特許第6089919号(P6089919)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6089919
(24)【登録日】2017年2月17日
(45)【発行日】2017年3月8日
(54)【発明の名称】水性インクジェットインク
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/322 20140101AFI20170227BHJP
   C09D 11/40 20140101ALI20170227BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20170227BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20170227BHJP
【FI】
   C09D11/322
   C09D11/40
   B41M5/00 120
   B41J2/01 501
【請求項の数】6
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2013-89587(P2013-89587)
(22)【出願日】2013年4月22日
(65)【公開番号】特開2014-214160(P2014-214160A)
(43)【公開日】2014年11月17日
【審査請求日】2015年11月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】711004436
【氏名又は名称】東洋インキ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】杉原 真広
【審査官】 小久保 敦規
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−272933(JP,A)
【文献】 特開2006−152103(JP,A)
【文献】 特開2004−043791(JP,A)
【文献】 特開2004−091502(JP,A)
【文献】 特開2011−202089(JP,A)
【文献】 特開2008−260139(JP,A)
【文献】 特開2014−181321(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00−13/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも顔料と、有機溶剤と、水とを含有する水性インクジェットインクにおいて、前記有機溶剤として少なくとも沸点が180℃以上265℃以下かつ表面張力が20mN/m以上30mN/m以下である有機溶剤を含み、一般式(3)であるシリコン系界面活性剤を含み、さらに一般式(1)の化合物を含むことを特徴とする水性インクジェットインク。
一般式(3)
【化3】


(式中R4、R5は炭素数1〜6のアルキレン基であり、X1、X2は一般式(4)で表されるポリエーテル(ポリオキシアルキレン)基である。aは10以上80以下の整数を表す。
一般式(4)
【化4】


(式中、R6は水素原子または炭素数1〜6のアルキル基または(メタ)アクリル基であり、EOはエチレンオキシド基であり、POはプロピレンオキシド基であり、bが1以上の整数であり、cが0以上の整数であり、さらにb+cが1以上の整数である。EO、POの順序についてはランダムであってよい。))
一般式(1)
【化1】

(式中Pはn価の有機色素残基であり、nは1以上の整数、R1は一般式(2)で表される有機基を示す。
一般式(2)
【化2】

(式中R2は(m+1)価の有機残基を示し、mは1以上の整数、R3は水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1〜10のアルキル基を示す。))
【請求項2】
前記シリコン系界面活性剤をインク中に1重量%以上含有することを特徴とする請求項記載の水性インクジェットインク。
【請求項3】
バインダー樹脂として水分散性樹脂微粒子を含有することを特徴とする請求項1または2記載の水性インクジェットインク。
【請求項4】
シアンインク、マゼンタインク、イエローインク、および、ブラックインクの4色インクを含む水性インクジェットインキセットであって、
シアンインク、マゼンタインク、イエローインク、および、ブラックインクのうち、少なくとも1色が請求項1〜3いずれか記載の水性インクジェットインクであることを特徴とする水性インクジェットインキセット。
【請求項5】
印刷媒体を40〜80℃に加温しながら、インク液滴を印刷媒体に付着させて印刷を行う印刷方法であって、請求項1〜4いずれか記載の水性インクジェットインクを用いることを特徴とするインクジェット印刷方法。
【請求項6】
前記印刷媒体が非吸水性基材または難吸水性基材であることを特徴とする請求項記載のインクジェット印刷方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般の印刷基材の中でもコート紙、アート紙やポリ塩化ビニルシートなどの吸収性の低い基材への印刷適性に優れ、発色性や光沢度の高い印刷品質とインクジェットノズルからの吐出安定性、保存安定性に優れた水性インクジェットインクに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、非常に微細なノズルからインク液滴を記録部材に直接吐出し、付着させて文字や画像を得る記録方式である。この方式によれば、使用する装置の騒音が小さく、操作性がよいという利点を有するのみならず、カラー化が容易であり、かつ記録部材として普通紙を使用することができるという利点があるため、オフィスや家庭での出力機として広く用いられている。
