特許第6089245号(P6089245)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6089245光学装置、光学装置に組み込まれる焦点板、及び光学装置を用いた測量方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6089245
(24)【登録日】2017年2月17日
(45)【発行日】2017年3月8日
(54)【発明の名称】光学装置、光学装置に組み込まれる焦点板、及び光学装置を用いた測量方法
(51)【国際特許分類】
   G01C 15/00 20060101AFI20170227BHJP
   G01C 15/06 20060101ALI20170227BHJP
   G01B 11/00 20060101ALI20170227BHJP
【FI】
   G01C15/00 103A
   G01C15/06 Z
   G01B11/00 D
【請求項の数】13
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-112969(P2016-112969)
(22)【出願日】2016年6月6日
【審査請求日】2016年6月6日
(31)【優先権主張番号】特願2015-229485(P2015-229485)
(32)【優先日】2015年11月25日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】599157284
【氏名又は名称】クモノスコーポレーション株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100081422
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 光雄
(72)【発明者】
【氏名】中庭 和秀
【審査官】 梶田 真也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−092419(JP,A)
【文献】 特開2003−106838(JP,A)
【文献】 特開2013−217807(JP,A)
【文献】 特開2000−321060(JP,A)
【文献】 特開平08−285598(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/032136(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01C 15/00
G01B 11/00−11/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基準点(P)から望遠鏡(16)の光軸(18)上に見える測点(P)までの距離(L)を測定する機能を備えた光学装置(10)であって、
前記光学装置(10)は、
前記望遠鏡(16)内に固定された焦点板(44)を備えており、
前記焦点板(44)には、
前記光軸(18)の両側で且つ前記光軸(18)から水平方向に所定距離を隔てた位置に左右の基準マーク(56)が設けてあり、
前記光学装置(10)はまた、
前記光学装置(10)の基準点Pの座標(x,y)と、前記左右の基準マーク(56)の一方のみを円筒構造物(90)の縁(91)に一致させるとともに前記光軸(18)を前記円筒構造物(90)の表面上に位置させた状態で前記光軸(18)上に見える前記円筒構造物(90)上の点(P)の座標(x,y)と、前記光軸(18)から前記基準マーク(56)までの開き角(θ)と、前記円筒構造物(90)の径(r)とを用いて、前記円筒構造物(90)の中心座標を計算する演算部(32)を備えている、ことを特徴とする光学装置。
【請求項2】
前記焦点板(44)にはまた、前記光軸(18)を中心とする複数の円(55)が描かれていることを特徴とする請求項1の光学装置。
【請求項3】
前記所定距離が約0.01ラジアンに相当することを特徴とする、請求項1又は2のいずれかの光学装置。
【請求項4】
前記複数の円(55)はそれぞれ、所定の長さδのn倍(n:整数)の半径を有することを特徴とする、請求項2の光学装置。
【請求項5】
前記所定の長さδは約0.001ラジアンに相当することを特徴とする、請求項4の光学装置。
【請求項6】
前記複数の円(55)は、前記所定の長さδの10倍の長さの半径を有する基準円を有し、
前記基準マーク(56)は前記基準円に接していることを特徴とする、請求項4又は5のいずれかの光学装置。
