特許第6089345号(P6089345)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6089345時および/または空間系列ファイルの多成分回帰/多成分分析
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6089345
(24)【登録日】2017年2月17日
(45)【発行日】2017年3月8日
(54)【発明の名称】時および/または空間系列ファイルの多成分回帰/多成分分析
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/3504 20140101AFI20170227BHJP
   G01N 21/3563 20140101ALI20170227BHJP
   G01N 21/3577 20140101ALI20170227BHJP
【FI】
   G01N21/3504
   G01N21/3563
   G01N21/3577
【請求項の数】11
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-537175(P2014-537175)
(86)(22)【出願日】2012年10月17日
(65)【公表番号】特表2014-532187(P2014-532187A)
(43)【公表日】2014年12月4日
(86)【国際出願番号】US2012060603
(87)【国際公開番号】WO2013059310
(87)【国際公開日】20130425
【審査請求日】2015年10月16日
(31)【優先権主張番号】61/548,014
(32)【優先日】2011年10月17日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】509027021
【氏名又は名称】サーモ エレクトロン サイエンティフィック インストルメンツ リミテッド ライアビリティ カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100092093
【弁理士】
【氏名又は名称】辻居 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100082005
【弁理士】
【氏名又は名称】熊倉 禎男
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100103609
【弁理士】
【氏名又は名称】井野 砂里
(74)【代理人】
【識別番号】100095898
【弁理士】
【氏名又は名称】松下 満
(74)【代理人】
【識別番号】100098475
【弁理士】
【氏名又は名称】倉澤 伊知郎
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(72)【発明者】
【氏名】ブラッドレイ マイケル エス
(72)【発明者】
【氏名】リッター ゲイリー エル
(72)【発明者】
【氏名】グレノフ アレキサンダー アイ
【審査官】 深田 高義
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第07698098(US,B1)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0220760(US,A1)
【文献】 米国特許第07072770(US,B1)
【文献】 BOIANA O. BUDEVSKA,APPLIED SPECTROSCOPY,2003年 2月 1日,V57 N2,P124-131
【文献】 DABLE BRIAN K,ANALYTICA CHIMICA ACTA,NL,ELSEVIER,2005年 7月15日,V544 N1-2,P71-81
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/3504
G01N 21/3563
G01N 21/3577
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
変化する試料からのスペクトルを分析する方法であって、
分光計を用いてスペクトルの時系列の組を得るステップと、
コンピュータを用いて、前記スペクトルの時系列の組の各々から回帰的方法により少なくともつの定性的および定量的な組成成分を推定する推定ステップと、
コンピュータを用いて、前記スペクトルの時系列の組の各々からの前記推定された少なくともつの定性的および定量的な組成成分を、多成分検索(MCS)アルゴリズムに渡すステップと、を含み、多成分検索(MCS)アルゴリズムが、少なくともつのスペクトルライブラリに配置された少なくともつの比較スペクトルと、少なくともつの個別の定性的および定量的な組成成分として表された前記スペクトルの推定された時系列の組の各々との相関を反復的に求めるように構成され、その結果が、反復的に決定された、前記試料のスペクトルの識別のための少なくともつの候補スペクトルの時系列の組であり、
少なくとも1つの候補スペクトルの相関を反復的に求める前記MCS検索アルゴリズムによって、
少なくとも1つの新規の比較スペクトルを生成する生成ステップであって、前記新規の比較スペクトルの各々が、既に識別された候補スペクトルのうちの1つと、スペクトルライブラリソースからの比較スペクトルのうちの1つとの組み合せである少なくとも1つの新規の比較スペクトルを生成する前記生成ステップと、
前記スペクトルの時系列の組の各々からの前記推定された少なくとも1つの定性的および定量的な組成成分を、選択された前記新規の比較スペクトルと比較して一致の程度を決定する比較ステップと、
前記少なくとも1つの候補スペクトルの組がある数だけ識別されるまで、または前記スペクトルの時系列の組の各々からの前記推定された少なくとも1つの定性的および定量的な組成成分と少なくとも何らかの適格な一致度で一致する前記少なくとも1つの候補スペクトルの組が識別されるまで、または、少なくとも1つの候補スペクトルの選択された前記時系列の組の中で最大数の組成成分に達するまで、上述の前記生成ステップおよび比較ステップを反復する反復ステップと、を実行するように更に構成されている、方法。
【請求項2】
