特許第6089341号(P6089341)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6089341
(24)【登録日】2017年2月17日
(45)【発行日】2017年3月8日
(54)【発明の名称】めっき品及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C25D 5/12 20060101AFI20170227BHJP
   C25D 7/00 20060101ALI20170227BHJP
   C25D 5/48 20060101ALI20170227BHJP
   H05K 3/24 20060101ALI20170227BHJP
   H05K 3/18 20060101ALI20170227BHJP
【FI】
   C25D5/12
   C25D7/00 H
   C25D7/00 J
   C25D5/48
   H05K3/24 A
   H05K3/18 A
【請求項の数】12
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2013-550365(P2013-550365)
(86)(22)【出願日】2012年12月22日
(86)【国際出願番号】JP2012083371
(87)【国際公開番号】WO2013094766
(87)【国際公開日】20130627
【審査請求日】2015年12月4日
(31)【優先権主張番号】特願2011-282348(P2011-282348)
(32)【優先日】2011年12月22日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】303028734
【氏名又は名称】オーエム産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113181
【弁理士】
【氏名又は名称】中務 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100180600
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 俊一郎
(72)【発明者】
【氏名】高見沢 政男
(72)【発明者】
【氏名】西村 宜幸
【審査官】 祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−257193(JP,A)
【文献】 特開平03−291395(JP,A)
【文献】 特開2006−202569(JP,A)
【文献】 特開2001−152385(JP,A)
【文献】 特開昭61−087892(JP,A)
【文献】 特開2009−117542(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 5/00
C25D 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性金属からなる基材の上に多層めっき皮膜が形成されためっき品からなる電気部品であって;
前記基材の上に、Ni又はCuを主成分とする多孔質めっき層と、Au又はAgを主成分とする表面めっき層とをこの順序で有し、
前記多孔質めっき層の厚みが0.1〜5μmであり
前記多層めっき皮膜の表面に、基材に向かって凹状に窪んだ凹部からなる多数の孔が形成されてなり、
前記孔の平均径が、面積荷重平均値で0.5〜10μmであり、
前記多層めっき皮膜が形成された部分が電気的接点であることを特徴とする電気部品。
【請求項2】
記表面めっき層の厚みが0.001〜3μmである請求項に記載の電気部品。
【請求項3】
前記孔における表面めっき層の厚さが凸部における表面めっき層の厚さよりも薄い請求項1又は2に記載の電気部品。
【請求項4】
前記基材と前記多孔質めっき層との間に、該多孔質めっき層と同じ金属を主成分とする下地めっき層がさらに形成されてなる請求項1〜のいずれかに記載の電気部品。
【請求項5】
前記下地めっき層の厚みが0.1〜20μmである請求項に記載の電気部品。
【請求項6】
請求項1〜のいずれかに記載の電気部品の製造方法であって;
Niイオン又はCuイオンを含有するめっき浴中で多孔質めっき層を形成する第1めっき工程と、
Auイオン又はAgイオンを含有するめっき浴中で表面めっき層を形成する第2めっき工程とを備えることを特徴とする電気部品の製造方法。
【請求項7】
前記電気部品が、接点部と端子部を有するコネクタ用端子又はスイッチ用端子であって、該接点部に前記多層めっき皮膜が形成されてなる請求項1〜5のいずれかに記載の電気部品。
【請求項8】
前記電気部品が、プリント配線板である請求項1〜5のいずれかに記載の電気部品。
【請求項9】
導電性金属からなる基材の上に多層めっき皮膜が形成されためっき品であって;
前記基材の上に、Ni又はCuを主成分とする多孔質めっき層と、Au又はAgを主成分とする表面めっき層とをこの順序で有し、
前記多層めっき皮膜の表面に多数の孔が形成されてなり、
前記多孔質めっき層と前記表面めっき層との間に酸化Ni又は酸化Cuからなる酸化物層を、さらに有することを特徴とするめっき品。
【請求項10】
導電性金属からなる基材の上に多層めっき皮膜が形成されためっき品の製造方法であって;
Niイオン又はCuイオンを含有するめっき浴中で多孔質めっき層を形成する第1めっき工程と、
