(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0029】
続いて、図面を参照して、本発明に係る眼内光学片挿入器具及びその取り扱い方法について説明する。なお、各図面において、IOLインジェクターからIOLが押し出される側を前方、一端又は先端側とし、その反対側を後方、他端又は終端側として説明する。
【0030】
図1に示すIOLインジェクター100は眼内光学片挿入器具の一例を構成し、患者の眼内へ眼科用の光学片(以下でIOL1という)を挿入するように操作可能なものである。IOLインジェクター100は、本来、注射器のピストン(軸基部)と直結されていたプランジャー(押出し部)を分割し、それらを二以上の摺動部31,32や二以上の歯車部(以下でピニオンギア41,42という)で連結するようにした。IOLインジェクター100は、挿入筒5、本体部10、押出し棒(以下でプランジャー20という)、押出力変換部30及び手当て部34を備えるものである。
【0031】
図2Aに示す本体部10は長さL1の長尺筒状を成し、断面略八角形(
図4参照)の筒状体11を有している。筒状体11の終端部にはフランジ状の指掛け部12が設けられている。本体部10の内部は、プランジャー20や
図2B、
図2Cに示す摺動部31,32等を直線状かつ所定の方向へ案内するために、各々が独立したガイド構造を有している。摺動部31のガイド構造は、断面φ状のトンネルを成している。摺動部32のガイド構造は、断面コ状のトンネルを成している。断面コ状のトンネル部位は、断面φ状のトンネル部位を内包するように構成されている(
図4参照)。また、筒状体11の先端付近であって、ガイド構造の先端と収納部13との間はプランジャー20の外径よりもわずかに広い断面円形状のトンネルを成している。
【0032】
この例では、本体部10がIOL1を収容可能な収納部13を有している。収納部13は筒状体11の先端部に設けられ、1枚のIOL1を収容可能な広さを有している。収納部13には、例えば、弾性を有するレンズ自体が平面円形状の姿態(折り畳まれていない状態)で収納される。IOL1は復元力が弱いため、使用前に形状癖が着かないように、非折り畳み状態のまま収容される。IOL1は、
図2Dに示すような挿入筒5を通過する際に折り畳まれても、そこから抜け出る際に、元の形状に弾性復元すればよい。収納部13はIOL1の収納姿態によって円形系又は角形系の断面の洞窟状により構成される。
【0033】
筒状体11の長手方向にはプランジャー20が配設(装填)される。プランジャー20は長さL2の細い棒状体を成している。長さL2は片手で持てる長さを考えて、本体部10の長さL1及び挿入筒5の長さL5によって設定すればよい。例えば、長さL2は、L1+L5に比例する長さ、又は、IOL1の押出し距離β(
図6A参照)に比例した長さに設定するとよい。なお、プランジャー20はその先端部に二股状のフォーク21を有しており、フォーク21がIOL1に当接される。フォーク21は挿入時、IOL1が回転しないようにその端部を保持する。
【0034】
図2Aに示すプランジャー20の終端部は連結構造を有している。この連結構造によれば、プランジャー20と摺動部31とを連結する凹凸部23を成している。プランジャー20の終端部は被係合部位を構成し、その終端には断面φ状の凹部24が設けられている。
【0035】
押出力変換部30は
図2Aに示すように、本体部10の終端下方に配設され、プランジャー20の他端部に係合されて、IOL1の押出力となる直線運動を回転運動に変換し、当該回転運動を歯車比で変速した後、更に変速後の回転運動を直線運動に変換し、変換後の直線運動をプランジャー20に与えるようにした。これにより、当該プランジャー20の押出し距離及び押出し力を可変操作できるようになる。なお、歯車比は、二以上の歯車の歯数の比又は二以上の歯車の周長の比を意味する。
【0036】
図2Aに示す押出力変換部30は、例えば、
図2B及び
図2Cに示す鋸歯状部付きの摺動部31、摺動部32、
図2Aに示すピニオンギア41,42を有している。本体部10の終端下方には歯車収納スペース46が設けられる。歯車収納スペース46は、半円弧状に下方に突出しており、少なくとも、軸部47を共有する大径のピニオンギア42を収納できる広さを有している。摺動部31,32はIOL1の押出し方向と同一の本体部10の長手方向に摺動自在に組み込まれる。
【0037】
図2Bに示す摺動部31は断面が円形状で長さがL3の棒体から成り、棒体の後方部分には断面矩形状の垂下壁が設けられ、この垂下壁の下端面に鋸歯状部301(逆さ向きラックレール)を有している。棒体の前方端部はプランジャー20の他端部に連結(当接)される。摺動部31の先端は係合部位を構成し、その先端部が断面φ状の凸部39となされている。凸部39が
図2Aに示した凹部24に嵌合されることで凹凸部23を構成し、プランジャー20及び摺動部31が回転防止係合構造を構成するようになる。
【0038】
図2Cに示す摺動部32は断面がコ状で長さがL4のチャネル部材から成り、チャネル部材の一方の側の所定の下端面に鋸歯状部302(逆さ向きラックレール)を有している。摺動部32は本体部10に摺動自在に係合される。摺動部32の終端側には手当て部34が設けられ、当該手当て部34が操作者の手の平又は親指に当接するように取り扱われる。
