特許第6089720号(P6089720)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6089720
(24)【登録日】2017年2月17日
(45)【発行日】2017年3月8日
(54)【発明の名称】油圧制御装置
(51)【国際特許分類】
   G05D 16/10 20060101AFI20170227BHJP
   F04C 15/06 20060101ALI20170227BHJP
   F16K 17/30 20060101ALI20170227BHJP
【FI】
   G05D16/10 P
   F04C15/06 B
   F16K17/30 B
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-9724(P2013-9724)
(22)【出願日】2013年1月23日
(65)【公開番号】特開2014-142730(P2014-142730A)
(43)【公開日】2014年8月7日
【審査請求日】2015年11月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005197
【氏名又は名称】株式会社不二越
(74)【代理人】
【識別番号】100158355
【弁理士】
【氏名又は名称】岡島 明子
(72)【発明者】
【氏名】吉井 一博
(72)【発明者】
【氏名】宮武 慎
【審査官】 後藤 健志
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−200239(JP,A)
【文献】 特開2008−127991(JP,A)
【文献】 特開2003−148636(JP,A)
【文献】 特開平05−164223(JP,A)
【文献】 特開2013−130089(JP,A)
【文献】 特開2004−150535(JP,A)
【文献】 実開昭56−018469(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05D 16/10
F04C 15/06
F16K 17/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
オイルポンプから吐出された圧油を減圧するとともに余剰油を吸入域空間もしくは外部に排出する減圧弁であって、ハウジングに移動自在に装着された外径が異なるスプールと、前記ハウジングに嵌挿されかつ前記スプールの先端に係合するばね部材と、を備え、
前記スプールの外径が異なる部分がライン圧回路と繋がるフィードバック室で圧力が作用し前記スプールの大径側を押す荷重が該スプールの小径側より大きいために、前記ばね部材側に向かってスプールが移動し、スプールの中間部分の角部が開口することで、圧油が前記吸入域空間もしくは外部に排出されて圧力が一定に保たれる前記減圧弁と、前記減圧弁を収容するとともに前記スプールの外径が異なる部分がライン圧回路と繋がるフィードバック室を有するハウジングと、前記ハウジングに被装されて該ハウジングに形成されたハウジング油路と連通するカバー油路を有するカバーと、を備えた油圧制御装置において、
前記オイルポンプからフィードバック室に繋がるフィードバック回路には、相対するカバーもしくはハウジングとの合わせ面に一致する該フィードバック回路中の堰が少なくとも一箇所形成され、前記堰の上面に位置して流通の絞り機能をなす溝が形成されていることを特徴とする油圧制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の油圧制御装置において、前記ハウジングには略円形のポケットが形成され、回転軸に係合して回転駆動することで隙間が増加する領域に吸入域空間が形成されると共に、隙間が減少する領域に吐出域空間が形成される回転自在に収容されたオイルポンプと、前記減圧弁にて調圧された圧油を導入し、下流側のアクチュエータに向けて調圧された圧油を略ゼロから最大圧まで制御可能とされた電磁弁と、を備えていることを特徴とする油圧制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の油圧制御装置において、前記オイルポンプは正転と逆転が可能とされ、前記逆転時に前記吸入域空間に発生した圧油を吐出域空間に連通させる一方向の開弁機能を有する逆止弁と、前記減圧弁で調圧された圧力以上で開弁する前記減圧弁と同一油路上に備わる安全弁と、を有することを特徴とする油圧制御装置。
【請求項4】
