(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6089727
(24)【登録日】2017年2月17日
(45)【発行日】2017年3月8日
(54)【発明の名称】ポンプ及びポンプを用いた気体の生成方法
(51)【国際特許分類】
F04B 37/06 20060101AFI20170227BHJP
B01J 19/00 20060101ALI20170227BHJP
B01J 19/12 20060101ALI20170227BHJP
【FI】
F04B37/06
B01J19/00 A
B01J19/12 A
【請求項の数】11
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-14411(P2013-14411)
(22)【出願日】2013年1月29日
(65)【公開番号】特開2014-145305(P2014-145305A)
(43)【公開日】2014年8月14日
【審査請求日】2015年10月29日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】特許業務法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】釘本 恒
【審査官】
冨永 達朗
(56)【参考文献】
【文献】
特表平08−510525(JP,A)
【文献】
特開2007−332794(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 37/06
B01J 19/00
B01J 19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
気孔を有する多孔体と、
多孔体の第1面を加熱することが可能な加熱部と、
を備え、
多孔体の第1面は第1空間に接し、
多孔体の第1面とは異なる第2面は第2空間に接し、
第1空間と第2空間は気孔を介して連通しており、
加熱部の内部又は周囲の気体は、供給路を介して第2空間へ移送可能であり、
加熱部の内部又は周囲の気体を、供給路、第2空間及び気孔を介して第1空間へ移送することが可能であり、
加熱部は第1材料を含み、
第1材料は、第1温度において第1反応により第1気体を生成し、自身は第2材料に変化し、
第1反応から生じる第1気体を、供給路、第2空間及び気孔を介して第1空間へ移送することが可能な、
ポンプ。
【請求項2】
請求項1記載のポンプであって、
加熱部は第2材料を含み、
第2材料は、第2温度において第2反応により第2気体を生成し、自身は第1材料に変化し、
第2反応から生じる第2気体を、供給路、第2空間及び気孔を介して第1空間へ移送することが可能な、
ポンプ。
【請求項3】
請求項2記載のポンプであって、
加熱部に含まれる第1材料の量が所定値以上の場合は、加熱部の温度は第1温度に制御され、
加熱部に含まれる第2材料の量が所定値以上の場合は、加熱部の温度は第2温度に制御される、
ポンプ。
【請求項4】
請求項2又は3に記載のポンプであって、
第1材料は、金属酸化物であり、
第2材料は、還元された金属酸化物であり、
第1反応は、還元反応であり、
第2反応は、酸化反応であり、
第1気体は、酸素である、
ポンプ。
【請求項5】
請求項2から4のいずれか一項に記載のポンプであって、
加熱部に水を供給可能な供給手段を備え、
第2温度において加熱部に水を供給することにより、第2気体として水素を生成させることが可能な、
ポンプ。
【請求項6】
請求項2から4のいずれか一項に記載のポンプであって、
加熱部に二酸化炭素を供給可能な供給手段を備え、
第2温度において加熱部に二酸化炭素を供給することにより、第2気体として一酸化炭素を生成させることが可能な、
ポンプ。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載のポンプであって、
多孔体は、所定波長帯に対する光吸収性を有し、
加熱部は、所定波長帯を含む電磁波を多孔体の第1面に照射することで、多孔体の第1面を加熱することが可能な、
ポンプ。
【請求項8】
請求項7に記載のポンプであって、
加熱部は、所定波長帯にピークを有する電磁波を多孔体の第1面に照射可能な、
ポンプ。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載のポンプであって、
第1面は多孔体の一主面であり、
第2面は多孔体の一主面とは反対側の面である、
