【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 発行者名:一般社団法人日本再生医療学会、刊行物名:日本再生医療学会雑誌 再生医療 増刊号 2013 Vol.12 Suppl第12回 日本再生医療学会総会 プログラム・抄録 第290頁、発行年月日:平成25年2月28日 〔刊行物等〕 集会名:第12回日本再生医療学会総会、開催日:平成25年3月21日から平成25年3月23日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
スチレン系ポリマーと、酢酸、酢酸メチル及びアセチルアセトンのうち少なくとも1つの添加剤と、溶媒と、を含むパターン形成溶液を、湿度10%〜80%の条件下で、基材上に付着させる付着工程と、
湿度10%〜80%の条件下で、前記パターン形成溶液を付着させた前記基材から、前記溶媒を除去する溶媒除去工程と、
を含む、パターン形成方法。
スチレン系ポリマーと、酢酸、酢酸メチル、及びアセチルアセトンのうち少なくとも1つの添加剤と、アクリル系樹脂と、溶媒と、を含む反転パターン形成溶液を、湿度10%〜80%の条件下で、基材上に付着させる付着工程と、
湿度10%〜80%の条件下で、前記反転パターン形成溶液を付着させた前記基材から、前記溶媒を除去する溶媒除去工程と、
前記溶媒除去工程の後に、前記反転パターン形成溶液を付着させた前記基材を、現像溶媒に浸漬させて、スチレン系ポリマーを溶解させる現像工程と、
を含む、反転パターン形成方法。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0024】
本発明によるパターン形成方法は、基材上にパターンを形成する方法であって、スチレン系ポリマーと、酢酸、酢酸メチル及びアセチルアセトンのうち少なくとも1つの添加剤と、溶媒と、を含むパターン形成溶液を、湿度10%〜80%の条件下で、基材上に付着させる付着工程(A)と、湿度10%〜80%の条件下で、パターン形成溶液を付着させた基材から、溶媒を除去する溶媒除去工程(B)と、を含む。
【0025】
特定の理論に縛られることを望むものではないが、本発明のパターン形成方法は、パターン形成溶液を所定の湿度条件下で基材上に付着させることで、スチレン系ポリマーを溶媒中で析出させ、さらに溶媒を除去することで、パターンを形成するものである。本明細書において「パターン」とは、スチレン系ポリマーが析出することで、模様を描くように基材上に形成された、立体的な形状を有する、スチレン系ポリマーの固まりの一群をいう。スチレン系ポリマーの析出について、より具体的に説明すると、基材上に付着後から開始する析出初期では、スチレン系ポリマー相はコロイド状であり、その後、蒸発対流やマランゴニ対流により互いに衝突し合うにつれて成長し、大型化する。そして、基材上で溶媒が除去されると、析出したスチレン系ポリマーが固まりとなって、パターンを形成する。本発明のパターン形成方法では、スチレン系ポリマー相のコロイドが析出する現象を利用しており、高分子同士の相分離をパターン形成の主因としていないため、基材の表面エネルギー及び基材表面の形状の影響を受けにくい。
【0026】
付着工程(A)で用いられるパターン形成溶液(本明細書において、「パターン形成剤」ともいう)は、前述の通り、スチレン系ポリマーと、酢酸、酢酸メチル及びアセチルアセトンのうち少なくとも1つの添加剤と、溶媒と、を含む。
【0027】
前述のスチレン系ポリマーとしては、スチレン構造を有するポリマーであれば特に限定されず採用され得、例えば、ポリスチレン、スチレン−無水マレイン酸共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体が挙げられ、また、これらの2又は3以上の混合物であってもよい。スチレンの共重合体の場合、交互共重合体、ランダム共重合体、ブロック共重合体、又はグラフト共重合体であってもよい。入手のしやすさ及びコスト低減の観点から、ポリスチレン及びスチレン−ブタジエン共重合体を好適に用いることができる。本発明の効果を奏するスチレン系ポリマーであれば、適宜選択され得る。スチレン系ポリマーの、パターン形成溶液の全量に対する添加量は、0.5mg/mL〜40mg/mLが好ましい。
