特許第6089845号(P6089845)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6089845
(24)【登録日】2017年2月17日
(45)【発行日】2017年3月8日
(54)【発明の名称】永久磁石式同期電動機の始動方法
(51)【国際特許分類】
   H02P 6/20 20160101AFI20170227BHJP
【FI】
   H02P6/20
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-59340(P2013-59340)
(22)【出願日】2013年3月22日
(65)【公開番号】特開2014-187744(P2014-187744A)
(43)【公開日】2014年10月2日
【審査請求日】2015年12月10日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100096459
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 剛
(72)【発明者】
【氏名】小堀 賢司
(72)【発明者】
【氏名】滝口 昌司
【審査官】 ▲桑▼原 恭雄
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−180451(JP,A)
【文献】 特開2003−180094(JP,A)
【文献】 特開平07−059385(JP,A)
【文献】 特開2002−266809(JP,A)
【文献】 特開2000−324881(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0280386(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 6/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータ軸受けに潤滑油が使用される永久磁石式同期電動機の始動方法であって、
停止状態の前記永久磁石式同期電動機の電機子巻線に対して、
初期磁極位置から第1の角度ずれた第1の位相の第1のパルス電圧を印加して正回転トルクを発生させる正回転制御と、
前記初期磁極位置から前記第1の角度分反転した第2の位相で、且つ前記第1のパルス電圧と同等の第2のパルス電圧を印加して逆回転トルクを発生させる逆回転制御とを、
電流安定化期間を挟んで交互に繰り返し実行することを特徴とする永久磁石式同期電動機の始動方法。
【請求項2】
前記第1の角度は90度以内に設定されていることを特徴とする請求項1に記載の永久磁石式同期電動機の始動方法。
【請求項3】
前記正回転制御および逆回転制御を1セットとする制御の実行回数が、n回目(nは正数)の実行時における前記第1の角度よりも、n+1回目の実行時における第1の角度を小さく設定したことを特徴とする請求項1又は2に記載の永久磁石式同期電動機の始動方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータ軸受けに潤滑油が使用される永久磁石式同期電動機の始動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
同期電動機(以下、PMモータと称する)は、誘導機に比べて二次回路の銅損がないため、損失が少ないなどの利点を有している。しかし、これをインバータなどの可変速制御装置で駆動する場合には、磁極の位置を位置センサなどで検出する必要がある。しかし、位置センサは半導体素子や光学素子が内蔵されているために耐環境性が低く、故障なども発生しやすい。そのため、位置センサレス制御方式の開発が進んでいる。
【0003】
例えば特許文献1には、磁極位置推定装置を備えた永久磁石式同期電動機のセンサレス制御システムが提案されている。
【0004】
スラスト荷重が大きいためモータ軸受けに潤滑油を使用して静止摩擦を低減しているPMモータは、例えば図5のように構成されている。図5において、11はPMモータ10の軸、12は潤滑油が供給される軸受である。図5のように構成されたPMモータ10において、始動トルクを低減させるためには、軸受12に潤滑油を供給するオイルリフタ装置などの装置を取り付ける必要がある。そのため装置が大型化している。
【0005】
尚、軸受に潤滑油を使用したモータは例えば特許文献2、3に記載のものが存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4211133号公報
【特許文献2】特開2008−261327号公報
【特許文献3】特開平7−253117号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
スラスト荷重が大きくモータ軸受に潤滑油を使用し静止摩擦を低減しているPMモータにおいて、停止状態からの始動時など潤滑油の層が形成されていない場合、始動トルクが大きくなる。インバータはモータを始動させるために、始動トルクを大きくする必要がある。始動し始めると徐々に潤滑油の層が形成し静止摩擦係数が小さくなり、負荷急変が発生する。このとき位置センサレスで始動している場合、磁極位置の推定ができなくなり、脱調し制御不能になってしまうことがある。
【0008】
