特許第6089189号(P6089189)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6089189細胞増殖促進タンパク質の製造方法および安定型細胞増殖促進タンパク質
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6089189
(24)【登録日】2017年2月17日
(45)【発行日】2017年3月8日
(54)【発明の名称】細胞増殖促進タンパク質の製造方法および安定型細胞増殖促進タンパク質
(51)【国際特許分類】
   C12P 21/02 20060101AFI20170227BHJP
   C07K 14/50 20060101ALI20170227BHJP
   C12N 5/071 20100101ALI20170227BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20170227BHJP
【FI】
   C12P21/02 C
   C07K14/50ZNA
   C12N5/071
   !C12N15/00 A
【請求項の数】6
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2012-175858(P2012-175858)
(22)【出願日】2012年8月8日
(65)【公開番号】特開2014-33631(P2014-33631A)
(43)【公開日】2014年2月24日
【審査請求日】2015年8月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】306024148
【氏名又は名称】公立大学法人秋田県立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100100549
【弁理士】
【氏名又は名称】川口 嘉之
(74)【代理人】
【識別番号】100131392
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 武司
(74)【代理人】
【識別番号】100126505
【弁理士】
【氏名又は名称】佐貫 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100151596
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 俊明
(72)【発明者】
【氏名】小林 正之
(72)【発明者】
【氏名】菅原 彩子
【審査官】 森井 文緒
(56)【参考文献】
【文献】 Database GenBank [online], Accessin No. NW_003534199, <http://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/347618077?sat=17&satkey=3847238> 11-Oct-2011 uploaded, Definition: Sus scrofa breed mixed chromosome 2 genomic scaffold, Sscrofa10.2.
【文献】 Anim. Sci. J. (Mar-2012) vol. 83, no.3, p. 260-262
【文献】 J. Reprod. Dev. (2011) vol. 57, no. 5, p. 650-654
【文献】 Bone (1999) vol. 25, no. 4, p. 431-437
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−15/90
C07K 14/50
PubMed
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
WPIDS/WPIX(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウシまたはブタのゲノムDNAを鋳型にしてPCRを行うことにより、ウシまたはブタFGF4 (Fibroblast Growth Factor 4)遺伝子のエキソン1,2および3をそれぞれ増幅し、
これらを連結してウシまたはブタFGF4のコード領域を含むDNAを調製し、これを発現させてウシまたはブタFGF4タンパク質を得る、ウシまたはブタFGF4タンパク質の製造方法であって、
前記ウシまたはブタFGF4タンパク質が、成熟型からさらにN末端側領域を欠失させた安定
型ウシまたはブタFGF4タンパク質であり、
前記安定型ウシまたはブタFGF4タンパク質は、下記のいずれかで示される、方法。
a)配列番号7もしくは配列番号9のアミノ酸配列からなるタンパク質、または
b)配列番号7もしくは配列番号9において、1〜10個のアミノ酸が置換、欠失、挿入または付加されたアミノ酸配列からなり、細胞増殖促進活性を有し、かつ、成熟型と比較して増加した安定性を有するタンパク質。
【請求項2】
配列番号15と16のプライマー対、配列番号17と18のプライマー対、および配列番号19と20のプライマー対を用い、ウシFGF4遺伝子のエキソン1,2および3をそれぞれ増幅する、請求項に記載の製造方法。
【請求項3】
配列番号22と26のプライマー対、配列番号25と28のプライマー対、および配列番号27と24のプライマー対を用い、ブタFGF4遺伝子のエキソン1,2および3をそれぞれ増幅する、請求項に記載の製造方法。
