(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6088657
(24)【登録日】2017年2月10日
(45)【発行日】2017年3月1日
(54)【発明の名称】DagA酵素反応で調剤した抗肥満及び抗糖尿効能を有する寒天由来のネオアガロオリゴ糖複合組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/702 20060101AFI20170220BHJP
A61P 3/04 20060101ALI20170220BHJP
A61P 3/10 20060101ALI20170220BHJP
A23L 33/125 20160101ALI20170220BHJP
A23K 20/163 20160101ALI20170220BHJP
【FI】
A61K31/702ZNA
A61P3/04
A61P3/10
A23L33/125
A23K20/163
【請求項の数】9
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-541697(P2015-541697)
(86)(22)【出願日】2013年11月13日
(65)【公表番号】特表2016-505521(P2016-505521A)
(43)【公表日】2016年2月25日
(86)【国際出願番号】KR2013010277
(87)【国際公開番号】WO2014077575
(87)【国際公開日】20140522
【審査請求日】2015年5月8日
(31)【優先権主張番号】10-2012-0128087
(32)【優先日】2012年11月13日
(33)【優先権主張国】KR
(31)【優先権主張番号】10-2013-0137079
(32)【優先日】2013年11月12日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】515123306
【氏名又は名称】ダインバイオ インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】DYNEBIO INC
(74)【代理人】
【識別番号】100102842
【弁理士】
【氏名又は名称】葛和 清司
(72)【発明者】
【氏名】イ,ジェ ヒョン
(72)【発明者】
【氏名】ホン,スン グァン
(72)【発明者】
【氏名】ホン,ソン ジュ
(72)【発明者】
【氏名】イ,ムン ヒ
【審査官】
小堀 麻子
(56)【参考文献】
【文献】
中国特許出願公開第1385436(CN,A)
【文献】
国際公開第00/043018(WO,A1)
【文献】
特開昭62−210965(JP,A)
【文献】
韓国公開特許第10−2011−0133462(KR,A)
【文献】
クリニックマガジン,2007年,Vol.34, No.13,p.31-34
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00
A23K 20/00
A23L 33/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ストレプトミセス・セリカラー(Streptomyces coelicolor)DagAと寒天またはアガロース(agarose)の酵素反応で得られた反応産物を有効成分として含有する、肥満または糖尿病の予防及び治療用薬剤学的組成物であって、
前記反応産物は、反応産物の総重量を基準として45〜85重量%のネオアガロオリゴ糖(neoagarooligosaccharide)混合物を含有し、
前記ネオアガロオリゴ糖混合物は、ネオアガロオリゴ糖混合物の総重量を基準として10重量%以下のネオアガロビオース(neoagarobiose)、50〜70重量%のネオアガロテトラオース(neoagarotetraose)及び30〜50重量%のネオアガロヘキサオース(neoagarohexaose)を含有することを特徴とする、前記肥満または糖尿病の予防及び治療用薬剤学的組成物。
【請求項2】
前記酵素反応は、35〜45℃の温度及びpH6〜8でなることを特徴とする、請求項1に記載の肥満または糖尿病の予防及び治療用薬剤学的組成物。
【請求項3】
前記酵素反応は、0.5〜5%(w/v)の寒天またはアガロース溶液に20〜100unit/mlの濃度でDagAを添加してなることを特徴とする、請求項1に記載の肥満または糖尿病の予防及び治療用薬剤学的組成物。
【請求項4】
ストレプトミセス・セリカラー(Streptomyces coelicolor)DagAと寒天またはアガロース(agarose)の酵素反応で得られた反応産物を有効成分として含有する、肥満または糖尿病の予防及び改善用機能性食品であって、
前記反応産物は、反応産物の総重量を基準として45〜85重量%のネオアガロオリゴ糖(neoagarooligosaccharide)混合物を含有し、