請求項1に記載の油圧制御装置において、前記フィードバック回路に深さ1mm以下、幅1mm以下、長さ2mm以下なる溝を有し、同一軸線上に直列に3箇所形成され、且つこれらの溝の間に堰が2箇所形成されていることを特徴とする油圧制装置。




【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転作動にて作動油を吸引し吐出するオイルポンプと、吐出された作動油の圧力を調整する減圧弁と、減圧弁にて調圧された作動油を下流側のアクチュエータに供給または遮断する電磁弁とを備え、特に油圧力を用いて自動車の動力伝達の切換を行う油圧制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の自動変速機は、動力源であるエンジンからの出力を路面に伝えるタイヤまでの間で、走行状態に合わせて回転伝導の回転数や方向を切り換えたり、常時稼動するエンジンの出力を切り離したりする動作を自動で行うものである。
自動変速機は、一般にトルクコンバータや電磁クラッチなどの発進要素と、遊星歯車やクラッチ等からなる変速要素と、これらを油圧作動させるコントロールバルブ及びオイルポンプからなる油圧制御要素とにより構成され、近年は変速要素の多段化も進み、一方では変速要素をプーリーとベルトに変換した無段変速機が主流になっている。
【0003】
次に油圧制御要素について一般的な例を挙げて説明する。油圧源となるオイルポンプはエンジンからの出力軸または電動モータによって回転作動し、下方のオイルパンに溜まったオートマチックフルード等の作動油を吸引し、レイアウトの関係で自動変速機の下方または側方に配されたコントロールバルブに供給する。
コントロールバルブの筐体は、主に2つに分かれたアルミダイカストのボディと、該ボディの間に挟まるセパレートプレートと、で構成されるのが一般的であり、ボディにはアリの巣状の油路が形成され、その油路を流れる圧油の流通方向を切り換えたり、適正圧力に減圧したりする複数のスプールが移動自在に備えられている。
これらスプールの動作を制御するのはばね部材や電磁弁であり、電磁弁は制御圧回路によってスプールと繋がれたボディの側面に備えられている。電磁弁は運転プログラムを記憶したコンピュータの指令によって作動し、スプールや電磁弁自体が油路を切り換えることで、オイルポンプからの圧油が減圧弁で調整された状態で変速要素に設けたクラッチやブレーキなどのアクチュエータの動作を制御する。
【0004】
さらに、自動変速機に使用される上述したオイルポンプとコントロールバルブについてより詳細に説明する。自動変速機は一定方向に回転するエンジンと接続されているため、入力軸は常に一定方向に回転し、オイルポンプは一方向の回転のみで作動する。なお、電動ポンプの場合であっても同一方向の回転でのみ作動する。
オイルポンプから吐出した圧油は、コントロールバルブからアクチュエータへの供給が不要、もしくは余剰であれば上昇し続けることになるので、レギュレータと呼ばれる減圧弁(レデューシングバルブとも言う)が必ず備えられている。これは圧力上昇による回路破損を防止する機能として安全弁の役目を果たしている場合も多く、故障しにくい電気を用いない機械的な構造、すなわちばね部材とスプールとの構造が一般的に用いられる。
【0005】
自動変速機に使用されるオイルポンプは、流量が可変できるベーンポンプや、レイアウト性に有利な外接歯車ポンプや、構造が簡単で入力軸上に配される内接歯車ポンプなどが挙げられる。
本発明に係る内接歯車ポンプについて説明する。
内接歯車ポンプは、ポンプハウジングのロータポケットに回転自在に収容され、内歯を有するリング状のアウターロータと、該アウターロータの内歯に内接噛み合いする外歯を有するインナーロータとが、それぞれの回転中心が偏心した状態で配置される。インナーロータは回転軸に係合して回転駆動され、アウターロータがインナーロータに対して偏心して配置されることにより、両歯間の噛み合い隙間が増加する領域に吸入域空間が形成されると共に、回転により両歯間の噛み合い隙間が減少する領域に吐出域空間が形成される。吸入域空間は、ポンプハウジング及びまたはこれに合わせられるカバーに形成された吸入ポートと繋がっており、両ロータの回転で漸次容積が拡大することで貯留された圧油を吸引する。一方、吐出域空間は、ポンプハウジング及びまたはこれに合わせられるカバーに形成された吐出ポートと繋がっており、両ロータの回転で漸次容積が縮小することで噛み合い隙間の圧油をコントロールバルブに供給する。
【0006】
