(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
果菜の肥大を抑制する方法において、固定枠を用いる場合には、果菜が固定枠より小さいと果菜表面に拘束力が加わらないため、効果を発揮しない。逆に、果菜が育ち過ぎて大きくなり過ぎると、拘束力が過大となり、固定枠か果菜のいずれかが破裂する。果菜が小さ過ぎても大き過ぎても適用が困難である。
【0009】
また、固定枠では拘束力の調整ができないため、高度な栽培技術、栽培中の注視経過観察が必要になる。果菜の品種や大きさに合わせた固定枠を用いるにしても、固定枠のセット時期、大きさ、収穫期等の綿密な計算が必要である。果菜全体を成形するのは困難であるほか、一定規格の果菜でなくては適用できないため、適用範囲が限定される。
【0010】
特許文献7は、これらの問題点を解決する一つの方法ではあるが、2枚の刻印板が複数の引張ばねのみで連結された構成である。そのため、刻印器具の自重を支えるには、各引張ばねの荷重状態に影響を与えないように、各刻印板を支える工夫をしなければならない。
【0011】
また、2枚の刻印板は、複数の引張ばねのみで連結されているため、果菜に刻印器具を装着する際に、引張ばねが負担する荷重のバランスを調節するのは困難である。さらに、刻印器具を装着後でも、果菜の肥大が均一でない場合には、引張ばねが負担する荷重のバランスが崩れることも予想される。
引張ばねの荷重バランスが崩れれば、果菜に加わる荷重も偏ることになり、果菜の凹凸形状にも偏りが生じるおそれがある。
【0012】
これら2枚の刻印板は、相互の位置及び角度を互いに拘束することがない。そのため、果菜の肥大によって表面形状の不均一が生じた場合や、引張ばねが負担する荷重バランスの崩れが生じた場合には、果菜に刻印器具を装着した後であっても、刻印板の位置ずれが生じる可能性がある。
【0013】
本発明は、上記のような従来の問題点を解決するために提案されたものであり、その目的は、広範囲の種類の果菜に、比較的容易に適用可能な、刻印果菜の栽培方法及び刻印果菜用ピンチを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
請求項1に記載した発明は、弾性体と、その弾性体の復元力を伝達するための、回動軸を中心として回動可能なアーム部材と、そのアーム部材に連結され、かつそのアーム部材から押圧力を受けて果菜表面に押接する刻印部材とを備えた刻印果菜用ピンチである。
【0015】
ここで、「ピンチ」とは、“pinch clamp”ないし“pinch clip”といった意味で用いており、対象物を挟み込むことができる器具をいう。一般には、2本一対のアーム状構成部材で対象物を挟み込み、弾性体の復元力を利用して挟持状態を保持するものが多い。
本願においては、それら2本一対のアーム状構成部材は、必ずしも「洗濯ばさみ」のようにほぼ同形状の部材である必要はなく、各種「クランプ」のように、全く異なる形状の構成要素の組み合わせであって、対象物に対して固定的な構成要素と、可動的な構成要素とを組み合わせたものでもよいとした。
さらに、本願においては、対象物を挟み込むアーム部材が3本以上で一組となるような場合も含めて「ピンチ」としている。
【0016】
「刻印」は、文字や図形、記号その他の模様を、凹凸形状として表したものを指し、「刻印果菜」は、刻印の凹凸形状が果菜表面に現れるように育成された果菜を指す。
本発明の実施により、この刻印の凹凸形状が反転・転写されて、果菜表面に現れるものであって、人がこれを見たとき、「寿」、「大吉」などの文字や文言、紋様、花柄、リボン、ハートなどの記号、図形その他の模様として認識されるものである。
また、「刻印部材」は凹凸形状である刻印部を設けた部材、「緩衝部材」は、刻印を施す必要がないものの、刻印部材から果菜に加わる力に対抗して、果菜に反力を加える必要がある場合に、刻印部材の代わりに果菜表面に当接させる部材である。
【0017】
「弾性体の復元力」は、圧縮方向又は引張方向の軸力、あるいはトルクとして生じるものである。弾性体の一端がアーム部材に押接し又はアーム部材に連結され、あるいは弾性体の一部がアーム部材に係止されることによって、弾性体の復元力がアーム部材に伝達される。
