特許第6089141号(P6089141)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6089141
(24)【登録日】2017年2月10日
(45)【発行日】2017年3月1日
(54)【発明の名称】複合型電線
(51)【国際特許分類】
   H01B 7/04 20060101AFI20170220BHJP
   H01B 7/00 20060101ALI20170220BHJP
【FI】
   H01B7/04
   H01B7/00
【請求項の数】6
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-171825(P2016-171825)
(22)【出願日】2016年9月2日
【審査請求日】2016年9月5日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】500543775
【氏名又は名称】株式会社ジーエスエレテック
(73)【特許権者】
【識別番号】395005169
【氏名又は名称】三洲電線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100080045
【弁理士】
【氏名又は名称】石黒 健二
(72)【発明者】
【氏名】奥田 信吾
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 義弘
(72)【発明者】
【氏名】磯貝 隆雄
【審査官】 和田 財太
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−034834(JP,A)
【文献】 特開2015−187956(JP,A)
【文献】 特開2010−257701(JP,A)
【文献】 実開昭61−023127(JP,U)
【文献】 実開昭62−176913(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被覆絶縁母材内に一箇所または複数箇所の撚線部(3)を設け、これら撚線部(3)は親撚線部(5)として構成され、子撚線部(4)として中径撚線部(8)を有する複合型電線(1)において、
前記子撚線部(4)を、中心細線(6)と前記中心細線(6)の外周部に各層が複数本から成る細径線(7)を複数層に密着配置した中径撚線部(8)として構成し、
前記中心細線(6)と前記複数層の前記細径線(7)とが同芯配置となるように前記各層の前記細径線(7)の本数を設定構成し、
前記親撚線部(5)を、芯線(9)の外周部に複数の前記中径撚線部(8)を撚り合わせて成る大径撚線部(10)として構成し、
前記芯線(9)の外周面は、前記中径撚線部(8)の一部が面接触状態に密着するように曲面状部(9a)を成していることを特徴とする複合型電線(1)
【請求項2】
前記中径撚線部(8)における前記複数層の前記細径線(7)は二層から成り、前記中心細線(6)の周り配置された第1層が6本の前記細径線(7)から成り、第2層が12本の前記細径線(7)から成ることを特徴とする請求項1に記載の複合型電線(1)。
【請求項3】
前記芯線(9)は、線長回り方向Nに螺旋状の捩じれ溝(9b)を構成し、前記捩じれ溝(9b)に沿って前記中径撚線部(8)が配置されていることを特徴とする請求項1に記載の複合型電線(1)。
【請求項4】
前記芯線(9)は線長方向に沿って中空であり、前記大径撚線部(10)をコネクタ(11、12)に接続した時に前記芯線(9)と前記コネクタとが連通することを特徴とする請求項1に記載の複合型電線(1)
【請求項5】
前記芯線(9)は、ポリウレタン樹脂により形成されていることを特徴とする請求項1に記載の複合型電線(1)
【請求項6】
前記芯線(9)を形状記憶ポリマーにより形成し、周囲温度の上昇に伴って、前記芯線(9)が線長回り方向Nに捩じり変形し、前記中径撚線部(8)の前記細径線(7)が前記芯線(9)の外表面に沿って撚線方向に巻き締まるように設定したことを特徴とする請求項1に記載の複合型電線(1)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、屈曲性や耐摩耗性に優れ、振動や屈曲力が繰り返し加わる部位への配索に好適の複合型電線に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車の製造業界では、電装品へ電力の供給のため、種々の電線が接続用に搭載されている。この種の適用例としては、ABS(アンチロック・ブレーキング・システム)、EPB(エレクトリック・パーキングブレーキ)、AVS(アダプティブ・バリアブル・サスペンションシステム)、EMB(エレクトリック・モータブレーキ)やWSS(ホイール・スキッドシステム)等に対するセンサーへの接続がある。但し、EMBについては、現在というより、むしろ将来的な適用が考えられる。
