(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6089772
(24)【登録日】2017年2月17日
(45)【発行日】2017年3月8日
(54)【発明の名称】円偏波送受信用平面アンテナ
(51)【国際特許分類】
H01Q 21/24 20060101AFI20170227BHJP
H01Q 1/38 20060101ALI20170227BHJP
H01Q 13/10 20060101ALI20170227BHJP
H01Q 1/32 20060101ALI20170227BHJP
【FI】
H01Q21/24
H01Q1/38
H01Q13/10
H01Q1/32 A
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-35261(P2013-35261)
(22)【出願日】2013年2月26日
(65)【公開番号】特開2014-165685(P2014-165685A)
(43)【公開日】2014年9月8日
【審査請求日】2015年11月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002200
【氏名又は名称】セントラル硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108671
【弁理士】
【氏名又は名称】西 義之
(72)【発明者】
【氏名】平林 幹也
【審査官】
赤穂 美香
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−234187(JP,A)
【文献】
特開2012−085262(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/123147(WO,A1)
【文献】
特開2010−028494(JP,A)
【文献】
特開2003−008325(JP,A)
【文献】
特開2008−259010(JP,A)
【文献】
特開2008−187631(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01Q 21/24
H01Q 1/32
H01Q 1/38
H01Q 13/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車の窓ガラスの上辺部の片面に設けられた導電膜によって形成され、互いに周波数の離れた2種類の円偏波の電波を送受信する平面アンテナ(1)であり、
前記平面アンテナ(1)は、第1導電膜部(11)と、第2導電膜部(12)と、第3導電膜部(13)とを同一面上に備えており、
前記第1導電膜部(11)は、その端縁の一部が直線となっており、
前記第1導電膜部(11)の直線となっている端縁に、前記第2導電膜部(12)と前記第3導電膜部(13)とが、離隔して接続され、
前記第2導電膜部(12)は、スペーサ部(121)と、水平部(122)とを備えており、
前記第3導電膜部(13)は、スペーサ部(121)と離隔して対向して設けられており、
前記スペーサ部(121)は、前記第1導電膜部(11)に接続され、前記水平部(122)と前記第1導電膜部(11)との間に空間を設ける部材であり、
前記水平部(122)は、前記スペーサ部(121)の、前記第1導電膜部(11)とは反対側の端辺に接続され、前記第1導電膜部(11)に対向する辺が、前記第1導電膜部(11)の端縁と水平になるように、前記第3導電膜部(13)の方向へ延伸されている部材であり、
前記水平部(122)上の、前記スペーサ部(121)と前記第3導電膜部(13)との間の領域に、芯線側給電点(2)を設け、
前記芯線側給電点(2)に対向する第1導電膜部(11)上にアース側給電点(3)を設けており、
前記芯線側給電点(2)から前記スペーサ部(121)の前記第3導電膜部(13)側の端辺までの距離bが、ガラスの波長短縮率をαとし、送受信する2種類の電波の周波数帯域の中心周波数をλとしたときに、αλ/3であることを特徴とする円偏波送受信用平面アンテナ。
【請求項2】
前記第3導電膜部(13)と前記スペーサ部(122)の空間を隔てて対向する辺が、互いに水平となっていることを特徴とする請求項1に記載の円偏波送受信用平面アンテナ。
【請求項3】
前記芯線側給電点(2)が、前記水平部(122)の前記第3導電膜部(13)側の端部に設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の円偏波送受信用平面アンテナ。
【請求項4】
前記第3導電膜部(13)の、前記第1導電膜部(11)と接続している側と反対側の端辺までの距離が、前記スペーサ部(121)の、前記第1導電膜部(11)と接続している側から、前記水平部(122)に接続している側までの距離となることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の円偏波送受信用平面アンテナ。