本発明において、弾性体復元力は、アーム部材を閉じる方向のトルクとなる。このトルクを受けたアーム部材は、刻印部材又は緩衝部材を介して刻印を施そうとする果菜を挟み込み、これら刻印部材又は緩衝部材を所定の押圧力で保持する。
アーム部材の少なくとも1本には、締結、嵌合又は軸支持等の手段によって刻印部材が連結されている。アーム部材は弾性体の復元力を受け、これを押圧力として刻印部材に加え、刻印部を未熟果菜の表面に押し付ける。
【0018】
刻印を押し付けられた未熟果菜の表面では、刻印凹部においてはそのまま肥大が進行するが、刻印凸部では肥大が抑圧される。
その結果、果菜の成熟までの間に、果菜表面に刻印の凹凸形状を反転した凹凸形状が形成され、刻印果菜の収穫が可能となる。
【0019】
請求項2に記載した発明は、請求項1記載の発明において、アーム部材が、共通の回動軸を中心として回動可能な2本一対のアーム部材であることを特徴とする刻印果菜用ピンチである。
【0020】
2本のアーム部材それぞれに刻印部材が装着・連結され、二つの刻印部材が果菜の両側から果菜を挟み込んで刻印を施すものである。一つの刻印果菜用ピンチによって、果菜表面の一個所及びその反対側表面の一個所、計2個所に刻印が施される。果菜表面の一個所のみに刻印を施したい場合は、片方の刻印部材を緩衝部材で置き換えればよい。
【0021】
請求項3に記載した発明は、請求項1記載の発明において、互いに異なる2以上の回動軸を設けたベース部材を備え、その各回動軸を中心として回動可能な2本以上のアーム部材を備えていることを特徴とする刻印果菜用ピンチである。
【0022】
ベース部材の回動軸の数に応じた本数のアーム部材を備えた刻印果菜用ピンチである。2本以上のアーム部材が、そのアーム部材回動軸において、ベース部材に設けられた回動軸に軸支される。アーム部材の少なくとも1本には、刻印部材が装着・連結される。
【0023】
請求項4に記載した発明は、請求項1、2又は3に記載した刻印果菜用ピンチを、収穫前の所定の時期に、刻印を施そうとする果菜に装着して育成することによる、刻印果菜の栽培方法である。
【0024】
本願発明の実施の方法であり、かつ、刻印果菜の栽培方法である。
果菜収穫前の所定の時期に、刻印果菜用ピンチで果菜を挟み、そのまま栽培を続けるものである。この栽培方法を続ける期間中は、刻印果菜用ピンチを紐で吊り下げる等、果菜の茎に刻印果菜用ピンチの重量による負荷がかからないようにする。
【発明の効果】
【0025】
本発明は、肥大を抑制する方法であるので、着色を抑制できない果菜にも適用可能である。果菜表面に、平面的な描画等ではなく、立体的な刻印を施すことが可能である。
【0026】
育成中の果菜が肥大していっても、アーム部材が開閉するため、弾性体の復元力は多少増加するものの、果菜が破裂するほどの過度な圧力はかからない。そのため、果菜の品種、大きさ、種類を問わず、比較的広い範囲の果菜に適用可能である。過剰圧力が生じないため、器具の破損も生じない。
【0027】
果菜全体ではなく、一部分にのみ刻印の凹凸形状を形成するのが目的であり、弾性体により、ほぼ一定の圧力がかかる仕組みである。刻印果菜用ピンチ装着後、果菜に過剰な拘束力が加わることはないので、特別な栽培技術を必要とせず、比較的容易に実施可能である。
【0028】
果菜を挟むだけなので、取り付け、取外しが容易、作業が容易で、作業効率の向上が望める。
刻印果菜用ピンチには過大な荷重がかからないため、さほどの強度を必要としない。そのため、軽量な器具として実現することが可能であり、設置場所からの刻印果菜用ピンチの落下、刻印果菜用ピンチを装着した果菜の落果を抑えることができる。
収穫時も、挟んでいた刻印果菜用ピンチを外すだけなので作業が容易である。また、刻印果菜用ピンチは損耗しないため、繰り返し使用できる。
【0029】
刻印果菜用ピンチのアーム部材は回動軸で軸支されているため、この回動軸を支点とする梃子として機能する。弾性体の復元力がアーム部材に働く点は力点、アーム部材が刻印部材に押圧力を及ぼす点は作用点である。
弾性体の種類や、弾性体とアーム部材との相互の位置関係を適宜選択して刻印果菜用ピンチを構成することにより、果菜表面に刻印部材を押し付ける押圧力を比較的に広い範囲内で設定・調節することが可能である。
【0030】
