【実施例】
【0046】
以下、実施例に基づいて本発明を詳細に説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。また、特に指摘がない場合、下記において、「部」は「重量部」を意味する。また、下記において、「エマルジョン樹脂分散体」とは、本発明のエマルジョン樹脂を含む水溶液のことを意味する。
【0047】
(実施例1)
<界面活性剤分散型顔料の調製>
先ず、以下の材料を下記の割合で混合・攪拌後、東洋精機社製のペイントシェーカを用いて、直径0.3mmのジルコニアビーズを分散メディアとして60分間分散して界面活性剤分散型顔料を得た。
(1)顔料(三菱化学社製、商品名“MCF#1000”):30.0部
(2)分散剤(ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウム塩):4.0部
(3)消泡剤(日信化学工業社製、商品名“サーフィノール104E”):0.2部
(4)水:70.8部
【0048】
<インクジェット記録用水性顔料インクの調製>
次に、上記界面活性剤分散型顔料と以下の材料とを下記の割合で混合・攪拌し、実施例1のインクジェット記録用水性顔料インクを得た。本実施例1では、エマルジョン樹脂の含有量は5重量%であり、2−ピロリドンの含有量は10重量%であった。
(1)界面活性剤分散型顔料(顔料濃度:30%):5.0部
(2)エマルジョン樹脂分散体:アクリル系エマルジョン樹脂(BASF社製、商品名“ジョンクリルPDX−7700”、ガラス転移温度:80℃、樹脂成分:48%):10.4部(樹脂成分:5重量%)
(3)シリコン系界面活性剤(ビッグケミー社製、商品名“BYK348”):1.0部
(4)防腐剤(アーチケミカル社製、商品名“プロクセルGXL(S)”):0.2部
(5)沸点が285℃以下の有機溶剤:2−ピロリドン(BASF社製):10部(10重量%)
(6)水:73.4部
【0049】
(実施例2)
エマルジョン樹脂分散体の配合量を20.8部に変更したこと、水の配合量を63.0部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2のインクジェット記録用水性顔料インクを作製した。本実施例2では、エマルジョン樹脂の含有量は10重量%であり、2−ピロリドンの含有量は10重量%であった。
【0050】
(実施例3)
エマルジョン樹脂分散体の配合量を41.7部に変更したこと、水の配合量を42.1部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例3のインクジェット記録用水性顔料インクを作製した。本実施例3では、エマルジョン樹脂の含有量は20重量%であり、2−ピロリドンの含有量は10重量%であった。
【0051】
(実施例4)
エマルジョン樹脂分散体の配合量を62.5部に変更したこと、水の配合量を21.3部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例4のインクジェット記録用水性顔料インクを作製した。本実施例4では、エマルジョン樹脂の含有量は30重量%であり、2−ピロリドンの含有量は10重量%であった。
【0052】
(実施例5)
エマルジョン樹脂分散体の配合量を41.7部に変更したこと、2−ピロリドンの配合量を20.0部に変更したこと、水の配合量を32.1部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例5のインクジェット記録用水性顔料インクを作製した。本実施例5では、エマルジョン樹脂の含有量は20重量%であり、2−ピロリドンの含有量は20重量%であった。
【0053】
(実施例6)
エマルジョン樹脂分散体の配合量を62.5部に変更したこと、2−ピロリドンの配合量を20.0部に変更したこと、水の配合量を11.3部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例6のインクジェット記録用水性顔料インクを作製した。本実施例6では、エマルジョン樹脂の含有量は30重量%であり、2−ピロリドンの含有量は20重量%であった。
【0054】
(実施例7)
エマルジョン樹脂分散体の配合量を47.6部に変更したこと、2−ピロリドンの配合量を30.0部に変更したこと、水の配合量を16.2部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例7のインクジェット記録用水性顔料インクを作製した。本実施例7では、エマルジョン樹脂の含有量は20重量%であり、2−ピロリドンの含有量は30重量%であった。
【0055】
(実施例8)
