【文献】
David A. Stone et al,All-Organic, Stimuli-Responsive Polymer Composites with Electrospun Fiber Fillers,ACS Macro Letters,米国,American Chemical Society,2012年 1月17日,Vol.1,No.1,p.80-83
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
刺激応答性高分子の基本化学構造と繊維の基本化学構造が共通しており、共通する基本化学構造が、アミド単位、ヒドロキシ酸単位、単糖単位、のいずれかである、請求項1〜3のいずれかに記載の刺激応答性材料。
【背景技術】
【0002】
外部の熱、光、電流、電界、pH等の刺激により、体積や状態が変化(膨潤、収縮)する刺激応答性高分子が一般に知られており、機能性材料としての様々な分野への利用が試みられている。例えば、薬物担体や癒着防止材、ドラッグデリバリーシステムなどの医療材料、化粧品、ロボットの可動部を駆動する高分子アクチュエーター、ケミカルバルブ、物質分離、光学素子等に提案され注目されてきた。特に、医療材料は、このような材料の有望な用途と考えられる。
【0003】
癒着は、炎症、けが、擦過、手術による創傷などにおいて、傷の治癒過程で周囲の臓器または組織が結合するとき形成される。例えば、各種の外科手術においては、患部の切除、および損傷部位の修復等を行うことが多く、この際に手術後の癒着が起こる。このような癒着を防止するため、体内で傷が治癒される間にバリア機能を発揮するものとして、例えば“セプラフィルム”(Genzyme Biosugry社製)や“インターシード”(Johnson & Johnson社製)等のシート状の癒着防止材が知られている。
【0004】
しかし、これらの癒着防止材はシート状であるため、例えば、3次元的な形状や円筒状の器官、あるいは体内に埋め込まれる複雑形状の医療機器等、に使用することが困難であった。また、上述した“セプラフィルム”等のように、濡れると取り扱い性が困難になるものが多く、取り扱い上の問題もあった。さらには、近年増加している内視鏡や腹腔鏡を用いた手術においては、シート状の癒着防止材の取り扱い性はより一層困難となり、実質的に使用できないものと考えられている。
【0005】
そこで、適用利便性を向上させるために、液体状で供給して適用箇所で温度変化等の刺激によって形態や性質等を変化させることにより、例えば固体状となって保護、分離、補強、緩衝等の効果を発揮する材料、或いは、逆に固体状で供給して適用箇所で刺激により液体状に変化させて効果を発揮する材料が近年注目されている。例えば、温度応答性高分子を用いて内視鏡や腹腔鏡手術において室温で流動性のある液体として体内に供給し、患部付着後に体温で固体状に変化してバリア性を発揮する材料が研究され、創傷被覆材や外科手術時の癒着防止材、接着剤として使用する検討がされている(例えば、特許文献1)。
【0006】
このように注目される刺激応答性高分子としては、例えば温度応答性高分子が知られている。温度応答性高分子は、一般に水和状態にある高分子が、ある温度以上で脱水和して体積や形態、性質等が変化する下限臨界溶液温度(Lower Critical Solution Temperature;以下LCSTと略す)を示すものと、ある温度以上で水和することにより体積や形態、性質等が変化する上限臨界溶液温度(Upper Critical Solution Temperature;以下UCSTと略す)を示すものが知られている。UCSTを示すものとして、例えばN−アセチルアクリルアミドとアクリルアミドとの共重合体等(例えば、特許文献2)、LCSTを示すものとして、例えばN−イソプロピルアクリルアミド (NIPAM)のホモポリマーまたはコポリマー(例えば、特許文献3)や、ポロキサマー等が知られている。特に、ポリN−イソプロピルアクリルアミド(PNIPAM)系化合物は、体温に近い32℃付近で膨潤−収縮の体積転移により固体状のゲルを形成することから、医療材料をはじめ広く研究が行われている(例えば、特許文献4)。
【0007】
しかし、これらのような刺激応答性高分子は、確かに適用利便性に優れるものの、一般に固体状(ゲル)の弾性や強度等が低いため、用途に要求される力学特性が十分でない問題があった。例えば、癒着防止材としてはバリア性が十分でない問題があった。その他にも例えば、医療分野では、通常、生体内の臓器と異なる力学的な特性を有する人工材料を埋植すると、生体内で力学的性質の違いに起因する生体反応が起こることが知られており、生体内の臓器と同等の高い力学的な特性を有する材料が求められている。また、アクチュエーターとする場合、ゲルはアクチュエーターに掛かる抗力に充分耐え得る力学的強度を有している必要がある。
【0008】
そこで、力学特性の向上を目的とした様々な新規高分子の検討が行われている。例えば温度に応答してゲル化するポリ(エチレングリコール-block-(DL-乳酸-random-グリコール酸)-block-エチレングリコ−ル); (PEG-PLGA-PEG)トリブロック共重合体や、(PLGA-PEG-PLGA)トリブロック共重合体が検討されている(例えば、特許文献5)。さらには、分岐型ポリエーテルとポリエステルからなる分岐ブロック共重合体が検討されている(例えば、特許文献6)。
【0009】
しかし、これらの高分子材料も、力学特性を向上させるための官能基を導入すると、温度応答性基が相対的に減少し、刺激応答機能と、力学特性や各種用途に応じた要求特性(例えば、生分解性、生体適合性、低毒性等)とを、高次元で両立するものではなかった。
【0010】
このように、適用利便性と優れた力学特性を両立した刺激応答性材料は得られていないのが現状である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明でいう刺激応答性とは、光照射、電場印加、温度(熱)変化、pH変化、化学物質添加等の刺激に応答し、その刺激のある前とその刺激を受けた後との形状および/または性質等が変化する性質をいい、例えば膨張と収縮等の体積変化、液体状と固体状間の変化(ゾル−ゲル転移)、溶液から分散液への変化等の形状変化である。特に液体状と固体状間の変化(ゾル−ゲル転移)が、刺激応答前後の力学特性変化がより顕著であり、本発明の好ましい態様である。刺激応答性としては、特に、刺激応答前後における後述する方法で測定される貯蔵弾性率の差が、最大で10Pa以上であるものが好ましく、100Pa以上であることがより好ましく、1000Pa以上であることがさらに好ましい。