刻印果菜用ピンチを軽量に実現することが可能であり、また、刻印果菜用ピンチの各部材は互いに固定又は軸支されている。そのため、刻印果菜用ピンチを吊り下げた場合でも、容易に器具の自重を支えることができ、吊り下げることによる各部材相互の位置・角度への影響は少ない。そこで、果菜の茎にも、弾性体の荷重状態にもほとんど影響を与えることがないようにすることができる。設置用の台座等を設けて刻印果菜用ピンチを設置することも容易である。
【0031】
刻印果菜用ピンチの各部材は、互いに固定又は軸支されているため、果菜に装着する際、弾性体が負担する荷重のバランスを調節する必要がない。刻印果菜用ピンチ装着後、果菜の肥大が均一でない場合であっても、弾性体が負担する荷重バランスが崩れることはない。そのため、果菜に加わる荷重が偏ることはなく、果菜の凹凸形状に偏りが生じる可能性を低く抑えることができる。
また、果菜に刻印果菜用ピンチを装着して栽培を続ける際に、刻印の位置ずれが生じるおそれも低い。
【0032】
2本一対のアーム部材を備えた刻印果菜用ピンチにおいて、両方のアーム部材に刻印部材を装着すれば、果菜表面の2面に刻印を施すことが可能であり、また、片方のアーム部材において、刻印部材の代わりに緩衝部材を装着すれば、果菜表面の1面のみに刻印を施すことも可能である。設置姿勢を工夫すれば、刻印果菜用ピンチを2個以上同時に使用することもできる。
また、ベース部材を採用して、3本以上のアーム部材を備えるようにすれば、一個の刻印果菜用ピンチで、果菜表面の3面以上に刻印を施すことも可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0034】
まず、本発明の第一の実施形態を、主として
図1〜
図9に基づいて説明する。
【0035】
図1は請求項1及び請求項2に記載する本発明たる刻印果菜用ピンチの一例の外観であり、
図2はこれを未熟果菜へ装着した状態を示す。
図3はその構造を図示したものである。
【0036】
各図において、2a及び2bはアーム部材、3はアーム部材の回動軸、4a及び4bは刻印部材、5a及び5bはその刻印部であって、刻印を「A」字形の凸線条とした例を示している。共に湾曲した2本一対のアーム部材2a及び2bは、アーム部材回動軸3を軸として回動可能となっている。
また、
図2の9は未熟果菜の輪郭を表したものであり、
図3の1は本発明における弾性体の一例として、ねじりコイルばね1を表したものである。
図3は、構成部材の一部を省略し、又は部分的な輪郭のみを想像線にって表し、回動軸3と同軸に配置されたねじりコイルばね1が現れるように図示したものである。
【0037】
図1は、刻印果菜用ピンチのアーム部材2a及び2bが閉じた状態である。このアーム部材2a及び2bを
図2のように開き、刻印果菜用ピンチを未熟果菜9へ装着する。アーム部材2a及び2bを開くことによって、その両端がアーム部材2a及び2bに押接しているねじりコイルばね1が変形し、復元力を生じる。
アーム部材2a及び2bは、ねじりコイルばね1の復元力を、刻印部材4a及び4bを果菜表面へ押し付ける押圧力へと伝達・変換するものである。
【0038】
図3に現れるねじりコイルばね1の復元力は、一対のアーム部材2a及び2bの回動可能な範囲において、これらを閉じる方向のトルクとして生じる。
図2に示すように、回動軸3まわりの閉方向のトルクを受ける一対のアーム部材2a及び2bは、ほぼ一定の押圧力で刻印部材4a及び4bを未熟果菜9の表面に押し付ける。
刻印部材4a及び4bの押圧力に対抗して、果菜表面から刻印部材4a及び4bに反力が働く。この反力によってアーム部材2a及び2bに生じる回動軸3まわりの開方向の曲げモーメントは、アーム部材2a及び2bがねじりコイルばね1から受ける閉方向トルクと平衡する。
【0039】
図1〜
図5は、2本一対のアーム部材2a及び2bが回動軸3において連結されている。刻印果菜用ピンチを、洗濯ばさみや布団ばさみと類似した、大型ピンチの形状に構成した例である。
本発明では、果菜表面に接触するのは刻印部5a及び5bのみである。そのため、
図1〜
図5の例において、左右一対のアーム部材2a及び2bは、果菜表面に触れないように、湾曲した形状としてある。
【0040】
図1〜
図5の例では、2本一対のアーム部材2a及び2bは、同一寸法、同一形状としたものを例示した。そのため、これらアーム部材は、回動軸3を共通とし、その回動軸中央の点に対称に位置するよう構成されている。
