特許第6089447号(P6089447)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6089447
(24)【登録日】2017年2月17日
(45)【発行日】2017年3月8日
(54)【発明の名称】繊維強化複合材料
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/04 20060101AFI20170227BHJP
   D04H 1/4242 20120101ALI20170227BHJP
   D04H 1/46 20120101ALI20170227BHJP
   D04H 1/492 20120101ALI20170227BHJP
   B29C 43/00 20060101ALI20170227BHJP
【FI】
   C08J5/04CER
   C08J5/04CEZ
   D04H1/4242
   D04H1/46
   D04H1/492
   B29C43/00
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-118212(P2012-118212)
(22)【出願日】2012年5月24日
(65)【公開番号】特開2013-245253(P2013-245253A)
(43)【公開日】2013年12月9日
【審査請求日】2015年5月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】梶原 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】下山 悟
(72)【発明者】
【氏名】堀口 智之
【審査官】 長谷川 大輔
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−209513(JP,A)
【文献】 特開2004−308098(JP,A)
【文献】 特開昭59−094657(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/126133(WO,A1)
【文献】 特開2011−021303(JP,A)
【文献】 特開2008−208490(JP,A)
【文献】 特表2007−512449(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/114829(WO,A1)
【文献】 特開平09−273059(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/179891(WO,A1)
【文献】 特開平11−075289(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29B11/16
B29B15/08−15/14
C08J7/04−7/06
C08J5/24
D04H1/00−18/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニードルパンチ法または水流交絡法によって得た不織布を加圧成型した、見掛け密度が0.6〜1.3g/cmの強化繊維構造体と、熱可塑性樹脂とからなり、厚みが2.6〜10mmであり、厚み方向の熱伝導率が0.5W/(m・K)以上であることを特徴とする繊維強化複合材料。
【請求項2】
前記強化繊維構造体が炭素繊維である請求項1に記載の繊維強化複合材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂と強化繊維からなる繊維強化複合材料、およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
航空機や自動車、スポーツ用具、楽器用ケースなど幅広い用途で、炭素繊維やガラス繊維のような強化繊維と、マトリックス(樹脂・金属・セラミックス)からなる繊維強化複合材料が使われている。こういった用途に用いる繊維強化複合材料には、一般に高い強度と等方性が求められる。
【0003】
例えば特許文献1には、一方向に並べた長繊維にマトリックス樹脂を含浸した繊維強化複合材料が開示されており、特許文献2には、抄造した湿式不織布を繊維基材として用いる方法が、特許文献3には、マトリックス樹脂に強化繊維を分散させて成型する方法が開示されている。
【0004】
