(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記突合工程では、一方の前記金属部材の側面と、他方の前記金属部材の端面とを突き合わせ、一方の前記金属部材の側面と他方の前記金属部材の側面とでなす内隅の角度がαである場合に、
前記内隅接合工程では、前記側面同士の交線に挿入された前記回転ツールの回転中心軸が、前記交線を通り前記側面とのなす角度がα/2となる仮想基準面と前記一方の前記金属部材の側面との間に位置することを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれか一項に記載の摩擦攪拌接合方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来の摩擦攪拌接合では、押さえブロック111を金属部材101,102に押圧しながら接合するため、押さえブロック111によって金属部材101,102が削れてしまうおそれがある。仮に、押さえブロック111を省略した状態で摩擦攪拌接合を行うと、塑性流動化した金属が外部に溢れ出てしまい接合不良となるおそれがある。
【0006】
このような観点から、本発明は、接合する際の金属部材の損傷を抑えるとともに、金属不足による接合不良を防ぐことができる摩擦攪拌接合方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
このような課題を解決するために本発明は、攪拌ピンを備えた回転ツールを用いて二つの金属部材を接合する摩擦攪拌接合方法であって、前記金属部材同士を角度をつけて突き合わせて突合せ部を形成する突合工程と、
前記突合せ部の両側にタブ材をぞれぞれ配置するタブ材配置工程と、前記突合工程で形成された前記金属部材同士の内隅に肉盛溶接を施して溶接金属で前記内隅を覆う肉盛溶接工程と、回転した前記攪拌ピンのみを前記溶接金属及び前記内隅に挿入し、前記溶接金属及び前記金属部材同士を塑性流動化させて前記突合せ部の摩擦攪拌接合を行う内隅接合工程と、を含
み、第一傾斜面と第二傾斜面とで構成される凹部を備える内隅接合用架台を準備し、前記突合工程では、二つの前記金属部材を前記凹部に沿って配置し、前記タブ材配置工程では、前記突合せ部の両側に前記凹部に沿って三角柱状の前記タブ材をそれぞれ配置することを特徴とする。
【0008】
また、本発明は、攪拌ピンを備えた回転ツールを用いて二つの金属部材を接合する摩擦攪拌接合方法であって、前記金属部材同士を角度をつけて突き合わせて突合せ部を形成する突合工程と、
前記突合せ部の両側にタブ材をぞれぞれ配置するタブ材配置工程と、前記突合工程で形成された前記金属部材同士の内隅に補助部材を配置する補助部材配置工程と、回転した前記攪拌ピンのみを前記補助部材及び前記内隅に挿入し、前記補助部材及び前記金属部材同士を塑性流動化させて前記突合せ部の摩擦攪拌接合を行う内隅接合工程と、を含
み、第一傾斜面と第二傾斜面とで構成される凹部を備える内隅接合用架台を準備し、前記突合工程では、二つの前記金属部材を前記凹部に沿って配置し、前記タブ材配置工程では、前記突合せ部の両側に前記凹部に沿って三角柱状の前記タブ材をそれぞれ配置することを特徴とする。
【0009】
かかる接合方法によれば、従来のように回転ツールに押さえブロックを用いず攪拌ピンのみを金属部材に接触させるため、接合する際の金属部材の側面の損傷を抑えることができる。また、金属部材同士の内隅に予め溶接を行って溶接金属を施すか、又は、補助部材を設けた状態で内隅接合工程を行うことで金属不足を補うことできるため、金属不足による接合不良を防ぐことができる。また、肉盛溶接工程を行う場合は、内隅接合工程を行う際の金属部材同士の目開きを防ぐことができる。
