特許第6089179号(P6089179)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6089179セシウム除去用フィルターカートリッジの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6089179
(24)【登録日】2017年2月17日
(45)【発行日】2017年3月8日
(54)【発明の名称】セシウム除去用フィルターカートリッジの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/26 20060101AFI20170227BHJP
   D04H 1/4382 20120101ALI20170227BHJP
   D04H 3/14 20120101ALI20170227BHJP
   D06M 14/10 20060101ALI20170227BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20170227BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20170227BHJP
   B01D 29/07 20060101ALI20170227BHJP
   B01D 39/16 20060101ALI20170227BHJP
   G21F 9/06 20060101ALI20170227BHJP
   G21F 9/12 20060101ALI20170227BHJP
【FI】
   B01J20/26 E
   D04H1/4382
   D04H3/14
   D06M14/10
   B01J20/28 A
   B01J20/30
   B01D29/06 520D
   B01D29/06 520F
   B01D39/16 A
   G21F9/06 521M
   G21F9/12 501B
【請求項の数】1
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2012-238802(P2012-238802)
(22)【出願日】2012年10月30日
(65)【公開番号】特開2014-87735(P2014-87735A)
(43)【公開日】2014年5月15日
【審査請求日】2015年9月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】301032942
【氏名又は名称】国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構
(73)【特許権者】
【識別番号】000201881
【氏名又は名称】倉敷繊維加工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100549
【弁理士】
【氏名又は名称】川口 嘉之
(74)【代理人】
【識別番号】100113608
【弁理士】
【氏名又は名称】平川 明
(74)【代理人】
【識別番号】100131392
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 武司
(74)【代理人】
【識別番号】100126505
【弁理士】
【氏名又は名称】佐貫 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100175190
【弁理士】
【氏名又は名称】大竹 裕明
(72)【発明者】
【氏名】瀬古 典明
(72)【発明者】
【氏名】柴田 卓弥
(72)【発明者】
【氏名】岩撫 暁生
(72)【発明者】
【氏名】笠井 昇
(72)【発明者】
【氏名】植木 悠二
(72)【発明者】
【氏名】佐伯 誠一
(72)【発明者】
【氏名】保科 宏行
(72)【発明者】
【氏名】中野 正憲
(72)【発明者】
【氏名】近石 尚樹
(72)【発明者】
【氏名】見上 隆志
(72)【発明者】
【氏名】村木 慎作
【審査官】 松村 真里
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−090259(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/133631(WO,A1)
【文献】 特表2010−510875(JP,A)
【文献】 特開2011−072860(JP,A)
【文献】 特開2013−003050(JP,A)
【文献】 特開2013−088411(JP,A)
【文献】 特開平11−279945(JP,A)
【文献】 特開2016−24183(JP,A)
【文献】 放射線グラフト重合法によってりんモリブデン酸アンモニウムを担持したセシウム吸着用不織布の作製と性能評価,第28回日本イオン交換研究発表会 講演要旨集,2012年10月18日,O110
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00−20/34
G21F 9/00−9/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リンモリブデン酸基を付加した不織布を巻き回してなる濾過層を含むセシウム除去用フィルターカートリッジの製造方法であって、
前記不織布は
平均繊維径が5〜40μmの繊維からなる不織布に、放射線を照射することによりラジカル種を発生させる工程、及び
該ラジカル種を発生させた不織布を、リンモリブデン酸スズ、リンモリブデン酸チタン及びリンモリブデン酸アンモニウム・n水和物(AMP)からなる群から選択される一種、並びにグリシジルメタクリレート(GMA)と界面活性剤及び、架橋剤として、エチレングリコールジメタクリレート誘導体又はトリアリルイソシアヌレート(TAIC)を少なくとも含む反応性モノマー液に、浸漬して接触させて、液相にて不織布繊維上に、リンモリブデン酸基をグラフト重合させる工程を含む製造工程によって、製造されることを特徴とするセシウム除去用フィルターカートリッジの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中に存在する金属、特に放射性セシウムを除去するための水浄化用フィルターカートリッジおよびその製造方法に関し、より詳しくは、地下水、上水、下水、工業用水、農業水産業用水または汚染土壌の洗浄水に含まれる有害金属、特に放射性セシウムを効率よく捕集する水浄化用フィルターカートリッジおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所や放射性物質取り扱い施設の事故などによって汚染される地下水、上水、飲料水、下水、工業用水、農業水産業用水、各種生活用水などに含まれる放射性セシウム同位元素の除去が求められ、高精度かつ短時間に大量の汚染水を安全なものに改質することが求められている。
【0003】
ヨウ素、セシウムやストロンチウムなどの放射性物質を含む排液から、特定の放射性物質を取り除く方法が幾つか提案されている。
