特許第6089654号(P6089654)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6089654
(24)【登録日】2017年2月17日
(45)【発行日】2017年3月8日
(54)【発明の名称】周期外乱自動抑制装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 6/10 20060101AFI20170227BHJP
   H02P 23/12 20060101ALI20170227BHJP
【FI】
   H02P6/10
   H02P23/12
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-267799(P2012-267799)
(22)【出願日】2012年12月7日
(65)【公開番号】特開2014-117019(P2014-117019A)
(43)【公開日】2014年6月26日
【審査請求日】2015年9月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100096459
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 剛
(72)【発明者】
【氏名】山口 崇
(72)【発明者】
【氏名】只野 裕吾
【審査官】 上野 力
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−180605(JP,A)
【文献】 特開2000−175475(JP,A)
【文献】 特開2005−096725(JP,A)
【文献】 特開2003−164008(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/024195(WO,A1)
【文献】 特開2004−086858(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 6/10
H02P 23/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周期外乱を発生する制御対象の出力を周期外乱オブザーバに入力して周期外乱推定値を算出し、算出された周期外乱推定値と制御指令との差分に基づいて制御対象を制御するものにおいて、
前記周期外乱オブザーバから出力された周期外乱推定値をリミッタ処理部に入力してリミッタ処理を行い、リミッタ処理された周期外乱推定値と前記制御指令との差分に基づいて制御対象を制御するよう構成し、
前記リミッタ処理部は、前記周期外乱オブザーバから出力された周期外乱推定値に正弦/余弦値を乗算後に加算して補償トルク指令Tcを算出する補償トルク演算部と、算出された補償トルク指令Tcの絶対値uを求める絶対値処理部と、補償トルク指令Tcの絶対値を予め決められたリミッタ値Tlimで除算して超過割合eを求めると共に、前記絶対値の超過割合eが、e>1のときに超過割合eを出力し、e<1のときに1を出力し、超過割合eまたは1の出力値で、各次数の周期外乱推定の実・虚成分を除算してリミッタされた補償指令値を演算する補償指令演算部を備えたことを特徴とした周期外乱自動抑制装置。
【請求項2】
周期外乱を発生する制御対象の出力を周期外乱オブザーバに入力して周期外乱推定値を算出し、算出された周期外乱推定値と制御指令との差分に基づいて制御対象を制御するものにおいて、
前記周期外乱オブザーバから出力された周期外乱推定値をリミッタ処理部に入力してリミッタ処理を行い、リミッタ処理された周期外乱推定値と前記制御指令との差分に基づいて制御対象を制御するよう構成し、
前記リミッタ処理部は、前記周期外乱オブザーバから出力された周期外乱推定値に正弦/余弦値を乗算後に加算して補償トルク指令Tcを算出する補償トルク演算部と、算出された補償トルク指令Tcの実効値を求める実効値処理部と、補償トルク指令Tcの実効値を予め決められたリミッタ値Tlimで除算して超過割合eを求め、求まった超過割合eがe>1のときに超過割合eを出力し、e<1のときに1を出力し、超過割合eまたは1の出力値で、各次数の周期外乱推定の実・虚成分を除算してリミッタされた補償指令値を演算する補償指令演算部を備えたことを特徴とした周期外乱自動抑制装置。
【請求項3】
周期外乱を発生する制御対象のトルクと回転数を入力変数とした周期外乱推定値をテーブルに予め格納し、現在の回転数指令値Ncmdとトルク指令値Tcmdに応じてテーブルから補償トルク指令Tcを出力して周期外乱を抑制して制御対象を制御するものにおいて、