【請求項4】
ヘパリンカラムクロマトグラフィーを用いてウシまたはブタFGF4タンパク質を精製する工程を含む、請求項1〜のいずれか一項に記載の製造方法。
【請求項5】
下記のいずれかで示される、安定型FGF4タンパク質。
a)配列番号7もしくは配列番号9のアミノ酸配列からなるタンパク質、または
b)配列番号7もしくは配列番号9において、1〜10個のアミノ酸が置換、欠失、挿入または付加されたアミノ酸配列からなり、細胞増殖促進活性を有し、かつ、成熟型と比較して増加した安定性を有するタンパク質。
【請求項6】
請求項に記載の安定型FGF4タンパク質を含む、細胞増殖促進剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞増殖促進タンパク質である線維芽細胞増殖因子4(FGF4)タンパク質の製造方法,および安定型FGF4タンパク質に関する。
【背景技術】
【0002】
着床直前の胚である胚盤胞は,将来,胎仔を形成する内部細胞塊と,将来,胎盤を形成する栄養外胚葉から構成されている。また栄養外胚葉は,内部細胞塊に接している極栄養外胚葉と,それ以外の壁栄養外胚葉に分けられる。哺乳動物のモデル生物であるマウスと遺伝子ノックアウト技術を用いることにより,線維芽細胞増殖因子4(Fibroblast Growth Factor 4;FGF4)は内部細胞塊から分泌され,極栄養外胚葉の増殖を刺激することにより胎盤形成を促進して妊娠の成立を導く,重要な細胞増殖因子であることが証明されている(非特許文献1)。すなわち,FGF4は哺乳動物の繁殖において必要不可欠な細胞増殖因子である。
【0003】
ヒト(GenBank ID 2249),マウス(GenBank ID 14175),ウシ(GenBank ID 618474),ブタ(GenBank ID 100518595)のFGF4遺伝子はタンパク質コーディングエキソン1,2,3から構成され,タンパク質コーディングエキソン1と2の間,およびタンパク質コーディングエキソン2と3の間に,タンパク質がコードされていないDNA領域であるイントロンを含む。生体内では,FGF4遺伝子はRNAポリメラーゼにより転写され,イントロンが除去され,メッセンジャーRNAが完成し,リボゾームによりFGF4タンパク質へと翻訳される。ヒト,ウシおよびブタFGF4は206アミノ酸残基,マウスFGF4は202アミノ酸残基から構成される(図1)。また,ヒトFGF4はA7-P22(以下,アルファベットはアミノ酸一文字標記,肩数字はタンパク質N末端側からのアミノ酸番号を示す)に分泌シグナルペプチドが同定されている(非特許文献2)。動物細胞内の小胞体膜を通過する際に分泌シグナルペプチドは切断され,成熟型FGF4へとプロセッシングされる。また,FGF受容体への結合部位およびヘパリン結合部位がC末端側に存在する。なお,ヒト成熟型FGF4はP32-L206から構成されていることが明らかにされている(非特許文献2)。ヒト成熟型FGF4のアミノ酸配列との比較から推定されたマウス(P31-L202),ウシ(P32-L206)およびブタ(P32-L206)の成熟型FGF4は,アミノ酸レベルで高い相同性を示す(84-95%)。ヒトFGF4の類似タンパク質であるヒトFGF2のドメイン構造から推定すると(非特許文献3),ヒト,マウス,ウシ,ブタ成熟型FGF4のアミノ酸配列中に含まれるFGF受容体への結合部位に相当する配列(6アミノ酸残基,図1)は,それぞれ1-4アミノ酸の相違が認められる。このことは,FGF4とFGF4受容体との結合には動物種に依存した特異性が現れることを示している。
【0004】
動物体内におけるFGF4の生産は発生初期のごく一時期に限られ,しかも生産量はきわめて微量である。そこで遺伝子工学技術を用いてFGF4が製造され,細胞増殖促進活性(非特許文献4)や骨形成の促進活性(非特許文献5)などに例示される,生物学や医学に有効な生物活性に関する知見が得られた。
【0005】
FGF4を遺伝子工学的に製造する行程は,FGF4タンパク質をコードするDNA(以下,FGF4タンパク質コードDNA)の製造,FGF4タンパク質コードDNAを組み込んだ発現ベクターの製造,該ベクターを組み込んだ宿主細胞の製造,FGF4の精製,から構成される。ヒト,マウス,ウシ,ブタのFGF4のアミノ酸一次構造は明らかにされているので,FGF4タンパク質コードDNAは公知の化学合成法により製造することができる。しかし,特殊な合成試薬を必要とするのでコストが高価であり産業上好ましくない。一方,ヒト(非特許文献4)およびマウス(非特許文献5)のFGF4の場合,常套手段にもとづいてFGF4遺伝子が発現している癌細胞よりメッセンジャーRNAを抽出し,メッセンジャーRNAを鋳型にしてDNAに逆転写し,DNA
ライブラリーを製造し,FGF4タンパク質をコードするDNAを同定することにより製造することができる。該製造方法は特殊な試薬を使わないのでコストは安価であり,産業上有利である。
【0006】