ポンプ。
【請求項10】
請求項1から9のいずれか一項に記載のポンプを用いて、第1気体を生成する方法。
【請求項11】
請求項2から10のいずれか一項に記載のポンプを用いて、第2気体を生成する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポンプ及びポンプを用いた気体の生成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、金属酸化物の酸化還元反応を利用して水や二酸化炭素を分解することで、水素ガスや一酸化炭素ガスを生成する、気体の生成手段が知られている。
【0003】
例えば非特許文献1、2では、セリア(セリウム酸化物)の酸化還元反応を利用して、水素ガスや一酸化炭素ガスを生成している。具体的には、セリアが塗布されたチャンバ内を、高温かつ低酸素分圧の雰囲気にして、セリアを還元させる。その後、チャンバ内に水又は二酸化炭素を供給すると、還元されたセリアが水又は二酸化炭素から酸素を奪う。その結果、チャンバから水素ガスや一酸化炭素ガスが得られる。
【0004】
ここで、セリアを還元させる工程(脱酸素反応工程)では、酸素分圧が低いことが必要とされるが、上記工程では、還元反応によりセリアから次々に酸素が放出される。脱酸素反応を進めるには、放出された酸素を、チャンバ外に追い出す必要がある。そこで、非特許文献1、2では、脱酸素反応工程中に、アルゴンガス等の不活性ガスをチャンバ内に送り込み、チャンバ内の酸素(発生気体)をパージ(掃気)している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−332794号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】ウィリアム シー チュー(William C. Chueh)、外6名、「不定比のセリアを用いた太陽光駆動型の、二酸化炭素及び水に対する、高フラックスな熱化学的分解(High-Flux Solar-Driven Thermochemical Dissociation of CO2 and H2O Using Nonstoichiometric Ceria)」、サイエンス誌(Science)、(米国)、アメリカ科学振興協会(American Association for the Advancement of Science)、平成22年12月24日、第330巻、p.1797-1801
【非特許文献2】フィリップ ファーラー(Philipp Furler)、外2名、「高温太陽光反応器におけるセリアの酸化還元反応を用いて、水及び二酸化炭素を同時分解する、合成ガス生成(Syngas production by simultaneous splitting of H2O and CO2 via ceria redox reactions in a high-temperature solar reactor)」、エネルギー及び環境科学(Energy & Environmental Science)、(英国)、英国王立化学協会(The Royal Society of Chemistry)、平成24年、第5巻、p.6098-6103
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、アルゴンガス等の不活性ガスをチャンバ内に送り込んで酸素を追い出す手段を採る場合、大量のアルゴンガスが必要となる。アルゴンガスの生成に要するエネルギーを考慮すると、従来の水素ガス又は一酸化炭素ガスの生成プロセスは、エネルギー効率の面から改善の余地がある。ここで、アルゴンガスの送り込みに代えて、真空ポンプを駆動させてチャンバ内の酸素を引き抜く方法が考えられるが、この方法の場合、真空ポンプの駆動エネルギーを確保しなければならないという、別の問題が生じる。そこで、本発明は、従来よりもガス生成プロセス全体のエネルギー効率を向上させることが可能なポンプを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、ポンプに関するものである。当該ポンプは、気孔を有する多孔体と、多孔体の第1面を加熱することが可能な加熱部と、を備える。多孔体の第1面は第1空間に接し、多孔体の第1面とは異なる第2面は第2空間に接し、第1空間と第2空間は気孔を介して連通しており、加熱部の内部又は周囲の気体は、供給路を介して第2空間へ移送可能であり、加熱部の内部又は周囲の気体を、供給路、第2空間及び気孔を介して第1空間へ移送することが可能となっている。