【0039】
図2Aに示した本体部10の先端には、
図2Dに示すような長さL5の挿入筒5が取り付けられる。挿入筒5は、外観及び内部共に扁平先頭錐筒状を有している。挿入筒5によれば、その内部で平面円形状のIOL1が押し込まれると、内面先細り錐筒状のガイド機能によって自動的にIOL1が巻物状に折り畳まれるように動作する。
【0040】
続いて、
図3及び
図4を参照して、IOLインジェクター100の組立例及び押出力変換部30の構成例について説明する。
図3に示すIOLインジェクター100によれば、
図2A〜
図2Dに示したIOL1、挿入筒5、本体部10、プランジャー20及び摺動部31,32が部品として予め準備される。この例で、IOL1は
図2Aに示した収納部13に前もって実装される。IOL1はレンズ2と一対のハプティック3から成る。本体部10にはピニオンギア41,42が実装されて部品として供給される場合を例に挙げる。
【0041】
本体部10は、例えば、筒状体11を長手方向に2つに分割し又は先端部を基準に展開したものを金型で成形する。分割又は展開した筒状体11には収納部13や、摺動部31,32のガイド構造及び、
図4に示すような歯車収納スペース46等が含まれる。押出力変換部30の付近の各々のガイド構造は、その底部が開放され、開放空間は摺動部31とピニオンギア41及び摺動部32とピニオンギア42との係合部位となされ、歯車収納スペース46に至る。
【0042】
押出力変換部30では、ギア最上部位と鋸歯状部位とが離間しないように、摺動部31,32とピニオンギア41,42とが、ガイド構造の天面と歯車収納スペース46の軸受け部48とで、適度な隙間を保って摺動自在に挟み込まれる。断面φ状及び断面コ状のガイド構造を含む半割又は展開構造の筒状体11にIOL1や、ピニオンギア41,42を収納し、筒状体11を位置合わせして本体部10を一体化(接合又はビス止め)する。これにより、押出し操作時の空転を防止することができる。なお、筒状体11の終端側は摺動部31,32に対する被係合側を構成する。
【0043】
IOLインジェクター100を単回使用タイプとする場合は、コストダウンを図るために本体部10、プランジャー20、摺動部31,32及びピニオンギア41,42等を個々にモールド樹脂で金型成形するとよい。複数回使用タイプの場合は金属材料で、本体部10、プランジャー20、摺動部31,32及びピニオンギア41,42等を個々に金型成形するとよい。金属材料にはステンレス(SUS)、チタン及びその合金等が使用され、いずれも耐腐食性を有したものが使用される。
【0044】
これらの部品が準備されている場合を前提にして、IOLインジェクター100を組み立てると、
図4に示すような押出力変換部30を構成できるようになる。
【0045】
まず、
図3において、プランジャー20を本体部10内に装填する。このとき、フォーク21をIOL1の端部に当接する。次に、摺動部31をプランジャー20に接続する。このとき、凹凸部23を介して凹部24と凸部39とを嵌合する(連結構造)。更に、断面コ状の摺動部32を本体部10内に挿入する。最後に挿入筒5を本体部10の先端部に取り付ける。これにより、本体部10内に押出力変換部30を有する、
図1に示したようなIOLインジェクター100が完成する。
【0046】
図4に示すIOLインジェクター100の押出力変換部30によれば、軸部47が軸受け部48によって回動自在に枢着されたピニオンギア41,42に摺動部31,32が組み合わされる。この例では、摺動部31とピニオンギア41とが組み合わされ、ピニオンギア41が鋸歯状部301に噛み合わされる。更に、摺動部32とピニオンギア42とが順次組み合わされ、ピニオンギア42が鋸歯状部302に噛み合わされる。いずれもピニオンギア41,42の上側位と鋸歯状部301,302の下側位とが噛み合う(図中クロスハッチ部分)。
【0047】
ピニオンギア41とピニオンギア42とは、例えば、歯車比が1:2に設定される。ピニオンギア41,42は歯車比が接近して差が少ないと、プランジャー20の押出し距離が長く、押出しトルクが小さくなる。反対に歯車比が離れて差が大きいと、プランジャー20の押出し距離が短く、押出し力(押圧力:押出しトルク)が大きくなる。
【0048】
このように、IOLインジェクター100では、ピニオンギア41,42の歯車比によって、IOL1の押出し距離及び押出し力が可変される。これにより、歯車比に依存する速度及び押圧力を応用してIOL1を眼球内に挿入できるようになる。
【0049】
また、IOLインジェクター100は
図5Aに示すような逆止部35を備え、プランジャー20に接続された摺動部31の逆送を阻止するようになされる。逆止部35は鋸歯状部301を歯止めする爪部36(歯止め機構)及びその歯止めを解除するレバー37(解除機構)を有するものである。図中の黒塗り矢印は、歯止め機構が解除される際のレバー37の動作方向を示している。爪部36は軸部306を有している。爪部36は軸部306を介して本体部10に取り付けられ、プランジャー20の押し込み方向への動きを自由にし、その反対方向への移動を阻止するようになる。
【0050】
この例では、図中の白抜き矢印に示すように、紙面の右側から左側への摺動部31の移動は可能であるが、その反対の移動は爪部36によって阻止される。爪部36は鋸歯状部301で隣接する歯と歯との間に食い込むようになされる。レバー37は、軸部306と直交する方向に設けられ、歯と歯との間に食い込んだ爪部36を外すようになされる。