【0003】
一方、産業用途においても、インクジェット技術の向上によりデジタル印刷の出力機としての利用が期待され、溶剤インクやUVインクによる難吸収性の基材(PVC、PETなどのプラスチック基材)に対しても印刷が可能な印刷機が実際に市販されてきた。しかし、近年、環境面への対応といった点から水性インクの需要が高まっている。
【0004】
インクジェット用の水性インクとしては特許文献1、2、3、4のように印刷対象を普通紙や写真光沢紙のような専用紙としたインクの開発が古くからなされている。一方では近年インクジェット記録方式の用途拡大が期待されており、コート紙のような塗工紙や屋外広告などに使用されるような非吸収性の基材への直接印刷のニーズが高まっている。従来のインクは紙へ液滴を吸収させて描画を行うため、吸水性の低い基材へ印刷すると画像が滲んでしまい使用することができなかった。これは吸収性の低い基材に対して水性インクは濡れ広がり難いことと、基材へのインクの浸透が起こりづらくインク液滴同士が融着して滲んでしまうことが原因である。
【0005】
特定のシリコン系界面活性剤と樹脂微粒子、水溶性有機溶剤を用いることで専用紙上における発色性に優れ、混色による滲みや光沢ムラの少ない良好な印刷品質が得られることが特許文献5に記載されている。しかしながら、該文献に記載された水性インクでは、専用紙上で優れた印刷品質が得られても、ポリ塩化ビニルシートなどの吸収性の低い基材上では、乾燥時に水が揮発した後に残存した有機溶剤が顔料凝集を引き起こし、発色性や光沢度を低下させる問題があった。吸収性の低い基材上で画像形成するためには有機溶剤が必要不可欠であるが、乾燥時に溶剤リッチになった状態での分散安定性が不十分なため、吸収性の低い基材上で優れた発色性、光沢度を確保するまでには至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−072905号公報
【特許文献2】特開2003−012583号公報
【特許文献3】特許第3994734号
【特許文献4】特許第4595281号
【特許文献5】特許第4292749号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、一般の印刷基材の中でもコート紙、アート紙やポリ塩化ビニルシートなどの吸収性の低い基材への印刷適性に優れ、発色性や光沢度の高い印刷品質とインクジェットノズルからの吐出安定性、保存安定性に優れた水性インクジェットインクを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
即ち、本発明は、少なくとも顔料、有機溶剤、水を含有する水性インクジェットインクにおいて、前記有機溶剤として少なくとも沸点が180℃以上265℃以下かつ表面張力が20mN/m以上30mN/m以下である有機溶剤を含み、一般式(3)であるシリコン系界面活性剤を含み、さらに一般式(1)の化合物を含むことを特徴とする水性インクジェットインクに関する。
一般式(3)
【化9】


(式中R4、R5は炭素数1〜6のアルキレン基であり、X1、X2は一般式(4)で表されるポリエーテル(ポリオキシアルキレン)基である。aは10以上80以下の整数を表す。
一般式(4)
【化10】


(式中、R6は水素原子または炭素数1〜6のアルキル基または(メタ)アクリル基であり、EOはエチレンオキシド基であり、POはプロピレンオキシド基であり、bが1以上の整数であり、cが0以上の整数であり、さらにb+cが1以上の整数である。EO、POの順序についてはランダムであってよい。))
一般式(1)
【化7】

【0009】
(式中Pはn価の有機色素残基であり、nは1以上の整数、Rは一般式(2)で表される有機基を示す。
一般式(2)
【化8】
【0010】
(式中R2は(m+1)価の有機残基を示し、mは1以上の整数、R3は水素原子、ハロゲン原子、または炭素数1〜10のアルキル基を示す。)
【0015】
また、本発明は、前記シリコン系界面活性剤をインク組成中に1重量%以上含有することを特徴とする上記水性インクジェットインクに関する。
また、本発明は、バインダー樹脂として水分散性樹脂微粒子を含有することを特徴とする上記水性インクジェットインクに関する。
また、本発明は、シアンインク、マゼンタインク、イエローインク、および、ブラックインクの4色インクを含む水性インクジェットインキセットであって、
シアンインク、マゼンタインク、イエローインク、および、ブラックインクのうち、少なくとも1色が上記水性インクジェットインクであることを特徴とする水性インクジェットインキセットに関する。


【0016】
また、本発明は、印刷媒体を40〜80℃に加温しながら、インク液滴を印刷媒体に付着させて印刷を行う印刷方法であって、前記水性インクジェットインクを用いることを特徴とするインクジェット印刷方法に関する。
さらに、本発明は、前記印刷媒体が非吸水性基材または難吸水性基材であることを特徴とするインクジェット印刷方法に関する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、一般の印刷基材の中でもコート紙、アート紙やポリ塩化ビニルシートなどの吸収性の低い基材への印刷適性に優れ、発色性や光沢度の高い印刷品質とインクジェットノズルからの吐出安定性、保存安定性に優れた水性インクジェットインクを提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下に、好ましい実施の形態を挙げて、本発明について説明する。なお、特にことわりのない限り、「部」は、「重量部」を、「%」は、「重量%」を、それぞれ表す。