【0003】
一般に、電線の導体材料としては軟銅が使用され、線径寸法が0.26mmの素線では、37本撚り合わせて所定の電気容量を確保している。
近年、自動車において、振動や屈曲を繰り返し受ける部位への配索については、SN曲線として100万回の屈曲で破断(断線)に至ることがないようにする必要がある。
一例として、線径寸法が0.26mmの軟銅製素線を37本撚り合わせて2.0平方ミリメートの断面積を有する導体を4本組にした場合、振動屈曲試験では、要求される高屈曲性能にまでは至らないという記述がある(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
特許文献2には、複数の素線が同一ピッチで多層に同芯撚りされており、撚線導体断面の占有率が99%以上となるように円形圧縮している。これより、撚線導体の可撓性を高くして、圧接時に接続部の信頼性を向上させた圧接端子用電線およびその導体の製造方法がある。
特許文献3には、3本の金属素線を撚り合わせた導体を超音波溶接により溶接強度を向上させた電線導体が掲載されている。金属素線をCu−Sn合金、Cu−Mg合金、Cu−Ag合金あるいはCu−Ni−Si合金とし、電線導体の引張強さを400〜1300MPaの範囲内に設定している。
【0005】
特許文献4には、自動車用電線の導体として使用され、導体断面積が比較的小さな電線であっても、高強度および高伸びを呈し、耐衝撃に優れてピール力を向上させた銅合金撚線、被覆電線およびワイヤーハーネスが開示されている。具体的には、素線伸びを5%以上に設定し、酸素(O)の含有量が20ppm以下であり、導電率が62%IACS以上で、引張強さを450MPa以上に設定している。
特許文献5には、子撚導線同士の摩耗を最上限に抑えて十分な耐屈曲性および引張強度を確保可能な耐屈曲ケーブルが開示されている。すなわち、複数の素線を撚った複数の子撚導線を円周方向に並べ、撚り合せることで撚線体を構成し、円周方向に隣り合う子撚導線における素線の撚り方向が互いに逆方向となるように設定している。
【0006】
なかでも、ABS(アンチロック・ブレーキング・システム)で使用される車両の配索用電線は、ABSセンサーケーブルSとして知られている。ABSサンサーケーブルSは、図10(a)に示すように、2本の絶縁電線50、51の外周を電子線照射により架橋した熱可塑性ポリウレタンエラストマーのシース材52で被覆しており、車輪の回転数を検出する車輪速センサーと電子制御ユニット(ECU)との間の信号電送を担う機能を有している。
【0007】
ABSサンサーケーブルSの中間部は、電子制御ユニット(ECU)から車体の裏側に露出状態で導出させ、他端部を車輪サスペンションのショックアブソーバ経由で接続し、厳しい外部環境下に晒している。このため、センサーケーブルSには、高屈曲性能に加えて、車両走行時に路上の飛び石などの打撃を受けても損傷しない十分な耐衝撃性能が要求されている。
【0008】
この一例として、図10(b)、(c)に示すように、絶縁電線50、51が三本の小撚り導線体53から成る親撚り導線体54で構成されたものがある。各小撚り導線体53は、中央に配置した一本の銅合金素線53aの外周囲に、六本の中間銅合金素線53bおよび九本の最外殻銅合金素線53cを順に密着配置して樹脂製絶縁体55(ex.ポリエチレン)で被覆したものである。
【0009】
この際、小撚り導線体53は3本から成り、素線53a〜53cは1、6、9本で各直径が0.08mmであることから、「3/16/φ0.08」と慣用的に記述されている。
ところが、「3/16/φ0.08」の配置の素線53a〜53cは、最外殻銅合金素線53cが残りの素線53a、53bから芯ずれし、同芯的に積層配置することが困難で、同芯撚りを妨げている。このため、小撚り導線体53を図10(d)に示す成型ダイスEに通過させることが難しく、小撚り導線体53では、素線53a〜53cの圧縮成型による密着化を図るに至っていない。
【0010】