また、炭素繊維は熱伝導率が大きく熱膨張率が小さいことから、強化繊維として用いることによって回路基板、照明・表示装置、充放電機器などで金属などよりも軽い放熱材料としての利用が期待できる(例えば特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−270420号公報
【特許文献2】特開2010−274514号公報
【特許文献3】特開2011−052230号公報
【特許文献4】特開2011−241375号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1で開示された繊維強化複合材料は、厚み方向に連続する強化繊維が無いので厚み方向の強度が低い傾向がある。特許文献2で開示された繊維強化複合材料も、ある程度は厚み方向に連続する強化繊維は存在するが、十分ではない。
【0007】
特許文献3で開示された方法では、厚み方向に連続する強化繊維を存在させることが可能だが、分散性を高くすることと、マトリックスに対する強化繊維の比率を大きくすることの両立が難しく、繊維強化複合材料の強度が小さくなり易い。
【0008】
本発明では、上述の従来技術の欠点を改良し、厚み方向に連続する強化繊維とマトリックスに対する高い強化繊維比率を両立することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を達成するため、本発明の繊維強化複合材料は下記の構成からなる。
【0010】
すなわち、ニードルパンチ法および/または水流交絡法によって得た、見かけ密度が0.6〜1.3g/cmである強化繊維構造体と、樹脂とからなることを特徴とする繊維強化複合材料である。
【0011】
前記のとおり、強化繊維とマトリックスからなる繊維強化複合材料は、厚み方向での強度や熱伝導率を高めることは難いものだが、本発明者らは厚み方向に連続する強化繊維とマトリックスに対する高い強化繊維比率は両立可能になることを見出したものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、厚み方向に連続する強化繊維とマトリックスに対する高い強化繊維比率を両立する繊維強化複合材料を提供することができ、厚み方向の強度を向上させることができる。また、本技術に熱伝導率の高い強化繊維を適用することで、厚み方向への高い熱伝導性が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明でいう強化繊維とは、JIS R 7601(1999)で測定される引張弾性率が20GPa以上の繊維をいう。引張弾性率が20GPa以上であれば、繊維強化複合材料の力学特性が高く、高剛性、高強度が要求される部材の軽量化材料に好ましく適用することができる。上限は特に限定されないが、引張弾性率を600GPa以下にすることでコストが比較的抑制できるとともに、強化繊維の伸度不足による繊維折損の頻度が抑えられるため、強化繊維からなる強化繊維構造体の見掛け密度を高くすることが容易となる点で好ましい。より好ましくは50〜500GPaの範囲内であり、さらに好ましくは150〜400GPaの範囲内である。
【0014】
上記範囲にある強化繊維の例としては、アルミニウム、鉄、マグネシウム、チタンおよびこれらとの合金などの金属繊維や、SiCを主成分とする繊維、ガラス繊維、ホウ素繊維、アルミナ繊維、石英繊維、ポリアクリロニトリル(以下、PANと略す)系炭素繊維、ピッチ系炭素繊維、レーヨン系炭素繊維、フェノール系炭素繊維、活性炭素繊維などの無機繊維や、アラミド繊維、ポリブチレンテレフタレート繊維、超高分子量ポリエチレン繊維、ポリパラフェニレンベンゾオキサゾール繊維、ポリアリレート繊維などの有機繊維や、ニッケルや銅をガラス繊維や炭素繊維などの表面にコーティングした金属被覆繊維等が挙げられる。これらのうち、引張弾性率の高い炭素繊維が好ましく、中でも高強度が得やすい点でPAN系炭素繊維がさらに好ましく適用できる。放熱材とする場合は、熱伝導性に優れるアルミナ繊維、窒化アルミ繊維、窒化ホウ素繊維、シリカ繊維、炭素繊維を用いることが好ましい。
【0015】
強化繊維は樹脂との接着性を高めるために表面処理がなされていることが好ましい。たとえば、電解処理等による繊維表面酸化やシランカップリング剤処理、サイジング剤処理が例示できる。
【0016】
