(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6089917
(24)【登録日】2017年2月17日
(45)【発行日】2017年3月8日
(54)【発明の名称】不等リードエンドミル
(51)【国際特許分類】
B23C 5/10 20060101AFI20170227BHJP
【FI】
B23C5/10 Z
【請求項の数】3
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-88264(P2013-88264)
(22)【出願日】2013年4月19日
(65)【公開番号】特開2014-210324(P2014-210324A)
(43)【公開日】2014年11月13日
【審査請求日】2016年3月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005197
【氏名又は名称】株式会社不二越
(74)【代理人】
【識別番号】100158355
【弁理士】
【氏名又は名称】岡島 明子
(72)【発明者】
【氏名】柴田 朝子
【審査官】
村上 哲
(56)【参考文献】
【文献】
ソ連国特許発明第631271(SU,A)
【文献】
仏国特許出願公開第2875722(FR,A1)
【文献】
独国特許出願公開第102009002738(DE,A1)
【文献】
特開2008−110453(JP,A)
【文献】
特開2007−136627(JP,A)
【文献】
特開2013−202748(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23C 5/10
WPI
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端切れ刃と外周ねじれ切れ刃とからなる刃部と、前記刃部を支持する柄部と、を有し、隣り合う前記外周切れ刃のねじれ角が互いに異なり、前記外周切れ刃間の切り屑排出溝の幅が前記先端より前記柄部方向に向かって漸増する拡幅側排出溝と、前記外周切れ刃間の切り屑排出溝の幅が前記先端より前記柄部方向に向かって漸減する縮幅側排出溝と、を備えた不等リードエンドミルにおいて、
前記拡幅側排出溝の溝底深さが前記先端より前記柄部切り上げ部に向かって漸減し、前記縮幅側排出溝の溝底深さが前記先端より前記柄部切り上げ部に向かって漸増していることを特徴とする不等リードエンドミル。
【請求項2】
前記先端における前記拡幅側排出溝の溝底が接する心厚径より、前記縮幅側排出溝の溝底が接する心厚径が大きくされていることを特徴とする請求項1記載の不等リードエンドミル。
【請求項3】
前記外周切れ刃が軸方向断面で等分割となる位置で、前記拡幅側及び縮幅側排出溝の溝底が接する心厚径が同一にされていることを特徴とする請求項1又は2記載の不等リードエンドミル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、外周切れ刃のねじれ角が異なる不等リードエンドミルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、柄付きフライスに分類される回転軸線回りにねじれる複数の外周切れ刃を有するエンドミルが知られている。この種のエンドミルにおいて、切削時のびびり振動等を防止するため、切刃のうち少なくとも一の切刃の捩れ角を他の切刃の捩れ角と異なる不等捩れとした不等捩れエンドミル(あるいは、不等リードエンドミル)がある。また、軸直角方向断面でみて隣り合う切れ刃の周方向ピッチが異なる不等分割エンドミルがある。かかる不等リードエンドミルや不等分割エンドミルにあっては、外周切れ刃で切削された切削屑の形状や量がそれぞれの切れ刃で異なる。
【0003】
そこで、例えば特許文献1においては、不等分割エンドミルのピッチの広い側のすくい面を形成する幅広の切り屑排出溝側は多量の切り屑が出るので、幅広側の排出溝の底部が接する心厚を小さくして、軸直角断面でみた排出溝断面積を大きくしている。逆に、幅狭側の切り屑は量が少ないので、幅狭側の切り屑排出溝の底部が接する心厚を大きくして、軸直角断面でみた排出溝断面積を小さくし、かつエンドミル回転方向公報側に大きな肉厚を確保して強度を上げている。同様に、不等リードエンドミルの場合も、幅が拡大する側の排出溝の底部が接する心厚を小さく、幅が縮小する側の排出溝の底部が接する心厚を大きくしている。また、軸直角断面でみた排出溝断面の形状を断面積が大きくなるように、切り屑を排出し易い形状としている。
【0004】
また、特許文献2においては、軸直角断面でみて、不等リードエンドミルの切り屑排出溝の底部が心厚円に接する位置から直線状をなしてエンドミル回転方向に向けて延びる溝底面と、この溝底面に鈍角に交差して回転方向に向けてさらに延びる直線上をなす副溝底部とした形状とすることにより、切れ刃強度を確保し、切り屑排出の向上を図っている。
【0005】
