(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
回転するクランク軸を有するエンジンと、回転速度制御軸の軸回りの設定角度によって前記クランク軸の回転速度を制御するダイヤフラム式気化器と、を具備するエンジン作業機であって、
前記回転速度制御軸に固定されたアームに当接し前記回転速度を低下させる方向に前記回転速度制御軸を操作するように付勢されたアーム係止部がその一端に設けられたスロットルワイヤが用いられ、前記スロットルワイヤの他端が前記ダイヤフラム式気化器から離間した位置に設けられ、
前記ダイヤフラム式気化器において、
前記スロットルワイヤを内部で長さ方向に移動自在に収容するアウターチューブが固定されるスロットルワイヤ取付部が、前記ダイヤフラム式気化器においてダイヤフラムを覆って装着されたダイヤフラムカバーに一体化して設けられたことを特徴とするエンジン作業機。
前記クランク軸に冷却ファンが固定され、前記クランク軸の回転に伴って前記冷却ファンによって生成された冷却風からガバナ板が受ける力を用いて前記回転速度制御軸を操作することによって前記回転速度を制御する風力ガバナを具備し、
前記風力ガバナにおいて、前記ガバナ板が前記冷却風から受ける力によって前記回転速度を低下させる方向に前記回転速度制御軸が付勢され、かつ前記アームに一端が装着されたガバナスプリングの弾性力によって前記回転速度を上昇させる方向に前記回転速度制御軸が付勢されたことを特徴とする請求項1に記載のエンジン作業機。
前記ガバナスプリングの他端の位置は、ガバナ調整用ワイヤを介して調整可能とされ、前記ガバナ調整用ワイヤを内部で長さ方向に移動自在に収容するアウターチューブが固定されるガバナ調整用ワイヤ固定部が、前記ダイヤフラムカバーに一体化して設けられたことを特徴とする請求項2に記載のエンジン作業機。
前記スロットルワイヤの他端は、前記ダイヤフラム式気化器から離間した箇所に設けられ作業時に作業者によって把持されるハンドルに装着されたスロットルレバーに装着され、前記スロットルレバーの操作によって前記アーム係止部が付勢された方向と逆方向に前記スロットルワイヤが引かれる構成とされたことを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載のエンジン作業機。
【背景技術】
【0002】
刈払機、送風機、チェーンソー、パワーカッタ等、作業者が携帯して使用する携帯用作業機や、発電機には、動力源として小型のエンジンが用いられる。
【0003】
こうした刈払機の形状の一例を
図12に示す。
図12(a)は、この刈払機310の形態を示す側面図であり、
図12(b)は、その後端部側を拡大した部分断面図である。
図12(a)は、この刈払機310が地上に設置された際の形態を示しており、以下においては、上下方向とはこの場合における上下方向を意味し、この図における左側を前方、右側を後方とする。
【0004】
この刈払機310においては、前後方向に細長いシャフト20の先端(一端)側に、回転する刈刃11が設けられる。シャフト20の後端(他端)側には、刈刃11を駆動するための駆動部330が設けられる。駆動部330における動力源としては、2サイクル空冷式のエンジン40が用いられる。シャフト20の内部には、シャフト20と同軸とされ、エンジン40のクランク軸と遠心クラッチ(共に図示せず)によって接続された駆動軸(図示せず)が設けられる。クランク軸の回転速度が高まり遠心クラッチが接続された際には、この駆動軸はエンジン40によって回転運動をする。この回転運動が、シャフト20の先端に設置されたギヤケース12に伝達され、適切な減速比で刈刃11を回転させる。シャフト20における前後方向の中央付近には、作業者が把持するためのハンドル13が左右にそれぞれ設けられている。刈刃11の下側には、刈り取られた草木が作業者側に飛散することを抑制するための飛散防御カバー14が設けられる。また、作業者がハンドル13を把持した操作がしやすいように、シャフト20におけるハンドル13と駆動部330の間は、シャフト20の外径が柔軟な材料によって局所的に太くされた腰当て部21が形成されている。作業者は、ハンドル13を把持しこの腰当て部21等を腰で支持することによって、刈払い作業を容易に行うことができる。
【0005】
駆動部330において、エンジン40の左右(
図12(a)における紙面手前側と向こう側)には、それぞれ吸気口、排気口が設けられ、吸気口側には気化器(後述)及びエアクリーナ50が、排気口側にはマフラー(後述)がそれぞれ接続されている。エンジン40の後端側には、クランク軸を強制的に回転させることによってエンジン40を始動させるスタータ(リコイルスタータ)41が設けられている。一方、エンジン40の前端側においては、クランク軸に冷却ファン(図示せず)が固定され、クランク軸の回転に伴って冷却ファンが生成される。この冷却風は、冷却ファン等を覆うファンケース31内を通り、エンジン40の中で高温となるシリンダ(図示せず)を冷却するようにその風路は形成される。