しかし、2本一対のアーム部材の寸法・形状等を、必ず等しいものにする必要はない。各アーム部材に設けられ又は装着された刻印部材から果菜に加わる力が釣り合うように構成すれば、2本のアーム部材の寸法・形状等が相互に異なるものとすることも可能である。
【0041】
例えば、片方のアーム部材を、大きく曲がり又は湾曲した「L」字形や「C」字形とし、この一部にアーム部材回動軸を設け、もう片方のアーム部材を連結する。「L」字形や「C」字形のアーム部材を十分大きなものとすれば、もう片方のアーム部材を湾曲した形状にしなくても、アーム部材が果菜表面に触れないようにできる。具体的には、
図10に示すベース部材8とアーム部材2bとを一体に成形すれば、2本一対のアーム部材のうちの片方を大きく曲がった「L」字形状にするのと同様の構成となる。
【0042】
図1〜
図5は、アーム部材2a及び2bの先端に刻印部材4a及び4bを設け、又は装着した例である。
刻印部材4a及び4bには、アーム部材2a及び2bの押圧力が加えられているので、刻印果菜用ピンチの未熟果菜への装着によって、刻印部5a及び5bの凸線条の先端面が、所定の押圧力で果菜表面に押し付けられる。
果菜表面のうち、この先端面が接触した部分のみ、肥大化が制約されるが、先端面が接触していない部分では、果菜表面はそのまま肥大を続ける。そこで、果菜表面には、刻印部5a及び5bの凸線条に対応する凹線条が形成される。
【0043】
刻印部5a及び5bには、凹凸形状からなる刻印を設けるが、この刻印は凸線条である必要はない。凹線条でもよく、さらに、線として認識できないような凹凸形状でもよい。
また、この刻印部5a及び5bの凹凸形状については、凹凸の高さや、線条とする場合の線幅等が限定されるものではなく、果菜表面に反転して転写可能な凹凸形状であればよい。
【0044】
ただし、果菜表面から刻印部を容易に離型可能とするため、
図6に示すように、高さの異なる面同士を接続する面については、図中にθ又はθ′で表わしたような、適度な抜き勾配をつけることが望ましい。
図6の6-1は凸線条501の横断面、6-2は凹線条502の横断面を拡大して表したものである。
また、刻印部の凹凸形状の凹角及び凸角の角部分は丸めるなどして、果菜表面にしわなどのない凹凸形状が形成されるようにすることが望ましい。
【0045】
アーム部材2a及び2bにより加えられる、刻印部材4a及び4bを果菜表面に押し付ける押圧力は、刻印部凹凸形状の先端面が果菜の肥大を制限するに十分な大きさであり、かつ、果菜表面を破壊することのない大きさであることが必要である。
【0046】
果菜表面から刻印部5a及び5bに働く反力ないし抗力は、刻印果菜用ピンチ装着当初は刻印部材4a及び4bの押圧力と平衡している。果菜は刻印部材からの押圧力を受けたまま肥大していき、刻印部凹凸形状の先端面が接触する部分のみ肥大化が制限される。
【0047】
果菜の肥大によって果菜表面が刻印部凹凸形状の底面まで達した後や、果菜の成長力が強いときには、果菜表面から刻印部5a及び5bに働く反力ないし抗力が、当初の刻印部材4a及び4bの押圧力を上回るようになる。そうしたときには、アーム部材2a及び2bが回動軸3を中心として、わずかに開くことによって、刻印部材4a及び4bからの押圧力と、果菜表面がこれを押し戻す力とは、新たな平衡点で釣り合うようになる。
【0048】
そうすると、アーム部材2a及び2bの開度が増加するため、弾性体1の復元力は増加し、刻印部材4a及び4bの押圧力も増加するが、新たな荷重平衡点までの荷重の増加はわずかであるため、刻印果菜用ピンチ装着から収穫まで、刻印部材4a及び4bにはほぼ一定の押圧力が加わると考えられるものである。
【0049】
果菜の一面のみに刻印を施せば十分な場合には、2本一対であるアーム部材2a及び2bの片方のみに刻印部材を取り付け、もう片方のアーム部材には刻印部材の代わりに、緩衝部材を取り付ければよい。緩衝部材は、例えば、表面にクッション材を配し、果菜表面の形状に合わせた湾曲平板等として、果菜表面に変形を生じさせないように構成するものとする。刻印部材から果菜に加わる力と緩衝部材から果菜に加わる力とが釣り合うようにすれば、刻印部材を装着した側の果菜表面のみに刻印を施すことができる。
【0050】
図1〜
