【実施例】
【0029】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例には限定されない。
【0030】
1.ウシ成熟型FGF4および安定型(N末端側短縮)ウシFGF4をコードするDNAの製造
黒毛和種牛の血液(5 ml)を遠心分離し(3000 rpm,15分間),白血球層を得て,NucleoSpin Tissue Kit(Macherey-Nagel社)を用いてゲノムDNAを調製した。
まず,タンパク質コーディングエキソン1,2,3を含むゲノムDNAについて,プライマー対(CACCCACGGACGCACGGCCCGAGGGCGGGG(配列番号29)とGGGGGTTGCTTTTGTTCTTCCA(配列番号30))を用いてPCR増幅した。
次に,タンパク質コーディングエキソン1,2,3それぞれを表1に示すプライマー(aとb、cとd、eとf)を用いてPCR増幅した。
得られたPCR産物の混合物を鋳型として,表1と
図2に示すプライマー(aとf)を用いてPCR増幅し,成熟型または安定型(N末端側短縮)ウシFGF4タンパク質コードDNAを得た(
図4 ウシFGF4タンパク質コードDNAのアガロースゲル電気泳動像)。該DNAを鋳型として,制限酵素切断部位(フォワード側にNdeI,リバース側にEcoRI)を付加したプライマー(表1)を用い,ウシ成熟型FGF4タンパク質コードDNAおよびN末端側短縮ウシFGF4(L
55-L
206)タンパク質コードDNAをPCR増幅した。
【0031】
【表1】
【0032】
2.ブタ成熟型FGF4およびN末端側短縮ブタFGF4(L
55-L
206)をコードするDNAの製造
ウシ成熟型FGF4タンパク質コードDNAを鋳型として用い,ブタFGF4に対応する塩基置換を導入したプライマー(表2)を用いてPCR増幅することにより,ブタ成熟型またはN末端側短縮型FGF4タンパク質コードDNAを製造した(
図3)。
【0033】
【表2】
【0034】
具体的には、ウシ成熟型FGF4タンパク質コードDNAを鋳型として,制限酵素切断部位(フォワード側にNdeI,リバース側にEcoRI)を付加したプライマー(表2,
図4)を用い,ブタ成熟型FGF4タンパク質コードDNAおよびN末端側短縮ブタFGF4(L
55-L
206)タンパク質コードDNAをPCR増幅した(
図5)。a,bを用いたPCRを行い、その産物を鋳型にしてプライマーa,cを用いたPCRを行った。
【0035】
なお、ブタFGF4コード遺伝子はゲノムDNAを鋳型にして表2と表3のプライマーを用いて、ウシFGF4と同様にして得ることもできる。その場合,プライマー対(GGCCACTGAAAGAGAGGTGGAGAAGG(配列番号31)とCAATAACTTTGCCCGATGATGAATGTCAAG(配列番号32))を用いてタンパク質コーディングエキソン1,2,3を含むゲノムDNAをPCR増幅後,このPCR産物を鋳型にすることにより,なお確実に得ることができる。
【0036】
【表3】
エキソン1は,表2のプライマーa 成熟型(NdeI/pFGF4 (94-123) F:配列番号21)または安定型(NdeI(163-182)配列番号22)と表3のプライマー2(配列番号26)の組み合わせ。
エキソン2は,表3のプライマー1(配列番号25)とプライマー4(配列番号28)の組み合わせ。
エキソン3は,表3のプライマー3(配列番号27)と表2のプライマーc(配列番号24)の組み合わせ。
【0037】
次に、上記で得られた成熟型ウシまたはブタFGF4タンパク質コードDNAおよびN末端側短縮ウシまたはブタFGF4(L
55-L
206)タンパク質コードDNA,および大腸菌用発現ベクターpET28a(+)(ノバゲン社)をDNA切断制限酵素(NdeIおよびEcoRI)で処理後,低融点アガロースゲル電気泳動により分離し,フェノール/クロロホルム抽出およびエタノール沈殿を行うことにより精製した。その後,成熟型ウシまたはブタFGF4タンパク質コードDNAおよびN末端側短縮ウシまたはブタFGF4(L
55-L
206)タンパク質コードDNAを別個にpET28a(+)ベクターのHisタグ下流に組込み,成熟型ウシまたはブタFGF4発現ベクターおよびN末端側短縮ウシウシまたはブタFGF4(L
55-L
206)発現ベクターを製造した。
【0038】
3.大腸菌におけるウシ成熟型FGF4,N末端側短縮ウシFGF4(L
55-L
206),ブタ成熟型FGF4,N末端側短縮ブタFGF4(L
55-L
206)の発現誘導
製造したウシ成熟型FGF4発現ベクター,N末端側短縮ウシFGF4(L
55-L
206)発現ベクター,ブタ成熟型FGF4発現ベクター,N末端側短縮ブタFGF4(L
55-L
206)発現ベクターを大腸菌株Rosetta(DE3)pLysSに組み込んだ。大腸菌を2×YT培地(10 ml)により一晩培養(37℃)した。新たな2×YT培地(500 ml)に菌液(0.1倍容量)を加え,で3時間培養(37℃)した。その後,イソプロピル-1-チオ-β-D-ガラクトシド(IPTG,終濃度1 mM)を加えて,3.5時間培養(37℃)し,タンパク質発現を誘導した。菌体を回収し,可溶性画分と不溶性画分に遠心分離した。一部の可溶性画分と不溶性画分について,SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動後,クマシーブリリアントブルー染色法より,所望するタンパク質の発現について検出した(