ウシFGF4遺伝子の塩基配列が1995年に報告された(非特許文献6)。その後,ウシおよびブタでは全ゲノム解析プロジェクトが進行中であり,ウシでは2009年,ブタでは2011年にその途中経過の一部のみがようやく公開された。その結果,ヒトとマウスのFGF4遺伝子と同様に,ウシ(非特許文献7,8)とブタ(GenBank accession no. NW_003534199)のFGF4遺伝子もタンパク質コーディングエキソン1,2,3から構成されることが判明した。しかし,FGF4遺伝子が発現していることが既知であるウシおよびブタの初期胚を大量に採取することは高コストであること,また,ウシおよびブタの癌細胞など、FGF4のメッセンジャーRNAが発現している細胞の入手が困難であることにより,安価にウシおよびブタのFGF4タンパク質コードDNAを入手することは困難である。
【0007】
ヒトおよびマウスのFGF4タンパク質コードDNAは,常套手段である組換えDNA技術を用い,市販されている動物細胞用発現ベクター(pRc/CMV,インビトロージェン社,など),市販されている昆虫細胞用発現ベクター(pFastBac1,インビトロージェン社,など),市販されている大腸菌用発現ベクター(pET,ノバゲン社,など)等に組み込まれ,FGF4タンパク質コードDNAを組み込んだ発現ベクターが製造される(非特許文献4,6)。これらのFGF4発現ベクターを,いずれも常套手段(非特許文献9)であるリン酸カルシウム法,リポフェクション法,もしくは電気穿孔法等により遺伝子導入し,該ベクターを組み込んだ昆虫細胞(非特許文献10)や動物細胞(非特許文献11)が製造された。しかし,昆虫細胞や動物細胞を宿主として用いた製造方法はFGF4の生産コストが高価であり,産業上不利である。そこで,生産コストが安価であるという点において産業上有利である遺伝子組換え大腸菌を製造するために,常套手段であるコンピテントセル法もしくは電気穿孔法により該ベクターを遺伝子導入して遺伝子組換え大腸菌を製造し,これによりヒトFGF4(非特許文献5)およびマウスFGF4(非特許文献6)を製造する技術が開発されている。ただし大腸菌を使ってFGF4を製造する場合,FGF4遺伝子に含まれているイントロンを含んでいないFGF4タンパク質コードDNAを発現ベクターに組み込むことが必要である。また,FGF類似タンパク質群が共通して示す特徴であるヘパリン結合性を利用して,ヘパリンカラムクロマトグラフィーによりFGF4を精製する技術が開発されている(非特許文献12、6)。
【0008】
ヒト成熟型FGF4を遺伝子工学的にサル由来培養細胞により製造した場合,分解により低分子化するため産業上不利である(非特許文献13)。一方,ヒトFGF4のアミノ酸配列を遺伝子工学的に短縮化し,短縮化ヒトFGF4を大腸菌により製造後,細胞増殖促進活性を測定して比較することにより,細胞増殖促進活性を担うアミノ酸配列領域を探索する研究が行われている。その結果,N末端側短縮化ヒトFGF4(A73-L206)は十分な細胞増殖促進活性を示すがN末端側短縮化ヒトFGF4(L96-L206)は活性を示さないことが判明している(非特許文献5)。加えて,N末端側短縮化ヒトFGF4(A73-L206)は,ヘパリンカラムクロマトグラフィーによる精製効率が向上することが示された(非特許文献5)。また,N末端側短縮化ヒトFGF4(L67-L206)の生物活性の増加,およびヘパリンカラムクロマトグラフィーによる精製効率の向上に関して報告されている(非特許文献13)。
しかしながら、N末端側を短縮することによるFGF4タンパク質の安定性への影響については調べられていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Niswander & Martin 1992, Rappolee et al. 1994, Feldman et al. 1995
【非特許文献2】妹尾昌治ら FGF-4. In 成長因子.1993
【非特許文献3】西川克三 & 吉竹佳乃 FGFファミリー. In 細胞増殖因子.1995
【非特許文献4】Cell 50 729-737. 1987
【非特許文献5】Bone 25 431-437. 1999
【非特許文献6】J Reprod Dev 57 650-654. 2011
【非特許文献7】Gene 162 333-334.1995
【非特許文献8】Genome Biol 10 R42.2009
【非特許文献9】Aminal Science Journal 83 260-262. 2012
【非特許文献10】Molecular Cloning. New York: Cold Spring Harbor Laboratory Press. 2001
【非特許文献11】Oncogene 3 383-389. 1988
【非特許文献12】Mol Cell Biol 8 2933-2941. 1988
【非特許文献13】Bellosta et al. J Cell Biol 121 705-713.1993
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
ウシおよびブタの効率的な繁殖は畜産業界,遺伝子組換えウシおよびブタによる医薬品製造業界,遺伝子組換えブタによる移植用代替臓器の製造業界,に例示される動物関連産業においてきわめて重要である。また,ウシ腎由来MDBK細胞に例示されるウシ培養細胞はウシ伝染性鼻気管炎・ウシパラインフルエンザウィルス・ウシRSウィルス等に対するワクチン製造宿主として産業的に用いられており,製造宿主として培養しているウシ培養細胞の増殖を促進することは製造期間の短縮や製造コスト削減に資するので産業上重要である。ウシFGF4およびブタFGF4は,ウシ胚およびブタ胚に含まれる極栄養外胚葉の細胞増殖を促進することを介して胎盤形成を導くことにより効率的な繁殖をもたらす作用,および,ウシおよびブタ培養細胞の効率的な増殖を導く作用を有しており産業上重要であるが,入手は困難である。