本発明は上記課題を解決するものであり、その目的は、モータ軸受に潤滑油を使用しているPMモータにおいて、始動トルクを低減することができる永久磁石式同期電動機の始動方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための請求項1に記載の永久磁石式同期電動機の始動方法は、モータ軸受けに潤滑油が使用される永久磁石式同期電動機の始動方法であって、停止状態の前記永久磁石式同期電動機の電機子巻線に対して、初期磁極位置から第1の角度ずれた第1の位相の第1のパルス電圧を印加して正回転トルクを発生させる正回転制御と、前記初期磁極位置から前記第1の角度分反転した第2の位相で、且つ前記第1のパルス電圧と同等の第2のパルス電圧を印加して逆回転トルクを発生させる逆回転制御とを、電流安定化期間を挟んで交互に繰り返し実行することを特徴としている。
【0010】
上記構成によれば、モータ軸受けに潤滑油が使用される永久磁石式同期電動機の始動時に、正回転トルクと逆回転トルクを交互に発生させて前記電動機を振動させることにより、軸受軌道面に潤滑油の層が形成されるので、始動トルクを低減することができる。
【0011】
また、請求項2に記載の永久磁石式同期電動機の始動方法は、請求項1において、前記第1の角度は90度以内に設定されていることを特徴としている。
【0012】
上記構成によれば、微小な振動が加わるため初期磁極位置からのずれを小さくすることができ、加速運転に遷移する際のショックを抑えることができる。
【0013】
また、請求項3に記載の永久磁石式同期電動機の始動方法は、請求項1又は2において、前記正回転制御および逆回転制御を1セットとする制御の実行回数が、n回目(nは正数)の実行時における前記第1の角度よりも、n+1回目の実行時における第1の角度を小さく設定したことを特徴としている。
【0014】
上記構成によれば、請求項1、2の場合よりもさらに、初期磁極位置からのずれを小さくすることができる。
【発明の効果】
【0015】
(1)請求項1〜3に記載の発明によれば、モータ軸受けに潤滑油が使用される永久磁石式同期電動機の始動時に、正回転トルクと逆回転トルクを交互に発生させて前記電動機を振動させることにより、軸受軌道面に潤滑油の層が形成されるので、始動トルクを低減することができる。また、始動時の負荷急変のリスクが減り脱調のリスクも減る。
(2)請求項2に記載の発明によれば、微小な振動が加わるため初期磁極位置からのずれを小さくすることができ、加速運転に遷移する際のショックを抑えることができる。
(3)請求項3に記載の発明によれば、制御実行回数が増えるにつれて、徐々に初期磁極位置に近づけるようにパルス電圧の位相が決定されるので、初期位置からのずれをより小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の実施例1の始動方法におけるパルス電圧指令の説明図。
図2】本発明の実施例1の始動方法を説明するタイムチャート。
図3】本発明の実施例2の始動方法におけるパルス電圧指令の説明図。
図4】本発明の実施例3の始動方法におけるパルス電圧指令の説明図。
図5】本発明が適用されるPMモータの一例を示す構成図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明するが、本発明は下記の実施形態例に限定されるものではない。本実施形態では、例えばインバータによって駆動されるPMモータに対して、初期磁極位置から設定角度、例えば90度ずれた位相のパルス電圧を印加して正回転トルクを発生させる正回転制御を行い、次に所定の電流安定化期間を経て、前記位相とは180度位相の異なる位相のパルス電圧を印加して逆回転トルクを発生させる逆回転制御を行い、これら正回転制御と逆回転制御を交互に繰り返し実行するものである。
【0018】
以下、本発明を図5のPMモータ10に適用した実施例1〜3を説明する。
【実施例1】
【0019】
図1は、本実施例1においてインバータが出力するパルス電圧指令(電圧ベクトル)を説明する図であり、図2は、インバータの電圧指令と検出電流波形を示している。
【0020】
これらの図において、PMモータの停止状態から始動させる場合、まず、例えば特許文献1の推定方法によってPMモータの初期磁極位置(図1のN極−S極の位置)を推定した後、パルス状の電圧を印加させる。このとき初期磁極位置から出力するパルス電圧の位相をθと置く。
【0021】
初期磁極位置を基準に90度の位相θ1(図示(1))を印加した場合、回転トルクが発生してモータが回転する。次にθ1の位相から180度反転した位相θ2にパルス電圧を印加させる。このように互いに180度異なる位相θ1、θ2をペアで出力することにより、正、負逆で同一のトルクを発生させ、前記(1)に印加した場合と逆の回転を生じさせる。次に(1)と同位相の(3)(θ1)にパルス電圧を印加させ、その後(2)と同位相の(4)(θ2)にパルス電圧を印加させることにより、正転・逆転を行う。これら(1)〜(4)の電圧パルス印加を繰り返すことによりモータが正転・逆転を行う。
【0022】
また、前記(1)〜(4)の各パルス電圧出力後に電流安定化期間を各々設けることにより、余計な振動を抑制する。このように停止状態からの始動時にモータを正転・逆転させることにより、PMモータ10の軸受12に潤滑油が浸透し、軸受12の軌道面に潤滑油の層が形成されるので、始動トルクを低減させることができる。
【0023】
