(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記被加工物のスライスを開始する前には、前記配置手段が前記二辺においてより遠くなる一方を、前記走行するワイヤ列が前記被加工物に進行する側にして前記被加工物と前記ワイヤ列との極間を保持することを特徴とする請求項1に記載のワイヤ放電加工装置。
前記被加工物のスライスを開始する前に前記配置手段により保持されている前記被加工物の二辺における一方とその他方との前記ワイヤ列までの極間距離の差が、ワイヤの直径の2倍以上あるいは1mm以上のいずれか一方を満たしていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のワイヤ放電加工装置。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は、本発明の実施の形態に係るマルチワイヤ放電加工システムを前方から見た外観図である。尚、
図1に示す各機構の構成は一例であり、目的や用途に応じて様々な構成例があることは言うまでもない。
【0018】
図1は本発明におけるマルチワイヤ放電加工システムの構成を示す図である。マルチワイヤ放電加工システムは、マルチワイヤ放電加工装置1、電源装置2、加工液供給装置50から構成されている。
マルチワイヤ放電加工システムは、放電により並設された複数本のワイヤ(ワイヤ電極)の間隔で被加工物(ワーク)を薄片にスライスすることができる。
【0019】
1はマルチワイヤ放電加工装置であり、1にはサーボモータにより駆動されるワーク送り部3がワーク105の上部に設けられ、上下方向にワーク105を移動することができる。本発明ではワーク105が下方向に送られ、ワーク105とワイヤ103の間で放電加工が行われる。
【0020】
2は電源装置であり、2にはサーボモータを制御する放電サーボ制御部が放電の状態に応じて効率よく放電を発生させるために放電ギャップ(極間の距離)を一定の隙間に保つように制御することでワークの位置決めを行い、放電加工を進行させる。
【0021】
加工電源部400は、放電加工のための放電電源パルスをワイヤ103へ供給するとともに、放電加工部で発生する短絡などの状態に適応する検知を行い、放電サーボ制御部に放電ギャップの制御信号を供給する。
50は加工液供給装置であり、放電加工により発生する加工チップ(加工屑)の除去や放電現象に必要な加工液をポンプにより放電加工部へ循環して供給する。
【0022】
さらにイオン交換樹脂による比抵抗または電導度(1μS〜250μS)の管理や、冷却のために液温(20℃付近)の管理も行う。加工液には主に水が使用される。
【0023】
8,9はメインガイドローラであり、メインガイドローラの表面には、均一な間隔でワイヤが走行できるようにあらかじめ決められたピッチ(間隔)と数(加工本数)に対応する溝が形成されており、ワイヤ供給ボビン(IN)からの張力制御されたワイヤが2つのメインガイドローラに必要数巻きつけられ、巻き取りボビン(OUT)へ送られる。ワイヤの走行速度は100m/minから1000m/min程度で放電加工を行う。
【0024】
つまり、2つのメインガイドローラが同じ回転方向で、かつ同じ回転速度で連動して回転することで、ワイヤ繰出し部から送られた1本のワイヤ103がメインガイドローラ(2つ)の外周を最大で2000回程度巻回することにより、放電加工部において所定のワイヤの間隔(ピッチ)にて並設されている複数本(最大で2000本程度)のワイヤ103を同一方向でかつ同一速度で走行させている。
このように高速でワイヤが走行していることがワイヤ103を振動させる第1の要因となる。
【0025】
メインガイドローラ8、9には、ワイヤ103を均一でかつ一定間隔に取り付けるための溝が複数列形成されており、その溝にワイヤ103が取り付けられている。そして、メインガイドローラ8、9がともにそろって右(又は左に)回転することにより、ワイヤ103が並設されて走行する。
【0026】
また、ワイヤ103は、メインガイドローラ8、9に取り付けられ、メインガイドローラ8、9の上側、及び下側に並設する複数本のワイヤによる列を形成している。
ワイヤ103には給電子104から放電加工部まで加工電流が流れ、放電加工部にて放電を発生させるワイヤ電極として機能する。
【0027】
ワイヤ103は1本の繋がったワイヤであり、図示しないボビン(IN)から繰り出され、メインガイドローラの外周面のガイド溝に嵌め込まれながら、メインガイドローラの外側に螺旋状に巻回された後図示しないボビン(OUT)に巻き取られる。
マルチワイヤ放電加工装置1は電源装置2と電線513を介して接続されており、電源装置2から供給される電力により放電加工する。
