(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を用いて本発明の実施の形態を説明する。
図1は第1及び第2実施形態にかかる装置構成を示すブロック図であり、
図2,
図3,
図5,
図6は第1及び第2実施形態にかかる水温推定を、
図4は第1実施形態にかかる水温測定をそれぞれ説明するグラフであり、
図6,
図7,
図9は第1及び第2実施形態にかかる水ン推定を、
図8は第1実施形態にかかる水温推定をそれぞれ説明するフローチャートであり、
図10は第1及び第2実施形態にかかる水温推定を説明するフローチャートである。また、
図11,
図12は第2実施形態にかかる水温推定を説明するグラフであり、
図13は第2実施形態にかかる水温推定を説明するフローチャートである。これらの図を用いて本実施形態を説明する。
【0020】
[第1実施形態]
〔1.エンジン及びエンジン制御装置の構成〕
まず、
図1を参照して、第1実施形態にかかるエンジン並びにその冷却水温推定装置及びその制御装置の構成を説明する。
図1に示すように、車両に搭載されたエンジン1は、シリンダブロック2とシリンダヘッド3とを備え、シリンダブロック2には、シリンダ4が形成され、シリンダ4の周囲にはウォータジャケット5が形成されている。シリンダ4内にはピストン6が摺動自在に装備され、ピストン6はコネクティングロッド7を介してクランク軸8と連結されている。シリンダ4内のピストン6の上部には燃焼室9が形成される。
図1はエンジンの1つのシリンダ4に着目した断面図であり、シリンダ4は複数並んで設けられている。
【0021】
シリンダヘッド3には、燃焼室9に開口する吸気ポート11及び排気ポート12が形成され、吸気ポート11には吸気弁13が、排気ポート12には排気弁14が装備されている。シリンダヘッド3の燃焼室9の頂部には、燃焼室9に向けて点火プラグ10が配設される。吸気ポート11の上流には、吸気管15及び吸気マニホールド16が接続され、これらの吸気通路15,16には上流からエアフィルタ17,スロットル弁18,インジェクタ20が装備される。排気ポート12の下流には、排気マニホールド19及び図示しない排気管が接続されている。
【0022】
また、吸気管15の上流部にはエアフローセンサ21が設けられ、スロットル弁18にはスロットル開度センサ22が設けられている。さらに、シリンダブロック2はウォータジャケット5の近傍等にウォータジャケット5内を流通する冷却水(クーラント)の温度(実水温)を検出する水温センサ(水温検出手段)23が装備され、クランク軸8の近傍等にはクランク角度を検出するクランク角センサ24が設けられ、このクランク角センサ24は、エンジンの回転速度を検出する回転速度検出手段としても機能する。
【0023】
なお、ウォータジャケット5内の冷却水は、図示しないラジエータを備えた冷却水循環回路内を循環し、エンジン冷却により加温されて所定の温度域に達したら、例えばサーモスタット等を用いた公知の技術によりラジエータによる放熱が調整され適当な温度範囲に管理される。
さらに、例えば車輪速から車両の車速を検出する車速センサ(車速検出手段)25や、車両の周囲の外気の温度Toutを検出する外気温センサ26が装備される。エンジン1への吸気の温度Tiaは外気温度Toutに相当するので、外気温センサ26は外気温度検出手段及び吸気温度検出手段として機能する。また、車両のアクセルペダルの踏み込み量を検出するアクセル開度センサ(アクセル開度検出手段)27も装備されている。
【0024】
エンジン1は、このような各センサ類21〜27をはじめとしたエンジン1の運転状態を検出する運転状態検出手段からの情報に基づいて、エンジン制御装置(エンジンECU)50によって制御される。このエンジンECU50は、マイクロコンピュータを主体として構成され、内蔵されたROM(記憶媒体)に記憶された各種のエンジン制御プログラムを実行することで、エンジン運転状態に応じてインジェクタ20による燃料噴射量や燃料噴射タイミング、点火プラグ10による点火時期等を制御する。
【0025】
エンジンECU50では、エンジンの各制御に、エンジン回転数(エンジン回転速度)Neとエンジン負荷に相当する充填効率Ecを用いている。充填効率Ecは、吸気行程(ピストン16が上死点から下死点に移動するまでの一行程)の間にシリンダ4内に充填される空気の体積を標準状態での気体体積に正規化したのちシリンダ容積で除算したものであり、例えば、クランク角センサ24によるクランク角検出情報と、エアフローセンサ21による吸入空気量の検出情報とから算出することができる。
