【実施例】
【0019】
以下、本発明たる
ホイールドーリーCを図示の実施例に基づいて具体的に説明する。
まずこのものの使用状態の概要を説明する。
ホイールドーリーCは、例えば
図1に示すように、車輌整備工場に入庫した車輌Vの車輪周りの整備を行う場合に用いられるものであり、整備にあたって脱着される車輪Wを支承し、更には車軸まわりを整備する際に、取り外した車輪Wが作業の支承にならないようにこれを移動させるものである。
【0020】
この車輪Wについての一般的な整備に関して概説する。まず車輪Wは、例えば中、大型の貨物車にあってはその後輪については車輌VのデファレンシャルギヤやドライブシャフトD等の駆動部材を収めるハウジングHに対し、フルフローティング状態に支持されて、且つダブルタイヤであることが多い。このような後輪については、ダブルタイヤの状態のまま、ドライブシャフトDを中心から引き抜き、次いでダブルタイヤのまま
ホイールドーリーCに支持させるものである。またドライブシャフトDは、整備性を考慮して
ホイールドーリーCに保持させた状態で作業が継続される。
なおこのような中、大型車の場合、前述のとおり車輪Wは、ハウジングHを含む車輪支承部材に対してフルフローティングされた状態である。即ち車輪Wは、直接にはベアリングを介してハウジングHの端部外周に回転自在に支持されて上下方向の荷重をハウジングHに支承させるものであり、一方ドライブシャフトDは、車輌Vの荷重を受けることなく、純粋に回転負荷のみを受けて車輪Wを駆動するものである。
【0021】
以下
ホイールドーリーCについて説明する。このものは基台1に対し、昇降支持台2を昇降自在に設けるものであり、この昇降支持台2を回転操作部材3によって、基台1に対して平面視方向に回転させるとともに、基台1との固定関係を図るように構成されている。まず基台1について説明する。基台1は下方に一例として放射状に伸びた車輪支持フレーム11を具えるものであり、この車輪支持フレーム11の中心に一例として円筒状のシリンダ外筒を利用したポストフレーム12が設けられる。具体的には車輪支持フレーム11とこのポストフレーム12の取り付け関係は、一例としてシリンダ外筒であるポストフレーム12のベースブロック12aに対し、その側面に一対で構成されている車輪支持フレーム11の基部をボルト締めするような形で取り付けている。また車輪支持フレーム11はポストフレーム12をできるだけ下方で支持できるように、その先端で支持する自在キャスタを一例とした転動輪13の支持位置を上方に引き上げたような形態を採っている。この車輪支持フレーム11に支持される転動輪13は一例として四輪すべてに自在キャスタが適用され、基台1を移動自在に構成している。この自在キャスタを適用した転動輪13は、その一部またはすべてをブレーキ付きとすることも好ましい。また転動輪13は、四輪のうち二輪を自在キャスタとして、他の二輪を固定キャスタとしてももとより差し支えない。
【0022】
更にシリンダ外筒を利用した前記ポストフレーム12は作動油のポンピングのためのフットペダル14を具えるとともに、その側傍に油圧回路を開放するリリースペダル15を具える。なおこれらの機構自体は油圧シリンダにおいて通常適用される構成であるので、更に詳細な説明は省略する。一方このシリンダ外筒を適用したポストフレーム12の上端部にはフランジ状のロック片16が固定されるものであり、このロック片16は一例として前後左右方向に向けて4カ所に90°ずつ隔ててロック凹部16aを具える。
【0023】
このような基台1に対して昇降自在に支持される昇降支持台2について説明する。昇降支持台2はポストフレーム12に支持された昇降ロッド21の上端にベース板22を設けて、このベース板22に対しテーブル基板23を支持させる。昇降ロッド21は先に述べたようにポストフレーム12自体がシリンダ外筒を適用していることから、実質的にはシリンダ装置の摺動ロッドが利用される。すなわち昇降支持台2を昇降自在に支持するための部材として、シリンダ装置が適用されている。このようなシリンダ装置を用いるときは昇降ロッド21自体は昇降方向へ移動するほか、ポストフレーム12すなわちシリンダ外筒に対しては、回転自在に可動状態となっている。そして前記ベース板22はこの昇降ロッド21の上端に固定された一例としてほ正方形状の強度部材であり、これに対し側枠板24により全体としてトレー形状となったテーブル基板23が取り付けられている。更にこの側枠板24を利用してラックアーム25が左右一対、フォーク状に設けられる。なお