【0006】
気化器には、エアクリーナ50を介して空気が導入されると同時に、燃料(混合ガソリン)も供給され、これによって混合気が生成され、エンジン40に供給される。燃料は、エンジン40の下部に固定された燃料タンク60内に溜められ、燃料タンク60からチューブを介して気化器に導かれる。作業者は、燃料タンク60に設けられたタンクキャップ61を取り外し、燃料タンク60内に燃料を供給することができる。
【0007】
この刈払機310を使用するに際しては、作業前に燃料タンク60に給油が行われる。この給油の際に、エンジン40に設置された点火プラグやこれに接続される配線等に燃料が付着することを抑制するために、一般には燃料タンク60及びタンクキャップ61は、エンジン40よりも下側に設けられる。このため、刈払機310の後端側の下部には、燃料タンク60が位置する。
【0008】
図12(b)に示されるように、この刈払機310を地面に設置する際にこれを支持すると共に、燃料タンク60の下側を覆う、樹脂材料で構成された保護カバー(スタンド)15が装着される。また、ハンドル13の先端には、作業者が把持しやすい形状とされたグリップ16が設けられる。
【0009】
作業時における刈刃11(エンジン40)の回転速度は、気化器におけるスロットル弁軸の軸回りの設定角度で調整できるが、刈刃11に加わる負荷等によって、実際の回転速度は変動する。回転速度が大きく変動した場合には、刈り払い作業が困難となる。更に、回転速度が大きく低下した場合には、冷却風が弱くなり、エンジン40の冷却効率が低下する。このため、原動機付自転車等とは異なり、上記の刈払機310においては、作業中におけるエンジン40の回転数は略一定となるように制御される。このため、エンジン40の動作モードとしては、低回転数が維持され遠心クラッチが接続されないために刈刃11が駆動されないアイドリング状態と、これよりも高い略一定の回転数が維持され遠心クラッチが接続され刈刃11が駆動される作業状態、の2種類に大別される。
【0010】
例えば、特許文献1に記載されるように、動作状態におけるこうした制御を、冷却風の強度をフィードバックして単純な構成で行わせる風力ガバナが使用されている。この風力ガバナにおいては、ファンケース31内における冷却風のあたる箇所にガバナ板が設置される。ガバナ板は気化器におけるスロットル開度を制御するスロットル弁軸に接続され、スロットル弁軸を軸として回動するように設定される。
【0011】
この構成においては、エンジン40の回転数が低下し冷却風の強度が低下した場合には、スロットル弁軸はスロットル開度を大きくする方向に付勢される。逆に、エンジン40の回転数が高まり冷却風の強度が高まった場合には、ガバナ板は、スロットル弁軸を、スロットル開度を小さくする方向に回動させる。このため、エンジン40の回転数が略一定となるような制御が行われる。
【0012】
また、アイドリング状態と作業状態とを切り替える操作は、
図12(a)において、作業者がグリップ16を把持しながら、グリップ16に隣接して設けられたスロットルレバー17を引く(握る)操作をすることによって行われる。スロットルレバー17には、気化器70側と接続されたスロットルワイヤ(図示せず)が装着され、作業者がスロットルレバー17を握ることによって、スロットルワイヤがハンドル13側に引かれる。これによって、気化器70は作業状態とされるように制御される。
【0013】
こうした構成は、気化器のスロットル弁軸に接続された小型のガバナ板(風力ガバナ)を用いることによって容易に実現できるため、小型のエンジンが用いられる携帯型のエンジン作業機においては特に有効である。このため、こうした構成は、刈払機以外のエンジン作業機においても有効である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施の形態となるエンジン作業機(刈払機)の構成について説明する。ここでは、小型の空冷エンジンが使用され、その動作状態は、低回転が維持されるアイドリング状態と、これよりも高い略一定の回転数が維持される作業状態の2種類に大別される。この切替は、スロットルワイヤを用いて行われる。
【0023】
図1は、この刈払機における駆動部30周囲の構成を前方側から見た正面図である。ここでは、ファンケース31を透視して見た内部の構造が示されている。エンジン40の上部には、燃焼室、ピストン等を内部に有するシリンダ43が設けられる。シリンダ43の外面には冷却フィンが多数形成されている。シリンダ43の左側(
図1における右側)に設けられた吸気口(図示せず)には気化器70が装着され、気化器70の左側(
図1における右側)には更にエアクリーナ50が装着されている。エアクリーナ50は、気化器70等に固定されたエアクリーナボックス51に装着され、エアクリーナカバー52で覆われた状態で、エアクリーナ50を介した吸気が可能とされる。また、シリンダ43の右側(
