【実施例】
【0066】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明する。
〔実施例1〕 α-グルコシダーゼの残存活性の測定
本実施例は、生酒中のα-グルコシダーゼに与える第二温度の影響を検討したものである。α-グルコシダーゼは、特許文献2においてMNB-CO
2処理により生酒中で最も失活しにくい酵素であったため、測定対象とした。
(試料の調製)
本実施例では、旭酒造株式会社製の生酒(品名:獺祭50)を試料として用いた。(MNB-CO
2処理)
本実施例では、
図1に示した処理装置1を使用した。具体的な構成を以下に示す。
第一容器11:内容量15Lの円筒状のタンク
送液ポンプ10及び加圧ポンプ26:日本精密科学製NP-KX-500
循環ポンプ23:帝国電機製作所製F42-119F2AM-0204R1-BV
微細気泡発生器24:オーラテック社製マイクロ・ナノバブル発生器
第二容器28:内径0.3cm、長さ370cmのらせん状の管路、内容量100mL(滞留時間1分、5分、10分、30分、50分で使用)、もしくは内径0.3cm、長さ110cmのらせん状の管路、内容量30mL(滞留時間1秒、5秒、10秒、15秒、20秒で使用)
第一容器11の温度条件及び圧力条件等の諸条件は、以下のように設定した。
第一温度:5℃
第一圧力:2MPa
第一容器11への二酸化炭素供給量:2.0L/分
第二容器28の温度条件及び圧力条件等の諸条件は、以下のように設定した。
第二温度: 65℃及び75℃
第二圧力:6MPa
第二容器28内における試料の滞留時間:1秒、5秒、10秒、15秒、20秒、1分、5分、10分、30分、50分
実験は以下の手順で行った。まず、内容量15Lの第一容器11に12Lの試料を供給し、供給した12Lの試料を上記温度に維持し、第一容器11のヘッドスペース部分に上記圧力に達するまで二酸化炭素を供給した。
【0067】
次に、MNB-CO
2を次の手順で発生させた。循環ポンプ23により、被処理物循環管路22内で試料を15mL/分で循環させつつ、供給量調整弁25を開き、二酸化炭素を循環ポンプ23の出口付近から被処理物循環管路22内へ供給し、試料と二酸化炭素が混合された混合流体を微細気泡発生器24へ供給した。
【0068】
MNB-CO
2は、試料中のMNB-CO
2量が飽和に至るまで発生させた。本実施例では、MNB-CO
2の供給を開始してから一定間隔で溶存二酸化炭素濃度を測定し、約6分でMNB-CO
2が飽和したことを確認した。MNB-CO
2が飽和した後、流量調整弁27を開き、第一容器11内の試料を加圧ポンプ26によって第二容器28の管路内へ連続的に供給した。なお、第一容器11の内圧は、第一容器11のヘッドスペース部分に圧力調整弁18を介して二酸化炭素を供給することで一定に維持した。第二容器28内の試料滞留時間は、各温度に達してからの時間であり、加圧ポンプ26により試料の流速を2〜100mL/分の範囲で変えることによって調節した。排出管路31から排出される試料をそれぞれ採取し、これらの試料中のα-グルコシダーゼの残存活性を測定した。
【0069】
また、比較のため、第二温度を45℃又は55℃としたMNB-CO
2処理を行った場合、及び熱処理のみを行った場合のα-グルコシダーゼの残存活性も測定した。
(試料中の残存酵素活性の測定)
本実施例では、各温度におけるMNB-CO
2処理及び熱処理後のα-グルコシダーゼの残存活性を、糖化力分別測定キット(キッコーマン株式会社製)を使用して測定した。α-グルコシダーゼの残存活性は、温度ごとのMNB-CO
2処理及び熱処理をしていない試料におけるα-グルコシダーゼの活性に対する相対活性として、百分率(%)で表示した。実験は全て3反復行い、3反復において得られたデータの平均値と標準誤差をそれぞれ算出し、グラフ化した。
(結果と考察)
図2にMNB-CO
2処理における第二温度を65℃とした場合(■)及び65℃の熱処理のみをした場合(●)のα-グルコシダーゼ活性の測定結果を示す。
図3にMNB-CO
2処理における第二温度を45℃とした場合(■)及び45℃の熱処理のみをした場合(●)の結果を、
図4にMNB-CO
2処理における第二温度を55℃とした場合(■)及び55℃の熱処理のみをした場合(●)とした場合のα-グルコシダーゼの測定結果を示す。なお、MNB-CO