ホイールドーリーCの前後あるいは左右と言うときには、作業者が操作するために一般的に位置する側すなわち多くはフットペダル14が設けられている側を手前側あるいは後方とし、対向する側を前方とする。
【0024】
そしてラックアーム25はその自由端部がテーブル基板23より前方に張り出すものであり、一例として角パイプが適用され、更にその角パイプは対向する稜角部、すなわちコーナー部が上下に配置された形態を採る。従って例えば車輌Vの車輪Wを支持するときには車輪Wの外円弧に沿うような形でラックアーム25の支承面が配置されることとなる。このようなラックアーム25は中空状であることから、その内部を車輪Wの整備のときに取り外すことになるドライブシャフトDを一時的に保持させておくための、シャフト収め部251とする。一方ラックアーム25の先端から中間寄りにかけては、左右同一個所に適宜ピッチで、対向する内側面にロッド孔252を設ける。このロッド孔252には安全ロッド253を差し込み、例えばラックアーム25に支承したタイヤ等の安定的な保持を図るようにすること等に用いられる。またラックアーム25の手前側には更により径の大きなサービス孔254を設けるものであり、この部位を利用して例えば作業用のドライバーの柄の部分を差し置く等の用い方ができる。
【0025】
更に昇降支持台2におけるテーブル基板23には、その手前側にユティリティポスト26が設けられる。このユティリティポスト26は、一例としてパイプを逆U字型に形成してその一端を例えばラックアーム25の上面稜部に熔接固定し、他端をラックアーム25より幾分か外側に張り出させ、ポスト受けブラケット27によって支持させる。このポスト受けブラケット27は、結果的にラックアーム25から張り出すように設けられる側板部材270を有することにより、実質的にユティリティトレー271として部品あるいは工具等を仮置きできるようなスペースとすることができる。更にユティリティポスト26はその枠の内側にユティリティパネル28が設けられるものであり、このものは多孔板等が適用され、それらの孔をフック孔281として利用し、部品、トレー、工具等を吊り下げる手がかりにできるようにしている。このユティリティパネル28は手前側の部位にグリップ抜き部282が切り抜かれるように構成され、結果的にこの部位におけるユティリティポスト26を作業者が握ることができ、基台1の移動操作が行えるように構成されている。従ってこの部位のユティリティポスト26の部位を移動用握り部26aとする。なお移動用握り部26aと対向する側の前方側の垂直部位におけるユティリティポスト26はガード部26bとする。なおこのガード部26bの作用等については後述する。更に前記テーブル基板23の手前側の側枠板24には引き寄せ操作用の引き寄せ把手29が設けられている。
【0026】
このような昇降支持台2を回転させるとともに、基台1との間で相対的な位置決め、すなわち非回転状態に設定するための回転操作部材3について説明する。このものは
図5に示すように、昇降支持台2の下面に設けられたピボットブラケット30におけるピボット軸31に、長棹状の操作ロッド32の一端部を回動自在に支持した構成を採る。この操作ロッド32の他の端部である自由端側にはグリップ枠33が設けられている。この回転操作部材3たる操作ロッド32はピボット軸31において自由状態に垂下しているものであり、その状態では操作ロッド32におけるロック片16に当接する部位がロック凹部16aに嵌まり込むように係合した状態を出現させ、昇降支持台2を非回転状態に設定している。この構成において、操作ロッド32は充分に長い棹状をしているから、たとえ昇降支持台2が上死点近くにあったとしても、操作ロッド32は相対的に間隔が隔たったロック片16の位置に操作ロッド32の一部(この場合は自由端側)が必ず当接係合し、非回転状態を維持できる。そして昇降支持台2を基台1に対し相対的に回転させる場合には、回転操作部材3の操作ロッド32の自由端を上方に持ち上げるようにすれば、操作ロッド32とロック片16との噛み合いが外れ、その状態で操作ロッド32を旋回させれば昇降支持台2を適宜回転させることができる。
【0027】
本発明の
ホイールドーリーCは以上述べたような具体的な構成を有するものであり、次のように用いられる。まず最も典型的な車輌Vにおける車輪Wの取り外しのための操作について説明する。まずリフトLによってリフトアップ状態に支持された車輌Vにおける車輪Wの位置に