【0028】
前述の添加剤は、上述の通り、酢酸、酢酸メチル、及びアセチルアセトンのうち少なくとも1つであり、これらの2又は3の混合物であってもよい。添加剤が酢酸の場合、パターン形成溶液の全量に対する添加量は、0.1%〜10%が好ましく、0.1%〜5%がより好ましく、0.4%〜1.2%が最も好ましい。添加剤が酢酸メチルの場合、パターン形成溶液の全量に対する添加量は、0.2%〜90%が好ましく、4%〜6%が最も好ましい。添加剤がアセチルアセトンの場合、パターン形成溶液の全量に対する添加量は、1%〜90%が好ましい。なお、添加剤としては、酢酸及び酢酸メチルを好適に用いることができる。
【0029】
前述の溶媒としては、酢酸エチル、シクロヘキサノン、2−ブタノン(メチルエチルケトン)、4−メチル−2−ペンタノン(メチルイソブチルケトン)、シトロネラール(3,7−ジメチル−6−オクテナール)、酢酸2−エトキシエチル、酢酸イソブチル、酢酸ブチル、酢酸ペンチル、リモネン、酢酸イソプロピル、炭酸ジメチル、酢酸イソペンチル、2−ヘキサノン、酢酸プロピル、1,4−ジオキサン、シクロペンタノン、二硫化炭素、シクロヘキサン、又はこれらの2若しくは3以上の混合物が用いられる。本発明の効果を奏する溶媒であれば、適宜選択され得る。
【0030】
前述のパターン形成溶液は、スチレン系ポリマー、添加剤及び溶媒の他に、顔料、消泡剤、分散剤等を適宜含有していてもよい。
【0031】
付着工程(A)において、前述のパターン形成溶液を、湿度10%〜80%の条件下で、基材上に付着させる。湿度10%〜80%の範囲では、良好にパターンを形成することができる。添加剤として酢酸を用いる場合には、湿度は25%〜75%が好適であり、添加剤として酢酸メチルを用いる場合には、湿度は25%〜70%が好適であり、添加剤としてアセチルアセトンを用いる場合には、湿度は15%〜80%が好適である。なお、湿度は、公知の方法を用いて測定され得、計測器(例えば、おんどとりJr.Wireless RTR−53(株式会社ティアンドデイ))を例えば実験開始5分以上前から設置して、室温(20〜28℃)の相対湿度として計測してもよい。
【0032】
付着工程(A)で用いられる基材については、スライドガラス、ガラスビーズ、シリコン基板、シリコン酸化膜付きシリコン、炭化ケイ素基板、ガリウムヒ素基板、金属板(アルミニウム板、鉄板、銅板、亜鉛めっき板、ガルバリウム鋼板等)、アルミホイル、プラスチック板(ポリエチレンテレフタレート製、ポリプロピレン製、ポリエチレン製等)、コート紙、積層フィルム、光ファイバー、布、皮、木材等が例示される。吸収性の低い基材で本発明の効果を奏するものであれば、適宜選択され得る。なお、本発明では、前述の通り、スチレン系ポリマーの析出によりパターン形成させるため、基材の表面エネルギー及び基材表面の形状の影響を受けにくい。このため、本発明のパターン形成方法によれば、直径が例えばマイクロオーダーの球体やシリコンの切り落とし面、例えばマイクロオーダーの凹凸を有する基材においても、パターンの形成が可能である。
【0033】
付着工程(A)における「付着」とは、より具体的には、パターン形成溶液を基材上に、滴下、塗布(へら、スプレー、インジェクター、シリンジ、ローラー等)等により付着させることをいう。なお、工程(A)における「付着」には、例えば、インクジェットプリンターでパターン形成溶液を吹き付けて付着させることも含まれる。
【0034】
付着工程(A)においては、パターン形成溶液を基材上に、通常、1μL/cm
2〜12μL/cm
2の量で付着させるが、付着量はこれより多くてもよい(例えば、15μL/cm
2〜45μL/cm
2)。前述のようにパターン形成溶液を吹き付けて付着させる場合(例えばインクジェットプリンターを用いる場合)には、例えば0.1μL/cm
2〜1μL/cm
2の量であってもよい。なお、後述する延伸工程(C)により基板上に付着したパターン形成溶液を延伸させる場合には、延伸工程(C)によりパターン形成溶液が基板上から振り落とされることがあるため、付着量を例えば30μL/cm
2〜60μL/cm
2としてもよい。
【0035】