従来から用いられている水浄化方法の例をいくつか挙げると、先ず、吸着剤と凝集沈殿剤を使用する沈降方式が挙げられる。例えば、貯水漕設備に吸着剤を投入し、凝集沈殿剤を加えて有害金属を捕集する方法である。吸着剤として、ゼオライト、フェロシアン化化合物、顔料の一種プルシアンブルーなどが提案され、使用されている。
また、特許文献1では、リン酸またはリン酸塩を添加することによりセシウム(Cs)を吸着させて再処理高レベル廃液から放射性核種の分離する方法、また、特許文献2では、リンモリブデン酸アンモニウムを添加して、放射性セシウムを分離することを特徴とする原子炉水の核種分析方法が開示されている。
【0004】
しかしながら、上記の放射性物質を含む排液から特定の放射性物質を取り除くには、沈降分離設備などの大規模の処理装置が新たに必要であり、また、排液の処理後に放射性物質を含むスラッジが残され、これを乾燥などにより減容化するなどの処置がさらに必要となる。
さらに、放射性セシウムは、水中に陽イオンとして存在する他に、サブミクロンサイズの微小な土壌(以下、ダストともいう。)に強く吸着されており、このダストが水中に浮遊懸濁粒子として存在する。こうしたダストを高速かつ高精度で除去することが同時に求められているが、上述の方法では、そうした微小ダストの沈降分離による濾過機能としては十分な機能を有しない。
【0005】
一方、通水性不織布にグラフト技術を応用して、金属イオン交換基を付与することにより、温泉水に溶存する有用・有害金属を吸着することができる吸着材が提案されている(特許文献3参照。)。
このような不織布製吸着材(例えば、特許文献4、5等参照)は、濾過フィルターに加工でき、種々金属イオンの吸着速度も速いため、濾過処理の速度も速く、スラッジを発生しないので、使用後の廃棄処理(減容化や移送など)に手間がかからず、水浄化には好ましいものである。
しかしながら、選択的に放射性セシウムを吸着するものではないために、セシウム汚染水中に混在するナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム他の金属イオンまでも、吸着してしまい、その結果、セシウムを吸着する容量が侵食されるため、捕集精度や捕集容量の低下や寿命が実質的に短くなるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平05−027090号公報
【特許文献2】特開2012−150044号公報
【特許文献3】特開2006−026588号公報
【特許文献4】特開平11−279945号公報
【特許文献5】特開2008−229586号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上記従来技術の問題点に鑑み、地下水や上水、土壌洗浄水、下水、農業用水などに含まれる放射性セシウムを大規模な沈降分離設備を必要とせずに、すなわち、凝集剤や沈殿剤を用いずに、スラッジを発生することなく、簡便かつ高精度に除去し、廃棄処理が容易な水処理用フィルターカートリッジおよびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、かかる従来技術の問題点を解決するため、鋭意研究の結果、リンモリブデン酸基を付加した不織布を用いて、特に、該リンモリブデン酸基を付加した不織布と、密なる繊維構成をもつダスト濾過機能の高い不織布とを組み合せて、特定の2種類または3種類の不織布を基本濾材とするコンパクトなカートリッジに加工することにより、水中に溶解しているセシウムイオンのみならず、セシウムを吸着または付着している微小なダストを高効率で除去することを可能とした。このカートリッジは、従来から使用されている水濾過処理装置に交換フィルターとして、簡単に装脱着することが可能であり、高精度で高速かつ経済的にセシウム汚染水を浄化できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
記本発明に係る特定の2種類または3種類の不織布とは、リンモリブデン酸基を付加した不織布(a)、メルトブロー不織布(b)又はさらにナノファイバー不織布(c)である。
上記不織布(a)は、付加したリンモリブデン基により、水中に溶存しているセシウムを選択的かつ高精度に吸着する濾材であり、また、不織布(b)は、放射性セシウムなどの有害金属を吸着している微小のダストを、物理的に高精度かつ高速度で捕集する機能を持たせた濾材である。
さらに、所望により用いられる上記不織布(c)は、上記不織布(b)と同様に、放射性セシウムなどの有害金属を吸着(または付着)している微小のダストを、更に高精度で捕集する機能を持たせた濾材である。本発明は、上記の構成によって、これら2種類または3種類の不織布からなる濾材を一つのフィルタユニットに組み入れた、セシウム除去用フィルターカートリッジ及びその製造方法を提供するものである。
【0010】
すなわち、本発明の第1の発明によれば、リンモリブデン酸基を付加した不織布(a)を巻き回してなる濾過層(A)を含むことを特徴とするセシウム除去用フィルターカートリッジが提供される。
また、本発明の第2の発明によれば、第1の発明において、前記リンモリブデン酸基を付加した不織布(a)を巻き回してなる濾過層(A)と、メルトブロー不織布(b)を巻き回してなる濾過層(B)を、同芯軸上に配置したことを特徴とするセシウム除去用フィルターカートリッジが提供される。
さらに、本発明の第3の発明によれば、第2の発明において、前記濾過層(A)と濾過層(B)に加えて、さらに、ナノファイバー不織布(c)からなる濾過層(C)を、同芯軸上に巻き回して配置したことを特徴とするセシウム除去用フィルターカートリッジが提供される。
【0011】
本発明の第4の発明によれば、第1〜3のいずれかの発明において、前記リンモリブデン酸基を付加した不織布(a)は、平均繊維径が5〜40μmの繊維からなる不織布に、グラフト重合により、リンモリブデン酸基を付加してなることを特徴とするセシウム除去用フィルターカートリッジが提供される。
また、本発明の第5の発明によれば、第2〜4のいずれかの発明において、前記メルトブロー不織布(b)は、平均繊維径が0.5〜5μmおよび平均孔径が3〜40μmであることを特徴とするセシウム除去用フィルターカートリッジが提供される。
さらに、本発明の第6の発明によれば、第3の発明において、前記ナノファイバー不織布(c)は、素材がポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリビニルアルコール(PVA)およびポリアミド(PA)からなる群から選ばれる一種であり、且つ平均繊維径が50〜500nmおよび平均孔径が0.3〜3μmであるナノファイバー層が、支持体不織布に担持されていることを特徴とするセシウム除去用フィルターカートリッジが提供される。
【0012】
また、本発明の第7の発明によれば、第1の発明に係るセシウム除去用フィルターカートリッジの製造方法であって、