【0051】
逆止部35は鋸歯状部301に対する歯止め機能に限られることはなく、
図5Bに示す逆止部35’のように爪部36をピニオンギア42(又は41)に作用させてもよい。この例では、図中の白抜き矢印に示すように、ピニオンギア42の反時計方向への回転は可能であるが、その反対の方向の回転は爪部36によって阻止される。図中の黒塗り矢印は、爪部36による歯止めが解除される際のレバー37の動作方向を示している。図中、爪部36を歯と歯との間に食い込むように付勢するスプリングや板バネ等の付勢手段を省略している。付勢手段は振動を防止するために極弱いスプリング係数に設定するとよい。これにより、IOL挿入時のプランジャー20の後退ミスを防止できるようになる。
【0052】
なお、単回使い捨てタイプのIOLインジェクター100の場合はレバー37及び軸部306を省略してもよい。プランジャー20の押し切り状態のまま、IOLインジェクター100の廃棄処分が想定されるためである。爪部36は筒状体11と同時に金型成形するとよい。付勢手段も切り抜き折り曲げ加工等により同時に成形できる。逆止部35,35’の構造の簡易化を図り、IOLインジェクター100のコストダウンを図るためである。これらにより、IOLインジェクター100を構成する。
【0053】
次に、
図6A〜
図6Cを参照して、IOLインジェクター100の動作例について説明する。
図6Aにおいて、実線で示したαは、
図2に示した摺動部32の鋸歯状部302の長さのうち、ピニオンギア41,42の軸部47を基準にした摺動部32の挿入側の部分の長さ(軸部47よりも後方に位置する長さ)[cm]である。
【0054】
点線で示したβは、
図1に示したIOL1の押出し距離[cm]である。実線で示したγは
図2に示した摺動部31の鋸歯状部301の長さのうち、上述の軸部47を基準にした摺動部31の挿入側の部分の長さ(軸部47よりも後方に位置する長さ)[cm]である。二点鎖線で示した部分は、
図2に示したプランジャー20の長さを示す部分である。
【0055】
この例では、歯車比がピニオンギア41(図中小さい円):ピニオンギア42(大きい円)=1:2に設定されている場合(押出力:2倍)である。それぞれの長さα、γ及び距離βが、α=6.0、γ=3.0、β=2.0に設定されている場合を例に挙げる。
【0056】
図6Aに示すスタート状態によれば、
図2に示したプランジャー20の先端部がIOL1の端部に当接された状態であって、鋸歯状部301,302の各々の先端部が各々のピニオンギア41,42の最上部に揃った状態である。この状態から、
図2に示した摺動部32を本体部10へ挿入を開始すると、挿入開始後の
図6Bに示す中間挿入時点によれば、鋸歯状部302がα=3.0に到達する。このとき、鋸歯状部301はγ=1.5に到達する。この結果、βは1.5だけ遷移(移動)する。
【0057】
更に、中間挿入時点から、
図2に示した摺動部32を本体部10へ更に挿入すると、摺動部32が本体部10の内部先端に到達する。この到達時点、すなわち、
図6Cに示すフィニッシュ状態によれば、鋸歯状部302がα=0に到達する。このとき、鋸歯状部301もγ=0に到達する。これにより、βは2倍の押出力を以って3.0の距離を移動できるようになる。
【0058】
ここで、
図7A〜
図7Cを参照して、他のIOLインジェクター100’の動作例について説明する。IOLインジェクター100’は、IOLインジェクター100で使用した押出力変換部30の代わりに、押出力変換部30’が使用される。押出力変換部30’はピニオンギア42に代わりピニオンギア43を有している。IOLインジェクター100’で適用される歯車比は、ピニオンギア41(図中小さい円):ピニオンギア43(大きい円)=1:3に設定される(3倍)。
【0059】
図7Aにおいて、実線で示したηは、他のIOLインジェクター100’で適用される、
図2に示した摺動部32の鋸歯状部302の長さのうち、軸部47よりも後方に位置する長さ[cm]である。なお、実線の長さα、点線の長さβ及び二点鎖線で示した部分については
図6Aで説明している通りである。それぞれの長さα、η及び距離βが、α=6.0、η=2.0、β=2.0に設定されている場合を例に挙げる。
【0060】
図7Aに示すスタート時点によれば、IOLインジェクター100’で適用される、プランジャー20の先端部がIOL1の端部に当接された状態であって、
図2に示した鋸歯状部301,302の各々の先端部が各々のピニオンギア41,43の最上部で揃った状態である。
【0061】
この状態から、
図2に示した摺動部32を本体部10へ挿入を開始する。挿入開始後の
図7Bに示す中間挿入時点によれば、鋸歯状部302がα=3.0に到達する。このとき、鋸歯状部301がη=1.0に到達する。この結果、βは1.0だけ遷移(移動)する。更に、中間挿入時点から、
図2に示した摺動部32を本体部10へ更に挿入すると、摺動部32が本体部10の内部先端に到達する。この到達時点、すなわち、
図7Cに示すフィニッシュ状態によれば、鋸歯状部302がα=0に到達したとき、鋸歯状部301もη=0に到達する。この結果、βは3倍の押出力を以って2.0の距離を移動できるようになる。
【0062】