ホイールドーリーCを移動させる。この移動は例えば昇降支持台2におけるユティリティポスト26の移動用握り部26a等を操作して至近位置に移動させる。この際、基台1と昇降支持台2とは、操作ロッド32とロック片16との固定係合関係が維持されていることにより、両者の間での回転は阻止され、且つ基台1の車輪支持フレーム11には自在キャスタを適用した転動輪13が設けられているから、円滑に
ホイールドーリーCを移動させることができる。このようにして車輪Wの外側から
ホイールドーリーCを接近させ、車輪Wをラックアーム25によって支承させるようにフットベダル14の操作でシリンダの昇降ロッド21を上昇させる。その後、車輪WあるいはドライブシャフトDを保持するためのボルト・ナット等を取り外し、車輪Wをラックアーム25に載せた状態で支承架用台装置Cを幾分か後退させるようにする。
【0028】
なおこの作業にあたっては昇降支持台2を昇降自在に支持するための部材はすべて昇降支持台2より下方に位置しているから、整備対象である車輌Vにおける車輪Wの至近位置直下に
ホイールドーリーCを接近させることができる。このとき車輌Vにおける車輪WがハウジングH等にややきつく嵌まった状態となっている場合には、
ホイールドーリーCを単に後退させただけではその引き出しに抵抗があって、車輪Wを円滑に引き抜けないことも予想される。このような場合にはラックアーム25のロッド孔252に安全ロッド253を差し込み、車輪Wを先端側でも位置決め状態に保持することにより車輪Wの円滑な引き抜きがなし得る。そしてこのような整備の場合、作業者MはハウジングHに残ったブレーキ系統の機構等を点検整備するものであり、そのアクセスのために取り外した車輪Wをその位置から排除する必要がある。この場合にも車輪Wを大きく後退させることなく、その場で留まらせ、単に昇降支持台2のみを90°旋回させて作業者Mが要整備個所にアクセスできるようにすることが可能である。
【0029】
この操作は昇降支持台2における回転操作部材3たる操作ロッド32の下端のグリップ枠33等を引き上げるようにし、まず操作ロッド32によるロック凹部16aとの噛み合いを解除し、昇降支持台2が平面的に自由に回転できるようにする。続いて操作ロッド32を左右に例えば90°振るようにして、昇降支持台2を基台1に対して始発位置より90°旋回させ、その後再び操作ロッド32の自由端を降ろせば、再び操作ロッド32とロック片16との係合が図られ、昇降支持台2は基台1に対し、相対的にロックされた状態を呈する。結果的にこの操作により昇降支持台2におけるラックアーム25に支承されている車輪Wは、車輌Vの車軸に向かった位置から90°ずれて固定されるようになり、その位置に作業者Mが入り込むことができるスペースが生じ、そこでのブレーキ周り等の整備が行われる。
【0030】
このようにした後、再度車輪Wを車輌Vに取り付けるには再度操作ロッド32のグリップ枠33を引き上げるようにすれば、操作ロッド32とロック片16におけるロック凹部16aとの係合が解除されて、昇降支持台2の自由な回転が可能となる。その後操作ロッド32を元の位置に向かうように回転させれば、ラックアーム25に支持されていた車輪Wが車輌Vの車軸位置に向かうような姿勢をとる。このような姿勢をとらせた後、操作ロッド32を降下状態に戻せば、再び操作ロッド32の一部がロック片16のロック凹部16aと係合し、昇降支持台2と基台1とがロックされた状態となる。この状態で
ホイールドーリーCの位置を例えばユティリティポスト26における移動用握り部26aを両手で操作しながら
僅かに前進させるようにすれば、車輪Wが車輌Vから外された位置、すなわち軸芯を合わせた位置に円滑に戻り、車輌Vへの取り付け作業が簡単に行われる。この際、当然ながら基台1と昇降支持台2とはロック状態であるから、昇降支持台2側に設けられている移動用握り部26aを両手で握り、
ホイールドーリーCの移動操作を行う場合にも、その入力が確実に基台1へ伝わり、安定した移動操作が行われる。因みに仮に基台1と昇降支持台2とがロックされていない状態での移動操作を想定すると、作業者Mが移動しようとする方向性と基台1の方向性の関係が断たれているため、基台1側は作業者Mの意思に関係なく自在に回転してしまい、キャスタが床面の凹みや障害物を避けようとしてもコントロールが効かないし、歩く作業者Mの足元をキャスタが横行して危険でもある。
また、移動を停止した後、作業者Mが昇降支持台2を昇降操作をしようとしても、フットペダル14の位置が操作不可能な方向に位置してしまっている可能性が高く、使用ができない状態になってしまう。