【請求項5】
1GHz〜1.6GHzの範囲の広帯域にわたって、軸比が3dB以下とであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の円偏波送受信用平面アンテナ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス板などの誘電体板の片面に設けることができ、広帯域で円偏波を好適に送受信できる平面アンテナに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、GPS(Global Positioning System)を用いたナビゲーションシステムが用いられているが、より高精度なナビゲーションシステムを、1227.60MHzと1575.42MHzとの二つの周波数の円偏波を併用することで実現することが考えられている。
【0003】
カーナビゲーション用としてGPSを利用する場合、GPS衛星からの送信される電波を受信するアンテナとしてはマイクロストリップアンテナがよく用いられる。しかし、マイクロストリップアンテナは、誘電体板の両面に導体膜を形成する必要があるとともに、一つのマイクロストリップアンテナで受信できる帯域が狭いため、複数の帯域を受信できるアンテナを構成するときには、複数のマイクロストリップアンテナを積層するなどの工夫が必要であり、複雑な構造とならざるを得なかった。
【0004】
そこで、簡易な構造で、広帯域で円偏波を送受信できる平面アンテナとして、例えば、本出願人の出願に係わる特開2011−234187号公報(特許文献1)に平面アンテナが記載されている。この平面アンテナは、誘電体板の片面に導電膜で形成される平面アンテナであり、導電膜で形成される略矩形状の第1帯状エレメントの一部に略矩形状の空白アンテナ領域を設け、前記第1帯状エレメントの上辺又は下辺に連結するように略L字状又は略T字状の導電性の第2帯状エレメントを備えることを特徴とする平面アンテナである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−234187号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された平面アンテナは、前記略矩形状の空白帯状領域を設けた第1帯状エレメントに加えて、第2帯状エレメントを備えなければならず、送受信する周波数に対して面積の大きなアンテナとならざるを得なかった。
【0007】
本発明はこれらの問題点の解決を図る。すなわち、ガラス板などの誘電体板の片面に設けることができ、GPS衛星から到来する互いに周波数の離れた2種類の円偏波の電波を受信できるだけの広帯域で、電波を好適に送受信できるとともに小型の円偏波送受信用平面アンテナを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の平面アンテナは、誘電体板上の一方の面に設けられた導電膜によって形成される円偏波送受信用平面アンテナである。そして前記平面アンテナは、第1導電膜部と、第2導電膜部と、第3導電膜部とを同一面上に備えている。
【0009】
前記第1導電膜部は、その端縁の一部が直線となっており、前記第1導電膜部の直線となっている端縁に、前記第2導電膜部と前記第3導電膜部とが、離隔して接続されている。
【0010】
前記第2導電膜部は、スペーサ部と、水平部とを備えている。そして、前記スペーサ部は、前記第1導電膜部に接続され、前記水平部と前記第1導電膜部との間に空間を設ける部材である。また、前記水平部は、前記スペーサ部の、前記第1導電膜部とは反対側の端辺に接続され、前記第1導電膜部に対向する辺が、前記第1導電膜部の端縁と水平になるように、前記第3導電膜部の方向へ延伸されている部材である。
【0011】
そして、本発明の平面アンテナは、前記水平部上の、前記スペーサ部と前記第3導電膜部とに挟まれた領域に、芯線側給電点を設けており、前記芯線側給電点に対向する第1導電膜部上にアース側給電点を設けている。
【0012】
本発明の平面アンテナでは、第1導電膜部が、アースとして機能しており、第1導電膜部を第2導電膜部及び第3導電膜部よりも大きな面積とすることにより、本発明の平面アンテナが配置される箇所に係わらず本発明の平面アンテナのアンテナ性能を一定に保つことが可能となる。
【0013】
前記第2導電膜部及び前記第3導電膜部は、本発明の平面アンテナにおいて円偏波を発生させるために重要な構成要素となっている。
【0014】
本発明の平面アンテナは、このような構造とすることによって、広帯域で円偏波を好適に受信できるとともに、比較小さな面積の平面アンテナを実現することができる。
【0015】
また、本発明の平面アンテナは、前記第3導電膜部と前記スペーサ部の空間を隔てて対向する辺が、互いに水平となるようにすることによって、本発明の平面アンテナのパターン形状を変化させることによりアンテナ性能を最適化することがより容易となる。
【0016】