【請求項7】
前記請求項1〜6のいずれかの光学装置とともに使用される前記焦点板。
【請求項8】
基準点(P)から望遠鏡(16)の光軸(18)上に見える測点(P)までの距離(L)を測定する機能を備えた光学装置(10)において前記望遠鏡(16)内に固定される焦点板(44)であって、
前記焦点板(44)は、
前記光軸(18)の両側で且つ前記光軸(18)から水平方向に所定距離を隔てた位置に左右の基準マーク(56)が設けてあり、
前記光学装置(10)は、
前記光学装置(10)の基準点Pの座標(x,y)と、前記左右の基準マーク(56)の一方のみを円筒構造物(90)の縁(91)に一致させるとともに前記光軸(18)を前記円筒構造物(90)の表面上に位置させた状態で前記光軸(18)上に見える前記円筒構造物(90)上の点(P)の座標(x,y)と、前記光軸(18)から前記基準マーク(56)までの開き角(θ)と、前記円筒構造物(90)の径(r)とを用いて、前記円筒構造物(90)の中心座標を計算する機能を備えている、焦点板。
【請求項9】
前記焦点板(44)は、前記光軸(18)を中心とする複数の円(55)が描かれていることを特徴とする、請求項8の焦点板。
【請求項10】
前記複数の円(55)はそれぞれ、所定の長さδのn倍(n:整数)の半径を有することを特徴とする、請求項9の焦点板。
【請求項11】
前記所定の長さδは約0.001ラジアンに相当することを特徴とする、請求項10の焦点板。
【請求項12】
前記複数の円(55)は、前記所定の長さδの10倍の長さの半径を有する基準円を有し、
前記基準マーク(56)は前記基準円に接していることを特徴とする、請求項10又は11のいずれかの焦点板。
【請求項13】
基準点(P)から望遠鏡(16)の光軸(18)上に見える測点(P)までの距離(L)を測定する機能を備えた光学装置(10)であって、
前記望遠鏡(16)内に固定された焦点板(44)を備えており、
前記焦点板(44)には、
前記光軸(18)の両側で且つ前記光軸(18)から水平方向に所定距離を隔てた位置に左右の基準マーク(56)が描かれている光学装置(10)を用意する工程と、前記左右の基準マーク(56)の一方のみを円筒構造物(90)の縁(91)に一致させるとともに前記光軸(18)を前記円筒構造物(90)の表面上に位置させる工程と、
前記光学装置(10)の基準点Pの座標(x,y)と、前記光軸(18)上に見える前記円筒構造物(90)上の視準点(P)の座標(x,y)と、前記光軸(18)から前記基準マーク(56)までの開き角(θ)と、前記円筒構造物(90)の径(r)とを用いて、前記円筒構造物(90)の中心座標を計算する工程を有することを特徴とする、測量方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測距機能を有する光学装置に関する。また、本発明は、該光学装置に組み込まれる焦点板(レチクル)に関する。さらに、本発明は、該光学装置を用いた測量方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1(特開2009−092419号公報)には、電柱等の柱状体又は柱状構造物の中心座標を求めることができる光学装置が開示されている。この光学装置は望遠鏡を有する。望遠鏡内には焦点板が配置されている。特徴として、焦点板には、光軸の周りに複数の円又は円弧を有する同心円目盛が描かれている。使用目的は限定的ではないが、例えばこの光学装置を用いて柱状体の中心座標を計測する場合、まず、焦点板に投影された柱状体(像)の直径に最も近い直径を有する円を柱状体(像)に内接又はほぼ内接させる。次に、光学装置から柱状体までの距離と方向を計測する。続いて、計測した距離及び方向と既知の情報(具体的には、光学装置の器械座標(基準座標)と柱状体の半径)とを用いて、柱状体の中心座標を求める。
【0003】
