【実施例】
【0037】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。本実施例中での試験方法は以下の方法に従って行った。
【0038】
(1)断面観察
株式会社日立ハイテクノロジーズ社製の収束イオンビーム加工観察装置「FB−2100」を用いて、めっき品の断面のFIB(Focused Ion Beam)加工後の走査イオン顕微鏡像を得た。
【0039】
(2)表面観察
株式会社日立ハイテクノロジーズ社製の電界放射型走査電子顕微鏡(FE−SEM)「S−4800」を用い、めっき品の表面を撮影し二次電子像を得た。
【0040】
(3)比表面積
レーザー顕微鏡で横縦(X−Y)方向の分解能を0.001μm、高さ(Z)方向の分解能を0.001μmに設定して、めっき品の表面積を測定した。そして、測定箇所の平面視の面積1664μm
2に対する上記表面積の比を比表面積とした。レーザー顕微鏡は株式会社キーエンス社製のカラー3Dレーザー顕微鏡「VK−9700」である。
【0041】
(4)摩擦磨耗試験
神鋼造機株式会社製の摩擦摩耗試験機(形式SSWT)を用いて、得られためっき品の表面の摩擦係数を以下の試験条件で測定した。そして、横軸を往復摺動回数、縦軸を摩擦係数とするグラフを得た。得られたグラフより20サイクル毎の摩擦係数を求めて平均摩擦係数を算出した。
・ボール:φ9.8mm 真鍮(Ni下地1μm、Au0.4μmめっき済)
・試験温度:22℃
・試験荷重:500mN
・ストローク:4.00mm
・周波数:2.00Hz
・往復摺動回数:3,600サイクル
【0042】
(5−1)耐食性試験(ガス腐食試験)
JIS H 8502に記載された二酸化硫黄ガス試験に準拠し、以下の条件にて試験を行った。そして、めっき品の表面に発生した腐食欠陥をレイティングナンバーにて評価した。ここでレイティングナンバーとは、試験面に占める腐食面積率(%)の割合を示す評点であり、10〜0に区分けされている。腐食が全くない場合を10とし、一般的にレイティングナンバー9以上が良好とされている。
・装置:株式会社山崎精機研究所社製の混合ガス腐食試験機「GPL−91−C」
・二酸化硫黄濃度:10ppm
・試験温度:40℃
・相対湿度:80%
・試験時間:96時間
【0043】
(5−2)耐食性試験(塩水噴霧試験)
以下に記載の装置を用いてめっき品の表面に塩水を噴霧して48時間後にめっき品の表面を観察した。そして、めっき品の表面に発生した腐食欠陥をレイティングナンバーにて評価した。レイティングナンバーについての評価基準は上記と同様である。
・装置:スガ試験機株式会社製のキャス試験機「CAP−90」
・試験液:47%塩水
・試験温度:35℃
・試験時間:48時間
【0044】
(6)接触抵抗試験
株式会社山崎精機研究所社製の電気接点シミュレーター「CRS−113−AU型」を用いて、めっき品の接触抵抗を四端子法により以下の条件にて測定した。具体的には、測定は無負荷の状態から、徐々に針を加圧し、最大1.0Nの荷重をかけた。そして、徐々に荷重を低下させて最終的に無負荷の状態にまで戻したときの接触抵抗の変化を測定した。接触抵抗の計測は、加圧(往)時の荷重が0.5Nのとき、最大荷重である1.0Nのとき、減圧(復)時の荷重が0.5Nのときの抵抗値をそれぞれ測定した。
・プローブ:R025−K−18型(半径0.1mm形状)
・プローブ材質:K18(φ1mm)
・印加電流:10mA
【0045】
(7)めっき皮膜の化学組成分析
以下の測定装置を用いてめっき品の皮膜の化学組成分析を行った。具体的には、得られためっき品の孔と凸部の化学組成の分析を行った。
・測定装置:走査型電子顕微鏡(FE−SEM/EDX)
・FE−SEM部:株式会社日立ハイテクフィールディング社製の「S−4800」
・EDX部:株式会社堀場製作所製の「EX−350」