図5では、弾性体としてねじりコイルばねを採用した例を示したが、果菜の刻印に十分な復元力を生じる弾性体であればよく、ねじりコイルばねのほか、真直ぐなコイルばね、紐ないしベルト形状のゴム等、その形状、材質は限定されない。
刻印果菜用ピンチの構成・形状の相違により、ワイヤーや紐等の可撓性体と、ばねやゴム等の弾性体とを組み合わせて使用することも考えられる。
【0051】
アーム部材と刻印部材とは、これらを一体に成形することもできるが、アーム部材への刻印部材の着脱を可能にすれば、刻印部材は交換可能となって便利である。
【0052】
図4は、アーム部材2a及び2bと刻印部材4a及び4bとをそれぞれ別体に構成し、嵌合及びねじ締結によって着脱可能とした、ねじ式の例である。嵌合部にねじ穴を設け、ビス51で締結した例を示した。
また、
図5は、アーム部材2a及び2bと刻印部材4a及び4bとを嵌合のみによって着脱可能とした、嵌合式の例である。
【0053】
図4や
図5のように、刻印部材を脱着式とすれば、ねじ式、嵌合式又であれ、刻印部材の取り付け角度を変更・調整可能な構成とすることも可能となる。果菜と刻印果菜用ピンチとが接触するのは刻印部だけであるので、そうした構成にすれば、アーム部材の設置位置・姿勢が同じ場合でも、果菜に対する刻印の角度を変えることができるようになる。
【0054】
嵌合部分の凹部と凸部とは、ほぼ同じ断面形状であるが、例えば、
図5の5-1のように、嵌合凸部41を正方形断面の四角柱形状とすれば、アーム部材に対する刻印部材の取り付け角度を90度ごとに変えることができる。また
図5の5-2のように、嵌合凸部42を正多角柱形状とすれば、取り付け角度はさらに細かく調整可能である。これらの場合、一旦アーム部材に刻印部材を装着した後は、取り外すまでの間に取り付け角度が変わってしまうことはない。
【0055】
さらに、
図5の5-3のように、嵌合凸部43を円柱形状とすれば、アーム部材に対する刻印部材の取り付け角度を自由に変えることが可能となる。例えば、嵌合部にOリング等の弾性体を装着し、弾性体を介して嵌合するように構成すれば、刻印部材の取り付け角度を自由に変えられるうえ、嵌合部を高精度に成形せずにすみ、また、刻印果菜用ピンチを使用していない時の刻印部材脱落も防止できる。
【0056】
刻印部材を脱着式とした場合には、逆に、果菜に対する刻印の角度は同じまま、アーム部材の装着姿勢を変えて、刻印果菜用ピンチを支持・設置することもできるようになる。
図2は刻印果菜用ピンチを果菜9の上部で支持した例であるが、刻印の角度が自由に調整可能であれば、刻印果菜用ピンチを果菜の下部や、果菜の左右いずれかの位置に設置することもできるようになる。
【0057】
図7〜
図9は、本発明の第一実施形態における、アーム部材及び刻印部材の別形態を示したものである。
【0058】
図7は、刻印部材4a及び4bを、刻印部材回動軸6a及び6bによってアーム部材2a及び2bに軸支する例である。刻印部材4a及び4bは刻印部材回動軸6a及び6bまわりに回動可能であるため、アーム部材2a及び2bの開度の広狭によっても、刻印部5a及び5bと果菜表面との角度が異ならない。その結果、刻印部5a及び5bが偏りなく果菜表面に接触するようになる。
【0059】
そのほか、刻印部材とアーム部材とを、球状凸部と球状凹部の嵌合による、ピボットないし球面支持手段で連結するといったことも考えられる。その場合には、刻印部材は刻印部材回動軸まわりに限られず、ピボットの回動可能範囲で上下左右方向に角度を変えられるため、刻印部材と果菜表面とを、さらに偏りなく接触させることが可能となる。
【0060】
次に、本発明の第二の実施形態を、主として
図10〜
図13に基づいて説明する。これらの図は、請求項1及び請求項3に記載した本発明である刻印果菜用ピンチの一例の外観である。
【0061】
図10に示すように、複数のアーム部材を取り付けるための共通の部材をベース部材8として備えるようにすれば、刻印果菜用ピンチの高さを小さくすることができる。
【0062】
また、ベース部材の寸法を大きめに形成し、ベース部材とアーム部材とを角度をつけて連結すれば、ベース部材及びアーム部材のいずれもが果菜表面に接触しないようにできる。そうすれば、アーム部材が果菜表面に接触しないようにするという理由のみでアーム部材を湾曲形状に設計する必要はなくなる。
