特許第6089768号(P6089768)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6089768
(24)【登録日】2017年2月17日
(45)【発行日】2017年3月8日
(54)【発明の名称】モータ駆動装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 7/06 20060101AFI20170227BHJP
【FI】
   H02P7/06
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2013-34623(P2013-34623)
(22)【出願日】2013年2月25日
(65)【公開番号】特開2014-166032(P2014-166032A)
(43)【公開日】2014年9月8日
【審査請求日】2016年1月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】特許業務法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】赤尾 和哉
(72)【発明者】
【氏名】太田 祐智
【審査官】 ▲桑▼原 恭雄
(56)【参考文献】
【文献】 特開平08−275573(JP,A)
【文献】 特開2004−297861(JP,A)
【文献】 特開平11−146301(JP,A)
【文献】 特開2007−202273(JP,A)
【文献】 特開平11−075349(JP,A)
【文献】 米国特許第05664048(US,A)
【文献】 米国特許出願公開第2008/0298784(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 7/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電源(3)からブラシ付きモータ(2)への電流供給経路に配置されるモータコントローラ(4)に対して指令信号を出力し、前記モータ(2)への電流供給を制御することで前記モータ(2)の回転数を制御するモータ駆動装置であって、
前記モータ(2)の端子電圧をモニタ電圧として入力し、前記モニタ電圧が第1閾値電圧(Vth1)よりも大きいか否かに基づいて、前記モニタ電圧に含まれるブラシノイズのうち、前記モータ(2)の駆動によって生じる整流リップルを含む振幅波形に対して高電圧側に発生する高電圧側ノイズを検出する高電圧側ノイズ検出部(101)と、前記モニタ電圧として入力し、前記モニタ電圧が記第1閾値電圧(Vth1)よりも低い第2閾値電圧(Vth2)よりも小さいか否かに基づいて、前記モニタ電圧に含まれるブラシノイズのうち、前記振幅波形に対して低電圧側に発生する低電圧側ノイズを検出する低電圧側ノイズ検出部(102)と、の少なくとも一方を有するノイズ検出部(10)と、
前記高電圧側ノイズの発生回数と前記低電圧側ノイズの発生回数の少なくとも一方に基づいて、前記モータコントローラ(4)に前記指令信号を出力し、前記ブラシノイズの発生回数を少なくする方に前記モータ(2)の回転数を制御する演算部(11)と、を備えていることを特徴とするモータ駆動装置。
【請求項2】
前記ノイズ検出部(10)は、前記高電圧側ノイズ検出部(101)と前記低電圧側ノイズ検出部(102)を共に有し、
前記演算部(11)は、高電圧側ノイズの発生回数と前記低電圧側ノイズの発生回数の差が最も小さくなったとき、もしくは、該差が所定の閾値以下となったときの回転数を目標回転数(Rt)として、前記モータ(2)を目標回転数(Rt)に制御する指令信号を出力することを特徴とする請求項1に記載のモータ駆動装置。
【請求項3】
前記ノイズ検出部(10)は、前記高電圧側ノイズ検出部(101)と前記低電圧側ノイズ検出部(102)を共に有し、
前記演算部(11)は、前記モータコントローラ(4)によって前記モータ(2)の回転数を所定の回転数範囲において変化させると共に、該回転数を変化させている期間中における前記高電圧側ノイズの発生回数と前記低電圧側ノイズの発生回数の差の変化を演算し、該差が最も小さくなったとき、もしくは、該差が所定の閾値以下となったときの回転数を目標回転数(Rt)として、前記モータ(2)を目標回転数(Rt)に制御する指令信号を出力することを特徴とする請求項1に記載のモータ駆動装置。