さらに,ウシやブタの成熟型FGF4は細胞増殖促進活性を有するものの、保存中に分解されたりするなど、タンパク質分子として安定性が十分ではない。
【0011】
そこで,本発明は、低コストで細胞増殖促進活性を保持するウシFGF4およびブタFGF4の製造方法を提供すること,および細胞増殖促進活性を保持し,かつ,ヘパリンカラムクロマトグラフィーによる精製効率がよく,さらに安定で保存中に分解されにくいウシFGF4およびブタFGF4を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決すべく鋭意研究した結果,本発明者は、安価であるウシ血液細胞からゲノムDNAを採取し,FGF4構造遺伝子を含むDNA領域をPCR法により増幅し,該DNAを鋳型にしてFGF4のタンパク質コーディングエキソン1,2,3をPCR法により増幅し,これらをコーディングエキソン1,2,3の順で連結することによりウシ成熟型FGF4タンパク質コードDNAを得ることに成功した。また,該DNAを遺伝子工学的に改変することにより,ブタ成熟型FGF4タンパク質コードDNAを得ることに成功した。
そして、これらFGF4タンパク質コードDNAを大腸菌用発現ベクターに組み込み,該ベクターを大腸菌に組み込み,大腸菌細胞抽出液を調製後,ヘパリンカラムクロマトグラフィーにより混在物から抽出することにより,細胞増殖促進活性を有するウシFGF4およびブタFGF4を製造できることを見出した。
【0013】
更に,成熟型FGF4タンパク質コードDNAを遺伝子工学的に改変し,成熟型FGF4タンパク質分子のN末端側タンパク質領域をさらに欠損させることにより,細胞増殖促進活性を保持し,かつ,ヘパリンカラムクロマトグラフィーによる精製効率が高く,かつ,保存中に分解されにくい安定型(以下、N末端側短縮型と呼ぶこともある)のウシFGF4およびブタFGF4を製造できることを見出した。
【0014】
すなわち、本発明は以下を提供する。
(1)ウシまたはブタのゲノムDNAを鋳型にしてPCRを行うことにより、ウシまたはブタFGF4 (Fibroblast Growth Factor 4)遺伝子のエキソン1,2および3をそれぞれ増幅し、これらを連結してウシまたはブタFGF4のコード領域を含むDNAを調製し、これを発現させてウシまたはブタFGF4タンパク質を得る、ウシまたはブタFGF4タンパク質の製造方法。
(2)ウシまたはブタFGF4タンパク質が、成熟型からさらにN末端側領域を欠失させた安定型ウシまたはブタFGF4タンパク質である、(1)に記載の製造方法。
(3)安定型ウシまたはブタFGF4タンパク質が下記のいずれかで示される、(2)に記載の方法。
a)配列番号7もしくは配列番号9のアミノ酸配列からなるタンパク質、または
b)配列番号7もしくは配列番号9において、1または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入または付加されたアミノ酸配列からなり、細胞増殖促進活性を有するタンパク質。
(4)配列番号15と16のプライマー対、配列番号17と18のプライマー対、および配列番号19と20のプライマー対を用い、ウシFGF4遺伝子のエキソン1,2および3をそれぞれ増幅する、(3)に記載の製造方法。
(5)配列番号22と26のプライマー対、配列番号25と28のプライマー対、および配列番号27と24のプライマー対を用い、ブタFGF4遺伝子のエキソン1,2および3をそれぞれ増幅する、(3)に記載の製造方法。
(6)ウシまたはブタFGF4タンパク質が、成熟型ウシまたはブタFGF4タンパク質である、(1)に記載の製造方法。
(7)成熟型ウシまたはブタFGF4タンパク質が下記のいずれかで示される、(6)に記載の方法。
c)配列番号3もしくは配列番号5の32〜206のアミノ酸配列からなるタンパク質、または
d)配列番号3もしくは配列番号5の32〜206において、1または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入または付加されたアミノ酸配列からなり、細胞増殖促進活性を有するタンパク質。
(8)配列番号14と16のプライマー対、配列番号17と18のプライマー対、および配列番号19と20のプライマー対を用い、ウシFGF4遺伝子のエキソン1,2および3をそれぞれ増幅する、(7)に記載の製造方法。
(9)配列番号21と26のプライマー対、配列番号25と28のプライマー対、および配列番号27と24のプライマー対を用い、ブタFGF4遺伝子のエキソン1,2および3をそれぞれ増幅する、(7)に記載の製造方法。
(10)ヘパリンカラムクロマトグラフィーを用いてウシまたはブタFGF4タンパク質を精製する工程を含む、(1)〜(9)のいずれかに記載の製造方法。
(11)下記のいずれかで示される、安定型FGF4タンパク質。
a)配列番号7もしくは配列番号9のアミノ酸配列からなるタンパク質、または
b)配列番号7もしくは配列番号9において、1または数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入または付加されたアミノ酸配列からなり、細胞増殖促進活性を有するタンパク質。