<IOLインジェクター100の取り扱い方法>
続いて、
図8及び
図9を参照して、IOLインジェクター100の取扱例について説明する。この例では、単回使用タイプであって、既にプランジャー20の先端部がIOL1の端部に当接している状態を前提とする。摺動部31の鋸歯状部301の長さα=6.0、摺動部32の鋸歯状部302の長さγ=3.0及びIOL1の押出し距離β=3.0は、
図6A〜
図6Cに示した条件の通りである。これらをIOLインジェクター100の取り扱い条件として、まず、操作者は、
図8Aにおいて、プランジャー20と摺動部31とを連結する(
図3参照)。
【0063】
次に、
図8Bにおいて、プランジャー20と連結した状態の摺動部31を更に本体部10の中に挿入する。このとき、プランジャー20に当接されたIOL1は摺動部31を押出した移動分だけ同等の距離を進行(移動)する。この結果、IOL1は本体部10の収納部13から挿入筒5へ移動した状態となる。これにより、押出し当初は、操作者の好みで、IOL1の押出し距離βを長くかつ適度な押出し力を持って摺動部31を操作でき、後半の操作に比べて押し込み操作を早く行うことができる。
【0064】
更に、操作者は、
図8Cにおいて、摺動部31の鋸歯状部301をピニオンギア41の最上部の歯に噛み合わせる。この時点で、IOL1が挿入筒5の出口(i)の手前であって、収納部13から押出し距離β=1.5程度のところへ移動された状態となる。
【0065】
この状態で、操作者は
図9Aに示すように摺動部32を本体部10の中に挿入し、摺動部32の鋸歯状部302(α=6.0)をピニオンギア42の最上部の歯に噛み合わせる。これにより、摺動部31はピニオンギア41,42を介して摺動部32の支配下に入る。ここで言う支配下とは、摺動部32による直線運動がピニオンギア42,41により回転運動に変換され、当該回転運動が歯車比で変速された後、当該変速後の回転運動が摺動部31の直線運動に変換される状態となることを意味する。この状態は
図6Aに示した摺動部31の鋸歯状部301(γ=3.0)と、ピニオンギア41とが噛み合った状態で、かつ、摺動部32の鋸歯状部302(α=6.0)と、ピニオンギア42とが噛み合った状態と等価である。
【0066】
この状態で、操作者は人差し指と中指を指掛け部12に引っ掛けて、摺動部32の手当て部34を親指で本体部10内に押し込むように操作する。本体部10を3点で支持できるようになる。このとき、鋸歯状部302が逆止部35の爪部36(
図5参照)の逆止機能に打ち勝って紙面の右側から左側に移動すると、ピニオンギア42が反時計方向に回転し、ピニオンギア41も反時計方向へ回転する。ピニオンギア41が反時計方向に回転することから鋸歯状部301も紙面の右側から左側に鋸歯状部302が移動するようになる。
【0067】
また、押出力変換部30ではIOL1の押出し力となる摺動部32の直線運動をピニオンギア42を介して回転運動に変換する。更に、ピニオンギア41,42の歯車比1:2によって回転運動を変速した後に更に変速後の回転運動を、ピニオンギア41及び摺動部31を介して直線運動に変換してプランジャー20に与えるようになされる。
【0068】
この結果、
図9Bにおいて、摺動部32を本体部10の中に挿入した中間挿入状態となる。この状態は
図6Bに示した摺動部31の鋸歯状部301(α=3.0)と、ピニオンギア41との噛み合い状態及び、摺動部32の鋸歯状部302(γ=1.5)と、ピニオンギア42との噛み合い状態と等価である。この状態でIOL1が挿入筒5から外部に向って押出し距離β=1.5(半分)だけ押出された状態となる。
【0069】
更に、操作者が手当て部34を本体部10の方向に押圧すると、
図9Cにおいて、摺動部32を本体部10の内部先端部に到達したフィニッシュ状態となる。この状態は
図6Cに示した摺動部31の鋸歯状部301(γ=0)と、ピニオンギア41との噛み合い状態及び、摺動部32の鋸歯状部302(α=0)と、ピニオンギア42との噛み合い状態と等価である。この状態でIOL1が完全に挿入筒5から外部へ押出された状態(β=3.0)となる。これにより、IOL1の押出し距離が短くかつ出口(i)付近での押出し力が最大となるように押し込み操作をゆっくりと軽く行うことができ、患者の眼内へIOL1を円滑に挿入できるようになる。
【0070】
このように、第1の実施形態としてのIOLインジェクター100によれば、押出し当初は、IOL1の押出し距離βを長く、かつ適度な押出し力を持ってプランジャー20を早く操作でき、押出し終了直前には、IOL1の押出し距離βを短く、かつ、最大の押出し力(2倍)を持ってプランジャー20を軽く操作できるようになる。
【0071】
しかも、IOL1を眼内に押出す際の親指に対する押出し力を1/2(IOLインジェクター100’では1/3)に軽減でき、かつ、その押し込み速度をより最適にコントロールできるようになる。更に、一方の手に当該IOLインジェクター100を持って、他方の手に他の手術器具を持って眼科手術等を行うことができる。これにより、IOL1や眼科用補助具等の光学片を片手で挿入操作可能なIOLプランジャー等を提供できるようになる。
【0072】
<第2の実施形態>
続いて、
図10、
図11及び
図12を参照して、第2の実施形態としてのIOLインジェクター200の構成例について説明する。
