(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記電気出力制御手段が、前記燃料電池の電気出力の設定に際し、前記放電対象の充電率の低下速度よりも前記充電対象の充電率を前記燃料電池の電気出力の大きさに強く反映させる
ことを特徴とする、請求項3記載の電力制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図面を参照して、車両に適用された電力制御装置について説明する。なお、以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができるとともに、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせることが可能である。
【0018】
[1.装置構成]
本実施形態の電力制御装置1が適用された車両20を
図1に示す。この車両20は、電動式のモーター4(電気機器)と、モーター4の走行用バッテリーとしての複数の二次電池2及び燃料電池3とを搭載したハイブリッド燃料電池車両である。
【0019】
二次電池2は、車両20の回生発電電力や外部電源,燃料電池3から供給される電力で充電可能な蓄電装置であり、例えばリチウムイオン二次電池やリチウムイオンポリマー二次電池等である。複数の二次電池2は、それぞれがモーター4及び燃料電池3に対して接続され、互いに独立して充放電状態が制御される。
【0020】
燃料電池3は、燃料中の水素と空気中の酸素との電気化学反応を利用して電力を取り出す発電装置であり、例えば固体高分子形燃料電池やリン酸形燃料電池等である。燃料電池3で発生する電力(電気出力)は、おもに二次電池2の充電に使用される。また、モーター4の負荷が二次電池2の給電能力を超える程度に大きい場合には、燃料電池3の電力が直接的にモーター4へと供給される。なお、燃料電池3の燃料は、燃料タンク5内に貯留される。
【0021】
二次電池2と燃料電池3とを接続する電気回路上には、電圧変換用のコンバーター6(DC-DCコンバーター)が介装される。コンバーター6は、燃料電池3で生じる直流電力を昇圧して二次電池2,モーター4側へと供給する。また、二次電池2とモーター4とを接続する電気回路上にはインバーター7(DC-ACインバーター)が介装され、ここで直流電力と交流電力とが変換される。
【0022】
車両20の外表面には、外部充電時に充電ケーブル22を接続するためのインレット21(電力引き込み口)が設けられる。また、二次電池2とインレット21とを接続する回路上には、車載充電器8が設けられる。車載充電器8は、車両20の外部の家庭用電源や充電ステーション等から供給される交流電力を直流に変換する電力変換装置である。上記の二次電池2の充放電状態や燃料電池3,モーター4,車載充電器8の作動状態は、後述する電子制御装置10で制御される。
【0023】
[2.回路構成]
図2は、モーター4の駆動回路の模式図である。ここでは、二次電池2の個数が二個であり、モーター4及びインバーター7間の回路と車載充電器8及びインレット21間の回路とが三相交流回路であって、その他が直流回路であるものを示す。以下、二個の二次電池2のそれぞれを区別する場合には、第一電池2a,第二電池2bと呼び分けて説明する。
【0024】
図2中の直流回路は、第一電池2a,第二電池2b,コンバーター6,インバーター7及び車載充電器8のそれぞれが、制御回路9を介して相互に接続された構造を持つ。制御回路9は、それぞれの装置間で授受される電力の大きさや給電方向を統括的に管理するための回路であり、その動作は電子制御装置10によって制御される。
【0025】
電子制御装置10は、例えばマイクロプロセッサやROM,RAM等を集積したLSIデバイスや組み込み電子デバイスである。電子制御装置10の信号入力側には、第一電池2a,第二電池2bの各々の電池温度Tを検出する温度センサーが接続されるほか、各々の二次電池2,燃料電池3,モーター4,コンバーター6,インバーター7及び車載充電器8が接続され、各装置の作動状態に関する情報が電子制御装置10に伝達される。
【0026】
電子制御装置10に入力される情報の具体例としては、各々の二次電池2の充放電電圧情報及び充放電電流情報,電池温度Tの情報,二次電池2の冷却ファンの回転速度情報,燃料電池3の出力電圧情報及び出力電流情報,モーター4の要求電気出力情報,外部充電の有無に関する情報等である。電子制御装置10は、これらの情報に基づいて各装置の作動状態を制御する。
【0027】
[3.充放電状態]
図3は、電子制御装置10で制御される二次電池2の充放電状態(電力の流れ)を模式的に示すものである。
図3(a)は車両20の外部充電中の状態に対応し、
図3(b),(c)は通常走行時の状態に対応する。ここでいう通常走行時には、車両20の移動中だけでなく、一時停止中や停車中等の非外部充電時全般が含まれる。
【0028】
外部充電時には、
図3(a)に示すように、燃料電池3及びモーター4が停止した状態で、全ての二次電池2が充電される。このとき、車載充電器8側から与えられる電力は、各々の二次電池2に対して同時に供給される。各々の二次電池2の充電率や上限充電率に差異があるときには、充電率が上限充電率に達したものから順に外部充電が終了する。
【0029】
一方、通常走行時には、
図3(b)に示すように、複数の二次電池2が充電系統と放電系統とに分離され、充電系統の二次電池2に対して燃料電池3の電力が供給される。このとき、モーター4は放電系統の二次電池2の電力で駆動される。つまり、放電系統の二次電池2がモーター4を駆動している間に、充電系統の二次電池2が燃料電池3で充電される。
【0030】
また、充電系統の全ての二次電池2の充電が終了すると、燃料電池3は発電を停止する。充電系統を放電系統から独立した回路とすることで、燃料電池3がモーター4の負荷変動の影響を直接的に受けにくくなる。ただし、モーター4の要求電気出力Q
Mに対して放電系統の二次電池2の電気出力が不足する場合には、
図3(b)中に破線矢印で示すように、燃料電池3の電力をモーター4に供給してもよいし、充電系統及び放電系統の両方の二次電池2の電力をモーター4に供給してもよい。
【0031】
また、通常走行時に所定の切り換え条件が成立すると、充電系統,放電系統のそれぞれの二次電池2が変更される。二次電池2の個数が二個の場合には、各々の二次電池2の充放電の役割が入れ替えられる。例えば、
図3(c)に示すように、それまでの放電対象が新たな充電対象になり、これと同時にそれまでの充電対象が新たな放電対象となる。このとき、燃料電池3が発電を停止した状態であれば、充放電対象の切り換えに伴って発電を再開する。
【0032】
複数の二次電池2のそれぞれには、充放電状態を制御するためのパラメーターとして、劣化度DL,充電率SOC(実充電率),上限充電率SOC
MAX,下限充電率SOC
MIN及び外部充電時上限充電率SOC
MAX_EXという五種類の制御パラメーターが設定される。これらのうち上限充電率SOC
MAX,下限充電率SOC
MINは、通常走行時における充電率SOCの変動範囲の最大値,最小値に対応する値であり、外部充電時上限充電率SOC
MAX_EXは、外部充電時における充電率SOCの最大値に対応する値である。
【0033】
本実施形態では、同一の二次電池2であっても、その二次電池2が放電電池である場合と充電電池である場合とで異なる制御が実施される。以下、これらを区別して説明する場合には、放電電池の上限充電率,放電電池の下限充電率,充電電池の上限充電率,充電電池の下限充電率のそれぞれに符号を付してSOC
MAX_DIS,SOC
MIN_DIS,SOC
MAX_CHA,SOC
MIN_CHAと表記する。
【0034】
[4.制御構成]
図2に示すように、電子制御装置10には、劣化度判定部11,対象設定部12,外部充電制御部13及び充放電制御部14が設けられる。これらの各要素は、電子回路(ハードウェア)によって実現してもよく、あるいはソフトウェアとしてプログラミングされたものとしてもよいし、あるいはこれらの機能のうちの一部をハードウェアとして設け、他部をソフトウェアとしたものであってもよい。
【0035】
[4−1.劣化度判定部]
劣化度判定部11(判定手段)は、複数の二次電池2の各々についての劣化度合いを算出,判定するとともに、相対的な劣化度合いの大小を判定し、各々の二次電池2を「大劣化電池」と「小劣化電池」とに分類するものである。これらの分類は相対的なものであり、分類の基準値は各々の二次電池2の劣化度合いの大きさに応じて変更される。例えば、最も劣化度合いの小さいものよりも大きく、かつ、最も劣化度合いが大きいものよりも小さい基準値が設定される。この場合、二次電池2の個数が二個であれば、何れか一方が大劣化電池に分類され、他方が小劣化電池に分類される。また、二次電池2の個数が三個以上であれば、少なくとも一個以上の二次電池2が大劣化電池及び小劣化電池のそれぞれに分類される。
【0036】
ただし、劣化度合いの最も小さいものと最も大きいものとの差が所定差よりも小さい場合には、複数の二次電池2の劣化度合いがほぼ均等だとみなせることから、劣化度判定部11は大劣化電池及び小劣化電池に該当するものがないと判断する。例えば、二次電池2の個数が二個の場合、それらの劣化度合いが同程度であるとき(例えば、二次電池2が新品のとき)には劣化度合いの分類がなされず、何れか一方の劣化がある程度進行した時点で大劣化電池,小劣化電池のそれぞれが決定される。
【0037】
劣化度合いを比較するときの指標値には、例えば電池容量の劣化度や、出力電流・電圧特性の劣化度、受入電流・電圧特性の劣化度等を用いることができる。本実施形態の劣化度判定部11は、新品時の満充電容量に対する充電完了時の満充電容量の割合を劣化度DLとして算出し、第一電池2aの劣化度DLと第二電池2bの劣化度DLとの差の絶対値を劣化度差ΔDLとして算出する。
【0038】
劣化度合いの分類は、第一電池2aと第二電池2bとの劣化度差ΔDLが所定値D
0を超えたときに、劣化度DLの大きい一方が大劣化電池であると判断し、劣化度DLの小さい他方を小劣化電池とする。一般に、二次電池2の劣化度DLは新品時に最小(ゼロ)であり、長時間使用するにつれて増大する。したがって、新品時の二次電池2は大劣化電池,小劣化電池の何れにも分類されず、劣化度DLの分布が均等でなくなった(偏った)ときにこれらが分類される。
【0039】
各々の二次電池2の劣化度DLは、電池の充電中や充電完了後,放電中等に算出される。例えば、
図3(c)に示すように第一電池2aが充電対象であるときには、その充電中の給電量と電圧上昇勾配との関係から満充電容量を推定して第一電池2aの劣化度DLを算出し、これをメモリーや記憶装置に更新して記憶する。あるいは、充電完了時に満充電容量を測定して劣化度DLを算出し、これをメモリーや記憶装置に更新して記憶する。また、
図3(b)に示すように充放電の役割が切り換えられると、同様の手順で第二電池2bの劣化度DLを算出し、これをメモリーや記憶装置に更新して記憶する。これらの第一電池2a,第二電池2bの劣化度DLに基づいて算出された劣化度差ΔDLの値は、対象設定部12,外部充電制御部13及び充放電制御部14に伝達される。
【0040】
なお、二次電池2の個数が三個以上である場合には、劣化度DLの最大値及び最小値に基づいて劣化度差ΔDLを求めてもよいし、劣化度DLの分散や偏差を劣化度差ΔDLに代わる指標として用いてもよい。この場合、劣化度差ΔDL,分散,偏差の値がある程度大きくなった時点で、それらの指標値に基づいて大劣化電池と小劣化電池とを分類すればよい。