2処理における第二温度を75℃とした場合、及び75℃で熱処理のみを行った場合は1秒でα-グルコシダーゼが失活したので、これらの結果は図に示さない。
【0070】
これらの図において、横軸は第二容器28内における試料の滞留時間を、縦軸はα-グルコシダーゼの残存活性を示している。
【0071】
MNB-CO
2処理における第二温度を65℃とした場合(
図2)では、α-グルコシダーゼの残存活性が0%(失活)までの時間が15秒であるのに対し、MNB-CO
2処理における第二温度を45℃とした場合(
図3)では、失活までの時間が50分、MNB-CO
2処理における第二温度を55℃とした場合(
図4)では失活までの時間が5分であり、MNB-CO
2処理における第二温度を65℃とした場合、他の温度に比べ、失活までの時間が著しく短くなった。この結果は、MNB-CO
2処理における第二温度を65℃とすることにより、極めて短時間でα-グルコシダーゼ失活させることができることを示している。最も失活しにくいα-グルコシダーゼの失活作用が見られたことで、グルコアミラーゼ、酸性カルボキシペプチターゼなどその他の酵素に対する失活作用もあるものといえる。
【0072】
〔実施例2〕 清酒の香り及び味の官能評価
本実施例は、清酒の香り及び味に与える第二温度の影響を検討したものである。
(試料の調製)
本実施例では、実施例1と同一の試料を用いた。
(MNB-CO
2処理)
本実施例では、
図1に示した装置を使用した。具体的な構成は上記実施例1において採用した構成と同一である。
【0073】
第一容器11の温度条件及び圧力条件等の諸条件は、以下のように設定した。
第一温度:5℃
第一圧力:2MPa
第一容器11への二酸化炭素供給量:2.0L/分
第二容器28の温度条件及び圧力条件等の諸条件は、以下のように設定した。
第二温度及びその温度における滞留時間: 65℃で15秒、75℃で1秒
第二圧力:6MPa
なお、第二容器28内の滞留時間が第二温度によって異なるのは、実施例1の結果から酵素失活までの時間を第二温度ごとに推定し、その時間を滞留時間としたからである。
【0074】
MNB-CO
2を発生させる手順については上記実施例1と同様の手順で行った。
(官能評価)
本実施例では、上記MNB-CO
2処理をした清酒と標準的な熱処理(65℃、3分の加熱)した清酒を被験者に試飲させ、清酒の香り及び味について下記の7段階の評価基準に基づいて官能評価を行った。
3:MNB-CO
2処理清酒は、熱処理清酒よりも非常に良い。
2:MNB-CO
2処理清酒は、熱処理清酒よりも良い。
1:MNB-CO
2処理清酒は、熱処理清酒よりも少し良い。
0:MNB-CO
2処理清酒は、熱処理清酒と同じ。
−1:MNB-CO
2処理清酒は、熱処理清酒よりも少し悪い。
−2:MNB-CO
2処理清酒は、熱処理清酒よりも悪い。
−3:MNB-CO
2処理清酒は、熱処理清酒よりも非常に悪い。
【0075】
各被験者の評価スコアを、香り及び味のそれぞれについて温度ごとに合計し、グラフ化した。本実施例では、旭酒造株式会社の3名(うち代表取締役社長1名、製造部長1名、技術顧問1名)を被験者とした。
【0076】
なお、比較のため、第二温度を45℃とし、第二容器の滞留時間を50分としたMNB-CO
2処理を行った清酒、及び第二温度を55℃とし、第二容器の滞留時間を5分としたMNB-CO
2処理を行った清酒についての官能評価も行った。
(結果)
図5は香りの官能評価結果を示し、
図6は味の官能評価結果を示す。
【0077】
〔実施例3〕 清酒の香り及び味の官能評価
本実施例は、清酒の香り及び味に与える第二温度の影響を検討したものである。
(試料の調製)
本実施例では、実施例1と同一の試料を用いた。
(MNB-CO
2処理)
本実施例では、
図1に示した装置を使用した。具体的な構成は上記実施例1において採用した構成と同一である。
【0078】
第一容器11の温度条件及び圧力条件等の諸条件は、以下のように設定した。
第一温度:5℃
第一圧力:2MPa
第一容器11への二酸化炭素供給量:2.0L/分
第二容器28の温度条件及び圧力条件等の諸条件は、以下のように設定した。
第二温度及びその温度における滞留時間: 65℃で15秒、75℃で1秒
第二圧力:6MPa