【0019】
本発明では、沸点が180℃以上265℃以下かつ表面張力が20mN/m以上30mN/m以下である有機溶剤、さらに特定構造を有する化合物を組み合わせることで、吸収性の低い基材への印刷適性に優れ、発色性や光沢度の高い印刷品質とインクジェットノズルからの吐出安定性、保存安定性を向上させている。以下に本発明の主要となる各成分について述べる。
【0020】
一般的に、コート紙、アート紙やポリ塩化ビニルシートなどの吸収性が低く、疎水性の高い基材は、基材自体の表面張力が低いため、これらの基材上でインクを十分に濡れ広げるのは容易ではないことが知られている。インクが十分な濡れ性を有していないと、印刷部がインクで十分埋まらず、白抜け等が発生しやすくなる。また、これらの基材はインクが吸収し難いため、使用している溶媒の基材に対する浸透や蒸発による乾燥性が悪いと、混色や滲み等が発生し、鮮明な画像が得られない。そのため、これらの難吸収性基材上で印刷を行うには、インクの濡れ性と乾燥性を十分に確保する必要がある。
【0021】
特に、水は溶媒の中でも極めて表面張力が高いことから、疎水性の高い基材上で濡れ難く、浸透の寄与も低いため、水性インクの濡れ性、乾燥性を十分に得ることは非常に難しい。
【0022】
一般的に、水性インクの濡れ性及び、乾燥性を高める目的で有機溶剤が用いられる。有機溶剤は水に比べると表面張力が低いため、難吸収性基材上で濡れ性を向上させるには必要不可欠である。表面張力の低い有機溶剤を使用することで、基材上で十分濡れ広がり、白抜けのない印刷物を得ることが可能となる。また、インク液滴が十分な濡れ性を確保することにより、印刷部が平滑性の高い均一な塗膜を形成することが出来るため、光沢度を向上させることが可能となる。また、インクが基材に着弾した際に素早く濡れ広がることにより、インク液滴の表面積を増加させ、乾燥を促進させることができる。乾燥を促進させることにより、異なる色間の混色や滲みを防止することができる。基材上で白抜けや滲みを防止することにより発色性を向上させることが可能となる。
【0023】
しかしながら、一般的に表面張力の低い有機溶剤は疎水性が高く、顔料分散体を不安定化させやすい。特に、印刷後の乾燥過程で水が揮発して溶剤リッチになった状態では、顔料同士が凝集しやすくなり、発色性や光沢度の低下を引き起こす。そのため、乾燥過程で水が揮発した後に、高疎水性溶剤がリッチになっても、顔料の分散状態を十分に維持させることが重要となる。
【0024】
乾燥過程における顔料の分散状態を向上させるため、本発明者らが鋭意検討した結果、一般式(1)の化合物を使用することで、表面張力の低い高疎水性溶剤の存在下においても、乾燥時の顔料凝集を防止し、吸収性の低い基材上で発色性や光沢度の低下を抑えられることが分かり、本発明に至った。
【0025】
乾燥時における顔料凝集を防止し、発色性や光沢度の低下を抑えられる理由は定かではないが、次のようなことが考えられる。一般式(1)の化合物と顔料が吸着し、さらに一般式(1)の化合物が顔料分散樹脂の吸着を補助することにより、顔料の分散状態を安定化させているものと推測される。それ故、乾燥時に水が揮発し高疎水性溶剤がリッチになった状態でも、顔料分散樹脂の脱離が抑えられ、顔料同士が凝集することなく、分散性を維持できるため、発色性や光沢度の低下を抑えられるものと考えられる。
【0026】
一般式(1)
【0027】
【化13】
【0028】
式中Pはn価の有機色素残基であり、nは1以上の整数、Rは一般式(2)で表される有機基を示す。nは1〜5であることが好ましく、より好ましくは1〜3、更に好ましくは1〜2、最も好ましくは1である。
【0029】
一般式(2)
【0030】
【化14】
【0031】
式中Rは(m+1)価の有機残基を示し、mは1以上の整数、Rは水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜10のアルキレン基を示す。Rは炭素数1〜10の2価のアルキレン基が好ましく、より好ましくは1〜5のアルキレン基である。Rは全て水素原子であることが好ましい。
【0032】
有機色素残基(P)としてはアゾ系、ベンズイミダゾロン系、フタロシアニン系、キナクリドン系、アントラキノン系、ジオキサジン系、ジケトピロロピロール系、キノフタロン系、イソインドリノン系、イソインドリン系、ペリレン系、ペリノン系、フラバンスロン系、ピランスロン系、またはアンスラピリミジン系が挙げられる。有機色素残基(P)の構造は必ずしも顔料の構造と一致する必要はないが、インクの色相と近い色相のものを選択することが好ましい。更には有機色素残基(P)をインクに使用する顔料と近い構造のものにすることが好ましい。これにより、顔料との吸着が高まり、安定性向上の効果が発現しやすくなる。
【0033】
一般式(1)の化合物はインク中の顔料に対して0.1重量%以上10重量%以下の割合で配合することが好ましい。顔料に対して10重量%よりも多く配合すると分散安定性が低下する場合がある。好ましくは顔料に対して0.1重量%以上5重量%以下であり、より好ましくは0.5重量%以上3重量%以下である。
【0034】
本発明で使用する有機溶剤としては、少なくとも沸点が180℃以上265℃以下かつ表面張力が20mN/m以上30mN/m以下の有機溶剤を1種以上含有することが好ましい。
【0035】