図2は、前記正転・逆転を行うようにインバータが出力する電圧指令と検出電流の具体的な波形を示しており、モータが停止状態にある時刻t0から時刻t1までの電流安定化期間T1aでは階段状の正の所定電圧の電圧指令を出力し、時刻t1から時刻2までの電圧パルス印加期間T1bにおいて初期磁極位置を基準に90度の位相θ1(図1の(1))で前記階段状の電圧指令よりも大きいパルス電圧指令を出力し、時刻t2から時刻t3までの定電圧出力期間T1cにおいて正の一定の電圧指令を出力する。
【0024】
前記電圧パルス印加期間T1bに出力される正の大きなパルス電圧指令によって、出力電流値が上昇し、定電圧出力期間T1cの図示+x部に示すように位相θ1(1)の方向に大きなトルクが発生してモータは正回転する。これら期間T1aおよびT1bおよびT1cが図1のθ1の位置となる。
【0025】
次に時刻t3から時刻t4までの電流安定化期間T2aでは階段状の負の所定電圧の電圧指令を出力し、時刻t4から時刻5までの電圧パルス印加期間T2bにおいて、前記θ1の位相から180度反転した位相θ2(図1の(2))で、前記階段状の電圧指令よりも大きく、前記期間T1bにおけるパルス電圧と同等のパルス電圧指令を出力し、時刻t5から時刻t6までの定電圧出力期間T2cにおいて負の一定の電圧指令を出力する。
【0026】
前記電圧パルス印加期間T2bに出力される負の大きなパルス電圧指令によって、出力電流値が負の方向に上昇し、定電圧出力期間T2cの図示−x部に示すように位相θ2(2)の方向に大きなトルクが発生してモータは逆回転する。これら期間T2aおよびT2bおよびT2cが図1のθ2の位置となる。
【0027】
そして時刻t6以降は前記期間T1a,T1b,T1cと同一の動作により、前記(1)と同位相(θ1)の(3)にパルス電圧を印加し、その後、前記期間T2a,T2b,T2cと同一の動作により、前記(2)と同位相(θ2)の(4)にパルス電圧を印加し、前記(1)〜(4)を繰り返し実行することでモータの正転・逆転を行う。
【0028】
上記のように、パルス電圧出力後、電流安定化期間を設けているため、余計な振動を抑制することができる。
【実施例2】
【0029】
図3は、本発明の実施例2においてインバータが出力するパルス電圧指令(電圧ベクトル)を説明する図である。本実施例2では、実施例1と同様にパルス電圧を印加させ、図2に示すような電流安定化期間を設けるが、パルス電圧の位相を図3に示すように出力する。
【0030】
すなわち、初期磁極位置(図3のN極−S極の位置)を基準に90度未満の位相、例えば30度の位相θ1(図示(1))にパルス電圧を印加させ、回転トルクを発生させることにより、モータを回転させる。
【0031】
また、モータを逆転させるため、初期磁極位置に対し、θ1と逆位相θ2(図示(2))で、且つ図示(1)と同等な電圧を印加させることにより、(1)に印加した場合と逆の回転を生じさせる。次に(1)と同位相の(3)にパルス電圧を印加させ、(2)と同位相の(4)にパルス電圧を印加させることにより、正転・逆転を行う。このとき90度未満であれば、30度に限らずどの位相でもよく、実施例1よりも微少な振動となる。このため、初期磁極位置からのずれが小さくなり、加速運転に遷移する際のショックを抑えることが可能となる。
【0032】
上記実施例においても、図2と同様に、電流安定化期間T1a(T2a)、電圧パルス印加期間T1b(T2b)、定電圧出力期間T1c(T2c)を設けるものである。
【実施例3】
【0033】
図4は本発明の実施例3において、インバータが出力するパルス電圧指令(電圧ベクトル)を説明する図である。本実施例3では、実施例1および実施例2と同様に、電圧パルスを印加させ、図2に示すような電流安定化期間を設けるが、パルス電圧の位相を図4に示すように出力する。
【0034】
すなわち、初期磁極位置(図4のN極−S極の位置)を基準に90度未満の位相θ1(図示(1)の60度)にパルス電圧を印加させ、回転トルクを発生させることにより、モータを回転させる。また、モータを逆転させるため、初期磁極位置に対し、θ1と逆位相θ2(図示(2))、且つ図示(1)と同等な電圧を印加させることにより、(1)に印加した場合と逆の回転を生じさせる。
【0035】
次にθ1(60度)よりもパルス電圧を印加する角度を小さくしたθ3(図示(3)の30度)にパルス電圧を印加させることにより、(1)よりも微少な回転とする。また、(3)と初期磁極位置対称となる(4)に、θ3と逆位相θ4で且つ図示(3)と同等なパルス電圧を印加させることにより、正転・逆転を行う。
【0036】
以上のように印加するパルス電圧を徐々に初期磁極位置に近づけるようにパルス電圧の位相を決定する、すなわち、前記正回転制御および逆回転制御を1セットとする制御の実行回数が、n回目(nは正数)の実行時における前記位相θよりも、n+1回目の実行時における位相θを小さく設定することにより、正転・逆転した際の初期磁極位置のずれを最小にすることが可能となる。このため、加速運転に遷移する際のショックを抑えることができる。
【0037】
本実施例3においても、図2と同様に、電流安定化期間T1a(T2a)、電圧パルス印加期間T1b(T2b)、定電圧出力期間T1c(T2c)を設けるものである。
【符号の説明】
【0038】
10…PMモータ
11…軸
12…軸受
T1a,T2a…電流安定化期間
T1b,T2b…電圧パルス印加期間
T1bc,T2c…定電圧出力期間
図1
図2
図3
図4
図5