【実施例1】
【0016】
本発明の実施例1を
図1〜
図4を用いて説明する。
図1は本発明の密閉型電動圧縮機の実施例1を示す縦断面図、
図2は
図1に示す吸込パイプ付近の構成を示す要部拡大断面図、
図3は
図2に示すIII部を拡大して示す拡大断面図、
図4は
図2に示すIV部を拡大して示す拡大断面図である。
【0017】
まず、
図1を用いて、本実施例1における密閉型電動圧縮機の全体構成を説明する。本実施例における密閉型電動圧縮機50は、密閉型のスクロール圧縮機で構成されており、空気調和機、冷蔵庫、冷凍庫、冷蔵・冷凍ショーケースなどの冷凍空調装置、或いはヒートポンプ式給湯装置などの冷凍サイクル装置の構成機器として用いられるものである。
【0018】
図1において、1は密閉容器、2は圧縮機構部、3は固定スクロール、3aは渦巻状に構成された固定スクロールラップ、4は旋回スクロール、4aは渦巻状に構成された旋回スクロールラップ、5はクランクシャフト、6はクランクシャフト5を回転支持するための主軸受7を具備するフレームで、該フレーム6は前記密閉型電動圧縮機50の密閉容器1に溶接などにより固定され、またこのフレーム6には前記固定スクロール3がボルト8などで固定されている。9は前記旋回スクロール4の自転を防止して旋回運動させるためのオルダムリング、10は前記圧縮機構部2を駆動するための電動機部であり、この電動機部10は前記密閉容器1に固設された固定子11と、前記クランクシャフト5と一体に回転するように構成された回転子12などから構成されている。前記回転子12には、前記圧縮機構部2との回転バランスを保つためのバランスウェイト12aが固設されている。
【0019】
前記密閉容器1は、円筒状の筒部1aと、この筒部1aの上下に溶着された上蓋部1b及び下蓋部1cにより密封され、内部を密閉空間とし、この密閉空間に上記の圧縮機構部2や電動機部10などが収容されている。また、密閉容器1の底部には油溜り13が形成され、冷凍機油(潤滑油)を貯留している。
【0020】
前記圧縮機構部2では、前記固定スクロール3のラップ3aと、前記旋回スクロール4のラップ4aが互いに噛み合わされて圧縮室14を形成している。
前記密閉容器1の上蓋部1bには、該上蓋部1bを貫通して吸込内パイプ15及び吸込パイプ16が設けられ、また、この吸込パイプ16を密閉容器1の上蓋部1bに固設するための吸込外パイプ17が設けられている。前記吸込内パイプ15と前記吸込外パイプ17は銅管で製作されている。また、本実施例では、前記吸込パイプ16は、ステンレス鋼製の内側パイプと銅製の外側パイプによる二重管構造に構成されている。
【0021】
銅製の前記吸込外パイプ17は鋼材で製作された円錐台状部材17aと、炉中ロウ付けなどの手段により予め一体構造に構成され、前記円錐台状部材17aが密閉容器1の上蓋部1bを貫通するように溶接することにより、密閉容器1と前記吸込外パイプ17の間はシールされた構造となっている。
前記密閉容器1の筒部1aには、該筒部1aを貫通して吐出パイプ18が設けられている。
【0022】
前記吸込内パイプ15は外部の冷凍サイクルに接続されて連通しており、冷凍サイクルからの冷媒ガスを密閉型電動圧縮機50内に導くように構成されている。これにより、前記圧縮機構部2が前記電動機部10により駆動されると、外部の冷凍サイクルから前記吸込内パイプ15及び吸込パイプ16を介して冷媒ガスが圧縮機構部2に設けられた吸込室19に吸入され、圧縮機構部2の圧縮室14で圧縮されて、固定スクロール3の台板3b中央部に形成された吐出口3cから、密閉容器1内の上部空間(吐出室)20に吐出されるように構成されている。また、前記上部空間20に吐出された高温の圧縮ガス(冷媒ガス)は、固定スクロール3とフレーム6の外周部と密閉容器1との間に形成されている通路(図示せず)を介して、密閉容器1内の前記電動機部側の空間に流れ、その後、圧縮された冷媒ガスは前記吐出パイプ18を介して、外部の前記冷凍サイクルへと送られる。