濾過層(A)を構成するリンモリブデン酸基を付加した不織布(a)は、
平均繊維径が5〜40μmの繊維からなる不織布に、放射線を照射することによりラジカル種を発生させる工程(I)、及び
該ラジカル種を発生させた不織布を、リンモリブデン酸スズ、リンモリブデン酸チタン及びリンモリブデン酸アンモニウム・n水和物(AMP)からなる群から選択される一種、並びにグリシジルメタクリレート(GMA)と界面活性剤を少なくとも含む反応性モノマー液に、浸漬して接触させて、液相にて不織布繊維上に、リンモリブデン酸基をグラフト重合させる工程(II)から、製造されることを特徴とするセシウム除去用フィルターカートリッジの製造方法が提供される。
さらに、本発明の第8の発明によれば、第7の発明において、前記反応性モノマー液には、さらに架橋剤が含まれることを特徴とするセシウム除去用フィルターカートリッジの製造方法が提供される。
【0013】
また、本発明の第9の発明によれば、第2の発明に係るセシウム除去用フィルターカートリッジの製造方法であって、
先ず、有孔の中空円筒を巻き芯(コア)として、メルトブロー不織布(b)を複数回巻き回して濾過層(B)とし、次いで、濾過層(B)の上から、リンモリブデン酸基を付加した不織布(a)を複数回巻き重ねて濾過層(A)とし、これら2種の濾過層で構成されることを特徴とするセシウム除去用フィルターカートリッジの製造方法が提供される。
さらに、本発明の第10の発明によれば、第3の発明に係るセシウム除去用フィルターカートリッジの製造方法であって、
先ず、有孔の中空円筒を巻き芯(コア)とし、ナノファイバー不織布(c)を複数回巻き回して濾過層(C)とし、次いで、濾過層(C)の上から、メルトブロー不織布(b)を複数回巻き回して濾過層(B)とし、さらに、濾過層(B)の上から、リンモリブデン酸基を付加した不織布(a)を複数回巻き重ねて濾過層(A)とし、これら3種の濾過層で構成されることを特徴とするセシウム除去用フィルターカートリッジの製造方法が提供される。
【0014】
本発明は、上記の如くセシウム除去用フィルターカートリッジなどに係るものであるが、その好ましい態様としては、次のものが包含される。
(1)第1又は4の発明において、リンモリブデン酸基を付加した不織布(a)は、リンモリブデン酸アンモニウム・n水和物(AMP)由来であることを特徴とするセシウム除去用フィルターカートリッジ。
(2)第2の発明において、メルトブロー不織布(b)の材質は、ポリプロピレン、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンまたはポリアミドから選ばれる少なくとも一種であることを特徴とするセシウム除去用フィルターカートリッジ。
(3)第6の発明において、前記ナノファイバー層は、エレクトロスピニング法により形成され、一方、前記支持体不織布は、ポリオレフィン系素材もしくはポリエステル系素材を用いたメルトブロー不織布、スパンボンド不織布、スパンレース不織布、湿式不織布またはサーマルボンド不織布であることを特徴とするセシウム除去用フィルターカートリッジ。
(4)第8の発明において、前記架橋剤は、エチレングリコールジメタクリレート誘導体またはトリアリルイソシアヌレート(TAIC)であることを特徴とするセシウム除去用フィルターカートリッジの製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明のセシウム除去用フィルターカートリッジは、上述のように、単層の濾過層(A)のみでも良いが、好ましくは2種、或いは所望により3種以上の異なる濾過層から構成され、これらの濾過層の効果は、以下のとおりである。
先ず、上流側(外層側)に配置される濾過層(A)を構成するリンモリブデン酸基を付加した不織布(a)は、流入してくる排水中に溶存するセシウムイオンを高精度で吸着し、捕捉する。しかも、付加したリンモリブデン酸基の脱離を、長期に防ぐことができ、吸着機能の耐久性にも優れている。
しかしながら、セシウムを吸着(または付着)しているものも含まれる可能性がある極めて微小なダストは、この濾過層(A)のみでは、十分に捕捉できないおそれがあって、この濾過層(A)を通過する可能性がある。そのため、このような極めて微小ダストを高精度で捕捉するために、メルトブロー不織布(b)からなる濾過層(B)、或いは所望により、さらに、ナノファイバー不織布(c)からなる濾過層(C)を、濾過層(A)の下流側に設けることにより、高度の濾過能力を付与することができる。
このように、本発明のフィルターカートリッジは、排水中に含まれる放射性セシウムイオンのみならず、放射性セシウムを吸着している微小ダストも、高精度、高効率および高速度で、同時に捕捉することができる。また、凝集剤や沈殿剤を用いないため、スラッジを発生することがないので、廃棄処理が簡便になり、経済性に配慮した、小型で処理能力の高い交換型の水濾過装置として、使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明のセシウム除去用フィルターカートリッジの構造の詳細を説明する模式図である。
図2】本発明のセシウム除去用フィルターカートリッジの濾過性能を評価するために用いる通液試験装置の概要を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明のセシウム除去用フィルターカートリッジ及びその製造方法について、詳細に説明する。
本発明のセシウム除去用フィルターカートリッジは、リンモリブデン酸基を付加した不織布(a)を巻き回してなる濾過層(A)を含むことを特徴とし、好ましくは、リンモリブデン酸基を付加した不織布(a)を巻き回してなる濾過層(A)と、メルトブロー不織布(b)を巻き回してなる濾過層(B)と、さらに、ナノファイバー不織布(c)を巻き回してなる濾過層(C)とからなる、2ないし3種類の機能性不織布を同芯軸上に巻き回すことよって濾過層が構成されることを特徴とするものである。
【0018】
このようなフィルターカートリッジを構成する濾過層(A)、(B)、(C)などについて、以下に説明する。
【0019】
1.濾過層(A)
本発明のセシウム除去用フィルターカートリッジにおいて、流入側にある最上流に配置される濾過層(A)(以下、A層ともいう)は、リンモリブデン酸基を付加した不織布(a)により構成される。
前記A層を構成するリンモリブデン酸基を付加した不織布(a)は、リンモリブデン酸基が付加している限り、特に限定されないが、好ましくは、平均繊維径が5〜40μmの繊維からなる不織布に、グラフト重合により、リンモリブデン酸基を付加してなることを特徴とする。
【0020】
不織布(a)に用いられる繊維基材の素材、及び不織布の製法の種類については、グラフト重合しやすい繊維素材と、不織布の構造及びグラフト重合の工程で照射される放射線(電子線、ガンマ線)に対して、物性劣化が少ないものという要件があり、好ましいものとして、以下の繊維素材からなる不織布を挙げることができる。