【0031】
このような作業の際に
ホイールドーリーCの各部位が作用する状態について更に詳しく説明する。まずユティリティポスト26におけるガード部26bについては、例えばダブルタイヤではない前輪を支持するような場合、車輪Wの幅が狭いこともあって作業中に倒伏するおそれもある。このような場合には例えば車輪Wをガード部26にもたれ掛けさせるような姿勢をとることによりその支持状態を安定化させることができる。またこのようなシングルタイヤ等の場合、ラックアーム25におけるロッド孔252のうち最も手前寄りに近いロッド孔252を利用して、ここに安全ロッド253を差し込むようにすれば、シングルタイヤ等の下方がずれるようなことも防止され、より安定した支持がなし得る。
またガード部26bについては、例えば
ホイールドーリーCを車輌Vに接近させる場合にもその寸法設定を車輪Wの径より小さく設定しておけば、車輪Wの泥除け部材等、車輌V周辺の部材が存在したとしても、これらに
ホイールドーリーCを当接させてしまうことなく、充分にガード部26bを車輪Wの側面に当たるまで前進させるような用い方が可能となる。
【0032】
また昇降支持台2における引き寄せ把手29は装置中心に設けられているから、片手操作で
ホイールドーリーCを手前側に引き寄せるような操作をする場合、
ホイールドーリーCをまっすぐに引き寄せることができる。因みに移動用握り部26a用いて
ホイールドーリーCを移動させる場合にはバランスの関係で両手操作が求められる。
【0033】
また車輌Vから車輪Wを取り外すにあたり、同時にドライブシャフトDの抜き取りも行われるが、この抜き取ったドライブシャフトDはラックアーム25のシャフト収め部251を利用してそこに水平状態に収めておくことができる。このラックアーム25は一対設けられており、後輪2軸の車輌W等にあっては当然ながら片側で2本のドライブシャフトDが抜き取られることとなり、このような場合には同時に一基の
ホイールドーリーCがドライブシャフトDを収めておくことができる。またこの際、ラックアーム25を角パイプで形成し、その対向稜角部を上下に配置する場合にはシャフト収め部251の下方が下すぼまり状になっており、収納したドライブシャフトDの回転が規制され、安定した支持がされる。
【0034】
〔他の実施の形態〕
本発明は以上述べたような形態を基本的な形態とするものであり、実機としての優れた構成を有するものであるが、本発明の技術思想の中で種々の改変が可能である。例えば昇降支持台2に支持する部材についてはシリンダを適用して構成したものであるが、昇降支持台2は昇降自在に支持する部材を別途例えば二重管の入れ子状態とした部材とし、昇降シフトのアクチュエータとして別途独立したシリンダを設けることももとより可能である。
【0035】
また回転操作部材3についても操作ロッド32が昇降支持台2の回転と、その回転固定を兼用できるような形態としており、極めて合理的な構成を採っているが、他の構成も採り得る。例えば
図6(a)に示すようにロック片16は基台1に対して回転方向には移動規制されるものの、昇降支持台2の昇降に伴い上昇し得るような形態、すなわち昇降ロック片160、ロックロッド161、固定ロック板162との組み合わせの構成を採り、昇降ロック片160の部位に対し操作ロッド32のロックがされるようにしたり、あるいは
図6(b)に示すように操作ロッド32に代えて操作レバー35とワイヤ36を介してロックピン37を昇降ロック片160に係合させるような構成とすることもできる。なおこのような構成、すなわちロック片16が昇降支持台2の昇降に伴って移動する構成であっても、平面視での回転規制は基台1によりなされていることから、特許請求の範囲に記されている「基台に非回転状態に設けられている」構造となっているものである。
【0036】
更に例えばユティリティポスト26を設けないか、あるいは取り外し自在に構成しておき、テーブル基板23を比較的平板状に構成しておくときには、例えば車輌V下方から車輌Vの変速機ユニットを取り外して整備する場合、その支承台等として本発明の
ホイールドーリーCを利用できる。この場合でも変速機ユニットの周辺には種々のフレーム、シャシー部材あるいは補機類が配置されており、単にエンジンユニットから後方に引き出すだけでなく、引き出しながら適宜姿勢を変える必要があるような設計がされている場合、昇降支持台2が昇降することができながらも回転もできることにより、そのような取り外し作業にあたり円滑な作業が期待し得る。