【請求項4】
前記ノイズ検出部(10)は、前記低電圧側ノイズ検出部(102)を有し、
前記演算部(11)は、前記モータコントローラ(4)によって前記モータ(2)の回転数を所定の回転数から徐々に上昇させ、該上昇期間中における前記低電圧側ノイズの発生回数が最も小さくなったとき、もしくは、所定の閾値以下となったときの回転数を目標回転数(Rt)として、前記モータ(2)を目標回転数(Rt)に制御する指令信号を出力することを特徴とする請求項1に記載のモータ駆動装置。
【請求項5】
前記ノイズ検出部(10)は、前記高電圧側ノイズ検出部(101)を有し、
前記演算部(11)は、前記モータコントローラ(4)によって前記モータ(2)の回転数を所定の回転数から徐々に下降させ、該下降期間中における前記高電圧側ノイズの発生回数が最も小さくなったとき、もしくは、所定の閾値以下となったときの回転数を目標回転数(Rt)として、前記モータ(2)を目標回転数(Rt)に制御する指令信号を出力することを特徴とする請求項1に記載のモータ駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブラシ付モータを駆動する際に発生するノイズを抑制できるモータ駆動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ブラシ付モータ(以下、単にモータという)では、モータ駆動の際に、ブラシとコンミテータとの間の接触状態に応じた放電に起因してブラシノイズが発生し、他の電子機器に影響を与える。このブラシノイズによってブラシ摩耗の一つである電気的摩耗が発生して耐久性が低下する。このため、従来では、ブラシノイズ対策として、モータ内外にLCフィルタやフェライト素子等を挿入し、ノイズを低減させている。例えば、特許文献1では、直巻整流子電動機のチョークコイルに、抵抗もしくは抵抗とコンデンサの直列回路を並列に接続した構造を採用している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実公平6−15520号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のブラシノイズ対策は、モータに対して別部品となる対策用素子を備える必要があるため、部品点数の増加を招くと共に、対策用素子の配置スペースが必要となって、モータ体格が大型化してしまうという問題がある。このため、製造コストが増大し、商品性の悪化を招いていた。
【0005】
本発明は上記点に鑑みて、ブラシノイズ対策用の素子を別部品として備えなくてもブラシノイズを低減でき、ブラシノイズに起因する電気的摩耗を抑制できるモータ駆動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、モータ(2)の端子電圧をモニタ電圧として入力し、モニタ電圧が第1閾値電圧(Vth1)よりも大きいか否かに基づいて、モニタ電圧に含まれるブラシノイズのうち、モータ(2)の駆動によって生じる整流リップルを含む振幅波形に対して高電圧側に発生する高電圧側ノイズを検出する高電圧側ノイズ検出部(101)と、モニタ電圧として入力し、モニタ電圧が第1閾値電圧(Vth1)よりも低い第2閾値電圧(Vth2)よりも小さいか否かに基づいて、モニタ電圧に含まれるブラシノイズのうち、振幅波形に対して低電圧側に発生する低電圧側ノイズを検出する低電圧側ノイズ検出部(102)と、の少なくとも一方を有するノイズ検出部(10)と、高電圧側ノイズの発生回数と低電圧側ノイズの発生回数の少なくとも一方に基づいて、モータコントローラ(4)に指令信号を出力し、ブラシノイズの発生回数を少なくする方にモータ(2)の回転数を制御する演算部(11)と、を備えていることを特徴としている。
【0007】
このように、ノイズ検出部(10)にて高電圧側ノイズや低電圧側ノイズを検出し、演算部(11)にて、その検出回数に基づいてモータコントローラ(4)への指令信号を出力し、ブラシノイズの発生回数を少なくする方にモータ(2)の回転数を制御する。これにより、モータ(2)の回転数を整流が最適となる回転数に制御することができ、モータ(2)の回転数調整のみによってブラシノイズを低減できる。したがって、ブラシノイズ対策用の素子を別部品として備えなくてもブラシノイズを低減でき、ブラシノイズに起因する電気的摩耗を抑制できるモータ駆動装置とすることが可能となる。