【0041】
[4−2.対象設定部]
対象設定部12は、通常走行時(非外部充電時)に放電を担当する放電電池(放電対象)と充電される充電電池(充電対象)とを複数の二次電池2の中から選択し、その役割を設定するものである。放電電池は、通常走行時にモーター4へ電力を供給する役割を担当する二次電池2であり、充電電池は、放電電池がモーター4の電力源として働いている間に燃料電池3からの電力供給を受けて充電される二次電池2である。
【0042】
対象設定部12は、複数の二次電池2の中から所定の選択順序に従って放電電池を選択するとともに、放電電池に選択されたもの以外の中から充電電池を選択する。ここで設定された放電電池,充電電池の役割は、所定の切り換え条件が成立するまで維持される。所定の切り換え条件が成立すると、対象設定部12は新たな放電電池,充電電池を選択し、それらの役割を設定する。
【0043】
放電電池の選択順序は、予め設定された所定順序(スケジューリング)に沿って決定される。また、充電電池の選択順序は放電電池の選択順序に倣ったものとし、例えば前回の放電電池を今回の充電電池とする。ただし、大劣化電池に該当するものがあると判断されている状態で外部充電が実施された場合には、その外部充電が完了したときに、放電電池の選択順序を劣化度DLが高い順に変更する。あるいは、少なくとも大劣化電池に該当するものの中から、外部充電完了後の最初の放電電池を選択する。
【0044】
これは、外部充電後には全ての二次電池2の充電率SOCが最大の状態であることから、大劣化電池を小劣化電池よりも優先的に放電させて、劣化の進行を抑制するためである。したがって、小劣化電池は、全ての大劣化電池が少なくとも一回以上は放電電池として使用された後に使用することが好ましい。ここで設定された充電電池,放電電池の設定情報は、充放電制御部14に伝達される。
【0045】
[4−3.外部充電制御部]
外部充電制御部13(外部充電制御手段)は、外部充電時における二次電池2の充電制御を担当するものである。外部充電制御部13は、所定の外部充電開始条件が成立すると、燃料電池3の作動を停止させ、外部電源から供給される電力を全ての二次電池2に供給して充電する。外部充電開始条件は、例えば充電ケーブルのインレット21への差し込みの有無や外部からの給電状態,車載充電器8の作動状態等に基づいて判定される。
【0046】
また、外部充電制御部13は、全ての二次電池2の充電が完了すると、外部電源から供給される電力を遮断して充電を停止する。各々の二次電池2についての充電速度は、充電率SOCの初期値や充電特性によって変化する。したがって、外部充電制御部13は、充電率SOCが外部充電時上限充電率SOC
MAX_EXに達したものから順に給電を遮断し、全ての二次電池2の充電率SOCが外部充電時上限充電率SOC
MAX_EX以上になったときに外部電源の電力を遮断する。
【0047】
外部充電時上限充電率SOC
MAX_EXは、劣化度判定部11で算出された二次電池2の劣化度差ΔDLに応じて設定される。外部充電制御部13は、大劣化電池に分類された各々の二次電池2に対して、劣化度差ΔDLに基づいて補正係数K
1を設定する。また、式1に示すように、補正係数K
1に外部充電時標準上限充電率SOC
HPIBASEを乗じたものを各々の二次電池2の外部充電時上限充電率SOC
MAX_EXとして算出する。小劣化電池に分類された二次電池2の外部充電時上限充電率SOC
MAX_EXは、外部充電時標準上限充電率SOC
HPIBASEと同一値とする。また、外部充電時標準上限充電率SOC
HPIBASEは、例えば90〜100%の範囲内の値とされる。
SOC
MAX_EX=K
1×SOC
HPIBASE …式1
【0048】
補正係数K
1は、小劣化電池に比べて大劣化電池の満充電時の充電率SOCを低下させるように作用する係数である。例えば、
図5(a)に示すように、劣化度差ΔDLが所定値D
1未満のときには、劣化度DLがほぼ均等であるとみなされて補正係数K
1の値が1.0に設定される。また、劣化度差ΔDLが所定値D
1以上のときには、劣化度差ΔDLが増大するほど補正係数K
1の値が1.0よりも小さい値に設定される。
【0049】
[4−4.充放電制御部]
充放電制御部14(制御手段)は、通常走行時における放電系統及び充電系統の制御を担当するものである。充放電制御部14の機能は、基本電気出力算出部15,充放電域算出部16,充放電出力算出部17,切り換え判定部18及び充電休止判定部19の各々に分類される。
【0050】
[A.基本電気出力算出部]
基本電気出力算出部15(電気出力制御手段)は、燃料電池3の基本電気出力Q
FCを算出するものである。基本電気出力Q
FCとは、二次電池2を充電するときの標準的な電気出力である。ここでは、複数の二次電池2のうち、放電電池の充電率低下速度Xと充電電池の充電率SOCとに基づいて基本電気出力Q
FCが算出される。放電電池の充電率低下速度X,充電電池の充電率SOC及び基本電気出力Q
FCの関係は、例えばマップ,数式等で定義される。基本電気出力算出部15は、このようなマップ,数式等に基づいて燃料電池3の基本電気出力Q
FCを算出する。ここで算出された基本電気出力Q
FCの値は、充放電出力算出部17に伝達される。
【0051】
放電電池の充電率低下速度Xが大きければ、放電電池が早期に消耗することになり、充放電の役割を切り換えるタイミングが早まるものと考えられる。そこで本実施形態では、
図4に示すように、放電電池の充電率低下速度Xが大きいほど基本電気出力Q
FCを高く設定する。また、充電電池の充電率SOCが低いほど、充電完了までの時間が長くなるため、基本電気出力Q
FCを高く設定する。
【0052】
この基本電気出力Q
FCの設定に際し、上記の充電率低下速度Xよりも充電電池の充電率SOCを基本電気出力Q
FCの値に強く反映させる。つまり、充電率低下速度Xの影響よりも充電電池の充電率SOCの影響の方が基本電気出力Q
FCの値に強く反映されるようなマップ,数式等が定義されている。
例えば、充電率低下速度Xがこの車両20で想定される最大速度であり、かつ、充電電池の充電率SOCが最大であるときの基本電気出力Q
FCの値をQ
1とおく。また、充電率低下速度Xがゼロであり、かつ、充電電池の充電率SOCが最小であるときの基本電気出力Q
FCの値をQ
2とおく。本実施形態で設定される基本電気出力Q
FCの値Q
1は、値Q
2よりも小さい値とされる。
【0053】
あるいは、放電電池の充電率低下速度Xを一定として、充電電池の充電率SOCを変化させたときに取り得る基本電気出力Q
FCの変動範囲幅をW
1とおく。また、充電電池の充電率SOCを一定として、放電電池の充電率低下速度Xを変化させたときに取り得る基本電気出力Q
FCの変動範囲幅をW
2とおく。本実施形態で設定される基本電気出力Q
FCの変動範囲幅W
1は、変動範囲幅W
2よりも大きい値とされる。
基本電気出力Q
FCの値がQ
1<Q
2という関係を満たすマップを設定することや、基本電気出力Q
FCの変動範囲幅がW
1>W
2という関係を満たすマップを設定することは、『放電対象の充電率低下速度Xよりも充電対象の充電率SOCを燃料電池3の電気出力の大きさに強く反映させる』ことに相当する。
【0054】
[B.充放電域算出部]
充放電域算出部16(充放電域制御手段)は、充電電池の上限充電率SOC
MAX_CHAと放電電池の下限充電率SOC
MIN_DISとを劣化度差ΔDLに基づいて設定するものである。充電電池の上限充電率SOC
MAX_CHAは、燃料電池3による充電が完了したか否かを判断する際の指標となる。また、放電電池の下限充電率SOC
MIN_DISは、その放電電池の電力残量を把握するための指標となる。これらの二つは、充放電の役割を切り換えるタイミングの判定に使用される。
【0055】
二次電池2は、その充電率SOCがこれらの二つの閾値の間で増減するように、通常走行時の充放電状態が制御される。このように、二つの閾値で囲まれる充電率SOCの変動範囲のことを充放電域と呼び、二つの閾値の差のことを充電率SOCの許容変動幅(使用ウィンドウ幅)と呼ぶ。充放電域算出部16は、この許容変動幅を二次電池2の劣化度DLに応じて設定するように機能する。
【0056】
本実施形態の電力制御装置1では、充電率SOCが過多でも過少でもない中庸な状態(50%充電率の状態)が常に充放電域に含まれるように、二つの閾値が設定される。つまり、充電電池の上限充電率SOC
MAX_CHAは少なくとも50%以上とされ、放電電池の下限充電率SOC
MIN_DISは少なくとも50%以下とされる。また、二次電池2の劣化度DLが増大するにつれて、二次電池2の許容変動幅が50%の状態に向かって徐々に狭くなるように、それぞれの閾値が設定される。
【0057】
充電電池の上限充電率SOC
MAX_CHAは、劣化度判定部11で算出された二次電池2の劣化度差ΔDLに応じて設定される。充放電域算出部16は、劣化度差ΔDLに基づいて補正係数K
2を設定する。また、式2に示すように、補正係数K
2に標準上限充電率SOC
SFCBASEを乗じたものを充電電池の上限充電率SOC
MAX_CHAとして算出する。標準上限充電率SOC
SFCBASEは、外部充電時標準上限充電率SOC
HPIBASEよりも小さい値とされ、例えば80〜90%の範囲内の値とされる。なお、通常走行時の充電電池の上限充電率SOC
MAX_CHAは、外部充電時の上限充電率SOC
MAX_EXよりも小さく設定される。
SOC
MAX_CHA=K
2×SOC
SFCBASE …式2
【0058】
補正係数K
2は、補正係数K
1と同様に、小劣化電池に比べて大劣化電池の満充電時の充電率SOCを低下させるように作用する係数である。例えば、
図5(b)に示すように、劣化度差ΔDLが所定値D
2未満のときには、劣化度DLがほぼ均等であるとみなされて補正係数K
2の値が1.0に設定される。また、劣化度差ΔDLが所定値D
2以上のときには、劣化度差ΔDLが増大するほど補正係数K
2の値が1.0よりも小さい値に設定される。
【0059】
したがって、大劣化電池の充電率SOCの許容変動幅は、小劣化電池に比べて狭く設定される。また、劣化度差ΔDLが増大するほど補正係数K
2の値が1.0よりも小さい値に設定されることから、劣化が進行するほど、充電率SOCの最大値が低下して許容変動幅が狭められることになる。
【0060】
充放電域算出部16は、劣化度差ΔDLに基づいて補正係数K
3を設定する。また、式3に示すように、補正係数K
3に標準下限充電率SOC
LWBASEを乗じたものを放電電池の下限充電率SOC
MIN_DISとして算出する。標準下限充電率SOC
LWBASEは、例えば10〜20%の範囲内の値とされる。
SOC
MIN_DIS=K
3×SOC
LWBASE …式3
【0061】
補正係数K
3は、補正係数K
1,K
2とは反対に、二次電池2の放電下限に対応する充電率SOCを上昇させるように作用する係数である。例えば、
図5(c)に示すように、劣化度差ΔDLが所定値D
3未満のときには、劣化度DLがほぼ均等であるとみなされて補正係数K
3の値が1.0に設定される。また、劣化度差ΔDLが所定値D
3以上のときには、劣化度差ΔDLが増大するほど補正係数K
3の値が1.0よりも大きい値に設定される。
【0062】
[C.充放電出力算出部]
