(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
補強シール部は、少なくとも2つのシール部材を具え、該シール部材間に、マニホールド径(rc)よりも小さい外径(ra)をもつ第2スペーサ部材をさらに具える請求項1〜5のいずれか1項に記載のダイ方式塗工装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、ダイの両端部に配置したインナーディッケルを、ダイ内にてダイの長手方向に沿う移動が容易になるように構成するとともに、ウェブの搬送方向に見て、ダイの上流位置と下流位置にそれぞれ所定の検出手段を配設することによって、連続走行する長尺帯状のウェブが正規搬送位置からずれた位置で搬送された場合であっても、ウェブの表面上に形成される塗布液膜または塗布膜の両幅端位置を、ウェブの両幅端位置に対して迅速に所望の位置関係に修正することができ、また、被処理材を、異なる幅寸法をもつウェブに変更して塗布膜を形成する場合であっても、ダイを分解することなく、ウェブ幅に対応して塗工幅の調整が容易なダイ方式塗工装置およびダイ方式塗工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明の要旨構成は以下の通りである。
(1) 長尺帯状のウェブを連続的に送り出す供給ロールと、該供給ロールから送り出されて搬送される前記ウェブの少なくとも片面上に、塗布液を吐出させて塗布するダイと、前記ウェブ上に吐出して塗布した塗布液膜を乾燥させて塗布膜とした上で前記ウェブを巻き取る巻取ロールとを具えるダイ方式塗工装置において、該塗工装置は、前記ウェブの搬送方向に見て、前記ダイよりも上流位置に配設され、前記ウェブの両幅端位置を検出するウェブ幅端位置検出手段と、前記ダイよりも下流位置に配設され、前記ウェブ上の塗布液膜または塗布膜の両幅端位置を検出する膜幅端位置検出手段と、をさらに具え、前記ダイが、
1対の分割金型部材を合体させて形成してなる金型で構成され、該金型の長手方向に延びるマニホールドと、該マニホールドから前記金型の径方向外方に向かって延びるスリットと、該ダイの両端部に配置され、前記ダイ内にて前記ダイの長手方向に沿う移動が容易になるように構成した、塗工幅を調整するための1対のインナーディッケルと、前記インナーディッケルを移動させるため駆動させる駆動手段とを有し、
前記インナーディッケルは、前記マニホールドに対応した外面形状をもつシャフト状のディッケル本体部と、該ディッケル本体部から延び、前記スリットに対応した外面形状をもつシート状またはフィルム状のディッケル補助部とを有し、前記ディッケル本体部は、前記ディッケル補助部を配置した領域の少なくとも一部に、前記マニホールド内に充填される、塗布または押出成形するための液状物の液密封止を補強する補強シール部を具え、該補強シール部が、前記ダイに対するインナーディッケルの位置移動時には、前記マニホールドの内壁に対して弾性変形しながら摺動し、かつ、前記ダイに対するインナーディッケルの位置固定時には、弾性復元力により、互いに協動した状態で前記内壁に密着する2枚以上のフィルムを含む少なくとも1つのシール部材を具え、各シール部材は、前記フィルム間に、マニホールド径(rc)よりも小さな外径(rs)をもつ第1スペーサ部材をさらに具え、前記ウェブ幅端位置検出手段により検知した前記ウェブの両幅端位置情報および前記膜幅端位置検出手段により検知した前記塗布液膜または塗布膜の両幅端位置情報に基づいて、前記駆動手段を駆動させることによって、前記ダイに対する前記インナーディッケルのそれぞれの相対位置を変更することを特徴とするダイ方式塗工装置。
【0011】
(
2)前記シール部材を構成するフィルムが、マニホールド径(rc)よりも大きな外径をもつ上記(1
)に記載のダイ方式塗工装置。
【0012】
(
3)前記シール部材を構成するフィルムの外径(rb)は、マニホールド径(rc)よりも0.01〜1mmだけ大きい上記(1)