Auイオン又はAgイオンを含有するめっき浴中で表面めっき層を形成する第2めっき工程と、
前記第1めっき工程と前記第2めっき工程との間に、多孔質めっき層の表面を酸化処理する工程とを備え、
前記めっき品は、前記基材の上に、Ni又はCuを主成分とする多孔質めっき層と、Au又はAgを主成分とする表面めっき層とをこの順序で有し、
前記多層めっき皮膜の表面に多数の孔が形成されてなることを特徴とめっき品の製造方法。
【請求項11】
前記第1めっき工程の後に多孔質めっき層の表面を酸化処理してから該表面を活性化処理する請求項10に記載のめっき品の製造方法。
【請求項12】
前記第2めっき工程の後に多層めっき皮膜の表面を酸化処理する請求項10又は11に記載のめっき品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性金属からなる基材の上に多層めっき皮膜が形成されためっき品に関する。また、本発明はこのようなめっき品の製造方法及び用途に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、導電性金属からなる基材の上にめっきを施しためっき品は、様々な分野において用いられている。基材上にめっきを施すことにより、接触電気抵抗の低減、耐摩耗性の改善、耐食性の改善など、電気的、機械的、化学的特性を向上させることができる。なかでも、AuやAgなどの貴金属のめっきは、接触電気抵抗の低減や耐食性の改善の観点から、電気部品の接点などにおいて広く採用されている。例えば、コネクタの接点部では、導電性金属からなる基材の表面に、NiやCuなどの下地めっき層を形成してから、その上にAuなどの貴金属の表面めっき層を薄く形成するのが一般的である(特許文献1を参照)。
【0003】
ところで、AuやAgなどの貴金属は、それよりも卑な金属と接触した場合に電位差によるガルバニック腐食が発生することが知られている。したがって、耐食性の観点からは、貴金属の表面めっき層におけるピンホールの発生を避けなければならない。そのため、表面めっき層の膜厚を厚くしたり、表面めっき層を均質にしたりする方法が試みられているが、いずれの方法も製造コストの上昇が避けられない。したがって、高価な貴金属の使用量を低減しながらも、電気的特性や化学的特性を改善できるめっき方法が強く求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−173224号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、優れた耐食性を有し、かつ低コストのめっき品を提供することを目的とするものである。また、そのようなめっき品の製造方法及び用途を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題は、導電性金属からなる基材の上に多層めっき皮膜が形成されためっき品であって、前記基材の上に、Ni又はCuを主成分とする多孔質めっき層と、Au又はAgを主成分とする表面めっき層とをこの順序で有し、前記多層めっき皮膜の表面に多数の孔が形成されてなることを特徴とするめっき品を提供することによって解決される。このとき、前記孔の平均径が、面積荷重平均値で0.2〜20μmであることが好ましい。前記多孔質めっき層の厚みが0.1〜20μmであり、かつ前記表面めっき層の厚みが0.001〜3μmであることも好ましい。前記多孔質めっき層と前記表面めっき層との間に酸化Ni又は酸化Cuからなる酸化物層を、さらに有することが好ましい。前記孔における表面めっき層の厚さが凸部における表面めっき層の厚さよりも薄いことも好ましい。
【0007】
また、基材と多孔質めっき層との間に、該多孔質めっき層と同じ金属を主成分とする下地めっき層がさらに形成されてなることも好ましい。このとき、前記下地めっき層の厚みが0.1〜20μmであることが好ましい。
【0008】
上記課題は、上記めっき品の製造方法であって、Niイオン又はCuイオンを含有するめっき浴中で多孔質めっき層を形成する第1めっき工程と、Auイオン又はAgイオンを含有するめっき浴中で表面めっき層を形成する第2めっき工程とを備えることを特徴とするめっき品の製造方法を提供することによっても解決される。
【0009】
このとき、前記第1めっき工程と前記第2めっき工程との間に、多孔質めっき層の表面を酸化処理する工程を、さらに備えることが好ましい。前記第1めっき工程の後に多孔質めっき層の表面を酸化処理してから該表面を活性化処理することも好ましい。前記第2めっき工程の後に多層めっき皮膜の表面を酸化処理することも好ましい。
【0010】
上記課題は、上記めっき品からなる電気部品であって、前記多層めっき皮膜が形成された部分が電気的接点であることを特徴とする電気部品を提供することによっても解決される。このとき、前記電気部品が、接点部と端子部を有するコネクタ用端子又はスイッチ用端子であって、該接点部に前記多層めっき皮膜が形成されてなることが好ましい。また、前記電気部品が、プリント配線板であることも好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、優れた耐食性を有し、かつ低コストのめっき品を提供することができる。また、そのようなめっき品の製造方法及び用途を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1における多孔質Niめっき層の断面の走査イオン顕微鏡像である。