前記反復的に決定された少なくともつの候補スペクトルの時系列の組を、前記少なくともつの定性的および定量的な組成成分の時変化プロフィールで提示するステップを更に含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記推定ステップ内の前記回帰的方法が、多成分回帰分析(MCR)アルゴリズムを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記多成分回帰分析(MCR)アルゴリズムが、前記得られたスペクトルの時系列の組の単一モダリティ制約を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記多成分回帰分析(MCR)アルゴリズムが、前記得られたスペクトルの時系列の組の非負制約を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記多成分回帰分析(MCR)アルゴリズムが、前記スペクトルの時系列の組の各々から前記少なくともつの定性的および定量的な組成成分を提供すべく非負最小二乗法(NNLS)の反復的なプロシージャを含む、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記スペクトルの時系列の組の各々からの前記推定された少なくともつの定性的および定量的な組成成分、および前記少なくともつの比較スペクトルの少なくとも一方に対して少なくともつの変換が実行される、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記既に識別されている候補スペクトルが、スペクトルライブラリからの比較スペクトルの1つを既に含んでいる場合に、前記比較ステップを省略または除外するステップを更に含む、請求項に記載の方法。
【請求項9】
変化する試料からのスペクトルを分析するシステムであって、
スペクトルの時系列の組を生成すべく構成された分光計と、
前記スペクトルの時系列の組の各々から少なくともつの定性的および定量的な組成成分を回帰的方法により推定すべく構成されたコンピュータと、を含み、
前記コンピュータが、前記スペクトルの時系列の組の各々からの前記推定された少なくともつの定性的および定量的な組成成分を、少なくともつのスペクトルライブラリに配置された少なくともつの比較スペクトルと、少なくともつの個別の定性的および定量的な組成成分として表された前記スペクトルの推定された時系列の組の各々との相関を反復的に求めるように構成された多成分検索(MCS)アルゴリズムに渡し、その結果が反復的に決定された、前記試料のスペクトルの識別のための少なくともつの候補スペクトルの時系列の組であり、
前記コンピュータが、
a.少なくとも1つの新規の比較スペクトルを生成する生成ステップであって、前記新規の比較スペクトルの各々が、既に識別された候補スペクトルのうちの1つと、スペクトルライブラリソースからの比較スペクトルのうちの1つとの組み合せである少なくとも1つの新規の比較スペクトルを生成する前記生成ステップと、
b.前記スペクトルの時系列の組の各々からの前記推定された少なくとも1つの定性的および定量的な組成成分を、選択された前記新規の比較スペクトルと比較して一致の程度を決定する比較ステップと、
c.前記少なくとも1つの候補スペクトルの組がある数だけ識別されるまで、または前記スペクトルの時系列の組の各々からの前記推定された少なくとも1つの定性的および定量的な組成成分と少なくとも何らかの適格な一致度で一致する前記少なくとも1つの候補スペクトルの組が識別されるまで、または、少なくとも1つの候補スペクトルの選択された前記時系列の組の中で最大数の組成成分に達するまで、上述の前記生成ステップおよび比較ステップを反復する反復ステップと、を実行するように更に構成されている、システム。
【請求項10】
前記コンピュータが更に、前記反復的に決定された少なくともつの候補スペクトルの時系列の組を、前記少なくともつの定性的および定量的な組成成分の時変化プロフィールで提示すべく構成されている、請求項に記載のシステム。
【請求項11】
前記既に識別されている候補スペクトルが、スペクトルライブラリからの比較スペクトルの1つを既に含んでいる場合に、前記コンピュータが前記比較ステップを省略する、請求項に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スペクトル分析の分野に関し、より具体的には、必要に応じて多成分スペクトル照合と組み合せた多成分回帰を用いて、変化する時系列スペクトルの自動識別を目指している。
【背景技術】
【0002】
分子分光計(分光器とも称する)は、固体、液体、または気体の試料が、多くの場合スペクトルの赤外領域光等の非可視光で照射される測定器である。試料からの光は次いで、捕捉および分析され、試料の特徴に関する情報が得られる。例えば、波長の範囲にわたり既知の強度を有する赤外光で試料を照射し、試料により透過および/または反射された光は次いで、捕捉されて光源と比較することができる。次いで捕捉されたスペクトルを調べることにより、照射光が試料により吸収された波長を示すことができる。スペクトル、特にそのピークの位置および大きさを既に得られた基準スペクトルのライブラリと比較して、試料に関する情報、例えばその組成および特徴を得ることができる。本質的に、スペクトルは試料およびその内部の物質の「指紋」としての役割を果たし、指紋を1つまたは複数の既知の指紋と照合することにより、試料を識別することができる。
【0003】
しかし、上述のような方法を用いて、例えば化学反応モニタリング(動力学)、または気体放出を用いる熱分析(TGA−IR)またはクロマトグラフィ(GC−IR)で時間依存データが集められる場合が多い。この分析で最も冗長なステップは、連結された系列スペクトルから独立スペクトルを抽出し、次いでこれら個々のスペクトルを分析することである。GC−IRではスペクトルは典型的に純粋成分のものである(GCが分離する)が、TGA−IRでは個々のスペクトル自身が混合物であり得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第7,698,098B2号明細書
【特許文献2】米国特許第7,072,771B1号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従って、変化する試料のスペクトルの時系列的個数を1つまたは複数の基準スペクトルの全ての可能な組み合せと比較したい場合、これは典型的に、特に大きな基準ライブラリが数万個のエントリを有する場合に、膨大な数になり得ることが理解される。これらの比較を行うのに必要な計算時間は、定性分析と同様に定量分析も実行する、すなわち未知スペクトル内の成分スペクトルの相対比率をそれらの属性と共に判定する場合、更に増大する恐れがある。このような定量分析では、基準スペクトルの組み合せとスペクトルの時系列の間で回帰分析を実行して、最適一致の組み合せを得るために各々の基準スペクトルが有するべき重み付けを決定することが必要な場合がある。その結果、たとえ高速のプロセッサを備えた専用コンピュータその他の機械を用いても、網羅的なスペクトル照合の実行に数時間、または数日間も要する場合がある。