【0017】
本発明の実施態様に係る刺激応答性材料では、刺激応答性高分子と繊維との相互作用等によって、刺激応答性高分子単独の強度、弾性率、粘度、形態安定性等の力学特性を向上させる効果を奏する。本発明の実施態様に係る刺激応答性材料は刺激応答性を有することが必要であり、後述するように、刺激応答性高分子や繊維の濃度、比率、化学構造、形状等により刺激応答性を発揮させる。本発明でいう刺激応答性高分子とは、適正な濃度、条件とすることで刺激応答性を示す高分子である。刺激応答性高分子は、刺激応答前後で形状および/または性質等が変化するため、繊維による力学特性向上効果も変化しうる。例えば、刺激応答性高分子が水に対する下限臨界溶液温度(LCST)を有する温度応答性高分子の場合、臨界温度以下の流動性がある状態(ゾル)では力学特性向上効果が小さく流動性を維持するが、臨界温度以上となると力学特性が大きく向上するという特異な効果を発揮することもできる。そして、本発明の実施態様に係る医療材料、特に癒着防止材は刺激応答性を有し、刺激付与前後で、その形状および/または性質等が変化することで、例えば患部への供給時には流動性を保ちつつ、患部へ付着後には流動性を失って癒着防止材としての機能を発揮するという効果を奏することができる。
【0018】
本発明の実施態様に係る刺激応答性材料刺激応答性材料は25℃での貯蔵弾性率が100Pa未満であることが好ましい。100Pa未満であることによって、チューブ等の管状物やスプレー等の形状を有する機器でも、使用箇所に供給することや、逆に排出することが容易となる。そのため、50Pa以下であることがより好ましい。また、被膜効果や癒着防止効果等の種々の効果をより発揮させる点で、30〜60℃好ましくは30〜45℃での最大貯蔵弾性率が100Pa以上であることが好ましい。300Pa以上であることがより好ましく、1000Pa以上であることがさらに好ましい。この時の上限は特に限定されないが、一般に50000Pa以下となる。
【0019】
本発明でいう最大貯蔵弾性率とは、測定する範囲での貯蔵弾性率のうち、最大のものをいう。本発明における貯蔵弾性率(G´)は、パラレルプレートをプレート間隔1mmで取り付けた動的粘弾性測定装置に、測定するサンプル液を入れてから5分間静置後、応力4dyne/cm
2、昇温速度0.5℃/分、角速度1rad/sで測定した値を用いる。測定温度は、温度応答性高分子の場合は25〜60℃、温度応答性高分子以外の材料については、刺激前の測定温度を25℃とすると共に、刺激後に30〜60℃の温度範囲で測定する。
【0020】
本発明の実施態様に係る刺激応答性材料で好ましく使用される刺激応答性高分子として、例えば、温度応答性高分子としては、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド−アクリル酸)共重合体、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド−メチルメタクリレート)共重合体、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド−アクリル酸ナトリウム)共重合体、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド−ビニルフェロセン)共重合体、ポリ(ビニルメチルエーテル)、等のポリN−置換アクリルアミド誘導体やポリN−置換メタアクリルアミド誘導体、ヒアルロン酸を温度応答性高分子で共重合したヒアルロン酸誘導体、ポリアミノ酸誘導体、ポリデプシペプチド、α/β−アスパラギン誘導体から合成されたポリアスパラギン誘導体、ポリプロピレンオキサイド、プロピレンオキサイドと他のアルキレンオキサイドとの共重合体、ポリビニルメチルエーテル、ポリビニルアルコール部分酢化物、ポリアルキレンオキサイド等や、ポリ(エチレングリコール-block-(L-乳酸));(PEG-PLLA)ジブロック共重合体、ポリ(エチレングリコール-block-(D-乳酸));(PEG-PDLA)ジブロック共重合体、ポリ(エチレングリコール-block-(DL-乳酸));(PEG-PDLLA)ジブロック共重合体、(PEG-PLLA-PEG)トリブロック共重合体、(PEG-PDLA-PEG)トリブロック共重合体、(PEG-PDLLA-PEG)トリブロック共重合体、ポリ(エチレングリコール-block-DL-乳酸-random-グリコール酸-block-エチレングリコール);(PEG-PLGA-PEG)トリブロック共重合体、(PLLA-PEG-PLLA)トリブロック共重合体、(PDLA-PEG-PDLA)トリブロック共重合体、(PDLLA-PEG-PDLLA)トリブロック共重合体、(PLGA-PEG-PLGA)トリブロック共重合体、分岐構造を持つPEGとポリ乳酸からなる(分岐PEG-PLLA)ブロック共重合体、(分岐PEG-PDLA)ブロック共重合体、(分岐PEG-PDLLA)ブロック共重合体、(分岐PEG-PLGA)ブロック共重合体、ラクチドと多糖類との共重合体、ポリエーテルとポリエステルとの共重合体およびその誘導体等、ポリエーテルにポリエステルが共重合されたブロック共重合体、ヒドロキシアルキルキトサン、ヒドロキシ酸単位とアスパラギン酸単位にポリエーテル側鎖が導入された共重合体、あるいは、これらの誘導体や架橋した高分子、などが挙げられる。また、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロースなどのアルキル置換セルロース誘導体などのほか、セルロースに他の温度応答性高分子成分を共重合したセルロース誘導体の中には、高分子量タイプのものや置換基を導入すること等により温度応答性を示し、本発明に用いることができる。例えば、単純なカルボキシメチルセルロースは温度応答性を示さないものもあるが、カルボキシメチルセルロースやメチルセルロースにポリアルキレンオキシド等を共重合した誘導体は温度応答性を示しやすく、好ましい態様である。
【0021】
