矩形状で、周方向等間隔4箇所に設けられている。
【0116】
なお、前記した実施例で示すスワール流形成用の凸部20,120,30は、周方向に向けて傾斜するスワール流形成用の傾斜面22,32,122を備え、バルブの開閉動作(軸方向の往復動作)に伴って冷却材19が移動する際にスワール流形成用の傾斜面22,32,122に押圧されることで、該傾斜面22,32,122に沿って大径中空部の周方向に向かう冷却材の流れが発生するように構成されているが、スワール流形成用の凸部は、バルブの開閉動作に伴って大径中空部内の冷却材にスワール流を形成できるものであれば、前記した凸部20,120,30に限定されるものではない。