【0006】
多成分分析を用いて未知スペクトルをスペクトル的に照合する方法に関し、本明細書に全文を引用している背景情報が、Ritterらによる2010年4月13日出願の米国特許第7,698,098B2号明細書「EFFICIENT SPECTRAL MATCHING,PARTICULARLY FOR MULTICOMPONENT SPECTRA」に記述および特許請求されており、以下の記述を含んでいる。すなわち、「赤外線またはその他の分光計から得られた未知スペクトルを基準ライブラリのスペクトルと比較して複数の最適一致を得ることができる。これらの最適一致スペクトルの各々は次いで基準スペクトルと組み合せることができ、それらの組み合せもまた未知スペクトルに対する最適一致を得るためにスクリーニングされる。その結果得られた最適一致についても、上述の組み合せおよび比較ステップを施すことができる。この処理は、例えば、所望の数の最適一致が識別された場合、ある所定の反復回数が実行された場合等、適当な停止条件に達するまで反復することができる。この方式により、基準スペクトルの全ての可能な組み合せを考慮する場合よりもはるかに少ない計算ステップおよびより高い速度で最適一致スペクトル(およびスペクトルの組み合せ)を得ることができる。」
【0007】
成分スペクトル分析の方法に関する背景情報が、Schweitzerらによる2006年7月04日出願の米国特許第7,072,771B1号明細書「METHOD FOR IDENTIFYING COMPONENTS OF A MIXTURE VIA SPECTRAL ANALYSIS」に記述および特許請求されており、以下の記述を含んでいる。すなわち、「本発明は、一般にスペクトル分析の分野に関し、より具体的には、潜在的候補を含むスペクトルライブラリを用いて混合物から集められたスペクトルの組から当該混合物の未知成分を識別する改良された方法に関する。例えば、本方法は、混合物データ空間を画定する混合物のスペクトルデータの組を取得し、混合物データ空間への射影角に応じた既知元素の複数のライブラリスペクトルをランク付けし、上位y個のランク付けされたライブラリスペクトルの各々の組み合せに対する修正相関係数を計算し、最大修正相関係数を有する組み合せを選択して、選択された組み合せの既知元素を当該混合物の成分として識別することを含むステップにより、混合物の成分を識別することに関する。」
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、変化する試料(evolving sample)から得られる系列データファイルを分析する自動化された方法を目的とする。特に、MCRすなわち多成分回帰を用いて、系列線形独立スペクトルを分析により最初に抽出することができる。技術的には、MCR結果は「因子」と呼ばれ、多くの場合因子の組がMCRに得られ、これらの因子を再び組み合せると元データの組を再生することができる。MCRは次いで、本明細書に開示するように、当該因子を多成分検索(MCS)ルーチンに渡し、当該ルーチンで当該因子に逆畳み込みを施して、提供されたデータベース内を検索することができる。このような処理の最終結果は、元データの組に存在する各成分の識別を可能にする。
【0009】
当該ルーチンは、識別された成分と元データの組とのスペクトル相関を求めることにより分析を完了させることができる。これは本質的に、成分スペクトルを元データの組のそれらと比較して、当該成分がその時点でどれくらい多く存在するかを示す値を提供することにより行われる。時間変化したデータの組全体にわたりこれを集計することにより、各成分の存在の時間履歴を表すプロフィールが得られる。最終的に、これは各成分の時間依存を示す側面の順序に結果としてなる。
【0010】
最終報告は多くの場合、必要に応じて、抽出されたスペクトル、検索結果、および各々の識別されたプロフィールからなるようにカスタマイズすることができる。これにより既存技術におけるいくつかの問題が解決される。
・情報摘出のためデータベース内の全てのスペクトルを処理する。
・ユーザーは試料に関する何らかの初期的知識を有していなくてよい。
・ユーザーは分析ソフトウェアに関して一切のスキルを有している必要がない。
・最終的な分析の速度が大幅に加速される。
【0011】
従って、本出願の第1の態様は、変化する試料からのスペクトルを分析する方法を含み、分光計を用いてスペクトルの時および/または空間系列の組を得るステップと、コンピュータを用いて、スペクトルの時および/または空間系列の組の各々から回帰的方法により1つまたは複数の定性的および定量的な組成成分を推定するステップと、コンピュータを利用して、スペクトルの時および/または空間系列の組の各々からの当該推定された1つまたは複数の定性的および定量的な組成成分を、1つまたは複数のスペクトルライブラリに配置された1つまたは複数の比較スペクトルと、1つまたは複数の個別の定性的および定量的な組成成分として表された当該スペクトルの推定された時および/または空間系列の組の各々との相関を反復的に求めるべく構成された多成分検索(MCS)アルゴリズムに渡すステップとを含み、その結果が、1つまたは複数の候補スペクトルの反復的に決定された最適一致の時および/または空間系列の組である。
【0012】
本出願の第2の態様は、変化する試料からのスペクトルを分析するシステムを含み、当該システムは、スペクトルの時および/または空間系列の組を生成すべく構成された分光計と、スペクトルの時および/または空間系列の組の各々から1つまたは複数の定性的および定量的な組成成分を回帰的方法により推定すべく構成されたコンピュータとを含み、コンピュータが、スペクトルの時および/または空間系列の組の各々からの当該推定された1つまたは複数の定性的および定量的な組成成分を、1つまたは複数のスペクトルライブラリに配置された1つまたは複数の比較スペクトルと、1つまたは複数の個別の定性的および定量的な組成成分として表された当該スペクトルの推定された時および/または空間系列の組の各々との相関を反復的に求めるべく構成された多成分検索(MCS)アルゴリズムに渡し、その結果が反復的に決定された1つまたは複数の候補スペクトルの最適一致の時系列の組である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1A】例示的な試料の時系列ファイルの所与の時点のスペクトルを示す。