(12)(11)に記載の安定型FGF4タンパク質を含む、細胞増殖促進剤。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ウシやブタのFGF4タンパク質を効率よく安価で製造することができる。また、本発明の安定型FGF4は、細胞増殖促進活性を保持し,かつ,ヘパリンカラムクロマトグラフィーによる精製効率が高く,かつ,保存中に分解されにくいという優れた特性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】ヒト, マウス, ウシ, ブタFGF4のアミノ酸配列の比較
図2】ウシゲノムDNAからのFGF4タンパク質コードDNAの製造
図3】ウシFGF4構造遺伝子と変異を導入したプライマーを用いたブタFGF4タンパク質コードDNAの製造
図4】PCRにより増幅したウシ成熟型FGF4およびN末端側短縮ウシFGF4タンパク質コードDNAの電気泳動像(写真)
図5】PCRにより増幅したブタ成熟型FGF4およびN末端側短縮ブタFGF4タンパク質コードDNAの電気泳動像(写真)
図6】SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動によるウシ,ブタ成熟型およびN末端側短縮FGF4の発現誘導(写真)
図7】ヘパリンカラムクロマトグラフィーによるウシ成熟型FGF4の分取
図8】ヘパリンカラムクロマトグラフィーによるN末端短縮ウシFGF4の分取
図9】ヘパリンカラムクロマトグラフィーによるブタ成熟型FGF4の分取
図10】ヘパリンカラムクロマトグラフィーによるN末端短縮ブタFGF4の分取
図11】ウシ成熟型FGF4またはN末端側短縮ウシFGF4によるウシ線維芽細胞の細胞増殖促進効果
図12】ブタ成熟型FGF4またはN末端側短縮ブタFGF4によるブタ線維芽細胞の細胞増殖促進効果
図13】ウシ成熟型FGF4またはN末端側短縮ウシFGF4によるMDBK細胞の細胞増殖促進効果
図14】繰り返しの凍結融解操作が及ぼすウシ成熟型FGF4およびN末端側短縮ウシFGF4の分解に対する影響(写真)
図15】繰り返しの凍結融解操作が及ぼすブタ成熟型FGF4およびN末端側短縮ブタFGF4の分解に対する影響(写真)
【発明を実施するための形態】
【0017】
まず、FGF4の構造について説明する。
図1には、ヒトFGF4(配列番号11)、マウスFGF4(配列番号13)、ウシFGF4(配列番号3)およびブタのFGF4(配列番号5)のアミノ酸配列アラインメントを示す。
ウシおよびブタのFGF4は全長が1〜206であり、32〜206が成熟型であり、55〜206が安定型である。
ここで、安定型とは、成熟型からN末端領域がさらに削除され、それにより、細胞増殖促進活性は維持しつつ、安定性が増加したFGF4タンパク質のことをいう。
安定性が増加したとは、例えば、凍結融解処理を複数回繰り返した時に成熟型と比較して分解度が少ないことをいう。
細胞増殖促進活性は例えば、線維芽細胞を培養する際の培地にFGF4を加え、加えない際と比較して細胞増殖率が高くなることで、細胞増殖促進活性を有すると判断することができる。細胞増殖は公知の試薬を用いて測定することができる。
【0018】
配列番号7にウシ安定型FGF4のアミノ酸配列を示した。
配列番号9にブタ安定型FGF4のアミノ酸配列を示した。
なお、一般的に、タンパク質を構成するいくつかのアミノ酸において置換、欠失、挿入若しくは付加が生じてもタンパク質の活性に影響を与えない場合が多いことから、本発明の安定型FGF4は、配列番号7または9において1若しくは数個のアミノ酸が置換、欠失、挿入若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ細胞増殖促進活性を有する安定型タンパク質であってもよい。ただし、成熟型とは区別されるため、N末端側に付加される場合は、FGF4の32〜54に由来する配列以外の配列であることが好ましい。例えば、N末端側またはC末端側に、タンパク質を標識したり精製したりするためのタグ配列が付加される。具体的には、Hisタグ、GSTタグ、MBPタグ、FLAGタグなどが例示される。
【0019】
上記「1もしくは数個のアミノ酸」とは、安定型FGF4の特性が失われない程度の変異を起こしてもよいアミノ酸残基の数を示す。例えば具体的には、1〜20の整数、好ましくは1〜10の整数、より好ましくは1〜5の整数を示す。
また、本発明の安定型FGF4は、細胞増殖促進活性を有する限り、配列番号7または9の全体に対して90%以上、好ましくは96%以上、より好ましくは98%以上の同一性を有するアミノ酸配列からなる安定型タンパク質であってもよい。
【0020】
安定型FGF4のコード領域を含む遺伝子としては、配列番号6および配列番号8の塩基配列を有する遺伝子があげられる。
ただし、細胞増殖促進活性を有する安定型タンパク質をコードするものである限り、配列番号6または8の塩基配列の相補鎖とストリンジェントな条件でハイブリダイズする遺伝子であってもよい。ここで、ストリンジェントな条件とは、例えば、65℃、0.1×SSC、0.1%SDSの条件が挙げられる。
【0021】
一方、全長FGF4のコード領域を含む遺伝子としては、配列番号2および配列番号4の塩基配列を有する遺伝子が挙げられる。全長FGF4のコード領域を含む遺伝子は、細胞増殖促進活性を有するタンパク質をコードするものである限り、配列番号2または4の塩基配列の相補鎖とストリンジェントな条件でハイブリダイズする遺伝子であってもよい。