このように、特許文献1の光学装置を用いて柱状体の中心座標を求めるためには、柱状体の左右両縁が焦点板上に投影されることが必要である。しかし、一般的な測量装置(トータルステーション)に採用されている望遠鏡の画角は非常に小さい(例えば、約1度)。そのために、測量装置が柱状体に接近していると、接眼レンズから見える範囲(焦点板に投影される像)は柱状体の一部であって、柱状体の左右両縁を同時に一つの像内に収めることが難しい。したがって、測量装置等で上述の要求を満足するためには、柱状体が相当小径であるか、または、測量装置を柱状体から十分離さなければならない。ところが、建物の基礎となる円筒構造物である杭の打設状態(適正位置に適正状態で打ち込まれつつあるか否か)を確認するために杭の中心座標を求めようとすると、一般的な杭の外径は約30センチメートル以上あるので、測量装置を杭から約30メートル以上離す必要がある。しかし、建物が密集した建築現場では、測量装置を杭から十分に離すことができないことがある。特に、近年は、建物が密集した場所に高層ビルを建築することが多く、その場合、杭径が1メートルを超える大径杭の中心座標を求めることは実質的に難しい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−092419号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような事情から、柱状体との距離が十分に確保できない状況にあっても、柱状体の中心座標を簡単且つ容易に計測できる装置と方法が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
このような目的を達成するため、本発明は、基準点(P)から望遠鏡(16)の光軸(18)上に見える測点(P)までの距離(L)を測定する機能を備えた光学装置(10)であって、
前記光学装置(10)は、
前記望遠鏡(16)内に固定された焦点板(44)を備えており、
前記焦点板(44)には、
前記光軸(18)の両側で且つ前記光軸(18)から水平方向に所定距離を隔てた位置に左右の基準マーク(56)が設けてあり、
前記光学装置(10)はまた、
前記光学装置(10)の基準点Pの座標(x,y)と、前記左右の基準マーク(56)の一方のみを円筒構造物(90)の縁(91)に一致させるとともに前記光軸(18)を前記円筒構造物(90)の表面上に位置させた状態で前記光軸(18)上に見える前記円筒構造物(90)上の点(P)の座標(x、y)と、前記光軸(18)から前記基準マーク(56)までの開き角(θ)と、前記円筒構造物(90)の径(r)とを用いて、前記円筒構造物(90)の中心座標を計算する演算部(32)を備えている。
【0007】
本発明はまた、基準点(P)から望遠鏡(16)の光軸(18)上に見える測点(P
)までの距離(L)を測定する機能を備えた光学装置(10)において前記望遠鏡(1
6)内に固定される焦点板(44)であって、
前記焦点板(44)は、
前記光軸(18)の両側で且つ前記光軸(18)から水平方向に所定距離を隔てた位置に左右の基準マーク(56)が設けてあり、
前記光学装置(10)は、
前記光学装置(10)の基準点Pの座標(x,y)と、前記左右の基準マーク(56)の一方のみを円筒構造物(90)の縁(91)に一致させるとともに前記光軸(18)を前記円筒構造物(90)の表面上に位置させた状態で前記光軸(18)上に見える前記円筒構造物(90)上の点(P)の座標(x、y)と、前記光軸(18)から前記基準マーク(56)までの開き角(θ)と、前記円筒構造物(90)の径(r)とを用いて、前記円筒構造物(90)の中心座標を計算する機能を備えている。
【0008】
本発明はさらに、基準点(P)から望遠鏡(16)の光軸(18)上に見える測点(P)までの距離(L)を測定する機能を備えた光学装置(10)であって、
前記望遠鏡(16)内に固定された焦点板(44)を備えており、
前記焦点板(44)には、
前記光軸(18)の両側で且つ前記光軸(18)から水平方向に所定距離を隔てた位置に左右の基準マーク(56)が描かれている光学装置(10)を用意する工程と、
前記左右の基準マーク(56)の一方のみを円筒構造物(90)の縁(91)に一致させるとともに前記光軸(18)を前記円筒構造物(90)の表面上に位置させる工程と、
前記光学装置(10)の基準点Pの座標(x,y)と、前記光軸(18)上に見える前記円筒構造物(90)上の視準点(P)の座標(x、y)と、前記光軸(18)から前記基準マーク(56)までの開き角(θ)と、前記円筒構造物(90)の径(r)とを用いて、前記円筒構造物(90)の中心座標を計算する工程を有することを特徴とする、測量方法。
【0009】
好ましい形態では、前記焦点板(44)には、前記光軸(18)を中心とする複数の円(55)が描かれている。
【0010】
好ましい形態ではまた、前記所定距離が約0.01ラジアンに相当する。
【0011】
好ましい形態ではまた、前記複数の円(55)はそれぞれ、所定の長さδのn倍(n:整数)の半径を有する。