前記ネオアガロオリゴ糖混合物は、ネオアガロオリゴ糖混合物の総重量を基準として10重量%以下のネオアガロビオース(neoagarobiose)、50〜70重量%のネオアガロテトラオース(neoagarotetraose)及び30〜50重量%のネオアガロヘキサオース(neoagarohexaose)を含有することを特徴とする、前記肥満または糖尿病の予防及び改善用機能性食品。
【請求項5】
前記酵素反応は、35〜45℃の温度及びpH6〜8でなることを特徴とする、請求項4に記載の肥満または糖尿病の予防及び改善用機能性食品。
【請求項6】
前記酵素反応は、0.5〜5%(w/v)の寒天またはアガロース溶液に20〜100unit/mlの濃度でDagAを添加してなることを特徴とする、請求項4に記載の肥満または糖尿病の予防及び改善用機能性食品。
【請求項7】
ストレプトミセス・セリカラー(Streptomyces coelicolor)DagAと寒天またはアガロース(agarose)の酵素反応で得られた反応産物を有効成分として含む、肥満または糖尿病の予防及び改善用飼料であって、
前記反応産物は、反応産物の総重量を基準として45〜85重量%のネオアガロオリゴ糖(neoagarooligosaccharide)混合物を含有し、
前記ネオアガロオリゴ糖混合物は、ネオアガロオリゴ糖混合物の総重量を基準として10重量%以下のネオアガロビオース(neoagarobiose)、50〜70重量%のネオアガロテトラオース(neoagarotetraose)及び30〜50重量%のネオアガロヘキサオース(neoagarohexaose)を含有することを特徴とする、前記肥満または糖尿病の予防及び改善用飼料。
【請求項8】
前記酵素反応は、35〜45℃の温度及びpH6〜8でなることを特徴とする、請求項7に記載の肥満または糖尿病の予防及び改善用飼料。
【請求項9】
前記酵素反応は、0.5〜5%(w/v)の寒天またはアガロース溶液に20〜100unit/mlの濃度でDagAを添加してなることを特徴とする、請求項7に記載の肥満または糖尿病の予防及び改善用飼料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、DagA酵素反応で調剤した抗肥満及び抗糖尿効能を有する寒天由来のネオアガロオリゴ糖複合組成物に関し、具体的に、ストレプトミセス・セリカラー(Streptomyces coelicolor)DagAと寒天またはアガロース(agarose)の酵素反応で得られた反応産物を有効成分として含有することにより、肥満または糖尿の予防、治療、改善効果を表す組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
寒天(Agar)は、従来より、食品添加物、医薬品、化粧品、家畜飼料及び工業原料などに広く利用されている代表的な海藻類由来の多糖類であり、国内の場合、毎年その生産量が約3,600トンに至る比較的豊かな水産資源の一つである。しかし、実際利用の面では、全体生産量の一部のみが単純に加工処理されて安い原料として使用されるだけであり、その残りは大部分放置されて、賦存資源量に比べて付加価置が非常に低い状況にある。従って、豊かな国内寒天の新しい用途開発と付加価置の向上に関する研究が大きく要求されている。
【0003】
寒天は、アガロース(agarose)とアガロペクチン(agaropectin)で構成され、アガロースは、ガラクトース(D-galactose)と3,6-anhydro-L-galactoseがβ−1,4の形態で結合した単位体であるアガロビオース(agarobiose)が繰り返されてα−1,3結合で連結された直鎖構造でなり、ゲル(gel)化力が強いことに対し、アガロペクチンは、アガロースと同様にアガロビオース単位でなっているが、硫酸基などの酸性基を含有し、ゲル化力が弱い。
【0004】
この中で、アガロースは、β−1,4結合に作用するベータ−アガラーゼ(β-agarase)によってネオアガロテトラオース(neoagarotetraose)を経てネオアガロビオース(neoagarobiose)に分解され、続いてα−1,3結合に作用するアルファ−アガラーゼ(α-agarase)によってガラクトース(D-galactose)と3,6-anhydro-L-galactoseに最終分解される。
【0005】
一方、放線菌であるストレプトミセス・セリカラー(Streptomyces coelicolor)A3(2)は、寒天を分解する細胞外(細胞外に分泌される)アガラーゼを生産すると知られ(Stanier et al.,1942,J.Bacteriol.;Hodgson and Chater,1981,J.Gen.Microbiol.)、該アガラーゼは、dagA遺伝子によってコードされている。放線菌では、dagA遺伝子がその機能が唯一に知られたベータ−アガラーゼ(β-agarase)遺伝子であり、放線菌におけるアガラーゼの生産研究において重要な位置にある。特に、ストレプトミセス・セリカラーは、放線菌の分子生物学的研究に最も広く使用される菌株として、2002年、イギリスのSanger centreで染色体DNAの配列が分析されて公開されている(Bentley et al.,2002,Nature)。