沸点が180℃以上265℃以下かつ表面張力が20mN/m以上30mN/m以下である有機溶剤であればどのような溶剤でも単独、もしくは複数使用可能である。例えば、1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、エチレングリコール−2−エチルヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールメチルブチルエーテル、トリエチレングリコールメチルブチルエーテル、トリプロピレングリコールジメチルエーテル等が挙げられる。中でもアルカンジオール系や末端の炭素鎖の炭素数が3以上のグリコールエーテル系溶剤が好ましく、より好ましくはアルカンジオール系溶剤が好ましく、更に好ましくは1,2−ヘキサンジオールである。
【0036】
上記の沸点が180℃以上265℃以下かつ表面張力が20mN/m以上30mN/m以下の有機溶剤を添加することで、疎水性の高い難吸収基材上で濡れ性を向上させるだけではなく、好適な範囲の沸点を有するため、インクジェットノズル上で十分な保湿性を確保できるため、優れた吐出安定性を得ることができる。吐出安定性の観点から、使用する上記有機溶剤の沸点は180℃以上265℃以下であることが好ましく、200℃以上265℃以下であることがより好ましい。沸点が265℃を超えてしまうと、難吸収基材上で溶剤が残存してしまい、インク液滴同士の融着による混色や滲みが発生し、鮮明な画像が得られないため、好ましくない。
【0037】
本発明で用いられる沸点が180℃以上265℃以下かつ表面張力が20mN/m以上30mN/m以下の有機溶剤のインク中における含有量は1重量%以上25重量%以下であることが好ましく、5重量%以上20重量%以下であることがより好ましい。添加量が25重量%よりも多くなると保存安定性が低下する可能性がある。
【0038】
また、本発明の効果が小さくならない程度の好適な含有量の範囲内であれば、上記以外の有機溶剤を単独もしくは複数併用することができる。
【0039】
上記以外の溶剤としては、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、3−メトキシ−1−ブタノール、3−メトキシ−3−メチルブタノール、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,5−ペンタンジオール、エチレングリコール、グリセリン等が挙げられる。
【0040】
本発明で用いられる有機溶剤のインク組成中における総量は、10重量%以上45重量%以下であることが好ましい。優れた印刷適性を得るため、難吸収基材上で十分な濡れ性と乾燥性を確保するという観点から、有機溶剤の総量が10重量%以上40重量%以下であることがより好ましく、15重量%以上35重量%以下であることが特に好ましい。有機溶剤の総量が10重量%を下回るとインクの保湿性が不足し、吐出安定性が損なわれる可能性がある。また、難吸収性基材上での濡れ性が低下する可能性がある。有機溶剤の含有量の合計が45重量%よりも多い場合、インクの粘度が高くなってしまい、吐出安定性を損なう可能性がある。また、インクの保存安定性や乾燥性も実用に適さなくなり、印刷品質が悪化する可能性がある。
【0041】
本発明の水性インクジェットインクは、疎水性の高い難吸収基材上での濡れ性を確保する目的で界面活性剤を使用することができる。界面活性剤としては、アセチレン系、シリコン系、アクリル系、フッ素系など用途に合わせて様々なものが知られている。本発明においては、難吸収基材上での濡れ性を向上させることにより、印刷部の白抜け、混色滲み等の抑制や、発色性、光沢度の高い印刷品質を得るために、シリコン系界面活性剤を使用することが好ましい。
【0042】
本発明で用いられるシリコン系界面活性剤としては、インクの表面張力を下げ、疎水性の高い難吸収基材上で優れた濡れ性を確保するという観点から、一般式(3)または(5)から選ばれるものであることが好ましい。
【0043】
一般式(3)
【化15】
【0044】
(式中R、Rは炭素数1〜6のアルキル基であり、X、Xは一般式(4)で表されるポリエーテル(ポリオキシアルキレン)基である。式中aは10以上80以下の整数を表す。))
一般式(4)
【化16】
【0045】
(式中、Rは水素原子または炭素数1〜6のアルキル基または(メタ)アクリル基であり、EOはエチレンオキシド基であり、POはプロピレンオキシド基であり、bが1以上の整数であり、cが0以上の整数であり、さらにb+cが1以上の整数である。EO、POの順序についてはランダムであってよい。)
一般式(5)
【化17】
(式中R、Rは炭素数1〜6のアルキル基であり、Xは一般式(6)で表されるポリエーテル(ポリオキシアルキレン)基である。式中d及びeは1以上の整数であり、d+e=2以上50以下の整数を表す。)
一般式(6)
【化18】
(式中、Rは炭素数1〜6のアルキル基であり、R10は水素原子または炭素数1〜6のアルキル基であり、EOはエチレンオキシド基であり、POはプロピレンオキシド基であり、fが1以上の整数であり、gが0以上の整数であり、さらにf+gが1以上の整数である。EO、POの順序についてはランダムであってよい。)
【0046】
上記一般式(3)で表されるシリコン系界面活性剤の市販品の具体例としては、東レ・ダウコーニング社製のBY16−201、SF8427、ビックケミー社製のBYK−333、BYK−UV3500、エボニック デグサ社製のTEGO GLIDE 410、TEGO GLIDE432、TEGO GLIDE 435、TEGOGLIDE 440、TEGO GLIDE450等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0047】