【0026】
また、エンジン制御のうち、燃料噴射量等の燃料噴射制御を行なうために、エンジンECU50には、燃料噴射制御部60が設けられている。燃料噴射制御部60では、主として、エンジン回転数Neと充填効率Ecと冷却水の水温Twとに基づいて燃料噴射を制御する。また、燃料噴射制御部60には、エンジン1の作動中にエンジンの運転状態に応じて燃料噴射を停止(カット)する燃料カット制御部61が設けられている。
【0027】
つまり、燃料カット制御部61では、燃料カット条件が成立すると燃料噴射を停止する燃料カットを行ない、この燃料カット時に、燃料噴射復帰条件が成立すると燃料噴射を再開する。
燃料カット条件は、例えば、エンジン回転数Neが所定回転数Ne01以上であって、且つ、エンジン1がオフアイドル状態からアイドル状態に切り替わったこと(又は、エンジン1への負荷要求がなくなったこと)として規定される。また、燃料噴射復帰条件は、例えば、エンジン回転数Neが所定回転数Ne02(Ne02<Ne01)以下となるか、又は、エンジン1がアイドル状態からオフアイドル状態に切り替わったこと(又は、エンジン1への負荷要求が発生したこと)として規定される。
【0028】
なお、オフアイドル状態かアイドル状態かはスロットル開度センサ22の検出値から判定することができ、スロットル開度センサ22により検出されたスロットル開度が全閉(0又は最小値)であればアイドル状態と判定し、そうでなければオフアイドル状態と判定することができる。また、エンジン1への負荷要求はアクセル開度センサ27の検出値から判定することができ、アクセル開度センサ27により検出されたアクセル開度が全閉(0又は最小値)であれば負荷要求なしと判定し、そうでなければ負荷要求なしと判定することができる。
【0029】
〔2.冷却水温推定装置の構成〕
ところで、エンジン冷却水温(実水温)Twrは、水温センサ23により検出しているが、この水温センサ23が故障(フェール)した場合に備えて、本車両には、冷却水温推定装置が装備される。この冷却水温推定装置は、エンジン1の運転状態を検出する種々のセンサ類(運転状態検出手段)と、これらのセンサ類により検出されたエンジン1の運転状態に基づいてエンジン1の冷却水温を推定する冷却水温推定部(冷却水温推定手段)51と、を備えている。本実施形態では、冷却水温推定部51はエンジンECU50の機能要素として備えられている。
【0030】
冷却水温推定部51は、エンジン1の運転中の冷却水温を推定する運転中水温推定部(運転中水温推定手段)52と、エンジン1の停止中の冷却水温を推定する停止中水温推定部(停止中水温推定手段)53と、燃料カット時に冷却水温の推定値の演算を停止し、燃料カット直前に得られた推定水温を保持する推定水温保持部(推定水温保持手段)54と、を有している。
【0031】
〔2.1停止中水温推定〕
エンジン1の始動時には、まず、停止中水温推定部53により、エンジン1の停止中に下降した冷却水温を推定する。停止中水温推定部53は、推定した冷却水温(推定水温)Tweと検出した吸気温度Tiaとの偏差ΔTと、エンジン1の停止により冷却水温Twrが低下し吸気温度Tiaと一致するまでに要するエンジン停止時間である水温収束時間tcsとの対応関係が記憶された対応関係記憶部53aと、この対応関係記憶部53aに記憶された対応関係を用いて、エンジン始動時の推定水温Tweを算出する停止中水温算出部53bとを有している。
【0032】
図2は、対応関係記憶部53aに記憶された対応関係を説明する図であり、図中、細実線の曲線で囲んだ領域は、あるエンジンAにおいて、外気温が極低温〜高温の状態での偏差ΔTと水温収束時間tcsとの対応データの存在領域を示し、破線の曲線で囲んだ領域は、別のエンジンBにおいて、外気温が中温の状態での偏差ΔTと水温収束時間tcsとの対応データの存在領域を示し、太実線の曲線で囲んだ領域は、さらに別のエンジンCにおいて、外気温が極高温の状態での偏差ΔTと水温収束時間tcsとの対応データの存在領域を示す。
【0033】
なお、各対応データの存在領域は、エンジンを停止した時点の偏差ΔTを、図中の曲線L上付近に乗るようにプロットし、その後の経過時間(エンジン停止後後経過時間)と共に減少する偏差ΔTを経過時間に応じて横軸(時間軸)にシフトさせてプロットしたものを、複数集めたものの存在領域である。図示するように、条件が変わっても、偏差ΔTと水温収束時間tcsとは図中の曲線L付近に沿うように並ぶことがわかる。これより、種々のエンジンにおいて、偏差ΔTと水温収束時間tcsとの関係を共通の曲線Lに代表させることができることがわかる。