一方、特許文献3においては、エンドミルの外径切れ刃のバックテーパと同様のバックテーパを心厚側にも与え、軸方向の工具外径と心厚との距離をほぼ一定にしている。これにより、外周切れ刃を所定のすくい角とすることにより、切れ刃の切削性能を確保し、工具損傷を防止している。逆に特許文献4においては、先端から柄部(シャンク)側へ向かうに従って心厚を漸増させ、切り屑排出性を確保しながらエンドミルの強度を上げている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−136627号公報
【特許文献2】特開2009−220188号公報
【特許文献3】特開2008−264964号公報
【特許文献4】国際公開番号 WO2013/005307 A1号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1、2のエンドミルにおいては、軸方向断面の切り屑排出溝の面積を拡大あるいは排出性を向上させた形状について開示しているが、軸方向の切り屑の排出性については記載されていない。また、不等リードエンドミルの場合であっても、軸方向についての変化については記載されていない。また、特許文献3にあっては、軸方向の切り屑排出溝の深さはほぼ一定である。また、特許文献4のものにおいては、心厚の増大対策として、排出溝幅等を大きくしており、切り屑排出溝幅が縮小する切り屑排出溝について触れていない。一方、不等リードエンドミルの場合、切り屑排出溝の形状や深さは、切り屑排出溝幅が拡大する側の切り屑排出溝の場合は、従来と同様であっても問題ない。しかし、切り屑排出溝幅が縮小する側の切り屑排出溝の場合は、軸直角方向でみた切り屑排出溝断面積が漸減するので、切り屑が詰まりやすいという問題があった。
【0008】
本発明の課題は、前述したかかる問題点に鑑みて、不等リードエンドミルの軸方向の切り屑排出性、特に切り屑排出溝幅が縮小する側の切り屑排出溝の切り屑排出性を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明においては、先端切れ刃と外周ねじれ切れ刃とからなる刃部と、前記刃部を支持する柄部と、を有し、隣り合う前記外周切れ刃のねじれ角が互いに異なり、前記外周切れ刃間の切り屑排出溝の幅が前記先端より前記柄部方向に向かって漸増する拡幅側排出溝と、前記外周切れ刃間の切り屑排出溝の幅が前記先端より前記柄部方向に向かって漸減する縮幅側排出溝と、を備えた不等リードエンドミルにおいて、前記拡幅側排出溝の溝底深さが前記先端より前記柄部切り上げ部に向かって漸減し、前記縮幅側排出溝の溝底深さが前記先端より前記柄部切り上げ部に向かって漸増している不等リードエンドミルを提供することにより前述した課題を解決した。
【0010】
即ち、不等リードエンドミルの縮幅側排出溝の溝底深さを先端より柄部切り上げ部に向かって漸増させたので、切り屑排出溝の幅が漸減しても、軸方向の切り屑排出溝の断面積の減少を少なく、又は一定、又は漸増させる。縮幅側排出溝の溝底深さは軸方向の切り屑排出溝の断面積が一定又は漸増となるようにするのが好ましい。一方、拡幅側排出溝の溝底深さを先端より柄部切り上げ部に向かって漸減させたので、軸方向の切り屑排出溝の断面積を無駄に増やすことがなく、心厚も確保できる。
【0011】
また、請求項2に記載の発明においては、前記先端における前記拡幅側排出溝の溝底が接する心厚径より、前記縮幅側排出溝の溝底が接する心厚径が大きくされている不等リードエンドミルとした。
【0012】
拡幅側排出溝の心厚は先端から柄部にかけて拡大するので、先端側の心厚は小さい。また、縮幅側排出溝の心厚は先端から柄部にかけて小さくなるので、先端側の心厚は大きい。そこで、先端側で、拡幅側排出溝の心厚径より、縮幅側排出溝の心厚径を大きくすることにより、刃部全体の心厚が平均化される。
【0013】
さらに、請求項3に記載の発明においては、前記外周切れ刃が軸方向断面で等分割となる位置で、前記拡幅側及び縮幅側排出溝の溝底が接する心厚径が同一にされている不等リードエンドミルとした。即ち、外周切れ刃の等分割面で心厚を同一とした。
【発明の効果】
【0014】
本発明においては、縮幅側排出溝の溝底深さを先端より柄部切り上げ部に向かって漸増させ、軸方向の切り屑排出溝の断面積の減少を少なく、又は一定、又は漸増させたので、不等リードエンドミルの縮幅側排出溝の切り屑排出性が向上するのもとなった。一方、拡幅側排出溝の溝底深さを漸減させ、従来の切り屑排出性、心厚を確保できるので、強度を低下させることもない。
【0015】
また、請求項2に記載の発明においては、先端側で、拡幅側排出溝の心厚径より、縮幅側排出溝の心厚径を大きくし、刃部全体の心厚を平均化したので、従来の心厚と同様な強度、靱性を確保し、かつ切り屑排出性も向上する。さらに、請求項3に記載の発明においては、外周切れ刃の等分割面で心厚を同一としので、心厚強度、排出性能の確保が容易、あるいは設計、製作、又は検査が容易となった。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施の形態を示す不等リードエンドミルの側面図である。
