(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6089053
(24)【登録日】2017年2月10日
(45)【発行日】2017年3月1日
(54)【発明の名称】防食能を有する生分解性金属表面修飾ステント
(51)【国際特許分類】
A61F 2/852 20130101AFI20170220BHJP
【FI】
A61F2/852
【請求項の数】6
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2015-51923(P2015-51923)
(22)【出願日】2015年3月16日
(65)【公開番号】特開2016-168304(P2016-168304A)
(43)【公開日】2016年9月23日
【審査請求日】2015年3月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】514054133
【氏名又は名称】有限会社エスク
(73)【特許権者】
【識別番号】307028884
【氏名又は名称】株式会社 日本医療機器技研
(74)【代理人】
【識別番号】100087941
【弁理士】
【氏名又は名称】杉本 修司
(74)【代理人】
【識別番号】100086793
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅士
(74)【代理人】
【識別番号】100112829
【弁理士】
【氏名又は名称】堤 健郎
(74)【代理人】
【識別番号】100142608
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 由佳
(74)【代理人】
【識別番号】100154771
【弁理士】
【氏名又は名称】中田 健一
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 誠
(72)【発明者】
【氏名】高畠 伸幸
【審査官】
川島 徹
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2014/025526(WO,A1)
【文献】
特表2009−530024(JP,A)
【文献】
特表2001−511049(JP,A)
【文献】
特開2004−160236(JP,A)
【文献】
特開2013−215332(JP,A)
【文献】
特開2000−328261(JP,A)
【文献】
特開2005−008985(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 2/852
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半径方向に拡張可能な、接続されたフィラメントの格子からなり、頂部、側部および内側表面領域を有するマグネシウムまたはマグネシウム合金からなる生分解性の金属材料のコア構造体から形成されたステントにおいて、
オクタデシルホスホン酸、11−メタクリロイルオキシ−1,1−ウンデカンジカルボン酸、10−メタクリロイルオキシデシル=ジハイドロジェン=ホスフェート、10−アミノデシルホスホン酸および11−ヒドロキシ−1,1−ウンデカンジカルボン酸からなるグループから選ばれた酸性水酸基含有化合物が前記コア構造体表面に直接接して、前記酸性水酸基含有化合物からなる接着膜が前記コア構造体を被覆してなる、防食性が改善されたステント。
【請求項2】
請求項1において、前記接着膜の厚さが1μm以下であるステント。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、前記生分解性の金属材料に被覆された前記酸性水酸基含有化合物からなる接着膜の重量が、前記生分解性の金属材料の重量に対して、1/500以上であるステント。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載のステントを製造する方法において、前記酸性水酸基含有化合物を含む溶液を用いて、前記生分解性の金属材料に、前記酸性水酸基含有化合物からなる接着膜を被覆するステントの製造方法。
【請求項5】
請求項4において、前記酸性水酸基含有化合物を含む溶液に用いられる溶媒が、揮発性の高いアセトンもしくはテトラヒドロフランであるステントの製造方法。
【請求項6】