または(2)に記載のダイ方式塗工装置。
【0014】
(
4)第1スペーサ部材の外径(rs)は、マニホールド径(rc)よりも0.001〜3mmだけ小さい上記(
1)〜(3)のいずれか1項に記載のダイ方式塗工装置。
【0015】
(
5)第1スペーサ部材の外径をrsおよびフィルムの外径をrbとすると、第1スペーサ部材の厚さtsは、下記の関係式を満足する上記(
1)〜(4)のいずれか1項に記載のダイ方式塗工装置。
ts<(rb−rs)
【0016】
(
6)補強シール部は、少なくとも2つのシール部材を具え、該シール部材間に、マニホールド径(rc)よりも小さい外径(ra)をもつ第2スペーサ部材をさらに具える上記(1)〜(
5)のいずれか1項に記載のダイ方式塗工装置。
【0017】
(
7)第2スペーサ部材の外径(ra)は、マニホールド径よりも0.001〜3mmだけ小さい上記(
6)に記載のダイ方式塗工装置。
【0018】
(
8)前記補強シール部は、前記ディッケル補助部を配置した領域内の、前記インナーディッケルの先端側区域に設ける上記(1)〜(
7)のいずれか1項に記載のダイ方式塗工装置。
【0019】
(
9)各シール部材を構成するフィルムの枚数は2枚である上記(1)〜(
8)のいずれか1項に記載のダイ方式塗工装置。
【0020】
(1
0)前記フィルムは潤滑性樹脂材料からなる上記(1)〜(
9)のいずれか1項に記載のダイ方式塗工装置。
【0021】
(1
1)供給ロールから長尺帯状のウェブを連続的に送り出す工程と、送り出されて搬送される前記ウェブの少なくとも片面上に、ダイにより塗布液を吐出させて塗布する工程と、巻き取りロールにより、前記ウェブ上に吐出して塗布した塗布液膜を乾燥させて塗布膜とした上で前記ウェブを巻き取る工程とを具えるダイ方式塗工方法において、該塗工方法は、前記ウェブの搬送方向に見て、前記ダイよりも上流位置に配設されるウェブ幅端位置検出手段によって、前記ウェブの両幅端位置を検出する工程と、前記ダイよりも下流位置に配設される膜幅端位置検出手段によって、前記ウェブ上の塗布液膜または塗布膜の両幅端位置を検出する工程と、をさらに具え、前記ダイが、
1対の分割金型部材を合体させて形成してなる金型で構成され、該金型の長手方向に延びるマニホールドと、該マニホールドから前記金型の径方向外方に向かって延びるスリットと、該ダイの両端部に配置され、前記ダイ内にて前記ダイの長手方向に沿う移動が容易になるように構成した、塗工幅を調整するための1対のインナーディッケルと、前記インナーディッケルを移動させるため駆動させる駆動手段とを有し、
前記インナーディッケルは、前記マニホールドに対応した外面形状をもつシャフト状のディッケル本体部と、該ディッケル本体部から延び、前記スリットに対応した外面形状をもつシート状またはフィルム状のディッケル補助部とを有し、前記ディッケル本体部は、前記ディッケル補助部を配置した領域の少なくとも一部に、前記マニホールド内に充填される、塗布または押出成形するための液状物の液密封止を補強する補強シール部を具え、該補強シール部が、前記ダイに対するインナーディッケルの位置移動時には、前記マニホールドの内壁に対して弾性変形しながら摺動し、かつ、前記ダイに対するインナーディッケルの位置固定時には、弾性復元力により、互いに協動した状態で前記内壁に密着する2枚以上のフィルムを含む少なくとも1つのシール部材を具え、各シール部材は、前記フィルム間に、マニホールド径(rc)よりも小さな外径(rs)をもつ第1スペーサ部材をさらに具え、前記ウェブ幅端位置検出手段により検知した前記ウェブの両幅端位置情報および前記膜幅端位置検出手段により検知した前記塗布液膜または塗布膜の両幅端位置情報に基づいて、前記駆動手段を駆動させることによって、前記ダイに対する前記インナーディッケルのそれぞれの相対位置を変更することを特徴とするダイ方式塗工方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、ダイの両端部に配置したインナーディッケルを、