図1における左側)に設けられた排気口にはマフラー80が装着されている。エンジン40(シリンダ43)からの排気は、マフラー80を介して行われる。使用時に高温となるマフラー80は、マフラーカバー81で覆われている。
【0024】
エンジン40において、シリンダ43の下側には、内部にクランク軸42を有するクランクケース44が設けられている。クランク軸42は、シリンダ43内部におけるピストンの上下運動に伴って回転する。クランク軸42は、
図1中の紙面垂直方向(
図12(a)における前後方向)に延伸している。前記の通り、クランク軸42の前方側には、冷却ファンが一体化されたマグネトロータ45と遠心クラッチ46とが装着される。一方、クランク軸42の後方側(
図1に示された側の反対側)においては、前記の通り、スタータ(リコイルスタータ)41が装着され、これによって、始動時にクランク軸42を強制的に回転させることができる。マグネトロータ45の回転に伴ってジェネレータコイル(図示せず)に電流が流れ、この電流は、点火コイル47に流れ、点火プラグを点火させることのできる程度の高電圧まで昇圧される。
【0025】
エンジン40が始動後には、吸気の際に発生する負圧によって燃料が燃料タンク60側から気化器70側に吸い上げられる。エンジン40の始動前においては、気化器70まで燃料を導く必要があり、このためにプライミングポンプ62が設けられている。作業者がプライミングポンプ62を操作することにより、始動前において燃料タンク60から気化器70まで燃料を導くことができる。
【0026】
上記と同様の構成のエンジンと気化器の組み合わせは、エンジン作業機だけではなく、原動機付自転車等、他の機械にも用いられている。ただし、原動機付自転車等の場合には、気化器と地面(水平面)とのなす角度は使用時(運転時)には大きく変動することがない。これに対して、上記の刈払機の場合には、切断の角度を調整するために、シャフト20をほぼ水平とする場合もあり、シャフト20を水平面から大きく傾斜させて作業を行う場合もある。このため、気化器70の水平面に対する角度は使用に際して大きく変動する場合がある。
【0027】
気化器の形式としては、様々なものがあるが、このように水平面に対する角度が大きく変動した場合においても安定して気化器に燃料を導き混合気を生成できる形式として、ダイヤフラム式のものがある。ダイヤフラム式の気化器においては、気化器内部に設けられ弾性体で構成されたダイヤフラムで仕切られた燃料室中に燃料が吸い上げられ、一定量が溜められる。これによって、気化器の角度によらずに安定して混合気を供給することができる。このため、気化器70としては、ダイヤフラム式のものが好ましく用いられ、そのスロットル開度は、スロットル弁軸(回転速度制御軸)71の軸回りの角度によって設定される。こうした用途においては、スロットル弁軸71の回転によってバタフライ弁の設定角度が調整され、これによってスロットル開度の調整が行われるバタフライ式の気化器が特に好ましく用いられる。すなわち、エンジン作業機においては、ダイヤフラム式であり、かつスロットル開度がバタフライ弁を用いて調整される構成の気化器が特に好ましく用いられる。
【0028】
作業時における刈刃11(エンジン40あるいはクランク軸42)の回転速度は、気化器70におけるスロットル弁軸71の軸回りの設定角度で調整できるが、刈刃11に加わる負荷等によって、実際の回転速度は変動する。回転速度が大きく変動した場合には、刈り払い作業が困難となる。更に、回転速度が大きく低下した場合には、冷却風が弱くなり、エンジン40の冷却効率が低下する。このため、原動機付自転車等とは異なり、上記の刈払機310においては、作業中におけるエンジン40(クランク軸42)の回転数は略一定となるように制御される。このため、エンジン40の動作モードとしては、低回転数が維持され遠心クラッチ46が接続されないために刈刃11が駆動されないアイドリング状態と、これよりも高い略一定の回転数が維持され遠心クラッチ46が接続され刈刃11が駆動される作業状態、の2種類に大別される。
【0029】
この駆動部30においては、動作状態におけるこうした制御を冷却風の強度をフィードバックして単純な構成で行わせるために、風力ガバナ90が使用されている。この風力ガバナ90においては、ファンケース内における冷却風のあたる箇所にガバナ板91が設置される。ガバナ板91は、ガバナロッド92を介してダイヤフラム式の気化器70におけるスロットル開度を制御するスロットル弁軸71に接続され、スロットル弁軸71を軸として回動するように設定される。
【0030】
図2(a)〜(c)は、状態に応じた風力ガバナ90の動作を示す図であり、
図1における風力ガバナ90周辺の構造が示されている。
図2(a)は、回転数が低い場合(冷却風の風力が弱い場合)、