請求項4または5において、前記酸性水酸基含有化合物を含む溶液中に、前記生分解性の金属材料を浸漬・振盪することによって、前記生分解性の金属材料に、前記酸性水酸基含有化合物からなる接着膜を被覆するステントの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生分解性の金属材料表面に化学修飾された疎水性被膜を有するステントの防食効果に関するものである。該被膜が金属材料全面に施されることにより、金属材料の耐食性が向上する。
【背景技術】
【0002】
ステントとは、血管、気管、胆管などの生体内の管腔が狭窄や閉塞した場合、当該狭窄部を拡張し必要な管腔領域を確保するため当該部位に留置する環状の医療用具である。ステントは、管径が小さくなるよう収縮させて体内に挿入し、狭窄部等で拡張させて管径を大きくし、当該管腔を拡張・保持するのに使用される。
【0003】
例えば、近年、狭窄した血管の再建を目的として、経皮的冠動脈血管形成術(Percutaneous Transluminal Coronary Anqioplasty)(以下、PTCAと称する)により、PTCAバルーンカテーテルによる拡張、及び金属製ステントの留置による治療が行われている。当該ステントは、カテーテルに装着したバルーンに造影剤を送って膨張・拡張して形成された血管内に留置することにより、再狭窄を防止・抑制させることを企図しているものである。
【0004】
一般的なステントは、冠動脈内に留置し残存する永久インプラントであって、動脈を広げ、血流を改善し、冠動脈疾患の症状を軽減する。近年、主流となっている薬剤溶出ステントは、母材である金属表面にポリマーならびに薬剤が搭載されており、生体内に留置して数カ月に渡って再狭窄を抑制するよう、薬剤徐放能を有している。しかしながら、期待されるレベルの再狭窄抑制効果を有する一方で、薬剤が完全に溶出して数か月から数年後、残存した金属の影響によって、遅発性の血栓症が引き起こされるリスクを併せ持っている。
【0005】
このような問題点から、多くの研究者が、生分解性ステント、生体吸収性ステントに関心を寄せている。文字通り、このようなステントは、生体内に留置して数カ月に渡って血管壁を支持する役割を果たした後、徐々に消滅するという特徴を有する。つまり、血管治癒後に生体内で吸収されることで、遅発性血栓症の抑制のみならず、抗血小板抑制剤の服用期間の短縮にもつながるとされる。安全性・有効性に加えて、経済性の面でも期待されている。しかしながら、そのような分解性の金属ステントは、機械的特性、および、従来の金属ステントに見られるその他の望ましい性質を損なっている場合が多く、改良したステントの開発が必要であった。
【0006】
近年、生体内で分解することのできる金属合金の開発が進められているが(例えば、特許文献1、特許文献2参照)、これらの発明のように、生体内で安全に分解するために金属合金の組成から検討しなければならず、適切な金属合金の探索に時間がかかってしまっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】米国特許出願公開第2004/0241036号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2004/0098108号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、耐食性の劣る生分解性の金属材料表面に、疎水性被膜を施すことにより、耐食性の優れたステントを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、生分解性の金属材料の耐食性を向上させる目的において、合金組成を検討するのではなく、金属表面への化学的なアプローチによって解決できないものかと考え、検討を行った結果、オクタデシルホスホン酸を含んだ溶液を用いて、金属表面に接着膜を施すことによって、腐食が抑制されることを見出し、さらに検討を重ねることにより本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の第1の構成は、半径方向に拡張可能な、接続されたフィラメントの格子からなり、頂部、側部および内側表面領域を有する生分解性の金属材料のコア構造体が、酸性水酸基含有化合物からなる接着膜で被覆されたステントである。前記コア構造体であるステント本体は、生分解性の金属材料であるマグネシウムまたはマグネシウム合金から形成されていることが好ましい。前記コア構造体とは、金属製またはポリマー薄肉チューブに対してレーザー加工を行い、ステントとして形成し製造したものである。
【0011】