コントロールバルブに供給された圧油は上述したように減圧弁にて必要とされる圧力に調圧されるが、オイルポンプは歯車の噛み合わせで吐出されるため、一回転あたりにインナーロータの歯数分だけ油圧脈動が発生する。一歯での容量が大きく、1回転当たりの歯数が少ないほど、小型になる利点はあるが、相反する欠点として油圧脈動が大きくなりやすく、減圧弁にはこの油圧脈動の影響を受けて共振しやすい部分が存在する。すなわち、オイルポンプはエンジンの回転数に同期しているため、0〜7000rpmという幅広い回転数で回転し、この全域で脈動が発生する中においてばね部材で構成された減圧弁には共振する点が存在することになる。油圧脈動は油圧制御において回路強度や機能面に悪影響を及ぼすため、減圧弁のフィードバック回路には油圧脈動を緩和するためのオリフィスがコントロールバルブのボディに備えられている。
例えば、スプール構造の減圧弁について説明すると、通常はばね部材の弾発力によって閉じられているスプールを、スプールの一方の端側を小さな径で構成した部分にフィードバック回路を設けて圧力を導入し、スプール径の差で生じる差分の力でばね部材に勝る力が発生した場合にスプールが移動し、上昇した圧油(一次側)を吸入側やドレンに戻して圧力を一定に保つ構造が一般的である。
ここで、油圧脈動が発生するとフィードバック回路にも油圧脈動が影響してスプールが振動し、さらには減圧弁の振動系が一致すると共振することになるが、このフィードバック回路の間にオリフィスを設けることで油圧脈動が減衰し、スプールの動きが油圧脈動の影響を受けなくなって下流側への圧油(二次側)、いわゆるライン圧は安定するようになる。
【0007】
上述した油圧脈動の影響を抑える構造として減圧弁のフィードバック回路にオリフィスを設けることを説明したが、アリの巣状に細孔が形成されたボディにオリフィスを設けるためには、ダイカストの鋳造性と加工性を考慮すると回路に直角な穴をドリル加工して設けることは困難である。すなわち、鋳造で回路を構成するので、その回路に蓋をして鋳造し穴をあけることは不可能である。
このため、解決方法として2つのボディの間に挟められて油圧回路の接続や遮蔽するセパレートプレートにオリフィスを設けること(例えば、特許文献1参照。)や、鋳造する壁の形状を斜めにして、斜め方向にオリフィスの穴あけを行う構造(例えば、特許文献2参照)や、フィードバック回路を鋳造で形成してオリフィスを加工しつつ、捨て穴閉止のために加工するなどの先行事例が開示されている(例えば、特許文献3参照。)。
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載のように、セパレートプレートでオリフィスを形成することは、オリフィスの要求事項である全長の短縮には有利であるが、ベーンポンプや内接歯車ポンプをボディに共有しようとした場合は、ベーンあるいはインナー及びアウターロータの両サイドのクリアランスが数十ミクロンという管理が必要なことに対しては平面のうねりや変形が発生する可能性があるため不可能となる。
また、特許文献2に記載のように、フィードバック回路の途中に鋳造で形成した斜めの壁にオリフィスを穴あけする場合においては、小さい穴が好ましいオリフィスに対し斜め加工であるためにドリル剛性が要求されるため小さい穴加工は困難であったり、斜めの加工位置にセッティングするための工数増大となったり、さらにはオリフィスの長さが増大する欠点を有する。
さらに、特許文献3に記載のように、オリフィスの手前まで加工してオリフィス長さを短くしつつ、捨て穴閉止のための加工を行うと加工工数や寸法管理工数が増大し、コスト面で不利である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】実開昭63−101355
【特許文献2】特許4244346号公報
【特許文献3】特許4129115号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は係る課題を解決するためになされたもので、オイルポンプからの油圧脈動を低減し、アクチュエータへの制御油圧を安定して供給でき、さらには別体であったオイルポンプとコントロールバルブを分割したボディ内に備えて必要機能を集約した油圧制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記の課題を解決するために、請求項1に記載の発明において、オイルポンプから吐出された圧油を減圧するとともに余剰油を吸入域空間もしくは外部に排出する減圧弁であって、ハウジングに移動自在に装着された外径が異なるスプールと、前記ハウジングに嵌挿されかつ前記スプールの先端に係合するばね部材と、を備え、