さらに、内隅接合用架台を用いることで、金属部材及びタブ材を凹部に配置するだけでよいため、突合工程及びタブ材配置工程を容易に行うことができる。また、内隅接合用架台を用いて肉盛溶接工程、補助部材配置工程又は内隅接合工程等を安定して行うことができる。
【0010】
また、前記突合せ部に対して前記金属部材同士の外隅側から摩擦攪拌接合を行う外隅接合工程を含むことが好ましい。
【0011】
かかる接合方法によれば、突合せ部の接合強度を高めることができる。
【0012】
また、前記外隅接合工程で形成された塑性化領域と、前記内隅接合工程で形成される塑性化領域とを重複させることが好ましい。
【0013】
かかる接合方法によれば、突合せ部の深さ方向の全体が摩擦攪拌されるため、気密性及び水密性を高めることができるとともに接合強度を高めるこができる。
【0014】
また、前記突合せ部に対して前記金属部材同士の外隅側から溶接を行う外隅接合工程を含むことが好ましい。
【0015】
かかる接合方法によれば、突合せ部の接合強度を高めることができる。
【0016】
また、前記外隅接合工程で形成された溶接金属と前記内隅接合工程で形成される塑性化領域とを重複させることが好ましい。
【0017】
かかる接合方法によれば、突合せ部の深さ方向の全体が摩擦攪拌されるため、気密性及び水密性を高めることができるとともに接合強度を高めるこができる。
【0018】
また、前記突合工程では、一方の前記金属部材の側面と、他方の前記金属部材の端面とを突き合わせ、一方の前記金属部材の側面と他方の前記金属部材の側面とでなす内隅の角度がαである場合に、前記内隅接合工程では、前記側面同士の交線に挿入された前記回転ツールの回転中心軸が、前記交線を通り前記側面とのなす角度がα/2となる仮想基準面と前記一方の前記金属部材の側面との間に位置することが好ましい。
【0019】
かかる接合方法によれば、一方の前記金属部材側に回転ツールを傾かせることで、突合せ部の深い位置まで攪拌ピンを挿入することができるため、突合せ部の深い位置まで接合することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る摩擦攪拌接合方法によれば、接合する際の金属部材の損傷を抑えるとともに、金属不足による接合不良を防ぐことができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。まずは、本実施形態で用いる本接合用回転ツール、大型回転ツール及び小型回転ツールについて説明する。
【0023】
本接合用回転ツールFは、
図1の(a)に示すように、連結部F1と、攪拌ピンF2とで構成されている。本接合用回転ツールFは、例えば工具鋼で形成されている。連結部F1は、
図1の(b)に示す摩擦攪拌装置の回転軸Dに連結される部位である。連結部F1は円柱状を呈し、ボルトが締結されるネジ孔B,Bが形成されている。
【0024】
攪拌ピンF2は、連結部F1から垂下しており、連結部F1と同軸になっている。攪拌ピンF2は連結部F1から離間するにつれて先細りになっている。攪拌ピンF2の外周面には螺旋溝F3が刻設されている。
【0025】
図1の(b)に示すように、本接合用回転ツールFを用いて摩擦攪拌接合をする際には、金属部材1,2に回転した攪拌ピンF2のみを挿入し、金属部材1,2と連結部F1とは離間させつつ移動させる。言い換えると、攪拌ピンF2の基端部は露出させた状態で摩擦攪拌接合を行う。本接合用回転ツールFの移動軌跡には摩擦攪拌された金属が硬化することにより塑性化領域W2が形成される。
【0026】
大型回転ツールGは、