また、成熟型FGF4のコード領域を含む遺伝子としては、配列番号2および配列番号4の塩基番号94〜618の塩基配列を有する遺伝子が挙げられる。成熟FGF4のコード領域を含む遺伝子は、細胞増殖促進活性を有するタンパク質をコードするものである限り、配列番号2または4の塩基番号94〜618の塩基配列の相補鎖とストリンジェントな条件でハイブリダイズする遺伝子であってもよい。
【0022】
なお,ウシまたはブタ成熟型FGF4および安定型ウシまたはブタFGF4をコードするDNAは,常套手段により化学的に全合成すること(非特許文献10),FGF4 mRNAを発現するウシ細胞を入手し,常套手段によりmRNAを抽出し,常套手段を用いた逆転写反応によりcDNAを合成すること(非特許文献10),により入手することができる。
もしくは,後述するように、ウシまたはブタの血液細胞などからゲノムDNAを調製し,FGF4タンパク質コーディングエキソン1,2,3それぞれをPCR増幅したのちに連結することにより,ウシまたはブタFGF4タンパク質コードDNAを入手することもできる。
【0023】
本発明の安定型FGF4は細胞増殖促進剤として使用することができる。
細胞は好ましくは線維芽細胞であり、より好ましくはウシまたはブタの線維芽細胞である。
細胞増殖促進剤として使用する場合、培地中に0.001〜1nMの濃度で加えることが好ましい。
【0024】
次に、本発明の製造方法について説明する。
本発明のFGF4の製造方法においては、ウシまたはブタのゲノムDNAを鋳型にしてPCRを行うことにより、ウシまたはブタFGF4遺伝子のエキソン1,2および3をそれぞれ増幅し、これらを連結してウシまたはブタFGF4のコード領域を含むDNAを調製し、これを宿主で発現させてウシまたはブタFGF4タンパク質を得る。
【0025】
まず、ウシの場合について説明する。
配列番号1にウシFGF4のエキソン1(塩基番号1〜340)、2(塩基番号917〜1020),3(塩基番号1763〜1939)を含む配列を示す。そして、エキソン1のうち、塩基番号94〜340が成熟型のN末端側に該当する。一方、エキソン1のうち、塩基番号163〜340が安定型のN末端側に該当する。
よって、成熟型FGF4を製造する場合には、エキソン1(塩基番号94〜340)、エキソ
ン2(塩基番号917〜1020)、エキソン3(塩基番号1763〜1939)のそれぞれを増幅するようにプライマーを3対用意する。
一方、安定型FGF4を製造する場合には、エキソン1(塩基番号163〜340)、エキソン2(塩基番号917〜1020)、エキソン3(塩基番号1763〜1939)のそれぞれを増幅するようにプライマーを3対用意する。
プライマーとしては、表1に記載のa,b(エキソン1)、c、d(エキソン2)、e,f(エキソン3)の3対が例示される。ただし、プライマーは各エキソンを増幅できる限りにおいて特に配列はこれらに限定されない。PCRは一反応系で行ってもよいが、3反応系で行うことが好ましい。鋳型はゲノムDNAを直接用いてもよいが、エキソン1,2,3を含むゲノムDNA領域を一旦増幅し、それを鋳型にしてもよい。
次に、増幅された3つの断片を連結させる。これもPCRや制限酵素などを用いて通常の方法により行うことができる。
【0026】
これを適当な発現ベクターに組み込み、宿主で発現させる。
宿主としては、大腸菌、哺乳動物細胞、昆虫細胞、無細胞翻訳系などがあげられる。
この中では大腸菌が操作が簡便であるため好ましい。
発現ベクターとしては、特に制限されないが、例えば、大腸菌用発現ベクターとしては、pETシリーズ(ノバゲン)が挙げられ、後述の実施例ではpET28a(+)が使用された。ただし、大腸菌用発現ベクターは多くの種類が公知であり、入手できるいずれの種類でも構わない。発現ベクターは誘導可能なプロモーターやタグ配列を有するものが好ましい。
【0027】
発現させたFGF4タンパク質は精製操作を行うことが好ましい。精製としては、ヘパリンカラムクロマトグラフィーを行うことが好ましい。FGF4タンパク質にタグをつけて発現させた場合は、それに基づいて精製することも可能である。例えば、Hisタグをつけた場合は金属キレートカラムが使用でき、GSTタグをつけた場合はグルタチオンカラムが使用できる。
【0028】
ブタFGF4のゲノム遺伝子としては、GenBank accession no. NW_003534199に記載の配列が挙げられる。この配列においてエキソン1,2,3は、それぞれ、44564..44903,45517..45620,46149..46325である。ブタFGF4のコード領域を含む遺伝子もウシFGF4の場合と同様に、エキソン1,2および3をそれぞれ増幅し、これらを連結してブタFGF4のコード領域を含むDNAを調製し、これを宿主で発現させてブタFGF4タンパク質を得ることができる。
プライマーとしては、下記のようなものが使用できるが、あくまでも例示であり、これらには限定されない。
エキソン1は,表2のプライマーa 成熟型(NdeI/pFGF4 (94-123) F:配列番号21)または安定型(NdeI(163-182)配列番号22)と表3のプライマー2(配列番号26)の組み合わせ。
エキソン2は,表3のプライマー1(配列番号25)とプライマー4(配列番号28)の組み合わせ。
エキソン3は,表3のプライマー3(配列番号27)と表2のプライマーc(配列番号24)の組み合わせ。
【実施例】
【0029】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例には限定されない。