【0034】
図3(a)はこの曲線Lを示すが、曲線Lはエンジン停止時間が経過すると偏差ΔTが次第に減少し、やがて、偏差ΔTが0(即ち、冷却水温Twrと吸気温度Tiaとが一致する)になる。つまり、偏差ΔTが0となるエンジン停止後後経過時間が存在する。そこで、偏差ΔTが0となるエンジン停止後後経過時間を横軸に、曲線Lを変換すると、
図3(b)に示す曲線L1のようになる。図中に横軸から上方に曲線L1までの矢印が、各偏差ΔTが0になる(冷却水温Twrと吸気温度Tiaとが一致する)までに必要なエンジン停止時間を示す。
図3(b)の各偏差ΔTが0になるまでに必要なエンジン停止時間を横軸にし、対応する各偏差ΔTを縦軸にし、曲線L1を変換すると
図3(c)に示す曲線L2のようになる。
【0035】
ここでは、この
図3(c)に示す曲線L2を用いてエンジン始動時の推定水温Tweを算出する場合を説明する。エンジン停止時点の偏差ΔTがΔT
0であって、その後、時間t
1だけエンジン1が停止した後、エンジン1が始動されたものとすると、偏差ΔTがΔT
1となる曲線L2上の点の時間を基準に、時間t
1だけ変位した曲線L2上の点の偏差ΔT
1を求めることができる。がこの差ΔT
1がエンジン1の始動時点における吸気温度Tiaと推定水温Tweとの偏差であるので、推定水温Tweは吸気温度Tiaを差ΔT
1により補正(Twe=Tia+ΔT
1)して求めることができる。つまり、この差ΔT
1を加算補正量として用いることができる。
【0036】
同様に、時間t
2だけエンジン1が停止した後、エンジン1が始動されたものとすると、偏差ΔTがΔT
2となる曲線L2上の点の時間を基準に、時間t
2だけ変位した曲線L2上の点の偏差ΔT
2を求めることができる。がこの差ΔT
2がエンジン1の始動時点における吸気温度Tiaと推定水温Tweとの偏差であるので、推定水温Tweは吸気温度Tiaを差ΔT
2により補正(Twe=Tia+ΔT
2)して求めることができる。この場合、この差ΔT
2を加算補正量として用いることができる。
【0037】
〔2−2.運転中水温推定(その1)〕
エンジン1の始動時には、停止中水温推定部53により、エンジン1の停止中に下降した冷却水温を推定し、その後は、運転中水温推定部52により、エンジン1の運転に伴い上昇する冷却水温を推定する。
運転中水温推定部52は、エンジンの運転状態に基づいて冷却水温の推定値を算出する推定値算出部52aと、エンジンの運転状態に基づいて冷却水温の上限値を設定する上限値設定部52bと、推定値算出部52aにより算出された推定値を上限値設定部52bにより設定された上限値により上限規制して推定水温を得る推定値補正部52cと、を有している。
【0038】
本実施形態の推定値算出部52aでは、
図4(a)〜
図4(c)に白丸、黒丸、白四角の各マークにより示すように、前回の推定水温の値(推定値)に温度加算ゲインGを加算していくことにより今回の推定水温の値(推定値)を演算する。
図4(a)〜
図4(c)は充填効率Ecが低レベルEc1(Ec低),中レベルEc2(Ec中),高レベルEc3(Ec高)の各場合において、エンジン回転数Neが低レベルNe1(Ne低),中レベルNe2(Ne中),高レベルNe3(Ne高)のそれぞれのエンジン水温の推移を示すタイムチャートである。各図において、実線,破線,一点鎖線の各曲線は検出値を示し、白丸、黒丸、白四角の各マークは、推定水温を示す。推定水温は、停止中水温推定部53で推定された推定水温を初期値として、所定周期毎に温度加算ゲインを加算していく。
【0039】
図4に示す例では、各エンジン負荷状態(充填効率Ec)毎に一定の温度加算ゲインG(固定G)を順次加算しているが、推定値算出部52aでは、温度加算ゲインGをエンジンの運転状態(ここでは、エンジンの回転数Neとエンジン負荷状態(充填効率Ec))に基づいて設定して、推定値を演算する。
ただし、
図4(a)〜
図4(c)からもわかるように、水温検出値、つまり、実際の水温は、時間と共に上昇するが、運転状態に応じた時間が経過すれば一定温度で頭打ちになるのに対して、水温推定値は、実際の水温が頭打ちになった後も時間と共に上昇する。したがって、水温推定値と実水温値との乖離が発生する。
【0040】
そこで、推定値補正部52cによって、推定値算出部52aにより算出された推定値を上限値設定部52bにより設定された上限値Twmaxにより上限規制して推定水温を得ている。