上記一般式(5)で表されるシリコン系界面活性剤の市販品の具体例としては、東レ・ダウコーニング社製のSF8428、FZ−2162、8032ADDITIVE、SH3749、FZ−77、L7001、L−7002,FZ−2104,FZ−2110、FZ−2123,SH8400、SH3773M、ビックケミー社製のBYK−345、BYK−346、BYK−347、BYK−348、エボニック デグサ社製のTEGO WET 250、TEGOWET 260、TEGO WET270、TEGO WET 280、信越化学工業社製のKF−351A,KF−352A,KF−353,KF−354L、KF−355A、KF−615A、KF−640、KF−642、KF−643等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0048】
上記の一般式(3)または(5)から選ばれるシリコン系界面活性剤を単独もしくは複数使用することができる。疎水性の高い難吸収基材上での濡れ性を向上させるという観点から、一般式(5)で表されるシリコン系界面活性剤を使用することが好ましく、一般式(3)で表されるシリコン系界面活性剤を使用することがより好ましい。一般式(3)及び(5)から選ばれるシリコン系界面活性剤を1種以上併用することが特に好ましい。
【0049】
上記の構造を有するシリコン系界面活性剤を使用することにより、疎水性の高い難吸収基材上で着弾時のインク液滴の濡れ性を向上させることが可能となる。濡れ性の向上により基材上での白抜けや混色滲みを抑えることにより、発色性を高めることができる。また、濡れ性が上がることによりインク塗膜が平滑になり、高い光沢度を有する優れた印刷品質が得られる。
【0050】
本発明で用いられるシリコン系界面活性剤のインク組成中における含有量は、疎水性の高い難吸収基材上で優れた濡れ性と吐出安定性を確保するという観点から、0.5重量%以上5重量%以下であることが好ましく、より好ましくは1重量%以上2.5重量%以下であり、特に好ましくは1重量%以上2重量%以下である。
【0051】
本発明の水性インクジェットインクは、疎水性の高い難吸収性基材上でのインクの乾燥性や印字物の塗膜耐性を高めるためにバインダー樹脂を用いることができる。バインダー樹脂としては水分散性樹脂微粒子を使用することが好ましい。水性インクのバインダー樹脂としては大別して水溶性樹脂と樹脂微粒子が知られているが、一般に樹脂微粒子は水溶性樹脂と比較して高分子量であり、高い耐性を実現することができる。また、樹脂微粒子はインクの粘度を低くすることができ、より多量の樹脂をインク中に配合することができることから、インクジェットインクの耐性を高めるのに適していると言える。樹脂微粒子の種類としてはアクリル系、ウレタン系、スチレンブタジエン系、塩化ビニル系、ポリオレフィン系等が挙げられる。
【0052】
水分散性樹脂微粒子のガラス転移点温度(Tg)を高くすることで耐擦性、耐薬品性等の耐性を向上させることが可能であり、好ましくは50〜100℃の範囲であり、より好ましくは75〜90℃の範囲である。50℃よりも低い場合には十分な耐性が得られず、実用にて印刷物から印刷が剥がれる場合がある。また、100℃よりも高い場合には塗膜が非常に硬くなり、印刷物を折り曲げた際に印刷面にワレ、ヒビが生じる場合がある。
【0053】
また、水分散性樹脂微粒子は印字物の塗膜耐性を高めるだけでなく、液滴が着弾した後に速やかに成膜することで、インク液滴同士の滲みを抑制し、色間の滲みのない優れた印刷品質を得ることができる。
【0054】
上記したような水分散性樹脂微粒子のインク組成中における含有量は、不揮発分でインクの全重量の3〜20重量%の範囲であることが好ましい。
【0055】
本発明の水性インクに含まれる顔料としては、従来既知のものが使用でき、無機顔料、有機顔料の何れも使用することができる。無機顔料としては、酸化チタン、亜鉛華、硫化亜鉛、鉛白、炭酸カルシウム、沈降性硫酸バリウム、ホワイトカーボン、アルミナホワイト、カオリンクレー、タルク、ベントナイト、黒色酸化鉄、カドミウムレッド、べんがら、モリブデンレッド、モリブデートオレンジ、クロムバーミリオン、黄鉛、カドミウムイエロー、黄色酸化鉄、チタンイエロー、酸化クロム、ビリジアン、チタンコバルトグリーン、コバルトグリーン、コバルトクロムグリーン、ビクトリアグリーン、群青、紺青、コバルトブルー、セルリアンブルー、コバルトシリカブルー、コバルト亜鉛シリカブルー、マンガンバイオレット、コバルトバイオレット等を挙げることができる。
【0056】
有機顔料としてはアゾ顔料、フタロシアニン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料、染料レーキ顔料、蛍光顔料等が挙げられる。
【0057】
更に詳しくは、シアン顔料としてはC. I. Pigment Blue 1,2,3,15:1,15:3,15:4,15:6,16,21,22,60,64等が挙げられる。マゼンタ顔料としてはC.I.Pigment Red 5,7,9,12,31,48, 49,52,53,57,97,112,120,122,146,147,149,150,168,170,177,178,179,184,188,202,206,207,209,238,242,254,255,264,269,282、C.I.Pigment Violet19,23,29,30,32,36,37,38,40, 50等が挙げられる。イエロー顔料としてはC.I.Pigment Yellow 1,2,3,12,13,14,16,17,20,24,74,83,86,93,94,95,109,110,117,120,125,128,129,137,138,139,147,148,150,151,154,155,166,168,180,185,213等が挙げられる。
【0058】