ダイ内にて前記ダイの長手方向に沿う移動が容易になるように構成するとともに、ウェブの搬送方向に見て、ダイの上流位置と下流位置にそれぞれ所定の検出手段を配設することによって、連続走行する長尺帯状のウェブが正規搬送位置からずれた位置で搬送された場合であっても、ウェブの表面上に形成される塗布液膜または塗布膜の両幅端位置を、ウェブの両幅端位置に対して迅速に所望の位置関係に修正することができ、また、被処理材を、異なる幅寸法をもつウェブに変更して塗布膜を形成する場合であっても、ダイを分解することなく、ウェブ幅に対応して塗工幅の調整が容易なダイ方式塗工装置およびダイ方式塗工方法を提供することが可能になった。
【発明を実施するための形態】
【0024】
次に、本発明の実施形態について図面を参照しながら以下で説明する。
図1は、本発明に従う代表的なダイ方式塗工装置の要部構成を示す概略斜視図である。
【0025】
図1に示すダイ方式塗工装置100は、供給ロール20とダイ21と巻取ロール22とで主として構成されている。
【0026】
供給ロール20は、長尺帯状のウェブTを連続的に送り出すために配置したものであって、塗工前の搬送停止状態では、ウェブTをロール状に螺旋巻回したものである。なお、ウェブTとしては、例えば、プラスチックフィルム、紙、金属箔などが挙げられる。
【0027】
ダイ21は、供給ロール20から送り出されて搬送されるウェブTの少なくとも片面上、
図1ではウェブTの片面Ta上に、所定の塗工幅Wpで塗布液を吐出させて塗布液膜23を形成するために配置したものである。
【0028】
巻取ロール22は、ウェブT上に形成した塗布液膜23を、例えば乾燥装置25によって乾燥させて塗布膜24とした後に、ウェブTを巻き取るためのものである。
【0029】
前記塗布液膜23の乾燥は、
図1では、塗布液膜23を塗布したウェブTを、例えば熱風乾燥機や赤外線乾燥機のような乾燥装置25内を連続的に通過させることにより、短時間で乾燥させるための実施形態が示されているが、乾燥装置25の配設は必ずしも必要ではなく、連続ラインにおいて、大気中での自然乾燥でも乾燥できるのであればよく、特に限定はしない。
【0030】
また、
図1では、供給ロール20とダイ21との間、およびダイ21と巻取ロール22との間には、ウェブTの搬送速度やウェブTに作用する張力の調整等を行うため、複数本のガイドローラ26等が配置されており、加えて、ウェブTを挟んでダイ21と対向する位置に、バックアップローラ27を具えている。なお、バックアップローラ27については、必要に応じて適宜配設することができる。
【0031】
そして、本発明の構成上の主な特徴は、ダイ21の両端部21a,21bに配置したインナーディッケル35を、ダイ21内にて、ダイ21の長手方向Lに沿う移動が容易になるように構成するとともに、ウェブTの搬送方向Fに見て、ダイ21の上流位置と下流位置にそれぞれ所定の検出手段28、29を配設することにあり、より具体的には、塗工装置100は、ウェブTの搬送方向Fに見て、ダイ21よりも上流位置に配設され、ウェブTの両幅端位置30a,30bを検出するウェブ幅端位置検出手段、
図1では1対のウェブ幅端位置検出手段28、28と、ダイ21よりも下流位置に配設され、ウェブT上の塗布液膜23または塗布膜24の両幅端位置31a,31bを検出する膜幅端位置検出手段29、
図1では1対の膜幅端位置検出手段29とをさらに具え、ダイ21が、ダイ21の両端部21a,21bに配置され、ダイ21内にて、ダイ21の長手方向Lに沿う移動が容易になるように構成した、塗工幅Wpを調整するための1対のインナーディッケル35と、インナーディッケル35を移動させるため駆動させる駆動手段32とを有し、ウェブ幅端位置検出手段28により検知したウェブTの両幅端位置情報、および膜幅端位置検出手段29により検知した塗布液膜23または塗布膜24の両幅端位置情報に基づいて駆動手段32を駆動させることによって、ダイ21に対するインナーディッケル35のそれぞれの相対位置を変更することにある。