図2(c)は回転数が高い場合(冷却風が強い場合)、
図2(b)はこれらの中間の場合を示している。ここで、スロットル弁軸71は、
図2における反時計回りの場合にスロットル開度を大きくする(回転数を上昇させる)方向に設定される。ここでは、ガバナ板91が冷却風によって受ける圧力が高まると、ガバナ板91がスロットル開度が小さくなる方向にスロットル弁軸71を回動させるような設定とされている。一方、
図2におけるスロットル弁軸71の紙面向こう側には、アーム(図示せず)が固定され、このアームには、ガバナスプリング93の一端(下端)が係止されている。ガバナスプリング93の他端(上端)は、気化器70に固定されたエアクリーナボックス51に上側で係止されているため、アームは、ガバナスプリング93の弾性力によって上側に引っ張られる。アームがガバナスプリング93によって引っ張られることによって、スロットル弁軸71は、スロットル開度が大きくなる方向に付勢されている。
【0031】
この構成においては、エンジン40の回転数が低下し冷却風の強度が低下した場合(
図2(a))には、ガバナスプリング93はスロットル弁軸71を、スロットル開度を大きくする方向に回動させる。逆に、エンジン40の回転数が高まり冷却風の強度が高まった場合(
図2(c))には、ガバナ板91は、スロットル弁軸71を、スロットル開度を小さくする方向に回動させる。このため、エンジン40(クランク軸42)の回転数が略一定となるような制御が行われる。
【0032】
また、アイドリング状態と作業状態とを切り替える操作は、
図12(a)において、作業者がグリップ16を把持しながら、グリップ16に隣接して設けられたスロットルレバー17を引く(握る)操作をすることによって行われる。スロットルレバー17には、気化器70側と接続されたスロットルワイヤ(図示せず)が装着され、作業者がスロットルレバー17を握ることによって、スロットルワイヤがハンドル13側に引かれる。これによって、気化器70は作業状態とされ、
図2の動作が可能となるように制御される。
【0033】
図2に示されたように、風力ガバナ90において、気化器70のスロットル弁軸(回転速度制御軸)71には、ガバナ板91とガバナスプリング93によって互いに逆向きの力(トルク)が加わる。このため、実際の動作においては、ガバナ板91が冷却風から受ける圧力と、ガバナスプリング93の弾性力によって受ける力とが釣り合う点でガバナ板91の位置あるいはスロットル弁軸71の設定角度は定まる。このスロットル弁軸71の設定角度(スロットル開度)に対応した回転数が、作業状態におけるエンジン40の設定回転数となる。
【0034】
ここで、ガバナスプリング93の弾性力を強くし、スロットル弁軸71を
図2における反時計回りに付勢する力を強くすれば、エンジン40の回転数は高く設定される。逆に、ガバナスプリング93の弾性力を弱くし、スロットル弁軸71を
図2における反時計回りに付勢する力を弱くすれば、エンジン40の回転数は低く設定される。このため、作業状態において、他の構成を変えなくとも、ガバナスプリング93の弾性力を調整することができれば、作業状態におけるエンジン40の設定回転数を調整することができる。
【0035】
ただし、作業状態における動作中にガバナスプリング93自身を交換することは困難である。この代わりに、ガバナスプリング93の他端の位置を変えることによって、実質的にこの弾性力を変えることができる。この場合、ガバナスプリング93の他端をその一端から離す方向に移動すれば、弾性力が大きくなり、ガバナスプリング93の他端をその一端に近づける方向に移動すれば、弾性力が小さくなる。
【0036】
一方、前記の通り、
図2の動作が行われるような設定とするためには、スロットルワイヤを用いた制御も行われる。このため、ガバナスプリングの他端の位置を可変とした状態で、アイドリング状態と作業状態とを切り替えるためのスロットルワイヤによる操作も行われる。本発明の実施の形態に係る刈払機においては、これらの動作が特に円滑に行われる。
【0037】
図3は、この刈払機における駆動部30の背面図である。ここでは、エアクリーナ50、エアクリーナカバー52が取り外された状態が示されている。ここでは、気化器(ダイヤフラム式気化器)70がエンジン40に装着されている。
図3は、気化器70等を
図1とは逆向きに見た図であるため、
図3においては、気化器70のスロットル弁軸71は、時計回りの場合にスロットル開度が大きくなる(回転数を上昇させる)方向に設定される。この気化器70は、スロットルワイヤの装着が高精度で行われることによって、その操作性が良好となるような構造を具備する。
【0038】
気化器70におけるスロットル弁軸71には、アーム94が固定され、
図3におけるアーム94の左側には、ガバナスプリング93の下端(一端)が係止されている。ガバナスプリング93の上端(他端)は、アーム94よりも上側に位置するガバナスプリング取付部95に係止されている。この構成により、アーム94の左側は、ガバナスプリング93の弾性力によって図中上側に付勢され、スロットル弁軸71は、