・測定条件:加速電圧10kV、作動距離(W.D.)15mm、倍率10000倍
【0046】
実施例1
(電解脱脂処理)
まず、基材として30mm×40mm×0.3mmの銅板を用意し、当該銅板をカソードとして、ユケン工業株式会社製の電解脱脂剤「パクナTHE−210」を60g/Lで溶解した50℃の水溶液に浸漬して、陰極電流密度4A/dm
2で60秒間、脱脂処理を行った。脱脂処理された基材をイオン交換水で3回水洗した後、2vol%の硫酸水溶液に室温にて60秒間浸漬し酸洗浄した。そして、再度、3回水洗した。
【0047】
(下地Niめっき層の形成)
電解脱脂処理された試料を、50℃に保温したpHが4.4の下記の組成の水溶液に浸漬した。そして、空気撹拌を行いながら、陰極電流密度3A/dm
2で190秒間、電解Niめっき処理をして、膜厚1μmの下地Niめっき層を形成した。その後、試料をイオン交換水で3回洗浄した。
・スルファミン酸ニッケル[Ni(SO
3NH
2)
2・4H
2O]:396g/L
・塩化ニッケル[NiCl
2・6H
2O]:30g/L
・ホウ酸[H
3BO
3]:30g/L
【0048】
(多孔質Niめっき層の形成)
下地Niめっき層が形成された試料を、50℃に保温したpHが4.2の下記の組成の水溶液に浸漬した。そして、空気撹拌を行いながら陰極電流密度3A/dm
2で80秒間、電解Niめっき処理をして、下地Niめっき層上に膜厚1μmの多孔質Niめっき層を形成した。その後、試料をイオン交換水で3回洗浄した後、イオン交換水中に浸漬して1分間、超音波洗浄した。
・スルファミン酸ニッケル[Ni(SO
3NH
2)
2・4H
2O]:396g/L
・塩化ニッケル[NiCl
2・6H
2O]:30g/L
・ホウ酸[H
3BO
3]:30g/L
・ドデシルトリメチルアンモニウムクロライド:0.02mol/L
【0049】
実施例1における多孔質Niめっき層の形成後の試料をFIB(Focused Ion Beam)によって加工し、断面を観察した。
図1に断面の走査イオン顕微鏡像を示す。
図1に示すように、多孔質Niめっき層の形成後の試料は、表面から基材に向かって凹状に窪んだ複数の凹部を有することがわかった。
【0050】
(表面Auめっき層の形成)
多孔質Niめっき層が形成された試料を、60℃に保温したpHが4.2の日本高純度化学株式会社製のAuめっき液「BAR7」(Au含有量5g/L)に浸漬した。そしてマグネティックスターラーで撹拌を行いながら、陰極電流密度3A/dm
2で8秒間、電解Auめっき処理をして、多孔質Niめっき層上に膜厚0.05μmのAuめっき層を形成した。その後、試料をイオン交換水で3回洗浄し、60℃のイオン交換水中に浸漬して60秒間、超音波洗浄した後に乾燥することにより実施例1のめっき品を得た。
【0051】
図2に実施例1のめっき品の表面の二次電子像を示す。
図2に示すように、実施例1のめっき品の表面には孔を有し、多孔質のめっき層が形成されていることが確認された。また、
図2に示す実施例1のめっき品の二次電子像において、無作為に複数の孔を選びそれぞれ面積を求めた。このとき孔が円形でない場合には、円相当径を直径とした。そして面積荷重平均で孔の平均径を求めたところ、平均径は約3.5μmであった。
【0052】
図3に実施例1のめっき品の摩擦磨耗試験の結果を示す。
図3に示すように、測定中、摩擦係数の目立った上昇は確認されなかった。また、
図4に実施例1のめっき品の摩擦磨耗試験後の二次電子像を示す。
図4に示すように、摩擦磨耗試験後においても微細な凹状を有した多孔質構造を維持していることがわかった。また、実施例1のめっき品について、上述した試験方法に従って比表面積、平均摩擦係数、耐食性、及び接触抵抗を評価した。結果をまとめて表2に示す。
【0053】
実施例2