前記テーブルに基づいて算出された補償トルク指令Tcをリミッタ処理するリミッタ処理部を設け、
前記リミッタ処理部は、前記補償トルク指令Tcを入力して補償トルク指令Tcの実効値を算出する実効値処理部と、この補償トルク指令Tcの実効値を予め決められたリミッタ値Tlimで除算して超過割合eを求め、超過割合eが、e>1のときに超過割合eを出力し、e<1のときに1を出力し、超過割合eまたは1の出力値で前記補償トルク指令Tcを除算してリミッタされた補償指令値として演算する補償指令演算部を備えたことを特徴とした周期外乱自動抑制装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、モータ等の回転電気機械における回転電気機械のトルクリプルを自動的に抑制する周期外乱自動抑制装置に係わり、特に周期外乱オブザーバの出力に対してリミッタ処理を施した周期外乱自動抑制装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
周期外乱の発生抑制制御としては、受変電設備での電力系統制御、ロボットによる位置決め制御、ダイナモメータシステムの軸トルク共振抑制、モータ筐体の振動抑制(電気自動車、エレベータなどの乗り心地に関連するもの)等が存在し、これら各製品での周期外乱を高精度に抑制することが要望されている。
【0003】
例えば、モータは原理的にトルクリプルを発生し、振動、騒音、乗り心地への悪影響、電気・機械共振等の種々の問題を引き起こす。特に、埋込磁石形のPMモータは、コギングトルクリプルとリラクタンストルクリプルが複合的に発生する。その対策として、トルクリプルを抑制する制御方式として周期外乱オブザーバ補償法が提案されている。
【0004】
図9は、非特許文献にて公知となっている周期外乱オブザーバのn次トルクリプル周波数成分に関する制御ブロックを示したものである。1はトルクリプル補償値演算部で、正弦/余弦の制御指令rn(通常は0)と周期外乱オブザーバ3による推定値dTA^n, dTB^nとの差分にそれぞれ正弦/余弦値を乗算してそれを加算することでトルクリプル補償指令Tc*nを生成し制御対象2に出力される。制御対象2では、周期性の外乱(以下周期外乱dTnという)が発生することがある。例えば、制御対象がモータであればコギングトルなどによる回転数に同期した外乱であるトルクリプルがこれに相当し、振動や騒音の要因となる。
【0005】
周期外乱オブザーバ3は周期外乱dTnを抑制するもので、周波数成分毎に複素ベクトルで表現したシステム同定モデルを外乱オブザーバの逆システムモデルを用いることで、制御対象とする周波数の外乱を直接的に推定して補償する。
これにより比較的単純な制御構成でありながら、対照とした周波数に対しては次数に関係なく高い抑制効果が得られる。
【0006】
システム同定モデルP^nの取得に関して、制御に先立って制御対象のプラントPn(=PAn+jPBn)に対して予めシステム同定を行い、1次元複素ベクトルの形で(1)式として表現する。
P^n=P^An+jP^Bn …(1)
ただし、添字のnはn次成分、変数は何れもXn=XAn+jXBnと表現される複素ベクトルである。
【0007】
例えば、1〜1000Hzまでのシステム同定結果を1Hz毎に複素ベクトルで表現した場合、1000個の1次元複素ベクトルの要素からなるテーブルでシステムを表現できる。または、同定結果を数式化してシステムを表現することも可能である。何れの手法も、特定の周波数成分については簡素な1次元複素ベクトルでシステムモデルの表現は可能となる。
なお、システム同定モデルに限らず文中記載のP^n,rn,dTn,dT^n,Tnも
Xn=XAn+jXBnと表現される複素ベクトルである。
【0008】
モータのトルクリプルは回転位相θ[rad]に準じて周期的に発生する外乱であることから、周期外乱オブザーバ3の制御としてはトルク脈動周波数成分抽出手段を用いて任意次数n(電気的回転周波数の整数倍)の余弦係数TAn,正弦係数TBnに変換する。周波数成分の厳密な計測手段にはフーリエ変換などがあるが、図9では簡易性を重視し、プラント出力Pnに対してフーリエ変換を簡易化した低域通過フィルタGF(s)を通すことで、周期外乱dTnの抑制対象とする周波数成分を抽出する。これに上記抽出したシステム同定モデルの逆数
P^n-1で表現される逆システムを乗算し、低域通過フィルタGF(s)を通した制御指令値との差分から周期外乱dTnを推定し、周期外乱推定値dT^n(=dT^An +
jdT^Bn)としてトルクリプル補償値演算部1に出力して制御指令rnから差っ引いて周期外乱dTnを抑制する。