【0028】
マルチワイヤ放電加工装置1は、マルチワイヤ放電加工機1の土台として機能する筐体15と、筐体15の上部の中に設置されている、ブロック20と、ワーク送り部3と、接着部4と、シリコンインゴット105と、加工槽6と、メインガイドローラ8と、ワイヤ103と、メインガイドローラ9と、給電ユニット10と、給電子104とを備えている。
【0029】
加工槽6は所定の範囲の比抵抗(電気伝導度)に管理されたイオン交換水を、ワイヤ103とワーク105とが近接する位置(放電加工部)に循環供給された加工液を貯留する。
ブロック20はワーク送り部3と接合されている。またワーク送り部3は、シリコンインゴット105と接着部4により接着(接合)されている。
接着部4は、ワーク送り部3とシリコンインゴット105とを接着(接合)するためのものであれば何でもよく、例えば導電性の接着剤が用いられる。
【0030】
ワーク送り部3は、接着部4により接着(接合)されているシリコンインゴット105を上下方向に移動する機構であり、ワーク送り部3が下方向に移動することにより、シリコンインゴット105をワイヤ103に近づけることが可能となる。
図2を説明する。
図2は、
図1に示す点線16枠内の拡大図である。
メインガイドローラは中心に金属棒を使用し、金属棒の外側が樹脂で覆われた円筒型の構造である。
【0031】
2つのメインガイドローラの間のほぼ中央の下のエリアには、加工電源からの放電電力パルスを供給するために給電子ユニット10が設けられておりワイヤ103に接触させて給電している。
給電子104の素材には、機械的摩耗に強く導電性があることが要求されるので、超硬合金が使用されている。
2つのメインガイドローラのほぼ中央の上のエリアには、ワーク送り部3が設けられている。
2つのメインガイドローラの間のほぼ中央には加工槽6が設けけられている。
図3を説明する。
図3は、給電子104がワイヤ103と接触している給電子ユニット10の拡大図を示す。
本実施例では給電子104(1個)に対してワイヤ103(10本)が接触している。
【0032】
図3には、ワイヤ103の本数を10本に対して接触する給電子104を1個で示しているが、給電子1個当たりに接触するワイヤ本数や給電子の総数は必要数に応じて増やすことは言うまでもない。
図4を説明する。
図4は、ワーク105が加工液に浸漬されて走行するワイヤ103が放電加工している部分の拡大図を示す。
【0033】
ワーク105に対して全てのワイヤ103が一斉放電し、ワーク送り部3がワーク105を徐々に下方向に移動することにより、ワイヤの間隔でスライス加工が進行する。
ここで、各ワイヤ103同士の間隔(ワイヤのピッチ)は0.3mm(300μm)程度である。
本実施例では、加工材料(ワーク)として、直方体であるシリコンインゴットを例に説明する。
【0034】
加工槽6は、加工液を貯留するための容器である。加工液は、例えば、抵抗値が高い脱イオン水である。
図4に示すようにワーク105が加工液に浸漬されワイヤ103に接近すると、ワイヤ103とシリコンインゴット105との隙間(極間)に、加工液が侵入することにより、ワイヤ103とシリコンインゴット105との隙間に侵入した加工液を通じて放電電流が流れることで、ワイヤ103とシリコンインゴット105との隙間に正常な放電が発生しシリコンインゴット105を放電加工することが可能となる。
【0035】
また、ワイヤ103は伝導体であり、電源装置2から電力が供給された給電ユニット10の給電子104とワイヤ103とが直に接触することにより、供給された電力が給電子104からワイヤ103に印加される。(給電子104がワイヤ103に電力を印加している。)
そして、ワイヤ103とシリコンインゴット105との極間で放電が起き薄板状のシリコンウエハを作成する。
加工槽の中には、加工液供給装置から供給される加工液が循環しており、循環による水流が発生する。また加工液中のワイヤ走行によっても水流が発生する。
【0036】
このように加工槽の中の加工液の水流が、高速のワイヤ走行による振動だけではなくワイヤ103の振動をさらに増幅させ、被加工物を放電する領域において切断しろを大きくしてしまう要因となる。
図5を説明する。
図5はサブガイドローラ701を拡大した図を示している。
サブガイドローラは中心に金属棒801を使用し、金属棒の外側が樹脂802で覆われた円筒型の構造である。
樹脂802の表面に走行する複数本のワイヤを均等な間隔0.3mm(300μm)に分散させるためのV字型803の溝が多数形状加工されている。
図6を説明する。
図6はサブガイドローラ701を拡大した図を示している。