また、化学物質添加等の刺激に応答する高分子としては、電解質やイオン性物質と強イオン性高分子の組合せを用いることができ、例えば、ポリビニルスルホン酸の架橋物やその誘導体等と、カチオン性界面活性剤とを組み合わせが挙げられる。また、ジスルフィド架橋を有する酢酸セルロースを酸化と還元によって可逆的にゾル-ゲル転移させる例も挙げられる。
【0022】
湿度応答性高分子としては、例えばセルロースアセテートが挙げられる。
【0023】
光応答性高分子としては、例えばジアゾ化合物のような光によりシス-トランス転移する化合物を含有する高分子、紫外線でゲル化するカルボキシメチルセルロースに光反応性基を導入した高分子、放射線でゲル化するカルボキシメチルセルロース、等が挙げられる。
【0024】
pH応答性高分子としては、例えば電解質系高分子や塩基性基を有する高分子化合物を用いることができる。具体例としては、ポリアクリル酸の架橋物やその誘導体および金属塩、ポリアクリルアミド誘導体、ポリアルキルスルホン酸の架橋物やその誘導体および金属塩、カルボキシアルキルセルロース金属塩の架橋物、等が挙げられる。
【0025】
本発明の実施態様に係る刺激応答性材料では、これらに限定されるものではなく、種々の刺激応答性高分子を1種、又は2種以上組み合わせて用いることができる。化学結合による架橋反応により非可逆性を示す刺激応答性高分子は、副反応や未反応生成物の残留により、用途によって好ましくない結果を示すことがあるが、物理架橋等により可逆性を示す刺激応答性高分子はこのような懸念が少ない点で好ましい。
【0026】
上記刺激応答性高分子の内、特に医療材料に適している点で、温度応答性高分子であることが好ましい。温度応答性高分子としては、例えば、UCSTまたはLCSTが0〜80℃であるものが挙げられるが、それらに限定されない。本発明の実施態様に係る刺激応答性材料が好ましく使用される用途に適する点で、刺激応答性高分子がLCSTを有する温度応答性高分子であることが好ましい。ここで、臨界溶液温度とは、形状および/または性質を変化させる閾値温度、水和と脱水和の転移温度等をいい、LCSTを有する温度応答性高分子の場合、LCST以下では流動性がある状態(ゾル)、LCST以上では固体(ゲル)状態となる性質をもつ。臨界溶液温度は0〜80℃であるものが、室温付近での取り扱いが容易である点で好ましく、臨界溶液温度が20〜70℃であるものが、より好ましい。また、臨界溶液温度が20〜50℃であるものは、体温を外部刺激とした医療材料に適し、特に癒着防止効果を容易に発現できる点でさらに好ましい。具体例としては、上述した温度応答性高分子の例で示したとおりであるが、中でも、本発明の実施態様に係る刺激応答性材料の癒着防止材としては、生分解性であり、かつ、室温で液状体、体内で固体ゲル状体であることが、取り扱いが容易になるため好ましい。
【0027】
具体的な用途に応じて臨界溶液温度を調整することが好ましく、例えば、疎水性の高分子やモノマーを共重合させると、臨界溶液温度を低下させることができ、親水性の高分子やモノマーを共重合させると上昇させることができる。例えば、親水性高分子化合物として、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルアルコール、ポリN−ビニルピロリドン等が挙げられる。なお、刺激応答性材料の臨界温度は、用いる刺激応答性高分子の臨界温度に影響を受けるが、刺激応答性高分子単独よりも若干異なる場合があるので、適宜調整することが好ましい。
【0028】
これらの刺激応答性高分子の分子量は特に限定されないが、繊維の分散性を向上させる点では、数平均分子量が3,000以上のものを含むことが好ましく、1万以上のものを少なくとも含むことがより好ましい。
【0029】
刺激応答性高分子の刺激応答性材料に対する重量濃度は、刺激応答前後での形状および/または性質等の変化がより顕著に発揮できる点で、50wt%以下であることが好ましく、30wt%以下であることがより好ましく、20wt%以下であることがさらに好ましい。また、刺激応答性材料の力学特性を向上させる点で0.10wt%以上が好ましく、0.50wt%以上がより好ましく、1.0wt%以上がさらに好ましい。
【0030】
本発明の実施態様に係る刺激応答性材料で用いる繊維は、セルロース、キチン、キトサン、レーヨン、アセテート等の天然繊維や再生繊維、
半合成繊維、ポリアミドやポリエステル、ポリオレフィン等の合成繊維等、特に限定されるものではないが、品質の安定性、繊維直径の均一性、極細繊維の製造容易性、強度や設計の自由度の高さ、低コスト、安全性等の点で合成繊維であることが好ましい。例えば、セルロース繊維を叩解することにより極細フィブリルのセルロースナノファイバーを得ることができるが、繊維の直径が不均一で性能がばらつく傾向がある。また、合成繊維を構成する高分子としては、ポリエステルやポリアミド、ポリオレフィン、ポリフェニレンスルフィド、フェノール樹脂やポリアクリロニトリル、ポリビニルアルコール、ポリスルホン、フッ素系高分子やそれらの誘導体等を例示することができるが、特に限定されるものではない。
【0031】
ポリエステルとしてはポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、やその共重合体などが挙げられる。また、ポリアミドとしてはナイロン4、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、やその共重合体などが挙げられる。ポリオレフィンとしては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、やその共重合体などが挙げられる。繊維には微粒子、難燃剤、帯電防止剤等の配合剤を含有させてもよい。
【0032】
これらの中で、特にJIS L 1030−2(2005)に規定される公定水分率が0.5以上である繊維であることが、繊維分散性が良好である点で好ましい。例えば、ナイロンは4.5、アクリルは2.0、ポリ乳酸は0.5、であり好ましい態様である。逆に、ポリプロピレンや炭素繊維は0.0であり、分散性の点で好ましくなく、0.5未満の繊維の場合、例えば繊維表面の酸化、グラフト、親水成分の共重合やブレンド、等により改質することが好ましい。勿論、0.5以上の繊維に対して改質することも、分散性向上等の観点から好ましい。
【0033】