図2】実施例1のめっき品の表面の二次電子像である。
図3】実施例1のめっき品の摩擦磨耗試験の結果である。
図4】実施例1のめっき品の摩擦磨耗試験後の二次電子像である。
図5】比較例1のめっき品の表面の二次電子像である。
図6】比較例1のめっき品の摩擦磨耗試験の結果である。
図7】比較例1のめっき品の摩擦磨耗試験後の二次電子像である。
図8】実施例7のめっき品の表面の二次電子像である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明は、導電性金属からなる基材の上に多層めっき皮膜が形成されためっき品に関する。ここで、基材の上に、Ni又はCuを主成分とする多孔質めっき層と、Au又はAgを主成分とする表面めっき層とをこの順序で有し、多層めっき皮膜の表面に多数の孔が形成されていることが重要である。このような層構成とすることで、優れた耐食性を有し、かつ低コストのめっき品を提供することができる。
【0014】
本発明で用いられる基材は導電性金属からなるものであればよく、その材料は特に限定されない。なかでも、導電性能などの観点から、銅又は銅を主成分とする合金が好適に使用される。ここで、「主成分とする」とは50重量%以上含有するという意味である。
【0015】
本発明における多孔質めっき層はNi又はCuを主成分とするものである。ここで、「主成分とする」とは50重量%以上含有するという意味である。多孔質めっき層中のNi又はCuの含有量は、接触抵抗の面から、60重量%以上であることがより好ましく、80重量%以上であることがさらに好ましい。また、本発明において、「多孔質」とは、めっき層の表面に多数の孔があって表面積が広いことをいう。より具体的には、基材に向かって凹状に窪んだ複数の凹部を有することをいう。
【0016】
本発明において、多孔質めっき層の厚みが0.1〜20μmであることが好ましい。多孔質めっき層の厚みが0.1μm未満であると耐食性や摩耗特性が低下するおそれがある。多孔質めっき層の厚みは、0.2μm以上がより好ましく、0.5μm以上がさらに好ましい。多孔質めっき層の厚みが20μmを超えると製造コストの上昇を招くおそれがある。多孔質めっき層の厚みは、10μm以下がより好ましく、5μm以下がさらに好ましい。ここで、多孔質めっき層の厚みとは、基材上に多孔質めっき層が形成されている場合、当該基材表面から多孔質めっき層の凸部までの厚さのことをいう。
【0017】
本発明のめっき品においては、上記多孔質めっき層上に、Au又はAgを主成分とする表面めっき層が形成される。ここで、「主成分とする」とは50重量%以上含有するという意味である。表面めっき層中のAu又はAgの含有量は、接触抵抗の面から、55重量%以上であることがより好ましく、70重量%以上であることがさらに好ましい。
【0018】
本発明において、表面めっき層の厚みが0.001〜3μmであることが好ましい。表面めっき層の厚みが0.001μm未満であると本発明のめっき品を電気的接点に用いた場合に所望の接触抵抗が得られないおそれがある。表面めっき層の厚みは、0.005μm以上がより好ましく、0.01μm以上がさらに好ましい。一方で表面めっき層の厚みが厚いと製造コストが高くなる。表面めっき層の厚みは、1μm以下がより好ましい。本発明における多層めっき皮膜は、表面めっき層の厚みが通常よりも薄い場合であっても耐食性が優れている。貴金属の使用量を低減する観点から、特に表面めっき層がAuを主成分とする場合の厚みは、0.1μm以下がより好ましく、0.04μm以下がさらに好ましく、0.025μm以下が特に好ましい。このとき、表面めっき層の厚みとは、Au又はAgの付着重量を、比重とめっき面積で割って算出された厚さのことをいう。ここで、めっき面積は表面の凹凸を考慮しない。
【0019】
また、本発明において、孔における表面めっき層の厚さが凸部における表面めっき層の厚さよりも薄いことが好ましい。このように、摩擦係数、接触抵抗あるいは耐食性に対する寄与の大きい部分の表面めっき層を厚くすることによって、性能を低下させることなく、Au又はAgの使用量を低減することができる。特に、Auはコストが高いのでその利益が大きい。孔における表面めっき層の厚さが、凸部における表面めっき層の厚さの0.8倍以下であることがより好ましい。
【0020】
多孔質めっき層上に表面めっき層を形成することにより、多孔質めっき層の凹凸に沿うように表面めっき層が形成され、表面めっき層にも孔が形成されることになる。多孔質めっき層表面の凸部には表面めっき層が形成され易く、多孔質めっき層表面に形成された孔の底面や側面では、表面めっき層が形成されにくい。その結果、表面めっき層が形成されていない部分や、表面めっき層の厚みが薄い部分が生じることになる。本発明においては、この点が重要であり、Au又はAgを主成分とする表面めっき層が不均一であることによって、ガルバニック腐食を引き起こす腐食電流の集中を防止でき、むしろ耐食性が向上することが明らかになった。従来、表面めっき層を厚くしたり均一化したりすることで耐食性を向上させる試みが広く行われていたが、今回、驚くべきことに、腐食電流を局所的に分散させることで、逆に耐食性を改善することができた。貴金属の使用量を減少させながら効果的に耐食性を改善できるので、省資源、低コスト化の観点からも意義が大きい。
【0021】