図1B図1Aのスペクトルの逆畳み込みから生じる二酸化炭素、アンモニア、イソシアン酸、および水のMCR推定された純粋成分吸収スペクトルを示す。
図1C図1Bに示す例の推定された純粋成分の定量化時間プロフィールを示す。
図2】後で1つまたは複数のスペクトルライブラリから得られた基準スペクトルL1、L2およびL3と比較される、多成分回帰分析から得られた推定純粋成分P1、P2およびP3の例示的な時系列ファイルを全体として示す。
図3図2に示す説明図のより詳細なバージョンを示すものであり、推定された純粋成分スペクトル(P1、2およびP3...と表記)を基準スペクトル(L1、L2およびL3...と表記)と比較して、純粋スペクトルがライブラリスペクトルにどの程度一致するかを判定する様子を示す。純粋成分スペクトルがライブラリスペクトルと所望の程度で一致する場合、比較ライブラリスペクトルは候補スペクトル(Bi)であると考えられる。
図4図3の照合方法を表すフローチャートを示し、ボックス400は図3のステップ200と同等であり、ボックス430は図2のステップ210および220(および当該ステップの将来的反復も同様に)と同等であり、条件ボックス440は候補スペクトルを(ボックス450で)ユーザーに報告するための停止条件を適用する。
図5】推定された純粋成分の時系列スペクトルに対してMCRおよび/またはMCR−MCS照合方法が実行された後でユーザーに提示可能な候補スペクトルの例示的な出力報告を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書における本発明の記述において、暗黙的または明示的に理解されているかまたは別途言明されない限り、単数形で表現される単語が複数形を含み、且つ複数形で表現される単語が単数形を含むことを理解されたい。更に、本明細書に記述する任意の所与の構成要素または実施形態について、当該構成要素について記載された可能な候補または代替物のいずれも、暗黙的または明示的に理解されているかまたは別途言明されない限り、一般に個別にまたは互いに組み合せて使用可能であることを理解されたい。更に、本明細書に示す図面が必ずしも原寸に比例して描かれている訳ではなく、いくつかの要素が単に本発明を明確にすべく描かれてもよいことを理解されたい。また、同等または類似の要素を示すために参照番号が複数の図面で重複している場合がある。また、そのような候補または代替物の任意のリストは単に説明用であって、暗黙的または明示的に理解されているかまたは別途言明されない限り、限定的ではないことを理解されたい。加えて、別途指示しない限り、本明細書および請求項で用いる含有物の量、組成、反応条件等を表す数値は、用語「約」により変更されることを理解されたい。
【0015】
従って、そうでない旨が示されていない限り、本明細書および添付の請求項に記述する数値パラメータは、本明細書に提示する主題により求めたい所望の特性に応じて変化し得る近似値である。最低限、且つ均等論の適用を請求項の範囲に限定する意図しないよう、各数値パラメータは、少なくとも報告された有効数字の桁数を考慮して、通常の丸め技術を適用することにより解釈されなければならない。本明細書に提示する主題の広い範囲を記述する数値範囲およびパラメータは近似値であるものの、特定の例に記述する数値は可能な限り正確に報告されている。しかし、いずれの数値も、それら個々の試験測定で得られた標準偏差から必然的に生じる一定の誤差を必然的に含んでいる。
【0016】
一般的記述
系列データファイル(例:スペクトルの時系列)の分析において最も冗長なステップは、1つずつの抽出に続いて、自身が混合物であり得る個々のスペクトル分析を行うことである。そのような分析法は長時間にわたり、且つ効果的に実行するにはある程度のスキルおよび「芸術性」を必要とする。更に、そのような1つずつの抽出方法は、ユーザーが「興味深い」と思うファイルの小さい領域の分析にユーザーを制約する。そのような冗長さを新規の方法で克服すべく、本明細書に開示する実施形態は、分析対象試料の純粋成分を推定する多成分回帰(MCR)を用いる自動化された処理を含み、多くの場合、1つまたは複数のスペクトルライブラリの無制限の(そのように構成された場合)検索基準を利用する多成分検索(MCS)方法がこれに続く。そのようなMCS法は、引用文献であるRitterらによる2010年4月13日出願の米国特許第7,698,098B2号明細書「EFFICIENT SPECTRAL MATCHING(PARTICULARLY FOR MULTICOMPONENT SPECTRA)」に記述されている。
【0017】
従って、本発明のMCR−MCS組み合せ方法は、複数のユーザー間で整合性を保つ有用な処理を簡素化するだけでなく自動化する有益且つ新規のツールをユーザーに提供する。特に、本明細書に開示するMCR−MCS方法は、従来方法では見過ごされてきた微細な対象であってもユーザーにより有用な仕方で解釈可能になるようにデータの組の網羅的且つ完全な分析を行うことができる。例えば、本実施形態の有益な使用法は、各種の成分の時間的挙動を示すプロフィールの重ね合わせである。そのような結果は、顧客が求めているもの、すなわち、時限的事象の間にデータがどのように変化するかの詳細な調査を提供する。
【0018】
エンドユーザーにとって、これは状況が迅速且つ完全に把握できることを意味する。例えば、若干の添加物だけが異なる2つ以上の物質のプロフィール(いつ何が)を比較して、ユーザーに違いが説明される。同一物質が存在するが全体的な処理は異なる場合、時間変化をプロットすることで異なる製造処理がどのように物質に影響を及ぼしたかを示すことができる。重要な点として、本発明の方法はあらゆる技術レベルのユーザーが利用でき、これは例えば物質のFT−IR分析の専門知識を欠く製薬研究機関、または低スキルユーザーを抱える基礎分析研究機関であってもここでは高品質の結果が得られることを意味する。
【0019】
具体的記述