なお、第二容器28内の滞留時間が第二温度によって異なるのは、実施例1の結果から酵素失活までの時間を第二温度ごとに推定し、その時間を滞留時間としたからである。
【0079】
MNB-CO
2を発生させる手順については上記実施例1と同様の手順で行った。
(官能評価)
本実施例では、上記MNB-CO
2処理をした清酒と標準的な熱処理(65℃、3分の加熱)した清酒を被験者に試飲させ、清酒の香り及び味について下記の7段階の評価基準に基づいて実施し、未処理の生酒及び熱処理清酒についての官能評価も行なった。
3:非常に良い。
2:良い。
1:少し良い。
0:どちらとも言えない。
−1:少し悪い。
−2:悪い。
−3:非常に悪い。
【0080】
各被験者の評価スコアを、香り及び味のそれぞれについて温度ごとに合計し、グラフ化した。本実施例では、日本獣医生命科学大学応用生命科学部食品科学科の大学生10名を被験者とした。
【0081】
なお、比較のため、第二温度を45℃とし、第二容器の滞留時間を50分としたMNB-CO
2処理を行った清酒、及び第二温度を55℃とし、第二容器の滞留時間を5分としたMNB-CO
2処理を行った清酒、未処理の生酒及び熱処理清酒についての官能評価も行なった。
(結果)
図7は香りの官能評価結果を示し、
図8は味の官能評価結果を示す。
(実施例2及び実施例3の考察)
図5〜
図8において、横軸は第二温度(第二容器の温度)を示し、縦軸は評価スコアを示している。香り及び味のいずれの官能評価結果においても、65℃が最も評価スコアが高く、65℃を超えると評価スコアは低くなった。この結果は、MNB-CO
2処理における第二温度を65℃とすることにより、香り及び味の良い酒が得られることを示している。
【0082】
〔実施例4〕 清酒の加熱臭の官能評価
生酒は加熱処理することにより生酒の持つみずみずしさや新鮮度が損なわれるが、その際に加熱臭と呼ばれる特有の臭いが発生することが酒造業界では知られているため、生酒の加熱臭に与える第二容器28における被処理物の滞留時間の影響を検討した。
(試料の調製)
本実施例では、実施例1と同一の試料を用いた。
(MNB-CO
2処理)
本実施例では、
図1に示した装置を使用した。具体的な構成は上記実施例1において採用した構成と同一である。
【0083】
第一容器11の温度条件及び圧力条件等の諸条件は、以下のように設定した。
第一温度:5℃
第一圧力:2MPa
第一容器11への二酸化炭素供給量:2.0L/分
第二容器28の温度条件及び圧力条件等の諸条件は、以下のように設定した。
第二温度:65℃
第二圧力:6MPa
MNB-CO
2を発生させる手順については上記実施例1と同様の手順で行った。
(官能評価)
本実施例では、上記MNB-CO
2処理をした清酒を被験者に試飲させ、下記の3段階の評価基準に基づいて官能評価を行った。
○:加熱臭を感じない。
△:加熱臭をわずかに感じる。
×:加熱臭を感じる。
【0084】
なお、本実施例における被験者は、旭酒造株式会社の3名(うち代表取締役社長1名、製造部長1名、技術顧問1名)であった。
(結果と考察)
下表に、加熱臭についての官能評価の結果を示す。
【0085】
【表1】
【0086】
表1に示すように、第二容器28における滞留時間が20秒を超えると加熱臭をわずかに感じるようになり、35秒を超えるとはっきりと加熱臭を感じるようになった。この結果は、MNB-CO
2処理における第二温度を65℃とした場合は、第二容器28における滞留時間を35秒以内とするのが好ましく、20秒以内とするのがより好ましいことを示している。
【0087】
〔実施例5〕 アミノ酸含有量の測定
一般に、酒の官能評価とアミノ酸量が負の相関であることが知られており、アミノ酸量が増加すると酒の風味が損なわれると知られているため、清酒中のアミノ酸含有量に与える第二温度の影響を検討した。
(試料の調製)
本実施例では、実施例1と同一の試料を用いた。
(MNB-CO
2処理)
本実施例では、
図1に示した装置を使用した。具体的な構成は上記実施例1において採用した構成と同一である。
【0088】
第一容器11の温度条件及び圧力条件等の諸条件は、以下のように設定した。
第一温度:5℃
第一圧力:2MPa
第一容器11への二酸化炭素供給量:2.0L/分
第二容器28の温度条件及び圧力条件等の諸条件は、以下のように設定した。
第二温度:45℃、55℃、65℃、及び75℃
第二圧力:6MPa