充放電出力算出部17(充放電出力制御手段)は、燃料電池3で実際に発電される電力(電気出力)や充電電池に入力される充電電力,放電電池からモーター4へと供給される電力等を算出するものである。ここでは、燃料電池3から二次電池2に供給される充電出力Qや、燃料電池3の発電出力Q
TGT、充電電池に入力される充電入力C(充電出力Qに対応するもの)、放電電池から出力される放電出力D等が算出される。なお、発電出力Q
TGTとは、燃料電池3で発電させる電気出力の最終的な制御目標値であり、二次電池2を充電するための電気出力やモーター4をアシストするための電気出力等を含むものである。
【0063】
燃料電池3の充電出力Qは、基本電気出力算出部15で算出された基本電気出力Q
FCと劣化度差ΔDLとに基づいて算出される。ここでは、大劣化電池を充電するための充電出力Qよりも、小劣化電池を充電するための充電出力Qの方が高く設定される。つまり、小劣化電池の充電時には高出力で二次電池2が充電され、大劣化電池の充電時には低出力で二次電池2が充電される。そこで、充放電出力算出部17は、劣化度差ΔDLに基づいて補正係数K
4を設定するとともに、式4に示すように、補正係数K
4に基本電気出力Q
FCを乗じたものを充電出力Qとして算出する。
Q=K
4×Q
FC …式4
【0064】
補正係数K
4は、大劣化電池に比べて小劣化電池への充電入力Cを増加させるように作用する係数である。例えば、
図5(d)に示すように、劣化度差ΔDLが所定値D
4未満のときには、劣化度DLがほぼ均等であるとみなされて補正係数K
4の値が1.0に設定される。また、劣化度差ΔDLが所定値D
4以上のときには、劣化度差ΔDLが増大するほど補正係数K
4の値が1.0よりも大きい値に設定される。
【0065】
上記の充電出力Qは、
図3(b),(c)中で燃料電池3から充電電池へと供給される太矢印の電気出力に相当する。このとき、モーター4を駆動するための電気出力は、図中に白抜き矢印で示すように、放電電池から出力される。一方、燃料電池3の起動中にモーター4の要求電気出力Q
Mが放電電池の最大電気出力Q
MAXを超えたときには、図中に破線矢印で示すように、不足分の電気出力が燃料電池3や充電側の二次電池2から補充され、放電側の二次電池2からの高出力の持ち出しが抑制される。このように、放電電池の出力不足分に相当する電気出力のことを、電気出力アシスト量Q
ASSTと呼ぶ。
【0066】
本実施形態の充放電出力算出部17は、放電電池が大劣化電池である場合に、このような電気出力の補填を実施する。これは、二次電池2の劣化が進行するほど放電出力特性が低下し、モーター4の要求電気出力Q
Mに応えることが難しくなるからである。相対的な劣化度DLが高い放電電池に対して電気出力をアシストする制御を実施することで、その放電電池の劣化の進行が抑制され、二次電池2の劣化度DLが均等化される。ただし、このような電気出力のアシストは、放電電池が小劣化電池である場合においても実施可能である。
【0067】
充放電出力算出部17は、モーター4の要求電気出力Q
Mから二次電池2の最大電気出力Q
MAXを減じた値に基づいて電気出力アシスト量Q
ASSTを算出する。例えば、式5に示すように、要求電気出力Q
Mから最大電気出力Q
MAXを減じた値に補正係数Lを乗じたものを電気出力アシスト量Q
ASSTとする。補正係数Lは、コンバーター6やインバーター7での変換ロスに応じて予め設定された値とする。
Q
ASST=(Q
M-Q
MAX)×L …式5
【0068】
また、二次電池2の最大電気出力Q
MAXは、劣化が進行するに連れて低下することから、放電電池の劣化度DLや劣化度差ΔDLに基づいて算出する。例えば式6に示すように、劣化度差ΔDLに基づいて補正係数K
5を設定し、この補正係数K
5に標準最大電気出力Q
MAXBASEを乗じたものを最大電気出力Q
MAXとする。
Q
MAX=K
5×Q
MAXBASE …式6
【0069】
補正係数K
5は、小劣化電池に比べて大劣化電池の最大電気出力Q
MAXを低下させるように作用する係数である。例えば、
図5(e)に示すように、劣化度差ΔDLが所定値D
5未満のときには、劣化度DLがほぼ均等であるとみなされて補正係数K
5の値が1.0に設定される。また、劣化度差ΔDLが所定値D
5以上のときには、劣化度差ΔDLが増大するほど補正係数K
5の値が1.0よりも小さい値に設定される。
【0070】
電気出力アシスト量Q
ASSTの補填手法としては、燃料電池3の作動状態に応じて、以下の二種類の手法のうちの何れかが選択される。
第一の補填手法は、燃料電池3が起動中であるときに選択される。充放電出力算出部17は電気出力アシスト量Q
ASSTの電気出力を燃料電池3に補填させるべく、燃料電池3の電気出力を増加させる。燃料電池3が起動中であるのは、充電電池が充電中であるか、燃料電池3が後述する発電アイドル状態であるときである。
【0071】
第二の補填手法は、燃料電池3の停止中に選択される。燃料電池3が停止しているのは、充電電池の充電がすでに完了しているときである。したがってこの場合、充放電出力算出部17は電気出力アシスト量Q
ASSTの電気出力を充電が完了している充電電池に補填させるべく、その充電電池を一時的に放電対象へと変更し、電気出力をアシストさせる。
【0072】
まず、第一の補填手法について詳述する。充電出力Qと電気出力アシスト量Q
ASSTとの加算値(Q+Q
ASST)が燃料電池3の最大電気出力Q
FC_MAX未満であるときには、その加算値(Q+Q
ASST)を燃料電池3の実際の発電出力Q
TGTとする。つまり、充電出力Qを維持しながら、電気出力アシスト量Q
ASSTの全てを燃料電池3からの電気出力で補填させる。
【0073】
一方、加算値(Q+Q
ASST)が燃料電池3の最大電気出力Q
FC_MAX以上のときには、最大電気出力Q
FC_MAXを燃料電池3の実際の発電出力Q
TGTとする。ここで、電気出力アシスト量Q
ASSTが最大電気出力Q
FC_MAX以下の場合には、電気出力アシスト量Q
ASSTの全てが燃料電池3からの電気出力で補填されるとともに、充電出力Qが減少する。また、電気出力アシスト量Q
ASSTが最大電気出力Q
FC_MAXを超えている場合には、燃料電池3からの電気出力の全てがモーター4側に供給されるものの、電気出力アシスト量Q
ASSTの一部が燃料電池3からの電気出力で補填されることになる。このとき、燃料電池3から充電電池へと供給される充電出力Qはゼロとなる。
【0074】
充電電池の充電入力Cは、基本的には燃料電池3の充電出力Qに対応する大きさとなる。つまり、小劣化電池の充電時には充電入力Cが増大し、大劣化電池の充電時には充電入力Cが減少するように、充電状態が制御される。したがって、充電容量が一定であると仮定すれば、小劣化電池の方が大劣化電池よりも早期に充電が終了する。
【0075】
また、燃料電池3が放電電池の不足分電気出力に相当する電気出力アシスト量Q
ASSTを補填している状態では、モーター4の要求電気出力Q
Mや燃料電池3の電気出力アシスト量Q
ASST,最大電気出力Q
FC_MAX等に応じて充電入力Cが変化する。例えば、充電出力Qと電気出力アシスト量Q
ASSTとの加算値(Q+Q
ASST)が燃料電池3の最大電気出力Q
FC_MAX以上のとき、充電入力Cは充電出力Qよりも小さい値となる。この場合、最大電気出力Q
FC_MAXが電気出力アシスト量Q
ASSTよりも大きければ、最大電気出力Q
FC_MAXから電気出力アシスト量Q
ASSTを減じたものが充電入力Cに相当する。また、最大電気出力Q
FC_MAXが電気出力アシスト量Q
ASST以下ならば、燃料電池3の充電出力Qが全てモーター4で消費されることになり、充電入力Cがゼロとなる。
【0076】
放電電池の放電出力Dは、基本的にはモーター4の要求電気出力Q
Mに対応する大きさとなる。一方、放電出力Dの最大値は最大電気出力Q
MAXであることから、要求電気出力Q
Mが最大電気出力Q
MAXを超えているときには、放電出力Dが最大電気出力Q
MAXに等しくなるように放電状態が制御され、不足分の電気出力は燃料電池3が負担することになる。また、二次電池2の最大電気出力Q
MAXは放電電池の劣化度DLや劣化度差ΔDLに基づいて算出されるため、劣化が進行するに連れて放電出力Dの最大値が減少するように、電気出力が抑制される。なお、燃料電池3の最大電気出力Q
FC_MAXでモーター4の要求電気出力Q
Mの全てを賄える場合には、放電出力Dをゼロにしてもよい。
【0077】
一方、第二の補填手法では、第一の補填手法における燃料電池3の代わりに、充電が完了した充電電池がアシスト電力を負担することになる。充放電出力算出部17は、充電が完了した充電電池を一時的に放電可能な状態に遷移させる。このような状態に置かれた二次電池2のことを暫定放電電池と呼ぶ。
前述の電気出力アシスト量Q
ASSTが暫定放電電池の最大電気出力E
MAX未満であるとき、前述の電気出力アシスト量Q
ASSTを暫定放電電池の放電出力Eとする。つまり、電気出力アシスト量Q
ASSTの全てを暫定放電電池からの電気出力で補填させる。一方、電気出力アシスト量Q
ASSTが最大電気出力E
MAX以上のときには、最大電気出力E
MAXを暫定放電電池の放電出力Eとする。この場合、暫定放電電池からの電気出力の全てがモーター4側に供給されるものの、その電気出力で賄われるのは電気出力アシスト量Q
ASSTの一部となる。
【0078】
なお、電気出力アシスト量Q
ASSTと最大電気出力E
MAXとの大小関係に関わらず、最大電気出力E
MAXを暫定放電電池の放電出力Eに設定することも考えられる。この場合、最大電気出力E
MAXが電気出力アシスト量Q
ASSTよりも大きいほど、放電電池の放電出力Dが最大電気出力Q
MAXよりもさらに小さくなる。したがって、放電電池の放電負荷が軽減され、劣化の進行がさらに抑制される。
また、電気出力アシスト量Q
ASSTと放電電池の最大電気出力Q
MAXとの加算値(Q
ASST+Q
MAX)を暫定放電電池の放電出力Eに設定することも考えられる。この場合、放電電池の放電出力Dがゼロとなり、実質的にモーター4を駆動する主体は暫定放電電池のみとなる。
【0079】
[D.切り換え判定部]
切り換え判定部18(変更判定手段)は、充電電池及び放電電池の切り換えに係る判定を実施するものである。ここでは、相対的な劣化度DLに基づいて前述の切り換え条件が成立するか否かが判定されるとともに、切り換え条件の成立時に充電電池及び放電電池のそれぞれが変更される。切り換え条件としては、放電電池の充電率SOCに関する第一の切り換え条件と、充電電池の充電率SOCに関する第二の切り換え条件とが設定される。また、この切り換え判定部18には、第一の切り換え条件に基づいて放電対象を切り換える第一変更部18a(第一変更手段)と、第二の切り換え条件に基づいて放電対象を切り換える第二変更部18b(第二変更手段)とが設けられる。
【0080】
第一の切り換え条件は、放電電池の充電率SOCがその下限充電率SOC
MIN_DIS以下になることである。つまり、放電電池がモーター4の要求電気出力Q
Mに応えることができなくなると、第一変更部18aにより充放電の役割が切り換えられる。この第一の切り換え条件により、二次電池2の電欠が防止される。
第二の切り換え条件は、充電電池の充電率SOCがその上限充電率SOC
MAX_CHA以上になり、かつ、二次電池2の相対的な劣化度DLや劣化度差ΔDLが所定の劣化度条件を満たすことである。第二変更部18bは、充電電池にそれ以上の充電ができない満充電状態になると、二次電池2の相対的な劣化度DLや劣化度差ΔDLに基づいて充放電の役割を変更する。