付着工程(A)の後に、湿度10%〜80%の条件下で、パターン形成溶液を付着させた基材から、溶媒を除去する溶媒除去工程(B)を行う。
【0036】
溶媒除去工程(B)において、溶媒を除去する方法としては、風乾等が例示される。本発明の効果を奏する溶媒の除去方法であれば、適宜選択され得る。パターン形成溶液を基板上に例えば10μL/cm
2〜30μL/cm
2の量で付着させた場合、例えば2分程度風乾させることで、溶媒を除去することができる。なお、工程(B)の湿度条件の詳細については、前述の通りである。
【0037】
付着工程(A)及び溶媒除去工程(B)により、基材上に、スチレン系ポリマーのランダムに分散した島状や球状のパターンを形成させることができる。パターンが球状の場合、その直径は例えば100nm〜3mm程度であり、パターンが島状の場合、その短径は例えば100nm〜3mm程度である。該パターンは、前述の通り、スチレン系ポリマーが析出した固まりで形成されている。なお、該パターンの上面(表面)は、平坦な形状のものや、球面状のもの等が含まれるが、概して、平坦な形状のものが多い。このように、本発明によるパターン形成方法により表面にパターン形成された基材を、本明細書において、「スチレン系ポリマー薄膜付き基材」という。
【0038】
本発明によるパターン形成方法は、溶媒除去工程(B)の前に、基材上に付着したパターン形成溶液を延伸させる延伸工程(C)をさらに含んでいてもよい。
【0039】
延伸工程(C)における延伸させる手段としては、パターン形成溶液を基材上で一定方向に延伸する手段であれば、特に制限されず、例えば、スピンコート、ロールコーター、ブレードコート、ダイコーター、へら等が挙げられる。なお、溶媒除去工程(B)が完了してしまうと、パターン形成溶液を基材上で延伸させることができなくなるため、付着工程(A)の後、直ちに延伸工程(C)を行うか、又は、付着工程(A)を行いつつ延伸工程(C)を行う。また、延伸する時間については、スピンコートの場合には例えば5秒程度であってもよい。
【0040】
延伸工程(C)によって、パターン形成溶液を延伸させる任意の方向に、基材上に、スチレン系ポリマーのランダムに分散した島状、球状、網目状、線状等のパターンを形成させることができる。パターンが球状の場合、その直径は例えば100nm〜3mm程度であり、パターンが島状の場合、その短径は例えば100nm〜3mm程度であり、パターンが網目状の場合、節と節の間の長さは例えば5μm〜300μm程度であり、線状の場合、その短幅の長さは例えば5μm〜300μm程度である。延伸工程(C)を行うことで、基材上のパターンに対して、水平面での方向性を持たせることができる。なお、該パターンの上面(表面)は、前述と同様に、平坦な形状のものや、球面状のもの等が含まれるが、概して、平坦な形状のものが多い。
【0041】
本発明によるパターン形成方法においては、パターン形成溶液を基材上に付着させる(さらにパターン形成溶液を延伸させてもよい)ことで、パターンを基材上に形成させることができる。電子線や超音波を照射せずに、また、大掛かりな装置等を使うことがないため、簡便にパターンを基材上に形成させることができる。
【0042】
また、本発明によるパターン形成方法では、スチレン系ポリマーが析出することによりパターンを形成させるため、基材の表面エネルギーや基材表面の形状にかかわらず、安定的にパターンを基材上に形成させることができる。また、基材表面が水平面ではなく、傾斜面であっても、安定的にパターンを基材上に形成させることができる。
【0043】
本発明によるパターン形成方法に用いるパターン形成溶液は、長期間保存しても相分離やスチレン系ポリマーの析出が生じる可能性が低く、長期間保存したパターン形成溶液でもパターン形成が可能である。また、該パターン形成溶液は、作製過程で相分離を生じることなく、均一な溶液とすることができる。
【0044】
また、本発明によるパターン形成方法では、前述の通り、電子線や超音波を照射せずに行うことができ、また、大掛かりな装置等を使うことがないため、安価にパターンを基材上に形成させることができる。
【0045】