図10に示すIOLインジェクター200はIOL1を収容したカニューレ50を備え、本体部101が、カニューレ50を装着分離可能な脱着構造を有するものである。カニューレ50とは、第1の実施形態で説明した挿入筒5にIOL1を実装したカセットタイプ(式)の挿入具をいう。カニューレ50は所定の形状のカセット本体部51を有している。
【0073】
図10に示す本体部101は、終端部から内側に入った部分に指掛け部102が設けられている。この例では、歯車収納スペース46が指掛け部102よりも終端側に配設されるので、押圧操作に邪魔にならい仕様に構成されている。
【0074】
図11Aに示す本体部101の先端部分には脱着部103を有している。脱着部103は先端がフック状を有して、長手方向に断面凹状の溝部104を有している。溝部104には、
図11Bに示すカセット本体部51が装着分離可能に取り付けられる。カセット本体部51内には非折り畳み状態のIOL1が収納されている。IOL1はレンズ2及びハプティック3を有し、通常、押出し時に自動的にレンズ2が筒状に折り畳まれてカセット本体部51内の筒状部位を通過し、眼内に到達すると共に眼内で自動的に展開される。
【0075】
この例で、IOLインジェクター200は、
図11Cに示すようなプランジャー付き摺動部310を有している。摺動部310は第1の実施形態で説明した摺動部31とプランジャー20とを一体化して構成したものである。
図3に示した凹凸部23が省略されている。なお、
図12はIOLインジェクター200の押出力変換部30の構成例を示す断面図である。
図10〜
図12において、第1の実施形態と同じ符号及び名称のものは同じ機能を有するためその説明を省略する。
【0076】
<IOLインジェクター200の取り扱い方法>
続いて、
図13及び
図14を参照して、IOLインジェクター200の取扱例について説明をする。この例では、IOL1が実装されたカニューレ50と、先端部に脱着構造を有したIOLインジェクター200とを準備する。IOLインジェクター200の初期の状態では、摺動部310の鋸歯状部301がピニオンギア41の最上部の歯に噛み合わされ、摺動部32の鋸歯状部302がピニオンギア42の最上部の歯に噛み合わされている状態である。この例では、本体部101内に挿入されている摺動部310のプランジャー部位の先端は、カニューレ50の装着に邪魔にならない位置に退避し待機した状態となっている。
【0077】
まず、
図13Aにおいて、操作者はカニューレ50を本体部101に装着する。次に、
図13Bにおいて、摺動部32を押し込むと、プランジャー部位がカニューレ50内のIOL1に当接される。操作者は更に摺動部32を押し込む。その後の操作は第1の実施形態と同様であるので、その説明を参照されたい。なお、
図14AはIOL脱出直前の状態であり、
図14Bはそのフィニッシュ状態を示す図である。フィニッシュ状態によれば、カニューレ50の端部からIOL1が脱出し、プランジャー部位の先端部がわずかにカニューレ50の端部から露出する。
【0078】
このように第2の実施形態としてのIOLインジェクター200によれば、本体部101に対してカニューレ50を脱着可能な構造としたので、複数回使用タイプのIOLプランジャー等を提供できるようになる。もちろん、第1の実施形態で説明したIOLインジェクター100において、摺動部310の構成を採り入れて複数回使用タイプのIOLプランジャー等を構成してもよい。
【0079】
操作者は第1の実施形態と同様にして、IOLインジェクター200を片手で操作でき、IOL1をカニューレ50の先端部から押出すスピードをコントロールできるために、摺動部32を押出す力を軽減できるようになる。片手で使えるというメリットとしては、IOL挿入手術のリスクを軽減させるために、カニューレ50の先端部から出てくるIOL1をもう一方の手で持った手術器具等で待ち受けることや、IOL1の挿入方向をコントロールすることも可能である。
【0080】
<第3の実施形態>
続いて、
図15及び
図16を参照して、第3の実施形態としてのIOLインジェクター300の構成例について説明する。
図15に示すIOLインジェクター300は押出力変換部30”を備える。押出力変換部30”には、ピニオンギア41,42と軸部47を共有するピニオンギア43が設けられると共に、ピニオンギア43に噛み合わされる鋸歯状部303が配設位置を異にしてプログラマブルに摺動部33に設けられる。
【0081】
例えば、
図16Aにおいて、紙面に向って、摺動部33の左側の下方に所定の長さα1の鋸歯状部302が設けられ、その右側の上方に鋸歯状部303が継続して所定の長さα2だけ設けられている。
図16Aに示す白抜き三角印は、鋸歯状部302,303の動作継続位置(受け継ぎ地点)を示しており、
図15では鋸歯状部302,303をクロスハッチで示している。
【0082】
なお、
図16Bに示すように鋸歯状部303の歯の高さは、鋸歯状部302に比べてピニオンギア42,43の半径の差分だけ高さ(突出部分:張り出し距離)が短く(低く)なっている。また、鋸歯状部302,303の前後は鋸歯状部が施されておらず、ピニオンギア42,43がスルーする平坦区域となされている。
【0083】
この例では、初期に