図6 SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動によるウシ成熟型FGF
4,N末端側短縮ウシFGF4(L
55-L
206),ブタ成熟型FGF4,N末端側短縮ブタFGF4(L
55-L
206)の発現誘導の検出)。
【0039】
4.ヘパリンカラムクロマトグラフィーによるウシ成熟型FGF4,N末端側短縮ウシFGF4(L
55-L
206),ブタ成熟型FGF4,N末端側短縮ブタFGF4(L
55-L
206)の精製
発現誘導後の菌液を50 ml遠心チューブに50 mlずつ分注後,6000 rpm,5分間,4℃で遠心し,菌体(100 ml培養菌液分/50 ml遠心チューブ)を得た。プロテアーゼインヒビター((p-アミジノフェニル)メタンスルホニルフルオリド塩酸塩,0.01 g)およびTENG Buffer(2 ml)を加え,よく懸濁した。-80℃での凍結および室温による融解を3回行った後,超音波細胞破砕装置により破砕し,遠心し(15000 rpm,3分間,4℃),上清を得た。公知の方法(Hosoi et al. 2011)により,上清をヘパリンカラム(HiTrap Heparin HP,1 ml,アマシャムバイオサイエンス社)を用いたクロマトグラフィーにより分画した。緩衝液に添加した食塩濃度を段階的に高くすることにより,所望のタンパク質を得た(
図7 ヘパリンカラムクロマトグラフィーによるウシ成熟型FGF4の分取,
図8 ヘパリンカラムクロマトグラフィーによるN末端側短縮ウシFGF4(L
55-L
206)の分取,
図9 ヘパリンカラムクロマトグラフィーによるブタ成熟型FGF4の分取,
図10 ヘパリンカラムクロマトグラフィーによるN末端側短縮ブタFGF4(L
55-L
206))。
ウシおよびブタ成熟型FGF4に比較して,N末端側短縮FGF4のピーク面積(斜線部)はウシで2.8倍,ブタで1.3倍であったことより,精製効率が高いことが示された。
【0040】
5.ウシ成熟型FGF4,N末端側短縮ウシFGF4(L
55-L
206),ブタ成熟型FGF4,N末端側短縮ブタFGF4(L
55-L
206)による細胞増殖促進活性の検出
ウシ線維芽細胞は常套手段(Wang et al. 2011)により採取した。ウシ線維芽細胞およびブタ胎仔線維芽細胞株PEF SV40細胞(Fukuda et al. 2012)を96穴ディッシュに播種(ウシ線維芽細胞は4×10
3個/well,PEF SV40細胞は3×10
3個/well)し,10% ウシ胎仔血清含有培養液で一晩培養し,更に0.4% 仔ウシ血清含有培養液で一晩培養した(37℃,5% CO
2)。また,ウシ腎由来MDBK細胞(理化学研究所細胞銀行より入手)を96穴ディッシュに播種(500個/well)し,10% ウシ胎仔血清含有培養液で一晩培養し,更に血清非添加培養液で一晩培養した(37℃,5% CO
2)。
その後,0.001,0.01,0.1,1,もしくは10 nMのウシ成熟型FGF4,N末端側短縮ウシFGF4(L
55-L
206),ブタ成熟型FGF4,もしくはN末端側短縮ブタFGF4(L
55-L
206)を添加培養液により培養した(3日間,37℃,5% CO
2)。引き続き,WST-1試薬を終濃度10%になるよう添加し,更に保温した(3時間,37℃,5% CO
2)。A
450を測定して細胞増殖促進活性を比較した(
図11 ウシ成熟型FGF4およびN末端側短縮ウシFGF4(L
55-L
206)によるウシ線維芽細胞の細胞増殖促進効果,
図12 ブタ成熟型FGF4およびN末端側短縮ブタFGF4(L
55-L
206)によるブタ線維芽細胞の細胞増殖促進効果,
図13 ウシ成熟型FGF4およびN末端側短縮ウシFGF4(L
55-L
206)によるウシMDBK細胞の細胞増殖促進効果)。
【0041】
6.繰り返しの凍結融解における成熟型FGF4とN末端側短縮FGF4の安定性の比較
ウシ成熟型FGF4,N末端側短縮ウシFGF4(L
55-L
206),ブタ成熟型FGF4,N末端側短縮ブタFGF4(L
55-L
206)に対して,-80℃凍結操作と室温融解操作を20回繰り返した。その後,タンパク質分解の程度を比較するために,SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動により分析した。ウシ成熟型FGF4およびブタ成熟型FGF4では,精製直後から分解により生じた低分子バンドが認められたが,凍結融解処理を繰り返したN末端側短縮ウシFGF4(L
55-L
206)とN末端側短縮ブタFGF4(L
55-L
206)いずれにも認められなかった(
図14,
図15)。
なお、発明者は,N末端側短縮マウスFGF4(L
51-L
202)も同様の安定性を有することを確認している。