【0081】
本実施形態の第二変更部18bは、所定の劣化度条件として「放電電池よりも充電電池の方が相対的に劣化していること」を判定する。つまり、満充電状態になった充電電池が小劣化電池であって、放電電池が大劣化電池である場合に、所定の劣化度条件が満たされるものと判断する。したがって、第二変更部18bは、充電電池の充電率SOCがその上限充電率SOC
MAX_CHA以上であり、かつ、放電電池が大劣化電池である場合に、充放電の役割を変更する。反対に、充電電池の充電率SOCがその上限充電率SOC
MAX_CHA以上であっても、その充電電池が大劣化電池である場合には、充放電の役割を変更することなく、放電電池に放電させ続ける。この場合、燃料電池3が作動を停止し、大劣化電池である充電電池は満充電状態のままで維持される。
【0082】
なお、充電電池が満充電状態になる前に放電電池の電力が枯渇しないように、第二変更部18bの判断よりも第一変更部18aの判断の方が優先される。したがって、充電電池の充電率SOCがその上限充電率SOC
MAX_CHAに達する前に、放電電池の充電率SOCがその下限充電率SOC
MIN_DIS以下になったときには、劣化度条件の成否に関わらず、充放電の役割が変更される。
【0083】
[E.充電休止判定部]
充電休止判定部19(休止制御手段)は、通常走行時の燃料電池3による充電を休止させるための判定を実施するものである。ここでは、所定の充電休止条件が成立する場合に充電電池への充電が一時的に禁止され、燃料電池3が発電アイドル状態に制御される。発電アイドル状態とは、燃料電池3が燃料供給を受けたまま発電を休止、もしくは、最小電力を供給する状態である。例えば、燃料電池3の電極とコンバーター6との間の直流回路上に介装されたスイッチが切断された状態や、発電モードを間欠モードあるいは低電圧発電モードで燃料供給を実施する状態などが発電アイドル状態に含まれる。
本実施形態では、放電電池の充電率SOCが休止判定充電率SOC
PAUSE以上であり、かつ、充電電池の電池温度Tが休止温度T
PAUSE以上であるときに充電が休止され、燃料電池3が発電アイドル状態に維持される。また、上記の条件が不成立になると、燃料電池3での発電が再開され、充電電池が充電される。
【0084】
休止判定充電率SOC
PAUSEは、劣化度判定部11で算出された二次電池2の劣化度差ΔDLに応じて設定される。充電休止判定部19は、劣化度差ΔDLに基づいて補正係数K
6を設定し、式7に示すように、補正係数K
6に標準休止充電率SOC
CBASEを乗じたものを放電電池の休止判定充電率SOC
PAUSEとして算出する。なお、充電の休止中に充放電の役割が切り換えられる可能性もあることから、標準休止充電率SOC
CBASEは比較的高い値に設定されることが好ましく、例えば70〜80%の範囲内の値とされる。
SOC
PAUSE=K
6×SOC
CBASE …式7
【0085】
補正係数K
6は、放電電池の劣化度DLが低いときよりも高いときの方が、充電が休止しにくくなるようにするための係数である。例えば、
図5(f)に示すように、劣化度差ΔDLが所定値D
6未満のときには、劣化度DLがほぼ均等であるとみなされて補正係数K
6の値が1.0に設定される。また、劣化度差ΔDLが所定値D
6以上のときには、劣化度差ΔDLが増大するほど補正係数K
6の値が1.0よりも大きい値に設定される。
【0086】
また、休止温度T
PAUSEについても、劣化度差ΔDLに応じた大きさに設定される。充電休止判定部19は、劣化度差ΔDLに基づいて補正係数K
7を設定するとともに、式8に示すように、補正係数K
7に標準休止温度T
CBASEを乗じたものを充電電池の休止温度T
PAUSEとして算出する。
T
PAUSE=K
7×T
CBASE …式8
【0087】
補正係数K
7は、劣化度の低い充電電池に比べて劣化度の高い充電電池の方が、より低温で休止するようにするための係数である。例えば、
図5(g)に示すように、劣化度差ΔDLが所定値D
7未満のときには、劣化度DLがほぼ均等であるとみなされて補正係数K
7の値が1.0に設定される。また、劣化度差ΔDLが所定値D
7以上のときには、劣化度差ΔDLが増大するほど補正係数K
7の値が1.0よりも小さい値に設定される。
【0088】
なお、上記の補正係数K
1〜K
7の設定に係る所定値D
1〜D
7は、同一値としてもよいし、各々を異なる値に設定してもよい。例えば、補正係数K
1の設定では、外部充電時の二次電池2の容量を確保する上では、所定値D
1をできるだけ大きく(他の所定値D
2〜D
7よりも大きく)することが考えられる。一方、外部充電による二次電池2の劣化を抑制する上では、所定値D
1をできるだけ小さく(他の所定値D
2〜D
7よりも小さく)することが考えられる。このように、具体的な所定値D
1〜D
7の値は、本電力制御装置1に求められる性能や特性に応じて適宜設定すればよい。
【0089】
[5.フローチャート]
図6〜
図10は、電子制御装置10で実施される制御手順を例示するフローチャートである。
図6は、二次電池2の状態に対応する制御用フラグを設定するフローである。また、
図7は通常走行時の充放電状態を制御するための各種パラメーターを算出するフローであり、
図8は通常走行時における燃料電池3の電気出力や二次電池2の充放電出力を制御するフローである。また、
図9は通常走行時における二次電池2の充放電の役割を切り換えるための判定を行うフローであり、
図10は外部充電時の充電状態を制御するフローである。これらのフローは、電子制御装置10の内部において所定周期で繰り返し実施される。
【0090】
[5−1.フラグ設定]
図6に示すフラグ設定フローでは、二次電池2の劣化度合いと充放電状態とに関する制御用のフラグF
LC,F
LDCが設定される。フラグF
LCは、通常走行時の充電対象の二次電池2が大劣化電池に分類されているときにF
LC=1(オン)に設定され、充電対象が大劣化電池でないときにF
LC=0(オフ)に設定されるものである。また、フラグF
LDCは、通常走行時の放電対象の二次電池2が大劣化電池に分類されているときにF
LDC=1(オン)に設定され、放電対象が大劣化電池でないときにF
LDC=0(オフ)に設定されるものである。
【0091】
ステップA10では、対象設定部12で通常走行時の放電電池と充電電池とが設定される。二次電池2の個数が二個の場合は、何れか一方が放電電池とされ、他方が充電電池とされる。また、ステップA20では、第一電池2a及び第二電池2bのそれぞれの劣化度DLが劣化度判定部11に読み込まれ、ステップA30において二つの二次電池2の劣化度DLの差の絶対値が劣化度差ΔDLとして演算される。
【0092】
ステップA40では、劣化度判定部11において、劣化度差ΔDLが所定値D
0を超えているか否かが判定される。ここで、ΔDL≦D
0であるときには、劣化状態が均等であると判断されてステップA70に進み、フラグF
LC,F
LDCの値がともに0に設定される。また、ΔDL>D
0であるときには、劣化度DLの大きい一方が大劣化電池であると判断されるとともに、劣化度DLの小さい一方が小劣化電池であると判断されて、ステップA50に進む。
【0093】
ステップA50では、ステップA10での設定に基づき、大劣化電池が充電電池であるか否かが判定される。この条件の成立時にはステップA80に進み、フラグF
LCの値が1に設定されるとともに、フラグF
LDCの値が0に設定される。ステップA50で大劣化電池が充電電池でないときには、ステップA60に進む。
【0094】
ステップA60では、大劣化電池が放電電池であるか否かが判定される。この条件の成立時にはステップA90に進み、フラグF
LCの値が0に設定されるとともに、フラグF
LDCの値が1に設定される。また、二次電池2の個数が三個以上の場合であって、大劣化電池が充電電池でも放電電池でもない場合には、ステップA70に進む。ステップA70,A80,A90の何れかでフラグが設定されると、ステップA100に進む。
【0095】
ステップA100では、外部充電制御部13において、外部充電開始条件が成立するか否かが判定される。例えば、充電ケーブルのインレット21への差し込みが検出され、外部電源から車載充電器8への給電がなされているときには、外部充電開始条件が成立すると判断され、
図10に示す外部充電フローに進む。一方、外部充電開始条件が成立しない場合には、
図7に示す通常走行時の充放電制御に係るパラメーター算出フローに進む。
【0096】
[5−2.パラメーター算出]
図7に示すパラメーター算出フローでは、充放電制御部14において、通常走行時の充放電制御に用いられるパラメーターが算出される。ステップB10ではフラグF
LCの値が判定され、F
LC=1であればステップB30〜B35に進み、F
LC=0であればステップB20に進む。また、ステップB20ではフラグF
LDCの値が判定され、F
LDC=1であればステップB40〜45に進み、F
LDC=0であればステップB50に進む。
ステップB30〜B35,B40〜45は、補正係数K
2〜K
7を設定するためのステップである。
【0097】
補正係数K
2は、大劣化電池が充電電池であるときの上限充電率SOC
MAX_CHAを減少補正するための係数である。したがって、ステップB30では、例えば
図5(b)に示すようなマップに基づいて、補正係数K
2が設定される。補正係数K
2の値は1.0以下の範囲内で設定され、劣化度差ΔDLが増大するほど小さくなる。一方、ステップB40では補正係数K
2の値がK
2=1.0とされる。
【0098】
補正係数K
3は、大劣化電池が放電電池であるときの下限充電率SOC
MIN_DISを増加補正するための係数である。したがって、ステップB31では補正係数K
3の値がK
3=1.0に設定される。一方、ステップB41では、例えば
図5(c)に示すようなマップに基づいて、補正係数K
3が設定される。補正係数K
3の値は1.0以上の範囲内で設定され、劣化度差ΔDLが増大するほど大きくなる。
【0099】
補正係数K
4は、大劣化電池が放電電池であるとき(すなわち、小劣化電池が充電電池であるとき)の燃料電池3の充電出力Qを増加補正するための係数である。したがって、ステップB32では補正係数K
4の値がK
4=1.0とされる。一方、ステップB42では、例えば
図5(d)に示すようなマップに基づいて、補正係数K
4が設定される。補正係数K
4の値は1.0以上の範囲内で設定され、劣化度差ΔDLが増大するほど大きくなる。
【0100】
補正係数K
5は、大劣化電池が放電電池であるときの放電出力Dの最大値である最大電気出力Q
MAXを減少補正するための係数である。したがって、ステップB33では、補正係数K
5の値がK
5=1.0に設定される。一方、ステップB43では、例えば
図5(e)に示すようなマップに基づいて、補正係数K
5が設定される。補正係数K
5の値は1.0以下の範囲内で設定され、劣化度差ΔDLが増大するほど小さくなる。
【0101】
補正係数K
6は、大劣化電池での放電中における充電休止の条件判定に使用される休止判定充電率SOC
PAUSEを増加補正するための係数である。したがって、ステップB34では、補正係数K
6の値がK
6=1.0に設定される。一方、ステップB44では、例えば
図5(f)に示すようなマップに基づいて、補正係数K