図2の(a)に示すように、ショルダ部G1と、攪拌ピンG2とで構成されている。大型回転ツールGは、例えば工具鋼で形成されている。ショルダ部G1は、摩擦攪拌装置の回転軸に連結される部位であるとともに、塑性流動化した金属を押える部位である。ショルダ部G1は円柱状を呈する。ショルダ部G1の下端面は、流動化した金属が外部へ流出するのを防ぐために凹状になっている。
【0027】
攪拌ピンG2は、ショルダ部G1から垂下しており、ショルダ部G1と同軸になっている。攪拌ピンG2はショルダ部G1から離間するにつれて先細りになっている。攪拌ピンG2の外周面には螺旋溝G3が刻設されている。大型回転ツールGを用いて摩擦攪拌接合をする際には、回転した攪拌ピンG2及びショルダ部G1の下端面を金属部材1,2に挿入しつつ相対移動させる。
【0028】
小型回転ツールHは、
図2の(b)に示すように、ショルダ部H1と、攪拌ピンH2とで構成されている。小型回転ツールHは、本接合用回転ツールF及び大型回転ツールGよりも小型になっている。小型回転ツールHは、例えば工具鋼で形成されている。ショルダ部H1は、摩擦攪拌装置の回転軸に連結される部位であるとともに、塑性流動化した金属を押える部位である。ショルダ部H1は円柱状を呈する。ショルダ部H1の下端面は、流動化した金属が外部へ流出するのを防ぐために凹状になっている。
【0029】
攪拌ピンH2は、ショルダ部H1から垂下しており、ショルダ部H1と同軸になっている。攪拌ピンH2はショルダ部H1から離間するにつれて先細りになっている。攪拌ピンH2の外周面には螺旋溝H3が刻設されている。小型回転ツールHを用いて摩擦攪拌接合をする際には、回転した攪拌ピンH2及びショルダ部H1の下端面を金属部材1,2に挿入しつつ相対移動させる。
【0030】
<第一実施形態>
次に、本発明の第一実施形態に係る摩擦攪拌接合方法について説明する。第一実施形態では、突合工程と、タブ材配置工程と、外隅接合工程と、肉盛溶接工程と、内隅接合工程とを含んでいる。
【0031】
図3の(a)に示すように、突合工程は、金属部材1,2を突き合わせる工程である。突合工程では、接合すべき金属部材1の側面1bと金属部材2の端面2aとを突き合わせるとともに、金属部材1の端面1aと金属部材2の側面2cとが面一になるようにする。つまり、突合工程では、金属部材1,2を垂直に突き合わせ、側面視してL字状になるようにする。金属部材1,2が突き合わされた部位には、突合せ部J1が形成される。金属部材1,2は、摩擦攪拌可能な金属であればよいが、本実施形態ではアルミニウム合金を用いている。
【0032】
図3の(b)に示すように、タブ材配置工程は、金属部材1,2にタブ材3を配置する工程である。タブ材3は、本実施形態では直方体を呈し、金属部材1,2と同じ材料で形成されている。タブ材配置工程では、金属部材1,2の突合せ部J1の一端側にタブ材3を配置してタブ材3の側面を金属部材1の側面1d及び金属部材2の側面2dに当接させる。そして、タブ材3の表面3aと、金属部材1の端面1a及び金属部材2の側面2cとを面一にしつつ溶接により仮接合する。
【0033】
タブ材配置工程が終了したら、金属部材1,2及びタブ材3を図示せぬ摩擦攪拌装置の架台に載置し、クランプ等の図示せぬ治具を用いて移動不能に拘束する。
【0034】
外隅接合工程は、金属部材1,2の突合せ部J1を金属部材1,2の外隅側から摩擦攪拌接合する工程である。外隅接合工程では、大型回転ツールGを用いる。
図3の(b)に示すように、外隅接合工程では、タブ材3の表面3aに大型回転ツールGを挿入して金属部材1,2側へ相対移動させてそのまま突合せ部J1に進入し、金属部材1,2の外隅側(外隅を構成する面側)から突合せ部J1に対して摩擦攪拌接合を行う。
【0035】
外隅接合工程では、ショルダ部G1の下端面を金属部材1,2に押し込んだ状態で、大型回転ツールGを相対移動させる。大型回転ツールGの移動軌跡には、塑性化領域W1が形成される。突合せ部J1を接合したら、金属部材1,2からタブ材3を切削する。