701および702は一対のサブガイドローラであり、同じものである。
図7を説明する。
一対のサブガイドローラは同じ方向に走行している複数本のワイヤ電極が溝と接触することで複数本のワイヤの走行に連動して回動する。
一対のサブガイドローラは被加工物の両側に配置されている。
一対のサブガイドローラは複数のメインガイドローラの外周を巻回している複数本のワイヤ電極の内側に配置されている。
【0037】
703および704は、サブガイドローラと走行している複数本のワイヤ電極との接触(接近)距離を調整するために、各サブガイドローラ上下方向に動かすための機構である(調整手段)。なお調整手段による接触(接近)距離は任意の距離に変更可能であり、接触(接近)距離を固定することができる。
【0038】
各サブガイドローラを上方向に移動させる(持ち上げる)ことにより、走行している複数本のワイヤ電極の張力を高めるので、複数のメインガイドローラの外周を巻回している複数本のワイヤ電極の張力を内側から一括調整することができ、振動の要因となる高速のワイヤ走行や水流による影響を受けにくくすることができる。
【0039】
しかしながら、各サブガイドローラを上方向に極端に移動させすぎると、
図4に示したように、ワイヤ103とシリコンインゴット105との隙間(極間)に、加工液が侵入しなくなるので、ワイヤ103とシリコンインゴット105との隙間(極間)に加工液が侵入する高さが調整手段の上限(リミット)となる。
図8を説明する。
従来技術におけるワイヤ103と被加工物105の位置関係を表す概略配置図である。
【0040】
複数本のワイヤが加工面とほぼ平行に走行しているので、被加工物とワイヤによる極間の距離は加工面全体でほぼ均一になるので、加工面のどの場所でも放電が起こりやすい状態になる。
図9を説明する。
本発明におけるワイヤ103と被加工物105の位置関係を表す概略配置図(第1の実施例)である。
【0041】
複数本のワイヤが加工面と傾斜して走行しているので、被加工物とワイヤによる極間の距離は加工面全体では均一ではなく、極間の距離が近い場所で放電が起こりやすい状態になる。
【0042】
本実施例では、走行する複数本のワイヤによる面を基準として、ワイヤが進入する側(IN)の方がワイヤとの極間が遠くなるように被加工物105の加工面が所定の角度θ1だけ傾くように固定角度調整台902に被加工物を固定した場合である。
これにより被加工物105はワイヤが排出される側(OUT)の角(放電開始部分)から加工が開始される。
【0043】
ワーク送り部3が、被加工物をスライスするために、角状(直方体)である被加工物105の二辺が走行する複数本のワイヤと交差しかつ対向するように配置している。
【0044】
さらに固定角度調整台902により、走行する複数本のワイヤから二辺(INおよびOUTの角)における一方(INの角)がより遠くなるように角状である被加工物105を配置して、角状である被加工物105と走行する複数本のワイヤとの極間を保持した状態で加工を進めている。(配置手段)。
【0045】
配置手段に保持されている二辺における一方とその他方との走行する複数本のワイヤまでの極間距離の差が、ワイヤの直径の2倍以上あるいは1mm以上のいずれか一方を満たしていることが好ましい。
図10を説明する。
【0046】
図9の場合とは反対に、走行する複数本のワイヤの面を基準として、ワイヤが排出される側(OUT)の方がワイヤとの極間が遠くなるように被加工物105を傾けて固定した場合である。
【0047】
図10のようにワイヤが排出される側(OUT)の方がワイヤとの距離が遠くなるように被加工物を傾けた場合であっても、角(放電開始部分)から加工が開始されるためこの位置関係でも加工をすることは可能である。
【0048】
しかしながら、
図10の場合は加工が開始される角とワイヤの走行方向とがなす傾き角度(θ2)が
図9の場合のθ1と比べて大きくなるために、ワイヤへの影響を考慮すれば
図9に示すワイヤ進入側の方をワイヤ電極との間隔を遠くする方が望ましい。
図11を説明する。
図11は本発明におけるワイヤ103と被加工物105の位置関係を表す別の概略配置図(第2の実施例)である。
【0049】
複数本のワイヤが加工面と傾斜して走行しているので、被加工物とワイヤによる極間の距離は加工面全体では均一ではなく、極間の距離が近い場所で放電が起こりやすい状態になる。
【0050】
本実施例では、被加工物を支持するために被加工物を固定角度調整部(サーボモータ)901に固定する。サーボモータが所定の角度θ1だけ回転することでワイヤの面に対する被加工物の加工面を傾けることができる。
ワーク送り部3が、被加工物をスライスするために、角状である被加工物105の二辺が走行する複数本のワイヤと交差しかつ対向するように配置している。