図3における時計回りに付勢される。これにより、前記の通り、スロットル弁軸71は、ガバナスプリング93によってスロットル開度が大きくなる方向に付勢される。
【0039】
一方、アイドリング状態と作業状態とを切り替えるために、スロットルワイヤ100が用いられる。スロットルワイヤ100は、アウターチューブ101内に摺動自在に設けられ、アウターチューブ101は、気化器70の一部とされるスロットルワイヤ取付部72に取付ナット103によって固定される。スロットルワイヤ100は、スロットルワイヤ取付部72の上側でアウターチューブ101から露出し、露出した一端(上端)には、アーム94の右側に下側から当接するアーム係止部104が固定される。また、アーム係止部104とスロットルワイヤ取付部72との間には、スロットルワイヤ100を巻回するようにスロットルリターンスプリング105が設けられている。スロットルリターンスプリング105の伸びに伴って、アーム係止部104及びスロットルワイヤ100は上側に向かって付勢され、アーム係止部104がアーム94側に向かって付勢される。このため、アーム94の左側においては、ガバナスプリング93によってアーム94(スロットル弁軸71)は時計回りに付勢され、アーム94の右側においては、スロットルリターンスプリング105によってアーム94は反時計回りに、互いに逆方向に付勢される。
【0040】
ただし、スロットル弁軸71の回りでガバナスプリング93がアーム94に与えるトルクよりも、スロットルリターンスプリング105がアーム94に与えるトルクの方が大きくなるように設定される。このため、スロットルリターンスプリング105が伸びた状態においては、ガバナスプリング93の状態に関わらず、アーム係止部104がアーム94の右側において下側から当接し、スロットル弁軸71は反時計回りに付勢される。このため、スロットルワイヤ100が操作されない状態では、スロットル開度は小さくなる状態とされる。この状態がアイドリング状態となる。
【0041】
一方、作業者が
図12(a)に示されるスロットルレバー17を握り、スロットルリターンスプリング105に逆らってスロットルワイヤ100を
図3における下側に引くことができる。
図4は、こうした動作を行う前後のスロットル弁軸71周囲の動作を示す図である。
【0042】
図4(a)は、アイドリング状態を示す。この状態から、スロットルワイヤ100が下側に引かれ、アーム係止部104が下側に移動し、アーム係止部104がアーム94から離間した場合、
図4(b)に示されるように、ガバナスプリング93によって、アーム94(スロットル弁軸71)は、時計回り(スロットル開度を大きくする方向)に付勢される。これによって、エンジン40の回転数が高まり、作業状態とされる。その後は、
図2に示された風力ガバナ90における動作が、下側に移動したアーム係止部104とアーム94が当接しない範囲内で行われる。すなわち、スロットル弁軸71の設定角度が、ガバナ板91が冷却風から受ける圧力とガバナスプリング93の弾性力とが釣り合う角度となり、エンジン40の回転数がこの設定角度に対応した回転数となるような制御が自動的に行われる。
【0043】
ここで、ガバナスプリング93の上端(他端)が係止されたガバナスプリング取付部95は、エアクリーナボックス51において、上下方向の位置が切替可能とされる。
図5は、このガバナスプリング取付部95のエアクリーナボックス51に対する取付部分を拡大した図である。ガバナスプリング取付部95は、
図5におけるその左側のスライド部96に固定されている。スライド部96は、エアクリーナボックス51の気化器70側の内面に沿って上下方向にスライドして移動可能とされて固定される。スライド部96の下側には、弾性を有して下端部が左側に付勢された係止片961が形成されており、この下端部には、図中左側に凸となり
図5中の紙面と垂直方向に延伸した係止突起962が形成されている。一方、エアクリーナボックス51の内面におけるスライド部96の下側には、
図5中の紙面と垂直方向に延伸した溝である係止溝511、512が2列並行に設けられている。スライド部96の上下方向に位置に応じ、係止突起962は、係止溝511、512のいずれかに係止される。すなわち、この構成により、スライド部96及びガバナスプリング取付部95は、係止溝511、512に対応した2つの位置のいずれかに固定される。
図5においては、係止突起962は下側の下側の係止溝512に係止され、ガバナスプリング取付部95は2つの位置のうち下側の位置に固定されている。
【0044】
図4(c)は、
図4(b)の状態から、ガバナスプリング取付部95の取付位置を係止溝511に対応した上側に移動した場合の状態を示す図である。アーム94の設定角度が