多層めっき皮膜の表面に形成された孔の平均径が、面積荷重平均値で0.2〜20μmであることが好ましい。平均径が0.2μm未満であると腐食電流を分散させることができず優れた耐食性が得られないおそれがある。孔の平均径は0.5μm以上がより好ましく、1μm以上がさらに好ましい。孔の平均径が20μmを超えると本発明のめっき品を電気的接点として用いた場合に接触抵抗値が増大し電気伝導性が低下するおそれがある。孔の平均径は10μm以下がより好ましく、5μm以下がさらに好ましい。ここで、孔の平均径は、めっき品の表面の走査型電子顕微鏡写真(二次電子像)中から複数の孔を選び、それら孔の直径を計測し面積荷重平均することによって得られる。孔が円形でない場合には、円相当径を直径とする。
【0022】
本発明における多層めっき皮膜の比表面積は、孔が形成されていないめっき皮膜の比表面積の1.2倍以上が好ましく、1.4倍以上がより好ましい。比表面積が大きいことによって、腐食電流が分散され優れた耐食性を得ることができる。
【0023】
本発明において、基材と多孔質めっき層との間に、該多孔質めっき層と同じ金属を主成分とする下地めっき層がさらに形成されることが好ましい。多孔質めっき層の孔が表面から基材に貫通している場合、下地めっき層が形成されていることで基材の露出を防ぐことが可能になる。また、多孔質めっき層と下地めっき層を同じ金属を主成分とすることで多孔質めっき層と下地めっき層との電位差を無くし、電位差によるガルバニック腐食を防ぐことが可能になる。
【0024】
下地めっき層の厚みが0.1〜20μmであることが好ましい。下地めっき層の厚みが0.1μm未満であると基材の露出を防ぐ効果が十分に得られないおそれがある。下地めっき層の厚みは、0.2μm以上がより好ましく、0.5μm以上がさらに好ましい。厚みが20μmを超えると製造コストが高くなる。下地めっき層の厚みは、10μm以下がより好ましく、5μm以下がさらに好ましい。
【0025】
本発明の多層めっき皮膜は、多孔質めっき層と表面めっき層との間に酸化Ni又は酸化Cuからなる酸化物層を、さらに有することが好ましい。多孔質めっき層と表面めっき層との間に当該酸化物層を有することでめっき品の耐食性がより向上する。すなわち、多孔質めっき層と表面めっき層との間に絶縁層である酸化物層を有することで、多孔質めっき層と表面めっき層とが直接接触することがなくなり、腐食電流の発生を抑制することができる。
【0026】
本発明のめっき品の好適な製造方法は、Niイオン又はCuイオンを含有するめっき浴中で多孔質めっき層を形成する第1めっき工程と、Auイオン又はAgイオンを含有するめっき浴中で表面めっき層を形成する第2めっき工程とを備えるものである。
【0027】
まず、第1めっき工程として、必要に応じて脱脂処理や水洗された基材に、Niイオン又はCuイオンを含有するめっき浴中でめっきを施し、Ni又はCuを主成分とする多孔質めっき層を形成する。多孔質めっき層が形成されるのであればよく、めっき方法は特に限定されない。Niイオン又はCuイオンを含有し、かつ疎水性基を有する水溶性の第4級アンモニウム塩が添加されているめっき浴中で電気めっきする方法などが例示される。ここで、疎水性基としては炭素数6以上の炭化水素基が好適である。この場合、第4級アンモニウム塩は、公知のNi電気めっき浴やCu電気めっき浴に添加することができる。第4級アンモニウム塩の好適な添加量は、0.001〜0.5mol/Lである。公知の電気めっき浴としては、例えば、ワット浴、ウッド浴、スルファミン酸Ni浴、有機酸Ni浴、シアン化Cu浴、硫酸Cu浴、ピロリン酸Cu浴などを例示することができる。電気めっきする場合には、多孔質めっき層が所望の膜厚となるように電流密度や時間を適宜設定すればよい。
【0028】
続いて、第2めっき工程として、Auイオン又はAgイオンを含有するめっき浴中で多孔質めっき層上に表面めっき層を形成する。Auイオン又はAgイオンを含有するめっき浴の種類は特に限定はされず、公知のAu電気めっき浴やAg電気めっき浴を使用することができる。例えば、Auめっき浴としてはシアン化Au浴(酸性浴、中性浴、アルカリ性浴)、非シアン浴(亜硫酸浴)、Agめっき浴としては、シアン化Ag浴を例示することができる。無電解めっきによって表面めっき層を形成しても構わないし、無電解めっきと電気めっきとを併用しても構わない。また、めっきの条件は、表面めっき層が所望の膜厚となるように電流密度や時間を適宜設定すればよい。
【0029】
また、本発明のめっき品の製造方法においては、第1めっき工程と第2めっき工程との間に、多孔質めっき層の表面を酸化処理することが好ましい。酸化処理の方法は特に限定されず、多孔質めっき層の表面に酸化皮膜を形成することのできる方法であればよい。例えば、酸素含有雰囲気下で多孔質めっき層を加熱する方法、熱水や各種薬品に多孔質めっき層を浸漬させる方法などを挙げることができ、特に限定されない。多孔質めっき層を加熱する場合、加熱温度は雰囲気の酸素濃度等により適宜設定されるが、通常80〜350℃である。また、上記酸化処理は、多孔質めっき層の表面に酸素原子を導入できるものであればよく、水酸基を形成する処理を含むものである。したがって、多孔質めっき層の表面には、酸化Niなどの酸化物皮膜だけでなく水酸化Niなどの水酸化物皮膜が形成されてもよい。
【0030】