【0030】
1.ウシ成熟型FGF4および安定型(N末端側短縮)ウシFGF4をコードするDNAの製造
黒毛和種牛の血液(5 ml)を遠心分離し(3000 rpm,15分間),白血球層を得て,NucleoSpin Tissue Kit(Macherey-Nagel社)を用いてゲノムDNAを調製した。
まず,タンパク質コーディングエキソン1,2,3を含むゲノムDNAについて,プライマー対(CACCCACGGACGCACGGCCCGAGGGCGGGG(配列番号29)とGGGGGTTGCTTTTGTTCTTCCA(配列番号30))を用いてPCR増幅した。
次に,タンパク質コーディングエキソン1,2,3それぞれを表1に示すプライマー(aとb、cとd、eとf)を用いてPCR増幅した。
得られたPCR産物の混合物を鋳型として,表1と図2に示すプライマー(aとf)を用いてPCR増幅し,成熟型または安定型(N末端側短縮)ウシFGF4タンパク質コードDNAを得た(図4 ウシFGF4タンパク質コードDNAのアガロースゲル電気泳動像)。該DNAを鋳型として,制限酵素切断部位(フォワード側にNdeI,リバース側にEcoRI)を付加したプライマー(表1)を用い,ウシ成熟型FGF4タンパク質コードDNAおよびN末端側短縮ウシFGF4(L55-L206)タンパク質コードDNAをPCR増幅した。
【0031】
【表1】
【0032】
2.ブタ成熟型FGF4およびN末端側短縮ブタFGF4(L55-L206)をコードするDNAの製造
ウシ成熟型FGF4タンパク質コードDNAを鋳型として用い,ブタFGF4に対応する塩基置換を導入したプライマー(表2)を用いてPCR増幅することにより,ブタ成熟型またはN末端側短縮型FGF4タンパク質コードDNAを製造した(図3)。
【0033】
【表2】
【0034】
具体的には、ウシ成熟型FGF4タンパク質コードDNAを鋳型として,制限酵素切断部位(フォワード側にNdeI,リバース側にEcoRI)を付加したプライマー(表2,図4)を用い,ブタ成熟型FGF4タンパク質コードDNAおよびN末端側短縮ブタFGF4(L55-L206)タンパク質コードDNAをPCR増幅した(図5)。a,bを用いたPCRを行い、その産物を鋳型にしてプライマーa,cを用いたPCRを行った。
【0035】
なお、ブタFGF4コード遺伝子はゲノムDNAを鋳型にして表2と表3のプライマーを用いて、ウシFGF4と同様にして得ることもできる。その場合,プライマー対(GGCCACTGAAAGAGAGGTGGAGAAGG(配列番号31)とCAATAACTTTGCCCGATGATGAATGTCAAG(配列番号32))を用いてタンパク質コーディングエキソン1,2,3を含むゲノムDNAをPCR増幅後,このPCR産物を鋳型にすることにより,なお確実に得ることができる。
【0036】
【表3】
エキソン1は,表2のプライマーa 成熟型(NdeI/pFGF4 (94-123) F:配列番号21)または安定型(NdeI(163-182)配列番号22)と表3のプライマー2(配列番号26)の組み合わせ。
エキソン2は,表3のプライマー1(配列番号25)とプライマー4(配列番号28)の組み合わせ。
エキソン3は,表3のプライマー3(配列番号27)と表2のプライマーc(配列番号24)の組み合わせ。
【0037】
次に、上記で得られた成熟型ウシまたはブタFGF4タンパク質コードDNAおよびN末端側短縮ウシまたはブタFGF4(L55-L206)タンパク質コードDNA,および大腸菌用発現ベクターpET28a(+)(ノバゲン社)をDNA切断制限酵素(NdeIおよびEcoRI)で処理後,低融点アガロースゲル電気泳動により分離し,フェノール/クロロホルム抽出およびエタノール沈殿を行うことにより精製した。その後,成熟型ウシまたはブタFGF4タンパク質コードDNAおよびN末端側短縮ウシまたはブタFGF4(L55-L206)タンパク質コードDNAを別個にpET28a(+)ベクターのHisタグ下流に組込み,成熟型ウシまたはブタFGF4発現ベクターおよびN末端側短縮ウシウシまたはブタFGF4(L55-L206)発現ベクターを製造した。
【0038】
3.大腸菌におけるウシ成熟型FGF4,N末端側短縮ウシFGF4(L55-L206),ブタ成熟型FGF4,N末端側短縮ブタFGF4(L55-L206)の発現誘導
製造したウシ成熟型FGF4発現ベクター,N末端側短縮ウシFGF4(L55-L206)発現ベクター,ブタ成熟型FGF4発現ベクター,N末端側短縮ブタFGF4(L55-L206)発現ベクターを大腸菌株Rosetta(DE3)pLysSに組み込んだ。大腸菌を2×YT培地(10 ml)により一晩培養(37℃)した。新たな2×YT培地(500 ml)に菌液(0.1倍容量)を加え,で3時間培養(37℃)した。その後,イソプロピル-1-チオ-β-D-ガラクトシド(IPTG,終濃度1 mM)を加えて,3.5時間培養(37℃)し,タンパク質発現を誘導した。菌体を回収し,可溶性画分と不溶性画分に遠心分離した。一部の可溶性画分と不溶性画分について,SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動後,クマシーブリリアントブルー染色法より,所望するタンパク質の発現について検出した(図6 SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動によるウシ成熟型FGF