【0063】
すなわち、ベース部材とアーム部材とを組み合わせて刻印果菜用ピンチを構成することで、設計の自由度が高くなり、ベース部材及びアーム部材について比較的に任意の形状を採用することができるようになる。
【0064】
なお、仮に、
図10に示すベース部材8とアーム部材2bとを一体に成形し、回動軸3bを無くしたならば、本発明の第一の実施形態において、2本一対のアーム部材のうちの片方を大きく曲がった「L」字形状にするのと同等である。そのように、ベース部材を、複数本あるアーム部材のうちの1本と一体に成形する、といった構成を採用することもできる。
【0065】
図11〜
図13に示すように、3本のアーム部材を連結できるベース部材81〜83を備えた刻印果菜用ピンチとすれば、果菜表面の3個所に刻印を施すことができる。
アーム部材本数を4本以上とすれば、果菜表面の4個所以上に刻印を施すことも可能である。
【0066】
そのように、果菜表面の3個所以上に刻印を施そうとする場合には、アーム部材が2本ごとに対とならない場合も生じるが、各アーム部材に設けられ又は装着された各刻印部材から果菜に加わる力が釣り合うように、押圧力の向きと大きさを設定すればよい。
刻印部材の一つ又は二つ以上を緩衝部材で置き換えた場合も同様である。複数本ある各アーム部材の形状・寸法等を等しくする必要はない。
【0067】
本発明の実施方法は、未成熟の果菜に刻印果菜用ピンチを装着し、そのまま果菜収穫まで育成することによる。
【0068】
すなわち、果菜表面に凹凸形状が形成されるのに十分な期間、刻印果菜用ピンチを装着したまま果菜を育成する。そのためには、刻印果菜用ピンチ装着から果菜収穫時期までに見込まれる果菜の肥大量を考慮し、果菜収穫時期から逆算して刻印果菜用ピンチの装着時期を決定すればよい。
【0069】
そして、刻印果菜用ピンチを果菜に装着する際は、刻印果菜用ピンチを紐等で吊り下げ、果菜の茎に刻印果菜用ピンチの重量がかからないようにする。
あるいは、適当な高さの設置台等を用意し、刻印果菜用ピンチをその上に設置して、刻印果菜用ピンチの重量をその設置台等で支えるようにして栽培しても良い。
【実施例1】
【0070】
図7は、刻印部材4a及び4bを、刻印部材回動軸6a及び6bによってアーム部材2a及び2bに軸支する例である。刻印部材4a、4bは刻印部材回動軸6a、6b周りに回動可能であり、刻印部5a及び5bが偏りなく果菜表面に接触するようにできる。
【0071】
図8は、本実施例における刻印部材の構成例である。
図8の8-1aは刻印部凹凸形状を刻印部材と一体に構成した例であり、8-1bはその斜視図である。この場合には、刻印部材を着脱・交換する際は、これを軸支する刻印部材回動軸6a、6bをアーム部材から外す必要がある。
【0072】
そのためには、例えば、各刻印部材回動軸につき、これを2分割して、片方を雄ねじ、もう片方を雌ねじに成形し、これらのねじ締結によって1本の刻印部材回動軸を構成するようにすれば、刻印部材回動軸6a、6bをアーム部材から容易に着脱可能とすることができる。あるいは、各刻印部材回動軸をそれぞれ1本のボルトとし、アーム部材へはナットで固定するといった、より簡易な構成でもよい。
【0073】
これに対し、
図8の8-2aは刻印部材4と刻印軸部7とを別体に構成した例であって、8-2bはその断面図、8-2cはその斜視図である。刻印軸部7のみが刻印部材回動軸6a、6bで軸支されており、刻印部材4の嵌合凸部44を、刻印軸部7の図示されていない嵌合凹部に嵌脱することによって、刻印部材4と刻印軸部7とを着脱可能としたものである。
【0074】
図8の8-2a〜8-2cでも刻印部5は刻印部材4と一体に成形されているが、刻印を別のものと交換する際にも、刻印軸部7はアーム部材に連結したままで、刻印部材4を別のものと交換すればよい。このようにすれば、刻印部材回動軸6a、6bをアーム部材から外す作業を省略することができる。
【実施例2】
【0075】
図9は、本発明の第一の実施形態における、アーム部材の形状、弾性体の種類及び位置等のバリエーションの例を図示したものである。
各図においては、ねじりコイルばねとは異なる弾性体を図示してある場合でも、ねじりコイルばねとの併用が可能である。
【0076】