さらにまた、本発明の平面アンテナは、前記芯線側給電点を、前記水平部の前記第3導電膜部側の端部に設けることにより、広帯域に円偏波をより好適に受信できるようになる。
【0017】
また、本発明の平面アンテナは、前記第3導電膜部の、前記第1導電膜部と接続している側と反対側の端辺までの距離を、前記スペーサ部の、前記第1導電膜部と接続している側から、前記水平部に接続している側までの距離程度とすることで、広帯域に円偏波を好適に受信しつつより小さな面積の平面アンテナを実現することができる。
【0018】
さらにまた、本発明の平面アンテナは、前記芯線側給電点から前記スペーサ部の前記第3導電膜部側の端辺までの距離が、ガラスの波長短縮率をαとし、送受信する電波の周波数帯域の中心周波数をλとしたときに、αλ/3とすると、広帯域に円偏波をより好適に受信できるようになる。
【0019】
そして、本発明の平面アンテナは、前記誘電体板を、ガラス板とすることによって、例えば自動車の窓ガラスの上辺部に備えることができる。このように窓ガラスという自動車の開口部にGPS衛星からの電波を受信するためのアンテナを備えることができるため、自動車のカーナビゲーションシステムのGPS衛星からの電波受信用のアンテナとして本発明の平面アンテナを窓ガラスに設けて用いた場合、好適な電波の受信が可能となる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の円偏波送受信用平面アンテナは、ガラス板などの誘電体板の片面に設けることができるため、簡易な構造とすることができるとともに、比較小さな面積でありながら、広帯域で円偏波を好適に送受信することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図3】実施形態2に係わる平面アンテナをガラス板上に設けた状態をシミュレーションしたときの周波数にごとの軸比を示した図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態のアンテナの構成について説明する。なお、本明細書において、上下左右の用語は、添付の図面について使用するものであり、実際の物品における方向を規定するものではない。
【0023】
<実施形態1>
図1は、本発明の実施形態1に係わるアンテナの正面図である。
【0024】
実施形態1のアンテナは、誘電体板の片面に形成されており、第1導電膜部11と、第2導電膜部12と、第3導電膜部13とを同一面上に備えている。
【0025】
第1導電膜部11は、アースとして機能しており、第1導電膜部11を第2導電膜部12及び第3導電膜部13よりも大きな面積とすることにより、本発明の平面アンテナが配置される箇所に係わらず本発明の平面アンテナのアンテナ性能を一定に保つことが可能となる。
【0026】
第1導電膜部11は、矩形状の導電膜であり、その同一辺上に、第2導電膜部12と、第3導電膜部13とが、接続されている。第1導電膜部11は、実施形態1のアンテナのように、第2導電膜部12と第3導電膜部13とが、接続されている一辺以外は、直線状となっていなくてもよい。
【0027】
第2導電膜部12は、スペーサ部121と、水平部122とから構成されている。スペーサ部121は、水平部122と第1導電膜部11とを離隔させるための部材であり、実施形態1においては矩形状の導電膜で形成されている。しかしながら、必ずしも矩形状である必要はない。水平部122は、スペーサ部121の端辺に接続されており、第3導電膜部13の方向へ延伸される部材である。製作のしやすさを考えると帯状の部材とするのが好ましいが、水平部122に対向する第1導電膜部11の辺と水平になるように形成されておればよい。また、実施形態1のアンテナのように、水平部122が、スペーサ部121から第3導電膜部13へ向かう方向とは反対方向にも延伸されていても構わない。
【0028】
第3導電膜部13は、矩形状の導電膜で形成されている。これも、製作のしやすさを考えたためであり、必ずしも矩形状にしなければならないわけではなく、スペーサ部121と離隔して対向して設けられた導電膜で形成される部材であればよい。
【0029】
また、実施形態1のアンテナにおいては、第3導電膜部13の高さをスペーサ部121の高さ程度としているので、広帯域での円偏波の受信をより好適に行うことができる。
【0030】
そして、芯線側給電点2及びアース側給電点3は、それぞれ水平部122及び第1導電膜部11上に設けられている。芯線側給電点2と、アース側給電点3とは、第1導電膜部11の第2導電膜部12、第3導電膜部13とが接続されている辺に直交する仮想線m上に並ぶように設けておくとよく、さらに芯線側給電点2とアース側給電点3とはなるべく位置が近くなるように配設するとよい。そのため、実施形態1のアンテナにおいては、芯線側給電点2とアース側給電点3とは、それぞれ第1導電膜部11と水平部122との互いに対向する辺の近傍に配設している。
【0031】
また、芯線側給電点2とアース側給電点3とが並ぶ仮想線mとスペーサ部材121の第3導電膜部側の