前記スプールの外径が異なる部分がライン圧回路と繋がるフィードバック室で圧力が作用し前記スプールの大径側を押す荷重が該スプールの小径側より大きいために、前記ばね部材側に向かってスプールが移動し、スプールの中間部分の角部が開口することで、圧油が前記吸入域空間もしくは外部に排出されて圧力が一定に保たれる前記減圧弁と、前記減圧弁を収容するとともに前記スプールの外径が異なる部分がライン圧回路と繋がるフィードバック室を有するハウジングと、前記ハウジングに被装されて該ハウジングに形成されたハウジング油路と連通するカバー油路を有するカバーと、を備えた油圧制御装置において、
前記オイルポンプからフィードバック室に繋がるフィードバック回路には、相対するカバーもしくはハウジングとの合わせ面に一致する該フィードバック回路中の堰が少なくとも一箇所形成され、前記堰の上面に位置して流通の絞り機能をなす溝が形成されていることを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、フィードバック回路を流通するオイルポンプからの脈動を含む圧油は、当該回路に形成された堰の合わせ面側に形成された溝によって油圧脈動が減衰されて減圧弁を構成するスプールの大径と小径との間であるフィードバック室に入り、油圧脈動が小さく安定した圧力でばね部材の弾発力に打ち勝ってスプールの移動が生じる。
これによって、吸入域空間に開口する面積は略一定に保たれ、余剰油が略一定に排出されることで、調圧された圧力はオイルポンプからの吐出圧を含めて油圧脈動の少ない安定したライン圧となる。
なお、溝は堰の上面にあっても良いし、堰の上面は合わせ面と略同一平面としつつ、相対する平面側に溝のみを加工する方法であってもよい。
また、オイルポンプから吐出された圧油がフィードバック回路に形成された複数の堰の上面に設けた溝形状を通過するので、エンドミルなど容易な加工で安価に形成することができ、数を増やすことで大きめな溝としても異物詰まりもなく油圧脈動を減衰し油圧部品の長寿命化を実現することができる。
【0013】
請求項2に記載の発明において、前記ハウジングには略円形のポケットが形成され、回転軸に係合して回転駆動することで隙間が増加する領域に吸入域空間が形成されると共に、隙間が減少する領域に吐出域空間が形成される回転自在に収容されたオイルポンプと、前記減圧弁にて調圧された圧油を導入し、下流側のアクチュエータに向けて調圧された圧油を略ゼロから最大圧まで制御可能とされた電磁弁と、を備えていることを特徴とする。
本発明によれば、スプール構造とされた減圧弁を備えるハウジングにオイルポンプと電磁弁が追加して備えられることで、ハウジングとカバーとで挟まれたポンプのクリアランスが精密に管理可能とされ、且つ、オイルポンプから吐出された圧油が同じ筐体であるハウジング内部の油圧回路を通って減圧弁に直接流入し、減圧弁で余剰とされた圧油が直接オイルポンプの吸入域空間に短い回路で戻されることになる。また、減圧弁で調圧された圧油は、ハウジング内の油圧回路にて電磁弁に供給され、電磁弁の出力ポートからアクチュエータに向けて必要圧力に応じた圧油を電磁弁の制御に合わせて自在に送ることが可能となる。
さらに、本発明はハウジングにオイルポンプが追加して備えられるので、油圧回路も短くなって小型化となり、且つ、ベーンや外接歯車のオイルポンプのサイドクリアランスを高精度に保つことができ、容積効率が高いオイルポンプを有する小型な油圧制御装置を実現可能となる。
【0014】
請求項3記載の発明においては、前記オイルポンプは正転と逆転が可能とされ、前記逆転時に前記吸入域空間に発生した圧油を吐出域空間に連通させる一方向の開弁機能を有する逆止弁と、前記減圧弁で調圧された圧力以上で開弁する前記減圧弁と同一油路上に備わる安全弁と、を備えることを特徴とする。
本発明によれば、オイルポンプは正転と逆転との制限がなくなり、通常の正転時に対して逆転作動した場合であっても、通常の吐出側の回路から余分な圧油を吸い込むことなく、吸入側への吐き出しを直ちに逆止弁を通じて吐出域空間に戻ることができる。無論、逆止弁であるため、通常の正転時は圧力が高まっても開くことはなく、吐出した圧油が目的を果たさず吸入域空間に戻されることはないので、好適である
また、逆止弁と安全弁とが備えられるので、逆止弁によれば一方向の回転に限定されるエンジンの出力軸を必ずしも動力源と必要がなくなり、その他の回転軸、例えば走行伝達の回転軸を入力とすることができ、レイアウトの自由度が増すことになる。また、安全弁によれば減圧弁の動作不良があっても安全性を高めることができる。