【0036】
図4に示すように、肉盛溶接工程は、金属部材1,2の内隅に肉盛り溶接を施す工程である。肉盛溶接工程では、金属部材1,2の内隅(側面1bと側面2bとで構成される隅部)において、突合せ部J1を覆うように肉盛溶接を行う。肉盛溶接工程によって、突合せ部Jに沿って溶接金属Mが形成される。溶接金属Mは、本実施形態では金属部材1,2と同等の材料で形成されている。
【0037】
図5に示すように、内隅接合工程は、本接合用回転ツールFを用いて金属部材1,2の内隅を接合する工程である。本実施形態に係る内隅接合工程では、まず、
図5の(a)に示すように、金属部材1,2の外隅を構成する面に裏当材Tを配置する。
【0038】
裏当材Tは、断面L字状を呈する金属製の部材であって、金属部材1の側面1c、端面1a及び金属部材2の側面2cに接触させる。そして、金属部材1,2及び裏当材Tを図示せぬ摩擦攪拌装置の架台に載置し、クランプ等の図示せぬ治具を用いて移動不能に拘束する。
【0039】
次に、内隅接合工程では、金属部材1,2の内隅に回転した本接合用回転ツールFを挿入し、突合せ部J1に対して摩擦攪拌接合を行う。内隅接合工程では、
図5の(a)及び(b)に示すように、本接合用回転ツールFの連結部F1と金属部材1,2とを離間させて、攪拌ピンF2のみを溶接金属Mから突合せ部J1に挿入する。本接合用回転ツールFの移動軌跡には塑性化領域W2が形成される。
【0040】
内隅接合工程では、
図5の(b)に示すように、本接合用回転ツールFの回転中心軸Fcを傾けて摩擦攪拌接合を行う。つまり、内隅接合工程では、側面1bと側面2bとの交線C1に挿入された本接合用回転ツールFの回転中心軸Fcが、交線C1を通り側面1bと側面2bとのなす角度がα/2(本実施形態ではα=90°)となる仮想基準面Cと金属部材1の側面1bとの間に位置するように設定する。また、内隅接合工程では、内隅接合工程で形成された塑性化領域W2と、外隅接合工程で形成された塑性化領域W1とが突合せ部J1上で重複するように設定する。なお、回転中心軸Fcの位置は、側面1b及び仮想基準面Cに重なる位置は含まない。
【0041】
以上説明した本実施形態に係る摩擦攪拌接合によれば、金属部材1,2の内隅を接合する内隅接合工程において、従来のように押さえブロックを用いずに、攪拌ピンF2のみを金属部材1,2に接触させるため、接合する際の金属部材1の側面1b及び金属部材2の側面2bの損傷を抑えることができる。また、従来のように押さえブロックを用いないため、接合部分を視認することができる。これにより、接合状況等を把握することができるため作業性を高めることができる。
【0042】
また、本実施形態では肉盛溶接を施した後に、肉盛溶接で形成された溶接金属Mを介して内隅接合工程を行うことで、金属部材1,2に加えて溶接金属Mも塑性流動化されるため、金属不足を補うことができる。これにより、金属不足による接合不良を防ぐことができる。また、内隅接合工程の前に肉盛溶接を行うことで、内隅接合工程を行う際の金属部材1,2の目開きを防ぐことができる。
【0043】
また、本実施形態では金属部材1,2の外隅からも突合せ部J1に対して摩擦攪拌接合を行うため、接合強度を高めることができる。また、本実施形態では、突合せ部J1上において、外隅接合工程で形成された塑性化領域W1と内隅接合工程で形成された塑性化領域W2を重複させているため、突合せ部J1の深さ方向の全体が摩擦攪拌される。これにより、接合部の気密性及び水密性が向上するとともに、接合強度をより高めることができる。
【0044】
また、本実施形態では、肉盛溶接工程に先だって、外隅接合工程で金属部材1,2の外隅側を接合しているため、肉盛溶接工程を行う際の金属部材1,2の目開きを防ぐことができる。