【0051】
さらに固定角度調整部901により、走行する複数本のワイヤから二辺における一方がより遠くなるように角状である被加工物105を配置して、角状である被加工物105と走行する複数本のワイヤとの極間を保持した状態で加工を進めている。(配置手段)。
【0052】
さらにワイヤが振動に対して安定した状態まで加工が進みワイヤが被加工物に入り込んだ状態(スライスを開始したあと)になると、サーボモータが所定の角度θ1だけ逆回転することでワイヤの面に対する被加工物の加工面がほぼ平行なるように戻すことができる。
【0053】
つまりサーボモータ901により、スライス開始前にはより遠くなるよう配置された一方が、遠くならないように角状である被加工物の配置位置を変更して、角状である被加工物と走行する複数本のワイヤとの極間を保持することもできる(極間変更手段)。
【0054】
つまり加工開始時にワークとワイヤ電極に角度を付けるのは、放電が起こりやすいように放電開始箇所を定めて加工を行うためのものであるので、安定して加工が進行開始した時点で、ワークとワイヤ電極間を並行に戻すことはさらに有効である。
【0055】
また、ワイヤに対して被加工物を平行に戻す際の判断基準として、放電加工にかかる消費電力量(放電電流値)の平均値の変化を検知することで、平行に切り替える事ができる。
【0056】
これは、加工開始時は被加工物の一部しか放電加工していないために、加工に必要な電力量は被加工物の全面を加工する際の電力量よりも小さく、加工が進むにつれて消費電力量は大きくなる。
【0057】
被加工物全面の加工が始まると、基本的に消費電力量は一定となるため、この一定となった状態を検知してワイヤ電極と被加工物の位置関係を並行に戻すこともできる。
図12を説明する。
図12は本発明におけるワイヤ103と被加工物105の位置関係を表す別の概略配置図(第3の実施例)である。
【0058】
サブガイドローラ701,702は、ワイヤの振動を安定させる目的でワイヤにテンションを与えるために被加工物を挟むような位置に設置し、若干ワイヤを持ち上げる(上図)ように固定して用いるが、この両サブガイドの持上げ量にワイヤ進入側とワイヤ排出側とで差(下図)をつけることによって、相対的にワイヤに対して被加工物を傾けた場合と同様な位置関係にすることができる。
ワーク送り部3が、被加工物をスライスするために、角状である被加工物105の二辺が走行する複数本のワイヤと交差しかつ対向するように配置している。
【0059】
さらにサブガイドローラ701により、走行する複数本のワイヤから二辺における一方がより遠くなるように走行する複数本のワイヤを配置して、角状である被加工物105と走行する複数本のワイヤとの極間を保持した状態で加工を進めている。(配置手段)。
この場合も、ワイヤ進入側から加工を始めることもワイヤ排出側から加工を始めることも可能である。
図13を説明する。
【0060】
(A)はθ1が0°(平行)になるように被加工物の対向面とワイヤの走行面とをそれぞれ配置した場合の被加工物105であるシリコンインゴットの加工結果である。
加工結果から、加工幅の3か所のバラツキ(最大値―最小値)は8.18マイクロメートルであった。
(B)はθ1が1°(傾斜)になるように被加工物の対向面とワイヤの走行面とをそれぞれ配置した場合の被加工物105の加工結果である。
【0061】
θ1が1°(傾斜)になるように被加工物の対向面とワイヤの走行面とをそれぞれ配置するためには長さ×tan(1°)の式により、一辺の長さが156mmの角状の被加工物の場合には、二辺における一方の極間が2.7mm程度より遠くように配置すればよい。
【0062】
加工結果から、加工幅の3か所のバラツキ(最大値―最小値)は2.04マイクロメートルであった。この結果により、θ1が1°(傾斜)になるように被加工物の対向面とワイヤの走行面とをそれぞれ配置する方が加工幅の3か所のバラツキが小さいので、θ1が0°(平行)になるように被加工物の対向面とワイヤの走行面とをそれぞれ配置した場合と比較してスライスされた被加工物のそれぞれの厚みを均一にする事ができる。
【0063】
さらに加工結果を見ると、θ1が1°(傾斜)になるように被加工物の対向面とワイヤの走行面とをそれぞれ配置する方が加工幅の3か所の平均値も約7%程度小さくなっているので、最終的にスライスされた基板にはならない部分(削りしろ)であるシリコンインゴットの加工領域も低減させることができる。
【0064】
尚、本発明のマルチワイヤ放電加工システムでスライスされたシリコン、SiC(炭化シリコン)等のインゴットは、半導体デバイス用の基板または太陽電池用の基板として使用することができる。