第二容器28内における試料の滞留時間:上記実施例2と同じであり、各温度に達してからの時間である。
第二温度及びその温度における滞留時間:45℃で50分(MB45)、55℃で5分(MB55)、65℃で15秒(MB65)、75℃で1秒(MB75)
なお、第二容器28内の滞留時間が第二温度によって異なるのは、実施例1の結果から酵素失活までの時間を第二温度ごとに推定し、その時間を滞留時間としたからである。
【0089】
また、比較のため、MNB-CO
2処理を行わず、熱処理(65℃、3分)のみ行った清酒(熱処理)及びMNB-CO
2処理も熱処理も行わなかった生酒(未処理)でも測定した。
【0090】
MNB-CO
2を発生させる手順については上記実施例1と同様の手順で行った。
(アミノ酸含有量の測定)
各試料および3%スルホサリチル酸溶液を1:1で混合し、冷蔵で1晩静置後、0.45μmのフィルターでろ過したものを全自動アミノ酸分析機(JLC500-500/V2, 日本電子株式会社製)により分析した。結果は3反復の平均値であり、μmol/lの単位で表した。
(結果と考察)
下表にアミノ酸含有量の測定結果を示す。
【0091】
【表2】
【0092】
この表において、P-Serはホスホセリンを、Ureaは尿素を、Aspはアスパラギン酸を、Thrはトレオニンを、Serはセリンを、Asnはアスパラギンを、Gluはグルタミン酸を、Glnはグルタミンを、AAAはα-アミノアジピン酸を、Glyはグリシンを、Alaはアラニンを、Valはバリンを、Cysはシステインを、Metはメチオニンを、Cystaはシスタチオニンを、Ileはイソロイシンを、Leuはロイシンを、Tyrはチロシンを、Pheはフェニルアラニンを、GABAはγ-アミノ酪酸を、MEAはモノエタノールアミンを、Ornはオルニチンを、Hisはヒスチジンを、Lysはリジンを、Argはアルギニンを、Proはプロリンを、それぞれ示している。
【0093】
表2に示すように、全アミノ酸量(Total)は未処理が最も多く、次いで熱処理、MB75、MB45、MB65、MB55の順となった。未処理のTotalが多い理由は残存酵素の働きによるタンパク質もしくはペプチドの分解によると考えられる。MB75および熱処理でTotalが多い理由は過加熱によるタンパク質もしくはペプチドの分解によると考えられる。一般に、酒の官能評価とアミノ酸量が負の相関にあることから、MB65、MB55の官能評価が高いといえるが、(実施例2、3)の結果からMB65の官能評価が高いことが示されている。
【0094】
〔実施例6〕 有機酸含有量の測定
本実施例は、生酒中の有機酸含有量に与える第二温度の影響を検討したものである。
【0095】
有機酸を測定した理由は清酒中の有機酸含有量を把握することで清酒の酸味の特徴をとらえることができるためである。有機酸のうち、乳酸は渋味、コハク酸は旨味、リンゴ酸は爽やかな酸味、クエン酸は酸味への寄与が大きいことが知られている。そこで、これらの有機酸とその他酒の風味への影響があると考えられる酢酸、フマル酸、ピルビン酸及びピログルタミン酸を対象とした。なお、無機酸であるリン酸についても測定対象とした。
(試料の調製)
本実施例では、実施例1と同一の試料を用いた。
(MNB-CO
2処理)
本実施例では、
図1に示した装置を使用した。具体的な構成は上記実施例1において採用した構成と同一である。
【0096】
第一容器11の温度条件及び圧力条件等の諸条件は、以下のように設定した。
第一温度:5℃
第一圧力:2MPa
第一容器11への二酸化炭素供給量:2.0L/分
第二容器28の温度条件及び圧力条件等の諸条件は、以下のように設定した。
第二温度:45℃、55℃、65℃、及び75℃
第二圧力:6MPa
第二容器28内における試料の滞留時間:上記実施例2と同じであり、各温度に達してからの時間である。
第二温度及びその温度における滞留時間:45℃で50分(MB45)、55℃で5分(MB55)、65℃で15秒(MB65)、75℃で1秒(MB75)
なお、第二容器28内の滞留時間が第二温度によって異なるのは、実施例1の結果から酵素失活までの時間を第二温度ごとに推定し、その時間を滞留時間としたからである。
【0097】
また、比較のため、MNB-CO
2処理を行わず、熱処理(65℃、3分)のみ行った清酒(熱処理)及びMNB-CO