【0006】
本発明者は、豊かな水産資源である寒天をより有用に活用できる方法を開発するために、寒天が多糖類であることから、糖分解酵素を適切に活用すれば、寒天の分解過程で生理活性効果を表す多様な糖由来の化合物が生成されることができるという可能性に注目した。そして、放線菌は、抗生剤などの有用な生理活性物質を生産する微生物であり、この生理活性物質には、糖と関連した多様な化合物が含まれるため、放線菌中には、寒天を分解したり、変形して有用な化合物に切り替えられる酵素を保有した菌株があると想定した。従って、このような放線菌から有用な酵素を探索し、これを寒天の酵素反応に適用して有用な生理活性物質の生産を試みた。
【0007】
寒天のような高分子多糖類は、酵素反応を通じて相対的に大きさの小さいオリゴ糖が生成される。このようなオリゴ糖の中には、生体の代謝に使用されるオリゴ糖と分子的形態は類似しているが、関連酵素が分解できないため、結果として糖分解酵素の活性を阻害するものが存在する。本発明者は、この点に注目して、寒天の酵素反応産物に対する糖分解酵素活性の阻害能を確認することで、肥満や糖尿に効果的な物質を開発しようとした。
その結果、放線菌であるストレプトミセス・セリカラーのDagAと寒天またはアガロースの酵素反応を通じて得た反応産物が肥満または糖尿の予防、治療、改善に優れた効果があることを確認し、本発明の完成に至った。
【0008】
本特許出願は、2013〜2014年度農村振興院の財源で次世代バイオグリーン21事業(課題固有番号:PJ009536、研究課題名:寒天オリゴ糖の抗肥満効能の検定を通じた高付加価値食医薬素材の開発)の支援を受けて行われた研究成果によるものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明の主な目的は、寒天を基質とする酵素反応を通じて生産される有用な生理活性物質、その中でも特に、脂肪細胞の分化及び糖代謝を調節することで、肥満または糖尿に優れた効果を表す生理活性物質を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様によると、本発明は、ストレプトミセス・セリカラー(Streptomyces coelicolor)DagAと寒天またはアガロース(agarose)の酵素反応で得られた反応産物を有効成分として含有する、肥満または糖尿病の予防及び治療用薬剤学的組成物を提供する。
【0011】
本発明の他の態様によると、本発明は、前記反応産物を有効成分として含有する、肥満または糖尿病の予防及び改善用機能性食品を提供する。
【0012】
本発明のまた他の態様によると、本発明は、前記反応産物を有効成分として含有する、肥満または糖尿病の予防及び改善用飼料を提供する。
本発明において、前記酵素反応は、35〜45℃の温度及びpH6〜8でなることが好ましい。
【0013】
本発明において、前記酵素反応は、0.5〜5%(w/v)の寒天またはアガロース(agarose)溶液に20〜100unit/mlの濃度でDagAを添加してなることが好ましい。この時、1unitは、0.2%(w/v)でアガロースを溶かした50mMのリン酸溶液(pH7)と、40℃で5分間反応(反応液4ml)した後、反応液と同量のDNS試薬(dinitrosalicylic acid 6.5g、2M NaOH 325ml、glycerol 45ml/1l蒸留水)を入れて10分間沸かした後、冷やして吸光度(Å540nm)を測定した時、吸光度(Å540nm)0.001を生成する量を意味する。
【0014】
本発明において、前記反応産物は、反応産物の総重量を基準として45〜85重量%のネオアガロオリゴ糖(neoagarooligosaccharide)混合物を含有し、前記ネオアガロオリゴ糖混合物は、ネオアガロオリゴ糖混合物の総重量を基準として10重量%以下のネオアガロビオース(neoagarobiose)、50〜70重量%のネオアガロテトラオース(neoagarotetraose)及び30〜50重量%のネオアガロヘキサオース(neoagarohexaose)を含有することが好ましい。
【0015】
本発明のまた他の態様によると、本発明は、ネオアガロオリゴ糖混合物を有効成分として含有し、前記ネオアガロオリゴ糖混合物は、ネオアガロビオース(neoagarobiose)、ネオアガロテトラオース(neoagarotetraose)またはネオアガロヘキサオース(neoagarohexaose)を含有することを特徴とする、肥満または糖尿病の予防及び治療用薬剤学的組成物を提供する。