6が設定される。補正係数K
6の値は1.0以上の範囲内で設定され、劣化度差ΔDLが増大するほど大きくなる。
【0102】
補正係数K
7は、大劣化電池の充電中における充電休止の条件判定に使用される休止温度T
PAUSEを減少補正するための係数である。したがって、ステップB35では、例えば
図5(g)に示すようなマップに基づいて、補正係数K
7が設定される。補正係数K
7の値は1.0以下の範囲内で設定され、劣化度差ΔDLが増大するほど小さくなる。一方、ステップB45では補正係数K
7の値がK
7=1.0とされる。
また、充電電池,放電電池の何れも大劣化電池でない場合には、ステップB50において、全ての補正係数K
2〜K
7の値が1.0に設定される。
【0103】
ステップB60では、充電電池,放電電池のそれぞれの充電率SOCが算出され、ステップB70では、放電電池の充電率低下速度Xが算出される。また、ステップB80では、基本電気出力算出部15において、
図4に示すようなマップに基づき、放電電池の充電率低下速度Xと充電電池の充電率SOCとから燃料電池3の基本電気出力Q
FCが算出される。
【0104】
ステップB90では、充放電域算出部16において、補正係数K
2に標準上限充電率SOC
SFCBASEを乗じたものが充電電池の上限充電率SOC
MAX_CHAとして算出される。上限充電率SOC
MAX_CHAは、充電電池の充電が完了したときの充電率SOCに対応するものであり、
図9に示すフロー中で充放電の役割を切り換えるタイミングの判定に使用される。
【0105】
ステップB100では、充放電域算出部16において、補正係数K
3に標準下限充電率SOC
LWBASEを乗じたものが放電電池の下限充電率SOC
MIN_DISとして算出される。下限充電率SOC
MIN_DISは、放電電池の放電下限としての充電率SOCに対応するものである。また、上限充電率SOC
MAX_CHAと同様に、
図9に示すフロー中で充放電の役割を切り換えるタイミングの判定に使用される。
【0106】
ステップB110では、補正係数K
4に基本電気出力Q
FCを乗じたものが充電出力Qとして算出される。充電出力Qは燃料電池3の電気出力であり、モーター4に供給される電力に不足がない状態であれば、この電力が充電電池に供給される。
ステップB120では、補正係数K
5に標準最大電気出力Q
MAXBASEを乗じたものが最大電気出力Q
MAXとして算出される。最大電気出力Q
MAXは、放電電池の放電出力Dの最大値である。モーター4の要求電気出力Q
Mがこの最大電気出力Q
MAXを超えると、不足分の電気出力が燃料電池3から補充されることになる。
【0107】
ステップB130では、補正係数K
6に標準休止充電率SOC
CBASEを乗じたものが充電電池の休止判定充電率SOC
PAUSEとして算出される。また、ステップB140では、補正係数K
7に標準休止温度T
CBASEを乗じたものが充電電池の休止温度T
PAUSEとして算出される。これらの休止判定充電率SOC
PAUSE及び休止温度T
PAUSEは、充電電池の充電を一時的に休止させてもよい状態であるか否かを判定するために用いられる。
上記のパラメーターの算出が終了すると、
図8に示す通常走行時の充放電制御フローに進む。
【0108】
[5−3.充放電制御]
図8に示すフローでは、充放電制御部14において、二次電池2及び燃料電池3の電気出力の大きさが制御される。ステップC10では、モーター4の要求電気出力Q
Mが電子制御装置10に読み込まれる。また、ステップC20ではフラグF
LDCの値が判定され、F
LDC=1であればステップC30に進み、F
LDC=0であればステップC130に進む。
【0109】
ステップC30は、大劣化電池が放電電池であるときに実施されるステップである。このステップC30では、モーター4の要求電気出力Q
Mが放電電池の最大電気出力Q
MAXを超えているか否かが判定される。ここで、Q
M>Q
MAXのときにはステップC40に進み、Q
M≦Q
MAXのときにはステップC130に進む。
【0110】
ステップC40では、充放電出力算出部17において、要求電気出力Q
Mから最大電気出力Q
MAXを減じた値に補正係数Lを乗じたものが電気出力アシスト量Q
ASSTとして算出される。電気出力アシスト量Q
ASSTは、モーター4の要求電気出力Q
Mに対する放電出力Dの不足分の電気出力である。続くステップC50では、燃料電池3が起動中であるか否かが判定され、燃料電池3が起動中であればステップC60に進み、停止中であればステップC110に進む。ここでいう起動中には、燃料電池3が発電している状態(充電電池を充電している状態)や発電アイドル状態が含まれる。
【0111】
ステップC60では、燃料電池3が放電電池をアシストするのに十分な電気出力能力を持っているかどうかを確認するべく、充電出力Qと電気出力アシスト量Q
ASSTとの加算値(Q+Q
ASST)が燃料電池3の最大電気出力Q
FC_MAX未満であるか否かが判定される。ここで、Q
FC_MAX>(Q+Q
ASST)であるときには、燃料電池3の余力が十分にあるものと判断されてステップC70に進む。一方、Q
FC_MAX≦(Q+Q
ASST)であるときには、ステップC90に進む。
【0112】
ステップC70では、充電出力Qと電気出力アシスト量Q
ASSTとの加算値(Q+Q
ASST)が燃料電池3の実際の発電出力Q
TGTとして制御される。また、ステップC80では、放電出力Dが最大電気出力Q
MAXとなるように放電電池が制御される。これにより、充電電池に供給される充電入力Cは、充放電出力算出部17で算出された充電出力Qに対応するものとなる。
【0113】
ステップC90では、燃料電池3の電気出力が最大電気出力Q
FC_MAXになるように制御される。また、ステップC100では、放電出力Dが最大電気出力Q
MAXとなるように放電電池が制御される。このとき、充電電池に供給される充電入力Cは、最大電気出力Q
FC_MAXから電気出力アシスト量Q
ASSTを減じたものに相当し、充電出力Qよりも小さい値となる。
【0114】
ステップC110では、燃料電池3が停止中であるため、充電が完了した充電電池が一時的に放電可能な状態に遷移して暫定放電電池となり、電気出力アシスト量Q
ASSTに相当する放電出力Eが暫定放電電池からモーター4へと供給される。また、ステップC120では、放電電池の放電出力Dが最大電気出力Q
MAXとなるように制御される。なお、ステップC110の制御を実施する代わりに、後述する
図9のフローチャート内のステップD70に進み、充電電池と放電電池との役割を切り換えるような制御構成としてもよい。
【0115】
ステップC130は、放電対象が大劣化電池でないとき(F
LDC=0)、又は、モーター4の要求電気出力Q
Mが放電電池の最大電気出力Q
MAX以下のときに実施されるステップである。ここでは、ステップC50と同様に、燃料電池3が起動中であるか否かが判定され、燃料電池3が起動中であればステップC140に進み、停止中であればステップC160に進む。
【0116】
ステップC140では、充電出力Qが燃料電池3の実際の発電出力Q
TGTとして制御される。また、ステップC150では、放電出力Dがモーター4の要求電気出力Q
Mとなるように放電電池が制御される。これにより、充電電池に供給される充電入力Cは燃料電池3の充電出力Qに対応するものとなる。
【0117】
また、ステップC160では、燃料電池3による充電が実施されていない(すなわち、すでに充電が完了しているか、発電アイドル状態である)ため、放電出力Dがモーター4の要求出力Q
Mとなるように放電電池が制御される。ステップC80,C100,C120,C150及びC160が実施された後は、
図9に示す切り換え判定フローに進む。
【0118】
[5−4.切り換え判定]
図9に示す切り換え判定フローでは、二次電池2の充放電の役割を切り換えるタイミングと、充電電池の休止状態(燃料電池3の発電アイドル状態)とが制御される。このフロー中で使用されるフラグGは、外部充電後の充放電状態を把握するためのものである。外部充電が完了した後に全ての大劣化電池が一回以上、放電電池として使用されるまでの間はG=1に設定される。全ての大劣化電池が一回以上、放電電池として使用された後は、次の外部充電が完了するまでの間はG=0に設定される。
【0119】
ステップD10では、充電休止判定部19において、充電電池の電池温度Tが休止温度T
PAUSE未満であるか否かが判定される。ここで、T<T
PAUSEであるときには充電休止条件が成立しないため、ステップD50に進む。一方、T≧T
PAUSEであるときには、もう一つの充電休止条件を判定するためのステップD20に進む。
【0120】
ステップD20では、充電休止判定部19において、放電電池の充電率SOCが休止判定充電率SOC
PAUSE以上であるか否かが判定さる。ここで、充電率SOC<SOC
PAUSEであるときには充電休止条件が成立しないため、ステップD50に進む。一方、充電率SOC≧SOC
PAUSEであるときには充電休止条件が成立し、ステップD30に進む。
ステップD30では、燃料電池3が発電アイドル状態に制御され、一時的に発電が休止される。また、続くステップD40では、放電電池からの電力供給が継続される。その後の制御は、
図6のフラグ設定フローに進む。
【0121】
充電休止条件が不成立のときに進むステップD50では、切り換え判定部18において、第一の切り換え条件が判定される。ここでは、放電電池の充電率SOCがその下限充電率SOC
MIN_DIS以下であるか否かが判定される。ここで、充電率SOC≦SOC
MIN_DISであるときにはステップD60に進み、充電率SOC>SOC
MIN_DISであるときにはステップD100に進む。
【0122】
ステップD60では、充電電池の充電と放電電池からの放電とが終了し、続くステップD70において充放電の役割が切り換えられる。二次電池2の個数が二個の場合には、これまでの充電電池が新たに放電電池となり、これまでの放電電池が新たに充電電池とされる。また、二次電池2の個数が三個以上の場合には、所定の選択順序に従って新たな放電電池,充電電池が選択される。
【0123】
ステップD80では、大劣化電池に該当する二次電池2があるときに、全ての大劣化電池が少なくとも一回ずつ放電電池の役割を担ったか否かが判定される。この条件の成立時にはステップD90に進み、フラグGの値をG=0に設定した後に、
図6に示すフラグ設定フローに進む。
【0124】
ステップD50からステップD100に進んだ場合には、切り換え判定部18において、第二の切り換え条件が判定される。ここでは、充電電池の充電率SOCがその上限充電率SOC
MAX_CHA以上であるか否かが判定される。ここで、充電率SOC≧SOC
MAX_CHAであるときにはステップD110に進み、充電率SOC<SOC
MAX_CHAであるときにはステップD150に進む。なお、ステップD150では、引き続きそれぞれの二次電池2での充放電が継続され、
図6のフラグ設定フローに進む。
【0125】
ステップD110では、フラグF
LDCの値がF
LDC=1であるか否かが判定される。ここでF
LDC=1であるときにはステップD120に進み、F
LDC=0であるときにはステップD130に進む。また、ステップD120では、フラグGの値がG=0であるか否かが判定される。ここでG=0の場合には、ステップD60に進む。例えば、大劣化電池が放電電池であるときに小劣化電池の充電が完了すると、ステップD60以降に進んで充放電の役割が切り換えられる。