また、本発明の第1の構成において、前記酸性水酸基含有化合物が、オクタデシルホスホン酸、4−メタクリロイルオキシエチルトリメリット酸、11−メタクリロイルオキシ−1、1−ウンデカンジカルボン酸、アリルホスホン酸、10−メタクリロイルオキシデシル=ジハイドロジェン=ホスフェート、10−アミノデシルホスホン酸、11−ヒドロキシ−1,1−ウンデカンジカルボン酸、グリシジルトリメリット酸があげられるが、オクタデシルホスホン酸であることが好ましい。
【0012】
また、本発明の第1の構成において、前記接着膜の厚さが1μm以下の範囲内にあることが好ましい。
【0013】
また、本発明の第1の構成において、前記生分解性の金属材料に被覆された前記酸性水酸基含有化合物からなる接着膜の重量が、前記生分解性の金属材料の重量に対して、1/500以上の範囲内にあることが好ましい。
【0014】
本発明の第2の構成によれば、前記酸性水酸基含有化合物を含む溶液を用いて、前記生分解性の金属材料のコア構造体に、前記酸性水酸基含有化合物からなる接着膜を被覆する方法である。
【0015】
また、本発明の第2の構成において、前記酸性水酸基含有化合物を含む溶液に用いられる溶媒として、揮発性の高いアセトン、テトラヒドロフランなどがあげられるが、そのなかでもテトラヒドロフランが好ましい。
【0016】
本発明の第3の構成によれば、前記酸性水酸基含有化合物を含む溶液中において、前記生分解性の金属材料を浸漬・振盪することによって、前記生分解性の金属材料であるステント表面に、前記水酸基含有化合物からなる接着膜を高密度に被覆する方法である。
【0017】
また、本発明の第3の構成において、前記接着膜が、前記生分解性の金属材料の腐食を抑制するステントである。
【発明の効果】
【0018】
本発明の第1の構成によれば、半径方向に拡張可能な、接続されたフィラメントの格子からなり、頂部、側部および内側表面領域を有する生分解性の金属材料を、酸性水酸基含有化合物からなる接着膜で被覆することにより、生分解性の金属材料の腐食を抑制することができる。
【0019】
上記本発明の第1の構成のステントによれば、前記接着膜の厚みを1μm以下とすることによって、前記生分解性の金属材料の表面形状に影響を及ぼすことなく、防食能を付与することができる。
【0020】
さらに、上記本発明の第1の構成のステントによれば、前記生分解性の金属材料に被覆された前記酸性水酸基含有化合物からなる接着膜の重量を、前記生分解性の金属材料の重量に対して、1/500以上の範囲内に調整することによって、有意な防食能を発揮することができる。
【0021】
本発明の第2の構成によれば、前記酸性水酸基含有化合物を含む溶液を用いて、前記生分解性の金属材料のコア構造体に、前記酸性水酸基含有化合物からなる接着膜を被覆することによって、前記生分解性の金属材料に防食能を付与することができる。
【0022】
上記本発明の第2の構成のステントによれば、前記酸性水酸基含有化合物を含む溶液に用いられる溶媒として、揮発性の高いアセトンもしくはテトラヒドロフランなどが挙げられるが、そのなかでもテトラヒドロフランを用いることによって、前記生分解性の金属材料の表面に、前記酸性水酸基含有化合物からなる接着膜を効率的に被覆することができる。
【0023】
本発明の第3の構成によれば、前記酸性水酸基含有化合物を含む溶液中において、前記生分解性の金属材料を浸漬・振盪することによって、前記生分解性の金属材料の表面に、前記水酸基含有化合物からなる接着膜を効率的かつ高密度に被覆することができる。
【0024】
上記本発明の第3の構成のステントによれば、前記接着膜が、前記生分解性の金属材料の腐食を抑制することによって、機械的特性を長期的に確保することができる。
【0025】
本発明のステントは、冠動脈のステント治療に有効に用いられるが、脳動脈、腎動脈、末梢動脈のステント治療においても有効である。
【0026】
本発明のステントは
図2のクローズドセルステントでも良いし、オープンセルステントでもよく、すべてのステントにおいて有効である。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】防食能を有する生分解性金属材料表面の概念図
【
図2】本発明に基づく生分解性の金属材料からなる例示的クローズドリンク型ステントの一部分の平面図。
【
図3】FBS浸漬10日後のコア構造体の重量残存率
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の実施形態について図面にて説明する。