また、本発明の実施態様に係る刺激応答性材料の繊維は、数平均による単繊維の直径(数平均直径)が1〜900nmである。700nm以下であることが好ましく、500nm以下であることがより好ましく、200nm以下であることがさらに好ましい。900nm以下とすることで、繊維の分散性が向上するとともに、繊維と刺激応答性高分子との相互作用がより顕著となり、高い力学特性向上効果を発揮する。例えば、一般に衣料用途等で市販される繊維の繊度(0.5〜5デシテックス、ナイロン6(密度1.14)の場合、直径約7.5〜23.6μm)では、繊維はむしろ力学特性を減少させる方向に働く傾向がある。一方、直径の下限は特に限定されないものの、1nm以上であることが取り扱い性に優れ、力学特性向上効果が発揮しやすい点で好ましい。
【0034】
繊維長は特に限定されないが、繊維の分散性が優れる点で、10.0mm以下であることが好ましく、5.0mm以下であることがさらに好ましい。また、取り扱い性や刺激応答性材料の力学特性が向上する点で、0.01mm以上が好ましく、0.1mm以上がより好ましい。また、力学特性向上効果が優れる点で、長さを直径で割った値(L/D)が200以上であることが好ましく、1000以上であることがより好ましい。逆に、分散性に優れる点でL/Dが100000以下であることが好ましく、10000以下であることがより好ましい。
【0035】
ここで、本発明でいう単繊維数平均直径や繊維長は、以下の方法で求めた値を用いる。まず、試料をサンプリングして60℃で乾燥し、走査型電子顕微鏡(SEM)又は光学顕微鏡で観察して、無作為に30本の単繊維直径、繊維長を測定する。このサンプリングと観察を10回繰り返し、合計300本の単繊維直径、繊維長のデータからその単純平均値を求めた値とする。なお、繊維長については、繊維長が5.0mm以上の場合はJIS L 1015(2010)8.4.1C法により測定した。
【0036】
合成繊維の製造方法は特に限定されず、例えば、直接紡糸法のほか、海島型複合紡糸やブレンド、アロイ等の複合紡糸法等で得ることができる。また、溶液紡糸、溶融紡糸、静電紡糸、等いずれの方法でも、特に限定されるものではない。この中で、海島型複合溶融紡糸法が、低コストと直径の均一性、の点で好ましい方法である。
【0037】
また、セルロース繊維は植物(例えば木材、綿、竹、麻、ジュート、ケナフ、農地残廃物)、動物(例えばホヤ類)、藻類、微生物(例えば酢酸菌(アセトバクター))などを由来とするもの等、特に限定することなく使用できる。入手が容易である点から、植物由来のセルロース繊維であることが好ましい。セルロース繊維は公知の方法で微細化したものを使用することができ、例えば、リファイナーや高圧ホモジナイザー、媒体撹拌ミル、石臼、グラインダー、ウォータージェット等により磨砕ないし叩解することによって解繊または微細化する方法、あるいはそれらを酸加水分解などの化学処理により精製する方法、微生物によって産生する方法、湿式で離解した後、酵素を作用させつつ、蒸煮処理、物理的処理による微細繊維化によって作製する方法、あるいは、再生セルロース繊維または精製セルロース繊維を静電紡糸法によって作製する方法、などが挙げられる。
【0038】
キチン繊維は生物から抽出する方法や、合成または半合成で得た高分子を繊維にすることで得られる。カニやエビなどの甲殻類の殻などに大量に含まれるキチン繊維は、単繊維直径が10〜20nm程度であり、繊維長も数mmと比較的長い繊維長を有し、高い力学特性が得られる点で好ましく用いられる。甲殻類の殻からからキチン繊維を抽出する方法としては、例えば、甲殻類の殻をミルで粉砕し、アルカリと混合して十分に撹拌、洗浄し、続けて酸と混合して十分に撹拌、洗浄する方法や、市販の精製キチン粉末に酢酸を加え、グラインダーで粉砕する方法など、公知の方法で製造することができる。
【0039】
本発明の実施態様に係る刺激応答性材料の繊維は、水または刺激応答性高分子、あるいは、水と刺激応答性高分子の複合体に分散して存在する。これにより、刺激応答性高分子との相互作用によって力学特性が向上したり、刺激応答前後での形状または性質等を変化したりすることができる。本発明でいう分散とは、不織布や紙、スポンジのように繊維が交絡や接着等によって独立した構造体を形成していない状態をいい、これにより刺激応答性高分子と繊維と水からなる材料は、刺激を与える前または後に、流動性を示すこともできる。分散形態は、主として単繊維が分散した状態であることが分散安定性や力学特性の点で好ましいが、繊維束や、繊維集合体(例えば100μm以下)の状態で分散しているものであっても良いし、一部に含んでいても良い。
【0040】
繊維の分散性の評価方法については特に限定されないが、たとえば、刺激応答性材料の任意の箇所を光学顕微鏡やマイクロスコープで観察し、その画像を各ブロックに分割して単繊維の本数を数え、各ブロック間の繊維本数のばらつきによって分散性を評価することができる。
【0041】
繊維の重量濃度は、刺激応答前後での形状および/または性質等の変化がより顕著に発揮できる点で、10wt%以下であることが好ましく、5.0wt%以下であることがより好ましく、3.0wt%以下であることがさらに好ましい。また、刺激応答性材料の力学特性を向上させる点で、0.01wt%以上が好ましく、0.10wt%以上がより好ましく、0.50wt%以上がさらに好ましい。
【0042】
本発明の実施態様に係る刺激応答性材料の刺激応答性高分子と繊維との重量比率(刺激応答性高分子/繊維)は5〜100であることが好ましい。重量比率を100以下とすることにより、刺激応答性高分子に対して繊維が適度に分散して、力学特性を向上させることができる。また、重量比率を5以上とすることにより、繊維による力学特性向上効果が顕著になる。重量比率は7〜50がより好ましく、10〜30がさらに好ましい。また、重量比率が1以下である場合、繊維同士の絡まりや刺激応答性高分子の寄与の減少等によって刺激応答性高分子と繊維と水からなる材料が刺激応答性を示さない場合がある。
【0043】
繊維を分散させる方法としては、高速ブレンダー、ヘンシェルミキサー、スーパーミキサー、ホモジナイザーなどを用いて物理的撹拌をすることによって分散させる方法や、超音波分散機などによる超音波振動によって分散させる方法など、公知の方法を採用することが可能である。また、繊維を分散させる際に界面活性剤を添加しておくと繊維の分散性が向上するため好ましい。