この場合、小撚り導線体53には、線長方向の通気性を確保できるものの、図10(e)に示すように、センサーケーブルSを接続端子56のバレル56aにかしめるべく、センサーケーブルSの被覆を剥ぐと、小撚り導線体53の素線53a〜53cがスプリングバック現象などに起因して、ばらけてしまうという不都合が生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2005−197135号公報
【特許文献2】特開平6−251633号公報
【特許文献3】特開2012−146431号公報
【特許文献4】特開2015−86452号公報
【特許文献5】特開2011−192533号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特許文献1では、高屈曲性能を確保するため、小径素線としてCu−Sn合金(0.2%〜0.3%で、残部がCuとなる)の細線を複数本撚り合わせて電導体を構成している。また、複数本の小径素線を撚り合わせて中径撚線を構成し、さらに中径撚線を複数本撚り合わせた二重撚線を具現化している。
【0013】
しかしながら、近時の自動車業界では車両の軽量化に重点をおいていることから、電線に対する軽量化も要請されており、特許文献1は高屈曲性能の確保を目指すものの、軽量化という観点からは不十分である。また、電線の配索は、車両の床下で外部に露出しているため、車両の走行時に路上の飛び石などが衝突しても損傷を受けないように高強度および耐衝撃性を有することが要請されている。
【0014】
他の特許文献2〜5においては、各自の目的達成のため独自の構成を有するものの、電線の軽量化という点では、特許文献1と同様に改良の余地がある。
また、図10(a)〜(c)に示すABSセンサーケーブルSでは、上述したように、小撚り導線体53の素線53a〜53cの圧縮化による密着化が図られていないため、小撚り導線体53に線長方向の通気性は確保できるものの、接続端子56の取付け時に被覆を剥ぐと、小撚り導線体53の素線53a〜53cがばらけてしまう不都合がある。
【0015】
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的は、高強度、耐摩耗性、耐衝撃性、高屈曲性能および高耐振動性を確保しながらも、細径線群の圧縮成型を可能とし、線長方向の通気性を確保するとともに、接続端子への取付け時に被覆を剥いでも素線がばらけることのない複合型電線を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
(請求項1について)
被覆絶縁母材内に一箇所または複数箇所の撚線部を設け、これら各撚線部は親撚線部として構成され、子撚線部として中径撚線部を有する複合型電線において、子撚線部を、中心細線と中心細線の外周部に各層が複数本から成る細径線を複数層に密着配置した中径撚線部として構成する。
中心細線と複数層の細径線とが同芯配置となるように各層の細径線の本数を設定し、親撚線部を、芯線の外周部に中径撚線部を撚り合わせて成る大径撚線部として構成する。
芯線の外周面は、中径撚線部の一部が面接触状態に密着するように曲面状部を成している。
【0017】
請求項1では、子撚線部を中心細線と細径線から成る中径撚線部として構成し、大径撚線部(=親撚線部)は、芯線の外周部に複数の中径撚線部(=子撚線部)を密着配置状態に撚り合わせて構成している。れにより大径撚線部(=親撚線部)に高強度、耐衝撃性、高屈曲性能および高耐振動性を確保することができる。
また、中心細線と複数層の細径線とが同芯配置となるように、各層の細径線の本数を設定しているので、接続端子への取付け時に被覆を剥いでも素線がばらけることのない。
しかも、芯線の外周面は、中径撚線部の一部が面接触状態に密着するように曲面状部を成す。このため外周の中径撚線部同士が局部的に圧接し合うものと異なり、曲面状部に対する応力が均等に分配され、断線の虞がなくなる。
【0018】
(請求項2について)
中径撚線部における複数層の細径線は二層から成り、第1層が6本の細径線から成り、第2層が12本の細径線から成る。
これにより、中心細線と複数層の細径線とが同芯配置可能となり、細径線群の圧縮成型を可能とし、高強度、高屈曲性能および高耐振動性を確保しながらも軽量化を達成することができる。
【0019】
(請求項3について)
芯線は線長回り方向に螺旋状の捩じれ溝を形成し、捩じれ溝に沿って中径撚線部が配置されている。これにより、芯線に対する中径撚線部の配置状態を安定させることができる。
【0020】
(請求項4について)