エマルジョン樹脂分散体として、BASF社製のアクリル系エマルジョン樹脂“ジョンクリル532J”(ガラス転移温度:56℃、樹脂成分:45%)を44.4部用いたこと、2−ピロリドンの配合量を20.0部に変更したこと、水の配合量を29.4部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例8のインクジェット記録用水性顔料インクを作製した。本実施例8では、エマルジョン樹脂の含有量は20重量%であり、2−ピロリドンの含有量は20重量%であった。
【0056】
(実施例9)
エマルジョン樹脂分散体の配合量を41.7部に変更したこと、2−ピロリドンの配合量を20.0部に変更したこと、水の配合量を31.1部に変更したこと、沸点が285℃を超える有機溶剤であるグリセリンを1.0部さらに添加したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例9のインクジェット記録用水性顔料インクを作製した。本実施例9では、エマルジョン樹脂の含有量は20重量%であり、2−ピロリドンの含有量は20重量%であり、グリセリンの含有量は1.0重量%であった。
【0057】
(実施例10)
2−ピロリドンの配合量を40.0部に変更したこと、水の配合量を43.4部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例10のインクジェット記録用水性顔料インクを作製した。本実施例10では、エマルジョン樹脂の含有量は5重量%であり、2−ピロリドンの含有量は40重量%であった。
【0058】
(比較例1)
エマルジョン樹脂分散体の配合量を6.3部に変更したこと、水の配合量を77.6部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、比較例1のインクジェット記録用水性顔料インクを作製した。本比較例1では、エマルジョン樹脂の含有量は3重量%であり、2−ピロリドンの含有量は10重量%であった。
【0059】
(比較例2)
エマルジョン樹脂分散体の配合量を72.9部に変更したこと、水の配合量を10.9部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、比較例2のインクジェット記録用水性顔料インクを作製した。本比較例2では、エマルジョン樹脂の含有量は35重量%であり、2−ピロリドンの含有量は10重量%であった。
【0060】
(比較例3)
エマルジョン樹脂分散体の配合量を41.7部に変更したこと、2−ピロリドンの配合量を5.0部に変更したこと、水の配合量を47.1部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、比較例3のインクジェット記録用水性顔料インクを作製した。本比較例3では、エマルジョン樹脂の含有量は20重量%であり、2−ピロリドンの含有量は5重量%であった。
【0061】
(比較例4)
エマルジョン樹脂分散体の配合量を41.7部に変更したこと、2−ピロリドンの配合量を45.0部に変更したこと、水の配合量を7.1部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、比較例4のインクジェット記録用水性顔料インクを作製した。本比較例4では、エマルジョン樹脂の含有量は20重量%であり、2−ピロリドンの含有量は45重量%であった。
【0062】
(比較例5)
エマルジョン樹脂分散体として、BASF社製のアクリル系エマルジョン樹脂“ジョンクリル775”(ガラス転移温度:37℃、樹脂成分:45%)を44.4部用いたこと、2−ピロリドンの配合量を20.0部に変更したこと、水の配合量を29.4部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、比較例5のインクジェット記録用水性顔料インクを作製した。本比較例5では、エマルジョン樹脂の含有量は20重量%であり、2−ピロリドンの含有量は20重量%であった。
【0063】
(比較例6)
エマルジョン樹脂分散体の配合量を41.7部に変更したこと、2−ピロリドンの配合量を20.0部に変更したこと、水の配合量を30.1部に変更したこと、沸点が285℃を超える有機溶剤であるグリセリンを2.0部さらに添加したこと以外は、実施例1と同様にして、比較例6のインクジェット記録用水性顔料インクを作製した。本比較例6では、エマルジョン樹脂の含有量は20重量%であり、2−ピロリドンの含有量は20重量%であり、グリセリンの含有量は2.0重量%であった。
【0064】
上記実施例1〜10及び比較例1〜6のインクジェット記録用水性顔料インクに関して、下記に示す方法によって、粘度、乾燥性、耐薬品性、密着性、吐出安定性、及び色度の評価を行った。
【0065】