また、本発明によるパターン形成方法では、パターン形成溶液中の溶媒の種類及びスチレン系ポリマーの含有量並びに添加剤の種類及び含有量、湿度の程度、パターン形成溶液の延伸方法及び延伸速度等を調節することにより、用途に合わせたパターンを基材上に形成することができる。また、基材にパターン形成溶液を付着させた後(又は延伸させた後)、液面を平行に保つことで対流を安定させ、基材の形状に起因するパターンの分散の偏りを防ぐことができる。
【0046】
本発明によるパターン形成方法は、レジストマスクや微細加工技術一般に適用可能である。本発明によるパターン形成方法により形成されたパターンは、表面撥水性材料、パスワード生成装置、培養器、磁気記録媒体、フィールド・エミッション・ディスプレー、電界放射カソード、電気化学セルのセパレーター及び電極、燃料電池用触媒電極、フィルター、太陽電池の基材等に応用され得る。
【0047】
前述の本発明による表面撥水性材料は、本発明によるスチレン系ポリマー薄膜付き基材を備える。より具体的には、該表面撥水性材料は、例えば、親水性基材上に本発明によるパターン形成方法によりパターンを形成する(延伸により方向性を有するパターンとする)ことで作製される。該表面撥水性材料の表面では、親水性基材に水分が付着することで空気中水分の結露が促進され、該表面撥水性材料に傾斜をつけると、表面上の水滴がパターンの方向に沿って移動する。本発明によるスチレン系ポリマー薄膜付き基材には、上部(表面)が平坦な形状のパターンが多く形成されるため、水滴はより効率的に移動し得る。このように、本発明による表面撥水性材料によれば、水滴の移動方向制御が可能な機能性表面を実現し得る。
【0048】
前述の本発明によるパスワード生成装置は、本発明によるスチレン系ポリマー薄膜付き基材を備える。より具体的には、パスワード生成装置に備えられるスチレン系ポリマー薄膜付き基材は、例えば、インクにスチレン系ポリマー及び添加剤を加えてパターン形成溶液を作製し、該パターン形成溶液を用いて基材上に印刷して印字ドット内にパターンを形成させたものである。基材としては、前述と同様のものを用いることができる。従来のパスワード生成装置では、数字や文字などのパスワードをランダムに生成させるのみであり、パスワードの認証も、数字や文字などの違いのみによるものであった。一方で、本発明によるパスワード生成装置では、印刷された印字ドット内にスチレン系ポリマーによるパターンが形成されており、パスワードの認証は、パターンの基材上での存在位置、形状、密集度等の情報に基づき行われる。本発明によるパターン形成方法によれば、前述の通り、基材上にスチレン系ポリマーが析出することによりパターンを形成するため、そのパターンの基材上での存在位置、形状、密集度等は、パターン形成された基板ごとで異なる。このため、本発明によるパスワード生成装置によれば、認証セキュリティを格段に向上させることができる。
【0049】
前述の本発明による培養器は、本発明によるスチレン系ポリマー薄膜付き基材からなる細胞足場を備える。より具体的には、本発明による培養器は、例えば、本発明によるスチレン系ポリマー薄膜付き基材(基材としては、基材上で細胞が付着して生育することのできるガラス板(スライドグラス等)、プラスチック板(ポリエチレンテレフタレート製、ポリプロピレン製、ポリエチレン製等)等を用いる)を、細胞足場として培養ディッシュの底面に設置したものである。本発明による培養器内で細胞を培養すると、例えば、パターン間の溝(スチレン系ポリマーの固まりと固まりとの間)の基材(ガラス板、プラスチック板等)上に細胞が付着して生育し、細胞塊が形成され、培養器を軽く振ることで、この細胞塊を剥離させることができる。また、例えば、基材に形成されたパターンが“マイクロ流路”として機能し、パターン間の溝の基材上に細胞が鉛直方向に積み重なって増殖することで、細胞塊の“壁”が形成され得る。
【0050】
次に、本発明による反転パターン形成方法について、以下に詳述する。
【0051】
本発明による反転パターン形成方法は、反転パターン形成溶液を、湿度10%〜80%の条件下で、基材上に付着させる付着工程(A’)と、湿度10%〜80%の条件下で、反転パターン形成溶液を付着させた基材から、溶媒を除去する溶媒除去工程(B’)と、前記溶媒除去工程(B’)の後、反転パターン形成溶液を付着させた基材を、現像溶媒に浸漬させて、スチレン系ポリマーを溶解させる現像工程(C’)と、を含む。これらの工程により、後述するように、スチレン系ポリマーのパターンを反転させたパターン(以下、「反転パターン」という)を基材上に形成することができる。