芯線は線長方向に沿って中空に形成され、その内部を中空部としている。このため、大径撚線部を第1コネクタと第2コネクタとの間に接続した時、芯線と両コネクタとが中空部を介して連通する。このため、芯線の中空部が負圧にならず、湿気を帯びた外気を中空部に吸引侵入させることがなくなり、検出用のセンサなどの電子部品に対する被水を抑制することができる。
【0021】
(請求項5について)
芯線はポリウレタン樹脂により形成されている。このため、芯線に柔軟性が得られて屈曲性をつ向上させることができる。
【0022】
(請求項6について)
芯線を形状記憶ポリマーにより形成し、周囲温度の上昇に伴って、芯線が線長回り方向に捩じり変形し、中径撚線部の細径線が芯線の外表面に沿って撚線方向に巻き締まるように設定している。
この場合、芯線が線長回り方向に捩じり変形して中径撚線部の細径線を芯線の周りに撚線方向に巻き締まるため、中径撚線部のバラケを効果的に防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】複合型電線を示す拡大横断面図である(実施例1)。
図2】(a)、(b)は子撚線部を芯線に装着して親撚線部(大径撚線部)を形成する動作を示す横断面図である(実施例1)。
図3】(a)、(b)は芯線を線長回り方向に捻ることで捩じり溝を形成する動作を説明する斜視図である(実施例1)。
図4】(a)、(b)は親撚線部(大径撚線部)を示す斜視図である(実施例1)。
図5】(a)は中空に形成した芯線を示す斜視図(実施例2)、(b)は芯線を捻ることで捩じり溝を形成する動作を説明する斜視図である(実施例2)。
図6】複合型電線(大径撚線部)を第1コネクタと第2間コネクタとの間に接続する態様を示す斜視図である(実施例2)。
図7】(a)〜(c)は芯線を異なる横断面形状に形成した親撚線部を示す横断面図である(実施例3)。
図8】(a)〜(c)は芯線を異なる横断面形状で中空に形成した親撚線部を示す横断面図である(実施例4)。
図9】(a)〜(d)は芯線を異なる横断面形状に沿って中空に形成した親撚線部を示す横断面図である(実施例5)。
図10】(a)は複合型電線を示す外観図(従来)、(b)は複合型電線を示す横断面図(従来)、(c)は親撚り導線体を示す拡大横断面図(従来)、(d)は成型ダイスを示す縦断面図、(e)は複合型電線の接続端子への取付け態様を示す斜視図である(従来)。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の技術的特徴として、子撚線部を中径撚線部として構成し、親撚線部を大径撚線部として構成している。これにより、中径撚線部の細径線群の圧縮成型を可能とし、接続端子への取付け時に被覆を剥いでも素線がばらけることがなくなる。
【実施例】
【0025】
〔実施例1の構成〕
図1ないし図4に基づいて本発明の実施例1を説明する。
本発明に係る複合型電線では、例えば自動車に装備されたABS(アンチロック・ブレーキングシステム)やEPB(エレクトリック・パーキングブレーキ)などの電装品の駆動用のセンサ(図示せず)から電気制御ユニット(ECU)への信号伝送のために搭載されている。電源としては、薄型矩形状の電池を単体の二次電池として左右方向に沿って複数個並列させて重ね合せた電池集合体(セル一列積層体)を用いている。
【0026】
複合型電線1(ex.φ0.40mm)においては、図1に示すように、被覆絶縁母材2(ex.φ0.40mm)内に、例えば二箇所の撚線部3を設けている。二箇所の撚線部3のうち一方を電池集合体の正極に接続し、他方を電池集合体の負極に接続するようになっている。各撚線部3は、子撚線部4(=中径撚線部8)を後述する芯線9の周りに撚り合わせて成る親撚線部5として構成されている(撚線部3=親撚線部5)
子撚線部4については、図2(a)の上部および左右のそれぞれに示すように、中心細線6(ex.φ0.07mm)と、中心細線6の外周部に密着配置した複数の細径線7(ex.φ0.07mm)とから成る細径線群を中径撚線部8として構成している(子撚線部4=中径撚線部8)。中径撚線部8は、絶縁被覆7A(例えば、ポリエチレン)により一体的に埋設された状態に形成されている。中径撚線部8における細径線7同士は略密着する状態にあるものの、細径線群間に微小な隙間が生じていてもよい。
【0027】
すなわち、子撚線部4においては、一本の中心細線6の外周部に第1層として6本の細径線7を設定し、第2層として12本の細径線7を設定している。第1層および第2層として細径線7の本数を上記のように設定することにより、中心細線6の回りに第1層の細径線7と第2層の細径線7とを同芯配置することが可能となる。
【0028】