【0032】
なお、ウェブ幅端位置検出手段28により検知したウェブTの両幅端位置情報、および膜幅端位置検出手段29により検知した塗布液膜23または塗布膜24の両幅端位置情報に基づいて駆動手段32を駆動させる方法としては、例えば、
図1に示すように、ウェブ幅端位置検出手段28、膜幅端位置検出手段29および駆動手段32を連動させる構成にすればよく、例えば、ウェブ幅端位置検出手段28、膜幅端位置検出手段29および駆動手段32をコンピューター等の制御装置33に接続し、この制御手段33を用いて、ウェブ幅端位置検出手段28および膜幅端位置検出手段29からの位置情報に基づいて駆動手段32を駆動させる方法が挙げられる。
【0033】
ウェブ幅端位置検出手段28および膜幅端位置検出手段29としては、いずれも、例えば超音波センサー、CCDカメラ等が挙げられる。なお、膜幅端位置検出手段29は、
図1では、塗布液膜23の幅端位置を測定できる位置に配設した場合を示しているが、更に下流側で、塗布膜24の幅端位置を測定できる位置に配設することも可能である。
【0034】
駆動手段32としては、例えば インナーディッケルの末端に連結された出力軸と、この出力軸を正回転と逆回転させるモータ等により構成する場合が挙げられ、この構成により、出力軸を正回転させると、出力軸およびインナーディッケルがダイの長手方向中央部に向かう方向に前進し、出力軸を逆回転すると、出力軸およびインナーディッケルがダイの長手方向中央部側から端部側に向かって後退することができる。
【0035】
次に、本発明のダイ方式塗工装置を構成するダイおよびインナーディッケルの実施形態について以下で説明する。
図2は、本発明に従うダイ方式塗工装置を構成する代表的なインナーディッケルをダイに装着する前の状態を示す斜視図、
図3は、
図2に示すインナーディッケルをダイに装着した後の状態を示す斜視図、そして、
図4は、
図2に示すインナーディッケルを、その先端側の斜め上方位置から眺めたときの拡大斜視図、
図5は、
図4の領域Xで囲まれたインナーディッケルの部分の拡大斜視図、そして、
図6は、
図4に示すインナーディッケルの補強シール部を構成する第2スペーサ部材とシール部材の寸法関係を説明するための図である。
【0036】
図2に示すダイ1は、1対の分割金型部材2a,2bを合体させて形成してなる金型2で構成され、金型2の長手方向Lに貫通するまで延びるマニホールド3と、このマニホールド3から金型2の径方向外方Rに向かって延びるスリット4とを有している。
【0037】
このダイ1の両端部1a,1bに、塗工幅の調整のため、1対のインナーディッケル5(片方のインナーディッケルのみ図示)のそれぞれが配置される。
【0038】
インナーディッケル5は、シャフト状のディッケル本体部6と、シート状またはフィルム状のディッケル補助部7とを有している。ディッケル補助部7の厚みは、スリット4の幅に対して、その偏差として±2μmとすることが好ましい。また、ディッケル補助部7は、その厚さをスリット4の幅よりも厚くする場合には、シート状またはフィルム状の複数枚の薄片からなる複層タイプのディッケル補助部7として構成することも可能である。
【0039】
ディッケル本体部6は、マニホールド3のキャビティに対応した外面形状をもち、ディッケル補助部7は、ディッケル本体部6から延び、スリット4のスペースに対応した外面形状をもっている。
【0040】
そして、本発明の塗工装置に用いるインナーディッケル5は、ディッケル本体部6に、特定構造をもつ補強シール部8を具えることにあり、より具体的には、ディッケル本体部6は、前記ディッケル補助部7を配置した領域9の少なくとも一部、
図4及ではインナーディッケル5の先端側区域9aに、前記マニホールド3のキャビティ内に充填される、塗布または押出成形するための液状物の液密封止を補強する補強シール部8を具え、補強シール部8が、