図9で示す制御方法はフィードバック制御であるが、例えば制御対象において回転数とトルクを入力変数として各ポイントで制御抑制を行い、最終補償値を記録・テーブル化し、これを用いてフィードフォワード制御を行うことも可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開WO2010/024195A1
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】複素ベクトル表現を用いた周期外乱オブザーバに基づくPMモータのトルクリプル抑制制御法、電気学会論文誌D、Vol.132, No.1.p.84-93(2012)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
図10は回転数ートルク動作領域を示した特性図で、実際に制御装置から制御対象に出力できる制御量は有限であり、例えばモータなどの可変速装置においては、一般的に、回転数とトルクに対する動作可能領域は図10の斜線のように制限され、斜線内であれば指令値通りの動作を達成できるが、そり以外の領域は達成できない。斜線外では、電流過多または回転過多による危機の故障、電圧飽和による動作制限等が発生する。
【0012】
周期外乱補償による補償指令は基本トルク指令に高調波を重畳するため、基本トルク指令が動作領域内であっても補償後のトルク指令が動作領域を超過することがある。このため、動作領域を考慮して補償制御にリミッタを施す必要がある。
一般には、上記動作領域を守るために制御器の最終段にリミッタ処理をおこなっている。しかし、補償用高調波のピーク部分のみがカットされた場合、平均トルクに影響を与え、別周波数のトルクリプルを増加させる虞を有している。
【0013】
本発明が目的とするとこは、周期外乱オブザーバを用いたトルクリプル抑制制御系に周期外乱抑制手段を設けることで、別周波数のトルクリプルの増加を抑制した周期外乱自動抑制装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の請求項1は、周期外乱を発生する制御対象の出力を周期外乱オブザーバに入力して周期外乱推定値を算出し、算出された周期外乱推定値と制御指令との差分に基づいて制御対象を制御するものにおいて、
前記周期外乱オブザーバから出力された周期外乱推定値をリミッタ処理部に入力してリミッタ処理を行い、リミッタ処理された周期外乱推定値と前記制御指令との差分に基づいて制御対象を制御するよう構成し
前記リミッタ処理部は、前記周期外乱オブザーバから出力された周期外乱推定値に正弦/余弦値を乗算後に加算して補償トルク指令Tcを算出する補償トルク演算部と、算出された補償トルク指令Tcの絶対値uを求める絶対値処理部と、補償トルク指令Tcの絶対値を予め決められたリミッタ値Tlimで除算して超過割合eを求めると共に、前記絶対値の超過割合eが、>1のときに超過割合eを出力し、<1のときに1を出力し、超過割合eまたは1の出力値で、各次数の周期外乱推定の実・虚成分を除算してリミッタされた補償指令値を演算する補償指令演算部を備えたことを特徴としたものである。
【0016】
本発明の請求項2は、周期外乱を発生する制御対象の出力を周期外乱オブザーバに入力して周期外乱推定値を算出し、算出された周期外乱推定値と制御指令との差分に基づいて制御対象を制御するものにおいて、
前記周期外乱オブザーバから出力された周期外乱推定値をリミッタ処理部に入力してリミッタ処理を行い、リミッタ処理された周期外乱推定値と前記制御指令との差分に基づいて制御対象を制御するよう構成し、
前記リミッタ処理部は、前記周期外乱オブザーバから出力された周期外乱推定値に正弦/余弦値を乗算後に加算して補償トルク指令Tcを算出する補償トルク演算部と、算出された補償トルク指令Tcの実効値を求める実効値処理部と、補償トルク指令Tcの実効値を予め決められたリミッタ値Tlimで除算して超過割合eを求め、求まった超過割合eがe>1のときに超過割合eを出力し、e<1のときに1を出力し、超過割合eまたは1の出力値で、各次数の周期外乱推定の実・虚成分を除算してリミッタされた補償指令値を演算する補償指令演算部を備えたことを特徴としたものである。
【0018】
本発明の請求項3は、周期外乱を発生する制御対象のトルクと回転数を入力変数とした周期外乱推定値をテーブルに予め格納し、現在の回転数指令値Ncmdとトルク指令値Tcmdに応じてテーブルから補償トルク指令Tcを出力して周期外乱を抑制して制御対象を制御するものにおいて、
前記テーブルに基づいて算出された補償トルク指令Tcをリミッタ処理するリミッタ処理部を設け、