(i)ポリエチレン短繊維、ポリアミド短繊維、PVA短繊維又はセルロース短繊維からなるサーマルボンド不織布。
(ii)上記(i)の短繊維からなるスパンレース不織布または湿式不織布。
(iii)ポリエチレン又はポリアミド長繊維からなるスパンボンド不織布。
(iv)ポリエチレン又はポリアミド長繊維からなるメルトブロー不織布。
なお、上記(i)〜(iii)の不織布の繊維素材には、例えば、ポリエチレン繊維として、鞘(ポリエチレン)/芯(ポリプロピレン)からなる複合繊維や、ポリアミド繊維として、鞘(ポリアミド)/芯(ポリエステル)からなる複合繊維なども含まれる。
【0021】
これら不織布の繊維径については、平均繊維径が5〜40μmの範囲から選ばれ、特に上記(i)〜(iii)の不織布については、平均繊維径が15〜40μmの範囲から選ばれ、また、(iv)の不織布については、平均繊維径が5〜10μmの範囲から選ばれる。
また、これらの不織布の目付重量は、特に限定されないが、好ましくは40〜100g/mの範囲である。
その結果、このように選ばれた不織布の平均孔径は、30〜100μmの範囲となる。
【0022】
上記の不織布に、各種のイオン交換性官能基を付加(または付与)することについては、すでに知られた公知の方法がある(例えば、前記特許文献4及び5参照。)。
しかしながら、セシウムを選択的に吸着するイオン交換性官能基としてのリンモリブデ酸基を、グラフト重合により、不織布に付加(または付与)したもの、及び該リンモリブデ酸基を付加(または付与)した不織布の製造方法については、これまでに知られてなく、これらが本発明の特徴の一つである。
そこで不織布基材に、該リンモリブデン酸基を、グラフト重合により、付加(または付与)する方法について、以下に説明する。
【0023】
前記リンモリブデン酸基を付加した不織布(a)は、好ましくは、前記の繊維からなる不織布基材に、放射線を照射して、ラジカル種を発生させた後、リンモリブデン酸スズ、リンモリブデン酸チタン及びリンモリブデン酸アンモニウム・n水和物(AMP)からなる群から選択される一種、並びにグリシジルメタクリレート(GMA)と界面活性剤とを混合したものを反応性モノマー液とし、該ラジカル種を発生させた不織布を該反応性モノマー液に浸漬して、液相にて、グラフト重合させて得られるものである。
また、前記リンモリブデン酸基を付加した不織布(a)は、構造的には、明確でないものの、例えば、上記のリンモリブデン酸基を有する化合物として、リンモリブデン酸アンモニウム・n水和物(AMP)を用いた場合には、不織布上のグラフト鎖として、グリシジルメタクリレート(GMA)のエポキシ基を介して、リンモリブデン酸基[PMo1240]と、アンモニア基[NH]が、イオン結合している構造を有しているものと、考察されている。
【0024】
さらに、具体的に説明すると、不織布に、リンモリブデン酸基を付加するために、リンモリブデン酸基を有する化合物として、リンモリブデン酸スズ、リンモリブデン酸チタン及びリンモリブデン酸アンモニウム・n水和物(AMP)からなる群から選択される一種が用いられ、好ましくは、リンモリブデン酸アンモニウム・n水和物[分子式:(NHPO・12MoO・nHO、AMP]が挙げられる。
また、上記反応性モノマー液としては、上記のリンモリブデン酸基を有する化合物、例えば、リンモリブデン酸アンモニウム・n水和物(AMP)と、グリシジルメタクリレート(GMA)とを、ジメチルスルホキシドなどの有機溶媒、または、界面活性剤と混合させた系、さらには、界面活性剤と水によりエマルジョン化したものを用いることもできる。さらに、リンモリブデン酸基の脱離を防止するために、好ましくは架橋剤が含まれることが望ましい。
【0025】
上記界面活性剤は、分散性を改善するために用いられ、例えば、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンパルミチルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル類やTween20(商標、モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン)、Tween40(商標、モノパルミチン酸ポリオキシエチレンソルビタン)、Tween60(商標、モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン)、Tween80(商標、モノオレイン酸ポリオキシエチレンソルビタン(又はポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート))等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル類、Span20(商標、モノラウリン酸ソルビタン)、Span60(商標、モノステアリ酸ソルビタン)、Span80(商標、モノオレイン酸ソルビタン)等のソルビタン脂肪酸エステル類等が挙げられる。
【0026】
前記リンモリブデン酸基を付加した不織布(a)は、以下の工程(I)及び工程(II)から作製されることが好ましい。
工程(I):平均繊維径が5〜40μmの繊維からなる不織布に、放射線を照射することによりラジカル種を発生させる工程(I)
工程(II):該ラジカル種を発生させた不織布を、リンモリブデン酸スズ、リンモリブデン酸チタン及びリンモリブデン酸アンモニウム・n水和物(AMP)からなる群から選択される一種、並びにグリシジルメタクリレート(GMA)と界面活性剤を少なくとも含む反応性モノマー液に、浸漬して接触させて、液相にて不織布繊維上に、リンモリブデン酸基をグラフト重合させる工程(II)
【0027】
また、前記工程(II)の反応性モノマー液には、前記のように、付加したリンモリブデン酸基の脱離を、長期に防ぐために、さらに架橋剤が含まれることが望ましい。
上記架橋剤としては、例えば、重合性不飽和基を2個以上有する化合物が用いられ、具体的には、(i)(ポリ)エチレングリコール等のポリオール類のジ又はトリ(メタ)アクリル酸エステル類、(ii)ポリオールとマレイン酸、フマール酸等の不飽和酸類とを反応させて得られる不飽和ポリエステル類、(iii)N,N’−メチレンビス(メタ)アクリルアミド等のビスアクリルアミド類、(iv)トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等のポリイソシアネートと(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチルとを反応させて得られるジ(メタ)アクリル酸カルバミルエステル類、(v)N,N’,N’’−トリアリルイソシアヌレート等が挙げられ、好ましくは、2官能メタクリレート系モノマーであるエチレングリコールジメタクリレート誘導体やトリアリルイソシアヌレート(TAIC)などである。
【0028】
また、反応性モノマー液中において、前記リンモリブデン酸基を有する化合物、例えば、リンモリブデン酸アンモニウム・n水和物(AMP)と、グリシジルメタクリレート(GMA)と、ジメチルスルホキシドなどの有機溶媒と、界面活性剤と、架橋剤の含有量については、適宜、選択されるが、以下の含有量が望ましい。