図6に示すように、ダイ1に対するインナーディッケル5の位置移動時には、マニホールド3の内壁に対して弾性変形しながら摺動し、かつ、ダイ1に対するインナーディッケル5の位置固定時には、弾性復元力により、互いに協動した状態で前記内壁に密着する2枚以上のフィルムを含む少なくとも1つのシール部材11、
図4の補強シール部の部分拡大図である
図5では、2枚のフィルム11a,11bで構成される6つのシール部材11を具えることにある。
【0041】
なお、ここでいう「弾性復元力により、互いに協動した状態で前記内壁に密着する」とは、前記シール部材11を構成する2枚以上のフィルムが、ともに同じ方向に弾性復元する動きをする結果として、互いに協力し合ってマニホールドの内壁に密着することを意味し、具体的には、例えば2枚以上のフィルム同士が、折り重なった状態でマニホールドの内壁に密着する場合がシール性を高める観点から好適であるが、フィルム同士が分離した状態でマニホールドの内壁に密着する場合や、フィルム間に、塗布または押出成形するための液状物が入り込んで、フィルム間に位置するマニホールドの内壁部分に形成した膜の存在下でフィルム同士が互いに協力し合ってマニホールドの内壁に密着することによって、シール性を高めるような場合も含まれる。
【0042】
そして、本発明は、インナーディッケル5に上記構成を採用することによって、ダイ1に対するインナーディッケル5の位置変更時には、補強シール部8のシール部材11(より厳密にはシール部材11を構成するフィルム11a.11b)が、ダイ1のマニホールド3の内壁に対して接触するものの、インナーディッケル5の装着方向(挿入方向)Idとは反対方向に容易に弾性変形しながら摺動するため、ダイ1へのインナーディッケル5の挿入力を小さくすることができ、また、ダイ1に対するインナーディッケル5の位置固定時には、補強シール部8のシール部材11が、弾性復元力により、互いに協動した状態でマニホールド3の内壁に密着する結果、ダイ1に対するインナーディッケル5の位置固定時における十分な液密状態の確保と、ダイ1に対するインナーディッケル5の位置移動時における塗工幅調整の容易化の両立を図ることができる。
【0043】
本発明は、特に補強シール部8を、単一フィルムではなく、2枚以上のフィルム11a、11bを含むシール部材11で構成することにより、ダイ1に対するインナーディッケル5の位置移動時には、フィルム11a,11bの倒れ込み変形をより一層容易にして摺動性を向上させ、また、ダイ1へのインナーディッケル5の位置固定時には、ダイ1のマニホールド3内壁に対するシール部材11のフィルム11a,11bが弾性復元力により、互いに協動した状態、好適にはフィルム11a,11b同士が折り重なった状態でマニホールド3の内壁に密着することに伴ってフィルム11a,11bの総接触面積が、単一フィルムからなるシール部材に比べて増加するため、十分な液密状態を確保することができる。
【0044】
シール部材11を構成するフィルム11a,11bは、マニホールド径rcよりも大きな外径rbをもつことが、ダイ1に対するインナーディッケル5の位置固定時に、弾性復元力により、互いに協動した状態でマニホールド3の内壁に密着するように構成する点で必要であり、具体的には、シール部材11を構成するフィルム11a,11bの外径rbを、マニホールド径rcよりも0.01〜1mmだけ大きくすることが好ましい。なお、ここでいう「マニホールド径」とは、マニホールド3の横断面形状が、真円形状である場合にはその半径を意味し、また、
図1に示すような半円形状や、半楕円形状、楕円形状などのように複数の異なる径を有する形状である場合には、径の中心位置または径の中心に相当する位置から、スリット4の延在方向(
図1に示す金型2の径方向外方R)に沿って測定した半径(直径の1/2)を意味する。
【0045】
シール部材11を構成するフィルム11a,11bの外径rbがマニホールド径rcに比べて1mmよりも大きい場合には、ダイ1に対するインナーディッケル5の位置移動時におけるインナーディッケル5の挿入力が高くなって、装着の際の作業性が悪化する傾向があるため好ましくない。また、フィルム11a,11bの外径rbがマニホールド径rcに比べて0.01mm未満しか差がない場合には、ダイ1に対するインナーディッケル5の位置固定時における液密状態を十分に確保できなくなる傾向があるため好ましくない。