【0045】
また、内隅接合工程では、一方の金属部材1側に本接合用回転ツールFを傾かせることで、例えば、
図5の(b)に示す仮想基準面Cに沿って攪拌ピンF2を挿入する場合、つまり、垂直である金属部材1,2に対して側面1b,2bと回転中心軸Fcとのなす角度が45°となるように挿入する場合に比べて、突合せ部J1の深い位置まで攪拌ピンF2を挿入することができる。これにより、突合せ部J1の深い位置まで接合することができる。
【0046】
以上本発明の第一実施形態について説明したが、適宜設計変更が可能である。例えば、本実施形態では、外隅接合工程を行った後に内隅接合工程を行ったが、内隅接合工程を行った後に外隅接合工程を行ってもよい。
【0047】
また、外隅接合工程を行う前に、小型回転ツールHを用いて、金属部材1,2の外隅から突合せ部J1に対して摩擦攪拌により仮接合を行ってもよい。又は、外隅接合工程を行う前に、金属部材1,2の外隅から突合せ部J1に対して溶接により仮接合を行ってもよい。これにより、外隅接合工程を行う際に金属部材1,2の目開きを防ぐことができる。
【0048】
また、外隅接合工程は、本実施形態では大型回転ツールGを用いたが、本接合用回転ツールFを用いて行ってもよい。これにより、摩擦攪拌装置に大きな負荷がかからない状態で、突合せ部J1の深い位置まで摩擦攪拌を行うことができる。
【0049】
<第二実施形態>
次に、本発明の第二実施形態に係る摩擦攪拌接合方法について説明する。第二実施形態では、突合工程、外隅接合工程、肉盛溶接工程、内隅接合工程を含むものである。第二実施形態では、溶接により外隅接合工程を行う点で第一実施形態と相違する。
【0050】
突合工程は、第一実施形態と略同等であるため説明を省略する。外隅接合工程は、
図6の(a)に示すように、金属部材1,2の外隅側から突合せ部J1に対して溶接を行う工程である。外隅接合工程によって、突合せ部J1には溶接金属M1が形成される。
【0051】
図6の(b)に示すように、肉盛溶接工程及び内隅接合工程は、第一実施形態と略同等であるため説明を省略する。第二実施形態に係る摩擦攪拌接合方法では、突合せ部J1に隙間Sが形成されることを除いては、第一実施形態と略同等の効果を奏することができる。また、肉盛溶接工程を行う前に金属部材1,2の外隅を溶接で接合するため、肉盛溶接工程の際の金属部材1,2の目開きを防ぐことができる。
【0052】
なお、本実施形態では、溶接によって外隅接合工程を行ったが、小型回転ツールHを用いて金属部材1,2の外隅側から突合せ部J1に対して摩擦攪拌によって外隅接合工程を行ってもよい。
【0053】
また、
図6の(b)に示すように、第二実施形態では、溶接金属M1と塑性化領域W2との間に隙間Sが生じているが、外隅接合工程で金属部材1,2の外隅に形成される溶接金属M1又は小型回転ツールHの移動軌跡に形成される塑性化領域(図示省略)と、内隅接合工程で形成される塑性化領域W2とを重複させることが好ましい。これにより、突合せ部J1の隙間Sを埋めることができるため、水密性及び気密性を高めることができるとともに、接合強度を高めることができる。
【0054】
<第三実施形態>
次に、本発明の第三実施形態に係る摩擦攪拌接合方法について説明する。第三実施形態では、突合工程と、タブ材配置工程と、外隅接合工程と、補助部材配置工程と、内隅接合工程とを含んでいる。
【0055】
図7の(a)に示すように、突合工程は、第一実施形態と略同等であるため、説明を省略する。タブ材配置工程は、金属部材1,2にタブ材4を配置する工程である。タブ材4は、本実施形態では三角柱状を呈し、金属部材1,2と同じ材料で形成されている。タブ材4の断面は、直角二等辺三角形になっている。