【0052】
付着工程(A’)で用いられる反転パターン形成溶液は、スチレン系ポリマーと、酢酸、酢酸メチル、及びアセチルアセトンのうち少なくとも1つの添加剤と、アクリル系樹脂と、溶媒と、を含む。アクリル系樹脂としては、スチレン系ポリマーと相分離を起こすアクリル系樹脂であれば特に制限されることなく採用され得、例えば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリエチルメタクリレート、ポリプロピルメタクリレート、ポリブチルメタクリレート、又はこれらの2若しくは3以上の混合物を挙げることができる。本発明の効果を奏するアクリル系樹脂であれば、適宜選択され得る。アクリル系樹脂の、反転パターン形成溶液の全量に対する添加量は、0.5mg/mL〜6mg/mLが好ましい。なお、スチレン系ポリマー、添加剤及び溶媒の詳細については、前述の工程(A)と同様である。
【0053】
付着工程(A’)における湿度条件、基材、及び付着についての詳細は、前述の工程(A)と同様である。
【0054】
溶媒除去工程(B’)についての詳細は、前述の溶媒除去工程(B)と同様である。
【0055】
特定の理論に縛られることを望むものではないが、付着工程(A’)及び溶媒除去工程(B’)においては、先にスチレン系ポリマー相が析出し、これを覆うようにアクリル系樹脂の層が形成される。なお、アクリル系樹脂が溶液中に含まれていても、スチレン系ポリマーの析出が阻害されることなく、スチレン系ポリマーのパターンを形成させることができる。
【0056】
現像工程(C’)で用いられる現像溶媒としては、スチレン系ポリマーを溶解させ、かつアクリル系樹脂を溶解しない溶媒であれば、特に制限されることなく採用され得、例えば、シクロヘキサンを用いることができる。現像溶媒は、基材上のスチレン系ポリマーの固まりを溶かし、除去する役割を果たす。なお、現像工程(C’)における現像溶媒への浸漬時間は、例えば、3時間程度である。
【0057】
反転パターンを形成する過程について、スチレン系ポリマーとしてポリスチレン、アクリル系樹脂としてポリメチルメタクリレート(PMMA)を用いた場合を例に、以下に説明する。
図5(a)に示すように、付着工程(A’)及び溶媒除去工程(B’)において、ポリスチレン2及びPMMA1を含む反転パターン形成溶液を基材(シリコン酸化膜付きシリコン)5上に付着させて、溶媒を除去する。次に、
図5(b)に示すように、現像工程(C’)において、基材(シリコン酸化膜付きシリコン)5を現像溶媒に浸漬させることで、ポリスチレン2を溶解し、除去する。この際、PMMA1は基材(シリコン酸化膜付きシリコン)5上に残っている。このようにして、反転パターンを形成させることができる。
【0058】
本発明による反転パターン形成方法は、基材としてシリコン酸化膜付きシリコンを用いた場合には、現像工程(C’)の後に、シリコン酸化膜除去工程(
図5(c))、及びそれに続くアクリル系樹脂除去工程(
図5(d))をさらに含んでいてもよい。より具体的には、シリコン酸化膜除去工程では、例えば、バッファードフッ酸(フッ化水素酸及びフッ化アンモニウム溶液の混合水溶液)にてウェットエッチングして、シリコン酸化膜3をエッチングさせ(
図5(c))、アクリル系樹脂除去工程では、例えば、トルエンで洗浄することにより、PMMA1を溶解除去し、スチレン系ポリマーのパターンがエッチングされたシリコン酸化膜付きシリコン基材を得ることができる(
図5(d))。
【0059】
本発明による反転パターン形成方法は、溶媒除去工程(B’)の前に、基材上に付着した反転パターン形成溶液を延伸させる延伸工程をさらに含んでいてもよい。該延伸工程の詳細については、前述と同様である。
【0060】
本発明による反転パターン形成方法では、前述の本発明によるパターン形成方法と同様に、基材上に、簡便に、安定的に、かつ安価に反転パターンを形成することができる。
【実施例】
【0061】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0062】