図15に示した鋸歯状部301とピニオンギア41とが組み合わされ、次いで、鋸歯状部302とピニオンギア42とが組み合わされ、最後に、鋸歯状部303とピニオンギア43とが順次に組み合わされる。なお、鋸歯状部303はピニオンギア43に噛み合わされる。ピニオンギア41,42,43は、例えば、歯車比が1:2:3に設定される。ピニオンギア41,42,43の歯車比1:2:3によって、IOL1の押出し距離及び押出し力が3段階に渡って可変(プログラマブル)できるようになる。
【0084】
次に、
図17A〜
図17Dを参照して、IOLインジェクター300の動作例について説明する。
図17Aに示す押出力変換部30”において、太い実線で示したα1は、摺動部33の断面コ状のチャネル部材の鋸歯状部302の長さであって、ピニオンギア41,42,43の軸部47を基準にした挿入側の部分の長さ(軸部47よりも後方に位置する長さ)[cm]である。太い実線で示したα2は、鋸歯状部302の反対側で、当該鋸歯状部302に連続する鋸歯状部303の長さのうち、軸部47よりも後方に位置する長さ[cm]である。α0は
図15に示した鋸歯状部302,303の軸部47よりも後方に位置する合計の長さα1+α2である。図中(i)は、
図1に示した挿入筒5や、
図10に示したカニューレ50等の出口位置である(
図8C参照)。
【0085】
図17Aにおいて、二点鎖線+細い実線で示した部分は、
図15に示したプランジャー付きの摺動部310を示す部分である。細い実線で示したγは摺動部310の鋸歯状部301の長さのうち、上述の軸部47を基準にした挿入側の部分の長さ[cm]である。この例は、歯車比がピニオンギア41(図中の小円):ピニオンギア42(中円):ピニオンギア43(大円)=1:2:3に設定されている場合(押出力:3倍)である。それぞれの長さα1、α2、γ及び距離βが、α1=3.0、α2=4.5、γ=3.0、β=3.0に各々設定されている場合を例に挙げる。
【0086】
図17Aに示すスタート状態によれば、
図15に示した摺動部310の先端部がIOL1の端部に当接された状態であって、鋸歯状部301,302の各々の先端部が各々のピニオンギア41,42の最上部に揃った状態である。この状態から、操作者は
図15に示した摺動部33の手当て部34を親指で本体部101内に押し込むように操作(挿入)する。このとき、鋸歯状部302が逆止部35の爪部36(
図5参照)の逆止機能に打ち勝って紙面の右側から左側に移動する。
【0087】
挿入開始後の
図17Bに示す中間挿入時点によれば、鋸歯状部302がα1=0に到達する。このとき、鋸歯状部301はγ=1.5(1/2)に到達すると共に鋸歯状部303の先端がピニオンギア43に到達する。この結果、βは2倍の押出力を以って1.5だけ遷移(移動)する。
【0088】
更に、中間挿入時点から、
図15に示した摺動部33を本体部101へ挿入すると、
図17Bに示す摺動部33の鋸歯状部303がピニオンギア43の最上部の歯に噛み合わされた状態から進行する。これにより、摺動部310はピニオンギア41,43を介して摺動部33の支配下に入って移動する状態となる。この状態は、
図15に示した摺動部310の鋸歯状部301と、ピニオンギア41とが噛み合った状態で、かつ、摺動部33の鋸歯状部303と、ピニオンギア42から引き継いだピニオンギア43とが噛み合った状態と等価である。
【0089】
この状態で、操作者は手当て部34を押し込むように操作すると、ピニオンギア43が反時計方向に回転し、ピニオンギア41も反時計方向へ回転する。ピニオンギア41が反時計方向に回転することから鋸歯状部301も紙面の右側から左側に移動するようになる。
【0090】
また、押出力変換部30”ではIOL1の押出し力となる摺動部33の直線運動を、ピニオンギア43を介して回転運動に変換する。更に、ピニオンギア41,43の歯車比1:3によって回転運動を変速した後に更に変速後の回転運動を、ピニオンギア41及び鋸歯状部301を介して直線運動に変換してプランジャー付きの摺動部310に与えるようになされる。
【0091】
そして、摺動部33が本体部101の内部先端に到達する。この到達時点、すなわち、
図17Cに示す状態によれば、鋸歯状部302がα1=0で変化無し、鋸歯状部303がα2=1.5に到達する。このとき、鋸歯状部301はγ=0.5に到達する。これにより、βは3倍の押出力を以って残りの0.5の距離を移動できるようになる。
【0092】
更に、
図17Dのフィニッシュ状態によれば、鋸歯状部302がα1=0で変化無し、鋸歯状部303がα2=0に到達する。このとき、鋸歯状部301もγ=0に到達する。
【0093】
このように、第3の実施形態としてのIOLインジェクター300及びその取り扱い方法によれば、プランジャー付きの摺動部310の他端部に係合された押出力変換部30”を備え、摺動部310のプランジャー部位の押出し距離β及び押出し力を可変操作されるものである。
【0094】
この構成によって、押出し当初は、IOL1の押出し距離βを長くかつ押出し力を2倍とするようにプランジャー付き摺動部310を操作でき、押出し終了直前には、IOL1の押出し距離βを短くかつ3倍の押出し力を持って軽くプランジャー部位を操作できるようになる。
【0095】
これにより、白内障手術時のIOL1を眼内に押出す際の押出し力を軽減でき、かつ、その押し込み速度をより最適かつ円滑にコントロールできるようになる。しかも、一方の手に当該IOLインジェクター300を持って、他方の手に他の手術器具を持って眼科手術等を行うことができる。これにより、片手でIOL挿入操作が可能なIOL挿入プログラム機能付きのIOLプランジャー等を提供できるようになる。