これにより、子撚線部4の最外層の細径線7群が他の層から芯ズレすることがなくなり、撚線装置の成型ダイス(図示せず)により、子撚線部4の径寸法が所定値になるように圧縮成型可能となる(圧縮率:ex.1%〜20%の範囲)。
この場合、第1層としては、6本の細径線7から成る細径線群とし、第2層としては、12本の細径線7から成る細径線群とし、中心細線6および各細径線7の直径が一様に等しく0.07mmであることから、「3/19/φ0.07」の記述方式が慣用的に使われている。なお、子撚線部4の細径線7群は撚り合せ構造に限らず、素線群を同芯的に密着配置するようにしてもよい。
【0029】
撚線部3でもある親撚線部5については、図2(b)に示すように、芯線9と、この芯線9の外周部に複数の中径撚線部8を密着配置状態に撚り合わせて構成した大径撚線部10(ex.φ0.35mm)としている(親撚線部5=大径撚線部10)。芯線9の外周面は、中径撚線部8の一部が面接触状態に密着するように曲面状部9aを成している。
【0030】
芯線9は、例えば柔軟性に富むポリウレタン樹脂により、図3(a)に示すように、横断面が凹型の曲面三角形状に形成されている。芯線9は、図3(b)に示すように、線長回り方向Nに捻ることにより、螺旋状の捩じれ溝9bを構成し、捩じれ溝9bに沿って中径撚線部8が配置されている。これにより、中径撚線部8の一部が捩じれ溝9bの内周面(曲面状部9a)に面接触状態に密着し、芯線9に対する中径撚線部8の配置状態を安定させている(図4(a)、(b)参照)。
【0031】
なお、中心細線6、細径線7、子撚線部4(=中径撚線部8)および大径撚線部10(=撚線部3かつ親撚線部5)は、いずれも断面円形状に形成され、銅合金(Cuに対して0.01重量%〜0.3重量%以内で、Sn、Ni、In、Zn、Cr、Al、Pのうち一種または二種以上の添加を許容している)により設けられている。また、芯線9は、ポリウレタン樹脂に代わって、EPDM(エチレン・プロピレン・ジエン・メチレンゴム)などのラバーライクな樹脂材により形成してもよい。
【0032】
〔実施例1の効果〕
実施例1では、子撚線部4を中心細線6と細径線7から成る中径撚線部8として構成し、大径撚線部10(=親撚線部5)は、芯線9の外周部に複数の中径撚線部8(=子撚線部4)を密着配置状態に撚り合わせて構成している。れにより大径撚線部10(=親撚線部5)に高強度、耐衝撃性、高屈曲性能および高耐振動性を確保することができる。
【0033】
また、中心細線6と複数層(第1層、第2層)の細径線7とが同芯配置となるように、各層の細径線7の本数を設定しているので、細径線7から成る細径線群の成型ダイスによる圧縮成型を可能とし、接続端子への取付け時に絶縁被覆7Aを剥いでも素線がばらけることない。
しかも、芯線9の外周面は、中径撚線部8の一部が面接触状態に密着するように曲面状部9aを成す。この結果、外周の中径撚線部8同士が局部的に圧接し合うものと異なり、曲面状部9aに対する応力が均等に分配されるようになって断線の虞がなくなる。
【0034】
また、中径撚線部8の細径線7は19本であり、大径撚線部10を構成する中径撚線部8は3束に設定している。このため、高強度、高屈曲性能および高耐振動性を確保しながらも軽量化を達成する点で有利となる。
なお、複合型電線1における撚線部3は、二箇所に代わって一箇所だけ設けた単線として構成してもよく、3束以上の複数配置するようにしてもよい。
【0035】
〔実施例2の構成〕
図5および図6は本発明の実施例2を示す。実施例2が実施例1と異なるところは、図5(a)に示すように、芯線9を線長方向に沿って中空に形成し、その内部を中空部9cとした上で、線長回り方向Nに捩じって形成したことである(図5(b)参照)。
この場合、図6に示すように、複合型電線1(大径撚線部10)を第1コネクタ11と第2コネクタ12との間に接続した状態では、第1コネクタ11と第2コネクタ12との間が芯線9の中空部9cを介して連通する。この結果、芯線9の中空部9cが負圧にならず、湿気を帯びた外気を中空部9cに吸引侵入させることがなくなり、検出用のセンサなどの電子部品に対する被水を抑制することができる。
【0036】
〔実施例3の構成〕
図7は本発明の実施例3を示す。実施例3が実施例1と異なるところは、芯線9の横断面積が内方に向かって凹となるように、曲面四角形、曲面五角形および曲面六角形に形成したことである(図7(a)、(b)、(c)参照)。これらの曲面状部9a(9b)には、子撚線部4の一部が面接触するように密着状態に当接している。
【0037】
〔実施例4の構成〕