ブラック顔料としては、ファーネス法、チャネル法で製造されたカーボンブラックが挙げられる。例えば、これらのカーボンブラックであって、一次粒子径が11〜40nm、BET法による比表面積が50〜400m/g、揮発分が0.5〜10%、pH値が2〜10等の特性を有するものが好適である。このような特性を有する市販品としては下記のものが挙げられる。例えば、No.33、40、45、52、900、2200B、2300、MA7、MA8、MCF88(以上、三菱化学製)、RAVEN1255(コロンビアンカーボン製)、REGA330R、400R、660R、MOGUL L、ELFTEX415(以上、キャボット製)、Nipex90、Nipex150T、Nipex160IQ、Nipex170IQ、Nipex75、Printex85、Printex95、Printex90、Printex35、PrintexU(以上、エボニックデグサ製)等があり、何れも好ましく使用することができる。
【0059】
シアン、マゼンタ、イエロー、ブラック以外の顔料としてはC.I.Pigment Green 7,10,36、C.I.Pigment Brown 3,5,25,26、C.I.Pigment Orange 2,5,7,13,14,15,16,24, 34,36,38,40,43,62,63,64,71等が挙げられる。
【0060】
これらの顔料を使用する場合には長期間のインクの安定性を維持するためにも、インク媒体中に分散して使用することが好ましい。顔料の分散方法としては、顔料を酸化処理等により表面改質し、分散剤なしで顔料を分散させる方法や、界面活性剤や樹脂を分散剤として顔料を分散させる方法がある。より安定なインクとするためにも分散樹脂を使用して顔料を分散させることが好ましい。
【0061】
顔料分散樹脂としてはアクリル樹脂、スチレンアクリル樹脂、マレイン酸樹脂、スチレンマレイン酸樹脂、αオレフィンマレイン酸樹脂、ウレタン樹脂、エステル樹脂等が挙げられる。一般式(1)の化合物との吸着を強固にし、顔料分散体を安定化させるという観点から、アクリル樹脂、スチレンアクリル樹脂を使用することが好ましい。
【0062】
顔料分散樹脂の分子量は5000〜100000であることが好ましい。分子量5000以下では分散安定性が低下する場合があり、分子量100000以上では吐出に影響が出る場合がある。より好ましくは分子量10000〜50000であり、更に好ましくは分子量15000〜30000である。
【0063】
顔料と顔料分散樹脂の比率は1/1〜100/1であることが好ましい。顔料分散樹脂の比率が1/1よりも大きいとインクの粘度が高くなる傾向が見られる。また、100/1よりも小さいと分散性が低下し、安定性が低下する場合がある。顔料と顔料分散樹脂の比率としてより好ましくは2/1〜50/1、更に好ましくは2/1〜20/1である。
【0064】
本発明のインクジェットインクは単色で使用してもよいが、用途に合わせて複数の色を組み合わせたインクセットとして使用することもできる。組み合わせは特に限定されないが、シアン、マゼンタ、イエローの3色を使用することでフルカラーの画像を得ることができる。また、ブラックインクを追加することで黒色感を向上させ、文字等の視認性を上げることができる。更にオレンジ、グリーン等の色を追加することで色再現性を向上させることも可能である。白色以外の印刷媒体へ印刷を行う際にはホワイトインクを併用することで鮮明な画像を得ることができる。
【0065】
本発明のインクジェットインクとしてシアン、マゼンタ、イエローの組み合わせで使用するときには、シアンの顔料としてC.I.Pigment Blue15:3,15:4,マゼンタ顔料としてC.I.Pigment Red 122,202,209,269,C.I.Pigment Violet 19,イエロー顔料としてC. I.Pigment Yellow 74,120,150,155,185から選ばれる顔料を組み合わせて使用することで高い色再現性を得ることができる。
【0066】
本発明の水性インクジェットインクに含まれる水としては、種々のイオンを含有する一般の水ではなく、イオン交換水(脱イオン水)を使用するのが好ましい。
【0067】
本発明で使用することができる水のインク組成中における含有量は20〜80重量%の範囲である。
【0068】
また、本発明のインクは上記成分の他に、必要に応じて所望の物性値を持つインクとするために、消泡剤、増粘剤、pH調整剤、防腐剤等の添加剤を適宜添加することができる。これらの添加剤の添加量としては、インクの全質量に対して0.01重量%以上10重量%以下、好ましくは0.05重量%以上5重量%以下、より好ましくは0.1重量%以上3重量%以下である。
【0069】
上記したような成分からなる本発明のインクの調製方法としては、下記のような方法が挙げられるが、本発明は、これらに限定されるものではない。先ず初めに、顔料分散樹脂と、水とが少なくとも混合された水性媒体に顔料を添加し、混合撹拌した後、後述の分散手段を用いて分散処理を行い、必要に応じて遠心分離処理を行って所望の顔料分散液を得る。次に、必要に応じてこの顔料分散液に、水溶性有機溶剤、或いは、上記で挙げたような適宜に選択された添加剤成分を加え、撹拌、必要に応じて濾過して本発明のインクとする。
【0070】
本発明のインクの調製方法においては、上記で述べたように、インクの調製に分散処理を行って得られる顔料分散液を使用するが、顔料分散液の調製の際に行う分散処理の前に、プレミキシングを行うのが効果的である。即ち、プレミキシングは、少なくとも顔料分散樹脂と水とが混合された水性媒体に顔料を加えて行えばよい。このようなプレミキシング操作は、顔料表面の濡れ性を改善し、顔料表面への分散剤の吸着を促進することができるため、好ましい。
【0071】