【0096】
<第4の実施形態>
続いて、
図18及び
図19を参照して、第4の実施形態としてのIOLインジェクター400の構成例について説明する。
図18に示すIOLインジェクター400は押出力変換部40を備えている。押出力変換部40は、軸部47を共有するピニオンギア41,43a,43bに対し、軸部49a,49bが軸部47と異なった位置に配設されて噛み合される二以上の平歯車部44,45を更に有している。
【0097】
ピニオンギア43a,43bは、ピニオンギア41と軸部47を共有し、かつ、ピニオンギア41よりも大きな径を有している。平歯車部44は、ピニオンギア43b及び平歯車部45と軸部49aが異なった位置に配設されている。平歯車部44及び平歯車部45は、ピニオンギア43a,43bよりも小さな径を有している。平歯車部44は、ピニオンギア43bに噛み合わされると共に平歯車部45に噛み合わされる。
【0098】
押出力変換部40は摺動部33’を有している。摺動部33’は
図19に示すように異なった配設位置に鋸歯状部303,304を有している。摺動部33’の一方の側の鋸歯状部303にはピニオンギア43aが噛み合わされる。摺動部33’の中で対応する鋸歯状部304が軸部49bを有する平歯車部45に組み合わされ、かつ、平歯車部44が、平歯車部45に組み合わされる。押出力変換部40では平歯車部44,45の歯車比によって、
図1に示したようなIOL1の押出し距離及び押出し力が可変される。
【0099】
例えば、摺動部33’は、
図1に示したような本体部10の長手方向に沿って摺動される断面コ状の部材(
図20B参照)を有すると共に当該部材の両側に鋸歯状部303,304を有している。この例では、
図20Aにおいて、紙面に向って、摺動部33’の左側の上方に所定の長さα1の鋸歯状部303が設けられ、その右側の下方に鋸歯状部304が、間隔α3を置き継続して所定の長さα2だけ設けられている。
図20Aに示す白抜き三角印は、鋸歯状部303,304の動作継続位置(受け継ぎ地点)を示しており、
図19では鋸歯状部303,304をクロスハッチで示している。これにより、ピニオンギア43a及び鋸歯状部303の組み合わせから、所定の間隔α3を置いた摺動部33’の他方の側の鋸歯状部304へ平歯車部45を切り替えて組み合わせることができる。
【0100】
なお、
図20Bに示すように鋸歯状部304の歯の高さは、
図19に示したピニオンギア43aとの回転干渉を避けるために、鋸歯状部303に比べてピニオンギア43aの歯丈+隙間分だけ高さ(突出部分:張り出し距離)が短く(低く)なっている。平歯車部45の最上部がピニオンギア43bよりもわずかに高い位置に設けてあるためである。また、鋸歯状部303,304の前後は鋸歯状部位が施されておらず、ピニオンギア43a,43b,平歯車部45がスルーする平坦区域(干渉防止区間:間隔α3)となされている。
【0101】
この例では、初期に
図19に示した鋸歯状部301とピニオンギア41とが組み合わされ、次いで、鋸歯状部303とピニオンギア43aとが組み合わされ、最後に、鋸歯状部304と平歯車部45とが順次に組み合わされる。なお、鋸歯状部303はピニオンギア43aに噛み合わされる。ピニオンギア41,43a、43b、平歯車部44,45は、例えば、歯車比が1:3:3:1.5:1.5に設定される。ピニオンギア41,43a、43b、平歯車部44,45の歯車比1:3:3:1.5:1.5によって、IOL1の押出し距離及び押出し力が3段階に渡って可変(プログラマブル)できるようになる。
【0102】
次に、
図21A〜
図21Dを参照して、IOLインジェクター400の動作例について説明する。
図21Aに示す押出力変換部40において、太い実線で示したα1は、摺動部33’の断面コ状のチャネル部材の鋸歯状部303の長さであって、ピニオンギア41,43a、43bの軸部47を基準にした挿入側の部分の長さ(軸部47よりも後方に位置する長さ)[cm]である。太い実線で示したα2は、鋸歯状部303の反対側で、当該鋸歯状部303に連続する鋸歯状部304の長さのうち、軸部47よりも後方に位置する長さ[cm]である。α0は
図19に示した鋸歯状部303,304の軸部47よりも後方に位置する合計の長さα1+α2+α3である。図中(i)は、
図1に示した挿入筒5や、
図10に示したカニューレ50等の出口位置である(
図8C参照)。
【0103】
図21Aにおいて、二点鎖線+細い実線で示した部分は、
図19に示したプランジャー付きの摺動部310を示す部分である。細い実線で示したγは摺動部310の鋸歯状部301の長さのうち、上述の軸部47を基準にした挿入側の部分の長さ[cm]である。この例は、歯車比がピニオンギア41(図中の小円):ピニオンギア43a(大円):ピニオンギア43b(大円)=1:3:3に設定され、更に、ピニオンギア43b:平歯車部44(中円):平歯車部45(中円)=3:1.5:1.5に設定されている場合(押出力:3倍:6倍)である。それぞれの長さα1、α2、α3、γ及び距離βが、α1=3.0、α2=3.0、α3=1.0、γ=2.0、β=2.0に各々設定されている場合(α0=7.0)を例に挙げる。
【0104】