図4(b)の状態でガバナスプリング取付部95の取付位置が上側に移動した場合には、ガバナスプリング93の弾性力が大きくなるために、アーム94(スロットル弁軸71)は時計回りに回動し、
図4(c)に示された角度となり、エンジン40の回転数が高まる。風力ガバナ90によって、この新たな位置(新たな設定回転数)を中心とした制御が行われる。
【0045】
このため、上記の構成においては、作業状態におけるエンジン40の回転数が、低速(
図4(b))と高速(
図4(c))の2種類に切り替えられる。この切替は、ガバナスプリング取付部95の、エアクリーナボックス51に対する取付位置の変更のみで行われるため、作業状態(刈刃11を駆動させた状態)においても、この切替動作を容易に行うことができる。
【0046】
なお、
図4(d)は、
図4(c)の状態から作業者が再びスロットルレバー17を離し、スロットルワイヤ100を図中の上側に移動させた場合の状態を示す。この状態においては、ガバナスプリング93の上端部が上側に移動しているために、
図4(a)の状態よりもガバナスプリング93の全長が長くなっている(弾性力が大きくなっている)。この状態においても、ガバナスプリング93がアーム94に及ぼすトルクよりも、スロットルリターンスプリング105がアーム94に及ぼすトルクの方が大きくなるように設定すれば、アーム94(スロットル弁軸71)の設定角度を
図4(a)と同様とし、アイドリング状態とすることができる。すなわち、ガバナスプリング93の上端部の取付位置に関わらず、作業者がスロットルレバー17から手を離すことによって、アイドリング状態とすることができる。
【0047】
この構成においては、スロットルワイヤ100(アウターチューブ101)が、気化器70の一部とされたスロットルワイヤ取付部72に固定される。スロットルワイヤ取付部72を含めた気化器70の構造について以下に説明する。
【0048】
図6は、この気化器70の構成を示す上面図(a)、背面図(b)、正面図(c)、右側面図(d)、下面図(e)である。ここで、上下左右は、
図1、9等におけるものと同一である。
図7は、下面側の異なる2方向から見たこの気化器70の斜視図である。また、
図8は、この気化器70の左側面図(a)、そのA−A方向の断面から背面側を見た図(b)である。ここでは、風力ガバナ90を構成するガバナ板91、ガバナロッド92、アーム94がスロットル弁軸71に装着された状態が示されている。
【0049】
前記の通り、この気化器70は、ダイヤフラム式であり、
図8(b)にその断面が示されるように、下側に設けられ弾性体で構成されたダイヤフラム73の上に隙間が形成され、この隙間が、ダイヤフラム73の弾性によって燃料が溜められる燃料室74となる。また、気化器70に対しては、その左側に設けられたエアクリーナ装着口75から空気が吸入される。燃料室74に溜められた燃料は、吸気された空気によって霧化されて混合気が形成され、その右側に設けられエンジン40の吸気口に接続される吸気口接続口76を介してエンジン40(シリンダ43)内に混合気が供給される。この際の混合気の量は、スロットル弁軸71を軸として回動し、混合気の流路中に設けられた板状のバタフライ弁77の設定角度(スロットル開度)によって制御される。
【0050】
気化器70の下部に設けられたダイヤフラム73は、下側からダイヤフラムカバー78によって覆われ、保護される。ダイヤフラムカバー78は、バタフライ弁77やスロットル弁軸71等が設けられ下側にダイヤフラム73が装着された気化器本体79に、下側から4本のネジ150によって固定される。
【0051】
ここで、スロットルワイヤ取付部72とダイヤフラムカバー78とは、一体化された板状の部材で構成されている。あるいは、ダイヤフラムカバー78の一部がスロットルワイヤ取付部72とされている。スロットルワイヤ取付部72においては、この板状の部材にアウターチューブ101が挿通される開口が設けられ、この開口の上下で取付ナット103を用いてアウターチューブ101が固定される。また、このスロットルワイヤ取付部72が気化器70の下面から後方側に向かって突出し、スロットルワイヤ100の上端のアーム係止部104がアーム94と当接するように、ダイヤフラムカバー78が形成される。
【0052】
一般に、軽量化のために、気化器本体79は、軽量であるが機械的強度が低いアルミニウム合金で構成される。これに対して、ダイヤフラムカバー78は、ダイヤフラム73を保護するために、機械的強度が高い鋼板等で構成される。上記のダイヤフラムカバー78(スロットルワイヤ取付部72)は、鋼板を板金加工することによって容易に形成することができる。
【0053】
前記の通り、スロットルワイヤ取付部72には、弾性係数の高いスロットルリターンスプリング105が装着されるため、操作時に大きな力が加わるが、こうした機械的強度が高い鋼板を用いることによって、スロットルワイヤ取付部72(ダイヤフラムカバー78)の変形を抑制することができる。また、この構成においては、スロットルワイヤ100(アウターチューブ101)をアーム94の近傍で高精度で固定することができるため、