【0023】
前記吸込パイプ16は吸込室19の円形の吸込口19aに圧入されて締結される。本実施例では、前記吸込パイプ16は、
図2に拡大して示すように、二つの異なる金属を圧着させて製造された二重管構造となっている。即ち、前記吸込パイプ16は内側パイプ16aと、この内側パイプ16aの外側に圧着された外側パイプ16bに構成されている。そして、前記内側パイプ16aは、熱伝導率の低い材料、例えば熱伝導率が30W/(m・K)以下のステンレス鋼(SUS304の場合、熱伝導率は16W/(m・K))などで構成され、また、前記外側パイプ16bは銅材で構成されている。
【0024】
なお、このような二重管構造の吸込パイプ16は、スリーロール冷間圧延機による伸管(冷間圧延伸管)などにより容易に製作することが可能である。また、本実施例では、前記内側パイプ16aの厚さと外側パイプ16bの厚さはほぼ同一になるように構成しているが、断熱性、強度、圧入作業性、吸込内パイプ15や吸込外パイプ17とのロウ付け性などを考慮して、それらの厚さを選択すると良い。
【0025】
上述したように製作された前記二重管構造の吸込パイプ16を、前記吸込室19の円形の吸込口19aに圧入すると、吸込室19の吸込口19a内面と、強度の高いステンレス鋼で構成された前記内側パイプ16aの間に、ヤング率の低い銅で構成された前記外側パイプ16bが、前記圧入と共に圧延されて、前記吸込口19aに密着する。従って、吸込パイプ16と吸込室19との接続部のシール性を向上させることができる。
【0026】
また、本実施例によれば、吸込パイプ16を上述したような二重管構造としているので、前記吸込パイプ16を固定スクロール3の前記吸込口19aに圧入して接続する組立作業時に、組立誤差などにより、前記吸込パイプ16が多少傾斜して接続されるような場合でも、銅製の前記外側パイプ16bがその傾斜に対応して圧延され、密着させることができる。従って、吸込パイプ16が組立誤差などにより傾斜して接続される場合でも、その接続部からの漏れ量を低減できるから、組立性の向上も図れる効果がある。
【0027】
更に、本実施例によれば、断熱性能の高いステンレス鋼製の前記内側パイプ16aにより、吸込パイプ16外周側の前記上部空間内の高温高圧の圧縮ガス(冷媒ガス)から、前記吸込パイプ16内を通って吸入される低温低圧の吸込ガスへの熱伝達を抑制することができる。従って、前記吸込パイプ16から吸入される吸込ガスの温度上昇を抑えることができるから、吸込加熱損失を低減でき、体積効率を向上することができる効果もある。
【0028】
特に、冷媒としてR32やR744を使用する場合、吐出ガスと吸込ガスの温度差が大きくなるので、上述した特許文献1や特許文献2に記載されている吸込パイプのように、熱伝導率の高い材料で構成されているものでは、吸込ガスの加熱量が大きくなって体積変化も大きくなる。これに対し、本実施例による吸込パイプ16は断熱効果が大きいので、冷媒としてR32やR744を使用した場合の体積効率向上効果は特に顕著になる。
【0029】
また、本実施例においては、上述した特許文献2に記載されている吸込パイプのように、シール部品を用いて、該吸込パイプを吸込口に圧入するものではないから、吸込パイプの圧入部内径を前記シール部品によって縮小された段付き構造にする必要がない。従って、前記吸込パイプ16の全長に亘ってその内面をストレートに形成にできるため、吸込パイプ内壁面の流路損失も最小限に抑えることができ、これにより性能向上も図ることができる。
【0030】
次に、本実施例における吸込パイプ16の取り付け構造について
図2及び
図3により説明する。