【0016】
本発明のまた他の態様によると、本発明は、ネオアガロオリゴ糖混合物を有効成分として含有し、前記ネオアガロオリゴ糖混合物は、ネオアガロビオース(neoagarobiose)、ネオアガロテトラオース(neoagarotetraose)またはネオアガロヘキサオース(neoagarohexaose)を含有することを特徴とする、肥満または糖尿病の予防及び改善用機能性食品を提供する。
【0017】
本発明のまた他の態様によると、本発明は、ネオアガロオリゴ糖混合物を有効成分として含有し、前記ネオアガロオリゴ糖混合物はネオアガロビオース(neoagarobiose)、ネオアガロテトラオース(neoagarotetraose)またはネオアガロヘキサオース(neoagarohexaose)を含有することを特徴とする、肥満または糖尿病の予防及び改善用飼料を提供する。
【0018】
本発明において、前記ネオアガロオリゴ糖混合物は、ネオアガロオリゴ糖混合物の総重量を基準として10重量%以下のネオアガロビオース(neoagarobiose)、50〜70重量%のネオアガロテトラオース(neoagarotetraose)及び30〜50重量%のネオアガロヘキサオース(neoagarohexaose)を含有することが好ましい。
【0019】
本発明において、ストレプトミセス・セリカラーDagAは、配列番号2の31〜309番間のアミノ酸配列を有するタンパク質を意味し、ストレプトミセス・セリカラーから生産されるか異種菌株から生産されたタンパク質を含む。また、機能が全く異なるものに変更されるかアガラーゼ活性を失わない範囲内で、通常の遺伝子の組換方法、すなわち、精製を有利にするために標識アミノ酸を含ませるか、異種発現のためにアミノ酸配列を変更するなどの方法により組換されたタンパク質を含む。
【0020】
DagAは、本来、ストレプトミセス・セリカラーが生産するベータ−アガラーゼに遺伝子から翻訳される時、配列番号2の309個のアミノ酸を有し、分子量が約35kDaの状態で生産され、N−末端が30個のアミノ酸シグナルペプチドが切られて完成した細胞外形タンパク質(約32kDa)の状態で分泌する。
【0021】
ストレプトミセス・セリカラーのdagA遺伝子が該DagAを暗号化し、dagA遺伝子は、配列番号1の塩基配列で表示される。配列番号1は、ストレプトミセス・セリカラーA3(2)のゲノムに存在する遺伝子の塩基配列で、NCBI(米国国立生物情報センター)のデータベース上に「SCO3471」と命名されている。In vitro実験を通じて確認したところ、dagA遺伝子の転写は、RNA重合酵素の少なくとも異なる3種の完全酵素(holoenzyme)によって認知される4または5種の異なるプローモーター(promoter)によって調節される。dagA遺伝子の転写段階の分析を通じて、転写が暗号化配列の上部32、77、125及び220番目の塩基で開始されると表れた。
【0022】
本来、DagAの生産菌株であるストレプトミセス・セリカラーの培養を通じて本発明のDagAを生産することができるが、生産効率を高めるために、異種菌株であるストレプトミセス・リビダンス(Streptomyces lividans)の発現システムを利用することが好ましい。前記dagA遺伝子を放線菌用ベクターに挿入して組換ベクターを製造した後、該組換ベクターでストレプトミセス・リビダンスを形質転換し、該形質転換体を培養する方法を使用する。この場合、組換ベクターは、dagA遺伝子が放線菌由来のプローモーターによって転写が調節されるように構成することが好ましい。
【0023】
放線菌由来のプローモーターには、sgtRプローモーター(sgtRp)、ermEプローモーター(ermEp)、tipAプローモーター(tipAp)などの多様なプローモーターが存在するので、組換ベクターを製造する時にこれらを選択して使用することができる。これらのプローモーターによって転写が調節されるように構成された様々な種類のベクターが開発されており、該ベクターにSCO3471をクローニングすれば、放線菌由来のプローモーターによって転写が調節される構造の組換ベクターを製造することができる。
【0024】
形質転換体は、宿主菌株を組換ベクターで形質転換して製造することができるが、宿主菌株によって形質転換のための方法が多様に存在するので、適切な方法を選択して使用する。例えば、ストレプトミセス・リビダンスを宿主菌株として使用する場合、PEG(polyethylene glycol)を媒介とした形質転換方法を使用する。
形質転換体などのようなDagA生産菌株を液体培地で培養すればDagAを生産することができ、培養液を得て限外ろ過法のような通常のタンパク質精製方法を利用すると、高純度のDagAを生産することができる。この時、液体培地に寒天(agar)またはアガロース(agarose)を含ませれば、より効率的にDagAを生産することができる。