本明細書に開示する多変量成分分解(MCR)態様は、分析対象である変化する試料に含まれる混合物の予備知識を一切必要とせずに未知の混合物スペクトルの時系列の組から純粋成分の濃度到達時間プロフィールと推定スペクトルの組を回帰的に抽出する数学的方法を目的とする。従って、本出願の自動化された処理の性質が、収集したスペクトルデータのシーケンスから線形独立な因子の系列を抽出すべくMCRから始まることを理解されたい。本質的に、これらの因子は、スペクトルの系列を、それらの組成部分、すなわち組み合わされてデータを記述するスペクトルに分離したものを表す。非限定的な例として、本明細書に開示するMCR法のそのような時間系列データの組を用いて、蛍光体試料の推定された「純粋成分」(例:フルオロフォア)を、そのような個々の推定された「純粋な」成分からの定量的寄与分を得るべく各々の相対濃度と共に抽出することができる。
【0020】
動作方法として、熱重量分析(TGA)等の、しかしこれに限定されない、当業者に公知である任意の数の手段を利用して時間に対して測定された吸収スペクトルを最初に求めて、図1Aに示すものと同様のスペクトルデータ(変化する試料から集められたスペクトル)の時系列の組が得られる。最初の目的は、スペクトルの時系列の組を構成する「純粋成分」を推定することである。
【0021】
従って、多成分回帰分析(MCR)は、分析処理を通じて線形独立なスペクトルの所望の系列を抽出できるものの、MCRソフトウェアは1または10個の成分を有するスペクトル同士を区別できず、独立した時間変化を示すスペクトルしか抽出できないことを理解されたい。例えば、アンモニアと水が同時に試料から生じている場合、MCRソフトウェアは本明細書で用いるように、アンモニアと水の混合物のスペクトルを抽出できるが、アンモニアと水のスペクトルを分離することはできない。一方、異なる時間点でイソシアン酸塩も発生する場合、たとえ結果的に得られたスペクトルがアンモニアと水の混合物のスペクトルと重なり合っていても、当該結果によりアンモニアと水の混合物およびイソシアン酸塩を識別することができる。
【0022】
具体的に図1A図1Bおよび図1Cを参照すると、これらの図は、計器に受容された後で本発明の多変量カーブ分解(MCR)方法ステップを用いて抽出された発生エポキシ試料に含まれる二酸化炭素、アンモニア、イソシアン酸、および水の例示的なデータを示している。特に、図1Aに示すスペクトルは、試料の熱重量分析(TGA)により吸収スペクトルが得られた時点でのスナップショットを示す。ユーザーは、設計されたフロントエンドを用いてこのようなデータを集めることにより、図1Aと同様のスペクトルの時系列ファイルを生成することができる。
【0023】
図1Bに、受容されたスペクトル(その一つを図1Aに例示する)の時系列ファイルのMCR分析の結果として推定された純粋成分(例:二酸化炭素、アンモニア、イソシアン酸、および水)の吸収スペクトルを各々示している。最後に、図1Bに示す推定された成分に対して結果的にMCRにより生成された時間プロフィールを図1Cに示す。
【0024】
本明細書に開示するMCRアルゴリズムの更に一般的なより詳細な記述として、図1Aと同様であるが時間に対して測定された吸収スペクトルの組が、当業者には公知の手段により最初に集められる。MCR埋め込みソフトウェアが、吸収スペクトルSの組(スペクトル×データ点の数)を呼び出す。MCRソフトウェアパッケージの当初の目的が、スペクトルの組を構成する「純粋成分」の推定であることに留意されたい。開始するには、純粋成分はP(純物質×データ点の数)と呼ばれ、C(スペクトル×純物質)は各スペクトル内の各純物質の量とする。
【0025】
その結果、純粋成分行列Sの所与の実際のスペクトルについて、各行が混合物のスペクトルと相関しており、以下の形が得られる。
1) S=PC
【0026】
ここに、PおよびCはベクトル行列であり、上述のように、Pは「純粋成分」(すなわち純物質×データ点の数)であり、各々スペクトル内の各純物質の量がC(スペクトル×純物質)である。また、「純粋成分」(すなわち純物質×データ点の数)が時系列ファイルから得られた推定成分の総数とほぼ同じであることが望ましい点に留意されたい。従って、上式1から得られた相関スペクトルが、最も支配的な個別成分の強度が変化する試料内でどのように変化するかに関する最良の推定を行う点が好適である。
【0027】
更に、本明細書に開示するMCR方法ステップはまた、例えば単一モダリティ(ユニモダリティ)制約、しかし、より多くの場合非負制約等の制約を有利に利用することにも留意されたい。好適な規制又は制約として、データに関する特定の知識に基づいて非負制約が多くの場合選択される。例えば、測定が不正確なため往々にして不鮮明になり得るデータ内での強度および試料濃度を高めるべく吸収度測定値は正値でなければならない。従って、非負制約を用いることでCおよびPが共に非負、すなわちc(i,j)≧0且つp(j,k)≧0であるように制約する(iは試料の数に対応し、j個の波長で分光測光度法によりk回測定される)。
【0028】
反復的処理を開始するに際して、MCRは最初に成分の数を推定しなければならない。成分の数を推定する複数の戦略が提案されてきたが、それでもなお、各々の戦略には何らかの任意性がある。当該技術は、純粋成分スペクトルおよび濃度の両方を、測定されたスペクトル時系列またはスペクトルの空間的集合から推定しなければならない。これは、交互最小二乗法と呼ばれる反復的プロシージャにより行われる。第1のステップは、純粋成分スペクトルまたは濃度プロフィールの形状に関する任意の推測を行うことである。
【0029】
純粋成分スペクトルを任意に推測する場合、全てのcjkがcjk≧0を満たすという制約を有するCについて最小二乗法問題S=PCを解く。これは、非負最小二乗法(NNLS)と呼ばれる反復的プロシージャによりなされる。その結果、Cの推定値が得られる。次いでこのCの推定値、すなわちスペクトルの濃度を用いて、純粋成分スペクトル(P)の新たな推定値を求める。すなわち、Pについて問題S=PCをNNLSにより解く。技術がNNLSであるという事実により、全てのpijがpij≧0を満たすことが保証される。Cについて再び解き、次いでPについて再び解くステップが、解が収束するまで続けられる。これは、いくつかの反復の後で生じるであろう。その結果は、純粋成分スペクトルPについての最小二乗法的な解、および測定されたスペクトルSの集合体を生成するスペクトルCの濃度となる。
【0030】
純粋成分の推定値が近似値であって、どの実際の物理的物質のスペクトルにも一致することが証明されていないことに留意されたい。しかし、これはMCS(多成分検索)分析の有意義な出発点である。
【0031】
その後、MCRはユーザーに対し、図1B(すなわち、結果的に得られた推定された純粋成分)および図1C(すなわち、各々の推定された純粋成分について結果的に得られた濃度到達時間プロフィール)に同様に示すように、推定された成分および濃度のチャートまたはプロット図を提示して時間依存性を示すことができる。