【0008】
請求項2に記載の発明では、ノイズ検出部(10)は、高電圧側ノイズ検出部(101)と低電圧側ノイズ検出部(102)を共に有し、演算部(11)は、高電圧側ノイズの発生回数と低電圧側ノイズの発生回数の差が最も小さくなったとき、もしくは、該差が所定の閾値以下となったときの回転数を目標回転数(Rt)として、モータ(2)を目標回転数(Rt)に制御する指令信号を出力することを特徴としている。
【0009】
このように、例えば、高電圧側ノイズの発生回数と低電圧側ノイズの発生回数の差に基づいて目標回転数(Rt)を設定することができる。そして、このようにして設定された目標回転数(Rt)となるようにモータ(2)の回転数を制御することで、請求項1に記載の効果を得ることができる。
【0010】
請求項3に記載の発明では、ノイズ検出部(10)は、高電圧側ノイズ検出部(101)と低電圧側ノイズ検出部(102)を共に有し、演算部(11)は、モータコントローラ(4)によってモータ(2)の回転数を所定の回転数範囲において変化させると共に、該回転数を変化させている期間中における高電圧側ノイズの発生回数と低電圧側ノイズの発生回数の差の変化を演算し、該差が最も小さくなったとき、もしくは、該差が所定の閾値以下となったときの回転数を目標回転数(Rt)として、モータ(2)を目標回転数(Rt)に制御する指令信号を出力することを特徴としている。
【0011】
このように、例えば、モータ(2)の回転数を所定の回転数範囲において変化させ、その期間中における高電圧側ノイズの発生回数と低電圧側ノイズの発生回数の差の変化に基づいて目標回転数(Rt)を設定することもできる。そして、このようにして設定された目標回転数(Rt)となるようにモータ(2)の回転数を制御することで、請求項1に記載の効果を得ることができる。
【0012】
請求項4に記載の発明では、ノイズ検出部(10)は、低電圧側ノイズ検出部(102)を有し、演算部(11)は、モータコントローラ(4)によってモータ(2)の回転数を所定の回転数から徐々に上昇させ、該上昇期間中における低電圧側ノイズの発生回数が最も小さくなったとき、もしくは、所定の閾値以下となったときの回転数を目標回転数(Rt)として、モータ(2)を目標回転数(Rt)に制御する指令信号を出力することを特徴としている。
【0013】
このように、例えば、モータ(2)の回転数を所定の回転数から徐々に上昇させ、その期間中おける低電圧側ノイズの発生回数に基づいて目標回転数(Rt)を設定することもできる。そして、このようにして設定された目標回転数(Rt)となるようにモータ(2)の回転数を制御することで、請求項1に記載の効果を得ることができる。
【0014】
請求項5に記載の発明では、ノイズ検出部(10)は、高電圧側ノイズ検出部(101)を有し、演算部(11)は、モータコントローラ(4)によってモータ(2)の回転数を所定の回転数から徐々に下降させ、該下降期間中における高電圧側ノイズの発生回数が最も小さくなったとき、もしくは、所定の閾値以下となったときの回転数を目標回転数(Rt)として、モータ(2)を目標回転数(Rt)に制御する指令信号を出力することを特徴としている。
【0015】
このように、例えば、モータ(2)の回転数を所定の回転数から徐々に下降させ、その期間中おける高電圧側ノイズの発生回数に基づいて目標回転数(Rt)を設定することもできる。そして、このようにして設定された目標回転数(Rt)となるようにモータ(2)の回転数を制御することで、請求項1に記載の効果を得ることができる。
【0016】
なお、上記各手段の括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の第1実施形態にかかるモータ駆動装置1およびモータ駆動装置1によって駆動されるモータ2の駆動回路の概略構成を示した図である。
図2】回転数を変化させてモータ2を駆動した場合におけるブラシノイズのノイズレベルの変化を示した図である。