そして、前記酸化処理が施された多孔質めっき層の表面に対して、第2めっき工程において表面めっき層が形成される。このとき、酸化処理した後、表面めっき層を形成する前に多孔質めっき層の表面を活性化処理することが好ましい。これにより、酸化皮膜の表面が適度にエッチングされ、第2めっき工程で表面めっき層を形成するのが容易になる。また、表面めっき層の密着性も向上する。活性化処理に用いられる液としては、多孔質めっき層の表面に形成された酸化物皮膜の表面をエッチングできるものであればよく、特に限定されないが、酸性水溶液、アルカリ性水溶液、還元剤水溶液、錯化剤水溶液などを用いることができる。酸性水溶液としては、塩酸、硝酸、硫酸、フッ酸、フッ化アンモニウム、リン酸、クエン酸などを含む水溶液が例示される。アルカリ性水溶液としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、アンモニアなどを含む水溶液が例示される。還元剤水溶液としては、次亜リン酸、ヒドラジン、ジメチルアミンボラン、トリメチルアミンボラン、アスコルビン酸、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、などを含む水溶液が例示される。また、錯化剤水溶液としては、クエン酸、シュウ酸、コハク酸、酒石酸、マレイン酸、アスコルビン酸フマル酸などのポリカルボン酸;エチレンジアミン、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、などのポリアミン;グリシン、アスパラギン酸、などのアミノ酸などを含む水溶液が例示される。これらの中でも、エッチング能力やコストの面からは酸性水溶液を用いることが好ましい。
【0031】
本発明の多孔質めっき層の表面は凹凸を有しているので、孔ではエッチングされ難く、凸部ではエッチングされやすい。そして、エッチングされた箇所では表面めっき層が形成されやすくなる。そのため、孔における表面めっき層の厚さを凸部における表面めっき層の厚さよりも薄くすることが容易である。したがって、多孔質めっき層の表面を活性化処理することは、いわゆる省金効果の面からも有利である。
【0032】
また、第2めっき工程の後に多層めっき皮膜の表面を酸化処理することも好ましい。すなわち、表面めっき層を形成した後に酸化処理をすることが好ましい。このようにすることで、表面めっき層が形成されず多孔質めっき層が露出した部分や、表面めっき層の膜厚が薄い部分の多孔質めっき層の表面が酸化処理されるので、効果的に耐食性を向上させることができる。このときの酸化処理の方法は、第1めっき工程と第2めっき工程との間に行う酸化処理の方法と同じ条件を採用することができるが、それと異なってもかまわない。
【0033】
また、本発明のめっき品の製造方法において、多孔質めっき層と同じ金属を主成分とする下地めっき層を形成する工程をさらに加えてもよい。すなわち、多孔質めっき層を形成する第1めっき工程の前に、基材に対して電気めっきを施し、多孔質めっき層と同じ金属を主成分とする下地めっき層を形成する。下地めっき層を形成する際のめっき浴は特に限定されないが、上記第1めっき工程で用いるめっき浴から、第4級アンモニウム塩を除いたものなどが用いられる。また、めっきの条件は、下地めっき層が所望の膜厚となるように電流密度や時間を適宜設定すればよい。
【0034】
また、本発明の多層めっき皮膜は、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、表面めっき層、酸化物層、多孔質めっき層、下地めっき層以外のめっき層を含んでいても構わない。例えば、基材と下地めっき層との間や、多孔質めっき層と表面めっき層との間に、他のめっき層を介在させることができる。なかでも、多孔質めっき層と表面めっき層との間に、多孔質めっき層の電位と表面めっき層の電位の中間的な電位を示す中間めっき層を介在させることが好ましい。こうすることによって、直接接触するめっき層の間の電位差を小さくすることができるので、腐食電流の発生を抑制することができ、耐食性を更に改善できる。そのような中間めっき層としては、Pdを主成分とするめっき層やSnを主成分とするめっき層が挙げられる。ここで、「主成分とする」とは50重量%以上含有するという意味である。Pdを主成分とする中間めっき層としては、Pdのみからなるめっき層や、Pd−Ni合金やPd−P合金からなるめっき層が例示される。Snを主成分とする中間めっき層としては、Snのみからなるめっき層や、Sn−Ni合金からなるめっき層が例示される。また、表面めっき層がAuを主成分とするめっき層である場合には、中間めっき層としてAgを主成分とするめっき層を用いることも好ましい。ここで、「主成分とする」とは50重量%以上含有するという意味である。Agを主成分とする中間めっき層としては、Agのみからなるめっき層や、Ag−Sn合金からなるめっき層が例示される。
【0035】
腐食防止の観点から、多層めっき皮膜の表面に、さらに表面処理を施してもよい。表面めっき層がAuを主成分とする場合には、封孔処理などが例示され、表面めっき層がAgを主成分とする場合には、硫化防止処理(変色防止処理)などが例示される。また、潤滑性向上の観点から、本発明の多層めっき皮膜の表面に潤滑剤を塗布してもよい。さらに、本発明の多層めっき皮膜の撥水性を向上させるために、表面に撥水処理を施してもよい。
【0036】