実施例2は、実施例1で得られためっき品の表面に封孔処理を施した例である。実施例1のめっき品を45℃に保温した株式会社テトラ社製のAuめっき封孔処理剤「テトラNo.4」の水溶液(200mL/L)に超音波をかけながら10秒間浸した。そして、表面に付着した水溶液をエアーナイフで水切りし、実施例2のめっき品を得た。また、実施例2のめっき品についても、上述した試験方法に従って平均摩擦係数、耐食性、及び接触抵抗を評価した。結果をまとめて表2に示す。
【0054】
実施例3
マグネティックスターラーで撹拌を行いながら、陰極電流密度3A/dm
2で5秒間、電解Auめっき処理をして、多孔質Niめっき層上に膜厚0.03μmのAuめっき層を形成した以外は実施例1と同様の方法でめっき品を得た。また、実施例3のめっき品についても、上述した試験方法に従って耐食性及び接触抵抗を評価した。結果をまとめて表2に示す。
【0055】
実施例4
実施例4は、実施例3で得られためっき品の表面に封孔処理を施した例である。封孔処理の方法は実施例2と同じである。また、実施例4のめっき品についても、上述した試験方法に従って耐食性及び接触抵抗を評価した。結果をまとめて表2に示す。
【0056】
実施例5
マグネティックスターラーで撹拌を行いながら、陰極電流密度3A/dm
2で3秒間、電解Auめっき処理をして、多孔質Niめっき層上に膜厚0.02μmのAuめっき層を形成した以外は実施例1と同様の方法でめっき品を得た。また、実施例5のめっき品についても、上述した試験方法に従って耐食性及び接触抵抗を評価した。結果をまとめて表2に示す。
【0057】
実施例6
実施例6は、実施例5で得られためっき品の表面に封孔処理を施した例である。封孔処理の方法は実施例2と同じである。また、実施例6のめっき品についても、上述した試験方法に従って耐食性及び接触抵抗を評価した。結果をまとめて表2に示す。
【0058】
実施例7
実施例7は、実施例1において多孔質Niめっき層を形成した後、酸化処理してから酸性水溶液で処理をして、表面Auめっき層を形成した例である。多孔質Niめっき層が形成された試料を水洗して乾燥した後、260℃に加温した恒温槽内に10分間放置してから試料を恒温槽から取り出した。このようにして酸化処理された試料を、室温にて5vol%の塩酸に1分間浸漬した後、水洗した。その後実施例1と同様にして表面Auめっき層の形成をした。
【0059】
図8に実施例7のめっき品の表面の二次電子像を示す。
図8に示すように、実施例7のめっき品は、その表面に孔を有しており、多孔質のめっき層が形成されていることが確認された。また、実施例7のめっき品について、上述した試験方法に従って平均摩擦係数、耐食性、及び接触抵抗を評価した。結果をまとめて表2に示す。さらに、実施例7のめっき品において、
図8に示した孔(スペクトル1)及び凸部(スペクトル2)において元素分析を行った。結果を表1に示す。
【0060】
【表1】
【0061】
実施例8
実施例8は、実施例1において表面Auめっき層の形成した後、酸化処理を行った例である。酸化処理の方法は実施例7と同様である。上述した試験方法に従って、平均摩擦係数、耐食性及び接触抵抗を評価した。結果をまとめて表2に示す。
【0062】
実施例9
実施例9は、実施例1における表面Auめっき層に代えて表面Agめっき層を形成した例である。すなわち実施例9のめっき品は、基材の上に下地Niめっき層と多孔質Niめっき層と表面Agめっき層とがこの順序で形成されている。電解脱脂処理をする工程、下地Niめっき層を形成する工程、多孔質Niめっき層を形成する工程は実施例1と同様である。表面Agめっき層を形成する工程は以下の通りである。
【0063】
(表面Agめっき層の形成)
多孔質Niめっき層が形成された試料を、室温の下記の組成の水溶液に浸漬した。そして、陰極電流密度2A/dm
2で10秒間、Agストライクめっき処理をした。その後、試料をイオン交換水で3回洗浄した。
・シアン化銀[AgCN]:3g/L