図4に示されたスロットルワイヤ100によるアーム94の操作を高精度で行うことができ、製品毎のばらつきも小さくすることができる。すなわち、操作性の良好な刈払機を安定して製造することができる。
【0054】
これに対して、気化器等とは別体とされたスロットルワイヤ取付部を気化器やエアクリーナボックス、エンジン等にネジ等を用いて固定し、このスロットルワイヤ取付部を用いてスロットルワイヤを固定することも不可能ではない。しかしながら、この場合には、スロットルワイヤ取付部自身の固定のばらつきが生ずるために、スロットルワイヤの固定の精度を高めることが困難である。特に、気化器から離れた箇所でスロットルワイヤを固定した場合には、操作性が良好な刈払機を安定して得ることが困難である。
【0055】
あるいは、気化器本体を、スロットルワイヤ取付部が一体化して形成された形状とすることも不可能ではない。しかしながら、一般に、気化器は特定のエンジン作業機の専用品としては製造されず、様々なエンジン作業機に対応する汎用品として製造される。このため、スロットルワイヤ取付部が形成された気化器本体を具備する気化器を安価に製造することは困難である。これに対して、上記の気化器70においては、スロットルワイヤ取付部が形成されない通常のダイヤフラムカバーを具備する汎用の気化器において、ダイヤフラムカバーを上記のダイヤフラムカバー78に交換するだけで、上記の気化器70とすることができる。すなわち、上記の気化器70を安価に得ることができる。
【0056】
図3〜5の例においては、ガバナスプリング取付部95の取付位置の調整は、エアクリーナボックス51上で行われた。これに対して、この切替操作を、エンジン作業機における他の箇所で行える構成とすることもできる。
図9は、この切替操作がハンドル13側で行われる駆動部130の構成を示す斜視図である。この構成においては、前記のスロットルワイヤ100と同様に、ガバナスプリング調整用ワイヤが用いられ、ガバナスプリング調整用ワイヤによってガバナスプリング取付部の位置が調整される。この場合、ガバナスプリング調整用ワイヤも、スロットルワイヤ100と同様に固定される。
図9においては、エアクリーナ50、エアクリーナボックス51、エアクリーナカバー52が取り外された状態が示されている。この場合には、前記のダイヤフラムカバー78(スロットルワイヤ取付部72)とは異なる形状のダイヤフラムカバー(スロットルワイヤ取付部)が用いられた気化器270が用いられる。
【0057】
図9の構成においては、スロットル弁軸71に対してアーム194が固定される。ここで、アーム194においては、前記のアーム94とは異なり、スロットルワイヤ100の先端に装着されたアーム係止部104と、ガバナスプリング193とが、スロットル弁軸71に対して共に右側に設けられる。このため、アーム194においては、その右側の部分のみがアーム係止部104又はガバナスプリング193によって付勢される。
【0058】
この構成においては、使用されるガバナスプリング193の一端は、
図3〜5の構成とは異なり、アーム194の右側(アーム係止部104と同じ側)においてアーム194に下側から係止され、ガバナスプリング193の他端は下側に位置する。この構成においても、ガバナスプリング193の弾性力によってスロットル弁軸71が、エンジン40の回転数を高める方向(時計回り)に付勢されることは明らかである。
【0059】
前記のスロットルワイヤ100、アーム係止部104等も前記と同様に用いられ、アウターチューブ101が、気化器70側に固定されたスロットルワイヤ取付部272(ダイヤフラムカバー278)における
図9中の右側に取付ナット103によって固定される。更にここでは、スロットルワイヤ100とほぼ並列とされたガバナスプリング調整用ワイヤ110が用いられる。ガバナスプリング調整用ワイヤ110は、アウターチューブ111内に摺動自在に設けられ、アウターチューブ111は、スロットルワイヤ取付部272における
図9中の左側に、アウターチューブ101と同様に取付ナット112によって固定される。ガバナスプリング調整用ワイヤ110は、スロットルワイヤ取付部272の上側でアウターチューブ111から露出し、露出した上端(一端)に、ガバナスプリング取付部195が固定される。このガバナスプリング取付部195には、ガバナスプリング193の他端が係止される。
【0060】