【0056】
タブ材配置工程では、金属部材1,2の突合せ部J1の一端側にタブ材4を配置してタブ材4の側面4c(三角形を呈する面)を金属部材1の側面1d及び金属部材2の側面2dに当接させる。そして、タブ材4の表面4aと、金属部材1の端面1a及び金属部材2の側面2cとを面一にしつつ溶接で仮接合する。
【0057】
タブ材配置工程が終了したら、金属部材1,2及びタブ材4を図示せぬ摩擦攪拌装置の架台に載置し、クランプ等の図示せぬ治具を用いて移動不能に拘束する。
【0058】
図7の(b)に示すように、外隅接合工程は、金属部材1,2の突合せ部J1を金属部材1,2の外隅側から摩擦攪拌接合する工程である。外隅接合工程は、タブ材4を用いていることを除いては第一実施形態と略同等であるため、詳細な説明は省略する。
【0059】
図8に示すように、補助部材配置工程は、金属部材1,2の内隅に補助部材10を配置する工程である。補助部材10は、三角柱状を呈し、金属部材1,2と同等の材料で形成されている。補助部材10の断面は、直角二等辺三角形になっている。補助部材10は、突合せ部J1の延長方向を覆う長さで形成されている。
【0060】
補助部材配置工程では、補助部材10の側面10aを金属部材1の側面1bに当接させるとともに、側面10bを金属部材2の側面2bに当接させる。また、補助部材10の傾斜面10cとタブ材4の傾斜面4bとが面一になるように配置する。補助部材10の断面形状は、金属部材1,2の突き合わせ角度(内角)に応じて、側面1b,2bと側面10a,10bとがそれぞれ面接触するように適宜設定すればよい。また、補助部材10の大きさは、後記する内隅接合工程の際に金属不足にならず、かつ、摩擦攪拌によって溢れ出る金属が極力少なくなる程度に適宜設定すればよい。
【0061】
図9に示すように、内隅接合工程は、本接合用回転ツールFを用いて金属部材1,2の内隅を接合する工程である。本実施形態に係る内隅接合工程では、まず、
図9の(a)に示すように、金属部材1,2の外隅を構成する面に裏当材Tを配置する。
【0062】
裏当材Tは、断面L字状を呈する金属製の部材であって、金属部材1の側面1c、端面1a及び金属部材2の側面2cに接触させる。そして、金属部材1,2及び裏当材Tを図示せぬ摩擦攪拌装置の架台に載置し、クランプ等の図示せぬ治具を用いて移動不能に拘束する。
【0063】
次に、内隅接合工程では、回転した本接合用回転ツールFをタブ材4の傾斜面4bに挿入し、金属部材1,2に向けて本接合用回転ツールFを相対移動させる。そして、補助部材10に達したら、そのまま補助部材10及び突合せ部J1に対して摩擦攪拌接合を行う。内隅接合工程では、
図9の(a)及び(b)に示すように、本接合用回転ツールFの連結部F1と金属部材1,2とを離間させて、攪拌ピンF2のみを補助部材10を介して突合せ部J1に挿入する。本接合用回転ツールFの移動軌跡には塑性化領域W2が形成される。本接合用回転ツールFの挿入角度は第一実施形態と同等であるため、説明を省略する。
【0064】
以上説明した本実施形態に係る摩擦攪拌接合によれば、金属部材1,2の内隅を接合する内隅接合工程において、攪拌ピンF2のみを金属部材1,2に接触させるため、接合する際の金属部材1の側面1b及び金属部材2の側面2bの損傷を抑えることができる。
【0065】
また、本実施形態では 補助部材10を金属部材1,2の内隅に配置し、補助部材10及び金属部材1,2に摩擦攪拌を行うことで、金属部材1,2に加えて補助部材10も塑性流動化されるため、金属不足を補うことができる。これにより、金属部材による接合不良を防ぐことができる。
【0066】