【0015】
請求項4に記載の発明においては、前記フィードバック回路に深さ1mm以下、幅1mm以下、長さ2mm以下なる溝を有し、同一軸線上に直列に3箇所形成され、且つこれらの溝の間に堰が2箇所形成されていることを特徴とする。
本発明によれば、油圧脈動を減衰する溝は、フィードバック回路の断面積に対して小さく絞られたオリフィスとして有効に機能し、1つの溝長さが2mm以下で、且つ3つのオリフィスの合算として機能することで油圧脈動は効率良く減衰される。
また、2つの堰を設けたことで、オリフィスとして機能する部分が連続して3つとなり、合算した1つ相当のオリフィス径は小さくなり、各溝は異物の詰まりにくい比較的深めで且つ広めの幅を設定することができ、ボールエンドミルなどによる加工の容易化を図ることができる。
さらに、溝形状が深さ1mm以下、幅1mm以下、長さ2mm以下とされているので、加工が容易で異物詰まりを回避しつつ、油圧脈動を低温から高温まで効果的に低減させることができ、油圧部品の疲労がより抑えられて長寿命化を実現することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、オイルポンプから吐出された油圧脈動を低減し、アクチュエータへの油圧を安定させ、オイルポンプと油圧制御部分とを分割したボディ内に備え、必要機能を小型に集約することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る油圧制御装置につき好適な実施の形態を挙げ、図面を参照して詳細に説明する。図1は、本発明の実施の形態を示油圧制御装置10の側面概観図である。
図2は、ケース(図示しない)に取り付けられた際に外側から見たカバー部20の概観を示す斜視図である。図3は、図2対して裏側にあたるケース内部側から見たハウジング部30の概観を示す斜視図である。
図4及び図5はカバー部20、ハウジング部30の合わせ面を離間させたカバー部20、ハウジング部30の斜視図を示す。
【0018】
図2及び図3において、アルミダイカスト製のカバー21は、図示しない歯車列で構成されたトランスアクスルのケース(図示しない)に取り付けられるため外周形状が該ケースに同じの凹凸を形成し、かつ平坦な合わせ面21aを有し、図示しないガスケット等を挟み込むことでケース内の作動油すなわちATFが漏れないように形成されている。
この合わせ面21a(図3参照)の一部には、ケース下部のオイル溜めに貯留されたATFを吸引する吸入穴21bが形成されており、カバー21の吸入路21cを通り、後述するオイルポンプ48の下方に位置する吸入ポート(図示しない)に繋がれている。吸入路21cは合わせ面21aに対して略直交して穴加工されており、加工後の開口部の閉止としてプラグ23が打ち込まれている。
【0019】
ケースと油圧制御装置10は略均等に配されたボルト穴22bにボルト(図示しない)を挿入し、ケース側の雌ネジに締め付けて固定される。カバー21には、後述するライン圧と制御圧とを検出するための複数個のチェックポート25図2参照)が備わり、平常時は
該チェックポート25を閉止するためのチェックポートプラグ26が取り付けられている。また、カバー21 上方には、ハウジング31に装着された後述する電磁比例弁(電磁弁)42へ車両側から指令電流を供給するコネクタ24がカバー21を貫通する穴42a(図4参照)にOリング付きで取り付けられている。コネクタ24の周囲には、車両走行時に飛び石などによる破損防止のために保護リブ22cが備えられている。
【0020】
図3によりカバー21のケース取り付け側の構成について説明する。
カバー21とハウジング31とは複数のハウジング固定ボルト51で固定されており、ハウジング31の略中心には、ケースとの位置決めを担う円形の嵌合部31aが形成されている。嵌合部31aの内側には、入力となる回転軸(図示しない)を嵌挿する軸挿入穴31bが形成され、軸挿入穴31bの奥側には後述するオイルポンプの軸嵌合部49aが位置し、二面幅の形状にて回転軸の回転を受けて回転運動が可能となっている。軸挿入穴31bの軸心方向の略中央には上下方向に穴(図示しない)が加工されており、下方は回転軸に設けられたクラッチ(アクチュエータ)(図示しない)へと繋がる油路の径方向穴(図示しない)と相対しており、上方は電磁比例弁42の制御圧ポート(図示しない)と繋がっている。