2処理も熱処理も行わなかった生酒(未処理)でも測定した。
【0098】
MNB-CO
2を発生させる手順については上記実施例1と同様の手順で行った。
(有機酸含有量の測定)
0.45μmのフィルターでろ過した各試料0.5mlをSep-Pak C18カラムに通し、2mlの5%リン酸水溶液で溶出したものを高速液体クロマトグラフィー(HPLC, 島津製作所製)により測定した。HPLCの分析条件は以下の通り。カラム:ODS-3(4.6×250mm I.D.)、移動相:0.02Mリン酸水素二アンモニウム-MeOH=97:3(pH2.35)、流速:0.5ml/min、検出器:UV検出器(SPD-20A, 210nm)、オーブン温度:25℃。結果は3反復の平均値と標準偏差を示す。
(結果と考察)
図9は、リン酸及び乳酸の含有量の測定結果を示す。
図9に示すように、MNB-CO
2処理及び熱処理によって、リン酸は減少し、乳酸は増加した。乳酸含有量の増加は、第二温度を65℃としたMNB-CO
2処理(MB65)において最も増加した。
【0099】
図10は、リンゴ酸及びコハク酸の含有量の測定結果を示す。
図10に示すように、コハク酸の含有量は、第二温度を65℃としたMNB-CO
2処理(MB65)によって著しく増加した。コハク酸は旨味に影響を与えるため、MB65での旨味が高いことが示された。
【0100】
図11は、フマル酸、酢酸、及びクエン酸の含有量の測定結果を示す。
図11に示すように、フマル酸と酢酸の含有量は、MNB-CO
2処理により減少し、クエン酸の含有量は、第二温度を45℃又は55℃としたMNB-CO
2処理(MB45/MB55)により減少した。
【0101】
図12は、ピルビン酸、及びピログルタミン酸の含有量の測定結果を示す。
図12に示すように、ピログルタミン酸の含有量は、第二温度を65℃としたMNB-CO
2処理(MB65)により著しく増加したが、ピルビン酸及びピログルタミン酸は味への影響は少ないものと考えられる。
【0102】
これらの図において、縦軸は酒100mL中の有機酸含有量(mg)を示している。
【0103】
〔実施例7〕 糖含有量の測定
清酒中の糖は清酒の甘みに寄与するため、生酒中の糖含有量に与える第二温度の影響を検討した。
(試料の調製)
本実施例では、実施例1と同一の試料を用いた。
(MNB-CO
2処理)
本実施例では、
図1に示した装置を使用した。具体的な構成は上記実施例1において採用した構成と同一である。
【0104】
第一容器11の温度条件及び圧力条件等の諸条件は、以下のように設定した。
第一温度:5℃
第一圧力:2MPa
第一容器11への二酸化炭素供給量:2.0L/分
第二容器28の温度条件及び圧力条件等の諸条件は、以下のように設定した。
第二温度:45℃、55℃、65℃、及び75℃
第二圧力:6MPa
第二容器28内における試料の滞留時間:上記実施例2と同じであり、各温度に達してからの時間である。
第二温度及びその温度における滞留時間:45℃で50分(MB45)、55℃で5分(MB55)、65℃で15秒(MB65)、75℃で1秒(MB75)
なお、第二容器28内の滞留時間が第二温度によって異なるのは、実施例1の結果から酵素失活までの時間を第二温度ごとに推定し、その時間を滞留時間としたからである。
【0105】
また、比較のため、MNB-CO
2処理を行わず、熱処理(65℃、3分)のみ行った清酒(熱処理)及びMNB-CO
2処理も熱処理も行わなかった生酒(未処理)でも測定した。
【0106】
MNB-CO
2を発生させる手順については上記実施例1と同様の手順で行った。
(糖含有量の測定)
蒸留水により3倍希釈した各試料を0.45μmのフィルターでろ過したものをHPLC(日本分光製)により測定した。HPLCの分析条件は以下の通り。カラム:Shodex Sugar SC1011(8×300mm I.D.)、移動相:蒸留水、流速:1ml/min、検出器:RI検出器(RI-930)、オーブン温度:80度。結果は3反復の平均値と標準偏差を示す。
(結果と考察)
図13に、MNB-CO
2処理を行った清酒の糖含有量の測定結果を示す。この図において、縦軸は酒50mL中の糖含有量(g)を示している。
【0107】
図13に示すように、MNB-CO
2処理の有無及び第二温度の違いにより、糖(グルコース及びイソマルトース)の含有量に大きな違いはみられなかった。