前記リミッタ処理部は、前記補償トルク指令Tcを入力して補償トルク指令Tcの実効値を算出する実効値処理部と、この補償トルク指令Tcの実効値を予め決められたリミッタ値Tlimで除算して超過割合eを求め、超過割合eが、e>1のときに超過割合eを出力し、e<1のときに1を出力し、超過割合eまたは1の出力値で前記補償トルク指令Tcを除算してリミッタされた補償指令値として演算する補償指令演算部を備えたことを特徴としたものである。
【発明の効果】
【0019】
以上のとおり、本発明によれば、周期外乱オブザーバから出力された周期外乱推定値をリミッタ処理部に入力してリミッタ処理を行い、リミッタ処理された周期外乱推定値と制御指令との差分に基づいて制御対象を制御する。又は、制御手法がフィードフォワードの場合には、補償トルク演算部の出力側にリミッタ処理部を設ける。これにより、トルク出力リミットを超過することなく、平均トルクにも影響を与えることのない補償指令を得ることができる。また、カットによる個別周波数にトルクリプルが発生する虞がなく、精度のよい補償指令を得ることができるものである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施形態を示す構成図。
図2】本発明によるリミッタ処理部の構成図。
図3】本発明によるリミッタ処理後の補償トルク指令波形図。
図4】本発明による他のリミッタ処理部の構成図。
図5】本発明による他のリミッタ処理後の補償トルク指令波形図。
図6】本発明の他の実施形態を示す構成図。
図7】本発明による他のリミッタ処理部の部分構成図。
図8】本発明による他のリミッタ処理部の部分構成図。
図9】周期外乱オブザーバの構成図。
図10】回転数−トルク動作領域の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明は、周期外乱オブザーバから出力された周期外乱推定値をリミッタ処理部に入力してリミッタ処理を行い、リミッタ処理された周期外乱推定値と制御指令との差分に基づいて制御対象を制御するものである。また、制御手法がフィードフォワードの場合には、補償トルク演算部の出力側にリミッタ処理部を設けたもので、以下図に基づいて詳述する。
【実施例1】
【0022】
図1は、本発明の実施例を示す構成図で、図9と同一若しくは相当する部分には同一符号を付してその説明を省略する。すなわち、本発明は、周期外乱オブザーバ3の出力側にリミッタ処理部4を設けたものである。
【0023】
図2は、第1の実施例を示したリミッタ処理部4の具体的な構成図である。40は補償トルク演算部で、周期外乱オブザーバ3が推定した周期外乱推定dT^An とjdT^Bnにそれぞれ正弦/余弦値を乗算してそれを加算してTcnを求め、それを集合することで補償トルク指令Tcを得る。41は絶対値処理部で、この絶対値処理部41で補償トルク指令Tcの絶対値を得て観測対象とする。次に、この観測対象である補償トルク指令Tcの絶対値uをリミッタ値Tlimで除算し、超過割合eを求める。
【0024】
42は補償指令演算部で、その比較部42aで超過割合eが比較され、比較結果が>1となって超過割合eが1を超過していた場合、リミッタ処理が必要として超過割合eが出力部42bを介して出力される。また、比較部42aでの比較結果で<1となって超過していなかった場合には出力部42cから1が出力される。最終指令値をリミットするためには超過した割合で逆に割ればよく、比較対象をトルク量ではなくリミット値に対する指令値の比率とすることで、最終的には各次数の実・虚成分に超過割合を除算してリミッタされた補償指令値dT^Anlim とjdT^Bnlimを得る。
なお、リミッタ値Tlimについては、固定値もしくは基本トルク指令と最大出力可能トルクとの差分により決定する。
【0025】
図3は、本実施例によるリミッタ後の補償トルク指令波形を示したもので、リミッタ超過分が±方向でカットされた波形となる。
したがって、第1の実施例によれば、トルク出力リミットを超過せず、平均トルクにも影響を与えない補償指令を得ることができるものである。
【実施例2】
【0026】
図4は、本発明の第2の実施例を示すリミッタ処理部4の構成図を示したものである。この実施例で、第1の実施例と相違する点は、絶対値処理部41に代えて実効値処理部43を設けたことである。すなわち、第1の実施例では、補償トルク指令Tcの絶対値を観測対象としてリミッタ値超過分をカットしている。
第2の実施例では、補償トルク指令Tcの実効値を予め決められたリミッタ値Tlimで除算して超過割合eを求める。比較部42aでは求まった超過割合eがe>1のときに超過割合eを出力し、e<1のときに1を出力し、各出力は各次数の実・虚成分を除算してリミッタされた補償指令値として制御対象2を制御する。