(実施例A)
本実施例では、種々の条件設定のもとで、基材上にパターンを形成できるかどうかについて検討した。
【0063】
以下の表1の通り、パターン形成溶液を作製した。パターン形成溶液の作製方法について、実施例1を例にとって説明する。酢酸エチル(溶媒)にポリスチレンを溶解させて、ポリスチレン換算で3.0mg/mLの溶液を作製し、さらに酢酸を加え、均一な溶液とした。なお、ポリスチレンは(商品番号:182427、シグマアルドリッチ社)、各実験において、3.0mg/mLの量で用いた。また、スチレン−ブタジエン共重合体は(商品番号:182907、シグマアルドリッチ社)、実施例4において、3.0mg/mLの量で用いた。また、添加剤としての酢酸は、各実験において、パターン形成溶液の全量に対して0.5%の含有量で添加され、添加剤としての酢酸メチルは、実施例2で、パターン形成溶液の全量に対して5%の含有量で添加され、比較例2(溶媒無し)で、100%の含有量とした。
【0064】
上述の通り作製したパターン形成溶液を、表1に記載の湿度条件下にて、基材上に40μL/cm
2の量で滴下し、室温にて風乾させた。その後、該基材表面を表2に記載の条件下で観察した。なお、基材としては、実施例2ではアルミホイルを、その他では、スライドグラスを用いた。また、湿度については、計測器(おんどとりJr.Wireless RTR−53、株式会社ティアンドデイ)を実験開始5分以上前から設置して、室温(20〜28℃)の相対湿度として計測した。
【0065】
【表1】
【0066】
【表2】
【0067】
実施例1〜4の結果を
図1(a)〜(d)の写真に各々示し、比較例1〜4の結果を
図2(a)〜(d)の写真に各々示す。実施例1〜4では、基材上にパターンが形成されていることが確認された(
図1(a)〜(d))。一方、パターン形成溶液に添加剤を入れていなかった比較例1では、パターン形成されなかった(
図2(a))。また、パターン形成溶液に溶媒を入れていなかった比較例2でも、パターン形成されなかった(
図2(b))。また、湿度条件が10%〜80%の範囲外である比較例3及び4でも、パターン形成されなかった(
図2(c)及び(d))。
【0068】
以上より、本実施例によるスチレン系ポリマー、添加剤及び溶媒を含むパターン形成溶液を、所定の湿度で基材に付着させて風乾することにより、基材上にパターンを形成できることが示された。
【0069】
(実施例B)
本実施例では、基材上にパターン形成溶液を滴下し、延伸させることで、パターンを形成できるかどうかについて検討した。
【0070】
酢酸エチルにポリスチレン(実施例Aと同様)を溶解させて、ポリスチレン換算で30mg/mLの溶液を作製し、さらに酢酸を加え、均一な溶液とした(酢酸含量:0.5%)。この溶液を、湿度40%の条件下(湿度の測定方法については、実施例Aと同様)にて、親水性の基材(松浪硝子工業株式会社製、MASコ−トスライドグラス)上に50μL/cm
2の量で滴下し、ただちにスピンコ−トにより、5秒間、1000rpmの速度で、基材上の該溶液を延伸させ、その後、室温にて風乾させた。その後、該基材表面を電子顕微鏡(キーエンス社製、VE−8800、500倍)にて観察した。
【0071】
電子顕微鏡写真を
図3に示す。基材表面において、該溶液が延伸する方向に向かって、線状及び網目状のパターンが観察された。また、該パターンの上部(表面)は、平坦な形状をなしていた。
【0072】
以上より、本実施例によるパターン形成方法によって基材上にパターンが形成されることが示された。
【0073】
(実施例C)
本実施例では、種々の条件設定のもとで、アクリル樹脂(ポリメチルメタクリレート(PMMA))を含有する溶液でパターンを形成できるかどうかについて検討した。
【0074】
以下の表3の通り、アクリル樹脂を含有した溶液を作製した。溶液の作製方法について、実施例1’を例にとって説明する。酢酸エチル(溶媒)にポリスチレン(実施例Aと同様)及びPMMA(商品番号:182230、シグマアルドリッチ社)を溶解させて、ポリスチレン換算で1.5mg/mL及びPMMA換算で1.5mg/mLの溶液を作製し、さらに酢酸を加え、均一な溶液とした(酢酸含量:1%)。比較例2’の溶液における酢酸含量は、実施例1’と同様に、1%であった。また、ポリスチレンの含量については、各実験において、全溶液に対して、各々1.5mg/mLであった。また、PMMAの含量についても、全溶液に対して、各々1.5mg/mLであった。