図9の9-1は、一対のアーム部材2a及び2bの中間に真直ぐなコイルばね11を設けたものである。真直コイルばね11は、アーム部材2a及び2bに係止される。ねじりコイルばねだけでは刻印部5a及び5bに十分な大きさの押圧力を生じさせることができないような場合に、真直コイルばね11を付け加えて押圧力を高めることができる。
【0077】
図9の9-2は、一対のアーム部材2a及び2bを刻印部材側に伸長した形状としたものであり、この伸長部分に真直コイルばね12を設けたものである。アーム部材回動軸3を支点、刻印部5a及び5bを作用点、真直コイルばね係止部を力点として、アーム部材2a及び2bは梃子として機能する。そのため、刻印部に生じる押圧力が真直コイルばね12に生じる引張力を超えるようにすることも可能であり、刻印部5a及び5bに生じる押圧力をさらに高めることが可能となる。
【0078】
図9の9-3は、一対のアーム部材2a及び2bを、アーム部材回動軸3を挟んで刻印部材4a及び4bとは反対側に伸長した形状としたものである。アーム部材を伸長した側を把持部とすることで、刻印果菜用ピンチの果菜への装着、取外し作業を容易にすることができる。この把持部の長さを長くとれば、梃子の原理により、刻印果菜用ピンチの果菜への装着・取外し作業の際に刻印果菜用ピンチに加える力が小さくてすむ。
【0079】
図9の9-4では、アーム部材の形状は9-3とほぼ同様であるが、C字型の湾曲したばね鋼等の弾性体を採用した例である。C字型の湾曲した弾性体13は、その一端が13A点でアーム部材2aに係止され、他端は13B点でアーム部材2bに係止されている。ねじりコイルばねを併用せずにこのような形状の弾性体を採用した場合には、刻印果菜用ピンチを小さく構成することができる。例えば、一般に用いられている洗濯ばさみと同等程度の大きさとすることができるので、本発明を小型果菜に適用することも可能となる。
【0080】
これらアーム部材の形状、弾性体の種類及び位置等のバリエーションについては、
図9に示した例に限られるものではなく、様様な構成を考えることができる。
例えば、弾性体の種類として、
図9の9-1及び9-2では真直コイルばねを図示しているが、これらの代わりにゴム素材の弾性体を用いることも考えられるし、真直コイルばねをアーム部材に係止する代わりに、輪形状のゴムを引き延ばしてアーム部材に装着するといったバリエーションも考えられる。
【0081】
また、
図1等に示す2本一対のアーム部材、弾性体及び回動軸を一体に構成することも可能である。具体的には、ねじりコイルばねやC字型弾性体等の両端を伸長し、その伸長部分に刻印部材を連結できるようにすることが考えられる。そのような構成は請求項1及び請求項2に記載した本願発明とは異なるが、実質的には同等である。
【実施例3】
【0082】
図10は、本発明の第二の実施形態の一例を図示したものであり、2本のアーム部材を取り付けるための共通の部材をベース部材8として備えた刻印果菜用ピンチの例である。ベース部材8の両端にアーム部材回動軸3a及び3bを介して2本のアーム部材2a及び2bが連結されている。
【0083】
ベース部材の採用により、刻印果菜用ピンチの高さを小さくすることができる。また、ベース部材の寸法を大きめにしたり、湾曲した形状としたりすれば、必ずしもアーム部材を湾曲形状とする必要はなくなる。そうした事情については、アーム部材を3本以上とする場合でも同様である。
【0084】
本発明実施の際に刻印果菜用ピンチを吊り下げる場合には、ベース部材8に吊り下げ紐を結びつけるためのフック等を設けることができる。また、刻印果菜用ピンチを床面ないし地面に設置、又は台等の上に載置する場合には、ベース部材8に脚部その他の載置用部分を設けることも容易である。
【実施例4】
【0085】
図11及び
図12に示す実施例は、ベース部材に3個所のアーム部材回動軸3a〜3cを設けて、3本のアーム部材2a〜2cを取り付けた刻印果菜用ピンチの例である。果菜表面の3個所に刻印を施すことができる。
【0086】
図11に示す実施例は、3本のアーム連結部分81a〜81cを備えたベース部材81に3個所のアーム部材回動軸3a〜3cを設けて、3本のアーム部材2a〜2cを取り付けた刻印果菜用ピンチの例である。果菜の周囲方向へ角度120度ごとに刻印部材4a〜4cが配置されるようにアーム部材を連結したものである。
【0087】