【0009】
また、上記発明において、加熱部は第1材料を含み、第1材料は、第1温度において第1反応により第1気体を生成し、自身は第2材料に変化し、第1反応から生じる第1気体を、供給路、第2空間及び気孔を介して第1空間へ移送することが可能であることが好適である。
【0010】
また、上記発明において、加熱部は第2材料を含み、第2材料は、第2温度において第2反応により第2気体を生成し、自身は第1材料に変化し、第2反応から生じる第2気体を、供給路、第2空間及び気孔を介して第1空間へ移送することが可能であることが好適である。
【0011】
また、上記発明において、加熱部に含まれる第1材料の量が所定値以上の場合は、加熱部の温度は第1温度に制御され、加熱部に含まれる第2材料の量が所定値以上の場合は、加熱部の温度は第2温度に制御されることが好適である。
【0012】
また、上記発明において、第1材料は、金属酸化物であり、第2材料は、還元された金属酸化物であり、第1反応は、還元反応であり、第2反応は、酸化反応であり、第1気体は、酸素であることが好適である。
【0013】
また、上記発明において、加熱部に水を供給可能な供給手段を備え、第2温度において加熱部に水を供給することにより、第2気体として水素を生成させることが可能であることが好適である。
【0014】
また、上記発明において、加熱部に二酸化炭素を供給可能な供給手段を備え、第2温度において加熱部に二酸化炭素を供給することにより、第2気体として一酸化炭素を生成させることが可能であることが好適である。
【0015】
また、上記発明において、多孔体は、所定波長帯に対する光吸収性を有し、加熱部は、所定波長帯を含む電磁波を多孔体の第1面に照射することで、多孔体の第1面を加熱することが可能であることが好適である。
【0016】
また、上記発明において、加熱部は、所定波長帯にピークを有する電磁波を多孔体の第1面に照射可能であることが好適である。
【0017】
また、上記発明において、第1面は多孔体の一主面であり、第2面は多孔体の一主面とは反対側の面であることが好適である。
【0018】
また、本発明の別の態様は、上記発明のポンプを用いて、第1気体を生成する方法である。
【0019】
また、本発明の別の態様は、上記発明のポンプを用いて、第2気体を生成する方法である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、従来よりもガス生成プロセス全体のエネルギー効率を向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本実施形態に係るポンプを例示する、側面断面図である。
【
図2】本実施形態に係るポンプの一部を例示する、拡大側面断面図である。
【
図3】ガス生成プロセスを説明する、側面断面図である。
【
図4】ガス生成プロセスを説明する、側面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1に、本実施形態に係るポンプ10を例示する。ポンプ10は、ガス生成器12(加熱部)及び真空ポンプ14を含んで構成される。
【0023】
ガス生成器12は、所望のガスを生成するための反応器である。ガス生成器12は、加熱源16及び反応チャンバ18を備える。加熱源16は、反応チャンバ18を加熱する加熱手段である。後述するように、ガスの生成は、金属酸化物20の種類にもよるが、例えばセリアでは1600℃程度の高温環境で行われることから、加熱源16は、当該温度まで反応チャンバ18の内部を加熱可能な手段から構成される。例えば、加熱源16は、加熱ヒータから構成される。
【0024】
反応チャンバ18では、後述する酸化還元反応により、ガス生成が行われる。反応チャンバ18の内面には、酸化還元反応を行う金属酸化物20(加熱部)が塗布されている。金属酸化物20は、例えば、亜鉛(Zn)、スズ(Sn)、鉄(Fe)、及びセリウム(Ce)のいずれか、またはこれら単体に添加物質を含んだものの、酸化物から構成される。
【0025】
また、反応チャンバ18は、原料導入管21及び接続管22(供給路)に接続されている。原料導入管21を介して、反応チャンバ18内に、生成ガスの原料が導入される。原料導入管21には、原料の導入量を調整するバルブ24が設けられていてよい。
【0026】
また、接続管22を介して、反応チャンバ18で生成された生成ガスが、反応チャンバ18から真空ポンプ14に送られる。接続管22には、流量センサ26、熱交換器28、及び水分センサ29が設けられていてよい。