【0046】
シール部材11を構成するフィルム11a,11bは、ダイ1に対するインナーディッケル5の位置変更時には、容易に倒れ込み変形をし、かつダイ1に対するインナーディッケル5の位置固定時には、元の形状に復元する特性を有することが必要であるため、弾性率が10000MPa以下、好適には1000MPa以下の弾性材料であることが好ましく、特に潤滑性樹脂材料が最適である。
【0047】
潤滑性樹脂材料としては特に限定はしないが、シール部材11は、耐薬品性および摺動性に優れていることが望ましく、この点から、潤滑性樹脂材料として、好適には静摩擦係数が0.2以下である樹脂材料、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)を用いることが好ましい。
【0048】
また、シール部材11は、
図4および
図5では2枚のフィルム11a,11bのみで構成した場合を示したが、3枚以上のフィルムで構成してもよく、また、ダイ1に対するインナーディッケル5の位置固定時に折り重なった状態を維持できる範囲で、例えば
図7のようにフィルム11aとフィルム11bとの間に、マニホールド径rcよりも小さな外径、好適にはマニホールド径rcよりも0.001〜3mmだけ小さい外径rsをもつ第1スペーサ部材12をさらに具えていてもよく、第1スペーサ部材12は必要に応じて適宜配設することができる。
【0049】
なお、第1スペーサ部材12を配設する場合、第1スペーサ部材12の厚さtsは、第1スペーサ部材12の外径をrs、フィルム11a,11bの外径をrbとすると、下記の関係式を満足することが好ましい。
ts<(rb−rs)
【0050】
ts≧(rb−rs)の関係になると、フィルム11a,11b間の距離が、フィルム11a,11bの弾性変形する部分の長さ寸法に比べて同等ないし大きくなるため、ダイ1に対するインナーディッケル5の位置固定時にフィルム11a,11b同士が分離した状態になって、互いに協動した状態、特に折り重なった状態を実現することができなくなる傾向があるため好ましくない。
【0051】
また、フィルム11a,11bの厚さtb(
図6では、tb1,tb2)は、前記ダイに対するインナーディッケルの位置移動時には、前記マニホールドの内壁に対して弾性変形しながら摺動し、かつ、前記ダイに対するインナーディッケルの位置固定時には、弾性復元力により、互いに協動した状態で前記内壁に密着できる構成であればよく、特に限定はしないが、前記ダイに対するインナーディッケルの位置移動時に前記マニホールドの内壁に対して弾性変形しながら摺動可能な前記各フィルム11a,11bの厚さtbとしては、例えばtb≦4(rc−rs)の範囲にすることが好ましい。tb>4(rc−rs)の関係になると、前記ダイに対するインナーディッケルの位置移動時に、前記マニホールドの内壁に対して十分に弾性変形できず、摺動時の移動力が大きくなってインナーディッケルがダイ内を移動できなくなる傾向があるからである。
【0052】
前記フィルム11a、11bの厚さの好適範囲としては、フィルムの材質によっても異なるが、例えば、前記フィルム11a、11bとしてPTFEフィルムを用いた場合には、各フィルム11a、11bの厚さは、0.05〜0.4mm程度の厚さにすることが好ましい。
【0053】
また、補強シール部8は、少なくとも2つのシール部材11、
図4では6つのシール部材11を具え、該シール部材11、11間に、マニホールド径rcよりも小さい外径raをもつ第2スペーサ部材10をさらに具えることが、インナーディッケル5の位置移動時において、シール部材11を構成するフィルム11a,11bが弾性変形するためのスペースを確保すると共に、ダイのマニホールド3の内壁に対するインナーディッケル5全体の接触面積を小さくして摺動抵抗を低くする点で好ましい。