上限値設定部52bでは、実際の水温が頭打ちになる温度に着目して上限値Twmaxを設定する。本実施形態では、エンジン回転数Neと、充填効率Ecと、外気温度Toutと、車速Vとに基づいて上限値Twmaxを設定する。
図4(a)〜
図4(c)からわかるように、水温が頭打ちになる温度は、エンジン回転数Neと充填効率Ecとに応じて微妙に変化するが、当然ながら外気温度Toutと車速Vとによっても変化する。
【0041】
つまり、エンジン回転数Neや充填効率Ecが高いほど上限値Twmaxが上昇する傾向があり、外気温度Toutが高いほど上限値Twmaxが上昇する傾向があり、車速Vが高いほど空気による冷却が促進され上限値Twmaxが下降する傾向がある。そこで、上限値設定部52bでは、例えば、これらのパラメータNe,Ec,Tout,Vと上限値Twmaxとを対応させたマップをあらかじめ用意し、このマップを用いてパラメータNe,Ec,Tout,Vに基づいて上限値Twmaxを設定する。なお、上限値Twmaxは通常80〜90℃程度になるものと考えられる。
運転中水温推定部52では、このように推定値補正部52cによって推定値を上限値Twmaxで上限規制して推定水温Tweを得るので、水温推定Tweの値と実水温Twrの値との乖離が回避又は抑制されるようになっている。
【0042】
〔2−3.ヒータ(熱関連機器)の作動非作動による推定変更〕
ところで、車両には、例えば車室内を暖房するヒータ28のように、冷却水との熱交換により作動する機器(熱関連機器)が装備されている。このヒータ28等の熱関連機器が作動すると冷却水の温度も変化する。
図5はあるエンジンを始動後アイドル状態に放置した場合の冷却水の実水温(水温検出値)及び運転中水温推定部52による推定水温(水温推定値)の推移を示す図である。
図5(a)はヒータ28の非作動時のもので、
図5(b)はヒータ28の非作動時のものである。なお、既に説明した
図4に示す例はいずれもヒータ28の非作動時のものである。
【0043】
図5(a),
図5(b)に示すように、ヒータ28が作動するとヒータ28が非作動の場合に比べて、水温検出値の上昇速度は低下し、また、水温上昇が頭打ちとなる最大値も低下することが裏付けられる。したがって、ヒータ非作動時の水温推定値の推定水温をそのままヒータ作動時に適用すると、推定水温と実水温との乖離が大きくなる。そこで、運転中水温推定部52では、ヒータ28が作動する場合とヒータ28が作動していない場合とで異なる対応関係を用いて、エンジン運転状態に対する推定水温の値を算出するようにしている。
【0044】
つまり、推定値算出部52aは、ヒータ作動時には、第1及び第2の一次遅れフィルタのフィルタゲインをヒータ非作動時よりも低下させ、最終到達水温もヒータ非作動時よりも低下させている。また、上限値設定部52bでも、上限値をヒータ非作動時よりも低下させている。
なお、本実施形態の推定値算出部52aでは、温度加算ゲインGをエンジンの運転状態(エンジン回転数Neと充填効率Ec)に基づいて設定するが、ヒータ作動時とヒータ非作動時とで異なるマップ(ヒータ作動時の方がヒータ非作動時よりも温度加算ゲインGを小さくしたマップとなる)を用意すればよい。或いは、例えばヒータ非作動時のマップのみを用意し、ヒータ作動時にはヒータ非作動時のマップで得られた各値に所定のゲイン(<1)を乗算してフィルタゲインや最終到達水温や上限値を求めるようにしても良い。
【0045】
なお、ヒータ28の場合は、冷却水からヒータへの熱伝達に限定されるので、熱関連機器(ヒータ)の作動時には、温度加算ゲインGや最終到達水温や上限値を非作動時の値よりも低下させるが、もしも、熱関連機器から冷却水へ熱伝達する熱関連機器の場合には、熱関連機器の作動時には各値を非作動時の値よりも上昇させることになる。
【0046】
〔3.作用及び効果〕
本実施形態にかかるエンジンの冷却水温推定装置は上述のように構成されているので、例えば、
図6〜
図9のフローチャートに示すように、エンジンの冷却水温の推定が行われる。なお、これらのフローチャートは、エンジン1の作動中のみならず非作動中にも、予め設定された制御周期で繰り返して実施されるものとする。なお、フローチャートに記載のフラグFは前回の制御周期で、エンジン1が作動していれば1とされ、エンジン1が停止していれば0とされ、初期値は0とされる。
【0047】
〔3−1.メインフローチャート〕
図6に示すように、エンジン1が作動しているか否かを判定し(ステップA10)、エンジン1が作動していれば、フラグFが0であるか否かを判定する(ステップA20)。エンジン1の作動及び停止は、例えば、エンジン回転数Neが判定基準値Ne0以上か否かで判定することができる。