【0075】
上述の通り作製した溶液を、表3に記載の湿度条件下(湿度の測定方法については、実施例Aと同様)にて、基材上に10μL/cm
2の量で滴下し、室温にて風乾させた。なお、実施例1’においては、滴下後ただちにスピンコートにて基材上の溶液を延伸してから(500rpm)、室温にて風乾させた。その後、該基材表面を表4に記載の条件下で観察した。なお、基材としては、スライドグラスを用いた。
【0076】
【表3】
【0077】
【表4】
【0078】
実施例1’及び比較例1’、2’の結果を
図4(a)〜(c)の写真に各々示す。実施例1’では、基材上にパターンが形成されていることが確認された(
図4(a))。一方、溶液に添加剤を入れていなかった比較例1’では、パターン形成されなかった(
図4(b))。また、湿度条件が10%〜80%の範囲外である比較例2’でも、パターン形成されなかった(
図4(c))。
【0079】
以上より、本実施例によるスチレン系ポリマー、アクリル系樹脂、添加剤及び溶媒を含む溶液を、所定の湿度で基材に付着させて風乾することにより、基材上にパターンを形成できることが示された。
【0080】
(実施例D)
本実施例では、ポリスチレンのパターンを反転させたアクリル系樹脂(ポリメチルメタクリレート(PMMA))のパターン及びポリスチレンのパターンがエッチングされたシリコン酸化膜付きシリコン基材が得られるかどうかについて検討した。
【0081】
酢酸エチルにポリスチレン(実施例Aと同様)及びPMMA(実施例Cと同様)を溶解させて、ポリスチレン換算で1.5mg/mL及びPMMA換算で3.0mg/mLの溶液を作製し、さらに酢酸を加え、均一な溶液とした(酢酸含量:0.5%)。この溶液を、湿度30%の条件下(湿度の測定方法については、実施例Aと同様)にて、シリコン酸化膜付きシリコン基材(ケイ・エス・ティ・ワールド株式会社、φ4inch、熱酸化膜300nm付きウェーハ、仕上げ:片面ミラー)の凹凸のある切り落とし面(シリコン酸化膜面)に、9.6μL/cm
2の量で滴下し、室温にて風乾させた(
図5(a))。その後、該基材をシクロヘキサンに3時間浸漬し、該基材上からポリスチレンを溶解除去し、ポリスチレンの反転パターンを得た(
図5(b))。次に、該基材を、バッファードフッ酸(フッ化水素酸及びフッ化アンモニウム溶液の混合水溶液)にてウェットエッチングして、シリコン酸化膜がエッチングされたパターンを得た(
図5(c))。最後に、トルエンで洗浄することにより、PMMAを溶解除去し、ポリスチレンのパターンがエッチングされたシリコン酸化膜付きのシリコン基材を得た(
図5(d))。
図5(c)の状態のシリコン基材を反射顕微鏡(オリンパス BX−51 50倍レンズ(裸眼相当で500倍))にて観察した。
【0082】
反射顕微鏡写真を
図6に示す。シリコン基材上のポリスチレンのパターンがエッチングされた様子が観察された。なお、上記溶液は、作製後5ヶ月以上経過(室温保存)しても、ポリスチレン相の析出状態に変化はみられなかった。
【0083】
以上より、本実施例による反転パターン形成方法によって、ポリスチレンのパターンを反転させたアクリル系樹脂(PMMA)のパターン及びポリスチレンのパターンがエッチングされたシリコン酸化膜付きのシリコン基材が得られることが示された。
【0084】
(実施例E)
本実施例では、インクにポリスチレン及び酢酸を加えて噴射した場合に、ドット内にパターンを形成させることができるかどうかについて検討した。
【0085】
2−ブタノン(メチルエチルケトン)を主成分とするインク(株式会社キーエンス製、MK−10標準インク)に、ポリスチレン(実施例Aと同様)を溶解させて、ポリスチレン換算で6.0mg/mLの溶液を作製し、さらに酢酸を加え、均一な溶液とした(酢酸含量:0.5%)。この溶液をマイクロシリンジ(SGE社製、10R−GP)に充填し、湿度40%の条件下(湿度の測定方法については、実施例Aと同様)で、該マイクロシリンジで溶液をスライドグラス上に噴射させることにより、スライドグラス上に直径2mm程度のドットを作製した。ドット内のパターン形成の様子を、反射顕微鏡(オリンパス BX−51 10倍レンズ(裸眼相当で100倍))にて確認した。