【0032】
しかし、上述のように、本発明の有利な態様が、MCR分析法をMCS(多成分検索)アルゴリズムと統合する能力であることは明らかであり、これについて引用文献であるRitterらによる2010年4月13日出願の米国特許第7,698,098B2号明細書「EFFICIENT SPECTRAL MATCHING,PARTICULARLY FOR MULTICOMPONENT SPECTRA」に同様に記述されている。そのようなMCS処理は一般に、以下により詳細に述べるように、提供されたデータベースを検索されたような個々のスペクトルの逆畳み込みを行う。MCSは従って、個々のスペクトルと元データの組の相関を求めるスペクトル相関を実行することにより、MCRから得られる各々の推定された成分を識別する。全体的な有利な結果は、多くの場合強化された正確な推定成分および図1A図1Cのものと同様の時間プロフィールが得られること、すなわちユーザーに変化する試料の各成分のより高信頼度の時間依存情報を提供することである。
【0033】
ここで図2に、MCR−MCSの統合された新たな態様を概略的な理解を可能とするよう模式的に示す。具体的には、図2に示すP1、P2、P3、...、は、MCRソフトウェアを用いて分光計から得られた推定純粋成分の時系列スペクトルを表す。MCRにより提供されたそのような推定スペクトル情報、すなわちP1、P2、P3、...は次いでMCSソフトウェア態様に渡されて、既に得られた基準比較スペクトル(L1、L2、L3、...、と表記)と比較される。
【0034】
図3に、図2の推定時系列純粋成分スペクトルP1、P2、P3、...がどのように比較(ライブラリ)スペクトルの一部と比較されて、純粋スペクトルが比較ライブラリスペクトルL1、L2、L3、...と、どの程度一致するかを判定する様子をある程度詳しく記述する(ここでは図3のステップ200に示す)。
【0035】
特に、ステップ200で示すように、純粋成分スペクトルP1、P2、P3、...の推定時系列が光学計器(例:分光計)、データベース、または当業者に公知の任意のソースから得られ、その後上述のようにMCRを用いて処理されると、比較ライブラリスペクトル、例えばL1、L2、L3、...は以下のように識別することができる。
【0036】
最初に、比較スペクトル、すなわち比較用の1つまたは複数の基準スペクトルが、1つまたは複数のスペクトルライブラリまたは他のソースからアクセスされる。MCRにより抽出された1つまたは複数の推定された純粋成分の時系列スペクトルP1、P2、P3、...は次いで比較スペクトルの少なくとも一部と比較されて、スペクトルの時系列がどの程度1つまたは複数の比較スペクトルに一致するかが判定される。ユーザー定義または事前設定された一致閾値に達するかまたは上回ることにより、推定された純粋成分の時系列スペクトルP1、P2、P3、...が1つまたは複数の比較スペクトルに所望の程度で一致する場合、1つまたは複数の比較スペクトルは、一致閾値が過度に高く設定されていない限り、1つまたは複数の候補スペクトルB(1)1、B(1)2、...B(1)M、として識別されるものと考えられる。候補スペクトルが識別されない場合、一致閾値をより低い値に設定することができる。
【0037】
次に、推定された純粋成分の時系列スペクトルのいずれかが多成分混合物から生じた可能性について考慮する。新規の比較スペクトルが複数生成され、各比較スペクトルは、既に識別された候補スペクトルの1つと、スペクトルライブラリまたは他のソースからの比較スペクトルの1つとの組み合せである。推定された1つまたは複数の純粋成分の時系列スペクトルは次いで、これら新規の比較スペクトルの少なくともいくつかと再び比較されて、推定された純粋成分の時系列スペクトルがどの程度新規の比較スペクトルに一致するかを判定する。このステップを図3の210に模式的に示しており、任意の数の推定された純粋成分の時系列スペクトルP1、P2、P3、...が新規の比較スペクトルと比較される。
B(1)1+L1、B(1)1+L2、...B(1)1+LN
(すなわち、図3のステップ200からの既に識別された候補スペクトルの1番目と、スペクトルライブラリまたは他のソースからの比較スペクトルの各々との組み合わせ)
B(1)2+L1、B(1)2+L2、...B(1)2+LN
(すなわち、ステップ200からの既に識別された候補スペクトルの2番目と、スペクトルライブラリまたは他のソースからの比較スペクトルの各々との組み合わせ)などであり、推定された純粋成分の時系列スペクトルが新規の比較スペクトルと比較されるまで続く。
B(1)M+L1、B(1)M+L2、...B(1)M+LN
(すなわち、ステップ200からの既に識別された候補スペクトルの最後と、スペクトルライブラリまたは他のソースからの比較スペクトルの各々との組み合わせ)。
【0038】
これらの比較から、例えば、新規の比較スペクトルのいずれか1つが、推定された純粋成分の時系列スペクトルP1、P2、P3、...と所望の程度に一致する(一致閾値に達するかまたは上回ることにより)ことが分かった場合、新規の比較スペクトルが新規の候補スペクトルであるとみなす。これらの新規候補スペクトルを図3のステップ210でB(2)1、B(2)2、...B(2)Mと表記している。(必要に応じて、ステップ210のMがステップ200のMと必ずしも同じでなくてもよい、すなわちステップ210における候補スペクトルの数がステップ200における候補スペクトルの数と必ずしも同じである必要がないことを理解されたい)。ここに、各候補スペクトルB(2)1、B(2)2、...B(2)Mは2つの成分、すなわちスペクトルライブラリまたは他のソースから得られた2つの組み合わされた基準スペクトルを表す。
【0039】
上述のステップは次いで、必要に応じて1回以上無制限に反復されてよく、各々の反復において上述のステップで識別された候補スペクトルを用いて新規の比較スペクトルが生成される。これを図3のステップ220に例示しており、ステップ210からの候補スペクトルB(2)1、B(2)2、...B(2)Mをスペクトルライブラリまたは他のソースからの比較スペクトルL1、L2、...LNと組み合せて用いて新規の比較スペクトルが生成される。次いで推定された純粋成分の時系列スペクトルP1、P2、P3、...とこれらの新規の比較スペクトルの比較により、新規の候補スペクトルB(3)1、B(3)2、...B(3)Mが識別される(この場合もMはステップ210および/または200のMと同じである必要はない)。候補スペクトルが何らかの所望の数の成分を含んでいる場合、例えば、新規の比較スペクトルが、スペクトルライブラリまたは他のソースから得られた所望の数の組み合わされた比較/基準スペクトルを含んでいる場合、反復を終了してよい。