【0044】
本発明でいう基本化学構造は刺激応答性高分子又は繊維において、単数又は複数存在してもよい。基本化学構造とは、高分子を構成する構成単位をいい、例えば、ポリ乳酸であれば乳酸単位(−O−CH(CH
3)−CO−)、ポリプロピレンであればプロピレン単位(−CH
2−CH(CH
3)−)、ポリエチレンテレフタレートであればテレフタル酸とエチレングリコール単位(−O−CO−C
6H
6−CO−O−CH
2CH
2−)またはグリコール単位(−CH
2CH
2−O−)、6ナイロンであればナイロン6単位(−CH
2CH
2CH
2CH
2CH
2−CO−NH−)またはアミド単位(−CO−NH−)、ポリエチレングリコールであればグリコール単位(−CH
2CH
2−O−)、ポリ(N−イソプロピルアクリルアミド)であればN−イソプロピルアクリルアミド単位(−CH
2CH(CO−NH−CH(CH
3)
2)−)またはアミド単位(−CO−NH−)、セルロースであればグルコース単位、キチンであればグルコサミン単位またはアミド単位(−CO−NH−)のような構成単位をいう。主鎖を構成する単位であることが好ましいが、化学修飾等によって主鎖に導入された側鎖であってもよい。
【0045】
溶解度パラメータ(SP値)とは物質の溶解性や親水・疎水性を表わす物質固有のパラメータである。本発明でいうSP値は、Fedorsの方法[Fedors,R.,Polymer Eng. Sci., 14, 147(1974)]によって決定することができる。Fedorsの方法では、SP値は凝集エネルギー密度とモル分子容の両方が置換基の種類および数に依存していると考え、数式(1)によって算出する。
【0048】
(ここで、ΣE
cohは凝集エネルギーを、ΣVはモル分子容を示す)
【0049】
基本化学構造が2種類以上のセグメントで構成される場合は、数式(2)に示すように、分子全体の数平均分子量に対する各基本化学構造の数平均分子量の分率に、各基本化学構造の溶解度パラメータを乗じ、その総和をSP値とする。
【0052】
(ここで、式中δは溶解度パラメータ、Mn
kは各基本化学構造の数平均分子量、Mnは分子全体の数平均分子量、δ
kは各基本化学構造の溶解度パラメータを表す。)
【0053】
また、基本化学構造が2種類以上の複数含まれる場合は、少なくとも1種の基本化学構造を特定して得たSP値を用いることができるが、数式(3)に示すように、各基本化学構造の数平均分子量の分率に、各基本化学構造のSP値を乗じ、その総和を本発明の実施態様に係る刺激応答性材料のSP値とすることもできる。
【0056】
(ここで、式中δは溶解度パラメータ、Mn
kは各基本化学構造の数平均分子量、Mnは数平均分子量、δ
kは各基本化学構造の溶解度パラメータを表す。)
【0057】
刺激応答性高分子における基本化学構造のSP値の少なくとも1種と、繊維における基本化学構造のSP値の少なくとも1種とのSP値差が0〜10であると、刺激応答性高分子と繊維との相互作用が大きくなったり、繊維の分散性が向上したりする効果が得られるため、好ましい。SP値差が0〜5であることがより好ま
しく、0〜1.5であるとさらに好ましい。なお、アミド基(−NH−CO−)等のように、(−NH−CO−)単位の場合と、(−NH−)単位と(−CO−)単位に分けた場合とで、異なる計算値が生じる場合があるが、この場合は少なくとも1つの場合における計算結果において、SP値差が上記範囲に入ることが好ましい。SP値は小数第2位を四捨五入して求め、SP値差は刺激応答性高分子と繊維のそれぞれについてSP値を求めて、その差の絶対値とした。
【0058】
本発明の実施態様に係る刺激応答性材料では、繊維との相互作用が強いという観点から、刺激応答性高分子と繊維が共通する基本化学構造を有することが好ましい。基本化学構造がアミド単位、ヒドロキシ酸単位、グルコース単位を組成の一部に含むことがより好ましく、力学特性向上効果が顕著である点でアミド単位を含むものがさらに好ましく、一方で生分解性を有し医療材料に適する点では脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位を含むものがさらに好ましい。脂肪族ヒドロキシカルボン酸単位としては、例えば、乳酸単位(−O−CH(CH
3)−CO−)、グリコール酸単位(−O−CH
2−CO−)、グリセリン酸単位(−O−CH
2−CH(OH)−CH
2−)、ヒドロキシ酪酸単位(−O−CH(CH
3)−CH
2−CO−)、リンゴ酸単位(−O−CH(COOH)−CH
2−CO−)、等が挙げられるが、特に限定されるものではなく、単独又は2種以上混合して用いることができる。不斉炭素原子を有し、光学異性体が存在する化合物の場合には、そのいずれも用いることができる。具体的には、ポリN−置換アクリルアミド誘導体、ポリN−置換メタアクリルアミド誘導体、特にPNIPAM系刺激応答性高分子と、ナイロン等のポリアミド繊維やキチン繊維との組合せは、共通するアミド結合を有することで優れた力学特性向上効果を奏し、好ましい態様である。また、ともにヒドロキシカルボン酸単位、特に乳酸単位を有する刺激応答性高分子と繊維(ポリ乳酸繊維やポリグリコール酸繊維等)との組み合わせであれば、生分解性と高い力学特性を両立することが可能になり、医療材料用途、特に癒着防止材用途に適した材料とすることができる。先にあげたキチン繊維も生分解性を有し、医療材料用途に適した材料とすることができる。ポリ乳酸は2分子のヒドロキシカルボン酸が脱水縮合してできたラクチドの開環重合で得ることが出来、ラクチドはL体ラクチド、D体ラクチド、DLラセミ体ラクチドを含み、ラクチドと他のモノマーとの共重合体やマルチブロック共重合体、グラフト共重合体などを用いることができる。
【0059】
繊維による刺激応答性高分子の力学特性向上効果については、上述したように刺激応答性高分子と繊維とのSP値差が小さいものや、共通する基本化学構造を有するもの、表面自由エネルギーが大きいもの、繊維の繊維長/繊維直径(L/D)が大きいものほど大きくなる傾向にある。
【0060】
本発明の実施態様に係る刺激応答性材料は、刺激応答性高分子と繊維と、さらに水とからなる。刺激応答性高分子は、刺激応答前後の少なくともいずれかの状態で、水に分散および/または溶解することが好ましい。
【0061】