すなわち、前記リンモリブデン酸基を有する化合物、例えば、リンモリブデン酸アンモニウム・n水和物(AMP)の含有量は、特に限定されないが、前記反応性モノマー量に対して、0.1〜2mol%であり、好ましくは0.3〜1mol%である。
前記界面活性剤の含有量は、特に限定されないが、前記反応性モノマー液全量に対して、0〜10重量%であり、好ましくは0.5〜2重量%である。
さらに、前記架橋剤の含有量は、特に限定されないが、前記反応性モノマー液全量に対して、0.5〜20mol%であり、好ましくは1〜10mol%である。
【0029】
なお、不織布にリンモリブデン酸基を付加する方法については、上記の方法に限定されず、以下の方法によっても、可能である。
すなわち、前記不織布基材に、放射線を照射することにより、ラジカル種を発生させた後、水と界面活性剤とによってエマルション化したグリシジルメタクリレート(GMA)と接触させ、グラフト重合反応を行わせ、GMA付加(エポキシ基含有)不織布を得る。
次に、このGMA付加(エポキシ基含有)不織布に、リン酸水溶液を接触させて(80℃24時間)、エポキシ基からリン酸基に転化させ、次に、例えば、モリブデン酸アンモニウム−1M硫酸溶液に浸漬し(60℃、24時間)、反応させて、リン酸基からリンモリブデン酸基に転化する方法である。
リンモリブデン酸基付与の不織布(a)の作製方法の詳細は、後述の実施例に示す。
【0030】
2.濾過層(B)
本発明において、濾過層(B)(以下、B層ともいう。)を構成するメルトブロー不織布(b)について、以下に説明する。
このB層の不織布(b)は、微小なダストを物理的に濾過で捕捉する役目を担う。この微小なダストには、放射性セシウムを吸着したものも含まれる可能性があるので、水中の微小なダストの捕集、除去も、本発明の大きな課題となっている。
上記の課題解決のため、これらの微小ダストを濾過、捕集し、排水から除去する目的から、捕集効率の高い繊維組織の密なる不織布、すなわち、より小さな繊維径及び平均孔径の不織布を用いる必要がある。しかしながら、前記の不織布(a)のグラフト重合に適した不織布では、より小さな繊維径及び平均孔径を選ぶことには、液相でのグラフト反応を実施する上で、限界がある。
したがって、B層の不織布(b)としては、繊維径及び平均孔径のより小さい不織布が好適であり、具体的には、平均繊維径が0.5〜5μmの範囲の繊維で構成されたメルトブロー不織布を選定し、該メルトブロー不織布をグラフト重合せずに巻き回して、精密な濾過の機能を有する濾過層(B)として、配置する。
なお、このメルトブロー不織布の目付重量は、特に限定されないが、巻き回し加工性の強度と柔軟性の面から、望ましくは20〜40g/mから選ばれ、必要に応じて、予め熱ロールカレンダなどで圧密し、厚みと充填密度を調整する。
上記のような選定と操作から、必然的に平均孔径が3〜40μmのメルトブロー不織布が調製される。
【0031】
メルトブロー不織布(b)の材質は、特に限定されないが、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブチレンテレフタレートまたはポリアミドなどから選ばれ、特に、細い繊維径を得るには、好ましくはポリプロピレンが原料として適している。
なお、濾過層(B)に用いられる上記メルトブロー不織布以外の不織布として、前記濾過層(A)の不織布(a)の項に挙げた(i)〜(iii)の不織布を使用することもできるが、濾過層(B)としては、平均繊維径及び平均孔径がこれらの不織布のものより小さい、上記のメルトブロー不織布の方が好適である。
【0032】
3.濾過層(C)
本発明において、所望により、流出側にある最下流に配置される濾過層(C)(以下C層ともいう)を構成するナノファイバー不織布(c)について、説明する。
ナノファイバー不織布(c)は、素材がポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリアクリロニトリル(PAN)、ポリビニルアルコール(PVA)およびポリアミド(PA)からなる群から選ばれ、エレクトロスピニング法による製造設備を用いて、平均繊維径が50〜500nmのナノファイバーが形成される。
【0033】
本発明において、ナノファイバー不織布(c)におけるナノファイバーは、目付重量が好ましくは0.15〜5g/m、さらに好ましくは0.2〜2g/mである。この目付重量において、平均孔径が0.3〜3μmのナノファイバー層が得られる。
なお、ナノファイバーは、繊維径が極めて細いので、それ自体は低強度であるため、支持体用不織布の上に、ナノファイバーを紡出し、ナノファイバー層を形成させることが望ましい。
上記支持体不織布としては、特に限定されず、例えば、ポリオレフィン系素材又はポリエステル系素材を用いたメルトブロー不織布、スパンボンド不織布、スパンレース不織布、湿式不織布、サーマルボンド不織布などが使用される。
本発明におけるナノファイバー不織布(c)とは、上記のようにナノファイバーと支持体不織布が複合された不織布である。
このようにして得られるナノファイバー不織布(c)は、平均孔径が前記のメルトブロー不織布(b)よりも、さらに平均孔径が小さいために、水中に浮遊する微小なダストの濾過精度が一段と高いセシウム除染処理に好適である。
【0034】
4.セシウム除去用フィルターカートリッジ
本発明のフィルターカートリッジの構造を、図1に基づいて概要を説明する。
図1は、3種の濾過層からなるカートリッジの断面を示している。図1において、有孔の中空円筒4を巻き芯(コア)として、濾過層(A)1、濾過層(B)2、濾過層(C)3が巻き回されて、配置されている例が示される。通水液は、OUT−IN方式によって、最外層側に置かれた濾過層(A)1から流入し、濾過層(B)2、濾過層(C)3を順次通過して、コアに到達し、コア内部の導水路5から、カートリッジ外に排出される。
各濾過層の不織布の孔径の大きさは、不織布(a)>不織布(b)>不織布(c)とすることによって、構成繊維及び孔径の勾配を持たせることによりデプス型濾材層構成とすることが可能であり、ダストの早期の目詰まりを防止する上で、好ましい配置となる。
なお、コア4としては、ポリエチレン、ポリプロピレンの射出成型品、ネット製品、不織布の積層成形品などが使用でき、巻き回しに耐える形状保持強度と導水性が確保されるものであれば、特に特定されるものではない。
【0035】
5.セシウム除去フィルターカートリッジの製造方法
本発明のセシウム除去用水浄化フィルターカートリッジの製造方法は、例えば、2種層構造の場合、先ず、カートリッジの巻き芯となるコアに、メルトブロー不織布(b)を複数回巻き回して、濾過層(B)を形成し、次いで、濾過層(B)の上から、濾過層(A)として、リンモリブデン酸基を付加した不織布(a)を複数巻き回して、濾過層(A)を形成する。また、必要に応じて、3種層構造の場合には、ナノファイバー不織布(c)を最初にコアの上から巻き回わして、濾過層(C)を形成し、その上に、順次濾過層(B)、濾過層(A)を配置することを特徴とするものである。