【0012】
好ましい形態ではまた、前記所定の長さδは約0.001ラジアンに相当する。
【0013】
好ましい形態ではまた、前記複数の円(55)は、前記所定の長さδの10倍の長さの半径を有する基準円を有し、前記基準マーク(56)は前記基準円に接している。
【発明の効果】
【0014】
このような本発明によれば、焦点板に描かれた円を円筒構造物の両縁に内接させることが不可能な場所にあっても、左右の基準マークの一方を円筒構造物の縁に一致させるとともに光軸を円筒構造物の表面上に位置させるだけで、円筒構造物の中心座標を簡単且つ容易に測量し、円筒構造物の中心座標を瞬時に確認し、必要であれば、円筒構造物の傾きを修正できる、という利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の光学装置の実施形態である光学装置の斜視図。
図2図1に示す光学装置の構成と機能を示すブロック図。
図3図1に示す光学装置の望遠鏡の概略構成を示す断面図。
図4図3に示す焦点板の拡大正面図。
図5図3に示す焦点板の拡大斜視図。
図6】測距部の構成を示す図。
図7図1に示す入力部と表示部の詳細を示す図。
図8】光学装置を用いて円筒構造物を視準する状況を示す図。
図9】円筒構造物の中心座標を求めるプロセスを説明する図。
図10図9と共に円筒構造物の中心座標を求めるプロセスを説明する図。
図11図9、10と共に円筒構造物の中心座標を求めるプロセスを説明する図。
図12図9〜11と共に円筒構造物の中心座標を求めるプロセスを説明する図。
図13】他の形態の焦点板の拡大正面図。
図14】他の形態の焦点板の拡大斜視図。
図15】他の形態の焦点板の拡大正面図。
図16】四角柱構造物の中心座標を求める方法を説明する図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照して本発明に係る光学装置を説明する。なお、本件明細書及び特許請求の範囲において、「光学装置」は、望遠鏡、望遠鏡を含む視準装置、視準機能と測距機能を備えた光学装置を含む。「円筒構造物」は、円筒の外周面を有する構造物(内部に中空部分を有するか否かは問わない。)、例えば、建築物、工作物、及び地中に埋設される杭を含む。円筒は、同一の外径を有する必要はなく、場所によって外径が異なる円筒構造(例えば、円錐形、円錐台形状、瓢箪形)も含む。
【0017】
《1−1:光学装置》
図1は、本発明に係る光学装置を具体化したレーザ光学装置(トータルステーション)10を示す。光学装置10は、通常の光学装置と同様に、図示しない三脚に着脱自在に連結されて固定される基台12と、垂直軸(Z軸)を中心に回転可能に基台12に連結された本体14と、垂直軸(Z軸)に直交する水平軸(X軸)を中心として回転可能に本体14に連結された望遠鏡16を備えている。望遠鏡16の光軸(Y軸)18は、垂直軸(Z軸)と水平軸(X軸)の交点を通る。以下、これら3つの軸―垂直軸(Z軸)、水平軸(X軸)、及び光軸(Y軸)−の交点を基準点P、基準座標、又は機械座標という。光学装置10はまた、望遠鏡16によって視準された物体(図示せず)との距離を測定するとともにその測定時における望遠鏡16の仰角(鉛直面上における水平軸Xと光軸18の角度)を測定する計測手段又は計測部(図2に符号20で示されている。)を有する。実施の形態では、光学装置10は、測量に必要なデータを入力するための入力部22、測量結果等を表示する表示部24、入力部22から入力されたデータや測量結果のデータを他の装置(例えば、コンピュータ28)に出力する出力部26を有する。
【0018】
図2は、光学装置10の構成を機能の観点から表したブロック図である。図示するように、光学装置10は制御部30を有する。制御部30は、計測部20、入力部22、表示部24、出力部26と電気的に接続されており、後に詳細に説明するように、これら計測部20、入力部22、表示部24、出力部26を総合的に制御する。制御部30は、円筒構造物の中心座標を演算する演算部32、及び演算に必要なプログラムやデータを格納する記憶部34を有する。その他、図示しないが、光学装置10は、測量に必要な構成要素、例えば、整準器、測角部などを有する。
【0019】
《1−2:望遠鏡》
図3は、望遠鏡16の概略構成を示す。図示するように、望遠鏡16は、鏡筒36内に、物体側から測量オペレータ側(図の左側から右側)に向かって、光軸18に沿って順番に、対物レンズ40、正立プリズム42、焦点板(投影板)44、接眼レンズ46を備えており、視準された物体像が対物レンズ40、正立プリズム42を介して焦点板44に結像され、それにより物体像が接眼レンズ46を介してオペレータ48によって拡大観察されるようになっている。