図1は防食能を有する生分解性金属材料表面の概念図である。
図2は本発明に基づく生分解性の金属材料からなる例示的クローズドリンク型ステントの一部分の平面図である。
図3は防食能を有する生分解性金属材料のFBS浸漬10日後のコア構造体の重量残存率を示した。
【0029】
(ステントの構成)
本発明のステントの基本構造は、(a)コア構造体、(b)コア構造体の頂部、側部および内側表面領域を被覆する酸性水酸基含有化合物からなる接着膜から構成されている。前記接着膜がコア構造体を被覆することによって、コア構造体の耐食性が向上する。
【0030】
(コア構造体の素材)
コア構造体の素材は生分解性の金属材料であることが好ましい。具体例としてマグネシウムまたはマグネシウム合金などがあげられる。マグネシウム合金としては、マグネシウムを主成分とし、Zr、Y、Ti、Ta、Nd、Nb、Zn、Ca、Al、Li、およびMnからなる生体適合性元素群から選択される少なくとも1つの元素を含有するのが好ましく、その一例としてマグネシウムが50〜98%、リチウム(Li)が0〜40%、鉄が0〜5%、その他の金属または希土類元素(セリウム、ランタン、ネオジム、プラセオジムなど)が0〜5%あげられる。コア構造体としては、外表面と内表面とを有する円筒形状を有しており、バルーン拡張型、自己拡張型、およびそれらの組み合わせであってもよい。また、ステント本体の素材であるコア構造体はフィラメントによって、複数の連結された管状部材から形成される。フィラメントは幅と厚みがほぼ一定であることが好ましい。
【0031】
(コア構造体への被覆)
本発明に用いられるコア構造体を被覆する化合物としては、酸性水酸基含有化合物が好ましい。酸性水酸基含有化合物には、オクタデシルホスホン酸、4−メタクリロイルオキシエチルトリメリット酸、11−メタクリロイルオキシ−1、1−ウンデカンジカルボン酸、アリルホスホン酸、10−メタクリロイルオキシデシル=ジハイドロジェン=ホスフェート、10−アミノデシルホスホン酸、11−ヒドロキシ−1,1−ウンデカンジカルボン酸、グリシジルトリメリット酸があげられるが、オクタデシルホスホン酸であることが好ましい。コア構造体の表面にオクタデシルホスホン酸を担持させる方法としては、オクタデシルホスホン酸を適当な溶剤(揮発性であるアセトンもしくはテトラヒドラフラン)に溶かして調製したコーティング液中にステントを浸漬し、引き上げて溶剤を乾燥させるディッピング法、オクタデシルホスホン酸を溶解した溶液を霧状化してステントに吹き付けるスプレイ法、オクタデシルホスホン酸を溶解した溶液を別々な溶剤に溶解し2本のノズルから同時にステントに吹き付ける2重同時スプレイ法などが挙げられ、本発明においては上記のいずれの方法も適用可能であるが、オクタデシルホスホン酸を適当な溶剤(アセトンもしくはテトラヒドラフラン)に溶かして調製したコーティング液中にステントを浸漬し、引き上げて溶剤を乾燥させるディッピング法が、効率的かつ高密度に接着膜を被覆することができるので好ましい。
【0032】
(接着膜の組成)
本発明において、コア構造体に被覆される接着膜は、上記のように酸性水酸基含有化合物から構成される。接着膜がコア構造体の表面を均一に被覆することによって、防食能が発揮されるため、前記接着膜は複数の化合物でなく、単独の化合物から構成されるのが好ましい。
【0033】
(接着膜の形成に用いられる溶剤の選択)
本発明に用いられる溶剤としては、酸性水酸基含有化合物を溶解可能で、且つディッピング後に容易に除去可能である、沸点100℃未満の揮発性溶剤が望ましい。このような溶剤として、メタノール、エタノール、トリフルオロエタノール、ヘキサフルオロイソプロパノールのほか、酢酸エチル、酢酸メチル、酢酸ブチルなどの低級アルキルエステル(炭素数:6以下)溶剤、アセトン、メチルエチルケトンなどの低級アルキルケトン(炭素数:6以下)溶剤、塩化メチレン、クロロホルム、ジクロロエタンなどの低級ハロゲン化炭化水素(炭素数:4以下)、テトラヒドロフランなどが例示されるが、アセトン、テトラヒドロフランを使用するのが好ましい。
【0034】
(接着膜の厚み)
本発明において、コア構造体に被覆された接着膜が、コア構造体の表面形状に影響を及ぼすことなく、コア構造体に防食能を付与するためには、1μm以下の範囲内の厚みにするのが望ましい。接着膜の厚みが1μmを超えると、コア構造体の表面形状に影響を及ぼし、コア構造体本来の機能を損なう恐れがある。したがって、これらの被覆条件が満たされるように、コーティング液組成およびコーティング条件が選択される。
【0035】