【実施例】
【0036】
以下、実施例により、本発明を更に詳細に説明するが、本発明は、これらの例によって何ら限定されるものではない。
尚、以下の実施例/比較例における各種イオン交換基を付加した不織布について、セシウム吸着性能を評価するため、下記の試験方法を用いた。
【0037】
1.測定液の調整及び吸着試験方法
(i)本試験においては、市販のセシウム標準液を使用し、放射性同位元素セシウム137の代わりとして評価した。このセシウム標準液(1,000ppm)を上水で20,000倍希釈し、濃度50ppbのセシウム溶存液を作製し、これを試験液とした。
尚、該試験液は、一般上水を使用しているので、セシウムの他に、Ca、Mg,Naなどの金属イオンが混在した試験液である。
(ii)次に、上記す試験液200mlをプラスティックビーカーに採り、この液中に測定試料1gを投入し、1時間撹拌する。
(iii)次に、撹拌前後の液を採取し、セシウム含有量を、ICP質量分析装置を用いて測定した。
【0038】
[実施例1]
先ず、濾過層(A)に用いられる不織布(a)の作製例を以下に示す。
高分子基材として、ポリエチレン短繊維からなるサーマルボンド不織布(以下、PE−TBと略記)を使用し、リンモリブデン酸基を基材中に導入するため、グリシジルメタクリレート(GMA)10重量%とジメチルスルホキシド(DMSO)90重量%を混合したモノマー100重量%に対して、界面活性剤としてポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート(関東化学(株)製、商品名:Tween80)0.8重量%を添加し、さらに、架橋剤として2官能メタクリレート系モノマー(新中村化学工業株式会社製、商品名:1G、4G、9G、14Gなど)であるエチレングリコールジメタクリレート誘導体を1〜10mol%、リンモリブデン酸アンモニウム(AMP)を0.4mol%、各々GMAに対して添加し、モノマー溶液を作製した。混合後は、予めホモジナイザーを用いて均一になるよう調整した。
次に、カートリッジに充填するグラフトフィルターに用いられる不織布(a)は、上記基材のポリエチレン製不織布(PE−TB)を、冷却下で電子線を50kGy照射した後、上述のモノマー溶液に、速やかに接触させて、作製した。モノマー溶液は、予めアルゴンガスを用いて脱酸素化をし、40℃に調温して使用した。浸漬後30分から3時間の間に、各不織布を取り出し、反応率Dg.を求めた。各種モノマー溶液における反応率を下記表1に示す。
【0039】
【表1】
【0040】
表1中、反応率の単位は%。1G〜14Gは、エチレングリコールジメタクリレート誘導体の種類であり、1Gは、エチレングリコールジメタクリレート[化学式:CH=C(CH)COOCHCHOOC(CH)C=CH]、4Gは、ポリエチレングリコール#200ジメタクリレート[化学式:CH=C(CH)COO(CHCHO)OC(CH)C=CH、n=4]、9Gは、ポリエチレングリコール#400ジメタクリレート[化学式:CH=C(CH)COO(CHCHO)OC(CH)C=CH、n=9]、14Gは、ポリエチレングリコール#600ジメタクリレート[化学式:CH=C(CH)COO(CHCHO)OC(CH)C=CH、n=14]のことであり、「M」は、モル濃度の略称である。
尚、前記の吸着試験において、表1中の試料のセシウム除去率は、いずれも99%以上である。
【0041】
[実施例2]
基材のポリアミド製メルトブロー不織布(以下、PA−MBと略記)に、50〜200kGyでγ線を照射し、予め、脱酸素化したモノマー溶液に浸漬して、目的のフィルターに用いられる不織布(a)を作製した。
上記モノマー溶液は、グリシジルメタクリレート(GMA)15重量%とジメチルスルホキシド85重量%を混合したモノマー100重量%に対して、界面活性剤としてポリオキシエチレンソルビタンモノラウリレエートを0.5重量%添加し、さらに、架橋剤としてトリアリルイソシアヌレート(TAIC)を5mol%、リンモリブデン酸アンモニウム(AMP)を0.5mol%、各々GMAに対して添加して、調整した。
40℃、2時間反応させた後、蒸留水でグラフト重合物を洗浄したのち、0.01Mの硝酸でグラフト重合物のコンディショニングを行った。反応率(Dg)(%)を下記表2に示す。
また、不織布(a)のセシウムに対する吸着性能評価試験は、表2中に示す試料を無作為に選んで、50ppbに調整した安定セシウム溶液中50mlに、0.02gを24時間浸漬して行った。その結果も表2に示し、いずれも概略95%以上の吸着率(除去率)が得られることが判る。
【0042】
【表2】
【0043】
[実施例3]
基材であるポリエチレン(鞘)/ポリプロピレン(芯)の芯鞘短繊維サーマルボンド不織布(以下、PE/PP−TBと略記)に、ドライアイス温度条件下で、電子線50kGyを照射したのち、予め、窒素ガスを用いて脱酸素化したリンモリブデン酸モノマー溶液中で、40℃、3時間反応させた。
前記モノマー溶液は、リンモリブデン酸アンモニウムを0.3mol%と、架橋剤としてポリエチレングリコール#400ジメタクリレート(9G)をGMAのモル濃度に対して1mol%添加したグリシジルメタクリレート水溶液中であり、グラフト付加反応は、エマルジョン状態で実施した。このときの反応率(Dg)は、210%であった。
得られたフィルター材不織布(a)に対し、50μg/L(ppb)に調整した安定性セシウム水溶液50ml中で2時間浸漬攪拌したところ、いずれも99%以上の除去率であった。
【0044】
[実施例4]
基材のセルロース製不織布を、ドライアイス温度条件下で電子線30kGyを照射したのち、グリシジルメタクリレート(GMA)10%とジメチルスルホキシド(DMSO)90%を混合したモノマー重量に対して、界面活性剤(Tween80)を0.8重量%、架橋剤としてトリアリルイソシアヌレート(TAIC)をGMAのモル濃度に対して5mol%、リンモリブデン酸アンモニウム(AMP)をGMAのモル濃度に対して0.4mol%である混合モノマー液に、浸漬して反応させた。
この混合モノマーは、予め、ホモジナイザーを用い、均一にしたのち、窒素ガスを用いて溶液内の酸素と置換した。40℃、2時間反応させた後、蒸留水でグラフト重合物を洗浄したのち、目的のフィルター材不織布(a)を得た。このときの反応率(Dg)は、180%であった。
得られたフィルター材不織布(a)に対し、50μg/Lに調整した安定性セシウム水溶液50ml中で2時間浸漬攪拌したところ、いずれも99%以上の除去率であった。また、攪拌時のリンモリブデン酸基の脱離率は、0.1%未満であった。
【0045】
[実施例5]
リンモリブデン酸基を有するセシウム除去フィルター材不織布(a)のリガンド安定性を高めるため、リンモリブデン酸基が脱離しない構造を有する合成方法として、2段グラフト重合を行った。