【0048】
ステップA20において、フラグFが0であると判定されると、前回の制御周期でエンジン1が停止していて今回の制御周期でエンジン1が始動した場合に相当し、この場合には、停止中水温推定部53により停止中水温Tweを推定する(ステップA30)。そして、フラグFを1にセットする(ステップA40)。この停止中水温Tweの推定処理については後述する。
【0049】
ステップA20において、フラグFが1であると判定されると、燃料カット中であるか否かを判定する(ステップA50)。ここで、燃料カット中でなければ、運転中水温推定部52により運転中水温Tweを推定する(ステップA60)。この運転中水温Tweの推定処理については後述する。一方、燃料カット中であれば、推定水温保持部54により前回の推定水温Tweを保持する(ステップA70)。
【0050】
また、ステップA10において、エンジン1が作動していない(停止中である)と判定されると、フラグFが1であるか否かを判定する(ステップA80)。ここで、フラグFが1であれば、前回の制御周期でエンジン1が作動していて今回の制御周期でエンジン1が停止した場合に相当し、この場合には、停止中水温推定部53により停止中水温推定用データとしてこの時の推定水温Twe及び吸気温Tia、又は推定水温Tweと吸気温Tiaとの偏差ΔTe(=Twe−Tia)を記憶する(ステップA90)。そして、フラグFを0にセットする(ステップA100)。
【0051】
ここでは、この後のエンジン停止中にも、制御周期毎にステップA10,A80の処理が行なわれるが、この
図6のフローチャートに示す処理を、エンジン始動をトリガーに開始し、エンジン停止後には終了するように構成しても良い。この場合、ステップA80を省略し、且つ、ステップA100を経たら制御終了とすればよい。
【0052】
〔3−2.停止中水温推定のサブルーチンフローチャート〕
ステップA30における停止中水温推定部53による停止中水温の推定は、
図7に示すように行われる。
つまり、まず、このエンジン始動前のエンジン停止時点における推定水温Twと吸気温Tiaとの偏差ΔTeと、エンジン停止時点からの経過時間teとを読み込む。停止中水温推定部53にエンジン停止時点における偏差ΔTeが記憶されていればそのまま偏差ΔTeを読み込み、停止中水温推定部53にエンジン停止時点における推定水温Twe及び吸気温Tiaが記憶されていれば偏差ΔTeを算出し読み込む(ステップA31)。
【0053】
次に、
図3(c)に示すマップから、読み込んだ偏差ΔTeに対応した水温収束時間tceを読み込む(ステップA32)。次に、水温収束時間tceから経過時間teを減算して現時点の水温収束時間tcsを算出する(ステップA33)。なお、水温収束時間tcsが負になる場合(tcs<0)には、水温収束時間tcsを0とする。
そして、
図3(c)に示すマップから、現時点の水温収束時間tcsに対応した偏差ΔTsを読み込む(ステップA34)。さらに、現時点の吸気温Tiaに偏差ΔTsを加算して現時点の推定水温(停止中推定水温)Twsを算出する(ステップA35)。この停止中推定水温Twsを推定水温Tweの初期値として記憶する(ステップA36)。
【0054】
〔3−3.運転中水温推定のサブルーチンフローチャート〕
ステップA60における運転中水温推定部52による運転中水温の推定は、
図8に示すように行われる。
つまり、まず、上限値設定部52bにおいて推定水温の上限値Twmaxを設定する(ステップA61)。
【0055】
この上限値Twmaxの設定は、
図9に示すように、まず、エンジン回転数Ne,充填効率Ec,外気温度Tout,車速Vを読み込んで(ステップA611)、エンジン回転数Ne,充填効率Ec,外気温度Tout,車速Vに応じて例えばマップ等によって推定水温の上限値上限値Twmaxを設定する(ステップA612)。
そして、
図8に示すように、推定値算出部52aにおいて、エンジン回転数Ne,充填効率Ecを読み込んで(ステップA62)、エンジン回転数Ne,充填効率Ecに応じて例えばマップ等によって温度加算ゲインTwgを設定する(ステップA63)。さらに、前回の推定水温値Twe(n−1)に温度加算ゲインTwgを加算していくことにより今回の推定水温値Twe(n)を演算する(ステップA64)。
【0056】