【0126】
一方、ステップD120でG=1の場合にはステップD130に進む。ステップD130では充電電池への充電が終了し、続くステップD140では放電電池からの放電のみが継続される。これらのステップは、充電電池が満充電状態となり、燃料電池3が作動を停止した状態に対応する。その後の制御は、
図6のフラグ設定フローに進む。
【0127】
[5−5.外部充電]
図10に示す外部充電フローでは、外部充電時における二次電池2の充電状態が制御される。ステップE10では、フラグF
LC又はF
LDCの何れかの値が1であるか否かが判定される。すなわち、二次電池2の中に大劣化電池があるか否かが判定される。ここで、F
LC=1又はF
LDC=1であるときにはステップE20に進み、それ以外の場合はステップE40に進む。
【0128】
ステップE20では、外部充電制御部13において補正係数K
1が設定される。補正係数K
1は、外部充電時における大劣化電池への充電を終了するための外部充電時上限充電率SOC
MAX_EXを減少補正するための係数である。したがって、ステップE20では、例えば
図5(a)に示すようなマップに基づいて、補正係数K
1が設定される。補正係数K
1の値は1.0以下の範囲内で設定され、劣化度差ΔDLが増大するほど小さくなる。
【0129】
ステップE30では、外部充電制御部13において、補正係数K
1に外部充電時標準上限充電率SOC
HPIBASEを乗じたものが大劣化電池の外部充電時上限充電率SOC
MAX_EXとして算出される。また、ステップE40では、ステップE30で設定されたもの以外の二次電池2についての外部充電時上限充電率SOC
MAX_EXが外部充電時標準上限充電率SOC
HPIBASEと同一値に設定される。したがって、相対的に劣化している二次電池2の外部充電時上限充電率SOC
MAX_EXは、その劣化度DLに応じて、劣化していない二次電池2と比較して小さくなる。
【0130】
ステップE50では、各々の二次電池2に与えられる電流値や電圧値に基づき、各々の充電率SOCが算出される。また、ステップE60では、全ての二次電池2について、個々の充電率SOCがその外部充電時上限充電率SOC
MAX_EXを超えたか否かが判定される。この条件が不成立の場合はステップE90に進み、外部充電が継続される。各々の二次電池2の充電率SOCや外部充電時上限充電率SOC
MAX_EXに差異があるときには、充電率SOCが外部充電時上限充電率SOC
MAX_EXに達したものから順に外部充電が終了し、他の二次電池2への外部充電が継続される。
【0131】
一方、全ての二次電池2の充電率SOCがそれぞれの外部充電時上限充電率SOC
MAX_EXに達したときにはステップE70に進み、外部充電が終了する。
また、続くステップE80では、
図9の切り換え判定フローで使用されるフラグGの値が1に設定される。その後の制御は、
図6のフラグ設定フローに進む。
【0132】
[6.作用]
[6−1.充放電域のグラフ]
第一電池2a及び第二電池2bの劣化度DLの経年変化を
図11(a)に示す。図中の破線は第一電池2aの劣化度DL
1のグラフであり、実線は第二電池2bの劣化度DL
2のグラフである。ここでは、第二電池2bの劣化進行速度が第一電池2aの劣化進行速度よりもやや速いものとする。
【0133】
二次電池2の使用開始時から時刻t
0までの期間は、第一電池2a,第二電池2bがともに徐々に劣化しており、劣化度差ΔDLが所定値D
0以下である。したがって、第一電池2aの上限充電率SOC
MAX,下限充電率SOC
MINのそれぞれが第二電池2bの上限充電率SOC
MAX,下限充電率SOC
MINと同一に設定され、充放電域が一致する。
【0134】
時刻t
0に劣化度差ΔDLが所定値D
0を超えると、劣化度DLの大きい第二電池2bが大劣化電池に分類されるとともに、第一電池2aが小劣化電池に分類される。これを受けて、第二電池2bの上限充電率SOC
MAXの値は、外部充電時,通常走行時の充電時の何れにおいても第一電池2aの上限充電率SOC
MAXの値よりも低く設定される。また、第二電池2bの下限充電率SOC
MINの値は、第一電池2aの下限充電率SOC
MINの値よりも高く設定される。
【0135】
このような設定により、
図11(b)に示すように、時刻t
0以降の第二電池2bの充放電域は、時刻t
0以前と比較して狭くなり、第二電池2bの充電率SOCは第一電池2aよりも狭い範囲内で増減を繰り返すことになる。したがって、過充電や深放電によって第二電池2bに与えられる電気的負荷が減少し、劣化の進行が抑制される。
【0136】
また、第二電池2bの充電率SOCの充放電域が狭くなることから、例えば充電率SOCが長時間、高い状態に置かれるような可能性が小さくなる。同様に、充電率SOCが過剰に低下した状態で放置される可能性も減少する。一方、無負荷状態の二次電池2には、充電率SOCが過多でも過少でもない中庸な状態(例えば、50%前後)であるときに劣化が進行しにくいという特性がある。したがって、第二電池2bは第一電池2aよりも劣化しにくくなり、
図11(a)に示すように第二電池2bの劣化度DLの減少勾配は徐々に緩やかとなる。
【0137】
一方、第二電池2bにやや遅れて第一電池2aの劣化度DLが低下し、破線グラフが実線グラフに徐々に接近する。劣化度差ΔDLが所定値D
0以下になるまで第一電池2aの劣化度DLが低下すると、大劣化電池,小劣化電池といった分類が白紙に戻され、同一の上限充電率SOC
MAX及び下限充電率SOC
MINの設定が使用されるようになる。
【0138】
このような制御の繰り返しにより、第一電池2a及び第二電池2bの劣化度DLは何れか一方が極端に増大することがなくなる。
図11(a)に示すように、第一電池2a及び第二電池2bの劣化度DLのばらつきは、所定値D
0前後で安定し、何れかの二次電池2のみが大きく劣化するようなことがない。また、二次電池2の個数が三個以上であっても、劣化度DLが大きいほどその進行が抑制されるため、各々の劣化度DLのばらつきが概ね所定値D
0の範囲内に収束し、劣化が均等に進行する。
【0139】
[6−2.充放電サイクル,充電率のグラフ]
第一電池2a及び第二電池2bの充電率SOCの経時変化を
図12(a),(b)に示す。ここでは、第一電池2aが小劣化電池に分類され、第二電池2bが大劣化電池に分類された状態での充放電サイクルを説明する。第二電池2bの上限充電率SOC
MAX及び外部充電時上限充電率SOC
MAX_EXは、第一電池2aの上限充電率SOC
MAX及び外部充電時上限充電率SOC
MAX_EXよりも低く設定される。また、第二電池2bの下限充電率SOC
MINは、第一電池2aの下限充電率SOC
MINよりも高く設定される。
【0140】
時刻t
1以前の状態は、第一電池2aが放電電池であり、第二電池2bが充電電池である。時刻t
1に放電側の第一電池2aの充電率SOCが下限充電率SOC
MIN以下になると、第一の切り換え条件が成立して充放電の役割が切り換えられる。このとき、第一電池2aが充電電池となり、第二電池2bが放電電池となる。
【0141】
時刻t
1から時刻t
2の区間(区間t
1〜t
2)では、第二電池2bの放電出力Dがモーター4に供給されるとともに、燃料電池3の充電出力Qが第一電池2aに供給され、第一電池2aが充電される。第二電池2bの充放電域は第一電池2aの充放電域よりも幅が狭く設定されるため、第二電池2bの放電出力Dでモーター4を駆動できる時間は第一電池2aよりも短くなりやすい。
【0142】
一方、小劣化電池である第一電池2aを充電するための燃料電池3の充電出力Qは、大劣化電池である第二電池2bの劣化度DLが大きいほど増大する。これにより、区間t
1〜t
2での第一電池2aの充電率上昇勾配は、時刻t
1以前の第二電池2bの充電率上昇勾配よりも急勾配となり、第一電池2aの充電時間が短縮される。したがって、第一電池2aの充電率SOCは、比較的早期に高いレベルまで回復する。
【0143】
また、区間t
1〜t
2で第一電池2aに供給される燃料電池3の充電出力Qは、そのときの放電対象である第二電池2bの充電率低下速度Xに応じて増減制御される。例えば、
図4に示すように、第二電池2bの充電率低下速度Xが大きいほど、早期に電力を消耗しやすいことを踏まえて基本電気出力Q
FCが高く設定されるため、燃料電池3の充電出力Qの大きさが適正化される。
時刻t
2に第二電池2bの充電率SOCが下限充電率SOC
MIN以下になると、第一の切り換え条件が成立して充放電の役割が切り換えられる。このとき、第一電池2aが放電電池となり、第二電池2bが充電電池となる。
【0144】
区間t
2〜t
3では、第一電池2aの放電出力Dがモーター4に供給されるとともに、燃料電池3の充電出力Qが第二電池2bに供給され、第二電池2bが充電される。第一電池2aの充放電域は第二電池2bの充放電域よりも幅が広く設定されるため、第一電池2aの放電出力Dでモーター4を駆動できる時間は比較的長時間となる。
【0145】
また、大劣化電池である第二電池2bを充電するための燃料電池3の充電出力Qは、小劣化電池である第一電池2aの充電時よりも小さく設定される。これにより、区間t
2〜t
3での第二電池2bの充電率上昇勾配は、区間t
1〜t
2での第一電池2aの充電率上昇勾配よりも緩勾配となり、第二電池2bに対する充電負荷が軽減される。したがって、第二電池2bの劣化の進行が抑制される。
【0146】
時刻t
3に第二電池2bの充電率SOCが上限充電率SOC
MAX以上になると、第二電池2bの充電が終了し、燃料電池3が停止する。このとき、第一電池2aの充電率SOCはまだ下限充電率SOC
MIN以下ではないため、引き続き第一電池2aが放電電池として働く。その後、時刻t
4に第一電池2aの充電率SOCが下限充電率SOC
MIN以下になると、第一の切り換え条件が成立して充放電の役割が切り換えられる。なお、区間t
3〜t
4は、第二電池2bに対して電気的負荷が何も作用しない無負荷期間となる。したがって、第二電池2bの劣化の進行はさらに抑制される。
【0147】
区間t
4〜t
5では、区間t
1〜t
2と同様に、第二電池2bの放電出力Dがモーター4に供給されるとともに、燃料電池3の充電出力Qが第一電池2aに供給され、第一電池2aが充電される。一方、大劣化電池である第二電池2bが放電電池であるときには、第一の切り換え条件だけでなく、第二の切り換え条件が成立した場合にも、充放電の役割が切り換えられる。
【0148】
例えば、時刻t
5に第一電池2aの充電率SOCが上限充電率SOC
MAX以上になると、たとえ第二電池2bの充電率SOCが下限充電率SOC
MIN以下になっていなくても、充放電の役割が切り換えられ、第一電池2aが放電電池となる。したがって、第二電池2bが放電電池として使用される累計時間は、第一電池2aが放電電池として使用される累計時間よりも短くなり、第二電池2bの劣化の進行が抑制される。
【0149】
このとき第二電池2bは、充電率SOCが比較的高い状態で充電電池となるため、その後の充電時間が短縮される。時刻t
6に第二電池2bの充電率SOCが上限充電率SOC
MAX以上になると、第二電池2bの充電が終了し、燃料電池3が停止する。このように、充電時間が短縮されることでも、第二電池2bの劣化の進行が抑制される。
また、区間t
6〜t
7は、区間t
3〜t