本発明で用いる樹脂としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル、メラミン、フェノール、ポリイミドなどの熱硬化性樹脂や、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレンスルフィド、ポリアミド、ポリプロピレン、ポリエステルなどの熱可塑性樹脂等を挙げることができる。本発明では成形が容易でコスト的に有利な熱可塑性樹脂が好ましい。
【0017】
本発明の強化繊維構造体の見掛け密度は0.6〜1.3g/cmである。0.6g/cm以上にすることで高い物性が得られ、1.3g/cm以下にすることで強化繊維同士の接触点が少なく、強化繊維が破断し難いので、比強度の優れた材料が得られるためである。
【0018】
本発明の繊維強化複合材料は、上述した強化繊維構造体と樹脂からなり、厚みが2.6〜10mmであることが好ましい。厚みを2.6mm以上にすることで、積層することなく十分な物性を得るとともに、10mm以下にすることで、容易に含浸できるため高い生産性で均一な繊維強化複合材料が得られるためである。厚みは、JIS L 1913 6.1(厚さ(A法))(2010)によって測定できる。
【0019】
本発明の繊維強化複合材料は、厚み方向の熱伝導率が0.5W/(m・K)以上であることが好ましい。このような熱伝導率は、例えば炭素繊維のような熱伝導率の優れる強化繊維を用いて、高い密度にするとともに繊維を厚み方向に配向させることで達成できる。熱伝導率は、JIS A 1412−2(1999)によって測定できる値であり、本発明ではシートの厚み方向の熱伝導率を評価する。
【0020】
次に、本発明の繊維強化複合材料の製造方法を説明する。
【0021】
本発明では、ニードルパンチ法または水流交絡法で作成した不織布を、見掛け密度0.6〜1.3g/cmとした後、樹脂を含浸することが好ましい。
【0022】
ニードルパンチまたは水流交絡に供するウエブは、カーディングした繊維をパラレルレイまたはクロスレイしたものや、エアレイして得た乾式ウエブ、抄造する湿式ウエブ、メルトブローやスパンボンド、フラッシュ紡糸、電界紡糸といった繊維形成と同一プロセスでウエブ化する方法を単独または組合せて選択できる。特に厚い基材の製造が容易な点で、乾式ウエブが好ましく用いられる。
【0023】
このようにして得たウエブを、ニードルパンチ法または水流交絡法で不織布とすることによって、繊維同士が相互に交絡するとともに厚み方向への繊維の配向が進む。厚み方向へ繊維が配向することで面内での補強効果が低下し、厚み方向へ補強効果が増す傾向がある。これは、ニードルパンチであれば、針の形状や打ち込み本数によって調節できる。バーブの形状、数、容積、ニードルの打ち込み本数が増えると厚み方向へ移動する繊維の本数が増える。水流交絡の場合は、ノズル径や水圧が大きくなることで厚み方向へ移動しやすくなり、シートの搬送速度は遅いほど厚み方向へ移動させる効果が大きくなる。また、繊維軸方向の熱伝導度が繊維断面方向の熱伝導度よりも高い補強繊維を用いた場合、厚み方向へ繊維の配向が進めば、厚み方向への熱伝導率が高くなる。
【0024】
見掛け密度0.6〜1.3g/cmとする方法は特に限定するものではないが、加熱したローラーやプレートで不織布を挟んで加圧成形することが好ましい。そのまま樹脂を含浸する場合は、加圧成形によって見掛け密度0.6〜1.3g/cmの不織布とする。
【0025】
加圧成形および800℃以上の加熱処理で見掛け密度0.6〜1.3g/cmとすることが好ましい。炭素繊維などを用いる場合は、耐炎糸など可とう性の高い状態でプレスしておき、例えば800℃以上の温度で炭化処理して炭素繊維とし、樹脂を含浸するものである。この場合炭素繊維化後に見掛け密度0.6〜1.3g/cmの不織布となるようにプレス条件を適宜調整することが必要である。
【0026】
次に、得られた見掛け密度0.6〜1.3g/cmの強化繊維不織布に樹脂を含浸する。含浸方法は特に限定するものではないが、引き抜きや、プレス、マトリックス材料を繊維化して強化繊維に混ぜる方法やこれらを組み合わせた含浸方法を挙げることができる。
【実施例】
【0027】
A.強化繊維構造体の見掛け密度
JIS L 1913 6.1(厚さ(A法))(2010)に準じて、20cm×20cmの試験片を5枚採取し、(株)大栄科学精機製作所製の全自動圧縮弾性・厚さ測定器(型式:CEH−400)を用い、圧力0.5kPaの加圧下で10秒後における各試験片の厚さを10箇所測り、その平均値を厚さとした。この厚さと長さ(20cm×20cm)、重量から、見掛け密度を少数第3位四捨五入して求めた。得られた5枚の見掛け密度の平均値を、シートの見掛け密度とした。