端辺との間の距離bをαλ/3(α:
ガラスの波長短縮率、λ:
送受信する2種類の電波の周波数帯域の中心周波数)としたときに、広帯域で円偏波をより好適に送受信することができる。
【0032】
本発明の平面アンテナを用いる場合には、本発明の平面アンテナと受信機とを同軸線で接続する。同軸線と平面アンテナとの接続は、同軸線の芯線を芯線側給電点2に接続し、同軸線の外皮導線をアース側給電点3に接続する。
【0033】
実施形態1の平面アンテナは、このような形態をとることによって、比較小さな面積でありながら、広帯域で円偏波を好適に送受信することができる。
【0034】
<実施形態2>
図2は、本発明の実施形態2に係わるアンテナの正面図である。
【0035】
実施形態2のアンテナは、芯線側給電点2が、水平部122の第3導電
膜部13の方向の端部に設けられており、アース側給電点3が、仮想線m上の第1導電膜部11の端辺部に設けられている点で実施形態1のアンテナとは異なっている。芯線側給電点2とアース側給電点3の位置をこのようにすることによって、比較小さな面積でありながら、広帯域で円偏波を好適に送受信することができる。
【0036】
また、実施形態2のアンテナにおいては、第1導電膜部11に接続している第2導電膜部12と、第3導電膜部13の、互いに対向しているそれぞれの辺とは反対側の辺を、それぞれ第1導電膜部11を形成する矩形状の導体の辺と真っ直ぐに接続することによって、形状をより簡素なものとして、見た目の向上を図っている。
【0037】
<本発明の車両用ガラスアンテナの形成方法について>
本発明の車両用ガラスアンテナは、リアガラスのデフォッガを形成するのと同じ一般的な導電性セラミックペーストを用いることができ、デフォッガと同じ方法で印刷し、加熱炉によって焼付けることができる。または、銅箔のような導電膜を誘電体板上に貼って形成することもできるし、誘電体板の片面に金属膜が形成された板をエッチングすることによって形成してもよい。さらに、導電膜としてITOなどの透明導電膜をガラス板上にスパッタなどで形成すれば、自動車の窓ガラスに本発明のアンテナを用いた場合に、目立たないようにすることができる。また、透明プラスチックフィルム上に本発明のアンテナを形成し、このプラスチックフィルムを窓ガラスに貼り付けて用いることもできる。
【実施例1】
【0038】
図2に示される本発明の実施形態2の平面アンテナの性能をシミュレーションで評価した。シミュレーションの方法、シミュレーションの条件は次の通りである。
【0039】
シミュレーションの方法:有限要素法
ガラス板上に銅によって導電膜を形成したと仮定
ガラス板の寸法:100mm×100mm×厚さ2mm
ガラス板の物性値:比誘電率:ε=7.2、誘電正接:tanΔ=0.005
銅の物性値:電気伝導度:5.8×10
7S/m
アンテナは、ガラス板の中心付近に配置。
【0040】
アンテナの寸法を、GPS衛星から到来する周波数である1227.60MHzと1575.42MHzの電波が好適に受信できるように以下のように定めた。
【0041】
第1導電膜部11:k=45.6mm、l=144mm
スペーサ部121:a=12mm,g=48mm
水平部122:j=96mm、f=8.4mm
第3導電膜部13:i=30mm、e=17.4mm
仮想線mから、スペーサ部121の第3導電膜部13側の端辺までの距離:b=48mm≒αλ/3(
ガラスの波長短縮率α=0.7、1227.60MHzと1575.42MHzとの中心周波数λ=1401.51MHzとした)
第3導電膜
部13と水平部122との間隔:d=18mm
、第3導電膜
部13とスペーサ121との間隔:c=66mm
給電点は、水平部122の第3導電膜部13側の端から第1導電膜部11に向かって仮想線mに沿って幅0.5mmの導体を形成し、第1導電膜部11の近傍まで延伸し、この延伸した導体上に芯線側給電点2を設け、芯線側給電点2に対向する第1導電膜部11の辺上にアース側給電点3を設け、実際に本発明のアンテナを用いる場合をシミュレーションした。
【0042】
<本発明のアンテナのシミュレーション結果>
図3は、本発明のアンテナの周波数ごとの軸比を示した図である。軸比は、3dB以下であれば良好であるといわれており、本発明のアンテナにおいては
図3より、所望の周波数である1227.60MHzと1575.42MHzを含む約1GHz〜1.6GHzの範囲の広帯域にわたって、軸比が3dB以下となっていることがわかる。
【0043】
また、本発明のアンテナは、紙面の表側をアンテナが形成されている面とすると、紙面の裏側から到来する右円偏波の電波を好適に受信できるアンテナとなっている。もしも、紙面の裏側から到来する左円偏波の電波を好適に受信したい場合には、
図2に示した本発明のアンテナと左右対称の形状となるようにアンテナを形成すればよい。
【符号の説明】
【0044】
1 平面アンテナ
11 第1導電膜部
12 第2導電膜部
121 スペーサ部
122 水平部
13 第3導電膜部
2 芯線側給電点
3 アース側給電点