さらに、推定温度Twe(n)を上限値Twmaxで制限して、最終的な推定温度Twe(n)を得る。つまり、推定温度Twe(n)が上限値Twmax以下であれば推定温度Twe(n)をそのまま採用し、推定温度Twe(n)が上限値Twmaxよりも大きければ、上限値Twmaxを推定温度Twe(n)とする(ステップA65)。
また、ヒータ28等の熱関連機器の作動時と非作動時とでは、異なるマップ等を用いて異なる対応関係で推定温度Twe(n)を算出する。したがって、ヒータ28等の熱関連機器の作動時と非作動時とでは、異なる大きさの推定温度Twe(n)となる。
【0057】
〔3−4.タイムチャート〕
図10は冷却水温の推定例を示すタイムチャートであり、この例では、車両がハイブリッド電気自動車であり、エンジン単独走行、エンジンモータ併用走行、モータ単独走行をそれぞれできるものとする。したがって、モータ単独走行時には、キースイッチ(イグニッションスイッチを含む)がオンであってもエンジンが停止する。
【0058】
図10に示すように、キースイッチがオン操作されてエンジンが始動すると(時点t1)、この時の推定水温の初期値(停止中推定水温)が読み込まれる。この場合、エンジン停止時間が長く、初期値には吸気温が採用されている。その後、運転中の推定水温が逐次推定されるがこの運転中の推定水温は上限値で制限される。モータ単独走行に移行すると(時点t2)、エンジンが停止するので、停止中推定水温Tweが推定される。
【0059】
まず、エンジン停止時点の推定水温Tweと吸気温Tiaとの偏差ΔTe2(=Twe−Tia)が記憶される。この偏差ΔTe2に対応して水温収束時間が求められるが、水温収束時間は、エンジン停止時間が長く経過するほど短くなる。その後、エンジンが始動すると(時点t3)、この時の水温収束時間に対応した偏差ΔTe3である補正量(加算補正量)を求め、その時点の吸気温Tiaに補正量を加算して、推定水温の初期値(停止中推定水温)を設定する。
【0060】
その後、運転中の推定水温が逐次推定されるがこの運転中の推定水温は上限値で制限される。そして、キースイッチがオフ操作されると(時点t4)、エンジンが停止し、再び停止中推定水温が推定される。つまり、エンジン停止時点の推定水温Tweと吸気温Tiaとの偏差ΔTe4が記憶され、この偏差ΔTe4に対応して水温収束時間が求められる。水温収束時間は、エンジン停止時間が長く経過するほど短くなり、エンジンが始動すると(時点t5)、この時の水温収束時間に対応した偏差ΔTe5である補正量(加算補正量)を求め、その時点の吸気温Tiaに補正量を加算して、推定水温の初期値(停止中推定水温)を設定する。ここでは、エンジン停止時間が長く、補正量ΔTe5は0となり初期値には吸気温が採用されている。
【0061】
〔3−5.効果〕
このようにして、本実施形態にかかるエンジンの冷却水温推定装置によれば、エンジンの運転中において、上限値Twmaxにより上限規制して推定温度Twe(n)を得るので、推定水温Twe(n)が実際の水温よりも過剰に高くなることが回避され、温度上昇時の冷却水温を適正に推定することができる。
【0062】
また、ヒータ28等の熱関連機器の作動時と非作動時とでは、異なるマップ等を用いて推定温度Twe(n)を算出することにより、冷却水温を適正に推定することができる。
また、エンジン1の回転数Neと充填効率(エンジン負荷状態)Ecと外気温度Toutと車速Vとに基づいて上限値Twmaxを設定することにより、推定水温Tweが過剰に高くなることが適切に抑えられ、冷却水温を適正に推定することができる。
【0063】
また、エンジン1の回転数Neと充填効率(エンジン負荷状態)Ecとに基づいて、最終到達水温Twaと第1及び第2の一次遅れフィルタのフィルタゲインとを設定し、最終到達水温Twaに対して第1及び第2の一次遅れフィルタによる処理をそれぞれ実施して推定値Tweを演算するので、容易に且つ適正に冷却水温を推定することができる。
さらに、エンジン1への燃料カット時に推定値の演算を停止し、燃料カット直前に得られた推定水温Tweを保持すれば、燃料カット時にも容易に且つ適正に冷却水温を推定することができる。
【0064】
また、停止中水温推定53は、エンジン停止後のエンジン始動時にエンジン1の停止に伴い下降する冷却水温を推定する際に、冷却水温Tweと吸気温度Tiaとの偏差ΔTeと、エンジン停止後に冷却水温が低下し吸気温度Tiaと一致するまでに要するエンジン停止時間である水温収束時間tcsとの対応関係が記憶していて、エンジン停止時に、この時点に得られた推定水温Tweと検出された吸気温度Tiaとの偏差ΔTeと、エンジン停止時からエンジン始動時までの経過時間Teとから、記憶された対応関係を用いて、エンジン停止中の推定水温を算出することにより、次回エンジン始動時の冷却水温を適正に推定することができる。