【0020】
《1−3:焦点板およびゲージ》
図4図5は焦点板44を示す。実施形態では、焦点板44は、透明な石英基板50、51を重ねて構成されており、下層石英基板50の上面又は上層石英基板51の下面に公知のフォトリソグラフィを用いて後述する模様(パターン)のスケール52が形成されている。スケール52を描く方法は限定的ではない。
【0021】
実施形態では、スケール52は、光軸18で直角に交差する水平軸(線)53と垂直軸(線)54と、光軸18を中心として描かれた複数の同心円(以下、「ゲージ」という。)55を有する。実施形態では円は完全な円で表されているが、一部を除いた不完全な円又は円弧であってもよい。実施形態ではまた、実線のゲージと点線のゲージが交互に描かれているが、すべてのゲージを実線で描いてもよいし点線で描いてもよい。各ゲージ55の半径は、所定の基準長さδの整数倍である。図示する実施形態では、スケール52は半径δ〜半径14δの14個のゲージ55を有する。ただし、図面が複雑になるのを防ぐために、最小径(δ)のゲージは図面から省略されている。
【0022】
スケール52はまた、光軸18の左右両側に、垂直軸54に平行で且つ10δの半径を有するゲージ(基準円)55aに接する基準マークを含む。実施形態では、基準マークは垂直軸54に平行に縦方向に伸びる縦線56である。
【0023】
基準長さδは、焦点板44上で、0.226mmである。この距離は開き角(光軸とこれに交差する線のなす角度)約0.001ラジアンに相当する。例えば、光学装置の基準点Pから光軸18に沿って10m離れた位置にある垂直な面上にあって光軸18から10mm離れた点を見たとき、その点が最小径δの同心円上に見える。ゲージ番号、同心円の半径、基準点と同心円を結ぶ線(接線)と光軸とのなす開き角(度数法表記と弧度法表記)を表1に示す。
【表1】
【0024】
《1−4:計測部》
図2に示すように、計測部20は、望遠鏡16で視準された物体と基準座標Pとの斜距離を計測する測距部62と、望遠鏡16の方位角を計測する測角部64を有する。実際の測量では、望遠鏡16の仰角が計測され、この仰角を考慮して距離が計算されるが、説明を簡単にするために、以下に説明する作業は望遠鏡16の光軸18が水平方向に向けられた状態で行われるものとする。また、以下に説明する円筒構造物の中心座標を求めるための作業は、望遠鏡を水平又はほぼ水平に向けた状態で行うことができる。したがって、そのように仮定することに問題は無いと考えられる。
【0025】
図6に示すように、測距部62は、レーザ光57を出力する、例えばレーザダイオードなどの発光部(レーザ装置)68と、物体からのレーザ反射光を受光することにより、レーザ光57が発射されてから受光されるまでの時間をもとに、物体100の視準点(レーザ照射点)Pから基準点Pまでの距離L(図3参照)を算出する演算部72と、発光部68から出射されたレーザ光57を望遠鏡16の光軸18に沿って物体に案内すると共に光軸18に沿って物体から帰ってくるレーザ光57を受光部70に案内する光学系74を有する。図示するように、光学系74の一部を構成するプリズム42が望遠鏡16の内部に配置されており、これによりレーザ光57の進路が望遠鏡16の光軸18と一致させてある。なお、測距部62における距離計算は、発光から受光までの時間を利用する方法に限るものでなく、例えば、両者の位相差から距離を求めることもできる。
【0026】
《1−5:入力部》
図7に示すように、入力部22は、複数のキー、例えばファンクションキー78、テンキー80、カーソル移動キー82、エンターキー84を有する。ここで、ファンクションキー78は、後述する計測の実行を指示するために利用される。また、テンキー80は、焦点板44のスケール52から読み取ったゲージ番号を入力するために利用される。
【0027】
《1−6:表示部》
図1に戻り、表示部24は液晶ディスプレイを有する。液晶ディスプレイには、計測部20で測定された数値(例えば、距離、仰角、方位角)、テンキー80を介して入力されたゲージ番号、演算部32の演算結果等の情報が表示される。
【0028】
《1−7:出力部》
出力部26は、表示部24に表示される種々の情報(測定結果等)、また表示部24に表示されない種々の情報(例えば、光学装置が記憶している測量データ等)を、そこに接続されたコンピュータ28に出力する。