図8は本発明の実施例4を示す。実施例4が実施例3と異なるところは、芯線9を中空にし、その内部に線長方向に沿う中空部9cを設けたことである(図8(a)、(b)、(c)参照)。
このため、実施例4では、実施例2において、複合型電線1(大径撚線部10)を第1コネクタ11と第2コネクタ12との間に接続する際、実施例2と同様な効果を得ることができる。
【0038】
〔実施例5の構成〕
図9は本発明の実施例5を示す。実施例5が実施例4と異なるところは、芯線9の線長方向に沿う中空部9cが芯線9の横断面形状に沿った形状となっていることである(図9(a)、(b)、(c)、(d)参照)。
このように中空部9cを形成しても、複合型電線1(大径撚線部10)を第1コネクタ11と第2コネクタ12との間に接続する際、実施例2と同様な効果が得られる。
【0039】
なお、芯線9を超弾性部材(形状記憶ポリマー)により形成し、周囲温度の上昇に伴って、芯線9が線長回り方向Nに捩じり変形し、中径撚線部8の細径線7が芯線9の外表面に沿って撚線方向に巻き締まるように設定してもよい。
【0040】
この場合、芯線9が線長回り方向Nに捩じり変形して、中径撚線部8の細径線7が芯線9の周りに撚線方向に巻き締まるため、中径撚線部8のバラケを効果的に防ぐことができる。
この芯線9が周囲温度の上昇に伴って、線長回り方向Nに捩じり変形する場合、芯線9は実施例1のように、内周面に曲面状部9aを有する捩じれ変形前の直線状になっていてもよく、あるいは捩じれ溝9bを有する捩じれ状にっていてもよい。
【0041】
〔変形例〕
(a)芯線10としては、ポリウレタン樹脂に代わって、ポリアミド(PA)、ポリエステル、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアセタール、ポリカーボネート(PC)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン(PE)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)あるいはシンジオタクチックポリスチレン(SPS)などのエンジニアリングプラスチック材料を用いてもよい。また、被覆絶縁母材2としても、ポリエチレンの外、上記プラスチック材料から所望のものを選択してもよい。
【0042】
(b)一本の中心細線6の外周部に第1層として6本の細径線7を設定し、第2層として12本の細径線7を設定したが、これに限らず、第1層の細径線7と第2層の細径線7との本数関係は、中心細線6の回りに第1層の細径線7と第2層の細径線7とを同芯配置可能であればよい。細径線7は第1層および第2層に限らず、第3層、第4層、第5層など複数層に同芯配置してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明では、子撚線部を中径撚線部から構成し、親撚線部を大径撚線部として構成しているので、柔軟性に富み、高強度、耐摩耗性、耐衝撃性、高屈曲性能および高耐振動性を確保しながらも、線長方向の通気性を確保するとともに、細径線群の圧縮成型が可能となり、接続端子への取付け時に被覆を剥いでも素線がばらけることのない。これらの有用性に着目した関連事業からの需要が喚起され、関連部品の流通を介して機械産業に貢献可能となる。
【符号の説明】
【0044】
1 複合型電線
2 被覆絶縁母材
3 撚線部
4 子撚線部
5 親撚線部
6 中心細線
7 細径線
8 中径撚線部
9 芯線
9a 曲面状部
9b 捩じれ溝
9c 中空部
10 大径撚線部
11、12 コネクタ
N 線長回り方向
【要約】
【課題】子撚線部、中径撚線部、親撚線部および大径撚線部を備え、細径線群の圧縮成型を可能とし、線長方向の通気性を確保するとともに、接続端子への取付け時に被覆を剥いでも素線がばらけることのない複合型電線を提供する。
【解決手段】子撚線部4を中径撚線部8として構成し、親撚線部5を大径撚線部10として構成しているので、柔軟性に富み、高強度、耐摩耗性、耐衝撃性、高屈曲性能および高耐振動性を確保しながらも、線長方向の通気性を確保するとともに、接続端子への取付け時に被覆を剥いでも素線がばらけることのない。しかも、芯線9の外周面は、中径撚線部8の一部が面接触状態に密着するように曲面状部9aを成す。これにより、外周の中径撚線部同士が局部的に圧接し合うものと異なり、曲面状部9aに対する応力が均等に分配されるようになって断線の虞がなくなる。
【選択図】図1
図1
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図10