図3A】ノイズレベルが低下する特定範囲の回転数よりも低回転数となる回転数Rlowでのモニタ電圧波形を示した図である。
図3B】目標回転数Rtでのモニタ電圧波形を示した図である。
図3C】ノイズレベルが低下する特定範囲の回転数よりも高回転数となる回転数Rhighでのモニタ電圧波形を示した図である。
図4A】回転数Rlowのときのモニタ電圧波形とHigh側ノイズ検出部101およびLow側ノイズ検出部102の出力信号を示したタイムチャートである。
図4B】目標回転数Rtのときのモニタ電圧波形とHigh側ノイズ検出部101およびLow側ノイズ検出部102の出力信号を示したタイムチャートである。
図4C】回転数Rhighのときのモニタ電圧波形とHigh側ノイズ検出部101およびLow側ノイズ検出部102の出力信号を示したタイムチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明を行う。
【0019】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態について説明する。図1は、本実施形態にかかるモータ駆動装置1およびモータ駆動装置1によって駆動されるモータ(ブラシ付モータ)2の駆動回路の概略構成を示した図である。まず、この図を参照して、モータ駆動装置1およびモータ2の駆動回路について説明する。
【0020】
モータ駆動装置1は、CPU、ROM、RAM、I/O等を備えた周知のマイクロコンピュータによって構成され、予め記憶されたプログラムにしたがってモータ2に対する電源3からの電力供給を制御することで、モータ2を所望回転数に制御する。例えば、モータ2は、ブレーキ液圧制御用の電動ポンプ(図示せず)の駆動用モータとして適用される。この場合、アンチスキッド制御が実行される場合には、モータ2の駆動に基づくポンプ動作によって対象車輪のホイールシリンダから排出されたブレーキ液をマスタシリンダ側に返流するという動作を行う。また、横滑り防止制御やトラクション制御等が実行される場合には、モータ2の駆動に基づくポンプ動作によってマスタシリンダ側からブレーキ液を圧送し、対象車輪のホイールシリンダを加圧する。なお、ここではモータ2の適用例としてブレーキ液圧制御用の電動ポンプの駆動用モータを挙げたが、勿論、これに限らず他の用途に適用することも可能である。
【0021】
このモータ駆動装置1は、モータ2の電力供給経路に備えられたモータコントローラ4を制御することで、モータ2に対する電力供給を制御する。本実施形態の場合、モータ2のハイサイド側にモータコントローラ4を接続したハイサイド駆動の駆動回路とされており、モータ2のハイサイド側でモータコントローラ4を制御することにより、モータ2への電力供給を制御する。具体的には、モータコントローラ4に対して指令信号を出力することにより、モータコントローラ4を通じてモータ2に供給される電流を制御し、モータ2の回転数を制御している。
【0022】
モータコントローラ4は、例えばMOSトランジスタなどのスイッチング素子や可変抵抗にて構成される電流調整抵抗など、指令信号に基づいてモータ2に供給する電流を制御できるものであればどのようなものであっても良い。例えばモータコントローラ4をMOSFETで構成する場合には、MOSトランジスタのゲートに対して印加するゲート電圧を制御することにより、MOSトランジスタをオンオフさせてモータ2への電流供給を制御している。
【0023】
また、モータ駆動装置1は、モータ2のローサイド側もしくはハイサイド側のいずれかの電圧、つまり端子電圧をモニタしている。本実施形態の場合、モータ2のローサイド側において、モータ2に直列接続されるように抵抗5が備えられており、モータ駆動装置1は、モータ2のローサイド側の電位、つまりモータ2と抵抗5との接続点の電位をモニタ電圧として入力している。本実施形態の場合、モニタ電圧は、モータ2に供給された電流による抵抗5での電圧降下量に対応する電位となり、ブラシノイズも重畳された電位となる。これが、モータ2に供給された電流に相当する電位となる。
【0024】