本実施形態では金属部材1,2の外隅側からも突合せ部J1に対して摩擦攪拌接合を行うため、接合強度を高めることができる。また、本実施形態では、突合せ部J1上において、外隅接合工程で形成された塑性化領域W1と内隅接合工程で形成された塑性化領域W2とを重複させているため、突合せ部J1の深さ方向の全体が摩擦攪拌される。これにより、接合部の気密性及び水密性が向上するとともに、接合強度をより高めることができる。
【0067】
また、内隅接合工程に先だって外隅接合工程を行うため、補助部材配置工程及び内隅接合工程における金属部材1,2の目開きを防ぐことができる。
【0068】
また、内隅接合工程では、一方の金属部材1側に本接合用回転ツールFを傾かせることで、例えば、
図9の(b)に示す仮想基準面Cに沿って攪拌ピンF2を挿入する場合、つまり、垂直である金属部材1,2に対して側面1b,2bと回転中心軸Fcとのなす角度が45°となるように挿入する場合に比べて、突合せ部J1の深い位置まで攪拌ピンF2を挿入することができる。これにより、突合せ部J1の深い位置まで接合することができる。
【0069】
また、タブ材4の傾斜面4bと補助部材10の傾斜面10cとを面一にしているため、内隅接合工程を容易に行うことができる。また、内隅接合工程後にタブ材4を切除することで、突合せ部J1の端部を確実に接合しつつ、金属部材1の側面1d及び金属部材2の側面2dをきれいに仕上げることができる。
【0070】
以上第三実施形態について説明したが、適宜設計変更が可能である。例えば、本実施形態では、外隅接合工程を行った後に内隅接合工程を行ったが、内隅接合工程を行った後に外隅接合工程を行ってもよい。
【0071】
また、外隅接合工程を行う前に、小型回転ツールHを用いて、金属部材1,2の外隅から突合せ部J1に対して摩擦攪拌により仮接合を行ってもよい。又は、外隅接合工程を行う前に、金属部材1,2の外隅から突合せ部J1に対して溶接により仮接合を行ってもよい。これにより、外隅接合工程を行う際に金属部材1,2の目開きを防ぐことができる。
【0072】
また、外隅接合工程は、本実施形態では大型回転ツールGを用いたが、本接合用回転ツールFを用いて行ってもよい。これにより、摩擦攪拌装置に大きな負荷がかからない状態で、突合せ部J1の深い位置まで摩擦攪拌を行うことができる。
【0073】
<第四実施形態>
次に、本発明の第四実施形態に係る摩擦攪拌接合方法について説明する。第四実施形態では、突合工程と、タブ材配置工程と、外隅接合工程と、補助部材配置工程と、内隅接合工程とを含むものである。第四実施形態の外隅接合工程では、小型回転ツールHを用いる点で第三実施形態と相違する。
【0074】
突合工程及びタブ材配置工程は、第三実施形態と略同等であるため説明を省略する。外隅接合工程は、
図10の(a)に示すように、金属部材1,2の外隅側から突合せ部J1に対して摩擦攪拌接合を行う工程である。
【0075】
外隅接合工程では、タブ材4の表面4aに小型回転ツールHを挿入して金属部材1,2側に相対移動させつつ、そのまま突合せ部J1に沿って小型回転ツールHを相対移動せる。小型回転ツールHの移動軌跡には塑性化領域W3が形成される。
【0076】
図10の(b)に示すように、補助部材配置工程及び内隅接合工程は、第三実施形態と略同等であるため説明を省略する。第四実施形態に係る摩擦攪拌接合方法では、突合せ部J1に隙間Sが形成されることを除いては、第三実施形態と略同等の効果を奏することができる。また、補助部材配置工程を行う前に金属部材1,2の外隅を摩擦攪拌で接合するため、補助部材配置工程の際に金属部材1,2の目開きを防ぐことができる。
【0077】
なお、本実施形態では小型回転ツールHを用いて摩擦攪拌接合によって外隅接合工程を行ったが、金属部材1,2の外隅側から突合せ部J1に対して溶接によって外隅接合工程を行ってもよい。
【0078】
また、