4,N末端側短縮ウシFGF4(L55-L206),ブタ成熟型FGF4,N末端側短縮ブタFGF4(L55-L206)の発現誘導の検出)。
【0039】
4.ヘパリンカラムクロマトグラフィーによるウシ成熟型FGF4,N末端側短縮ウシFGF4(L55-L206),ブタ成熟型FGF4,N末端側短縮ブタFGF4(L55-L206)の精製
発現誘導後の菌液を50 ml遠心チューブに50 mlずつ分注後,6000 rpm,5分間,4℃で遠心し,菌体(100 ml培養菌液分/50 ml遠心チューブ)を得た。プロテアーゼインヒビター((p-アミジノフェニル)メタンスルホニルフルオリド塩酸塩,0.01 g)およびTENG Buffer(2 ml)を加え,よく懸濁した。-80℃での凍結および室温による融解を3回行った後,超音波細胞破砕装置により破砕し,遠心し(15000 rpm,3分間,4℃),上清を得た。公知の方法(Hosoi et al. 2011)により,上清をヘパリンカラム(HiTrap Heparin HP,1 ml,アマシャムバイオサイエンス社)を用いたクロマトグラフィーにより分画した。緩衝液に添加した食塩濃度を段階的に高くすることにより,所望のタンパク質を得た(図7 ヘパリンカラムクロマトグラフィーによるウシ成熟型FGF4の分取,図8 ヘパリンカラムクロマトグラフィーによるN末端側短縮ウシFGF4(L55-L206)の分取,図9 ヘパリンカラムクロマトグラフィーによるブタ成熟型FGF4の分取,図10 ヘパリンカラムクロマトグラフィーによるN末端側短縮ブタFGF4(L55-L206))。
ウシおよびブタ成熟型FGF4に比較して,N末端側短縮FGF4のピーク面積(斜線部)はウシで2.8倍,ブタで1.3倍であったことより,精製効率が高いことが示された。
【0040】
5.ウシ成熟型FGF4,N末端側短縮ウシFGF4(L55-L206),ブタ成熟型FGF4,N末端側短縮ブタFGF4(L55-L206)による細胞増殖促進活性の検出
ウシ線維芽細胞は常套手段(Wang et al. 2011)により採取した。ウシ線維芽細胞およびブタ胎仔線維芽細胞株PEF SV40細胞(Fukuda et al. 2012)を96穴ディッシュに播種(ウシ線維芽細胞は4×103個/well,PEF SV40細胞は3×103個/well)し,10% ウシ胎仔血清含有培養液で一晩培養し,更に0.4% 仔ウシ血清含有培養液で一晩培養した(37℃,5% CO2)。また,ウシ腎由来MDBK細胞(理化学研究所細胞銀行より入手)を96穴ディッシュに播種(500個/well)し,10% ウシ胎仔血清含有培養液で一晩培養し,更に血清非添加培養液で一晩培養した(37℃,5% CO2)。
その後,0.001,0.01,0.1,1,もしくは10 nMのウシ成熟型FGF4,N末端側短縮ウシFGF4(L55-L206),ブタ成熟型FGF4,もしくはN末端側短縮ブタFGF4(L55-L206)を添加培養液により培養した(3日間,37℃,5% CO2)。引き続き,WST-1試薬を終濃度10%になるよう添加し,更に保温した(3時間,37℃,5% CO2)。A450を測定して細胞増殖促進活性を比較した(図11 ウシ成熟型FGF4およびN末端側短縮ウシFGF4(L55-L206)によるウシ線維芽細胞の細胞増殖促進効果,図12 ブタ成熟型FGF4およびN末端側短縮ブタFGF4(L55-L206)によるブタ線維芽細胞の細胞増殖促進効果,図13 ウシ成熟型FGF4およびN末端側短縮ウシFGF4(L55-L206)によるウシMDBK細胞の細胞増殖促進効果)。
【0041】
6.繰り返しの凍結融解における成熟型FGF4とN末端側短縮FGF4の安定性の比較
ウシ成熟型FGF4,N末端側短縮ウシFGF4(L55-L206),ブタ成熟型FGF4,N末端側短縮ブタFGF4(L55-L206)に対して,-80℃凍結操作と室温融解操作を20回繰り返した。その後,タンパク質分解の程度を比較するために,SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動により分析した。ウシ成熟型FGF4およびブタ成熟型FGF4では,精製直後から分解により生じた低分子バンドが認められたが,凍結融解処理を繰り返したN末端側短縮ウシFGF4(L55-L206)とN末端側短縮ブタFGF4(L55-L206)いずれにも認められなかった(図14図15)。
なお、発明者は,N末端側短縮マウスFGF4(L51-L202)も同様の安定性を有することを確認している。
【産業上の利用可能性】
【0042】
FGF4によって産業上有用なタンパク質やワクチンを生産するウシまたはブタ細胞の細胞増
殖を促進するにより,生産効率の向上を導くことができる。家畜人工授精の際に精子と共にFGF4を子宮内に注入すると,ウシおよびブタ受精卵の着床促進と流産が防止されるので,ウシ及びブタの妊娠を効率的に導くことが期待される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
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図9
図10
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図12
図13
図14
図15
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]