電磁比例弁42は、ハウジング31の上側に横方向(図3及び図5で左右方向)に装着されており、ブラケット42bにて固定されている。電磁比例弁42への給電は、ハーネス43、ハーネスコネクタ43aを介してコネクタ24と接続されることで外部の電力供給源と繋がっている。また、ハウジング31の左側内部には後述するリリーフバルブ46(図5参照)が設けられており、規定圧で開弁し排出したATFを逃がすためのリリーフ排出窓32fが設けられている。
【0021】
次に図4及び図5を用いてカバー部20、ハウジング部30の内部構造を説明する。
図4においてカバー21は、上述したケースとの合わせ面21aと同一平面となる島形状のハウジング31との合わせ面22dを有しており、この島形状とされたハウジング31との合わせ面22dの中央にはオイルポンプ48の吸入ポート21eと吐出ポート21fとが鋳込みによる断面凹状の溝で形成されている。吸入ポート21eは、下方に設けられた吸入チャンバー室21dと一体に成形されており、吸入路21cを介して合わせ面21aに開口する吸入穴21bと繋げられている。
一方、吐出ポート21fは、同カバー21に断面凹状の溝に形成されたライン圧回路A21g(カバー油路)とライン圧回路B21h(カバー油路)とにそれぞれ繋がっている。ライン圧回路A21gは、ハウジング31に形成されたライン圧回路A34a(ハウジング油路)と一部が重なり合って減圧弁をなすレギュレータバルブ44に繋げられている。また、ライン圧回路B21hは、ハウジング31に形成されたライン圧回路B34b(ハウジング油路)と一部が重なり合って安全弁の機能をなすリリーフバルブ46に連通している。
【0022】
なお、ハウジング31との合わせ面22dが厚みを有する島形状となっているのは、吸入ポート21eや各油圧回路の流速を抑えるために回路の断面積を大きく得るためであり、周辺部分については厚みが不要であるために薄く形成して軽量化を図っている。カバー21の上部には外部との通電を行うためのコネクタ24が設けられ、ケース内部(図示しない)が電磁比例弁42の高さまでATFに浸漬されても、油漏れのないようにOリング付きでボルト(図示しない)で固定されている。
【0023】
図5に示すように、ハウジング部30の主要部品であるハウジング31は、カバー21と同様にアルミダイカストにより成型されており、カバー21の合わせ面22d(図4参照)と合わせ面32cにて接し、前述した複数のハウジング固定ボルト51によって固定されている。
フライス加工されたハウジング31の合わせ面32cの中央部分には、オイルポンプ48を収容するロータポケット32hが穴加工されており、オイルポンプ48を構成する外歯のインナーロータ49が回転軸と同芯に位置し、内歯のアウターロータ50が回転軸の中心から偏芯した位置を中心として配置されている。ロータポケット32hは、アウターロータ50の外周と直径で100〜150μm程度の隙間を設けて内径加工されており、深さは各ロータ49、50の厚みより数十ミクロン程度深く加工されている。
なお、本発明に記載の機能を有するオイルポンプは、内接歯車ポンプやベーンポンプが好適とされる。
【0024】
さらに、図5図6を用いてオイルポンプ48から吐出されたATF(図示しない)の流れに従い、各バルブの構造について説明する。
オイルポンプ48から吐出されたATFは、一方がカバー21側のライン圧回路A21gを流れ、その終端でハウジング31側のライン圧回路A34aに移り、レギュレータバルブ(減圧弁)44のスプール44aの周囲を流動する。
さらにATFは本発明に係るフィードバック回路39を流れ、スプール44aの外径の異なる部分が位置するフィードバック室36に到達する。フィードバック室36ではスプール44aの外径が大径と小径とで異なるので、圧力が作用すると大径側を押す荷重が小径側より大きくなり、スプール44aは図5図6の左側に向かって移動する。
【0025】
スプール44aが移動する側には、圧力が発生していない状態で該スプール44aを図5図6の右側に押し付けるためのばね部材44b(図6参照)が備わっているので、このばね部材44bは圧力によるスプール44aの移動に対抗する。この際、ばね部材44bの弾発力とフィードバック圧による荷重とがつり合う位置でスプール44aはバランスすることになり、スプール44aの中間部分の角部がVノッチ35で開口することで、隣接するハウジング31の吸入チャンバー室32dにATFが流れ込んで圧力は一定に保たれる。なお、ばね部材44bの他端は、プレート44cによって支持される。
【0026】