【0025】
本発明によると、寒天またはアガロースとDagAの酵素反応を通じてネオアガロヘキサオース、ネオアガロテトラオース、ネオアガロビオースが生成されることが表れた。従って、本発明において、酵素反応産物は、これらのそれぞれになってもよく、これらが混合した状態になってもよい。しかし、本発明で確認されたこれらの三つの反応産物の他にも他の反応産物が生成されることができるので、必ずしもこれらの三つの反応産物のみに限定されるものではない。
【0026】
本発明によると、寒天またはアガロースとDagAの酵素反応以後、限外ろ過を通じて得られた反応産物(ネオアガロヘキサオース、ネオアガロテトラオース及びネオアガロビオースが全て含まれた形態であり、これら以外の反応産物が含まれてもよい)だけでなく、それぞれのネオアガロヘキサオース、ネオアガロテトラオース、ネオアガロビオースも、肥満及び糖尿の予防及び治療効果に優れることが確認された。
【0027】
本発明の組成物は、医薬品及び食品などの用途で使用することができる。
食品医薬品安全省(MFDS)の通常の薬剤学的製剤への剤形化基準、または健康補助食品の剤形基準に基づいて剤形化することができ、通常の方法により、投与方法、投与形態及び治療目的によって有効成分を薬剤学的に許容可能な担体と共に混合して希釈するか、容器形態の担体内に封入させることができる。
【0028】
前記担体が希釈剤として使用される場合は、塩水、緩衝剤、水、リンゲル液及びエタノールからなる群より選択された1種以上の担体を使用した経口投与と、非経口投与用として、粉末、顆粒、注射液、シロップ、溶液剤、錠剤などのような剤形で製造することができる。この時、非経口投与は、経口以外に静脈、腹膜、筋肉、動脈、経皮、吸入などを通じた有効成分の投与を意味する。
【0029】
前記剤形に、充填剤、抗凝集剤、潤滑剤、湿潤剤、香料、乳化剤、防腐剤などをさらに含んで哺乳動物に投与された後、活性成分の迅速、持続または遅延された放出を提供するように剤形化することができる。そして、本発明の投与量は、患者の状態、投与経路及び投与形態によって調節され、限定されず、症状によって本発明の分野で通常の知識を持った者なら自明に多様な範囲内で使用することができるが、通常、本発明では、実験的な有効量で体重1kg当たり10〜200mgを一日に連続的または間欠的に投与可能であると判断される。
【0030】
前記有効量を基準として、本発明は、寒天またはアガロースとDagAの酵素反応産物そのもの、または食品学的に許容された担体を混合した組成物を含有する食品を提供する。食肉加工品、魚肉製品、豆腐、寒天、おかゆ、ラーメンやうどんなどの麺類、醤油、味噌、トウガラシ味噌、混合味噌などの調味食品、ソース、お菓子、発酵乳やチーズなどの乳加工品、キムチや漬物などの漬物食品、果実、野菜、豆乳、発酵飲み物などの飲み物食品に含んで使用することができる。各食品の調理方法や生産方法は、本発明の分野で通常の知識を持った者なら自明な事項であるので、これに関する具体的な記載は省略する。また、食品学的に許容された担体は、上述した薬剤学的に許容された担体も使用することができる。
【0031】
前記有効量を基準として、本発明は、寒天またはアガロースとDagAの酵素反応産物そのもの、または飼料として許容された担体を混合した組成物を含有する飼料を提供する。給餌対象の基本食餌素材に本発明の組成物を含んで使用することができる。特に、運動不足で肥満の恐れがある犬、猫などのペットや競走馬の飼料で使用すれば効果的である。
【発明の効果】
【0032】
本発明によると、ストレプトミセス・セリカラーDagAと寒天またはアガロースの酵素反応産物が優れた抗肥満及び抗糖尿効果を表すため、本発明の組成物を投与するか摂取すれば、効果的に肥満及び糖尿を予防、治療及び改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【
図2】本発明の一実施例に係る組換ベクターの図である。
【
図3】本発明の酵素反応産物をHPLC−ELSD分析した結果を示したグラフである。
【
図4】本発明の酵素反応産物(以下、「NAO」という)またはこれを精製して得られたネオアガロヘキサオース(以下、「DP6」という)、ネオアガロテトラオース(以下、「DP4」という)、ネオアガロビオース(以下、「DP2」という)のアルファ−アミラーゼ阻害活性結果を示したグラフである。
【
図5】NAOまたはDP6、DP4、DP2のアルファ−グルコシダーゼ阻害活性結果を示したグラフである。
【
図6】正常食餌(以下、「ND」という)、高脂肪食餌(以下、「HFD」という)、0.25%(w/w)の本発明の酵素反応産物が含まれた高脂肪食餌(以下、「HFD−NAO0.25%」という)または0.5%(w/w)の本発明の酵素反応産物が含まれた高脂肪食餌(以下、「HFD−NAO0.5%」という)を摂取させた実験動物の日付別の体重増加量を示したグラフである。