(粘度)
粘度は、東機産業社製の“R100型粘度計”を用いて、25℃、コーン回転数100rpmの条件下で粘度(mPa・s)を測定した。
【0066】
(乾燥性)
上記実施例及び比較例で得られたインクジェット記録用水性顔料インクを、厚さ75μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(未処理品)上に、バーコータ(#14)により、乾燥後の厚さが1〜2μmの塗膜を形成し、60℃で3分間乾燥させることにより、評価用試料を作製した。また、乾燥温度を90℃とした場合についても同様にして評価用試料を作製した。
【0067】
次に、その評価用試料の塗膜面を、綿棒を用いて5cm擦って、綿棒へのインク付着状態を観察した。
【0068】
その結果、インクが綿棒に全く付着しない場合を乾燥性:A(優秀)、評価用試料を作製した直後はインクが綿棒にかすれる程度に付着したが、評価用試料を作製してから5分間放置した後はインクが綿棒に全く付着しない場合を乾燥性:B(良好)、及び評価用試料を作製してから5分間放置した後もインクが綿棒に付着した場合を乾燥性:C(不良)と評価した。
【0069】
(耐薬品性)
上記乾燥性評価の場合と同様にして評価用試料を作製し、その評価用試料の塗膜面を、エタノール50%を含有した水溶液を含浸させた綿棒を用いて20回擦って、塗膜の剥離の状態を観察した。
【0070】
その結果、綿棒で擦っても塗膜が全く剥がれず、塗膜の造膜性及び基材への密着性が良い場合を耐薬品性:A(優秀)、擦る回数が18回以上で剥離が見られた場合を耐薬品性:B(良好)、擦る回数が15回以上で剥離が見られ、塗膜の造膜性及び基材への密着性がやや不十分である場合を耐薬品性:C(やや不良)、及び擦る回数が15回未満で剥離が見られ、塗膜の造膜性及び基材への密着性が不十分である場合を耐薬品性:D(不良)と評価した。
【0071】
(密着性)
上記乾燥性評価の場合と同様にして評価用試料を作製し、日本工業規格(JIS)5600−5−6−1999に準拠した碁盤目剥離試験を行った。その結果、試験升目100個に対して剥離が全く見られなかった場合を密着性:A(良好)、剥離が1〜5個見られた場合を密着性:B(やや不良)、及び剥離が6個所以上見られた場合を密着性:C(不良)と評価した。
【0072】
(吐出安定性)
上記実施例及び比較例で得られたインクジェット記録用水性顔料インクをリコー社製のインクジェットプリンタ“GELJET”を用いて、A4版のXerox P紙にマイクロソフト社のワードのMS明朝文字をスタイル標準サイズ10で2000字/ページの割合で100ページ連続印字し、印字乱れの状態を観察した。また、同様にして1000頁印字した場合についても、印字乱れの状態を換算した。
【0073】
その結果、印字乱れが5箇所未満の場合を吐出安定性:A(優秀)、印字乱れが5箇所以上10箇所未満の場合を吐出安定性:B(良好)、印字乱れが10箇所以上50箇所未満の場合を吐出安定性:C(やや不良)及び印字乱れが50箇所以上の場合を吐出安定性:D(不良)と評価した。
【0074】
(色度)
上記乾燥性評価の場合と同様にして評価用試料を作製し、色相を分光測色濃度計(日本平反機材株式会社製の“X−Rite”)を用いて測定し、L、a*、b*を求めた。La*b*表示系においては、Lの値が0に近いほど黒色の明度が良好であることを示しており、ここでは、Lの値が小さいほど色度が良好であると評価した。
【0075】
表1及び表2に、実施例1〜10及び比較例1〜6のインクジェット記録用水性顔料インクの粘度、乾燥性、耐薬品性、密着性、吐出安定性、及び色度の評価結果を示した。また、インクジェット記録用水性顔料インクに含まれるエマルジョン樹脂のガラス転移温度(Tg)及び含有量と、有機溶剤の含有量についても併せて示した。
【0076】
【表1】
【0077】
【表2】
【0078】
表1及び表2から、実施例1〜10のインクジェット記録用水性顔料インクは、乾燥性、耐薬品性、密着性、及び吐出安定性の全てにおいてほぼ満足する結果が得られ、また、高品質の印刷画像を形成できた。
【0079】
一方、エマルジョン樹脂の含有量が5重量%未満の比較例1では、耐薬品性が低下した。エマルジョン樹脂の含有量が30重量%以上の比較例2では、吐出安定性が低下した。沸点が285℃以下の有機溶剤の含有量が10重量%未満の比較例3では、吐出安定性が低下した。沸点が285℃以下の有機溶剤の含有量が40重量%を超えた比較例4では、乾燥性、耐薬品性、及び密着性が低下し、印刷画像の品質も良好ではなかった。エマルジョン樹脂のガラス転移温度が60℃未満の比較例5では、耐薬品性が低下した。沸点が285℃を超える有機溶剤の含有量が1.0重量%を超えた比較例6では、耐薬品性が低下した。