また、刺激応答性高分子や繊維を水に分散または溶解させるために、界面活性剤を含むことが好ましい。界面活性剤としては、アニオン系またはノニオン系が好ましい。さらに、必要に応じて、防腐剤、分散安定剤、電解質等種々添加することもできる。界面活性剤を含むことにより、力学特性が向上する効果も期待できる。界面活性剤の分子量は、大きいほど繊維に吸着した界面活性剤同士の立体反発の効果等により分散性を向上させることができるため好ましく、界面活性剤の数平均分子量が10,000〜100,000であることが好ましく、30,000〜100,000であることがより好ましい。また、界面活性剤濃度は繊維に対して1〜500wt%含むのが好ましく、10〜300wt%含むのがより好ましい。
【0062】
本発明の実施態様に係る刺激応答性材料は可逆性でも非可逆性であってもよい。繊維が含まれることにより、刺激応答性材料から水分が蒸発した際にも形状を維持することも可能である。
【0063】
本発明の実施態様に係る刺激応答性材料は、高い力学特性を有することから特に被覆用に適した材料である。本発明でいう被覆用とは、対象となる部位を覆いかぶせる用途や接着、シールであれば、特に限定されず、例えば、被膜材、シール材、接着材、医療材等の呼称で用いられる。具体的には、例えば、創傷被覆材、癒着防止材、外科用接着剤、シーリング材などの医療用材料、ファンデーション、整髪料等の化粧品、接着剤、コーティング材、ペンキ等の工業製品等に好ましく使用することができる。中でも、液体状で患部に供給し、刺激によって高い力学特性を持つ固体状に変化させることが可能であるという点で、医療材料に用いることは特に有用な態様である。医療材料の中でも癒着防止材は、複雑形状部位への適用容易性に加え、開腹手術や腹腔鏡、内視鏡手術等の外科手術において適用利便性に優れた効果を発揮しうる点で、特に好ましい態様である。
【実施例】
【0064】
実施例中の物性値は以下の方法で測定した。
【0065】
A.高分子の溶融粘度
東洋精機キャピログラフ1Bにより高分子の溶融粘度を測定した。なお、サンプル投入から測定開始までの高分子の貯留時間は10分とした。
【0066】
B.融点
Perkin Elm
er DSC−7を用いて2nd runで高分子の融解を示すピークトップ温度を高分子の融点とした。この時の昇温速度は16℃/分、サンプル量は10mgとした。
【0067】
C.断面観察
透過型電子顕微鏡(TEM)(日立社製H−7100FA型)により、繊維の横断面方向に超薄切片を切り出して観察した。ナイロンはリンタングステン酸で金属染色した。
【0068】
D.繊維の状態観察
繊維分散液をサンプリングしてガラス板上にのせ、マイクロスコープ(キーエンス(株)製)にて200倍で観察した。
【0069】
E.単繊維数平均直径
試料を60℃で乾燥した後、SEM観察して単繊維直径を測定し、その単純平均値を求めた。この時、平均に用いる測定数は、5mm角のサンプル内で無作為抽出した30本の単繊維直径を測定し、さらに、サンプリングを10回行い各30本の単繊繊維直径のデータを取り、合計300本の単繊維直径のデータから単純平均して求めた。異形断面の繊維場合は、まず、単繊維の断面積を測定し、その面積を仮に断面が円の場合の面積に換算する。該面積から単繊維数平均直径が算出求められる。ここで、単繊維直径のは、300本の単繊維の直径をnm単位で小数点の1桁目まで写真から測定し、平均値の1桁目を四捨五入した。
【0070】
F.繊維長
JIS L 1015(2010)8.4.1C法により測定した。測定結果が5.0mm未満のものについては、以下の方法により得られた値を用いた。
【0071】
試料を60℃で乾燥した後、SEM観察または光学顕微鏡で繊維長を測定し、その単純平均値を求めた。この時、平均に用いる測定数は、無作為抽出した30本の繊維長を測定し、さらに、サンプリングを10回行い各30本の単繊
維の繊維
長のデータを取り、合計300本の繊維長のデータから単純平均して求めた。屈曲している繊維は、できるだけ伸ばしてから測定した。ここで、繊維長は、300本の単繊維の繊維長をmm単位で小数点の2桁目まで写真から測定し、1桁目にまるめた。
【0072】
G.貯蔵弾性率(G´)
粘弾性を測定はAnton Paar製レオメーター“Physica MCR301”(登録商標)を用いて行った。測定条件を以下に示す。
・プレート: パラレルプレート(φ25mm)
・プレート間隔: 1mm
・応力: 4dyne/cm
2
・角周波数: 1rad/s
【0073】
H.繊維の分散性評価
繊維分散液をサンプリングしてガラス板上にのせ、マイクロスコープ(キーエンス(株)製)にて20倍で観察した。
【0074】
I.SP値の計算
基本化学構造の溶解度パラメータは前記Fedorsの方法を用いて、その単位を(J/cm
3)
1/2で算出し、
小数第2位を四捨五入して小数第1位まで求めた。SP値差は、刺激応答性高分子と繊維のSP値をそれぞれ求めた後、その差の絶対値から算出した。
【0075】
J.癒着防止効果
ラットをペントバルビタールナトリウムで麻酔した後、腹部を切開し盲腸を露出させた。盲腸の表面をキムワイプで拭って乾燥させた後、40%エタノール水溶液を含んだ濾紙(1cm×1cm)を露出した盲腸の上に貼付し5分間放置した。濾紙を取り除いた後に、濾紙を貼付した部分に相対する奬膜(5mm×5mm)を傷つけた。切開部の筋層および皮膚を縫合し、縫合部分をポピドンヨードで消毒した。2ヶ月飼育後、開腹すると下記のスコア3に相当する癒着が形成されていた。
【0076】
肉眼的観察による癒着スコア
スコア0:癒着が認められない状態
スコア1:筋層をつまみ上げれば切れる程度の弱い癒着がある状態
スコア2:筋層と盲腸とを引き剥がせる程度の中程度の癒着がある状態
スコア3:筋層と盲腸とを引き剥がすのが困難な癒着がある状態
【0077】
上記モデルを使用して癒着防止効果を評価した。2.5mLのシリンジに組成物を1mL採取し、エタノール水溶液を含む濾紙を貼付した部分に、シリンジ内の組成物を20ゲージ平針を通して塗布した。2ヶ月後の開腹時点では、どの組成物についても腹腔内には肉眼的に見える断片は残存していなかった。2ヶ月後の癒着防止効果を評価した。
【0078】
<試験例1>
【0079】
実施例1
溶融粘度500Pa・s(262℃、剪断速度121.6sec
−1)、融点220℃のナイロン6(N6)(50wt%)と、溶融粘度310Pa・s(262℃、剪断速度121.6sec