【0027】
流量センサ26は、接続管22を流れる生成ガスの流量を計測する。熱交換器28は、接続管22を冷却し、接続管22に水蒸気が流れている場合に、これを冷却して凝縮する。水分センサ29は、接続管22に流れる水分を検知する。
【0028】
ガス生成器12における、ガス生成プロセスを説明する。反応チャンバ18内が非酸化雰囲気、つまり酸素分圧が低い状態であって、700℃から1800℃程度の高温状態(第1温度)にあるとき、以下の数式(1)に示すような、金属酸化物20から酸素ガス(第1気体)が放出される還元反応(第1反応)が起こる。
【0030】
ここで、δは不定比量を示しており、またMは金属元素を示す。なお、金属酸化物20がセリアである場合には、下記数式(2)のように還元反応を記述できる。
【0032】
さらに、還元された金属酸化物20(第2材料)を、1000℃以下程度の環境で水蒸気と反応させると、以下の数式(3)に示すように、金属酸化物20を酸化させる(第1材料に変化させる)酸化反応(第2反応)が生じる。この酸化反応により、水素ガス(第2気体)が発生する。
【0034】
また、水の代わりに二酸化炭素を、還元された金属酸化物20と反応させると、以下の数式(4)に示すように、一酸化炭素ガス(第2気体)が発生する。
【0036】
原料導入管21に水タンク30(供給手段)を接続すると、ガス生成器12では上記数式(3)の反応が起こり、その結果、水素ガスが得られる。また、水タンク30の代わりに、原料導入管21に二酸化炭素源(供給手段)を接続すると、ガス生成器12では上記数式(4)の反応が起こり、その結果、一酸化炭素ガスが得られる。
【0037】
なお、ガス生成器12及び金属酸化物20との構成は、特許請求の範囲における、加熱部に含まれる。接続管22との構成は、特許請求の範囲における、供給路に含まれる。還元反応及び酸化反応は、それぞれ、特許請求の範囲における、第1反応及び第2反応に含まれる。また、酸化された金属酸化物20及び還元された金属酸化物20は、それぞれ、特許請求の範囲における、第1材料及び第2材料に含まれる。
【0038】
還元反応時の700℃から1800℃との温度、及び、後述する酸化反応時の200℃以上1000℃以下との温度は、それぞれ、特許請求の範囲における、第1温度及び第2温度に含まれる。また、金属酸化物20から放出される酸素ガスは、特許請求の範囲における、第1気体に含まれる。さらに、酸素反応により生成される、水素ガス及び一酸化炭素ガスは、特許請求の範囲における、第2気体に含まれる。水タンク30または二酸化炭素源は、特許請求の範囲における、供給手段に含まれる。
【0039】
真空ポンプ14は、ガス生成器12にて生成されたガスを引き抜く。真空ポンプ14は、ケーシング32、多孔体34、透過窓36、シーリング部材38、ヒートシンク40、及び送出管41を備える。
【0040】
ケーシング32は、真空ポンプ14内を機密に保つ中空体から構成される。真空ポンプ14の駆動時に、ケーシング32が負圧になることを考慮して、ケーシング32は、耐圧構造であることが好適である。また、ケーシング32には、接続管22及び送出管41が接続される。後述するように、ガス生成器12の生成ガスは、接続管22を経由してケーシング32内に引き込まれるとともに、当該生成ガスは、送出管41からケーシング32の外部に送り出される。
【0041】
多孔体34は、ケーシング32内に収容された、平板形状の部材である。多孔体34は、多数の気孔を有している。後述するように、多孔体34の気孔の孔径は、第1空間42及び第2空間44の気体の平均自由行程の5倍の長さ以下となるように形成される。例えば、大気圧下での気体の平均自由行程は約60nmであることから、多孔体34の気孔の孔径は、10nm程度に形成される。
【0042】
多孔体34は、熱伝導率の低い材料、言い換えると、第1の空間42側の一主面34a(第1面)から、一主面34aに対向する裏面34b(第2面)に熱が伝わりにくい材料から構成される。例えば、多孔体34は、二酸化珪素(シリカ、SiO
2)材料の内部に気孔が多数形成された、シリカエアロジェル膜から構成される。
【0043】
シーリング部材38は、多孔体34を密閉状態で支持する支持部材である。シーリング部材38が多孔体34を機密に支持することで、ケーシング32内の空間は、第1空間42と第2空間44とに分割される。第1空間42は、送出管41が連通された空間であり、多孔体34の一主面34aがこれに接する。第2空間44は、接続管22が連通された空間であり、多孔体34の裏面34bがこれに接する。また、第1空間42と第2空間44との連通手段は、多孔体34の気孔のみとなる。