【0040】
この条件を図4のフローチャートに示しており、ステップ400は図3のステップ200と同等であり、ステップ430は図3のステップ210および220(当該ステップの将来の反復も)と同等であり、条件ボックス440は候補スペクトル内の成分cの数を評価して、ある最大数Cに達すると反復を停止する。代替的または追加的に、ある所望の数の候補スペクトルが識別された場合、後述するように少なくとも何らかの適格な一致度(適格な一致度は閾値一致度よりも大きい)により未知スペクトルに一致する1つまたは複数の候補スペクトルが識別された場合、あるいは他の適当な条件が生じた場合に反復を停止してもよい。
【0041】
次いで候補スペクトルの少なくとも一部をユーザーに提示してよく、好適には、(図4のステップ450に示すように)未知スペクトルとより良く一致する候補スペクトルが最初に示されるように当該候補スペクトルがランク付けされた順序でユーザーに提示してもよい。ユーザーに提示し得る候補スペクトルの出力リストの例示的なフォーマットを図5に示す。ここに、未知スペクトルに関する詳細事項を出力リストの見出しに示し、候補スペクトルの詳細事項がこれに続く。1番目に記載された候補スペクトルは(ランク/指標が1で記載)はポリスチレン膜のスペクトルであり、未知スペクトルに対する一致度(「一致のパーセンテージ」に略等しい)が99.58である。当該候補スペクトルのスペクトルライブラリまたは他のソースもまた記載され(ここでは「ユーザー例ライブラリ)、ライブラリ/ソース内の位置も同様である(「ソース指標」no.2で、すなわち、「ユーザー例ライブラリ」で与えられる2番目のスペクトルである)。2番目に記載された候補スペクトルは実際には、スペクトルライブラリまたは他のソースからの3つのスペクトル、すなわちトルエン(透過セル)スペクトル、ABSプラスチック(ATR修正済み)スペクトル、およびポリテトラフルオロエチレン膜スペクトルの組み合せであり、これらのスペクトルを適当な割合(後述する)で組み合わせれば、未知スペクトルと68.97の一致度が得られる。それらの累積的一致度もまた提示され、トルエンの一致度は56.96、トルエンとABSを合わせた一致度が68.92、またトルエン、ABSおよびポリテトラフルオロエチレンを合わせた一致度は68.97である。この場合も、これらのスペクトルのライブラリまたは他のソースは、自身のライブラリ/ソース内における各スペクトルの位置の指示と共に与えられる。
【0042】
追加的な尺度、特に、候補スペクトル内の各比較スペクトル(各成分/基準スペクトル)の重み、すなわち未知スペクトルとの最適一致が得られるように各比較スペクトルの調整に用いる倍率も好適に出力リストに含まれている。例えば、第1の記載された候補スペクトル(ポリスチレン膜)は5.4195の重みを有し、これは未知スペクトルが、候補スペクトルが得られた試料のポリスチレン含有量の5.4195倍含有していると推定されることを意味する。第2の記載された候補スペクトルは、トルエン、ABS、およびポリテトラフルオロエチレンの異なる重みを含み、これらの重みは、上述の比較ステップを行う間に比較スペクトル対未知スペクトルの回帰分析により決定される(すなわち、比較を行う間に未知スペクトルへの最適一致を実現するように比較スペクトル内の各種の成分/基準スペクトルが比例される)。従って、ユーザーに対し、未知スペクトル内の成分が少なくとも近似的に定量化されて示される。
【0043】
上述の方式は、「最適一致」基準スペクトルを発見し、最適一致スペクトルを他の基準スペクトルに対すると組み合せ、次いでこれらの組み合せ(当該方式では上述の組み合せステップから反復的に継続する)から更なる最適一致スペクトルを識別するものと言える。従って、本方式は、基準スペクトルL1、L2、...LNの全ての可能な組み合せを比較するのではなく、基本的に未知スペクトルとの類似性が少ない基準スペクトルを除外することにより、考慮する組み合せを大幅に減らすことができる。その結果、本方式は、特に多数の基準スペクトルが用いられる場合、および未知スペクトルが成分/基準スペクトルのより大きい組み合せについて調べられる場合に、全ての組み合せを考慮する方法よりもはるかに短い時間で高品質の一致を返し、場合によっては、以前は数時間要していた結果を数分で返す。
【0044】
推定された純粋成分の時系列スペクトルと比較スペクトルの間で上述の比較を実行する前に、本発明は、比較処理の迅速化および/またはその精度の向上、あるいはデータ処理を強化すべく、推定された純粋成分の時系列スペクトルおよび比較スペクトルの一方または両方に対して1つまたは複数の変換を実行する場合がある。例として、本発明は、データスムージング(ノイズ低減)、ピーク判定、リスケーリング、ドメイン変換(例:ベクトルフォーマットへの変換)、微分、またはスペクトルに対する他の変換のうち1つまたは複数を実行する場合がある。比較自体もまた、単に未知および比較スペクトルの間で同様の波長範囲にわたる強さ/大きさを比較する、未知および比較スペクトルをベクトル形式に変換して当該ベクトルを比較する、または他の形式を比較する等、各種の形式を想定できる。
【0045】
また、上述の方式は、候補スペクトルの識別を更に迅速化すべく変更することができる。そのような変更の一例として、既に識別されている候補スペクトルと、スペクトルライブラリまたは他のソースから得られた比較スペクトルを組み合せることにより新規の比較スペクトルを生成する際に、候補スペクトルが比較スペクトルを既に含んでいる場合には当該組み合せを省略または除外してもよい(すなわち、潜在的新規候補スペクトルとして除外するかまたは考慮対象としない)。
【0046】
より具体的な例示として、スペクトルライブラリから得られた比較スペクトルL1が、未知スペクトルとの十分な一致により、ステップ200(図3)でB(1)1として選択された状況を考える。ステップ210の次の反復において、新規の比較スペクトルB(1)1+L1は、L1+L1(すなわち、基準スペクトルL1を自身と組み合わせたもので、単に再びL1となる)に等しいため、省略または除外することができる。従って、冗長な成分スペクトルを有する比較スペクトルの生成および/または使用を避けることにより、本方式は、新規の候補スペクトルが得られる見込みがより高い比較スペクトルのために計算時間を温存することができる。