【0054】
なお、
図4では、6つのシール部材11と、これらのシール部材11間に5つの第2スペーサ部材10を介装した場合の例が示してあるが、シール部材11と第2スペーサ部材10の配設数は、必要に応じて適宜選択することができる。
【0055】
第2スペーサ部材10の外径raは、マニホールド径よりも0.001〜3mmだけ小さいことが好ましい。第2スペーサ部材10の外径raがマニホールド径rcに比べて3mmよりも小さいと、ダイ1にインナーディッケル5を装着したときに、第2スペーサ部材10と、ダイ1のマニホールド3の内壁との間に大きなスペースが生じるため、インナーディッケル5の位置固定時における液密状態を十分に確保できなくなる傾向があるからである。また、第2スペーサ部材10の外径raがマニホールド径rcに比べて0.001mm未満しか差がないと、インナーディッケル5の位置移動時に、補強シール部8のシール部材11が第2スペーサ部材10側に変形するための、ダイ1のマニホールド3内におけるスペースが不足し、位置移動時(装着時)におけるインナーディッケル5の移動力が高くなる傾向があるからである。
【0056】
第1スペーサ部材12および第2スペーサ部材10の材質については特に限定はしないが、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、PTFEなどの各種樹脂材料を用いることができる。
【0057】
また、
図8〜
図10は、補強シール部8を構成するシール部材11の他の実施形態を示したものであって、
図8がシール部材を構成する2枚のフィルム11a,11bの外径を異ならせた場合、
図9がシール部材11を構成する2枚のフィルム11a,11bの厚みを異ならせた場合、そして、
図10がシール部材11を構成する2枚のフィルム11a,11bの外縁部の断面形状を、ダイ1へのインナーディッケル5の装着時に、ダイ1のマニホールド3内壁への接触面積が増加するような形状とした場合の例であり、また、これらの構成を組み合わせることも可能である。
【0058】
また、本発明のインナーディッケル5はダイ用インナーディッケルであり、このインナーディッケル5を具えるダイ1は、十分な液密状態の確保と塗工幅調整の容易化の両立を図ることができる。
【0059】
次に、本発明に従うダイ方式塗工方法の一例について以下で説明する。
まず、供給ロール20から長尺帯状のウェブTを連続的に送り出し、送り出されて搬送されるウェブTの両幅端位置30a,30bの上方に配置した1対のウェブ幅端位置検出手段28、28により、ウェブTの両幅端位置30a,30bを検出する。
【0060】
次いで、ウェブTの少なくとも片面、
図1ではウェブTの片面Ta上に、ダイ21により塗布液を吐出させて塗布液膜23を形成する。
【0061】
その後、この塗布液膜23の両幅端位置31a,31bを、1対の膜幅端位置検出手段29,29により検知する。
【0062】
そして、ウェブ幅端位置検出手段28、28により検知したウェブTの両幅端位置30a,30bの情報および膜幅端位置検出手段29、29により検知した塗布液膜23の両幅端位置31a,31bの情報の出力信号を制御装置33に入力し、これらの出力信号に基づいて、ウェブが正規搬送位置からずれた位置で搬送されている場合には、駆動手段32を駆動させて、ウェブの表面上に形成される塗布液膜の両幅端位置を、ウェブの両幅端位置に対して迅速に所望の位置関係に修正するため、ダイ21に対するインナーディッケル35のそれぞれの相対位置を変更する。
【0063】
その後、ウェブTを、乾燥装置25内を通過させて乾燥させて塗布膜とした後、巻き取りロールによりウェブTを巻き取る。
【0064】