【
図7】ND、HFD、HFD−NAO0.25%またはHFD−NAO0.5%を摂取させた実験動物の肝組織をH&E染色して顕微鏡で撮影した写真である。AはND、BはHFD、CはHFD−NAO0.25%、DはHFD−NAO0.5%実験群の組織を示す。
【
図8】ND、HFD、HFD−NAO0.25%またはHFD−NAO0.5%を摂取させた実験動物の肝脂肪変性程度を示したグラフである。
【
図9】ND、HFD、HFD−NAO0.25%またはHFD−NAO0.5%を摂取させた実験動物の副睾丸脂肪組織細胞の大きさを示したグラフである。
【
図10】ND、HFD、HFD−NAO0.25%またはHFD−NAO0.5%を摂取させた実験動物の副睾丸脂肪組織をH&E染色して顕微鏡で撮影した写真(A〜D)と、経口当たり負荷試験結果を示したグラフ(E)である。AはND、BはHFD、CはHFD−NAO0.25%、DはHFD−NAO0.5%実験群の組織を示す。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、実施例を通じて本発明をさらに詳しく説明する。これらの実施例は、単に本発明を例示するためのものであるので、本発明の範囲がこれらの実施例によって制限されると解釈されない。
【0035】
実施例1.DagAの生産
ストレプトミセス・セリカラーA3(2)の染色体DNAを鋳型とし、以下のAsm−F及びAsm−Rプライマーを使用したPCRを通じてdagA遺伝子断片(DagAのシグナルペプチド及び完成型ペプチドが暗号化された947bp断片、配列番号1にプライマーの一部配列が含まれた状態)を増幅し、断片の制限酵素部位(NdeI/BamHI)を利用してpUWL201pwベクター(
図1参照)にdagA遺伝子をクローニングして、dagA遺伝子の転写がermEプローモーターによって調節されるように組換ベクター(
図2参照)を製造した。
【0036】
Asm−Fプライマー:5’−GACATATGGTGGTCAACCGACGTGATC−3’(NdeI)(配列番号3)
Asm−Rプライマー:5’−GGTGGATCCCTACACGGCCTGATACG−3’(BamHI)(配列番号4)
【0037】
該組換ベクターでストレプトミセス・リビダンス(Streptomyces lividans)TK24を形質転換して得られた形質転換菌株をDagAの生産のために使用した。
【0038】
この菌株を0.3%(w/v)の寒天(agar)が含まれたR2YE液体培地に接種して、28℃で48〜72時間、120rpmで振とう培養した。全培養過程を経た後、本培養を実施し、各培養時間は2.5日にした。
【0039】
本培養を通じて得られた培養液を遠心分離して菌体を取り除いた後、上層液を限外ろ過膜(5kDa cut-off membrane)でろ過して、ろ過膜を通過できなかったタンパク質を分離及び精製した。得られた濃縮液(酵素液)は、凍結乾燥して保管しながら使用した。
【0040】
実施例2.DagAのアガラーゼの活性測定
還元当量検定方法(DNS method)で前記実施例1のDagAに対するアガラーゼ活性を測定した。実施例1で得られた酵素液100μlに0.2%(w/v)でアガロースを溶かした50mMのリン酸溶液(pH7)3.9mlを交ぜて40℃で5分間反応させた後、DNS試薬(dinitrosalicylic acid:6.5g、2M NaOH:325ml、glycerol:45ml/1l蒸留水)4mlを入れて10分間沸かした後、冷やして吸光度(Å540nm)を測定した。酵素1Uは、5分反応後に吸光度(Å540nm)0.001を生成する活性と定義した。
【0041】
実施例3.DagAの酵素反応産物
3−1.DagAを利用した寒天またはアガロースの分解
0.5〜5%(w/v)の寒天またはアガロースを溶かした20mMのTris−HCl溶液1lを製造して100℃で約10分間加熱して充分に溶かした後、40℃に温度を落とし、DagA酵素2,000〜50,000Uを処理して24時間酵素反応を実施した。
【0042】
3−2.DagA酵素反応産物の前処理
酵素反応産物で未分解されたアガロースを取り除くために、遠心分離して上澄液を回収した後、TLC(thin layer chromatography)を利用して酵素反応生成物を確認した。回収した上澄液を5KDa cut-off membraneで限外ろ過方法を通じて部分精製した。
【0043】
実施例4.HPLC−ELSD分析を通じたDagA酵素反応産物の組成確認
HPLC−ELSD分析を通じて、前記実施例4で得られた酵素反応産物の組成を確認した。NH
2P-50 4E multimode column(250×4.6mm)を使用し、移動相としてアセトニトリル(acetonitrile)と水の混合溶液(acetonitrile:water=65:35)を使用した。