1段階目のグラフト重合では、基材である前記実施例1で用いたポリエチレン製不織布(PE−TB)をポリエチレン製の袋に入れて袋内の酸素を除いた後、ドライアイス温度下で電子線50〜100kGyを照射した。
グラフト重合では、グリシジルメタクリレート(GMA)10および40重量%とジメチルスルホキシド(DMSO)を各々90および10重量%を混合したモノマー重量に対して、界面活性剤(Tween80)を0.8重量%、リンモリブデン酸アンモニウム・n水和物(AMP)をGMAのモル濃度に対して0.4mol%になるように調整し、使用した。
さらに、この混合モノマーに、架橋剤として2官能メタクリレート系モノマーのポリエチレングリコール#400ジメタクリレート(9G)をGMAのモル濃度に対して1mol%混合させ、均一になるように攪拌した。
照射後の基材を、重合用アンプルに入れて、窒素ガスでバブリングしたモノマー溶液と接触させた。40℃、1〜2時間反応させた後、蒸留水でグラフト重合物を洗浄し、目的の1段階目のグラフト物を得た。
次いで、得られたグラフト物をポリエチレン製の袋に入れて袋内を脱酸素化した後、ドライアイス温度下で電子線10kGyを照射した。照射後の1段グラフト物は、さらに、グリシジルメタクリレート(GMA)2%と蒸留水90%を混合したモノマー重量に対して、界面活性剤(ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート(Tween20))1.5重量%を、混合して得られるモノマー溶液中に浸漬した。
このGMAモノマー溶液は、予め、アルゴンガスで脱酸素化を行った。40℃、2時間接触させた後、蒸留水でグラフト重合物を洗浄し、2段グラフト重合物のフィルター材不織布(a)を得た。得られたグラフト物の反応率を、各々下記表3に示す。
【0046】
【表3】
【0047】
得られた2種のフィルター材不織布(a)(試料A、B)に対し、50μg/Lに調整した安定性セシウム水溶液50ml中で2時間浸漬攪拌したところ、いずれも99%以上の除去率であった。また、吸着時のリンモリブデン酸基の脱離率は0.3%未満であった。
【0048】
[実施例6]
ドライアイス温度条件下で電子線50kGyを照射した実施例2で用いたポリアミド製不織布基材(PA−MB)を、グリシジルメタクリレート(GMA)10重量%とジメチルスルホキシド(DMSO)90重量%を混合したモノマー重量に対して、界面活性剤(Tween80)を1重量%、架橋剤としてトリアリルイソシアヌレート(TAIC)をGMAのモル濃度に対して5、10及び20mol%、リンモリブデン酸アンモニウム・n水和物(AMP)をGMAのモル濃度に対して0.4mol%である混合モノマーを使用した。
この混合モノマーは、予め、ホモジナイザーを用い、均一になるように攪拌した。反応は40℃、2時間行い、反応率を算出した。反応率は、TAICが5、10、20mol%に対して各々240、230、210%であり、ほとんど差異は見られなかった。
得られた3種のフィルター材不織布(a)に対し、50μg/Lに調整した安定性セシウム水溶液50ml中で2時間浸漬攪拌したところ、いずれも99%以上の除去率であった。また、攪拌時のリンモリブデン酸基の脱離率は、0.02%から0.1%の範囲であった。
上記実施例1〜6の概要と評価結果をまとめて表4に示す。
【0049】
【表4】
【0050】
[比較例1]
上記実施例との対比のため、リンモリブデン酸基以外のイオン交換基を付加した各種不織布を作製した。
不織布基材は、実施例3で用いたPE/PP−TB不織布を用いた。
そこでまず、この不織布基材に、50kGyのγ線を照射し、照射後の該不織布を、予め窒素バブリングしたエマルション化したグリシジルメタクリレート(GMA)に浸漬し、55℃に保持しながら、エマルショングラフト重合反応を4時間行った。
このGMAグラフトモノマー液は、液量全体重量基準で、GMA5%と界面活性剤(Tween20、関東化学株式会社製)を0.5重量%含む純水エマルション溶液である。グラフト重合反応後のグラフト率を評価したところ、GMA反応率は、120%であった。このGMA(エポキシ基含有)グラフト不織布に、以下の比較例にみる官能基を転化反応によりイオン交換能を付与した。
【0051】
上記のGMAグラフト重合不織布に、強カチオン性官能基の代表例として、スルホン酸基を転化付与した。
スルホン酸基の導入には、10%亜硫酸ナトリウム水溶液を用い、80℃、9時間反応させて、スルホン酸基を導入した。下式に示すスルホン化転化率(%)として、スルホン酸基に転化される前のエポキシ基のモル数に対するエポキシ基から転化したスルホン酸基のモル数の割合を算出した。
転化率(%)=100×エポキシ基から転化したスルホン酸基のモル数/スルホン酸基に転化される前のエポキシ基のモル数
スルホン化後の当該不織布の目付重量は230g/m、転化率は45%であった。これから、不織布単位重量当りのイオン交換当量は、1.7meq/gと計算される。また、このときのスルホン化不織布の厚みは、0.83mmであった。
比較例1の概要とセシウム吸着試験結果を表5に示す。
【0052】
[比較例2]
上記と同様に、GMAをグラフトした不織布(比較例1に同じ)を用いて、強アニオン性官能基の代表として、トリメチルアミン(TMA)(強酸塩)を用いて、80℃1時間の浸漬により4級アミノ基を付加(転化)させた。
比較例2の概要とセシウム吸着試験結果を表5に示す。
【0053】
[比較例3]
前記GMAグラフト不織布(比較例1に同じ)を用いて、弱アニオン基として、イミノジエタノール(IDE)に80℃、4時間浸漬して、イミノジエタノール基を付加(転化)させた。
比較例3の概要とセシウム吸着試験結果を表5に示す。
【0054】
[比較例4]
前記GMAグラフト不織布(比較例1に同じ)を用いて、キレート基として、イミノジ酢酸(IDA)に80℃、20時間浸漬して、イミノジ酢酸基を付加(転化)させた。
比較例4の概要とセシウム吸着試験結果を表5に示す。
【0055】
【表5】
【0056】
表4、5の対比により、本発明の濾材としては、特にリンモリブデン酸基付与の不織布が雑多な金属イオンを含む溶存液の中から、選択的にセシウムを吸着する能力があることが見い出され、所望される用途に、望ましいことが判る。
【0057】
次に、不織布(a)、(b)、(c)を用いたフィルターカートリッジの作製例を、以下に示す。
先ず、フィルターカートリッジの性能評価方法を下記に示す。
【0058】
[フィルターカートリッジの濾過性能評価]
1.通液試験及び通液試験装置
濾過性能を評価するために使用された通液試験装置の概要を、図2に示す。試験液は、カートリッジ内をOUT−INで通過するように、ハウジング11の流入管12よりカートリッジ内に導入され、排出管13より外部に設けられた吸引ポンプによって排出される。ハウジング内には、カートリッジ15が上下エンドキャッブ14、14’を介して固定されており、試験液は、カートリッジ15の外側より流入し、各層内部を通過し、カートリッジのコアの内部空間を通して排出管13より外部に排出される。