前記吸込パイプ16の内面側には、冷凍サイクルと接続するための前記吸込内パイプ15がロウ付け等で接続(ロウ付け部21参照)され、また、前記吸込パイプ16の外面側は、この吸込パイプ16を前記密閉容器1の上蓋部1bに固設するための前記吸込外パイプ17に、同様に、ロウ付け等で接続(ロウ付け部23参照)される。
【0031】
ここで、前記ロウ付けとしてリン銅ロウを使用した場合、前記吸込パイプ16の内径側はステンレス鋼(非銅材)であるため、リン銅ロウはステンレス鋼とは接合し難い。そこで、本実施例では、前記吸込内パイプ15と前記吸込パイプ16とのロウ付け部21を、
図3に拡大して示すように、前記吸込パイプ16の上端部(端部)内径側に面取り22を施している。このように構成することにより、ステンレス鋼製の内側パイプ16aが銅製の外側パイプ16bの上端部(端部)より上方に突出しないので、銅製の外側パイプ16bの部分を銅製の吸込内パイプ15に強固にリン銅ロウ付けすることができる。この結果、リン銅ロウ付け性の良い構造とすることができ、ロウ付け部21における接続強度及びシール性を向上できる。
【0032】
なお、前記吸込パイプ16の外面側も、前記吸込外パイプ17に、ロウ付け部23に示すように、リン銅ロウ付けされている。このロウ付け部23は、銅製の外側パイプ16bと、銅製の吸込外パイプ17との接合となるため、容易に、強固且つシール性の良いリン銅ロウ付けが可能である。
【0033】
また、本実施例では、
図1に示すように、前記吸込室19に、密閉型電動圧縮機50の運転が停止された時に、圧縮室14側から吸込パイプ16側への冷媒ガスの逆流を防ぐため、逆止弁24が設置されている。この逆止弁24は、圧縮機50の運転が開始されると吸入される吸込ガスの流れにより、下方に押し下げられるが、運転が停止されると、前記逆止弁24は、ばね25により上方に押し上げられ、前記吸込パイプ16の下端面に当接する。従って、圧縮室14の圧縮されたガスが、低圧の吸込側に逆流するのを防止することができるようになっている。
【0034】
このように、前記逆止弁24を備える密閉型電動圧縮機50の場合、吸込パイプ16の下端面は前記逆止弁24と接して、圧縮された冷媒ガスの逆流を防ぐため、その下端面の平面度が必要となる。このため、前記吸込パイプ16には、
図2及び
図4に示すように、その下端面(逆止弁に対向する端面)外径側に面取り26が実施され、吸込パイプ16の下端面が内径側材料(内側パイプ16a)のステンレス鋼となるように形成されている。このように構成することにより、前記逆止弁24が当接する吸込パイプ16の下端面は強度の高いステンレス鋼となるから、吸込パイプ下端面の平面度を長期間保つことが可能となり、圧縮ガスの吸込側への逆流防止効果を向上できる。
【0035】
上述した実施例1の変形例を、
図5及び
図6により、以下説明する。
図5は実施例1の変形例を示す図で、
図3に相当する図である。
図3に示したものでは、吸込パイプ16の上端部内径側に面取り22を施した例を説明したが、
図5に示す変形例では、吸込パイプ16の内側パイプ16aの上端部(端部)を、外側パイプ16bの上端部(端部)よりも短くカットした構成としたものである。
【0036】
このように構成することにより、銅製の外側パイプ16b上端部側の表面積をより多くできるので、銅製の吸込内パイプ15との接続を、リン銅ロウ付けにより、より容易且つ確実にロウ付けすることができ、リン銅ロウ付け性を更に向上できる。従って、吸込内パイプ15と吸込パイプ16とのロウ付け部21における接続強度及びシール性を更に向上できる効果が得られる。
【0037】
図6も実施例1の変形例を示す図で、
図4に相当する図である。前述した
図4に示したものは、前記吸込パイプ16の下端面を、内径側材料のステンレス鋼となるように、吸込パイプ16の下端部外径側に面取り26を実施したもので、この面取り26の一部は内側パイプ16aの一部まで及んでいる。これに対し、