【0086】
反射顕微鏡写真を
図7に示す。ドット内にポリスチレンのパターンが形成されている様子が観察された。なお、上記溶液は、作製後3ヶ月以上経過(室温保存)しても、ポリスチレン相の析出状態に変化はみられなかった。
【0087】
以上より、インクにポリスチレン及び酢酸を加えてパターン形成溶液を作製して噴射した場合に、ドット内にパターンを形成させることができることが示された。
【0088】
(実施例F)
本実施例では、パターン形成溶液を長期間保存した後においても、パターン形成が可能かどうかついて検討した。
【0089】
酢酸エチルにポリスチレン(実施例Aと同様)を溶解させて、ポリスチレン換算で3.0mg/mLの溶液を作製し、さらに酢酸を加え、均一な溶液とした(酢酸含量:0.5%)。この溶液を、密閉状態で5カ月間室温保存した。5カ月間室温保存した状態でも、ポリスチレン相の析出状態に変化はみられなかった。5カ月間室温保存後の溶液を、湿度40%の条件下(湿度の測定方法については、実施例Aと同様)にて、シリコン酸化膜付きシリコン基材(実施例Dと同様)のウエハミラー加工面(シリコン酸化膜面)に、20μL/cm
2の量で滴下し、ただちにスピンコ−トにより、5秒間、1000rpmの速度で、基材上の該溶液を延伸させ、その後、室温にて風乾させた。該基材を反射顕微鏡(オリンパス BX−51 50倍レンズ(裸眼相当で500倍))にて観察した。
【0090】
反射顕微鏡写真を
図8に示す。基材上にポリスチレンのパターンが形成されている様子が観察された。
【0091】
以上より、本実施例によるパターン形成溶液は、長期間の保存後でも、ポリスチレン相の析出状態に変化はみられず、基材上にパターンを形成できることが示された。
【0092】
(実施例G)
本実施例では、パターン形成された基板を細胞足場として備えた培養器において、細胞を培養できるかどうかについて検証した。
【0093】
2−ブタノン(メチルエチルケトン)と4−メチル−2−ペンタノン(メチルイソブチルケトン)との混合溶媒(メチルエチルケトン:メチルイソブチルケトン=2:1)に、ポリスチレン(実施例Aと同様)を溶解させて、ポリスチレン換算で20mg/mLの溶液を作製し、さらに酢酸メチルを加え、均一な溶液とした(酢酸メチル含量:5%)。この溶液を、40%の湿度条件下(湿度の測定方法については、実施例Aと同様)にて、スライドグラス上に10μL/cm
2の量で滴下し、ただちに、スピンコートにより、30秒間、500rmpの速度で、溶液を延伸させ、その後、室温にて十分風乾させた。このようにパターン形成されたスライドグラスを細胞足場として、ポリスチレン製ディッシュ(100mm細胞培養表面処理済ディッシュ、CORNING社製、商品コード:430167)の底面に設置し、培養器とした。
【0094】
前述の通り作製した培養器において、ラット繊維芽細胞にH−ras遺伝子を導入して癌化させた細胞株W31を、36.5℃前後で培養した。培地としては、DMEM 高グルコース(和光純薬工業社、商品コード:043−30085)に10%ウシ胎児血清(ライフテクノロジーズ社、商品コード:10099−141)を加えたものを使用した(培地交換無し)。培養開始50時間後及び150時間後に、細胞の状態を、透過顕微鏡(ニコン DIAPHOTO−300、4倍レンズ(低倍率の方)及び10倍レンズ(高倍率の方))で観察した。
【0095】
反射顕微鏡写真を
図9に示す。
図9(a)は培養開始50時間後のもの、
図9(b)は
図9(a)を拡大したもの、
図9(c)は
図9(b)と同じ場所をピントを変えて撮影したもの、及び
図9(d)は培養開始150時間後のものである。培養開始50時間後では、細胞が筋状にスライドグラス上に付着している様子が観察された(
図9(a)−(c))。また、培養開始150時間後では、細胞が増殖して細胞塊を形成している様子が観察された(
図9(d))。
【0096】
以上より、本実施例によりパターン形成された基板を細胞足場として備えた培養器において、細胞を培養できることが確認された。