図21Aに示すスタート状態によれば、
図19に示した摺動部310の先端部がIOL1の端部に当接された状態であって、鋸歯状部301,303の各々の先端部が各々のピニオンギア41,43aの最上部に揃った状態である。この状態から、操作者は
図19に示した摺動部33’の手当て部34を親指で本体部101内に押し込むように操作(挿入)する。このとき、鋸歯状部303が逆止部35の爪部36(
図5参照)の逆止機能に打ち勝って紙面の右側から左側に移動する。
【0105】
挿入開始後の
図21Bに示す中間挿入時点によれば、鋸歯状部303がα1=0に到達する。このとき、鋸歯状部301はγ=1.0(1/2)に到達すると共に鋸歯状部304の先端が平歯車部45の最上部に到達する。この結果、βは3倍の押出力を以って1.0だけ遷移(移動)する。
【0106】
更に、中間挿入時点から、
図19に示した摺動部33’を本体部101へ挿入すると、
図21Bに示す摺動部33’の鋸歯状部304が平歯車部45の最上部の歯に噛み合わされた状態から進行する。これにより、摺動部310はピニオンギア41,43b、平歯車部44,45を介して摺動部33’の支配下に入って移動する状態となる。この状態は、
図19に示した摺動部310の鋸歯状部301と、ピニオンギア41とが噛み合った状態で、かつ、摺動部33’の鋸歯状部304と、ピニオンギア43aから引き継いだピニオンギア43b、平歯車部44,45とが噛み合った状態と等価である。
【0107】
この状態で、操作者は手当て部34を押し込むように操作すると、鋸歯状部304の直線運動によって平歯車部45が反時計方向に回転する。平歯車部45が反時計方向に回転することで、平歯車部44が時計方向に回転する。この平歯車部44の時計方向の回転によって、ピニオンギア43bが反時計方向に回転し、ピニオンギア41も反時計方向へ回転する。ピニオンギア41が反時計方向に回転することから鋸歯状部301も紙面の右側から左側に移動するようになる。
【0108】
また、押出力変換部40ではIOL1の押出し力となる摺動部33’の直線運動を平歯車部45→平歯車部44→ピニオンギア43bを介して回転運動に変換する。このとき、平歯車部45:平歯車部44:ピニオンギア43bの歯車比1:1:2によって、押出し力が2倍に変換される。更に、ピニオンギア41,43aの歯車比1:3によって回転運動を変速した後に更に変速後の回転運動を、ピニオンギア41及び鋸歯状部301を介して直線運動に変換してプランジャー付きの摺動部310に与えるようになされる。
【0109】
そして、摺動部33’が本体部101の内部先端に到達する。この到達時点、すなわち、
図21Cに示す状態によれば、鋸歯状部303がα1=0で変化無し、鋸歯状部304がα2=1.5に到達する。このとき、鋸歯状部301はγ=0.5に到達する。これにより、βは6倍の押出力を以って残りの0.5の距離を移動できるようになる。
【0110】
更に、
図21Dのフィニッシュ状態によれば、鋸歯状部302がγ=0で変化無し、鋸歯状部303がα2=0に到達する。このとき、鋸歯状部301もγ=0に到達する。
【0111】
このように、第4の実施形態としてのIOLインジェクター400及びその取り扱い方法によれば、プランジャー付きの摺動部310の他端部に係合された押出力変換部40を備え、摺動部310のプランジャー部位の押出し距離β及び押出し力を可変操作されるものである。
【0112】
この構成によって、押出し当初は、IOL1の押出し距離βを長くかつ押出し力を3倍とするようにプランジャー付き摺動部310を操作でき、押出し終了直前(挿入筒5の出口(i)付近)には、IOL1の押出し距離βを短くかつ6倍の押出し力を持って軽くプランジャー部位を操作できるようになる。これにより、摺動部33’の長さが第3の実施形態の摺動部33よりも短く、しかも、より軽い押出し力(片手)でIOL挿入操作が可能なIOL挿入プログラム機能付きのIOLプランジャー等を提供できるようになる。
【0113】
なお、6倍(最大)の押出し力が得られる位置はプランジャー20の長さや、鋸歯状部301,303,304の長さを最適に調整することで、容易に設計を変更できることは言うまでもない。また、鋸歯状部304の歯丈を最初は低く徐々に定常位置に推移させるように形状を工夫することで、ピニオンギア43a及び鋸歯状部303の組み合わせから、鋸歯状部304及び平歯車部45への組み合わせを円滑に行う(受け渡す:受け継ぐ)ことが可能となる。
【0114】
更にまた、光学片の押出し力となる直線運動をモータの回転力により得て、回転運動を変速し、又はモータ速度を制御して、当該回転運動を直線運動に変換して、変換後の直線運動をプランジャー20(部位)に与える方式を採っても良い。摺動部32,33,33’やピニオンギア42,43,43a,43bを省略できるようになる。
【解決手段】患者の眼内へIOL1を挿入するように操作可能なIOLインジェクター100は、長尺筒状の本体部10と、本体部10の筒内に配設され、筒内の長手方向を移動し、一端部がIOL1に当接されるプランジャー20と、本体部10に配設され、プランジャー20の他端部に係合されて、IOL1の押出し力となる直線運動を回転運動に変換し、この回転運動を変速した後に更に変速後の回転運動を直線運動に変換し、変換後の直線運動をプランジャー20に与える押出力変換部30とを備えるものである。