上記した顔料の分散処理の際に使用される分散機は、一般に使用される分散機なら、如何なるものでもよいが、例えば、ボールミル、ロールミル、サンドミル、ビーズミル及びナノマイザー等が挙げられる。その中でも、ビーズミルが好ましく使用される。このようなものとしては、例えば、スーパーミル、サンドグラインダー、アジテータミル、グレンミル、ダイノーミル、パールミル及びコボルミル(何れも商品名)等が挙げられる。
【0072】
さらに、上記した顔料のプレミキシング及び分散処理において、顔料分散樹脂は水のみに溶解もしくは分散した場合であっても、水溶性有機溶剤と水の混合溶媒に溶解もしくは分散した場合であっても良い。
【0073】
本発明のインクは、インクジェット記録用であるので、顔料としては、最適な粒度分布を有するものを用いることが好ましい。即ち、顔料粒子を含有するインクをインクジェット記録方法に好適に使用できるようにするためには、ノズルの耐目詰り性等の要請から、最適な粒度分布を有する顔料を用いることが好ましい。所望の粒度分布を有する顔料を得る方法としては、下記の方法が挙げられる。先に挙げたような分散機の粉砕メディアのサイズを小さくすること、粉砕メディアの充填率を大きくすること、処理時間を長くすること、粉砕後フィルタや遠心分離機等で分級すること、及びこれらの手法の組み合わせ等の手法がある。
【0074】
本発明のインクジェットインクを使用しインクジェット印刷装置にて印刷を行う場合には印刷媒体を40〜80℃に加温しながら印刷を行うことが好ましい。加温しながら印刷することで、インク液滴が印刷媒体へ着弾した後、直ちに乾燥するため滲みが生じにくく、高い品質の印刷物を得ることが可能となる。
【0075】
本発明のインクジェットインク印刷する印刷媒体は公知のものが使用可能である。例えば、上質紙、コート紙、アート紙、キャスト紙、合成紙、インクジェット専用紙などの紙媒体や、ポリ塩化ビニルシート、PETフィルム、PPフィルムなどのプラスチック媒体である。これらは印刷媒体の表面が滑らかであっても、凹凸のついたものであっても良いし、透明、半透明、不透明のいずれであっても良い。また、これらの印刷媒体の2種以上を互いに張り合わせたものでも良い。更に印字面の反対側に剥離粘着層等を設けても良く、又印字後、印字面に粘着層等を設けても良い。
【実施例】
【0076】
以下、実施例により、本発明を更に具体的に説明する。なお、実施例中、「部」は、「重量部」を、「%」は、「重量%」を、それぞれ表す。
【0077】
(顔料分散液C1の製造例)
顔料としてPigment Blue 15:3を20部、顔料分散樹脂としてスチレンアクリル樹脂(分子量16000、酸価200mgKOH/g)6部、水74部を混合し、ディスパーで予備分散した後、分散メディアとして直径0.5mmのジルコニアビーズ1800gを充填した容積0.6Lのダイノーミルを用いて2時間本分散を行い、顔料分散液C1を得た。
【0078】
(顔料分散液C2の製造例)
顔料としてピグメントブルー15:3を19.5部、一般式(1)の化合物としてPがフタロシアニン骨格であり、Rはメチレン基、Rは全て水素原子の化合物を0.5部、顔料分散樹脂としてスチレンアクリル樹脂(分子量16000、酸価200mgKOH/g)6部、水74部を混合し、ディスパーで予備分散した後、直径0.5mmのジルコニアビーズ1800gを充填した容積0.6Lのダイノーミルを用いて2時間本分散を行い、顔料分散液C2を得た。
【0079】
(顔料分散液M1の製造例)
顔料分散液C1の製造例のピグメントブルー15:3をピグメントレッド120に変更した以外は、顔料分散液C1と同様の操作にて顔料分散を行い、顔料分散液M1を得た。
【0080】
(顔料分散液M2の製造例)
顔料としてピグメントレッド122を19.5部、一般式(1)の化合物としてPがキナクリドン骨格であり、Rはメチレン基、Rは全て水素原子の化合物を0.5部、顔料分散樹脂としてスチレンアクリル樹脂(分子量16000、酸価200mgKOH/g)6部、水74部を混合し、ディスパーで予備分散した後、直径0.5mmのジルコニアビーズ1800gを充填した容積0.6Lのダイノーミルを用いて2時間本分散を行い、顔料分散液M2を得た。
【0081】
(顔料分散液Y1の製造例)
顔料分散液C1の製造例のピグメントブルー15:3をピグメントイエロー120に変更した以外は、顔料分散液C1と同様の操作にて顔料分散を行い、顔料分散液Y1を得た。
【0082】
(顔料分散液K1の製造例)
顔料分散液C1の製造例のピグメントブルー15:3をカーボンブラックに変更した以外は、顔料分散液C1と同様の操作にて顔料分散を行い、顔料分散液K1を得た。
【0083】
実施例、比較例で使用する有機溶剤について以下に示す。
(表面張力が20mN/m以上30mN/m以下である有機溶剤)
・1,2−PenD:1,2−ペンタンジオール(沸点:206℃)
・1,2−HexD:1,2−ヘキサンジオール(沸点:224℃)
・DEGDE:ジエチレングリコールジエチルエーテル(沸点:188℃)
・DEGMBE:ジエチレングリコールモノブチルエーテル(沸点:230.4℃)
・DEGMHE:ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル(沸点:259℃)
・TEGMBE:トリエチレングリコールモノブチルエーテル(沸点:278℃)
・PGMBE:プロピレングリコールモノブチルエーテル(沸点:170℃)
(表面張力が30mN/mよりも高い有機溶剤)
・1,2−PD:1,2−プロパンジオール(沸点:187.6℃)
・1,2−BuD:1,2−ブタンジオール(沸点:194℃)
・1,5−PenD:1,5−ペンタンジオール(沸点:239℃)
【0084】