【0029】
《2−1:中心座標の演算》
光学装置10を用いて、大径円筒構造物(例えば、大径円筒杭)の中心座標を求めるプロセスを説明する。図8に示すように、円筒構造物90の径が大きく、焦点板44には円筒構造物90の全幅が投影されない場合を想定する。この場合、図示するように、オペレータは、光軸18を円筒構造物90の外周面に当てた状態で、焦点板44の一方の縦線56(図では右側の縦線)を円筒構造物90の縁91に合わせる。次に、オペレータは、この状態で入力部22の適宜キー(距離測量開始キー)を押し、基準点Pから円筒構造物90の外周面上にあって光軸18が当たった視準点P(この点は、図9図12を参照して後述する点B)までの距離を計測する。計測された距離は制御部30の演算部32に出力される。演算部32は、計測された距離L、基準点Pの座標、望遠鏡16(光軸18)の方位角等をもとに、視準点Pの座標を求める。次に、オペレータは、入力部22の適宜キー(中心座標演算キー)を押す。これにより、演算部32は、基準点Pの座標、視準点Pの座標、円筒構造物90の径(既知)、光軸18から縦線56までの開き角(10δ)を用い、以下に説明する計算に基づいて、円筒構造物90の中心座標を計算する。必要に応じて、計算された中心座標は表示部24に表示される。中心座標演算キーを押すまでもなく、焦点板44の縦線56を円筒構造物90の縁91に合わせた状態で中心座標演算キーを押すだけで(つまり、一つのキーを押すだけで)、円筒構造物90の中心座標が演算されるようにしてもよい。
【0030】
以下、円筒構造物の中心座標を計算する方法を説明する。なお、説明を簡単にするために、基準点Pと視準点Pは同一水平面上に位置しているものとする。
図9を参照すると、基準点を点A(x,y)、視準点を点B(x、y)、求める中心座標を点O(x,y)とする。点O(x,y)を中心とする半径rの円Oを仮定する。円Oは、円筒構造物90の外周面に相当し、数式1で表される。
【数1】
【0031】
点Aを通り円Oに接する直線をACとし、円Oと直線ACの接点を点Cとする。また、点Aと点Bを結ぶ直線ABと直線ACとの交角をθ(開き角10δに相当する。)とする。
【0032】
図10に示すように、点Aを中心に点Bを角度θ回転させた点をD(x,y)とすると、その座標は数式2,3で表される。
【数2】
【数3】
【0033】
点Dが直線AC上にあるので、直線ACは点Aと点Dの座標を用いて数式4で表される。
【数4】
【0034】
直線ACの傾き(m)と、直線ACの法線の単位ベクトル(u)は、数式5,6で表される。
【数5】
【数6】
【0035】
図11に示すように、点Dをu方向に距離rだけ移動した点E(x,y)は数式7、8,9で表される。
【数7】
【数8】
【数9】
【0036】
数式8,9から明らかなように、これらの数式によって2組のxe,eが得られるが、xe,eを数式10に代入して得られる値が大きい方の組のxe,eを採用する。
【数10】
【0037】
点Eを通り、直線ACに平行な直線EO(直線EOは傾きmを有する。)は数式11で表される。
【数11】

ここで、α、βは以下の式で表される。
【数12】
【数13】

とすると、数式11は数式14で表される。
【数14】
【0038】
点Dと点Eの間の距離は、円Oの半径rに等しいので、点Eを通り直線ACに平行な線は点Oを通る。
【0039】
点Bを中心とする半径rの円Bは数式15で表される。
【数15】
【0040】
円Oの中心O(x,y)は、数式2,3,8,9,11,14,15から、数式16,17で与えられる。
【数16】
【数17】
【0041】
数式13から明らかなように、これらの数式によって得られるxは2つ値を有するが、これらの2つの値のうち、AOの距離(数式18で与えられる。)が大きい値となる方を、真の点Oとして採用する。
【数18】
【0042】
以上の説明では、複数の同心円からなるゲージ55を有する焦点板44を示したが、図13図14に示すように、ゲージの無い焦点板144も本発明の範囲に含まれる。この形態でも、上述のように円筒構造物の中心座標を求めることができる。
【0043】
また、以上の説明では、基準マークは縦線56としたが、基準マークは四角形、円形、又は星形等の印のいずれであってもよい。例えば、図15は焦点板の他の形態を示しており、そこでは基準マークが円形の印156で構成されている。
【0044】
《3:四角柱構造物の中心座標を求める方法》