−1)、融点225℃のイソフタル酸を8mol%、ビスフェノールAを4mol%共重合した融点225℃の共重合ポリエチレンテレフタレート(PET)(80wt%)とを、2軸押し出し混練機を用い260℃で混練してb
*値=4の高分子アロイチップを得た。なお、この共重合PETの262℃、1216sec
−1での溶融粘度は180Pa・sであった。この高分子アロイ溶融体を濾過した後、口金面温度262℃で溶融紡糸して、120dtex−12フィラメントの複合繊維を得た。得られた高分子アロイ繊維の横断面をTEMで観察したところ、N6が島成分(丸い部分)、共重合PETが海(他の部分)の海島成分構造を示していた。
【0080】
得られた複合繊維を水酸化ナトリウム水溶液で海成分を除去した後、ギロチンカッターを用いて繊維長1.00mmにカットした。ここで得られた繊維の断面を観察したところ、単繊維数平均直径は120nmであった。
【0081】
次いで、得られた繊維と水をナイアガラビーターに投入して叩解し、PFIミルでさらに叩解して、10wt%の繊維と水の混合物を得た。さらに、この混合物5.5gとノニオン系界面活性剤(ポリオキシエチレンスチレンスルホン化エーテル、数平均分子量1万)と水を加えて離解機に入れ、繊維を水に分散させた。
【0082】
このようにして得た繊維分散液に、ポリN−イソプロピルアクリルアミド(PNIPAM)(アルドリッチ(株)製、分子量2〜2.5万)を加えて、刺激応答性材料を得た。この時の刺激応答性材料の繊維重量濃度は1.0wt%、数平均
単繊維直径は120nm、L/Dは8333、界面活性剤の重量濃度は1.0wt%、PNIPAMの重量濃度は10wt%である。
【0083】
得られた刺激応答性材料は、25℃で流動性を有し、貯蔵弾性率は20Paであった。加熱すると約35℃では固体ゲル状となった。また、40℃に加熱した標準寒天培地の上に滴下して形状変化を観察したところ、流動性を示さず固体ゲル状に変化した。30〜60℃における最大貯蔵弾性率は、約37℃で10789Paを示した。得られた結果は表1に記載した。
【0084】
なお、N6のSP値は(−(CH
2)
6−CONH−)単位から計算して25.4、PNIPAMのSP値は(−CH
2−CH−CONH−CH(CH
3)
2−)単位から計算して24.6であり、SP値差は0.8であった。
【0085】
実施例2
PNIPAMの代わりに、メチルセルロース(MC)(信越化学(株)製 “メトローズSM4000”)を、重量濃度を変えて加えた以外は、実施例1と同様に行った。この時の複合材料の繊維重量濃度は1.0wt%、数平均
単繊維直径は120nm、L/Dは8333、界面活性剤の重量濃度は1.0wt%、MCの重量濃度は2.0wt%である。PNIPAMと比較して、繊維と刺激応答性高分子との相互作用が小さいためか、力学特性向上効果は実施例1と比較して小さいものであった。得られた刺激応答性材料は、25℃で流動性を有し、貯蔵弾性率は57Paであった。加熱すると約60℃では固体ゲル状となり、30〜60℃の最大貯蔵弾性率は60℃で2920Paであった。なお、30〜45℃の最大貯蔵弾性率は45℃で157Paであった。また、70℃に加熱した標準寒天培地の上に付着させて形状変化を観察したところ、流動性を示さず固体ゲル状に変化した。得られた結果は表1に記載した。
【0086】
なお、MCのSP値は(−CH−CH(OCH
3)−CH(OH)−CH(O−)−CH(CH
2OH)−O−)単位から計算して31.4であり、SP値差は6.8であった。
【0087】
実施例3
ポリ乳酸(PLA)(70wt%)と共重合PET(エチレングリコールとジカルボン酸(テレフタル酸61.25mol%、イソフタル酸26.25mol%、5−スルホイソフタル酸一ナトリウム(SSIA)12.5mol%)とのランダム共重合体)(30wt%)をそれぞれ溶融し、海島分配型口金を用いて紡糸した後、4.4倍に延伸して68dtex−15フィラメントの海島複合繊維を得た。
【0088】
得られた海島複合繊維を検尺機で束ね、ギロチンカッターで繊維長1.0mmにカットし、70℃の水で5分間熱処理して海成分を溶解除去した。その後、水洗してPLA繊維を得た。ここで得られた繊維の断面を観察したところ、数平均単繊維直径は570nmであった。
【0089】
得られた繊維と水をナイアガラビーターに投入して叩解し、PFIミルでさらに叩解し、ふるい上にて繊維を回収し、繊維濃度8.4wt%の繊維と水の混合物を得た。さらに、この混合物23.8gとノニオン系界面活性剤(ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル)と水を加えて高速ブレンダーに入れ、13,900rpmで30分間処理し、繊維を分散させた。
【0090】
このようにして得た繊維分散液に、既知の方法(Macromol. Res., 10, 6(2002))を参考にして作製した刺激応答性高分子(PLA−PEG−PLA)トリブロック共重合体(Mn 4,420、PLA/PEG(w/w)=66/34)を加えて刺激応答性材料を得た。この時、繊維の数平均単繊維直径は570nm、L/Dは1754、繊維重量濃度は0.9wt%、刺激応答性高分子の重量濃度は15wt%、刺激応答性高分子/繊維比率は17、界面活性剤濃度は0.9wt%である。
【0091】
得られた刺激応答性材料は25℃で流動性を有し、貯蔵弾性率80Paであった。また、加熱すると固体ゲル状に変化した。30〜60℃における最大貯蔵弾性率は約33℃で380Paを示した。得られた結果を表1に記載した。
【0092】
なお、PLAのSP値は(−CH(CH
3)−CO−O−)単位から計算して22.8、刺激応答性高分子のSP値は(−CH(CH
3)−CO−O−)単位(SP値22.8)と(−(CH
2)
2−O−)単位(SP値19.2)が66/34の比率であるところから計算して21.6であり、SP値差は1.2であった。一方、刺激応答性高分子は繊維と共通する基本化学構造を有しており、SP値を主要な化学構造である(−CH(CH
3)−CO−O−)単位で計算すると22.8となってSP値差は0であった。
【0093】
実施例4