このため、モータ駆動装置1は、モニタ電圧を入力することで、モータ2への電力供給の状態に加えてブラシノイズを把握することができる。このモニタ電圧に重畳されるブラシノイズに基づき、モータ駆動装置1は、モータ2にとって整流が最適な回転数(以下、目標回転数という)もしくはそれに対応する指令信号を検出する。そして、モータ駆動装置1は、モータコントローラ4を制御することでモータ2を所望回転数に制御し、ブラシノイズを低減させる。
【0025】
具体的には、モータ駆動装置1には、ノイズ検出部10と演算部11とが備えられている。ノイズ検出部10は、入力されるモニタ電圧に基づいてブラシノイズを検出する。本実施形態では、ノイズ検出部10は、高電圧側に発生するノイズ(以下、High側ノイズという)を検出するHigh側ノイズ検出部101と、低電圧側に発生するノイズ(以下、Low側ノイズという)を検出するLow側ノイズ検出部102とを有した構成とされている。
【0026】
High側ノイズ検出部101は、モニタ電圧の振幅波形に対して重畳されるブラシノイズのうち振幅波形よりも高電圧側に発生するノイズ(以下、High側ノイズという)を検出する。Low側ノイズ検出部102は、ブラシノイズのうちモニタ電圧の振幅波形よりも低電圧側に発生するノイズ(以下、Low側ノイズという)を検出する。
【0027】
High側ノイズ検出部101は、分圧抵抗101a、101bや比較器101c等を有した構成とされ、モニタ電圧を反転入力端子に入力すると共に、分圧抵抗101a、101bによって生成される第1閾値電圧Vth1を非反転入力端子に入力し、これらを大小比較する。そして、その比較結果に応じた検出信号を演算部11に出力する。Low側ノイズ検出部102も、分圧抵抗102a、102bや比較器102c等を有した構成とされ、モニタ電圧を反転入力端子に入力すると共に、分圧抵抗102a、102bによって生成される第2閾値電圧Vth2を非反転入力端子に入力し、これらを大小比較する。そして、その比較結果に応じた検出信号を演算部11に出力する。
【0028】
第1閾値電圧Vth1とは、モニタ電圧の振幅波形よりも高電圧側に発生するブラシノイズが発生していることを判定する閾値であり、振幅波形として想定される電圧よりも大きく、高電圧側に発生するブラシノイズの電圧よりも低い電圧に設定される。第2閾値電圧Vth2とは、モニタ電圧の振幅波形よりも低電圧側に発生するブラシノイズが発生していることを判定する閾値であり、振幅波形として想定される電圧よりも小さく、低電圧側に発生するブラシノイズの電圧よりも高い電圧に設定される。したがって、High側ノイズ検出部101では、High側ノイズが発生したタイミングでモニタ電圧が第1閾値電圧Vth1よりも高くなって比較器101cの出力レベルが変化し、それが演算部11に入力されるようになっている。また、Low側ノイズ検出部102では、Low側ノイズが発生したタイミングでモニタ電圧が第2閾値電圧Vth2よりも低くなって比較器102cの出力レベルが変化し、それが演算部11に入力されるようになっている。
【0029】
演算部11は、ノイズ検出部10でのブラシノイズの検出結果に基づいて、モータ2が目標回転数で駆動されるようにモータコントローラ4を制御し、ブラシノイズを低減する。本実施形態の場合、演算部11は、High側ノイズ検出部101とLow側ノイズ検出部102からの出力信号を入力し、High側ノイズとLow側ノイズの検出回数に基づいて、モータ2を目標回転数とするのにモータ2の回転数を上昇・下降のいずれを行うかを演算している。そして、この演算結果に基づいて、モータ2が目標回転数となるようにモータコントローラ4を制御し、モータ2への供給電流を制御する。これにより、モータ2を目標回転数に制御できると共に、ブラシノイズ対策用の素子を別部品として備えなくてもブラシノイズを低減でき、ブラシノイズに起因する電気的摩耗を抑制することが可能となる。
【0030】
続いて、本実施形態にかかるモータ駆動装置1によるモータ駆動の詳細について説明する。本実施形態のモータ駆動装置1は、モータ2を駆動するタイミング、例えば上述したアンチスキッド制御や横滑り防止制御もしくはトラクション制御等を実行する際にモータコントローラ4に対して指令信号を出力し、モータ2を駆動する。このモータ駆動時に、モニタ電圧に基づいてブラシノイズを検出し、その検出結果に基づいてモータ2にとって整流が最適となる回転数を演算して、モータ2が目標回転数となるようにモータコントローラ4を制御する。