また、オイルポンプ48から吐出された他方のATFは、カバー21側のライン圧回路B21hを流れ、重なり合うハウジング31側のライン圧回路34bに移り、下向きの流れは回路をシートするボール46aと、ボールを押さえつけるばね部材46bとばね部材46bの座となるプレート46cから構成されるリリーフバルブ(安全弁)46に向かって流れる。
なお、リリーフバルブ46の構成は公知のため詳細な図示説明を省略する。
一方、上向きの流れは、電磁比例弁42の供給圧ポートに流れ込み、電磁比例弁42が指令電流を受けると電磁部の吸引力により内部のプランジャが移動し、それに接する電磁比例弁42のスプールが移動して供給圧ポートと制御圧ポートとが連通し、回転軸の中央に形成された穴を通じて図示しないクラッチ(アクチュエータ)へと流れる。電磁比例弁42にはレギュレータバルブ(減圧弁)44と同様にフィードバック回路32gが備わり、電磁比例弁42の内部のスプールの動作を圧力で補助している。
なお、電磁比例弁42の構成は公知のため図示を省略する。
【0027】
次にレギュレータバルブ44の上方に備わる逆止弁として機能するワンウェイバルブ45(図5参照)について説明する。
オイルポンプ48は図示しないタイヤの走行軸と同期する回転軸によって駆動するので、車両が後退する際にはオイルポンプ48は逆回転するようになる。これにより、吐出ポート21fからATFを吸込み、吸入ポート21eに吐出する逆の流れが発生する。この場合、ATFを十分に持たない吐出側は負圧、吸入側は一時的に加圧されるので、回路が成立しなくなる。
これを回避するため、ハウジング31の内部に設けられたシート面(図示しない)と、ボール(図示しない)と、ばね部材45aと、回路を塞ぐプラグ(図示しない)と、抜け止めのプレート45cと、により構成されたワンウェイバルブ45が機能する。
この場合、通常はライン圧が発生していればボールは押さえのばね部材45aとライン圧の押し付けにより吸入側へと繋がるワンウェイ連通路32eを塞ぐ。
一方、オイルポンプ48が逆転して吸入ポート21eへATFが流れ込むと、ワンウェイ連通路32eを通ってばね部材45aの弾発力に打ち勝ってボールを押圧し、ライン圧回路A34aに流れ込む。ライン圧回路A34aに流れ込んだATFは再び吐出ポート21fへと吸い込まれ、この流れを繰り返すことになる。なお、ワンウェイバルブ45のばね部材45aは数キロPaで開弁するように小さな弾発力のものが使用されている。
【0028】
次に、油圧脈動を抑えるフィードバック回路39の構造について図6及び図7、開発当初の先行事例とした図8を用いて説明する。
レギュレータバルブ44のフィードバック室36に連通するフィードバック回路39には、カバー21の合わせ面21aとハウジング31の合わせ面32cとの上面が一致する堰39aが複数個、例えば3個直列に略同一軸線上に設けられている。
堰39aはダイカストにて成型されており、回路方向の長さ、言い換えれば堰39aの厚みは強度を確保するため、底部は約3mm、合わせ面32cの部分で1〜2mmになるように勾配が設けられている。堰39aの上面、言い換えれば、カバー21の合わせ面21aに合わさるハウジング31の合わせ面32cのそれぞれには、フィードバック回路39の流れ方向に沿ってオリフィス溝39bがボールエンドミル加工によって形成されており、その断面形状は、図7に示すように、幅s,深さh、角部がボールエンドミルの先端形状に合わせて半径rを形成している。
オリフィス溝39bの断面積は、フィードバック回路39の断面積W×Hよりも大幅に小さく、且つ、加工しやすく異物が詰まらないように幅sが1mm程度、深さが0.5mm程度とされている。そして、3つのオリフィス溝39bが連続することで、合算したオリフィス相当径は油圧脈動を有効に抑えるφ0.5mm程度となり、ドリルで加工せずともオリフィス機能が実現できたことになる。
なお、長さが2mmの場合は溝の断面積とされるオリフィス径相当と比較してチョークの定義もあるが、2mm程度とした場合であればマイナス温度での油圧脈動の減衰に同等な結果が得られたため、発明者は有効と判断した。
また、溝は堰の上面にあっても良いし、堰の上面は合わせ面と略同一平面としつつ、相対するカバー21の平面側に溝のみを加工する方法であってもよい。
【0029】
図8に示した開発当初においては、フィードバック回路39の深さが変わる両端部位
に堰220を設け、斜めにドリルで加工したオリフィス221を採用していた。しかしながら、油圧脈動を低減するには至らず、加工時間が長く、φ0.8mmドリルであっても破損などの問題を呈していた。本実施のオリフィス溝39bの場合は、0.8mm幅のボールエンドミルであっても、加工深さが浅いために、加工先端の長さを短くすることができ、刃物の剛性を高められるので、破損の防止も容易となった。