【0047】
候補スペクトルの識別を迅速化すべく実装可能な変更の別の例として、候補スペクトルが、何らかの「適格な」一致度以上の程度で未知スペクトルに一致する場合(この適格な一致度は閾値一致度より大きい)、その中の比較スペクトル(すなわちその成分スペクトル)は、その生成されるどの新規の比較スペクトルからも除外できる。上述の方策は本質的に、候補スペクトルが既に未知スペクトルと極めて良く一致する場合(例えば、95%を超える適格な一致度を有している場合)、これで十分となり得、候補スペクトルを他のスペクトルと組み合せたとしてもより高い一致が得られるか否かを判定する必要があまり無い、というアプローチをとる。
【0048】
候補スペクトルの識別を迅速化するために行える別の変更は、未知スペクトルの1つまたは複数の成分が既知である特例な場合、例えば、既知の成分を所定量有する物質の生成を意図された処理の出力をモニタリングする場合に適用される。この場合、第1回の比較(図3のステップ200、図4のステップ400)を行う間、候補スペクトルB(1)1、B(1)2、...B(1)Mを単に既知成分のスペクトルに設定することができる。次いで本方法の残りを実行することで、各種成分の相対比率と同様に、存在し得る任意の追加的な成分(すなわち不純物)の識別に役立つ。
【0049】
上述のように、一致閾値、すなわち比較スペクトルが候補スペクトルであるとみなすために推定された1つまたは複数の純粋成分の時系列スペクトルと比較スペクトルの間で求められる一致の程度が過度に高く設定されている場合、結果的に候補スペクトルが一切得られないことがあり得る。典型的には、一致閾値として90%の一致度が適しているが、この値は考慮するスペクトルの詳細事項に応じてより低くまたはより高く設定されてよい。
【0050】
また、一致閾値をゼロ(またはゼロに近い値)に設定することも可能であり、その場合、候補スペクトルは各々の比較スペクトルから生じることができる。例えば、一致閾値が図3図4のステップ200でゼロに設定された場合、M=Nであって、B(1)1、B(1)2、...B(1)Mは次いで、各々がL1、L2、...LNの1つに対応する。この場合、候補スペクトルのいくつかは実際には、未知スペクトルとの一致が良くないため、候補として相応しくない恐れがある。従って、候補スペクトルを最も高い一致度から最も低い一致度の順序でランク付けし、次いで任意の後続ステップも実行する際に最も一致度が高い候補スペクトルを最初に考慮することが有用である。この場合、計算量を減らすために、任意の後続ステップも実行する際に、最も一致度が低い候補スペクトルを除外することは有用であろう。例えば、一致度が最も高い上位10%、25%または50%の候補スペクトルだけを保持して、後続ステップでこれらを用いてもよい。
【0051】
本発明が、スペクトルデータを受信して分析するコンピュータまたは他のシステム(例:分光計)に用いられるスペクトル識別ソフトウェアに実装できるものと期待される。そのようなシステムは、環境用、産業用、または他のモニタリング設備、および本発明が有用であることが判明するであろう他の任意のシステムに設けられた可搬/携帯コンピュータ、現場測定装置、特定用途向け集積回路(ASIC)および/またはプログラム可能論理デバイス(PLD)を含んでいてよい。
【0052】
追加的な実施形態として、以下の非限定的な例は、本明細書に開示する方法で利用可能な有利なユーザー出力インターフェース態様を示す。本実施形態により潜在的に解決可能な極めて関連性が高い問題が、2つの類似物質の分析に関するものであることを理解されたい。2つのシナリオ例がある。第1は、1つのバッチでガスケットまたはOリングが故障したが、別のバッチでは正常に機能する。第2は、競争者Bが、競争者Aにより化学的に製造されたものと同様の製品をもたらしたので、Aは処理の違いを理解したいと望む。いずれの場合も、TGA−IRは多くの場合、実装にあたり、定性的および定量的データが提供される、洞察性に富んだ有利な方法である。
【0053】
従って、2つのデータ組の結合された(すなわち、逐次的ではなく同時の)分析の実行を含む本発明の「ライトボックス」(すなわち、デジタル的に重ね合わされた(または横並びに表示された))拡張を追加的に提供できると有利である。最終結果として、成分情報およびプロフィール情報のシーケンスが得られる。出力インターフェースにより、検索結果の図示およびそれらの成分の時間変化プロフィールの図示を行うことができる。重要な点は、これらの比較の違いである。
【0054】
分析を逐次的に行うように構成されている場合、検索結果の順序および発見された成分の数は潜在的に異なり得るため、比較がより複雑になる。分析を結合して実行することにより、複数の結果が成分および検索結果のランク順序の両方により紐付けられる。これにより、複数の結果がデジタル的に重ね合わされ(または横並びに表示され)て比較が容易になる「ライトボックス」方式が可能になる。
【0055】
2つのシナリオを再び参照すると、第1の場合において、重ね合わせ図により、1つの成分が欠落している、すなわち製剤エラーであるか、または、1つまたは複数の成分の温度変化プロフィールが両者の間でずれている、すなわち処理エラーであることが示され得る。第2の場合において、脱製剤プロフィールにより、A社製の既知の特徴を有する既知製品を、未知のB社製物質と比較することができ、組成または処理のいずれかの違いが再度現れる。これは最終的に、分析全体が求めていた「最終回答」、すなわちこれら2つの試料の違いを表している。
【0056】
また、本発明は概して、分子分光計用のスペクトル照合に関して有用であると述べてきたが、本発明は代替的または追加的に、質量分光法、X線分光法または他の形式の分光法に用いることができる。本発明はまた、信号が基準値に対して測定される他の形式の測定分析にも有用であろう。その場合、このような信号および基準値は本発明で言うところの「スペクトル」であるとみなしてよい。
【0057】
本明細書の各種実施形態に関して記述している特徴は、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、任意の組み合せで混在および適合できることを理解されたい。異なる実施形態を選択して例示および詳述してきたが、これらは例示的であり、本発明の趣旨および範囲から逸脱することなく、各種の代替および変更が可能であることを理解されたい。
図1A
図1B
図1C
図2
図3
図4
図5