【0031】
図2は、回転数を変化させてモータ2を駆動した場合におけるブラシノイズのノイズレベルの変化を示した図である。この図に示すように、特定範囲の回転数において最もノイズレベルが低下し、それよりも低回転数もしくは高回転数ではノイズレベルが高くなっている。比較すると、特定範囲の回転数では、それよりも低回転数もしくは高回転数のときよりも10dB程度ブラシノイズが少なくなっており、この特定範囲の回転数、特に最もブラシノイズが低下する回転数が整流の最適な回転数であり、目標回転数となる。ただし、この目標回転数は、モータ2の駆動状況、例えば温度や負荷に応じて変化し、必ずしも一定値にはならない。
【0032】
また、ノイズレベルが低下する特定範囲の回転数よりも低回転数となる回転数Rlow、目標回転数Rt、および特定範囲の回転数よりも高回転数となる回転数Rhighそれぞれの場合でのモニタ電圧波形は、例えば図3A図3Cに示す形状となる。すなわち、モータ2の回転に伴ってブラシとコンミテータとの接触状態が変化するため、モニタ電圧波形は、基本的にはその接触状態に応じた整流リップルが生じた振幅波形となり、その振幅波形に対してブラシノイズが重畳された波形となる。そして、回転数Rlowのときには、モニタ電圧に重畳されるブラシノイズが振幅波形よりも低電圧側に発生するLow側ノイズとなり、回転数Rhighのときには、モニタ電圧に重畳されるブラシノイズが振幅波形よりも高電圧側に発生するHigh側ノイズとなる。また、目標回転数Rtのときには、モニタ電圧に重畳されるブラシノイズがほぼなくなり、ほぼ振幅波形のみとなる。
【0033】
このように、目標回転数Rtではブラシノイズが最も小さく、その前後ではブラシノイズの発生電圧が振幅波形に対して低圧側と高圧側というように極性が逆になる。したがって、回転数Rlowのときには、Low側ノイズがHigh側ノイズよりも多くなり、目標回転数Rtのときには、Low側ノイズとHigh側ノイズとがほぼ発生せずにこれらの差も少なくなり、回転数Rhighのときには、High側ノイズがLow側ノイズよりも多くなる。この現象に基づき、整流が最適となる目標回転数Rt、もしくはその目標回転数Rtに近づけるためにモータコントローラ4を介してモータ2に供給される電流を上昇させるか下降させるかを演算する。
【0034】
具体的には、本実施形態では、モータ2の駆動開始時にはモータ2が任意の回転数で駆動され、それが目標回転数Rtよりも大きな回転数か小さな回転数か判らない。このため、駆動開始時の回転数での単位時間当りのHigh側ノイズとLow側ノイズの検出回数の差を求め、この差に基づいて、モータ2の回転数を上昇・下降のいずれとするかを演算する。
【0035】
具体的には、回転数Rlow、目標回転数Rt、回転数Rhighそれぞれの場合のHigh側ノイズ検出部101とLow側ノイズ検出部102の出力信号は、図4A図4Cのタイミングチャートのように表される。このため、例えば、各ノイズ検出部101、102の出力信号の電圧レベルが変化したときのエッジ数をカウントし、そのカウント数の差を演算することでモータ2の回転数が目標回転数Rtに対して大小いずれであるかを演算する。そして、Low側ノイズがHigh側ノイズよりも多く、モータ2の回転数が目標回転数Rtに対して小さければモータ2の回転数を大きくすべく、モータコントローラ4に対してモータ2への供給電流を増加させる指令信号を出力し、モータ2の回転数を上昇させる。逆に、High側ノイズがLow側ノイズよりも多く、モータ2の回転数が目標回転数Rtに対して大きければモータ2の回転数を小さくすべく、モータコントローラ4に対してモータ2への供給電流を減少させる指令信号を出力し、モータ2の回転数を下降させる。
【0036】
このような動作を繰り返し行い、モータ2の回転数を目標回転数Rtに近づけるように制御する。例えば、上記したカウント数の差が最小値となったとき、もしくは、カウント数の差が所定の閾値以下になったときを目標回転数Rtに至ったときと検出し、モータ2への供給電流を固定する。これにより、モータ2を目標回転数Rtで駆動することが可能となる。なお、カウント数の差が最小値になったことについては、モータ2への供給電流を変化させたときのカウント数の差の変化を確認し、カウント数の差が低下したのち増加に転じたときを記憶すれば良い。