【0044】
送出管41には、第1空間42から生成ガスが送り出される。後述するように、生成ガスは、酸素ガスと水素ガス(または一酸化炭素ガス)の2種類に分かれる。そこで、それぞれの生成ガスの送出先を切り替えられるように、送出管41に、三方弁43を設けても良い。
【0045】
ヒートシンク40は、多孔体34の裏面34bの放熱手段である。裏面34bの放熱が行われることで、一主面34aと裏面34bの温度勾配を大きくすることができる。
【0046】
透過窓36は、ガス生成器12から輻射される電磁波を、ケーシング32内の多孔体34まで透過させるための部材である。透過窓36は、赤外光を透過可能な材料から構成される。例えば、透過窓36は、フッ化カルシウム(CaF
2)または塩化ナトリウム(NaCl)から構成される。透過窓36は、ケーシング32の一側面に設けられるとともに、多孔体34の一主面34aと対向するように設けられている。さらに、透過窓36は、一主面34aとは異なる側について、ガス生成器12とも対向するように配置されている。例えば、透過窓36は、ガス生成器12と多孔体34の一主面34aとに挟まれるようにして配置されている。
【0047】
図1に示す実施形態では、真空ポンプ14の図面上方に、ガス生成器12が配置されている。この配置に伴い、真空ポンプ14のケーシング32の天面に、透過窓36が配置されている。なお、赤外光強度は距離の自乗に反比例することから、多孔体34とガス生成器12とはできるだけ近接していることが好適である。このことから、ガス生成器12に接するように、透過窓36が設けられていてもよい。また、透過窓36を除去して、ガス生成器12の底面と真空ポンプ14のケーシング32の天面とを一体化(共通化)してもよい。
【0048】
多孔体34の構成材料である二酸化珪素は、赤外線領域に光吸収性を示す特性を備えている。透過窓36から、赤外線領域の波長帯内に強度のピークを有する電磁波(赤外光)が透過して多孔体34を照射することで、多孔体34の一主面34aが加熱される。
【0049】
なお、上記した、多孔体34の一主面34a及び裏面34bは、それぞれ、特許請求の範囲における、第1面及び第2面に含まれる。
【0050】
図2を用いて、真空ポンプ14の動作原理について説明する。真空ポンプ14は、熱遷移流を利用した、いわゆるクヌーセンポンプとして機能する。熱遷移流とは、希薄気体に特有の流れであって、希薄気体中に温度勾配のある壁が存在するとき、壁の低温部から高温部に向かって形成される、一方向の気体の流れを指す。希薄気体とは、ある領域を考えたとき、その中で平衡状態が保たれないほど気体分子間の衝突が少ない場合の気体をいう。この場合、気体分子と壁との衝突の影響が、壁から遠方(ある程度離れた距離)まで及ぶようになる。例えば、1cm
3程度の領域内の圧力が1Pa程度に低い場合に、熱遷移流が生じる。また、10nm×10nm×10nm程度の空間の狭い領域内の圧力が大気圧程度である場合にも、熱遷移流が生じる。
【0051】
後者の例に着目すると、大気圧環境であっても、空間を壁で狭く仕切ることで、熱遷移流を発生させることができる。本実施形態では、多孔体34の気孔に壁の役割を持たせている。具体的には、多孔体34の気孔径を、第1空間42及び第2空間44の気体の平均自由行程の5倍の長さ以下となるように形成している。例えば、上述したように、気孔径は、10nm程度に形成される。
【0052】
ガス生成器12から輻射された赤外光が、透過窓36を経由して、多孔体34の一主面34aを照射、加熱する。一主面34aが加熱されることで、一主面34aと裏面34bとの間に温度勾配が発生する。これにより熱遷移流が発生し、第2空間44の気体は第1空間42に移動する。すなわち、第1空間42が加圧され、第2空間44が減圧される。減圧された第2空間44には、接続管22を介して、ガス生成器12内から、生成ガスが引き込まれる。さらに生成ガスは、第2空間44から、多孔体34の気孔を経由して、第1空間42に移動させられる。第1空間42に移動させられた生成ガスは、送出管41から真空ポンプ14の外部に送出される。
【0053】