【
図2】本発明の実施の形態を示す不等リードエンドミルの(a)は、拡幅側切り屑排出溝、(b)は縮幅側排出溝の心厚部の軸方向断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。なお、図面は説明のためのものであり、形状等誇張して示してある。また、
図3乃至
図5は説明の為、切れ刃3の一方を上にして断面形状の変化を示したものである。
図1に示すように、本発明の実施の形態は本発明を4枚刃スクエア不等リードエンドミルに適用したものである。4枚刃スクエア不等リードエンドミル(以下「エンドミル」という)1は、先端部には先端切れ刃(底刃)2が設けられ、底刃の外周から、軸回りに軸方向に外周ねじれ切れ刃3、4が形成され、刃部5を形成している。さらに、刃部を支持する柄部6を有している。なお、先端部については、従来と同様であるので説明を省略する。
【0018】
外周ねじれ切れ刃3、4は、軸対称位置の2枚一組として、二組計4枚が形成されている。互いに隣接する外周ねじれ切れ刃(一枚毎に交互に配置された切れ刃)3、4のねじれ角α、βは互いに異なっている。いわゆる不等リードとされている。隣接する外周切れ刃間には切り屑排出溝7,8が設けられ、外周切れ刃すくい面3a、4aが形成されている。切れ刃3のねじれ角αが切れ刃4ねじれ角βより小さくされている。これにより、切れ刃3の逃げ面(背面)3bと切れ刃4のすくい面4aとの間に拡幅側排出溝7が形成されている。拡幅側排出溝7の溝幅7wは先端部から柄部6方向にむかって漸増している。一方、切れ刃4の逃げ面(背面)4bと切れ刃3のすくい面3aとの間に狭幅側排出溝8が形成されている。狭幅側排出溝8の溝幅8wは先端部から柄部6方向にむかって漸減している
【0019】
図2(a)に示すように、拡幅側排出溝7の溝底7aの深さ7dが先端より柄部切り上げ部11に向かって漸減している。また、
図2(b)に示すように、縮幅側排出溝8の溝底8a深さ8dが先端より柄部切り上げ部12に向かって漸増している。従って、
図2、3に示すように、拡幅側排出溝7の軸直角断面でみて溝底7aが接する心厚13の心厚径13aは、狭幅側排出溝8の溝底8aが接する心厚14の心厚径14aより大きくされる。従って、切れ刃間のピッチは、切れ刃3の逃げ面と切れ刃4のすくい面との間(拡幅側排出溝)7が小さく、切れ刃4の逃げ面と切れ刃3のすくい面との間(狭幅側排出溝)8が大きく不等分割とされる。
【0020】
ついで、刃部2の中間では、
図2、4に示すように、拡幅側排出溝7の心厚径13bは、狭幅側排出溝8の心厚径14bと同じにされる。従って、切れ刃間のピッチは、切れ刃3の逃げ面と切れ刃4のすくい面との間(拡幅側排出溝)7と、切れ刃4の逃げ面と切れ刃3のすくい面との間(狭幅側排出溝)8とは同じとされ等分割とされる。
【0021】
さらに、刃部2の切り上げ部11の近傍では、
図2、5に示すように、拡幅側排出溝7の心厚径13cは、狭幅側排出溝8の心厚径14cより大きくされる。従って、切れ刃間のピッチは、切れ刃3の逃げ面と切れ刃4のすくい面との間(拡幅側排出溝)7より、切れ刃4の逃げ面と切れ刃3のすくい面との間(狭幅側排出溝)8が小さい不等等分割とされる。
【0022】
かかる軸方向断面における、切り屑溝の溝断面積は拡幅側排出溝7では、横幅が広くなるに従って、溝深さが浅くなる。一方、縮幅側排出溝7では、横幅が狭くなるに従って、溝深さが深くなる。これにより、切り屑排出溝の断面積の変化を少なくしたりして、又は一定とでき、切り屑の排出が容易となる。特に、縮幅側排出溝は、柄部側で溝幅が狭くなるので、従来では切り屑が詰まりやすいという問題があったが、排出溝断面積を一定さらには漸増させることにより、切り屑排出性は格段に向上する。また、拡幅側排出溝側の心厚径を、柄部に向かって小径から大径とするので、切削量が大きくなる柄部側での心厚が太くなり強度を確保できる。一方、縮幅側排出溝の心厚径を、柄部に向かって大径から小径とするが、柄部側の方が切削量が小さいので強度不足を生じない。このように、心厚強度も十分確保できるものとなった。
【0023】
また、先端部を不等分割とし、中間部を等分割としたが、先端部又は柄部側の一方を等分割としてもよい。なお、発明の実施の形態においては、スクエアエンドミルについて述べたが、ボールエンドミル、ラジアスエンドミル等の外周ねじれ切れ刃を有する不等リードエンドミルに適用できることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0024】
1 不等リードエンドミル
2 先端切れ刃
3、4 外周ねじれ切れ刃
5 刃部
6 柄部
7 拡幅側排出溝
7a 拡幅側排出溝の溝底
7d 拡幅側排出溝の溝底深さ
8 縮幅側排出溝
8a 縮幅側排出溝の溝底
8d 縮幅側排出溝の溝底深さ
11、12 切り上げ部
13a、13b、13c 拡幅側排出溝の心厚径
14a、14b、14c 縮幅側排出溝の心厚径
α、β 外周切れ刃のねじれ角