【0037】
以上説明したように、モータ2の回転数を整流が最適となる目標回転数Rtに制御することで、モータ2の回転数調整のみによってブラシノイズを低減できる。したがって、ブラシノイズ対策用の素子を別部品として備えなくてもブラシノイズを低減でき、ブラシノイズに起因する電気的摩耗を抑制できるモータ駆動装置1とすることが可能となる。
【0038】
(第2実施形態)
本発明の第2実施形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態に対して目標回転数Rtの検出方法を変更したものであり、その他については第1実施形態と同様であるため、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0039】
本実施形態では、モータ2の目標回転数Rtとして想定される値は、所定の回転数範囲内に含まれることから、その範囲内においてモータ2の回転数を変化させ、そのときのブラシノイズの変化に基づいて、モータ2を目標回転数Rtで駆動させるようにする。
【0040】
例えば、演算部11にて、所定の回転数範囲のうちの下限値に相当する電流がモータ2に供給されるように指令信号を出力したのち、徐々にモータ2への供給電流を増加させ、所定の回転数範囲のうちの上限値に相当する電流がモータ2に供給されるようにする。そして、その期間中、ノイズ検出部10でモニタ電圧に基づいてブラシノイズを検出させ、演算部11にて、単位時間当たりのHigh側ノイズとLow側ノイズの検出回数を演算して、各ノイズの検出回数の差を演算する。例えば、第1実施形態と同様、各ノイズ検出部101、102の出力信号の電圧レベルが変化したときのエッジ数をカウントし、そのカウント数の差を演算する。この各ノイズの検出回数の差を学習し、最も差が小さくなったとき、もしくは、所定の閾値以下となったときをモータ2の回転数が目標回転数Rtになるときとして記憶する。そして、演算部11からの指令信号に基づいてモータ2への供給電流を制御し、モータ2が目標回転数Rtとなるようにする。
【0041】
このように、モータ2の回転数を所定の回転数範囲内において変化させ、その変化させた範囲内において最もHigh側ノイズとLow側ノイズの検出回数の差が最も小さくなったときなどをモータ2の回転数が目標回転数Rtになるときとして学習させても良い。これにより、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0042】
(第3実施形態)
本発明の第3実施形態について説明する。本実施形態も、第1実施形態に対して目標回転数Rtの検出方法を変更したものであり、その他については第1実施形態と同様であるため、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0043】
本実施形態では、Low側ノイズのみによってモータ2が目標回転数Rtになったことを検出する。なお、本実施形態の場合、ほぼ第1実施形態と同様の構成のモータ駆動装置1を適用できるが、Low側ノイズのみを検出できれば良いため、図1中のノイズ検出部10をLow側ノイズ検出部102のみとし、High側ノイズ検出部101を無くした構成として良い。
【0044】
具体的には、モータ2の目標回転数Rtとして想定される値は、所定の回転数範囲内に含まれることから、その範囲の下限値からモータ2の回転数を上昇させ、そのときのブラシノイズの変化に基づいて、モータ2を目標回転数Rtで駆動させるようにする。
【0045】
例えば、演算部11にて、所定の回転数範囲のうちの下限値に相当する電流がモータ2に供給されるように指令信号を出力したのち、徐々にモータ2への供給電流を増加させる。そして、その期間中、ノイズ検出部10でモニタ電圧に基づいてブラシノイズを検出させ、演算部11にて、単位時間当たりのLow側ノイズの検出回数を演算する。例えば、Low側ノイズ検出部102の出力信号の電圧レベルが変化したときのエッジ数をカウントする。このLow側ノイズの検出回数が最も小さくなったとき、もしくは、所定の閾値以下となったときをモータ2の回転数が目標回転数Rtになるときとして記憶する。そして、演算部11からの指令信号に基づいてモータ2への供給電流を制御し、モータ2が目標回転数Rtとなるようにする。