4と同様に第二電池2bの無負荷期間となる。充電時間が短縮されるほど、無負荷期間が延長されることになり、第二電池2bの劣化の進行が抑制される。
【0150】
区間t
7〜t
8は、外部充電が実施される区間である。外部充電時には、第一電池2a及び第二電池2bの両方が充電される。しかし、大劣化電池である第二電池2bの外部充電時上限充電率SOC
MAX_EXは、第一電池2aの外部充電時上限充電率SOC
MAX_EXよりも低く設定されるため、第二電池2bに与えられる電気的負荷が減少し、劣化の進行が抑制される。反対に、第一電池2aは第二電池2bよりも外部充電時上限充電率SOC
MAX_EXが高く設定されるため、二次電池2の充電容量は十分に確保される。
【0151】
外部充電が完了した後には、大劣化電池である第二電池2bが第一電池2aよりも優先的に、放電電池として使用される。区間t
8〜t
9では、第二電池2bの放電出力Dがモーター4に供給される。これにより、第二電池2bの充電率SOCが高い状態である時間が短縮され、第二電池2bの劣化の進行が抑制される。また、第二電池2bの充電率SOCが過多でも過少でもない中庸な状態(例えば、50%前後)に近づくことから、第二電池2bの劣化の進行がより効果的に抑制される。
【0152】
[7.効果]
[7−1.燃料電池の出力]
(1)上記の電力制御装置1では、放電側の二次電池2の充電率低下速度Xに基づいて燃料電池3の基本電気出力Q
FCが算出される。これにより、それぞれの二次電池2の放電速度に応じた燃料電池3の電気出力制御が可能となり、燃料電池3の劣化の進行を抑制しつつ二次電池2の電欠を防止できる。
例えば、モーター4の要求電気出力Q
Mが小さく、放電側の二次電池2の充電率SOCがゆっくりと低下するような運転状態では、燃料電池3の基本電気出力Q
FCが小さく設定される。これにより燃料電池3の発電負荷が小さくなり、燃料電池3の劣化を抑制することができる。また、燃料電池3の電気出力が比較的小さくなるため、燃料電池3の発電効率を高めることができる。さらに、発電効率が向上することで燃料電池3の駆動に係る燃費を改善することができ、車両20のランニングコストを削減することができる。
【0153】
一方、モーター4の要求電気出力Q
Mが大きく、放電側の二次電池2の充電率SOCが急激に低下するような運転状態では、燃料電池3の基本電気出力Q
FCが大きく設定されるため、充電側の二次電池2が比較的早期に充電される。このように、電力の消費速度に応じて燃料電池3の電気出力を増減制御することができ、燃料電池3の劣化の進行を抑制しつつ二次電池2の電欠を防止できる。
【0154】
なお、二次電池2の充電率低下速度Xは、劣化が進行するほど速くなる傾向がある。そのため、本電力制御装置1では、大劣化電池の放電時には小劣化電池に供給される充電入力Cが増大し、小劣化電池の放電時には大劣化電池に供給される充電入力Cが減少する。つまり、相対的に劣化している二次電池2への充電時の燃料電池3の電気出力が減少し、これに伴って充電側の二次電池2の劣化が抑制されることになる。
したがって、燃料電池3の電気出力制御を通して、複数の二次電池2の劣化状態を均等化することができる。これにより、二次電池2の耐用年数を延長することができ、コストパフォーマンスを高めることができる。なお、相対的に劣化していない側の二次電池2に関しても、燃料電池3の電気出力を絞ることで二次電池2に作用する電気的負荷を軽減することができ、二次電池2の劣化の進行を抑制することができる。
【0155】
(2)また、上記の電力制御装置1では、放電電池の充電率低下速度Xだけでなく充電電池の充電率SOCにも基づいて燃料電池3の基本電気出力Q
FCが算出される。
例えば、充電電池の充電率SOCが比較的高ければ、急いで充電を完了しなくても電欠が生じないため、基本電気出力Q
FCが小さく設定される。このように、電力消費速度に対して充電率SOCに余裕がある場合には、燃料電池3を低出力とすることで、二次電池2の電欠を防止しながら、二次電池2及び燃料電池3の劣化を抑制できる。
また、充電電池の充電率SOCが比較的低ければ、燃料電池3が高出力とされるため、電欠が発生する可能性を低めることができる。
【0156】
(3)また、上記の電力制御装置1では、
図4に示すように、充電側の二次電池2の充電率SOCが低いほど、又は、放電側の二次電池2の充電率低下速度Xが大きいほど、燃料電池3の基本電気出力Q
FCを増加させている。これにより、充電対象及び放電対象の双方の二次電池2の充放電状態に応じた燃料電池3の電気出力制御が可能となり、燃料電池3の劣化の進行を抑制しつつ二次電池2の電欠を防止できる。
(4)また、上記の電力制御装置1では、
図4に示すように充電率低下速度Xよりも充電電池の充電率SOCが基本電気出力Q
FCの値に強く反映される。このように、充電側の充電率SOCが燃料電池3の電気出力値に与える影響を強めることで、二次電池2の電欠をより確実に防止することができ、車両設備の信頼性を向上させることができる。
【0157】
(5)さらに、上記の電力制御装置1では、二次電池2の劣化度差ΔDLに基づいて補正係数K
4が設定され、補正係数K
4に基本電気出力Q
FCを乗じたものが充電出力Qとして算出される。補正係数K
4は、大劣化電池に比べて小劣化電池への電気出力を増加させるように作用する係数である。つまり、燃料電池3によって充電される充電電池の劣化度DLが高いほど、燃料電池3の電気出力が減少する。
したがって、相対的に劣化が進行した二次電池2について、その劣化度DLが高いほど、劣化の進行を抑制することができ、複数の二次電池2の劣化状態を均等化することができる。また、上記の充電率低下速度Xに基づいて燃料電池3の電気出力を制御するものと比較して、二次電池2の相対的な劣化状態を燃料電池3の電気出力に直接的に反映させることができ、劣化状態の均等化効果を高めることができる。
【0158】
[7−2.充放電域の設定]
(1)上記の電力制御装置1では、複数の二次電池2の相対的な劣化度合いが判定されるとともに、その劣化度合いに応じて、個々の二次電池2の充電率SOCの許容変動幅が設定される。例えば、大劣化電池の充電率SOCの許容変動幅は、小劣化電池の充電率SOCの許容変動幅よりも狭くなるように設定される、また、劣化が進行するにつれて、充電率SOCの許容変動幅が狭められる。これにより、
図12(a),(b)に示すように、大劣化電池は小劣化電池よりも早く充電が完了し、あるいは早く放電が完了することになり、小劣化電池よりも大劣化電池の実質的な使用時間(累積使用時間)が短縮される。
【0159】
このように、相対的な劣化度に応じて充電率SOCの変動範囲の幅を設定することで、その電池の使用時間や使用頻度を変更することができる。したがって、劣化の進行を抑制したい電池の使用時間や使用頻度が減少するような設定を用いれば、劣化の進行を抑制することができ、劣化状態を均等化することができる。また、充電率SOCの許容変動幅が狭められることから、充電率SOCが大きく急変することがなく安定した状態で大劣化電池が運用されることになる。このような点でも、効果的に劣化を抑制することができ、劣化状態を均等化することができる。
【0160】
(2)また、上記の電力制御装置1では、大劣化電池の上限充電率SOC
MAXが小劣化電池の上限充電率SOC
MAXよりも小さい値に設定される。これにより、小劣化電池と比較して、大劣化電池が過充電の状態になりにくくなり、二次電池2に与えられる電気的負荷が減少する。したがって、小劣化電池よりも大劣化電池の劣化の進行を抑制することができ、個々の二次電池2の劣化状態を均等化することができる。
また、個々の二次電池2の劣化状態を均等化することで、二次電池2の全体で使用することができる電力を増大させることができ、使用可能な電池容量の低下を抑制することができる。これにより、二次電池2の耐用年数を延長することができ、コストパフォーマンスを向上させることができる。
【0161】
(3)また、上記の電力制御装置1では、上限充電率SOC
MAXだけでなく下限充電率SOC
MINについても、劣化度合いに応じて設定される。すなわち、大劣化電池の下限充電率SOC
MINが、小劣化電池の下限充電率SOC
MINよりも大きい値に設定される。これにより、小劣化電池と比較して、大劣化電池が深放電の状態になりにくくなり、二次電池2に与えられる電気的負荷が減少する。したがって、小劣化電池よりも大劣化電池の劣化の進行を抑制することができ、個々の二次電池2の劣化状態を均等化することができる。
【0162】
(4)また、上記の上限充電率SOC
MAX及び下限充電率SOC
MINのそれぞれの値は50%を挟んで設定される。これにより、各二次電池2の充放電域には少なくとも50%充電率の状態が含まれることになる。また、二次電池2の許容変動幅は、劣化が進行するにつれて徐々に50%に近づくように狭められる。つまり、劣化が進行するほど、より劣化が進行しにくい安定した領域で充放電が繰り返されることになる。
したがって、二次電池2の劣化の進行を効率的に抑制することができる。また、二次電池2の劣化が進行するほどその進行速度が遅くなるため、複数の二次電池2の劣化状態を均等化することができる。
【0163】
(5)また、
図12(b)に示すように、大劣化電池は小劣化電池と比較して、満充電状態で放置される時間が長くなる傾向にある。一方、大劣化電池の上限充電率SOC
MAXを50%に設定した場合には、充電が完了した満充電状態の充電率SOCが50%に維持されることになる。したがって、劣化が進行しにくい充電率SOCの状態を長時間維持することができ、劣化の進行を抑制することができ、個々の二次電池2の劣化状態を均等化することができる。
【0164】
(6)また、通常走行時の燃料電池3による充電時に設定される上限充電率SOC
MAXと比較して、外部充電時に設定される上限充電率SOC
MAXは大きく設定されるため、ある程度の二次電池2の充電容量を確保することができる。一方、充電率SOCが高いほど劣化が進行しやすくなるため、大劣化電池の上限充電率SOC
MAXは、少なくとも小劣化電池の上限充電率SOC
MAXよりも小さく設定される。これにより、充電容量を確保しながら、劣化の進行を抑制することができる。
【0165】
また、燃料電池3による充電時と同様に、外部充電時の上限充電率SOC
MAXは個々の二次電池2の劣化状態に応じた大きさに設定される。すなわち、劣化度DLが高い二次電池2の上限充電率SOC
MAXはやや低めに設定され、劣化度DLが低い二次電池2の上限充電率SOC
MAXはやや高めに設定される。したがって、十分な充電容量で航続距離を確保することができるとともに、各々の二次電池2の劣化状態を均等化することができる。
【0166】
[7−3.充放電対象の切り換え]
(1)上記の電力制御装置1では、二つの二次電池2の一方が放電電池として機能している間に、他方が充電電池とされる。これらの充放電の役割の切り換え条件の判定は、各々の二次電池2の劣化度DLに応じて変更される。このように、二次電池2の相対的な劣化度合いに基づいて放電対象を変更する条件を変化させることで、電欠の発生を抑制しつつ劣化が進行しにくい放電態様を選択することができ、二次電池2の劣化の進行を抑制することができる。これにより、各々の二次電池2の劣化状態を均等化することができる。
【0167】
(2)また、上記の電力制御装置1の切り換え判定部18には、放電電池の充電率SOCに関する第一の切り換え条件を判定する第一変更部18aが設けられる。これにより、充電対象の劣化度DLの大小に関わらず、充電容量を確保しつつ、放電対象の電力を有効に活用できる。