このように、本発明の塗布装置および塗布方法は、巻き取られたウェブTは、全長にわたって、塗布膜24を、所期したウェブTの幅中央位置に正確に形成することができるため、その後、塗布膜24を形成したウェブTのうち、塗布膜が形成されていない両幅端部における切り落とし幅が減少する結果、産業廃棄物量が削減されて歩留りを向上させることができ、また、被処理材を、異なる幅寸法をもつウェブに変更して塗布膜を形成する場合であっても、ダイを分解することなく、ウェブ幅に対応して塗工幅をフレキシブルに調整することができる結果、ダイ導入コストの削減やダイ組み付け工数の削減が図れる。
【0065】
なお、本発明の塗布装置は、これに用いるダイのインナーディッケルが、十分な液密状態の確保と塗工幅調整の容易化の両立を実現できる構成を有しているので、特に、粘度の低い塗布液を塗布する場合であっても、十分な液密状態を保持した状態で塗工幅の調整が容易であるという顕著な効果を奏することができる。
【0066】
上述したところは、この発明の実施形態の一例を示したにすぎず、特許請求の範囲において種々の変更を加えることができる。
【実施例】
【0067】
次に、この発明に従う塗工装置を試作し、この塗工装置を用いて走行するウェブ表面に連続的に塗布し、性能評価を行ったので、以下で説明する。
【0068】
実施例は、
図1に示す塗工装置、
図2および
図3に示すダイ、並びに
図2〜
図6に示すインナーディッケルを用いたものであって、ダイ1のマニホールド径rcが20mmであり、スリット4の幅が300μm、ディッケル補助部7の厚さが295μm、補強シール部8は、ディッケル補助部7を配置した領域内の、インナーディッケルの先端側区域9aに設け、厚さが200μmのPTFE樹脂材料製の2枚のフィルム11a,11bからなる計6つのシール部材11と、これらシール部材11、11間にそれぞれ介挿された厚さ:500μmの PET樹脂製の計5つの第2スペーサ部材10とで構成され、第2スペーサ部材10の外径raを、マニホールド径rcよりも100μmだけ小さく、シール部材11を構成する2枚のフィルム11a,11bの外径rbを、マニホールド径rcよりも100μmだけ大きくなるように設定し、連続走行するウェブの表面に塗布液を塗布する間は、ウェブ幅端位置検出手段および膜幅端位置検出手段により、それぞれウェブTの両幅端位置と、塗布液膜の両幅端位置とを検知し、それらの検知の結果、ウェブが正規搬送位置からずれた位置で搬送されていると判断された場合には、制御装置を通じて前記検知の結果に基づいて駆動装置を駆動させて、ダイ内のインナーディッケル位置を移動させて、塗布液膜がウェブの所定位置に塗布されるように制御しながらウェブの全長にわたって塗布液を塗布した。塗布液にはアクリル系粘着剤(粘度1000mPas)を用い、乾燥後の塗布厚:200μmになるように塗工条件を調整した。
【0069】
ウェブには厚さ:38μm、幅:250mmのPETフィルムを用い、塗工装置に通した。走行中のウェブを、EPC(耳端位置制御)装置を用いて振れ幅5mmで蛇行させた。塗工幅を最大限に広げた場合において、塗布厚:200±20μmの領域を最大塗布幅(mm)として記録した。
【0070】
比較のため、ウェブ幅端位置検出手段、膜幅端位置検出手段、駆動装置および制御装置を設けず、ウェブに塗布液を塗布する間は、ダイに配置したインナーディッケルを移動させず固定位置に維持したこと以外は実施例と同様にウェブの表面に塗布膜を形成した。
【0071】
表1に、実施例および比較例で製造した塗布膜を有するウェブについて、最大塗布幅を測定した結果を示す。
【0072】
【表1】
【0073】
表1に示す評価結果から、実施例は、比較例に比べて、最大塗布幅が広くなっており、このことから、塗布膜の両幅端位置を、ウェブの両幅端位置に対して適正位置関係に迅速に修正されていることが理解できる。
【0074】
また、被処理材(ウェブ)を、幅:250mmから幅:200mmのPET製フィルムに変更して塗布膜を形成するため、本発明の塗工装置を用い、上記と同様な塗工方法によって行った。その結果、ダイを分解することなく、インナーディッケルを小さな挿入力で移動させて、変更したウェブ幅に対応して適正な塗工幅に迅速に設定できることを確認した。