【0046】
このように、モータ2の回転数を所定の回転数範囲内において徐々に上昇させ、その上昇期間中にLow側ノイズの検出回数が最も小さくなったときにモータ2への供給電流を固定する。これにより、モータ2を目標回転数Rtで駆動することが可能となる。これにより、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0047】
(第4実施形態)
本発明の第4実施形態について説明する。本実施形態も、第1実施形態に対して目標回転数Rtの検出方法を変更したものであり、その他については第1実施形態と同様であるため、第1実施形態と異なる部分についてのみ説明する。
【0048】
本実施形態では、High側ノイズのみによってモータ2が目標回転数Rtになったことを検出する。なお、本実施形態の場合、ほぼ第1実施形態と同様の構成のモータ駆動装置1を適用できるが、High側ノイズのみを検出できれば良いため、図1中のノイズ検出部10をHigh側ノイズ検出部101のみとし、Low側ノイズ検出部102を無くした構成として良い。
【0049】
具体的には、モータ2の目標回転数Rtとして想定される値は、所定の回転数範囲内に含まれることから、その範囲の上限値からモータ2の回転数を下降させ、そのときのブラシノイズの変化に基づいて、モータ2を目標回転数Rtで駆動させるようにする。
【0050】
例えば、演算部11にて、所定の回転数範囲のうちの上限値に相当する電流がモータ2に供給されるように指令信号を出力したのち、徐々にモータ2への供給電流を減少させる。そして、その期間中、ノイズ検出部10でモニタ電圧に基づいてブラシノイズを検出させ、演算部11にて、単位時間当たりのHigh側ノイズの検出回数を演算する。例えば、High側ノイズ検出部101の出力信号の電圧レベルが変化したときのエッジ数をカウントする。このHigh側ノイズの検出回数が最も小さくなったとき、もしくは、所定の閾値以下となったときをモータ2の回転数が目標回転数Rtになるときとして記憶する。そして、演算部11からの指令信号に基づいてモータ2への供給電流を制御し、モータ2が目標回転数Rtとなるようにする。
【0051】
このように、モータ2の回転数を所定の回転数範囲内において下降させ、その下降期間中にHigh側ノイズの検出回数が最も小さくなったときにモータ2への供給電流を固定する。これにより、モータ2を目標回転数Rtで駆動することが可能となる。これにより、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0052】
(他の実施形態)
本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した範囲内において適宜変更が可能である。
【0053】
例えば、第2実施形態では、モータ2の駆動時に、モータ2の目標回転数Rtとして想定される所定の回転数範囲の下限値から上限値に向けて変化させるようにしたが、上限値から下限値に向けて変化させるようにしても良い。
【0054】
また、電源3からモータ2への電流供給経路に備えられるモータコントローラ4の配置場所についても、第1実施形態に対して変えても良い。すなわち、上記各実施形態では、モータコントローラ4をモータ2のハイサイド側に配置したハイサイド駆動を例に挙げたが、モータコントローラ4をローサイド側に配置したローサイド駆動としても良い。さらに、モータ2のローサイド側の電位をモニタ電圧として用いたが、ハイサイド側の電位をモニタ電圧として用いても良い。
【符号の説明】
【0055】
1…モータ駆動装置、2…モータ、3…電源、4…モータコントローラ、5…抵抗、10…ノイズ検出部、11…演算部、101…High側ノイズ検出部、102…Low側ノイズ検出部、101a、101b、102a、102b…分圧抵抗、101c、102c…比較器
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図4A
図4B
図4C