【0028】
B.熱伝導率
JIS A 1412−2(1999)に準じて、18mm×18mmの試験片(厚みは4mm、足りない場合は複数枚重ねて4mmにした)を採取し、アルバック理工製の定常法熱伝導率測定装置GH−1Sを用いて80℃(低温面と高温面の温度差は20℃)の値を測定した。
【0029】
C.引張強度
JIS K 7161〜7164(1994)に記載の方法に準じて、試料面内で0°、15°、30°、45°、60°、75°、90°のそれぞれの方向にタイプ1BA形小型試験片を作成して引張破壊応力を測定した。全ての方向の引張破壊応力の平均を引張強度とした。
【0030】
実施例1
密度が1.38g/cmのPAN耐炎糸を押し込み式クリンパーでけん縮糸とした。このPAN耐炎糸を数平均繊維長76mmに切断した後、カード、クロスレイヤーでウェブとし、次いでニードルパンチによって繊維同士を交絡させて見掛け密度0.08g/cmのPAN耐炎糸不織布を得た。
【0031】
得たPAN耐炎糸不織布は、200℃に加熱したプレス機で加圧し、見掛け密度0.81g/cmとした。
【0032】
次いで窒素雰囲気中1500℃の温度まで昇温して焼成して、密度1.80g/cmのPAN炭素繊維からなる見掛け密度0.65g/cmの不織布を得た。次に、0.1Nの炭酸水素アンモニウム水溶液に浸漬して、炭素繊維1gあたり100クーロンの電解処理を行った。
【0033】
このPAN炭素繊維不織布の両面に密度が1.14g/cmのナイロン6フィルムを重ねた状態で、250℃に加熱したプレス機で加圧することでN6を溶融含浸して、繊維体積含有率(Vf)40%(樹脂体積含有率60%)の繊維強化複合材料を得た。得た繊維強化複合材料の評価結果は表のとおりであり、熱伝導率と引張強度が優れていた。
【0034】
実施例2
実施例1において、ニードルパンチのかわりに水流交絡法で繊維同士を交絡させて繊維強化複合材料を得た。得た繊維強化複合材料の評価結果は表のとおりであり、熱伝導率と引張強度が優れていた。
【0035】
比較例1
密度が1.38g/cmのPAN耐炎糸を5mmにカットし、4mmにカットしたPVA繊維と重量比が80:20の割合で抄造法により見掛け密度0.16g/cmのシートを得た。
【0036】
得た耐炎糸シートは、200℃に加熱したプレス機で加圧し、見掛け密度0.81g/cmとした。
【0037】
次いで窒素雰囲気中1500℃の温度まで昇温して焼成して、密度1.80g/cmのPAN炭素繊維からなる見掛け密度0.65g/cmの不織布を得た。次に、0.1Nの炭酸水素アンモニウム水溶液に浸漬して、炭素繊維1gあたり100クーロンの電解処理を行った。
【0038】
このPAN炭素繊維シートと密度が1.14g/cmのナイロン6フィルムを交互に32枚重ねた状態で、250℃に加熱したプレス機で加圧することでN6を溶融含浸して、繊維体積含有率(Vf)40%(樹脂体積含有率60%)の繊維強化複合材料を得た。得た繊維強化複合材料の評価結果は表のとおりであり、引張強度は優れていたが熱伝導率が劣っていた。
【0039】
比較例2
実施例1において、耐炎糸の量とプレス圧力を調整して含浸前の見掛け密度が0.15g/cm、含浸後の見掛け密度が0.18g/cmとして繊維強化複合材料を得た。得た繊維強化複合材料の評価結果は表のとおりであり、熱伝導率と引張強度が劣っていた。
【0040】
実施例3
実施例1において、耐炎糸の量とN6の量を調整して含浸後の厚みが1mmの繊維強化複合材料を得た。得た繊維強化複合材料の評価結果は表のとおりであり、厚み方向へ貫通した繊維がないため層間剥離などの懸念はあるものの、熱伝導率と引張強度が優れていた。
【0041】
実施例4
実施例1において、マトリックスとして密度1.14g/cmのエポキシ樹脂が塗布された離型シートで挟んで含浸して繊維強化複合材料を得た。得た繊維強化複合材料の評価結果は表のとおりであり、熱伝導率と引張強度が優れていた。
【0042】
実施例5
実施例1において、プレス圧力を調整して含浸前の見掛け密度を0.12g/cmにして繊維強化複合材料を得た。得た繊維強化複合材料の評価結果は表のとおりであり、熱伝導率が優れていた。
【0043】
【表1】