図10の(b)に示すように、第四実施形態では、塑性化領域W2と塑性化領域W3の間に隙間Sが生じているが、外隅接合工程で金属部材1,2の外隅側に形成される塑性化領域W3又は溶接金属(図示省略)と、内隅接合工程で形成される塑性化領域W2とを重複させることが好ましい。これにより、突合せ部J1の隙間Sを埋めることができるため、水密性及び気密性を高めることができるとともに、接合強度を高めることができる。
【0079】
<第五実施形態>
次に、本発明の第五実施形態に係る摩擦攪拌接合について説明する。第五実施形態では再外隅接合工程を行う点で、上記した実施形態と相違する。第五実施形態では、上記した実施形態と相違する部分を中心に説明する。
【0080】
図11の(a)は、第五実施形態に係る内隅接合工程を示す断面図である。第五実施形態では、内隅接合工程に先だって、外隅接合工程を行っており、突合せ部J1の外隅側には塑性化領域W1が形成されている。
図11の(a)に示すように、例えば、板厚の大きな金属部材1,2を接合する場合、外隅接合工程及び内隅接合工程を行っても突合せ部J1の全体を摩擦攪拌接合できない場合がある。
【0081】
つまり、外隅接合工程で形成された塑性化領域W1と、内隅接合工程で形成された塑性化領域W2とを突合せ部J1上で重複させることができず、隙間Sが生じてしまう場合がある。
図6及び
図10の場合も同様に突合せ部J1内に隙間Sが生じている。
【0082】
このように突合せ部J1上に隙間Sが発生した場合は、
図11の(b)に示すように、金属部材1,2の外隅側から突合せ部J1に対して本接合用回転ツールFを用いて再外隅接合工程を行うことが好ましい。再外隅接合工程では、本接合用回転ツールFの攪拌ピンF2のみを金属部材1,2に接触させた状態で摩擦攪拌を行う。再外隅接合工程における本接合用回転ツールFの移動軌跡には、塑性化領域W4が形成される。
【0083】
再外隅接合工程では、本接合用回転ツールFを用いているため、摩擦攪拌装置に大きな負荷がかからない状態で、突合せ部J1の深い位置を摩擦攪拌することができる。これにより、突合せ部J1に発生した隙間Sが摩擦攪拌されるため、突合せ部J1の水密性及び気密性を高めることができるとともに、接合強度をより向上させることができる。
【0084】
<変形例>
次に、本発明の摩擦攪拌接合の変形例について説明する。前記した実施形態では、内隅接合工程を行う際に、金属部材1,2の裏側に裏当材Tを用いたが、
図12に示すように内隅接合用架台Uを用いてもよい。
【0085】
内隅接合用架台Uは、直方体を呈する金属部材の表面に凹部U1を備えている。凹部U1は、第一傾斜面U1aと第二傾斜面U1bとで構成されている。第一傾斜面U1aと第二傾斜面U1bとの内角は、例えば、90度になっている。
【0086】
変形例における突合工程では、金属部材1,2を凹部U1に沿って配置する。また、タブ材配置工程では、金属部材1,2の突合せ部J1の両側にタブ材4,4を配置する。タブ材4は、傾斜面4bが上方を向くように配置する。タブ材4,4を配置したら、固定治具U2,U2(片方のみ描画)で金属部材1,2及びタブ材4,4を挟持して移動不能に固定する。
【0087】
変形例の内隅接合用架台Uを用いることで、金属部材1,2及びタブ材4を凹部U1に配置するだけでよいため、突合工程及びタブ材配置工程を容易に行うことができる。また、内隅接合用架台Uを用いて肉盛溶接工程、補助部材配置工程又は内隅接合工程等を安定して行うことができる。
【0088】
また、本実施形態では金属部材1,2の内角を90°に設定したが、他の角度に設定してもよい。このような場合は、第一傾斜面U1aと第二傾斜面U1bとの内角を適宜変更することで、様々な角度で金属部材1,2を突き合わせることができる。