図12に示す実施例は、環形状としたベース部材82に3個所のアーム部材回動軸を設けた例である。果実等が枝から吊下った状態で生育するような果実である場合に、ベース部材が果菜の茎に干渉しないようにすることができる。
【0088】
本実施例では、果菜周囲方向において、角度120度ごとに刻印部材4a〜4cが配置されるようにアーム部材を設けたが、各刻印部材から果菜に加わる力が釣り合うように刻印果菜用ピンチを構成すればよく、3本以上のアーム部材を設ける場合であっても、果菜周囲方向において、等角度にアーム部材及び刻印部材が配置されるようにする必要はない。
【0089】
ベース部材に関しては、その形状を制限する理由が少ないため、設計の自由度が高く、比較的に任意の形状を採用することができる。本実施例のほか、様々な形状・構造を想定・採用することが可能であって、ベース部材に4個所以上のアーム部材回動軸を設ければ、4本以上のアーム部材を取り付けることも可能である。
【実施例5】
【0090】
図13の実施例は、ベース部材83を地面ないし床面に設置する刻印果菜用ピンチの例である。これは、例えばスイカやカボチャ等、大型の果菜を想定したもので、球の輪郭を想像線で描き、果菜9との位置関係を図示している。本実施例は、果菜表面の3個所に刻印を施すことができるものとした例であるが、2本又は4本以上のアーム部材を取り付けるような構成を採ることも容易である。
【0091】
ベース部材83は、環状部分831から3本のアーム連結部分83a〜83cが突出した形状であり、各アーム連結部分の先端設けたアーム部材回動軸3a〜3cを介して3本のアーム部材2a〜2cが連結されている。
ベース部材の環状部分831は、その上に果菜9を直接載置するものであり、果菜9を環状部分831の中央位置に載置し易いようにしたものである。
【0092】
アーム部材回動軸3a〜3cにはねじりコイルばねを備えているとしても、大型の果菜の表面は硬めであって、刻印部に十分な押圧力を生じさせることができない場合が考えられる。そこで、
図9の9-2と同様に、3本のアーム部材2a〜2cを刻印部材側に伸長した形状とし、伸長部分に係止部を設けて、弾性体14を装着可能としている。
【0093】
図9の9-2と同様に
図13のアーム部材2a〜2cも梃子として機能する。ただし、
図9の9-2においては2本のアーム部材が対をなしているため、その2本を弾性体で連結したが、本実施例ではアーム部材が対となっていないため、3本のアーム部材2a〜2cを1本の可撓性ある輪形状の弾性体14で締め付ける構成としたものである。他には、3本のアーム部材2a〜2cのうちの各2本のアーム部材間をコイルばね等の弾性体で連結するような構成も考えられる。
【0094】
本実施例における弾性体14は、可撓性ある輪形状としたものであって、例えば、輪形状のゴムベルトといったものが考えられる。3本のコイルばねをワイヤー等で連結して輪形状とし、そのワイヤー等の部分をアーム部材伸長部分に係止するといった構成も可能である。
【0095】
本実施例の弾性体14の代わりに、輪形状の金属ワイヤーや荷締めロープ、荷締めベルト等の可撓性体で締め付けることも考えられる。一般的に、それらの可撓性体は、弾性復元力を利用するものとして意識されることは少ない。しかし、通常使用時においても、そうした可撓性体に生じる応力は比例限度内であり、弾性体であることに変わりはない。そこで、弾性体14の代わりにそうした可撓性体を使用した場合でも、本実施例の範疇にあると考えられる。
【0096】
しかし、縦弾性係数によって計算されるそれら可撓性体のばね定数は、コイルばね等のばね定数に比べて遥かに大きいので、締め付け時や果菜肥大時の弾性変形は極めて小さいものとなる。アーム部材の弾性変形を考慮したとしても、果菜の肥大に伴って、果菜に対する拘束力が大きくなりすぎ、最終的には果菜の破裂等に発展する可能性も考えられる。そうしたケースでは、本発明の効果も十分には発揮されない。
【解決手段】弾性体と、弾性体の復元力を伝達するための、回動軸を中心として回動可能なアーム部材と、そのアーム部材から押圧力を受けて果菜表面に押接する刻印部材とを備え、又はこれらに加えて複数のアーム部材を連結できるベース部材をも備えた刻印果菜栽培用ピンチとする。未成熟の果菜にこの刻印果菜用ピンチを装着し、そのまま果菜収穫まで育成することによって果菜表面に刻印を施す。