本発明のめっき品の用途は特に限定されない。低い接触抵抗、及び優れた耐食性や摺動性を活かして、各種の用途に用いることができる。なかでも、前記多層めっき皮膜が形成された部分が電気的接点である電気部品が好適な実施態様である。要求される電気特性を維持しながら、耐久性に優れた電気的接点を提供することができる。より具体的には、当該電気部品が、接点部と端子部を有するコネクタ又はスイッチ用端子であって該接点部に前記多層めっき皮膜が形成されてなるものであることが好適な実施態様である。接点部は、他のコネクタ等と接触して電気を流す部分であり、端子部はケーブル等に接続される部分である。本発明のコネクタ用端子は、挿抜の繰り返しによっても電気特性が低下しにくく好ましい。また、本発明のめっき品からなる電気部品が、プリント配線板であることも好適な実施形態である。
【実施例】
【0037】
以下、実施例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。本実施例中での試験方法は以下の方法に従って行った。
【0038】
(1)断面観察
株式会社日立ハイテクノロジーズ社製の収束イオンビーム加工観察装置「FB−2100」を用いて、めっき品の断面のFIB(Focused Ion Beam)加工後の走査イオン顕微鏡像を得た。
【0039】
(2)表面観察
株式会社日立ハイテクノロジーズ社製の電界放射型走査電子顕微鏡(FE−SEM)「S−4800」を用い、めっき品の表面を撮影し二次電子像を得た。
【0040】
(3)比表面積
レーザー顕微鏡で横縦(X−Y)方向の分解能を0.001μm、高さ(Z)方向の分解能を0.001μmに設定して、めっき品の表面積を測定した。そして、測定箇所の平面視の面積1664μmに対する上記表面積の比を比表面積とした。レーザー顕微鏡は株式会社キーエンス社製のカラー3Dレーザー顕微鏡「VK−9700」である。
【0041】
(4)摩擦磨耗試験
神鋼造機株式会社製の摩擦摩耗試験機(形式SSWT)を用いて、得られためっき品の表面の摩擦係数を以下の試験条件で測定した。そして、横軸を往復摺動回数、縦軸を摩擦係数とするグラフを得た。得られたグラフより20サイクル毎の摩擦係数を求めて平均摩擦係数を算出した。
・ボール:φ9.8mm 真鍮(Ni下地1μm、Au0.4μmめっき済)
・試験温度:22℃
・試験荷重:500mN
・ストローク:4.00mm
・周波数:2.00Hz
・往復摺動回数:3,600サイクル
【0042】
(5−1)耐食性試験(ガス腐食試験)
JIS H 8502に記載された二酸化硫黄ガス試験に準拠し、以下の条件にて試験を行った。そして、めっき品の表面に発生した腐食欠陥をレイティングナンバーにて評価した。ここでレイティングナンバーとは、試験面に占める腐食面積率(%)の割合を示す評点であり、10〜0に区分けされている。腐食が全くない場合を10とし、一般的にレイティングナンバー9以上が良好とされている。
・装置:株式会社山崎精機研究所社製の混合ガス腐食試験機「GPL−91−C」
・二酸化硫黄濃度:10ppm
・試験温度:40℃
・相対湿度:80%
・試験時間:96時間
【0043】
(5−2)耐食性試験(塩水噴霧試験)
以下に記載の装置を用いてめっき品の表面に塩水を噴霧して48時間後にめっき品の表面を観察した。そして、めっき品の表面に発生した腐食欠陥をレイティングナンバーにて評価した。レイティングナンバーについての評価基準は上記と同様である。
・装置:スガ試験機株式会社製のキャス試験機「CAP−90」
・試験液:47%塩水
・試験温度:35℃
・試験時間:48時間
【0044】
(6)接触抵抗試験
株式会社山崎精機研究所社製の電気接点シミュレーター「CRS−113−AU型」を用いて、めっき品の接触抵抗を四端子法により以下の条件にて測定した。具体的には、測定は無負荷の状態から、徐々に針を加圧し、最大1.0Nの荷重をかけた。そして、徐々に荷重を低下させて最終的に無負荷の状態にまで戻したときの接触抵抗の変化を測定した。接触抵抗の計測は、加圧(往)時の荷重が0.5Nのとき、最大荷重である1.0Nのとき、減圧(復)時の荷重が0.5Nのときの抵抗値をそれぞれ測定した。
・プローブ:R025−K−18型(半径0.1mm形状)
・プローブ材質:K18(φ1mm)
・印加電流:10mA
【0045】
(7)めっき皮膜の化学組成分析
以下の測定装置を用いてめっき品の皮膜の化学組成分析を行った。具体的には、得られためっき品の孔と凸部の化学組成の分析を行った。
・測定装置:走査型電子顕微鏡(FE−SEM/EDX)
・FE−SEM部:株式会社日立ハイテクフィールディング社製の「S−4800」
・EDX部:株式会社堀場製作所製の「EX−350」
・測定条件:加速電圧10kV、作動距離(W.D.)15mm、倍率10000倍
【0046】
実施例1
(電解脱脂処理)
まず、基材として30mm×40mm×0.3mmの銅板を用意し、当該銅板をカソードとして、ユケン工業株式会社製の電解脱脂剤「パクナTHE−210」を60g/Lで溶解した50℃の水溶液に浸漬して、陰極電流密度4A/dmで60秒間、脱脂処理を行った。脱脂処理された基材をイオン交換水で3回水洗した後、2vol%の硫酸水溶液に室温にて60秒間浸漬し酸洗浄した。そして、再度、3回水洗した。
【0047】
(下地Niめっき層の形成)
電解脱脂処理された試料を、50℃に保温したpHが4.4の下記の組成の水溶液に浸漬した。そして、空気撹拌を行いながら、陰極電流密度3A/dmで190秒間、電解Niめっき処理をして、膜厚1μmの下地Niめっき層を形成した。その後、試料をイオン交換水で3回洗浄した。