【0030】
さらに、油圧脈動を低減する他の実施について図6を用いて説明する。
スプール44aが挿入された穴の奥(図示しない)は、外周から漏れ出したATFを排出するドレン室37が備わる。もし、このドレン室37内のATFを封じ込めた場合、スプール44aの動きは大幅に鈍くなり、ライン圧の調圧に支障を及ぼすが、ドレン室37のATFの流入出を制限することでスプール44aの振動を抑制することも可能である。
このため、本実施の形態においては、ドレン室37からケース内部の油圧制御装置10の外部に繋がるようオリフィス溝38をハウジング31の外方に指向するように設けている。オリフィス溝38の長さは外部空間(ハウジング31の外方)を抜けきるまで長めに加工しているが、カバー21と重ね合わせる面を図6の破線の位置にすることで、短いオリフィスに形成している。
【0031】
本発明の実施の形態に係る油圧制御装置10は、基本的には以上のように構成されるものであり、作用効果について説明する。
フィードバック回路39を流れるATFの圧力脈動、すなわち、オイルポンプ48の脈動は複数のオリフィス溝38を通過することでライン圧より著しく突出した圧力が段階的に下げられる。そして、フィードバック室36が閉止空間であり流れがないために、フィードバック回路39の上流側と下流側の平均圧力が大差ない状態でフィードバック室36の圧力状態は脈動が除去された安定したものとなる。
【0032】
安定したフィードバック室36の圧力により、ばね部材44bの弾発力とフィードバック圧による荷重とがつり合う位置でスプール44aはバランスすることになり、このスプール44aの中間部分の角部がVノッチ35で一定開度に開口する。よって、隣接するハウジング31の吸入チャンバー室32dにATFが流れ込む量は略一定となり、油量収支が安定化することでライン圧は一定に保たれる。
【0033】
以上説明した本実施の形態に係る油圧制御装置10によれば、油圧脈動が効果的に低減でき、油圧制御の安定化と耐久性が増すことになる。
また、歯数が少ない小型なオイルポンプをその他バルブと組み合わせて一体に構成することができ、小型で且つ安価に油圧制御装置を実現可能となる。
さらに、回転方向に制限されることもないため、入力の方法の自由度が増し、多様な油圧機器に適用可能となる。
【0034】
なお、本実施の形態で説明したフィードバック回路39のオリフィス溝39bと、スプール44aのドレン室37のオリフィス溝38は、ハウジング31に加工にて備わることを説明したが、ハウジング31に合わせられるカバー21側の回路に位置しても問題はない。すなわち、堰のみを形成しておき、合わせる側に溝を加工することで、重ね合わせた際にオリフィス溝として機能すれば、本発明と差異がないことは言うまでもない。
【0035】
さらに、オリフィス溝を可能な限り短くするために、ダイカスト成型の堰やその相手側の部分にエンドミル加工して、絞り機能となるオリフィス溝の部分を短くすることも、加工時間は増すが、他の加工による刃具があれば、加工時間は短いので大幅なコスト増なく、より効果の高い油圧脈動の除去が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0036】
図1】本発明の実施の形態を示す油圧制御装置10の側面概観図である。
図2】ケース(図示しない)に取り付けられた際に外側から見えるカバー部20の概観を示す斜視図である。
図3図2対して裏側にあたるケース内部側から見たハウジング部30の概観を示す斜視図である。
図4】油圧制御装置10のカバー部20側から見た斜視図である。
図5】油圧制御装置10のハウジング部30側から見た斜視図である。
図6】フィードバック回路の概要図である。
図7図6のVII−VII線の断面図である。
図8】油圧制御装置の従来型フィードバック回路の拡大図である。
【符号の説明】
【0037】
10 油圧制御装置 20 カバー部
21 カバー 21a、21m 合わせ面
30 ハウジング部 31 ハウジング
32c 合わせ面 32e ワンウェイ連通路
38 オリフィス溝 39 フィードバック回路
39a 堰 39b オリフィス溝
42 電磁比例弁 44 レギュレータバルブ(減圧弁)
44a スプール 45 ワンウェイバルブ(逆止弁)
46 リリーフバルブ(安全弁) 48 オイルポンプ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8