なお、本実施例では、測定試験液は、前記のセシウム標準液(1,000ppm)を上水で20,000倍希釈し、濃度50ppbのセシウム溶存液を使用した。
【0059】
2.フィルターカートリッジの性能評価方法
(1)セシウム濃度の測定
カートリッジの性能評価について、上記の通液試験にてセシウム溶存液を、通液濾過し[1.5〜3.1L/min(SV値として400〜800h−1)]、通液前後の液について、液中のセシウム濃度を測定した。
【0060】
(2)微粒子ダストの測定
微粒子ダストについては、下記の測定法によりダスト捕集効率を測定し、評価した。
すなわち、測定試験液は、超純水を用い、これに市販されている1μm標準ダストを加え、これを、セシウムを吸着した微粒子ダストと想定し、10L/minで、前記カートリッジに通液したときのダストの通過をパーティクルカウンター(Hiac Royco Model 8000A)を用いて計測し、カートリッジのダスト捕集率を計測した。
【0061】
3.フィルターカートリッジの作製
カートリッジの作製に際し、濾過層(A)に用いる不織布(a)は、前記実施例1〜3で作製したリンモリブデン酸基付与不織布を用いた。
【0062】
次に、濾過層(B)に用いるメルトブロー不織布(b)は、本明細書に記載された好ましい範囲の中から以下の仕様の市販品(三井化学製、ポリプロピレン製メルトブロー不織布、商品名シンテックス)を選定し、濾過層(B)を形成する不織布に用いた。
目付重量:30g/m
平均繊維径:4μm
厚み:0.3mm
平均孔径:23μm
【0063】
また、濾過層(C)に用いるナノファイバー不織布(c)は、本明細書に記載された好ましい範囲の中から以下の仕様にて作製した。
・ナノファイバーの目付重量:1g/m
・ナノファイバー素材:PVDF(DMF溶媒に10%溶解)
・支持体不織布:ポリプロピレン製スパンボンド不織布(目付重量20g/m
・ナノファイバー繊維径:平均100nm(50〜150nmの範囲に分布)
・製作装置:エルマルコ社製エレクトロスピニング装置、NS LAB500
なお、ナノファイバー不織布(c)は、ナノファイバーと支持体不織布が積層された複合不織布であり、その平均孔径は0.6μmであった。
【0064】
フィルターカートリッジの作製のために準備された上記の不織布(a),(b),(c)を用いて、本明細書に記載された製造方法により、以下に示すフィルターカートリッジを作製した(以下、単にカートリッジともいう)。
尚、本通液試験に供するフィルターカートリッジの仕様は、以下のように定めた。
・カートリッジ外寸:62mm
・カートリッジ内寸:30mm
・カートリッジ高さ:25mm
フィルター濾材となる不織布(a),(b),(c)の巻き数などについては、上記の寸法の制約の中で、適宜選定し、表6(実施例)に示した。
尚、その巻き数については、限定されるものではなく、本発明の機能原理を説明するために設定されたものであり、その寸法は、用途により、適宜、変更される。
【0065】
[実施例7−1]
カートリッジのコア上に、濾過層(A)を形成させるために、実施例1で得られたリンモリブデン酸基付加型の不織布(a)を40層巻き回し、前記寸法諸元のカートリッジ内に収納した。
次に、端部を、エンドキャップを用いて、熱シールして、カートリッジを作製した。このカートリッジについて、前記の通液試験装置と評価方法によって、通液前後の溶存セシウム濃度、及びダスト含量を測定した。その結果を表6にまとめた。
【0066】
[実施例7−2]
カートリッジのコア上に、まず濾過層(B)を形成させるために、前記メルトブロー不織布(b)を26層にわたり巻き回した。次いで、濾過層(A)として実施例1で得られたリンモリブデン酸基付加型の不織布(a)を無作為に選んで6層巻き回し、前記寸法諸元のカートリッジ内に収納した。
次に、端部を、エンドキャップを用いて熱シールして、カートリッジを作製した。このカートリッジについて、前記の通液試験装置と評価方法によって、通液前後の溶存セシウム濃度、及びダスト含量を測定した。その結果を表6にまとめた。
【0067】
[実施例8]
濾過層(A)を構成する不織布(a)に、実施例2で得られたものを使用した以外は、実施例7−2と同様にして、カートリッジを作製した。このカートリッジについて、前記の通液試験装置と評価方法によって、通液前後の溶存セシウム濃度、及びダスト含量を測定した。その結果を表6にまとめた。
【0068】
[実施例9]
濾過層(A)を構成する不織布(a)に、実施例3で得られたものを使用した以外は、実施例7−2と同様にして、カートリッジを作製した。このカートリッジについて、前記の通液試験装置と評価方法によって、通液前後の溶存セシウム濃度、及びダスト含量を測定した。その結果を表6にまとめた。
【0069】
[実施例10]
カートリッジのコア上に、濾過層(C)を形成するために、前記ナノファイバー不織布(c)を2層にわたり巻き回し、次いで、濾過層(B)として、前記のメルトブロー不織布(b)を26層にわたり巻き回し、さらにその上に、濾過層(A)として、実施例1で得られたリンモリブデン酸基付加不織布(a)を6層巻き回し、前記寸法諸元のカートリッジ内に収納した。
次に、端部を、エンドキャップを用いて熱シールして、カートリッジを作製した。このカートリッジについて、前記の通液試験装置と評価方法によって、通液前後の溶存セシウム濃度、及びダスト含量を測定した。その結果を表6にまとめた。
【0070】
[実施例11]
濾過層(A)を構成する不織布(a)に、実施例2で得られたものを使用した以外は、実施例10と同様にして、カートリッジを作製した。このカートリッジについて、前記の通液試験装置と評価方法によって、通液前後の溶存セシウム濃度、及びダスト含量を測定した。その結果を表6にまとめた。
【0071】
【表6】
【0072】
[評価結果の考察]
表6に示された評価結果から、本発明のフィルターカートリッジ(実施例7−2、実施例8〜11)は、セシウムを効率よく除去するとともに、微粒子ダストも、同時に高効率で捕捉できることが判る。また、濾過層(A)のみのフィルターカートリッジ(実施例7−1)でも、セシウムを効率よく除去するとともに、微小ダストを80%以上除去できることも判る。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の水浄化用フィルターカートリッジは、水中に存在する放射性セシウムを、簡便かつ高効率で除去することができ、好ましくは、2ないし3種の異なる機能性不織布で構成され、地下水、上水、工業用水、農業用水の浄化の他、土壌や汚泥の洗浄排水のからの放射性セシウムの除去に、好適に用いることができ、産業上の利用可能性が高い。
【符号の説明】
【0074】
1 濾過層(A)
2 濾過層(B)
3 濾過層(C)
4 有孔の中空円筒(コア)
5 中空導水部
11 ハウジング
12 流入管
13 排出管
14、14’ エンドキャッブ
15 フィルターカートリッジ
図1
図2