・スルファミン酸ニッケル[Ni(SO3NH2)2・4H2O]:396g/L
・塩化ニッケル[NiCl2・6H2O]:30g/L
・ホウ酸[H3BO3]:30g/L
【0048】
(多孔質Niめっき層の形成)
下地Niめっき層が形成された試料を、50℃に保温したpHが4.2の下記の組成の水溶液に浸漬した。そして、空気撹拌を行いながら陰極電流密度3A/dmで80秒間、電解Niめっき処理をして、下地Niめっき層上に膜厚1μmの多孔質Niめっき層を形成した。その後、試料をイオン交換水で3回洗浄した後、イオン交換水中に浸漬して1分間、超音波洗浄した。
・スルファミン酸ニッケル[Ni(SO3NH2)2・4H2O]:396g/L
・塩化ニッケル[NiCl2・6H2O]:30g/L
・ホウ酸[H3BO3]:30g/L
・ドデシルトリメチルアンモニウムクロライド:0.02mol/L
【0049】
実施例1における多孔質Niめっき層の形成後の試料をFIB(Focused Ion Beam)によって加工し、断面を観察した。図1に断面の走査イオン顕微鏡像を示す。図1に示すように、多孔質Niめっき層の形成後の試料は、表面から基材に向かって凹状に窪んだ複数の凹部を有することがわかった。
【0050】
(表面Auめっき層の形成)
多孔質Niめっき層が形成された試料を、60℃に保温したpHが4.2の日本高純度化学株式会社製のAuめっき液「BAR7」(Au含有量5g/L)に浸漬した。そしてマグネティックスターラーで撹拌を行いながら、陰極電流密度3A/dmで8秒間、電解Auめっき処理をして、多孔質Niめっき層上に膜厚0.05μmのAuめっき層を形成した。その後、試料をイオン交換水で3回洗浄し、60℃のイオン交換水中に浸漬して60秒間、超音波洗浄した後に乾燥することにより実施例1のめっき品を得た。
【0051】
図2に実施例1のめっき品の表面の二次電子像を示す。図2に示すように、実施例1のめっき品の表面には孔を有し、多孔質のめっき層が形成されていることが確認された。また、図2に示す実施例1のめっき品の二次電子像において、無作為に複数の孔を選びそれぞれ面積を求めた。このとき孔が円形でない場合には、円相当径を直径とした。そして面積荷重平均で孔の平均径を求めたところ、平均径は約3.5μmであった。
【0052】
図3に実施例1のめっき品の摩擦磨耗試験の結果を示す。図3に示すように、測定中、摩擦係数の目立った上昇は確認されなかった。また、図4に実施例1のめっき品の摩擦磨耗試験後の二次電子像を示す。図4に示すように、摩擦磨耗試験後においても微細な凹状を有した多孔質構造を維持していることがわかった。また、実施例1のめっき品について、上述した試験方法に従って比表面積、平均摩擦係数、耐食性、及び接触抵抗を評価した。結果をまとめて表2に示す。
【0053】
実施例2
実施例2は、実施例1で得られためっき品の表面に封孔処理を施した例である。実施例1のめっき品を45℃に保温した株式会社テトラ社製のAuめっき封孔処理剤「テトラNo.4」の水溶液(200mL/L)に超音波をかけながら10秒間浸した。そして、表面に付着した水溶液をエアーナイフで水切りし、実施例2のめっき品を得た。また、実施例2のめっき品についても、上述した試験方法に従って平均摩擦係数、耐食性、及び接触抵抗を評価した。結果をまとめて表2に示す。
【0054】
実施例3
マグネティックスターラーで撹拌を行いながら、陰極電流密度3A/dmで5秒間、電解Auめっき処理をして、多孔質Niめっき層上に膜厚0.03μmのAuめっき層を形成した以外は実施例1と同様の方法でめっき品を得た。また、実施例3のめっき品についても、上述した試験方法に従って耐食性及び接触抵抗を評価した。結果をまとめて表2に示す。
【0055】
実施例4
実施例4は、実施例3で得られためっき品の表面に封孔処理を施した例である。封孔処理の方法は実施例2と同じである。また、実施例4のめっき品についても、上述した試験方法に従って耐食性及び接触抵抗を評価した。結果をまとめて表2に示す。
【0056】
実施例5
マグネティックスターラーで撹拌を行いながら、陰極電流密度3A/dmで3秒間、電解Auめっき処理をして、多孔質Niめっき層上に膜厚0.02μmのAuめっき層を形成した以外は実施例1と同様の方法でめっき品を得た。また、実施例5のめっき品についても、上述した試験方法に従って耐食性及び接触抵抗を評価した。結果をまとめて表2に示す。
【0057】
実施例6
実施例6は、実施例5で得られためっき品の表面に封孔処理を施した例である。封孔処理の方法は実施例2と同じである。また、実施例6のめっき品についても、上述した試験方法に従って耐食性及び接触抵抗を評価した。結果をまとめて表2に示す。
【0058】
実施例7
実施例7は、実施例1において多孔質Niめっき層を形成した後、酸化処理してから酸性水溶液で処理をして、表面Auめっき層を形成した例である。多孔質Niめっき層が形成された試料を水洗して乾燥した後、260℃に加温した恒温槽内に10分間放置してから試料を恒温槽から取り出した。このようにして酸化処理された試料を、室温にて5vol%の塩酸に1分間浸漬した後、水洗した。その後実施例1と同様にして表面Auめっき層の形成をした。
【0059】