上述の焦点板を有する光学装置によれば、四角柱の中心座標の計算することができる。図16を用いて、四角柱の中心座標を求める方法を以下に説明する。なお、以下の説明では、計算を簡単にするために、鉛直方向の高さは無視する。
【0045】
図16において、符号190は四角柱構造物の横断面を示す。光学装置10は、四角柱構造物190から離れて、点A(x,y)に据え付けられているものとする。四角柱構造物190は、一辺の長さがrの正方形断面を有し、光学装置10の光軸18に対して角度θだけ回転した状態にあるものとする。点Bは光学装置10の光軸18上にある四角柱構造物190の点である。点Bの座標(x,y)は、器械座標(点Aの座標)と、点Aと点Bとの間の距離、及び点Aに対する点Bの方位角(これらの距離と方位角は光学装置10で読み取ることができる。)から求めることができる。
【0046】
上述した実施形態と違って、四角柱構造物190の左右両側の縦縁上の点Pと点Rが焦点板上で視認できるものとする。図上、光軸18の左側に表れる縦縁と光軸18の右側に表れる縦縁は、焦点板44上の異なる円55に接して表れているものとする。
【0047】
この状態で、点Aと点Bを結ぶ線(光軸18)と点Aと点Pを結ぶ線とのなす角度αは、点Pを含む縦縁が接する円55のゲージ番号から計算される。同様に、点Aと点Bを結ぶ線(光軸18)と点Aと点Rを結ぶ線とのなす角度βは、点Rを含む縦縁が接する円55のゲージ番号から計算される。
【0048】
以上の情報(点A、点Bの座標と角度α、β)を用いて、点Aと点Pを結ぶ線上にあって点Aを中心に点Bを角度αだけ回転させた位置(点C)の座標(x,y)と、点Aと点Rを結ぶ線上にあって点Aを中心に点Bを角度βだけ回転させた位置(点D)の座標(xd、yd)は、以下の式(19)〜式(22)で表される。
【数19】
【数20】
【数21】
【数22】
【0049】
四角柱構造物の中心座標を(x,y)とすると、点Pの座標(x,y)、点Rの座標(x,y)、点Sの座標(x,y)は以下の式(23)〜式(28)で表される。点Sは、点Pと点Rの間に表れる四角柱構造物の角部である。
【数23】
【数24】
【数25】
【数26】
【数27】
【数28】
【0050】
点Aと点Cを結ぶ直線ACは数式29で表される。
【数29】
【0051】
点Pは直線ACの延長上にあるため、点Pの座標(x,y)を用いて、式29は式30のように表される。
【数30】
【0052】
点Aと点Dを結ぶ直線ADは数式31で表される。
【数31】
【0053】
点Rは直線ADの延長上にあるため、点Rの座標(x,y)を用いて、式31は式32のように表される。
【数32】
【0054】
点Rと点Sを結ぶ直線RSは式33で表される。
【数33】
【0055】
点Pと点Sを結ぶ直線PSは式34で表される。
【数34】
【0056】
点Bは直線RS上又は直線PS上にある。そして、点Bは直線RS上又は直線PS上のいずれにあるかは、視覚的に又はゲージ番号から判断できる。
【0057】
点Bが直線RS上にある場合、直線RSが式35で表される。
【数35】
【0058】
点Bが直線PS上にある場合、直線PSが式36で表される。
【数36】
【0059】
式30、32、及び35(又は36)に、点C、D、P、R、及びSの座標値を代入して整理すると、以下の式37,38、及び39(又は40)が得られる。
【数37】
【数38】
【数39】
【数40】
【0060】
式37,38,39又は式37,38,40にそれぞれ既知の値r、(x,y)、(x,y)、(x,y)を代入してx、y、θの値を求める。また、求めたx、y、θの値を式23〜26に代入し、点Pと点Rの座標と、それらの中間に位置する四角柱構造物中心の座標(x,y)が求まる。
【符号の説明】
【0061】
10:光学装置、16:望遠鏡、18:光軸、44:焦点板、55:円、56:縦線(基準マーク)、90:円筒構造物、91:縁
【要約】
【課題】大径円筒構造物の中心座標を求める光学装置を提供する。
【解決手段】光学装置は、光学装置の基準点の座標と、左右の基準マーク(例えば縦線)の一方を円筒構造物の縁に一致させるとともに望遠鏡光軸を円筒構造物の表面上に位置させた状態で光軸上に見える円筒構造物上の視準点の座標と、光軸から基準マークまでの開き角を用いて、円筒構造物の中心座標を計算する機能を有する。
【選択図】図4
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16