【0044】
その結果、
図3のように、反応産物の中でネオアガロビオース(neoagarobiose、以下「DP2」という)、ネオアガロテトラオース(neoagarotetraose、以下「DP4」という)及びネオアガロヘキサオース(neoagarohexaose、以下「DP6」という)の合からなるネオアガロオリゴ糖(neoagarooligosaccharides)の総量が65±20%(重量)を占めることが表れ、該ネオアガロオリゴ糖の総量を基準としてDP2、DP4、DP6がそれぞれ0〜10%、50〜70%、30〜50%(重量)を占めることが表れた。
【0045】
実施例5.ゲルろ過クロマトグラフィーを利用したDagA酵素反応産物の精製
BioGel P-2 gel(Biorad、Cat.No.:150-4115)を利用してゲルろ過クロマトグラフィー(gel permeation chromatography、GPC)を通じてDP6、DP4、DP2を純粋に精製した産物は、TLCとHPLCを通じて純度を確認した。
【0046】
実施例6.DagA酵素反応産物の抗肥満及び抗糖尿効能の確認試験
6−1.アルファ−アミラーゼ(α-amylase)の阻害活性
前記実施例5で精製を通じて得られたDP2、DP4、DP6及び実施例3で得られた酵素反応産物(以下「NAO」という)を試料として使用した。
第2型糖尿病治療剤として広く知られているアカルボース(acarbose)は、アルファ−アミラーゼ及びアルファ−グルコシダーゼの活性を抑制して糖吸収を遅延させる機作で抗糖尿効果を表すと知られている。従って、ネオアガロオリゴ糖の糖尿関連性を確認するために、アカルボースと類似した酵素活性抑制機能があるかを調査した。
アルファ−アミラーゼ溶液と各試料を交ぜ、基質としてでん粉青色試薬(starch azure solution)を入れて10分間反応させた後、分解されて表れる青色の濃度を吸光度(Å595nm)で測定して酵素活性を分析した。
その結果、
図4のように、各試料がアルファ−アミラーゼ阻害活性を有することが表れたが、アカルボース(陽性対照群)に比べては阻害活性が低く表れた。
【0047】
6−2.アルファ−グルコシダーゼ(α-glucosidase)の阻害活性
DP2、DP4、DP6及びNAOを試料として使用した。
アルファ−グルコシダーゼ溶液と各試料を交ぜ、基質としてp−NPG(p-nitrophenyl-α-D-glucopyranoside)溶液を入れて10分間反応させた後、分解して生成されたp−ニトロフェノール(p-nitrophenol)の濃度を吸光度(Å405nm)で測定して酵素活性を分析した。
その結果、
図5のように、第2型糖尿病治療剤であるアカルボース(陽性対照群)ほど高い阻害活性ではないが、DP2、DP4、DP6及びNAOの全てに阻害活性があることを確認した。
【0048】
6−3.肥満誘発マウスにおける抗肥満及び抗糖尿効果の確認
実験動物(マウス)に高脂肪飼料を給与すると、過多な内臓脂肪の増加、高血糖、異常脂質症、高インシュリン血症及び肝組織に脂肪変性が発生して、肥満患者に表れる特徴をよく反映する肥満動物モデルを樹立することができる。
これにより、順化期間が終わった4週令のC57bl/6マウスを、体重により乱塊法によって正常群(Normal diet、ND)、高脂肪対照群(High fat diet、HFD)、高脂肪−0.25%NAO混合群(HFD−NAO 0.25%)、高脂肪−0.5%NAO混合群(HFD−NAO 0.5%)の4つの群に分離した後、それぞれに対する試料を高脂肪食餌と共に9週間供給し、実験動物の血液生化学的検査、組織学的検査、ブドウ糖耐性検査を通じて、NAOの抗肥満及び抗糖尿効果を確認した。
【0049】
9週間実験食餌を給与した実験動物の体重増加量と食餌摂取量は、
図6及び表1の通りである。体重は、高脂肪食餌の供給1週間以後から統計的有意差が表れ、実験終了時点である9週間目は、対照群である高脂肪食餌群(HFD)が正常食餌群(ND)に比べて29.5%増加して、高脂肪食餌によるマウスの肥満誘導を観察することができた。NAOを0.5%で添加した食餌群の体重は、高脂肪食餌群に比べて有意的に低く、体重増加量においても正常群より少ない体重増加量を示した。一方、NAOを0.25%で添加した食餌群では、高脂肪食餌群と有意的な差を示さなかった。
【0051】
9週間実験食餌を給与した実験動物から肝組織及び副睾丸脂肪組織を採取して顕微鏡で観察し、肝組織のH&E染色(staining)結果は、
図7に示した。
肝組織の場合、Kleiner DE et.al.(2005)の肝脂肪変性(steatosis)程度の比較方法によって脂肪変性程度を区分し、その結果は、