このように、本実施の形態では、熱遷移流を発生させるための多孔体34の加熱手段として、ガス生成器12の輻射熱(排熱)を利用している。言い換えると、多孔体34を加熱する専用の加熱手段を設ける代わりに、ガス生成器12のガス生成の際に必要な熱を、多孔体34の加熱源として、二次的に利用している。その結果、従来よりもガス生成プロセス全体のエネルギー効率を向上させることが可能となる。
【0054】
次に、
図3及び
図4を用いて、本実施形態に係るポンプ10を用いたガス生成プロセスを説明する。なお、
図3、4では、水素ガス生成プロセスを例に挙げる。まず、反応チャンバ18内の金属酸化物20から酸素を放出させる(還元反応)。具体的には、
図3に示すように、バルブ24を閉じるとともに、加熱源16により反応チャンバ18を700℃から1800℃程度に加熱する。これにより、上記した数式(1)または数式(2)のような還元反応が起こり、金属酸化物20から酸素ガスが発生する。
【0055】
また、反応チャンバ18の加熱に伴い、反応チャンバ18から輻射された赤外光が透過窓36を経由して、多孔体34の一主面34aを照射、加熱する。これに伴い、熱遷移流が発生して、第2空間44の気体が第1空間42に移動する。第2空間44が減圧されるのに伴い、反応チャンバ18で生成された酸素ガスが、接続管22を経由して第2空間44に引き込まれる。その結果、反応チャンバ18内を、低酸素分圧状態に保つことができる。
【0056】
第2空間44から第1空間42に移送させられた酸素ガスは、送出管41を経由して真空ポンプ14の外部に送出される。送出管41の先にある三方弁43は、酸素ガス側の弁を開くとともに、水素ガス側の弁を閉じる。送出管41を流れる酸素ガスは、三方弁43の酸素ガス側の弁を経由して、図示しない酸素ガス回収容器に回収される。また、酸素ガスを酸素ガス回収容器に回収する代わりに、大気放出してもよい。
【0057】
一方、反応チャンバ18の金属酸化物20の還元反応が進むにしたがって、還元された金属酸化物20が増え、酸素の放出量が減ることから、これに伴い接続管22を流れる気体の流量が減る。この現象を利用して、流量センサ26の測定流量が、予め定めた値を下回ったとき、反応チャンバ18内の反応を、還元反応から酸化反応に切り替える。
【0058】
図4に示すように、ガス生成器12に水素ガスを生成させる。バルブ24を開いて、水タンク30から、原料導入管21を介して、反応チャンバ18内に水(水蒸気)を導入する。さらに、反応チャンバ18内の温度を1000℃以下にすることで、数式(3)の反応(酸化反応)が起こり、反応チャンバ18内には水素ガスが生成される。なお、酸化反応中に多孔体34への加熱が十分に行われるように、酸化反応時の反応チャンバ18の温度は、200℃以上とすることが好適である。つまり、酸化反応時の反応チャンバ18の温度は、200℃以上1000℃以下(第2温度)とすることが好適である。
【0059】
反応チャンバ18から放出された赤外光は、真空ポンプ14の多孔体34の一主面34aを加熱する。これに伴い、反応チャンバ18にて生成された水素ガスは、接続管22を経由して、真空ポンプ14の第2空間44に引き込まれる。さらに第2空間44に引き込まれた水素ガスは、多孔体34の気孔を経由して、第1空間42に移動する。
【0060】
第1空間42に移送させられた水素ガスは、送出管41に送り出される。このとき、三方弁43は、水素ガス側の弁を開くとともに、酸素ガス側の弁を閉じる。送出管41を流れる水素ガスは、三方弁43の水素ガス側の弁を経由して、図示しない水素ガス回収容器に回収される。
【0061】
一方、反応チャンバ18の酸化反応が進むにしたがって、酸化された金属酸化物20が増えて水素ガスの生成量は少なくなり、水蒸気が接続管22に流れ込む。接続管22を流れる水蒸気は熱交換器28により冷却されて凝縮する。凝縮された水分は水分センサ29によって検知される。当該検知がなされたときに、反応チャンバ18内の反応を、酸化反応から還元反応に切り替える。すなわち、
図3のように、バルブ24を閉じるとともに、加熱源16を駆動させて、反応チャンバ18内の金属酸化物20を還元させる。このようにして、還元反応と酸化反応とを交互に繰り返す。
【符号の説明】
【0062】
10 ポンプ、12 ガス生成器、14 真空ポンプ、16 加熱源、18 反応チャンバ、20 金属酸化物、21 原料導入管、22 接続管、24 バルブ、26 流量センサ、28 熱交換器、29 水分センサ、30 水タンク、32 ケーシング、34 多孔体、34a 一主面、34b 裏面、36 透過窓、38 シーリング部材、40 ヒートシンク、41 送出管、42 第1空間、43 三方弁、44 第2空間。