(接着膜の形成方法)
本発明において、接着膜は、オクタデシルホスホン酸を易揮発性溶剤(例えばフッ素系アルコール)に溶解した溶液をコア構造体の表面に噴霧するか、コア構造体を該溶液に浸漬することにより、コア構造体に塗布し、乾燥することにより形成される。本発明において、オクタデシルホスホン酸から形成される接着膜は、円筒状のステント本体の全面に被覆される。この場合には、コア構造体を該溶液に浸漬することにより、コア構造体に塗布し、乾燥することにより行うのが好ましい。
【0036】
(接着膜の重量)
本発明において、コア構造体に被覆された接着膜が、コア構造体の表面形状に影響を及ぼすことなく、コア構造体に防食能を付与するためには、コア構造体の表面に被覆された前記酸性水酸基含有化合物からなる接着膜の重量が、前記生分解性の金属材料の重量に対して、1/500以上の範囲内にするのが望ましい。接着膜の重量が1/500未満であると、コア構造体への被覆が十分ではないため、有意な防食能が得られない。したがって、これらの被覆条件が満たされるように、コーティング液組成およびコーティング条件が選択される。
【実施例】
【0037】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、これらの実施例は本発明の限定を意図するものではない。実施例中で用いる材料、使用量、濃度、処理温度などの数値条件、処理法などは本発明の範囲内における好適例にすぎない。
【0038】
図2に示すデザインを有する加工時の外径=1.6mmφ、拡張後内径=3mmφ、長さ18mm、全表面積=0.80cm
2のステントを本試験に使用し、サンプル数は3本であった。また、コア構造体の材料としてマグネシウム合金を使用した。本試験での加工後のコア構造体の本体の厚みは、105±5μmであった。実施例中に記載した「振盪」はヤマト科学株式会社製CO2インキュベーター IP400で行った。
【0039】
(ステント作製方法)
オクタデシルホスホン酸6.7μgをテトラヒドロフラン2mLに溶解してコーティング液(10μmol/mL)を調製した。
図1に示すデザインを有するマグネシウム合金からなるステントをコーティング液に3日間浸漬、振盪した。次に、抽出したステントを超純水で洗浄し、24時間減圧乾燥することでテトラヒドロフランを完全に除去した。このようにして、オクタデシルホスホン酸からなる接着膜によって全面被覆されたステントを作製した。
【0040】
(耐食性試験)
上記により作製されたステントと非被覆ステントの2種類の耐食性試験を行った。各ステントを清浄な密閉ガラス容器に入れ、30mLのFBS溶液を加えた。ステント全体が液中で浸漬された状態で、10日間、37℃恒温器内で振盪をおこなった。次に、FBS溶液から抽出したステントを超純水で洗浄し、さらに付着した腐食生成物を取り除いた後に重量を測定した。そして、耐食性試験(FBS浸漬)前のコア構造体の重量をもとに、重量残存率を算出した。なお、腐食生成物を取り除く溶剤にはクロム酸溶液を用いた。表1に、接着膜被覆ステント作製前後の重量、表2に、FBS浸漬10日後のコア構造体の重量残存率を示す。
【0041】
【表1】
【0042】
【表2】
【0043】
表1に示す通り、コア構造体の重量に対して、1/500以上の範囲内にあるオクタデシルホスホン酸からなる接着膜が、コア構造体の表面に被覆されたステント(接着膜被覆ステント)を調製した。表2より、非被覆ステントをFBSに浸漬して10日後、非被覆ステントのマグネシウム合金重量残存率は、83.4±1.9%であった。このことから、FBS中でマグネシウム合金の腐食が進行したことが確認された。一方で、調製した接着膜被覆ステント(88.7±2.4%)は、非被覆ステントに比べて、マグネシウム合金の腐食を有意に抑制することができた。これは、疎水性接着膜によってもたらされる防食効果である。以上のことから、疎水性接着膜が、生分解性の金属材料の腐食を抑制することによって、機械的特性を長期的に確保することができることが示唆された。
【0044】
本発明の特定の実施形態について説明を行ったが、この技術分野における同業者は本明細書において記述された上記の実施形態を容易に修正することができることは明らかである。従って、本発明は、この明細書で示された特定の実施形態に限定されることなく、他のいかなる修正、変更、実施の形態への利用に適用されるものであり、それゆえに、他のすべての修正、変更、実施形態は、本発明の精神および範囲内に入るものとみなされるべきである。
【符号の説明】
【0045】
1 全リンク型ステント