図8に実施例7のめっき品の表面の二次電子像を示す。図8に示すように、実施例7のめっき品は、その表面に孔を有しており、多孔質のめっき層が形成されていることが確認された。また、実施例7のめっき品について、上述した試験方法に従って平均摩擦係数、耐食性、及び接触抵抗を評価した。結果をまとめて表2に示す。さらに、実施例7のめっき品において、図8に示した孔(スペクトル1)及び凸部(スペクトル2)において元素分析を行った。結果を表1に示す。
【0060】
【表1】
【0061】
実施例8
実施例8は、実施例1において表面Auめっき層の形成した後、酸化処理を行った例である。酸化処理の方法は実施例7と同様である。上述した試験方法に従って、平均摩擦係数、耐食性及び接触抵抗を評価した。結果をまとめて表2に示す。
【0062】
実施例9
実施例9は、実施例1における表面Auめっき層に代えて表面Agめっき層を形成した例である。すなわち実施例9のめっき品は、基材の上に下地Niめっき層と多孔質Niめっき層と表面Agめっき層とがこの順序で形成されている。電解脱脂処理をする工程、下地Niめっき層を形成する工程、多孔質Niめっき層を形成する工程は実施例1と同様である。表面Agめっき層を形成する工程は以下の通りである。
【0063】
(表面Agめっき層の形成)
多孔質Niめっき層が形成された試料を、室温の下記の組成の水溶液に浸漬した。そして、陰極電流密度2A/dmで10秒間、Agストライクめっき処理をした。その後、試料をイオン交換水で3回洗浄した。
・シアン化銀[AgCN]:3g/L
・シアン化カリウム[KCN]:160g/L
・炭酸カリウム[K2CO3]:100g/L
【0064】
メタローテクノロジーズジャパン株式会社製の「S−900」2Lに下記の成分を加えためっき液にAgストライクめっき層が形成された試料を浸漬した。55℃に保温して、陰極電流密度5A/dmで15秒間、Agめっき処理をした。その後、試料をイオン交換水で3回洗浄し、超音波洗浄することにより、多孔質Niめっき層上に膜厚0.4μmの表面Agめっき層を形成した。
・シアン化銀カリウム[KAg(CN)2]:150g/L
・シアン化カリウム[KCN]:2.5g/L
【0065】
さらに、得られためっき品の表面に変色防止処理を施した。具体的には、得られためっき品を55℃に保温した有限会社ケミカル電子製の変色防止剤「CE−9700W」の水溶液(200mL/L)に5秒間浸した。そして、イオン交換水で3回洗浄し乾燥した。実施例9のめっき品について、上述した試験方法に従って耐食性及び接触抵抗を評価した。結果をまとめて表2に示す。
【0066】
比較例1
比較例1は、実施例1において多孔質Niめっき層の形成を行わない例である。具体的には、比較例1のめっき品は、基材の上に下地Niめっき層と表面Auめっき層とがこの順序に形成されている。脱脂処理された基材を、50℃に保温したpHが4.4のめっき浴に浸漬した。そして、空気撹拌を行いながら電流密度3A/dmで380秒間、電解Niめっき処理をして、膜厚2μmのNiめっき層を形成した。その後、試料をイオン交換水で3回洗浄し、60℃のイオン交換水中に浸漬して60秒間、超音波洗浄した。めっき浴の組成は実施例1における下地Niめっき層を形成したときのめっき浴の組成と同じである。
【0067】
そして、下地Niめっき層が形成された試料の表面に膜厚0.05μmの表面Auめっき層を形成し、比較例1のめっき品を得た。表面Auめっき層をする際の条件は実施例1で説明した条件と同じである。
【0068】
図5に比較例1のめっき品の表面の二次電子像を示す。図5に示すように、めっき層の表面に孔は確認されなかった。
【0069】
図6に比較例1のめっき品の摩擦磨耗試験の結果を示す。図6に示すように、測定中、急激に摩擦係数が上昇したため試験が停止した。また、図7に比較例1のめっき品の摩擦磨耗試験後の二次電子像を示す。図7に示すように、摩擦磨耗試験後、めっき皮膜が削られていることがわかった。また、比較例1のめっき品について、上述した試験方法に従って比表面積、平均摩擦係数、耐食性、及び接触抵抗を評価した。結果をまとめて表2に示す。
【0070】
比較例2
比較例2は、比較例1で得られためっき品の表面に封孔処理を施した例である。封孔処理の条件は実施例1と同様である。また、比較例2のめっき品について、上述した試験方法に従って平均摩擦係数、耐食性、及び接触抵抗を評価した。結果をまとめて表2に示す。
【表2】
【0071】
表2に示すように、比較例1のめっき品の比表面積が1.0043に対して、実施例1のめっき品の比表面積は1.5112と約1.5倍に増加していることが確認された。実施例と比較例との比較より、表面に孔を有することによって耐食性が大幅に向上するとともに、平均摩擦係数が低下した。また、多層めっき皮膜の表面に孔を有していても接触抵抗値に大きな変化は確認されなかった。実施例1〜6の結果から、表面めっき層の膜厚を薄くしてもなお耐食性及び接触抵抗値を維持していることがわかった。さらに、実施例1と実施例7との比較より、多孔質めっき層と表面めっき層との間に酸化Ni層をさらに有することにより、耐食性がより向上することがわかった。実施例1と実施例8との比較より、表面めっき層を形成した後に表面を酸化処理することによっても、耐食性がより向上することがわかった。したがって、本発明の構成を満足するめっき品は、電気特性を維持しながら、優れた耐食性と耐摩耗性が得られることがわかった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8