・シアン化カリウム[KCN]:160g/L
・炭酸カリウム[K
2CO
3]:100g/L
【0064】
メタローテクノロジーズジャパン株式会社製の「S−900」2Lに下記の成分を加えためっき液にAgストライクめっき層が形成された試料を浸漬した。55℃に保温して、陰極電流密度5A/dm
2で15秒間、Agめっき処理をした。その後、試料をイオン交換水で3回洗浄し、超音波洗浄することにより、多孔質Niめっき層上に膜厚0.4μmの表面Agめっき層を形成した。
・シアン化銀カリウム[KAg(CN)
2]:150g/L
・シアン化カリウム[KCN]:2.5g/L
【0065】
さらに、得られためっき品の表面に変色防止処理を施した。具体的には、得られためっき品を55℃に保温した有限会社ケミカル電子製の変色防止剤「CE−9700W」の水溶液(200mL/L)に5秒間浸した。そして、イオン交換水で3回洗浄し乾燥した。実施例9のめっき品について、上述した試験方法に従って耐食性及び接触抵抗を評価した。結果をまとめて表2に示す。
【0066】
比較例1
比較例1は、実施例1において多孔質Niめっき層の形成を行わない例である。具体的には、比較例1のめっき品は、基材の上に下地Niめっき層と表面Auめっき層とがこの順序に形成されている。脱脂処理された基材を、50℃に保温したpHが4.4のめっき浴に浸漬した。そして、空気撹拌を行いながら電流密度3A/dm
2で380秒間、電解Niめっき処理をして、膜厚2μmのNiめっき層を形成した。その後、試料をイオン交換水で3回洗浄し、60℃のイオン交換水中に浸漬して60秒間、超音波洗浄した。めっき浴の組成は実施例1における下地Niめっき層を形成したときのめっき浴の組成と同じである。
【0067】
そして、下地Niめっき層が形成された試料の表面に膜厚0.05μmの表面Auめっき層を形成し、比較例1のめっき品を得た。表面Auめっき層をする際の条件は実施例1で説明した条件と同じである。
【0068】
図5に比較例1のめっき品の表面の二次電子像を示す。
図5に示すように、めっき層の表面に孔は確認されなかった。
【0069】
図6に比較例1のめっき品の摩擦磨耗試験の結果を示す。
図6に示すように、測定中、急激に摩擦係数が上昇したため試験が停止した。また、
図7に比較例1のめっき品の摩擦磨耗試験後の二次電子像を示す。
図7に示すように、摩擦磨耗試験後、めっき皮膜が削られていることがわかった。また、比較例1のめっき品について、上述した試験方法に従って比表面積、平均摩擦係数、耐食性、及び接触抵抗を評価した。結果をまとめて表2に示す。
【0070】
比較例2
比較例2は、比較例1で得られためっき品の表面に封孔処理を施した例である。封孔処理の条件は実施例1と同様である。また、比較例2のめっき品について、上述した試験方法に従って平均摩擦係数、耐食性、及び接触抵抗を評価した。結果をまとめて表2に示す。
【表2】
【0071】
表2に示すように、比較例1のめっき品の比表面積が1.0043に対して、実施例1のめっき品の比表面積は1.5112と約1.5倍に増加していることが確認された。実施例と比較例との比較より、表面に孔を有することによって耐食性が大幅に向上するとともに、平均摩擦係数が低下した。また、多層めっき皮膜の表面に孔を有していても接触抵抗値に大きな変化は確認されなかった。実施例1〜6の結果から、表面めっき層の膜厚を薄くしてもなお耐食性及び接触抵抗値を維持していることがわかった。さらに、実施例1と実施例7との比較より、多孔質めっき層と表面めっき層との間に酸化Ni層をさらに有することにより、耐食性がより向上することがわかった。実施例1と実施例8との比較より、表面めっき層を形成した後に表面を酸化処理することによっても、耐食性がより向上することがわかった。したがって、本発明の構成を満足するめっき品は、電気特性を維持しながら、優れた耐食性と耐摩耗性が得られることがわかった。