一方、この切り換え判定部18には、充電電池の充電率SOCに関する第二の切り換え条件を判定する第二変更部18bが併設される。これにより、劣化度DLに応じて充電対象と放電対象とを切り換えることができ、累積使用時間を均一化することができる。したがって、一方のみの二次電池2に偏った劣化の進行を抑制することができる。
【0168】
(3)例えば、大劣化電池が放電電池であるときには、小劣化電池が放電電池である場合よりも早く放電出力Dが底をつくものと考えられる。そこで、上述の実施形態では、上記の第一の切り換え条件に加えて、充電電池の充電率SOCがその上限充電率SOC
MAX_CHA以上になったときにも、充電電池と放電電池とを交代させている。つまり、大劣化電池の充電率SOCがその下限充電率SOC
MIN_DIS以下まで低下していない状態であっても、小劣化電池の充電が完了した場合には、その小劣化電池に放電させている。このような制御により、大劣化電池の実質的な充電率SOCの変動範囲をより狭くすることができるとともに、大劣化電池の累積使用時間を相対的に短縮することができ、劣化の進行を抑制することができる。
【0169】
(4)また、小劣化電池が放電電池であるときには、充電電池の劣化度合いが相対的に大きく、充電容量がやや減少しているものと考えられる。そこで、上述の実施形態では、放電電池の充電率SOCがその下限充電率SOC
MIN_DIS以下になるまでは、充電電池と放電電池とを交代させないようにしている。このような制御により、劣化が進行した二次電池2への充電量を確保することができる。
【0170】
また、大劣化電池の充電状態が満充電状態になったとしても、小劣化電池の充電率SOCがその下限充電率SOC
MIN_DIS以下まで低下しない限り、小劣化電池の放電状態が維持される。つまりこの場合、大劣化電池には電気的負荷が作用しない未使用の状態となる。したがって、大劣化電池の累積使用時間を相対的に短縮することができ、劣化の進行を抑制することができる。
【0171】
(5)また、二次電池2の劣化度合いが均等であるときには、放電電池の選択順序が所定順序とされるため、各々の二次電池2の累積使用時間をほぼ均一にすることができ、劣化状態を均等化することができる。一方、二次電池2の劣化度合いに大きなばらつきが生じると、大劣化電池が外部充電完了後の最初の放電対象とされる。このように、大劣化電池を優先的に放電させることで、大劣化電池の充電率SOCが高い状態のままとされる時間を短くすることができる。
【0172】
また、大劣化電池の充電率SOCをできるだけ早めに下げておくことで、より劣化が進行しにくい安定した充電率SOCの状態(50%の充電率)に近づけることができる。したがって、劣化の進行を抑制することができ、二次電池2の劣化状態を均等化することができる。
【0173】
(6)また、例えば二次電池2が三個以上であって、大劣化電池に分類されるものが複数ある場合には、放電電池の選択順序が劣化度DLの高い順に変更される。このようなスケジューリングにより、大劣化電池を小劣化電池よりも優先的に放電させて、劣化の進行を抑制することができる。したがって、二次電池2の劣化状態を均等化することができる。
【0174】
[7−4.放電出力の補填]
(1)上記の電力制御装置1では、放電電池である大劣化電池からの放電出力Dがその劣化度DLに応じて制限される。例えば、劣化度差ΔDLに基づいて設定された補正係数K
5を標準最大電気出力Q
MAXBASEに乗じたものが、その大劣化電池の最大電気出力Q
MAXとされる。これにより、大劣化電池からの高出力の持ち出しが抑制されるため、劣化の進行を抑制することができ、二次電池2の劣化状態を均等化することができる。
【0175】
(2)また、モーター4の要求電気出力Q
Mが放電電池の最大電気出力Q
MAXを超えたときには、不足分の出力が燃料電池3や小劣化電池から補充される。したがって、大劣化電池からの高出力の持ち出しを抑制しつつ、モーター4の要求電気出力Q
Mに対して過不足のない電力を供給することができ、車両20の加速性能や走行性能を確保することができる。
【0176】
(3)また、上記の電力制御装置1では、燃料電池3が起動している状態(すなわち、小劣化電池の充電中や発電アイドル状態)であれば、燃料電池3の実際の発電出力Q
TGTが電気出力アシスト量Q
ASSTに基づいて算出される。この電気出力アシスト量Q
ASSTとは、要求電気出力Q
Mから最大電気出力Q
MAXを減じた値に補正係数Lを乗じたものである。また、小劣化電池の充電に供される充電出力Qと電気出力アシスト量Q
ASSTとの加算値(Q+Q
ASST)が、燃料電池3の実際の発電出力Q
TGTとして設定される。これにより、不足分の電気出力に見合った電気出力を速やかに燃料電池3からモーター4へと供給することができる。また、燃料電池3の電気出力能力に応じて、充電を継続したままの状態で電気出力を補填することができる。
【0177】
(4)なお、充電出力Qと電気出力アシスト量Q
ASSTとの加算値(Q+Q
ASST)が燃料電池3の最大電気出力Q
FC_MAX以上の場合には、最大電気出力Q
FC_MAXが燃料電池3の実際の発電出力Q
TGTとされる。このとき、モーター4側に伝達される電気出力は電気出力アシスト量Q
ASSTとなり、小劣化電池に供給される充電入力Cが減少することになる。したがって、燃料電池3の電気出力に余裕がない場合であっても、充電電池に供給される充電量をやや低下させて、モーター4の要求電気出力Q
Mを確保することができる。
【0178】
(5)また、燃料電池3が起動していない状態(すなわち、小劣化電池の充電がすでに完了した後の停止状態)であれば、大劣化電池だけでなく小劣化電池からもモーター4の駆動電力が供給される。このとき、二つの二次電池2の両方が同時に放電電池として機能することになる。このような電気出力アシストにより、必要以上に燃料電池3を起動させることなく、モーター4の要求電気出力Q
Mに応えることができ、車両20の走行性能を確保しながら燃料電池3の燃料消費を抑えることができる。
【0179】
(6)また、相対的な劣化度DLが高い放電電池に対して、相対的な劣化度DLが低い充電電池を暫定放電電池として機能させて電気出力アシストを行うことで、放電電池の放電負荷を軽減することができる。これにより、劣化の進行を効率的に抑制することができ、効率的に二次電池2の劣化状態を均等化することができる。さらに、暫定放電電池の放電出力Eを増加させて、電気出力アシスト量Q
ASSTと放電電池の最大電気出力Q
MAXとの加算値(Q
ASST+Q
MAX)まで賄うようにすれば、放電電池の使用時間や使用頻度を削減することができ、劣化の抑制効果をさらに向上させることができる。
【0180】
[7−5.充電の一時休止]
(1)上記の電力制御装置1では、所定の充電休止条件が成立すると、燃料電池3が一時的に発電アイドル状態に制御され、燃料電池3による充電電池への充電が一時的に中断される。また、充電休止条件としては、放電電池の充電率SOCと充電電池の電池温度Tとが判定される。このように、放電対象の充電率SOCと充電対象の電池温度Tとに基づいて充電対象の充電の可否を判断することで、充電入力Cの余力や充電環境温度が劣化度DLに及ぼす影響力の大小に応じて充電を実施し、あるいはこれを中断することができる。これにより、電欠を発生させることなく二次電池2の劣化を抑制することができ、二次電池2の劣化状態を均等化することができる。
【0181】
(2)また、上記の電力制御装置1では、放電電池の充電率SOCが休止判定充電率SOC
PAUSE未満のときには充電電池への充電が中断されない。これにより、放電電池の電力残量が少なくなったときに、即座に放電電池と充電電池とを切り換えることができ、電欠を確実に防止することができる。また、放電電池の電力に余力があり、かつ、充電電池の電池温度Tが休止温度T
PAUSE以上になると充電が休止するため、充電電池に対して高温状態で電気的負荷を与えることを回避でき、劣化の進行を効果的に抑制することができる。
【0182】
(3)また、充電電池の相対的な劣化度DL(劣化度差ΔDL)に基づいて休止温度T
PAUSEを設定することで、充電電池の温度環境に応じて充電を休止することができ、劣化の進行を効率的に抑制することができる。一方、放電電池の相対的な劣化度DLに応じて所定充電率を設定することで、放電電池の充電率SOCの余力に応じて充電を休止することができ、劣化の進行を効率的に抑制することができる。
【0183】
(4)例えば、大劣化電池の充電時における休止温度T
PAUSEは、小劣化電池の充電時における休止温度T
PAUSEよりも低く設定されるため、比較的低温な温度環境で劣化度合いの大きい大劣化電池を充電することができ、劣化の進行を効率的に抑制することができる。
また、小劣化電池に対する大劣化電池の相対的な劣化度DLが高いほど、休止温度T
PAUSEが低く設定される。したがって、大劣化電池の充電を休止させやすくすることができ、効果的に劣化の進行を抑制することができ、複数の二次電池2の劣化状態を均等化することができる。
【0184】
(5)また、例えば大劣化電池の放電時における休止判定充電率SOC
PAUSEは、小劣化電池の放電時における休止判定充電率SOC
PAUSEよりも高く設定されるため、比較的電力に余力が生じるまで大劣化電池を充電することができ、電欠をより確実に防止することができる。さらに、劣化度の大きい電池は、たとえ充電率SOCが高くとも放電特性が低下している場合があり、短時間の使用で電力が枯渇する可能性がある。一方、放電対象の劣化度に応じて休止判定充電率SOC
PAUSEを設定することで、充電入力Cの余力に応じて充電を休止することができ、劣化の進行を効率的に抑制することができる。
【0185】
また、上記の電力制御装置1では、小劣化電池に対する大劣化電池の相対的な劣化度DLが高いほど、休止判定充電率SOC
PAUSEが高く設定される。したがって小劣化電池に関しては、大劣化電池とは異なり、充電を休止させにくくすることができ、電欠をより確実に防止することができる。
【0186】
(6)なお、上記の電力制御装置1では、充電休止条件が成立したときに、燃料電池3が発電アイドル状態に制御される。この発電アイドル状態では、燃料電池3への燃料供給が継続されるため、充電休止条件が不成立となった時点で迅速に充電を再開することができる。したがって、電欠の発生を回避しながら、劣化の進行を効果的に抑制することができる。
【0187】
[8.変形例]
上述した実施形態に関わらず、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。本実施形態の各構成は、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせてもよい。
【0188】
例えば、車両20の駆動源としてエンジン及びモーター4を備えたハイブリッド車両に対して上記の電力制御装置1を適用することも可能である。少なくとも、モーター4の電力源として複数の二次電池2を備え、さらにそれらの二次電池2を充電する燃料電池3を備えた車両20であれば、上述の制御を実施することができる。また、上述の実施形態では、二次電池2の個数が二個の場合について詳述したが、二次電池2の個数が三個以上であってもよい。この場合、対象設定部12での放電電池,充電電池の選択順序は、公知のスケジューリング方式を適用して定めればよい。