この構成において、ガバナスプリング調整用ワイヤ110を下側に引けば、ガバナスプリング取付部195を下側に移動させ、ガバナスプリング193の弾性力を高めることができる。すなわち、作業状態におけるエンジン40の回転数を高めることができる。逆に、この状態からガバナスプリング調整用ワイヤ110を上側に移動させれば、ガバナスプリング取付部195を上側に移動させ、ガバナスプリング193の弾性力を低下させることができる。このように、ガバナスプリング調整用ワイヤ110を用いることによって、作業状態におけるエンジン40の回転数を調整することができる。ガバナスプリング調整用ワイヤ110の操作は、スロットルワイヤ100と同様に、気化器270等から離間した箇所から行うことができる。このように、スロットルワイヤ取付部272(ダイヤフラムカバー278)を用いて、スロットルワイヤ100と共にガバナスプリング調整用ワイヤ110を高精度で気化器270に固定することができる。これによって、スロットルワイヤ100、ガバナスプリング調整用ワイヤ110を用いた操作の操作性を、共に高めることができる。
【0061】
図10は、この構成における、アイドリング状態(a)、低回転の作業状態(b)、高回転の作業状態(c)の場合のスロットル弁軸71周辺の状態を示す図であり、
図4(a)〜(c)に対応する。ここでは、
図10(a)は、スロットルワイヤ100が引かれていない状態を示し、
図10(b)、(c)は、スロットルワイヤ100が引かれた状態を示している。また、
図10(a)(b)は、ガバナスプリング調整用ワイヤ110が引かれていない状態を示し、
図10(c)は、ガバナスプリング調整用ワイヤ110が引かれた状態を示している。
【0062】
図9、10は、スロットルワイヤ100とガバナスプリング調整用ワイヤ110の気化器270側の端部(一端)側の構成を示していた。一方、ガバナスプリング調整用ワイヤ110の他端側の構成の一例について説明する。
図11は、この構成の一例を示す側面図であり、
図12におけるハンドル13の先端付近の構成に対応する。この構成においては、ハンドル13の先端付近に設けられたグリップ16の先端側に、スロットルレバーピボット171を中心として回動可能にスロットルレバー17が設けられ、スロットルワイヤ100の他端は、スロットルレバー17に装着される。作業者がスロットルレバー17を握り、その右端部を上側に移動させることによって、スロットルワイヤ100をハンドル13側に引き、スロットルワイヤ100を
図6、7において下側に引く操作を行うことができる。
【0063】
一方、グリップ16よりも内側(
図11中右側)には、刈刃11の回転速度を調整するためのダイヤル式の速度調整機構(切替ダイヤル)18が設けられる。速度調整機構18においては、ハンドル13に固定された目盛部181と、ハンドル13と同軸に形成され、ハンドル13の周囲で段階的に回動可能な構成とされた切替部182が設けられる。目盛部181には、刈刃11の3段階の回転速度に対応する記号(I、II、III)がハンドル13の外周方向(
図11における上下方向)に表示されており、切替部182において示された三角形のインジケータが、切替部182の回動によって3段階の回転速度に対応する記号のいずれかに対応した位置で固定される構成とされる。ハンドル13の内部において、切替部182にはガバナスプリング調整用ワイヤ110の他端が接続される。この構成においては、切替部182の回動角度によって、ガバナスプリング調整用ワイヤ110の引き量を設定することができる。このため、気化器70側における
図10に示された動作を実現することができる。
【0064】
図11の構成においては、作業者は、グリップ16を把持しながら、スロットルレバー17の操作をすると同時に、切替部182を回動させ、刈刃11の回転速度を調整することができる。一般に、スロットルレバー17の操作と比べて、刈刃11の回転速度の調整(切替部182の操作)の頻度は少ないため、スロットルレバー17をグリップ16よりも先端側に設け、速度調整機構18をこれから離間させてグリップ16よりも内側に設けた構成は、作業者にとって使い易いことは明らかである。この際、前記の気化器270(スロットルワイヤ取付部272)を用いることにより、この操作精度も高めることができる。
【0065】
なお、上記の例においては、気化器70、270をスロットル弁軸71が貫通し、その一端側にガバナ板91、ガバナロッド92が固定され、他端側にアーム94、194、ガバナスプリング93、193等が固定された。しかしながら、スロットル弁軸における同一の側にこれらを全て設けることも可能である。この場合、スロットル弁軸が気化器を貫通する必要はない。しかしながら、気化器の周囲の構成を単純にし、動作を円滑に行わせるために、上記の構成が特に好ましい。
【0066】
また、上記の制御を行うことができる限りにおいて、エンジンにおいて使用される出力制御手段やエンジン全体の構成は任意である。あるいは、風力ガバナが使用されず、スロットルワイヤのみが使用されるエンジン作業機であっても、上記の構成が有効であることは明らかである。
【0067】
また、上記の例においては、エンジン作業機が刈払機であるものとしたが、同様にエンジンやスロットルワイヤが用いられる駆動部を具備するエンジン作業機であれば、同様の効果を奏することは明らかである。