PLA繊維の濃度を0.6wt%にした以外は、実施例3と同様に行った。この時、複合材料の数平均単繊維直径は570nm、L/Dは1754、繊維重量濃度は0.6wt%、刺激応答性高分子の重量濃度は15wt%、刺激応答性高分子/繊維比率は25、界面活性剤濃度は0.9wt%である。
【0094】
得られた刺激応答性材料は25℃で流動性を有し、貯蔵弾性率17Paであった。また、30〜45℃における最大貯蔵弾性率は約35℃で135Paを示した。
【0095】
PLA繊維の濃度0.9wt%と比較して、繊維濃度が小さくなったためか、刺激応答性高分子の補強効果が十分でなく、最大貯蔵弾性率は実施例3と比較して小さいものであった。
【0096】
実施例5
実施例3と同様のPLA(70wt%)と共重合PET(30wt%)をそれぞれ溶融した。次いで、海島分配型口金を用いて紡糸し、4.4倍に延伸して45dtex−10フィラメントの海島複合繊維を得た。
【0097】
得られた海島複合繊維を検尺機で束ね、ギロチンカッターで繊維長1.5mmにカットし、70℃の水で5分間熱処理して海成分を溶解除去した。その後、水洗してポリ乳酸繊維を得た。ここで得られた繊維の断面を観察したところ、数平均単繊維直径は810nmであった。
【0098】
得られた繊維と水をナイアガラビーターに投入して叩解し、PFIミルでさらに叩解し、ふるい上にて繊維を回収し、繊維と水の混合物を得た。さらに、この混合物とノニオン系界面活性剤(ポリオキシエチレンスチレン化フェニルエーテル、数平均分子量1万)と水を加えて高速ブレンダーに入れ、13,900rpmで30分間処理し、繊維を分散させた。
【0099】
このようにして得た繊維分散液に、実施例3で用いた刺激応答性高分子(PLA−PEG−PLA)トリブロック共重合体を加えて刺激応答性材料を得た。この時、複合材料の数平均単繊維直径は810nm、L/Dは1852、繊維重量濃度は0.9wt%、刺激応答性高分子の重量濃度は15wt%、刺激応答性高分子/繊維比率は17、界面活性剤濃度は0.9wt%である。
【0100】
得られた刺激応答性材料は25℃で流動性を有し、貯蔵弾性率32Paであった。また、30〜60℃における最大貯蔵弾性率は約35℃で124Paを示した。
【0101】
繊維濃度は実施例3と同じであったが、数平均単繊維径が大きく、分散性が低下したためか、最大貯蔵弾性率は実施例3と比較して小さいものであった。
【0102】
実施例6
刺激応答性高分子としてポリ(N−イソプロピルアクリルアミド);(PNIPAM)(アルドリッチ(株)製、Mn2万〜2.5万)を量を変えて用いた以外は実施例3と同様に行った。この時、複合材料の数平均単繊維直径は570nm、L/Dは175
4、繊維重量濃度は0.9wt%、刺激応答性高分子の重量濃度は10wt%、刺激応答性高分子/繊維比率は11、界面活性剤濃度は0.9wt%である。
【0103】
得られた刺激応答性材料は25℃で流動性を有し、貯蔵弾性率70Paであった。また、加熱すると固体ゲル状に変化した。30〜60℃における最大貯蔵弾性率は約45℃で88Paであり、ゲル化後において最大貯蔵弾性率は向上し、PNIPAM単独よりも高い値を示したが、実施例3と比較すると小さいものであった。
【0104】
なお、PLAのSP値は(−CH(CH
3)−CO−O−)単位から計算して22.8、PNIPAMのSP値は(−CH
2−CH−CONH−CH(CH
3)
2−)単位から計算して24.6であり、SP値差は1.8であった。
【0105】
比較例1
繊維およびノニオン系界面活性剤を加えない以外は実施例1と同様に行った。水にPNIPAMを加え高分子材料を得た。この時のPNIPAMの重量濃度は10wt%である。得られた高分子材料は、25℃で流動性を有していたが、加熱すると約35℃では固体ゲル状となった。ただし、貯蔵弾性率は小さいものであった。
【0106】
比較例2
繊維およびノニオン系界面活性剤を加えない以外は実施例3と同様に行った。水に実施例3で用いた(PLA−PEG−PLA)トリブロック共重合体を加えて高分子材料を得た。この時、刺激応答性高分子の重量濃度は15wt%である。得られた高分子材料は、25℃で流動性を有していたが、加熱すると固体ゲル状となった。ただし、30〜60℃における最大貯蔵弾性率は約34℃で47Paと小さいものであった。
【0107】
比較例3
繊維およびノニオン系界面活性剤を加えない以外は実施例7と同様に行った。水にMCを加え高分子材料を得た。この時のMCの重量濃度は2.0wt%である。得られた高分子材料は、25℃で流動性を有しており、加熱すると約60℃では固体ゲル状となったが、最大貯蔵弾性率は小さいものであった。
【0108】
比較例4
PNIPAMを加えない以外は実施例1と同様に行った。この時の繊維の重量濃度は1.0wt%である。得られた繊維分散材料は温度応答性を示さず、力学特性も非常に低いものであった。
【0109】
比較例5
繊維として、22デシテックス−20フィラメント(単糸繊度1.1デシテックス、直径11.1μm)のN6繊維を1.00mmにカットしたものに変えた以外は実施例1と同様に行った。この時の刺激応答性材料の繊維重量濃度は1.0wt%、界面活性剤の重量濃度は1.0wt%、PNIPAMの重量濃度は10wt%である。得られた刺激応答性材料は、25℃で流動性を有しており、加熱すると約35℃ではやや流動性を示すゲル状となったが、最大貯蔵弾性率は、PNIPAM単独よりも小さく、繊維による補強効果は確認できないことがわかった。
【0110】
比較例6
繊維を10wt%とした以外は比較例4と同様に処理した。この時の刺激応答性材料の繊維重量濃度は10wt%、界面活性剤の重量濃度は1.0wt%、PNIPAMの重量濃度は10wt%である。繊維は分散せずに分離し、温度応答性もほとんど示さなかった。また、貯蔵弾性率も測定することができなかった。
【0111】
比較例7
PLA繊維の代わりにシリカ粒子(直径約100nm)(“スノーテックスMP1040”日産化学(株)製)を1.0wt%加えた以外は、実施例3と同様に行った。その結果、最大貯蔵弾性率は刺激応答性高分子単独よりも低下することがわかった。
【0112】
<試験例2>
実施例3,5、比較例2で得られた材料を用いて癒着防止効果を評価した。結果は表2に示した。本発明の実施態様に係る刺激応答性材料は優れた癒着防止効果を発揮したが、刺激応答性高分子からなるゲル状物単独では、その効果を発揮することができなかった。
【0113】
【表1】
【0114】
【表2】