【0027】
図2では、カット処理により補償指令と異なる高調波が含まれ、補償及びリミット処理により個別周波数にトルクリプルが発生する虞がある。そこで、第2の実施例では、補償トルク指令Tcの実効値を観測対象としたもので、実効値処理後の演算は第1の実施例と同様である。
【0028】
図5は、リミッタ後の補償トルク指令波形を示したもので、補償指令値はリミッタ前と比較して余計な高調波を含むことがないよう、ゲインをリミッタ内に収まるように調整される。
したがって、この実施例によれば、実施例1と同様に周期外乱オブザーバの補償指令値を、制御対象機器の出力制限内に調整されることで、トルク出力リミットを超過することなく、平均トルクにも影響を与えることのない補償指令を得ることができる。また、カットによる個別周波数にトルクリプルが発生する虞がなく、精度のよい補償指令を得ることができるものである。
【実施例3】
【0029】
実施例1,2ではフィードバック制御を考慮した周期外乱自動抑制装置を示したが、第3の実施例ではフィードフォワード制御構成の場合の例である。フィードフォワード制御は、制御対象において回転数とトルクを入力変数として各ポイントで制御抑制を行い、最終補償値を記録・テーブル化し、これを用いてフィードフォワード制御とし、リミッタ対象を直接に補償指令Tcとしている。
【0030】
図6において、テーブル10には周期外乱推定値が制御対象の回転数とトルクを入力変数として予め格納され、このテーブル10から現在の回転数指令Ncmdとトルク指令Tcmdを引数として周期外乱推定値dT^nが出力される。補償トルク演算部40は、図2と同様に構成され、入力された周期外乱推定dT^n(dT^An とjdT^Bn)にそれぞれ正弦/余弦値を乗算してそれを加算してTcnを求め、それを集合することで補償トルク指令Tcを求め、図7で示すように補償トルク指令Tcの一つは直接補償指令演算部52に出力されてリミッタ対象とされる。他の一つは絶対値処理部41で補償トルク指令Tcの絶対値eを得て補償指令演算部52に入力される。
【0031】
補償指令演算部52の比較部52aはリミッタ値Tlimも入力されており、この比較部52aで補償トルク指令Tcの絶対値eとリミッタ値Tlimとの比較が行われ、e>Tlim場合にはリミッタ処理必要としてリミッタ値Tlimを出力部52bを介してTc−limとして制御対象2に出力される。また、比較部52aでの比較結果で絶対値eがリミッタ値Tlim以下の場合には補償トルク指令Tcを出力部52cを介してTc−limとして制御対象2に出力される。
【0032】
第3の実施例によれば、図3で示すリミッタ処理後の補償トルク指令波形が得られ、第1の実施例と同様の効果が得られるものである。また、補償トルク指令Tcにのみ補償操作が加わることで、実施例1,2と比較して演算量の低減が可能となるものである。
【実施例4】
【0033】
図8は、本発明の第4の実施例を示す構成図を示したものである。この実施例
は、第3の実施例と同様にフィードフォワード制御構成に適用されるものである。
すなわち、図6のフィードフォワード制御構成において、補償トルク演算部40で算出された補償トルク指令Tcは実効値処理部43に入力されて実効値が算出される。この補償トルク指令Tcの実効値をリミッタ値Tlimで除算し、超過割合eを求める。
【0034】
補償指令演算部42では、リミッタ値Tlimで除算された補償トルク指令Tcの実効値の割合eが、比較部42aでの比較結果で1を超過していた場合、リミッタ処理必要として超過割合eが出力部42bを介して出力される。また、比較部42aでの比較結果で1を超過していなかった場合には出力部42cから1が出力される。最終的には各次数の実・虚成分に超過割合を除算してリミッタ後のTc-limとして制御対象2に出力される。
【0035】
第4の実施例によれば、個別周波数をカットすることがないので、図5で示す
リミッタ処理後の補償トルク指令波形が得られ、第2の実施例と同様の効果が得られるものである。また、補償トルク指令Tcにのみ補償操作が加わることで、実施例1,2と比較して演算量の低減が可能となるものである。
【符号の説明】
【0036】
1… トルクリプル補償値演算部
2… 制御対象
3… 同期外乱オブザーバ
4… リミッタ処理部
5… リミッタ処理部
10… テーブル
40… 補償トルク演算部
41… 絶対値処理部
42… 補償指令演算部
43… 実効値処理部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10