上記の顔料分散液を用いて表1に記載の通りの原料をディスパーにて撹拌を行いながら混合し、十分に均一になるまで攪拌した後、1μmおよび0.45μmのメンブランフィルターで濾過を行い、ヘッドつまりの原因となる粗大粒子を除去しインクを調製した。調製したシアン、マゼンタ、イエロー、ブラックの4色のインクを1組のインクセットとし、組成の異なる実施例1〜24、比較例1〜5のインクセットを得た。これらのインクセットを用いて以下の評価を行った。
【0085】
調製したインクの評価方法について下記に示す。
【0086】
(評価1:粘度の安定性評価)
実施例1〜24、比較例1〜5で得られたインクの粘度をE型粘度計(東機産業社製TVE−20L)を用いて、25℃において回転数50rpmという条件で測定した。このインクを70℃の恒温機に保存し、経時促進させた後、経時前後でのインクの粘度変化を評価した。評価基準は下記のとおりであり、A、 B評価が実用可能領域である。
A:4週間保存後の粘度変化率が±5%未満
B:2週間保存後の粘度変化率が±5%未満
C:1週間保存後の粘度変化率が±5%以上
【0087】
(評価2:インクの濡れ性評価)
実施例1〜24、比較例1〜5で得られたインクについて、25℃の環境下でピエゾ素子を有するインクジェットヘッドを搭載したインクジェットプリンターに充填し、ポリ塩化ビニルシート(PVC)を50℃に加温しながら印字率100%のベタ印刷を行い、印刷物の白抜け度合を目視で確認した。評価基準は下記のとおりであり、AA、A、B評価が実用可能領域である。
AA:インクが十分に濡れ広がり、目視で白抜けがない上に、濃度ムラがなく均一な画像が得られているもの
A:インクが程良く濡れ広がり、目視で白抜けがない上に、濃度ムラがなく良好な画像が得られているもの
B:インクが程良く濡れ広がり、目視で白抜けがないもの
C:インクの濡れ広がりが不十分であり、目視で僅かに白抜けが発生しているもの
D:インクの濡れ広がりが不十分であり、目視で明らかに白抜けが発生しているもの
【0088】
(評価3:印刷物の混色評価)
実施例1〜24、比較例1〜5で得られたインクについて、評価2と同様の基材及び印刷条件で印刷を行った。但し、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラックを隣り合うように(色の順序はランダムでよい)印刷し、色間における混色度合を目視により評価した。また、ドットのつながりはルーペで観察し評価した。評価基準は下記のとおりであり、AA、A、B評価が実用可能領域である。
AA:ドットの融着、色間の色混じりや滲みが全くなく、各色の境界が鮮明であるもの
A:ドットの融着が僅かにあるが、目視で色間の色混じりや滲みが全くなく、各色の境界が鮮明であるもの
B:ドットの融着が僅かにあるが、目視で色間の色混じりや滲みが全くないもの
C:目視で色間の色混じりや滲みが僅かに見られるもの
D:目視で色間の色混じりや滲みが明らかに見られるもの
(評価4:印刷物の発色性評価)
上記プリンターにてカラーチャート画像を印刷し、分光測色計(X−rite社製)を用いて測色した。色相の評価は枚葉印刷用ジャパンカラー2007によって定められている色再現領域と比較により行った。評価基準は以下のとおりとした。A、B評価が実用可能領域である。
A:ジャパンカラー以上の色再現領域
B:ジャパンカラーと同等の色再現領域
C:ジャパンカラーに満たない色再現領域
(評価5:印刷物の光沢評価)
評価2の条件で単色及び複数色の掛け合わせで、印字率100%〜200%のベタ印刷を行った印刷物を室温で2時間乾燥させた後、印刷物の光沢度合を目視及び60°光沢計にて測定し評価した。評価基準は下記のとおりであり、AA、A、B評価が実用可能領域である。
AA:光沢値が非常に高く、印刷物表面の光沢の均一性に優れる
A:光沢値が高く、印刷物表面の光沢の均一性が良好
B:光沢値が高いが、印刷物表面の光沢が僅かに不均一
C:印刷物表面の光沢の均一性が悪く、光沢値も低い
D:印刷物表面の光沢の均一性が著しく悪く、光沢値も低い
(評価6:吐出安定性の評価)
評価2と同様の条件でPVC上に印字率100%のベタ印字を行い、10分ごとにノズルチェックパターンを印字してノズル抜けの有無を確認し評価を行った。評価基準は下記のとおりであり、A、B評価が実用可能領域である。
A:30分間印字を行ってもノズル抜け無し
B:20分間印字を行ってもノズル抜け無し
C:20分以内でノズル抜けが発生する
【0089】
上記の評価結果は、実施例1〜24、比較例1〜5について表2に示す。
【0090】
実施例1〜24の組成を有するインクでは、吸収性の低い基材への印刷適性に優れ、発色性や光沢度の高い印刷品質とインクジェットノズルからの吐出安定性、保存安定性に優れた品質が得られている。実施例24ではバインダー樹脂を使用することで、印刷物の耐性が向上することが確認された。
【0091】
一方、本発明の範囲外である比較例においては全ての評価項目を満足し、実用可能な品質のインクとすることができないことが示されている。一般式(1)で表される化合物を含まない比較例1においては、マゼンタインクの保存安定性が悪い。また、発色性や光沢度が低く、優れた印刷品質が得られていない。沸点が本発明の範囲よりも高い有機溶剤を使用した比較例2においては、基材上における乾燥性が悪く、優れた印刷適性が得られていない。沸点が本発明の範囲よりも低い有機溶剤を使用した比較例3においては、乾燥が早いため、優れた吐出安定性が得られていない。表面張力が本発明の範囲外である有機溶剤を使用した比較例4、5においては、濡れ性、乾燥性が満足できるものではなく、印刷品質の低下が見られていた。
【0092】
【表1】
【0093】
【表2】