図6に示す変形例では、前記吸込パイプ16の外側パイプ16bの下端部外径側にのみ面取り26を施すようにしたものである。
【0038】
このように構成しても、前記外側パイプ16bはヤング率が低い銅で構成されているので、該外側パイプ16bの下端面に、仮に内側パイプ16aよりも逆止弁24側に出っ張る部分があったとしても、逆止弁24との衝突を繰り返すうちに、銅製の外側パイプ16b下端面は、ステンレス鋼製の内側パイプ16aよりも逆止弁24側に出っ張ることはなくなる。従って、前記吸込パイプ16の下端面を、内径側材料のステンレス鋼にすることができ、また前記逆止弁24と当接する面積を、外側パイプ16bの下端面も含めて、より大きくすることができるから、圧縮ガスの吸込パイプ16側への逆流をより確実に抑制できる効果が得られる。
【実施例2】
【0039】
本発明の密閉型電動圧縮機の実施例2を
図7により説明する。この
図7は、上記実施例1の
図2に相当する図である。但し、
図7においては、
図2に示す吸込パイプ16と固定スクロール2との接続部付近の構成は図示しておらず、吸込内パイプ15と吸込パイプ16の接続部、及び吸込パイプ16と吸込外パイプ17の接続部を拡大して示している。
【0040】
この実施例2は、吸込パイプ16と接続される吸込内パイプ15の接続部15aを、前記吸込パイプ16の外径より大きく拡管し、この接続部15aの内側に前記吸込パイプ16を挿入した後、この吸込パイプ16の外周面の全周に亘ってリン銅ロウ付けにより接続したものである。このように、前記吸込内パイプ15を拡管することにより、前記吸込パイプ16の銅製の外側パイプ16bとロウ付けすることが可能となるから、リン銅ロウ付けを容易に行うことができる。
【0041】
また、本実施例2では、吸込外パイプ17の直径と同じ径となるように前記吸込内パイプ15の接続部15aを拡管している。従って、
図7に示すように、吸込内パイプ15、吸込パイプ16及び吸込外パイプ17の3部品を一つのロウ付け部27で、一度にリン銅ロウ付けをすることも可能となるから、ロウ付け作業を更に容易にできる効果もある。
【0042】
更に、本実施例2によれば、上記実施例1で説明した吸込パイプ16の上端内径部の面取りを廃止することができるので、構造の更なる簡略化が図れ、低コスト化を図ることができる。なお、その他の点については上記実施例1と基本的には同一である。
【0043】
以上説明した本発明の各実施例によれば、吸込パイプ16における吸込ガスの加熱損失及び流路損失を低減することができ、更に前記吸込パイプ16の固定スクロール吸込口19aへの圧入部におけるシール性も向上できる効果がある。
【0044】
また、本発明の各実施例によれば、吸込パイプを二重管構造としているが、この二重管構造の吸込パイプは、冷間圧延伸管などにより容易に製作することができ、前記特許文献1や2などに記載されている従来の吸込パイプと比較し、構造が簡略化され、シール部品なども不要となって部品点数も低減できるから、組み立ても容易になる。従って、本発明の各実施例によれば、低コスト化を図れる効果もある。
【0045】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記実施例では、吸込パイプの内側パイプをステンレス鋼で構成しているが、熱伝導率が小さく強度が高い部材であれば良く、例えばチタンなどで構成しても良い。また、上述した実施例では密閉型電動圧縮機として密閉型スクロール圧縮機に適用した場合について説明したが、スクロール型の圧縮機に限られるものではなく、ロータリー型やレシプロ型のものにも同様に適用できるものである。
更に、上記した実施例は本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。