【0065】
このとき、偏差ΔTeと時間との対応関係を用いて、偏差ΔTeに対応した水温収束時間tcsである第1水温収束時間を求め、第1水温収束時間からエンジン停止時からエンジン始動時までの経過時間を減算して第2水温収束時間を求め、第2水温収束時間に対応した偏差から推定水温を求めれば、容易に冷却水温を推定することができる。
偏差ΔTeと時間との対応関係として吸気温度に関わらず単一のものを用いれば、対応関係にかかる記憶容量を抑え、シンプルに冷却水温を推定できるようにしながら、冷却水温を適正に推定することができる。
【0066】
また、本エンジン制御装置よれば、水温センサ23の正常時には水温センサ23により検出された検出値Twrに基づいて燃料噴射量等のエンジン制御を適切に実施し、水温センサ23の故障時にはエンジンの冷却水温推定部51により推定された推定水温Tweに基づいて燃料噴射量等のエンジン制御を適切に実施することができる。
【0067】
[第2実施形態]
次に、
図11〜
図13を参照して、第2実施形態にかかるエンジンの冷却水温推定装置を説明する。なお、本実施形態の冷却水温推定装置は、運転中水温推定部52の推定値算出部52aによる推定値の具体的な算出手法が第1実施形態のものと異なっており、他の構成は、第1実施形態のものと同様である。そこで、推定値算出部52aによる推定値の算出手法のみを説明する。
【0068】
〔4.冷却水温推定装置の構成〕
〔4−1.運転中水温推定(その2)〕
本実施形態の推定値算出部52aでは、エンジン回転数Ne及び充填効率Ecに基づいて、冷却水をラジエータによって放熱処理しない場合の最終到達水温Twaを設定し、この最終到達水温Twaに対して第1及び第2の一次遅れフィルタによる処理をそれぞれ実施することにより推定値Twa2を演算する。この場合、第1及び第2の一次遅れフィルタのフィルタゲインを適宜設定する必要がある。
【0069】
本実施形態にかかる推定値算出部52aでは、第1及び第2の一次遅れフィルタのフィルタゲインを、エンジン回転数Ne及び充填効率Ecに基づいて設定している。
また、本実施形態にかかる推定値算出部52aでは、最終到達水温についても、エンジン回転数Ne及び充填効率Ecに基づいて設定している。
図12(a)は第1の一次遅れフィルタのフィルタゲインをエンジン回転数Ne及び充填効率Ecに応じて設定された例を示し、
図12(b)は第2の一次遅れフィルタのフィルタゲインをエンジン回転数Ne及び充填効率Ecに応じて設定された例を示し、
図12(c)は最終到達水温をエンジン回転数Ne及び充填効率Ecに応じて設定された例を示す。
【0070】
なお、
図12(a)〜
図12(c)に示す例では、エンジン回転数Neを、低レベルNe1(Ne低)、中レベルNe2(Ne中)、高レベルNe3(Ne高)の3つに分けて、充填効率Ecを、低レベルEc1(Ec低)、中レベルEc2(Ec中)、高レベルEc3(Ec高)の3つに分けて、フィルタゲイン或いは最終到達水温をそれぞれ設定している。
【0071】
このように、エンジン回転数Ne及び充填効率Ecに基づいて、第1及び第2の一次遅れフィルタのフィルタゲイン及び最終到達水温Twaを設定し、最終到達水温Twaに対して第1及び第2の一次遅れフィルタによる処理をそれぞれ実施して、水温の推定値Twe(=Twa2)を算出すると、
図11(a)〜
図11(c)のそれぞれのタイムチャートに、細実線,細破線,細一点鎖線の各曲線で示すように推定値が得られる。
【0072】
なお、
図11(a)〜
図11(c)は、エンジン回転数Neが異なる場合を例示しており、
図11(a)はエンジン回転数Neが低レベルNe1(Ne低)の場合の水温値を、
図11(b)はエンジン回転数Neが中レベルNe2(Ne中)の場合の水温値を、
図11(c)はエンジン回転数Neが高レベルNe3(Ne高)の場合の水温値を、それぞれ示す。
【0073】
また、
図11(a)〜
図11(c)において、太実線は充填効率Ecが低レベルEc1(Ec低)の場合の水温検出値を、太破線は充填効率Ecが中レベルEc2(Ec中)の場合の水温検出値を、太一点鎖線は充填効率Ecが高レベルEc3(Ec高)の場合の水温検出値を、それぞれ示す。また、細実線は充填効率Ecが低レベルEc1(Ec低)の場合の水温推定値を、細破線は充填効率Ecが中レベルEc2(Ec中)の場合の水温推定値を、細一点鎖線は充填効率Ecが高レベルEc3(Ec高)の場合の水温推定値を、それぞれ示す。