図8に示した。高脂肪食餌摂取による肝組織内の脂肪蓄積が正常食餌群に比べて格段に高いことが表れ、小水泡性脂肪変性(micro-vescularsteotosis)と大水泡性脂肪変性(macro-vescularsteotosis)形態を表した(グレード1.75±0.41)。これに対し、NAO添加食餌群では、0.25%群(グレード0.75±0.16)と0.5%(グレード0.37±0.18)群の両方で脂肪空胞の数と大きさが正常水準に減少したことが表れ、NAOによって肝組織内の脂肪沈着が抑制されることを確認した。
【0052】
副睾丸周りの脂肪組織のH&E染色の結果、
図9及び
図10のように、HFD(10.74±1.44)がND(4.65±0.54)に比べて副睾丸脂肪組織で脂肪細胞の大きさが格段に増加したが、NAOを添加した食餌群では、0.25%群(6.74±0.38)と0.5%(6.95±0.82)群の両方で高脂肪食餌群に比べて脂肪細胞の大きさが減少した。従って、NAOは、肝及び脂肪組織内の脂肪蓄積を抑制させると考えられる。
【0053】
高脂肪食餌及びNAOが脂質代謝に及ぶ影響を確認するために、血清内の脂質含量を調査して表2に示した。血清総コレステロール含量は、ND群の場合140.1±5.2mg/dLであり、これに比べてHFD群では182.0±8.2mg/dLに増加した。一方、NAOを添加した食餌群は、0.25%群で173.0±4.3mg/dLに減少する傾向を表し、0.5%群では、159.6±5.6mg/dLに有意に減少した。血清中性脂肪の場合、ND群の場合48.7±3.2mg/dLであることに対し、HFD群では64.8±4.0mg/dLに増加した。NAOを添加した食餌群は、0.25%群で56.7±4.4mg/dLに減少する傾向を表し、0.5%群では47.3±2.9mg/dLに有意に減少した。また、血中FFA(Free fatty acid)も高脂肪食餌群では正常より高い数値を表したが、NAOを添加した食餌群では、正常と類似した水準の数値を表した。血中FFA濃度とTGの濃度は、肝組織の脂肪沈着とインシュリン抵抗性と密接な関係があると知られている。従って、NAOが血中FFAとTGを調節することで、第2型糖尿の主な原因の一つであるインシュリン抵抗性を改善する効果があると判断される。
【0055】
NAOの糖尿改善効果及びインシュリン抵抗性の改善効果を確認するために、Oral GTTとインシュリン抵抗性と関連した生化学的分析を行い、結果を
図10(E)と表3に示した。NAOを9週間摂取させた後、ブドウ糖(glucose)を経口投与し、血糖を測定した結果、高脂肪食餌群は、血糖投与後の30分と60分時点で正常群より高い血糖数値を表し、インシュリン抵抗性が誘発されたことを確認することができた。これに対し、NAOを添加した食餌群では、30分と60分時点で高脂肪食餌群より有意に低い血糖数値を表し、AUC(Area under curve)を計算して比べた結果でも、NAOを添加した食餌群で有意に低く表れた。これは、高脂肪食餌を通じて誘発されたインシュリン抵抗性がNAOを共に摂取することで正常と類似した水準に回復することを示唆している。また、表3に示すように、血中インシュリンと血糖測定の結果、NAOを添加した食餌群でHFDより低い数値を表し、血中アディポネクチンは、NAOを添加した食餌群でHFDより高い数値を表した。アディポネクチン数値は、インシュリン抵抗性とも密接な関連があると知られているが、インシュリン抵抗性のある人のアディポネクチン数値が落ち、これらのインシュリン抵抗性が改善すればアディポネクチン数値も上がる。表3に示すように、HFD群のアディポネクチン濃度は、正常群と大きな差を示さなかったが、HFD群で肥満によるインシュリン抵抗性及び糖尿が充分に進展されていないことが分かる。しかし、NAOを添加した食餌群でアディポネクチンの数値が正常群に比べて増加することが表れ、NAOがインシュリン抵抗性の改善に重要な機能をすることができることを示唆した。本実施例では、HFDから糖尿病までは進展されなかったが、糖尿関連の指標が悪くなる傾向を示し、これは、NAOを摂取することで相当部分が正常化されることを確認することができた。また、OGTT検定結果では、NAOを摂取した食餌群で確実な糖尿改善効果を示し、抗糖尿機能性素材としてNAOの可能性を立証した。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明によると、ストレプトミセス・セリカラーDagAと寒天またはアガロースの酵素反応産物が優れた抗肥満及び抗糖尿効果を表すため、本発明の組成物を投与するか摂取すれば、効果的に肥満及び糖尿を予防、治療及び改善することができる。これにより、本発明の組成物は、肥満及び糖尿を予防、治療及び改善するための医薬品、食品、飼料などの用途で使用することができる。
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]