【0074】
各エンジン回転数域において、且つ、充填効率Ecの各レベルにおいて、水温推定値が水温検出値に極めて近似することがわかる。このよう近似させるには、上記の第1及び第2の一次遅れフィルタのフィルタゲイン及び最終到達水温の設定が重要になるが、予め実機試験やシミュレーション等を行なってこれらを適正に設定すれば、推定値算出部52aによる上記手法により十分に精度よく水温推定を行なうことができる。
【0075】
図11(a)〜
図11(c)に示す例では、上限値規制をしていないが、本実施形態においても第1実施形態と同様に上限値規制をして推定水温を求めるようになっている。
また、ヒータ28等の熱関連機器の作動時と非作動時とでは、異なるマップ等を用いて異なる対応関係で推定温度Tweを算出する。したがって、ヒータ28等の熱関連機器の作動時と非作動時とでは、異なる大きさの推定温度Tweとなる。
【0076】
つまり、推定値算出部52aは、ヒータ作動時には、第1及び第2の一次遅れフィルタのフィルタゲインをヒータ非作動時よりも低下させ、最終到達水温もヒータ非作動時よりも低下させている。また、上限値設定部52bでも、上限値をヒータ非作動時よりも低下させている。
【0077】
〔5.作用及び効果〕
本実施形態にかかるエンジンの冷却水温推定装置は上述のように構成されているので、
図6のステップA60における上昇時水温推定部52による上昇時水温の推定は、
図13に示すように行われる。
【0078】
つまり、まず、上限値設定部52bにおいて推定水温の上限値Twmaxを設定する(ステップA61)。この上限値Twmaxの設定は、前述の
図9に示すように行なわれるので説明は省略する。
そして、推定値算出部52aにおいて、エンジン回転数Ne,充填効率Ecを読み込んで(ステップA162)、エンジン回転数Ne,充填効率Ecに応じて例えばマップ等によって最終到達水温Twaを設定する(ステップA163)。さらに、エンジン回転数Ne,充填効率Ecに応じて例えばマップ等によって第1及び第2の一次遅れフィルタのフィルタゲインを設定する(ステップA164)。
【0079】
また、下降時水温推定部53により推定され記憶されている推定水温Tweを初期値として、最終到達水温Twaを第1の一次遅れフィルタによりフィルタリング処理して(ステップA165)、さらに、この処理後の水温Twa1を第2の一次遅れフィルタによりフィルタリング処理して(ステップA166)、この処理後の水温Twa2を今回の推定温度Twe(n)とする(ステップA167)。
【0080】
さらに、推定温度Twe(n)を上限値Twmaxで制限して、最終的な推定温度Twe(n)を得る。つまり、推定温度Twe(n)が上限値Twmax位下であれば推定温度Twe(n)をそのまま採用し、推定温度Twe(n)が上限値Twmaxよりも大きければ、上限値Twmaxを推定温度Twe(n)とする(ステップA168)。
なお、ヒータ28等の熱関連機器の作動時と非作動時とでは、異なるマップ等を用いて異なる対応関係で推定温度Twe(n)を算出する。したがって、ヒータ28等の熱関連機器の作動時と非作動時とでは、異なる大きさの推定温度Twe(n)となる。
【0081】
このようにして、本実施形態においても第1実施形態と同様の作用効果を得ることができる。
なお、本実施形態では、第1及び第2の一次遅れフィルタのフィルタゲインや最終到達水温や上限値をエンジン運転状態に対応したマップを用いて算出(設定)しているが、ヒータ作動時とヒータ非作動時とで異なるマップを用意すればよい。或いは、例えばヒータ非作動時のマップのみを用意し、ヒータ作動時にはヒータ非作動時のマップで得られた各値に所定のゲインを乗算してフィルタゲインや最終到達水温や上限値を求めるようにしても良い。
【0082】
[6.その他]
以上本発明の実施形態を説明したが、本発明はかかる実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で上記の実施形態を適宜変更して実施することができる。
例えば、上記実施形態では、冷却水温推定部51による水温推定を水温センサ23とは独立して行なっているが、水温センサ23の正常異常を適切に検出できれば、水温センサ23が異常になる直前の水温センサ23の正常な検出値を初期値として冷却水温推定部51による水温推定を行なっても良い。
【0083】
また、本装置は、種々の自動車に適用することができるだけでなく、自動車以外の車両にも適用が可能である。